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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

北紀行 (リターンズ)

 電車を降りたウチは、いつものように上を見上げる。
 この駅は11番ホームまであるメガステーションなのだが、プラットホーム全体を覆うように巨大な屋根が設置されている。ウチはその大きさに、ついつい目を奪われてしまうのだ。
 大概の人は当然のように自分の歩く方向を向いて寡黙に、あるいは語らいながら、あるいはスマホを覗きながら通り過ぎていく。巨大な屋根の下にはクリスマスのイルミネーションも輝いているのだが、プラットホームから見上げる者は少数派だ。今宵はクリスマスイブ、上を見上げる余裕もなく急ぐ理由もいろいろとあるのだろうが、それを考えに入れても、ウチはこの巨大な構造物に無関心でいられることが信じられない。毎朝、毎晩、何度ここに降り立っても、やっぱりウチは上を見上げてしまうのだ。

 ん?視線を屋根からホームに戻したウチは、見覚えのある顔を見たような気がしてその方向へ顔を向けた。
 須藤君?須藤タカシ、彼はウチの勤める会社の同僚だ。少し早足でエスカレーターの方へ向かっている。
 おかしいな。ウチは首を傾げた。一昨日、彼を独身連中が対象のイブの飲み会に誘ったとき、イブは遅くまで残業になるからと言って断られたからだ。
 彼は時間を気にするように腕時計に目をやり、エスカレーターを下って行く。ウチは一瞬考えてから彼を追った。エスカレーターを降り改札を抜けるとコンコースだ。乗り換えのために隣接の私鉄駅へ向かうものと思っていたが、彼はコンコースにあるスーパーマーケットの前で立ち止まり、壁際に立った。どうやら誰かと待ち合わせをしている様子だ。
 スーパーのガラスの仕切りにはクリスマスのデコレーションが施されている。店内からはちょっとベタだが、ホワイトクリスマスのBGMも聞こえてくる。
 ウチの心にムラムラと悪戯心が、好奇心が、老婆心が、そしてたぶんこれは嫉妬心?が湧きあがってくる。ウチは彼がスマホを覗き込んでいるうちに、風のように左サイドから接近した。
「須藤くん!」朗らかに声をかける。同じ歳だけどウチの方が1年だけ先輩だから、それをいいことにくん付けだ。
 思った通り顔を上げた須藤は固まってしまった。
「若槻・・・さん?」
 ようやく反応した彼にウチは容赦なくたたみかける。「今日は遅くまで残業やなかったん?」
「あ、いや、ごめん。本当はちょっと用事があって・・・」彼の目は泳いでいる。
「誰かと待ち合わせ?」ウチがにこやかに尋ねると、須藤は観念した様子で「ちょっとね・・・」と言った。物凄く迷惑そうな表情が漏れ出ているが、かまうもんか。適当な嘘でウチの誘いを断った罰だ。心して受けるがいい。こいつのせいで男女比がくるってしまい、必然的に幹事であるウチが浮いてしまう事になったんだから。
 たぶんウチは勝ち誇った悪魔のような表情をしていたに違いない。バックグラウンドで高笑いを入れてもらってもいいくらいだ。アハハハハハ・・・ざまを見ろ、ウチは小さな高揚感に酔った。
 でもそれは一瞬の事だった。今度はウチに罰が下される番だった。
「タカシ」背後から澄み切った声が聞こえて、ウチは振り向いた。
 たぶん2秒ぐらいの間は声を出すこともできず固まっていたと思う。
 振り向いた先には女の子が立っていた。
 ちょっと可愛めの女子・・・ぐらいだったらウチだってもう少しましな対応ができたと思う。でもそうではなかったのだ。
 振り向いた先にはプラチナブロンドの髪をオカッパにした(オカッパという表現がピッタリだ)女の子が立っていた。
 プラチナブロンドやで!プラチナ!!しかも輝く白い肌、小ぶりな薄紅色の唇と大きな灰色の瞳が少し居心地が悪そうに納まる顔、それに明るい色合いのアウターとミニスカートが良く似合っている。おまけに、その灰色の瞳でウチの方を見上げてくる。
