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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

エスの夜遊び

scriviamo!

 ビデオ通話が繋がった。
 モニターの向こうではコハクが手を振っている。
 新型ウィルスによる感染症が全世界に猛威をふるい始めてから1年あまり、発病者は全世界で1億人を優に超え、死者は230万人に迫ろうとしている。
 感染爆発を起こした地域の都市は封鎖され、非常事態宣言や外出禁止令で外出もままならない状態が続いている。
 エスの暮らすこの国は、そこまで酷い状況ではなかったが、外出を自粛し感染予防対策を徹底するなどの対応が求められている。コハクともここ暫くはモニター越しにしか会っていない。
「元気にしているみたいね」コハクは目を細めてエスの様子を観察した。
「普通だよ」エスは視線を感じて少し顔を逸らせた。
「ちゃんと“おこもりさん”してる?」
「もちろん!不要不急の外出はしていません」エスはきっぱりと答えた。
「ならいいんだけど」コハクは口角を少し上げる。
「そっちは大丈夫?」エスがコハクを気遣う。
「まぁまぁってところね。でも面倒な時代になっちゃったね」
「そうかな?こんなこと言ったら不謹慎?って言われるかもしれないけど、ウチはSF映画を見ているみたいな気持ちで興味津々だよ。命がかかってるけどね」
「また、そんなことを・・・」コハクは顔を歪めた。
「あ、この前薦めた本、どうだった?」エスが話題を変える。
「楽しませてもらった。軽くて暖かくて・・・こういうの自分からは読まないジャンルだからね」
「退屈しのぎに、たまにはいいでしょ?」
「まぁね。で、何を聞いてるの?」
 エスの部屋に置かれたB○SEのミュージックシステムからは音楽が流れっぱなしになっている。
「あ、止めようか?」エスは操作パネルに手を伸ばした。
「いいよ。BGMにちょうどいいし」
「そう?」そう言いながらエスはボリュームを少し落とした。
「で、何を聞いていたの?」
「これ」エスは紙製のジャケットをカメラの前にかざした。

MIKUNOYOASOBI_F.jpg MIKUNOYOASOBI_B.jpg

「これって?ああ、初音ミクかな?」流れている曲とジャケットに書かれたイラストからコハクはあたりをつけた。
「ご名答だけど、YOASOBIって知ってる?」
「名前だけは聞いたことがある。紅白に選ばれて話題になってたし・・・」
「YOASOBIは、Ayaseとikuraの2人組の音楽ユニットなんだけど、このCDは彼らのアルバムTHE BOOKをそのまま初音ミクバージョンにしたアルバムなんだ」
「同じアルバムで人バージョンとミクバージョンがあるってこと?」
「そう」
「で、あなたのは人バージョンじゃないのね」コハクは呆れている。
「おっ、ちょうど紅白でやっていた“夜に駆ける”が始まるよ」エスはボリュームを上げた。



曲が終わるとエスはボリュームをまた下げる。
「どう?」
「良い曲だね。まぁ、あなたの好みは置いておくとして、私は人バージョンの方が良いと思うけどね」
「そうかなぁ。ウチはこっちの方が好きだけどなぁ。でもマリアにも同じようなことを言われた」
「マリアにも薦めたの?だれでもお構い無しだね。あなたは変わってるからね。エスの場合、ボーカルが人間じゃないからかえって受け入れられるんじゃないの?」
「世の中にはいろんな人間がいるんだよ。Ayaseはボーカロイドプロデューサーとしても有名で、YOASOBIの“仮歌”も初音ミクを使って制作するらしいし、だからこんなアルバムが作れるんだね」
「そうなんだ」
「このCDはね!」エスは誇らしげに続けた。「ネット販売せずにタ○ーレコードの店舗だけでゲリラ的に発売されたんだけど、あっという間に完売したらしいよ」
「ふ~ん、そんなものなのかな」コハクは少し呆れたふうに返事をした。
「でね」エスはモニターのコハクを見上げて言った。
 コハクは諦めて「なに」と応じる。
「YOASOBIの“夜に駆ける”は当然人間、さっきのikuraがボーカルを勤めているんだけど、“仮歌”がボーカロイドで作られているせいでなかなか大変だったらしいんだ」
「というと?」
「“夜に駆ける”を“仮歌”と同じ速さで歌ったら滑舌が回らないし、息継ぎをするところも無かったんだって」
「そりゃまあ、初音ミクだったら指示通り滑舌は回るし、息継ぎなんかしなくったって歌えてしまうからね」
「ボイストレーニングをしたり、息継ぎの位置を変えたり、色々工夫して歌っているみたいだよ」
「そう聞くと人間が歌っているバージョンの方に興味が湧いてくるね。どうやって歌っているのか・・・」
「悪いけど、それは持ってないんだ」
「人バージョンに興味無しってわけ?」
「NETで探しておこうか?」
「そんなことより、エス」コハクの声がきつくなった。
「なに?」不安げにエスが応える。
「あなた、さっきこのCD、ネット販売せずにタ○ーレコードの店舗だけでゲリラ的に発売されたって言ったよね?」
「よく憶えてるね」
「タ○ーレコードなんて、このあたりじゃ梅田か三宮くらいにしかないよね?」
「そう・・・だったかな?」
「オジサンは地元に勤めているから緊急事態宣言の梅田や三宮には出ないでしょ?」
「うん・・・」消え入るようにエスは返事をした。
「じゃあ、あんたはこれをどうやって手に入れたの?」