 どうしたらええと思う?どうしたら?
 頬に散らしたソバカスのその幼げな印象の中に、どことなく妖艶な香りがするのは、彼女のこの容姿のせいかもしれないが、とにかくよく目立つ。周りを通り過ぎる人が、露骨に視線を向けるくらいだ。
「ハ、ハロー?」ああ、ウチはなんて間抜けなんやろ。思い切り動揺が・・・。
 彼女はほんの少し頬を弛めて「こんばんは」と言った。流暢な日本語だ。そして須藤の方を向いて「こちらは?」と訊いた。
「ああ」須藤はこの一瞬で自分を立て直した。奴も伊達に何年も営業をやってるわけやないんや。
「紹介するわ。こちらは会社の同僚で、若槻ヤヨイさん。ユキを待っていたら偶然ここを通りかかったんや」須藤は彼女にウチを紹介した。そしてウチの方を向いて「彼女は林ユキ。なんて言ったらええんかな?まぁ俺の・・・交際相手って言うのかな」と言葉を濁した。
 ユキと紹介された女の子は頬を赤くして視線を下げた。
「それから」須藤は続けた。「彼女、日本語で大丈夫やから」
 今度はウチが赤くなって俯く番だった。しかも真っ赤になって・・・。
 ユキがこちらを向いて自己紹介をした。「始めまして、林ユキといいます。よろしくお願いします」
「失礼しました。若槻ヤヨイです。こちらこそよろしくね。でもこんな可愛い子が須藤くんの傍におるやなんて、ちょっとびっくりしたわ。そんな気配は全然なかったもん。それでユキさんはどちらにお住まい?」ウチはなんとか立て直そうと必死だ。
「いまは学校の関係でT都のSに住んでいます」
「T都!それやったら、遠恋やん?」ウチは須藤の方を向いた。
「まあね。ユキは冬休みを利用してこっちに来てるんや」
「それで有給を取ってたんや。珍しい思た。で、ユキさんは須藤君のところに?」こうなったら意地悪な質問をしてやる。
「まさか、ちゃんとホテルを取ってるよ」ユキが答える前に須藤が慌てて答える様子が可笑しい。
「ふ~ん」ほぼ立ち直ったウチは上目づかいに須藤を見る。「まぁ信じてあげるわ。学校の関係って、ユキさんは大学生?」
「はい、1年生です」
「1年!やったら19?」
「3月生まれなんで、18歳です」ユキが遠慮がちに言った。ひょっとしてウチに気を使ってる?
「へえ!けっこうな歳の差カップルやん。意外!須藤君、そういう趣味やったんやね」
「失礼やなぁ!そういうのはハラスメントに・・・」
 まずい、いらんこと言うてもた。ウチは慌てて話題を変えた。「で、これからクリスマスデート?」
「まあね」須藤は短く答えたが、やっぱり迷惑そうな様子が見てとれる。ユキまで心配顔だ。
「そこまで野暮はせぇへんから安心し。ユキさん、2人でクリスマスイブを楽しんで」ウチは時計を見ながら言った。こっちの飲み会の開催時刻が迫っている。会場まではちょっと歩くから、あまりグズグズしてもいられない。
 須藤が声を落として言った。「若槻さん、この件は内密にたのみます」
「それはできない相談やね」ウチは2人を見て言った。「ユキさん、こう見えても須藤くんはもてるからね。この情報はマイルドに味付けして社内に流しておきます。その方が安心でしょ」
「まいったなぁ」須藤は困ったように言ったが、ユキは笑顔になって頷いた。
「じゃぁ、こっちも宴会があるから行くわ。ユキさん、また会いましょうね」
「はい、是非」ユキは小さくお辞儀をする。
 ウチは仲良さそうに並ぶ2人を残してその場を離れた。
 コンコースから外に出て横断歩道へ向かう。信号は赤だ。
 立ち止まったウチの周りに白いものが舞う。
 雪が降り始めたようだ。
「何がホワイトクリスマスや・・・」
 信号が青に変わった。
 道路を渡る人の群れに追い立てられるように、ウチは歩き始めた。

2017.12.20
2023.10.23 シリーズ化にあたって若干の修正
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

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