MIKUNOYOASOBI_M.jpeg
2021.02.07
2021.02.08 細かい修正追記
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

 
「不要不急の定義は人に寄りけりでして……」ってとこでしょうか? 政治家の答弁みたいだなあ。
エスは、その手の感染症に対してはまったく心配していないのかな?
「エスの場合、人間じゃないからかえって受け入れられるんじゃないの?」というセリフは、いくつかの読み方ができますけれど、第1話から読んでいる私は、もっともストレートな意味に取っちゃいます。

さて、この曲は当然ながら初耳でした。紅白でこういうのって、どうやって出てくるんだろう? 20年も経つと紅白のプログラムもいろいろと変わってくるんでしょうね。想像しながらの試聴でした。

さて、お返しはこうなるとやっぱりアントネッラ登場ですよね。
ううむ、難しいなあ。ま、いつものことですけれど……。(あきらめモード)
ちょっと考えますので少々お待ちくださいね。
夕さん 
エスは感染症に関しては特に気をつけていますし、気をつけなければならない設定になっています。
コハクともリモートで会っていますし、コハクも心配しているようです。
「エスの場合、人間じゃないからかえって受け入れられるんじゃないの?」というセリフはサキの不注意で、たしかに幾つかの読み方ができますね。
現時点ではエスは人間という設定ですから、第1話の時とは設定に変化が出てきています。お許しください。少し修正の必要もあるかもです。

あ、このAyaseとikuraのユニットはちゃんと2人の人間ですから、紅白では普通に出てきて普通に歌っていました。「夜に駆ける」で検索すると人バージョンも出てきます。けっこう上手いです。
このユニットが紅白で歌った歌を含めたアルバム(人バージョン)をそのままミクバージョンにしたアルバムがエスの持っていたMIKUNOYOASOBIというCDアルバムだったというわけです。ややこしかったですね。ここも少し修正の必要もあるかもです。

で、エス(サキ)がどうやってこのアルバムを手に入れたかというと、実は梅田まで“先”に車を出してもらいました。駐車場に止めて人を避けるようにお店へ、ササッとCDだけを買ってどこへも寄らずそのまま帰ってきたんです。
その後発熱してないのでたぶん大丈夫。

書けちゃったから「scriviamo!」に出してしまいましたが、ご迷惑をお掛けします。
コメントありがとうございました。
こんばんは 
先にこちらからコメします(*^_^*)
あらら。エスとコハクのリアルタイムな会話ですね。そして、エスったら、相変わらず「頭隠してしっぽ隠さず」状態で、コハクにはあれこれ見抜かれているようですね。
でもまぁ、できる限りの注意もしながら、こうして自分を励ましてくれるものは手に入れなくちゃね。これはエスにとってはやっぱり大事なものだったのでしょう!
最近、完全アコースティックな世界にいるので、こういうの新鮮でした。今、ショパンのノクターン沼にいるので、テンポも弾くときの感情も揺らぎまくっているから、テンポ一定の音楽がすごい新鮮。

今や私も完全車生活で(もともとその傾向でしたが)、まぁ、街中には出かけませんが(大野くんの作品展も泣く泣く諦めた)、スーパーマーケットとか、かなりの人混みだけど、と思うこともしばしばです。3月には努力義務という名前の強制的にワクチンだし、まぁ我が身で試してみて、後期高齢者の両親に説明しようと思っています。エスはもうしばらくおこもり、ですね。創作が進むかな。
彩洋さん 
あ!コメントありがとうございます。
まぁ、奴は捻くれまくってはいますが根は素直な奴ですからね。突っ込みどころは満載です。
そして、そうですね。ボーカロイドは無敵ですから、リズムも音階もわざとでない限りミスることはありません。でも人間じゃない何かがこれをやっている、というのがサキにはたまらないんですよ(あ、エスか)エスにはたまらないんです。
もちろんアコースティックの世界もサキは大好きなのですが(あ、エスか)、それとはまったく別の分野の音楽として認識しているみたいです。

サキは暫く大型書店にも行っていません。NET書店で我慢しています。
でもつまらないんですよねぇ。
フラリと立ち寄って平積みの表紙や棚に並んだ本の背を眺めて、これはという本を手に取って立ち読みして選びたいですね。
サキももう暫くはおこもり生活です。
 
執筆、お疲れさまでした。

お、久々のエス&ミクのネタじゃないですか。なんだか、一気にヴァーチャル感が押し寄せてきますね。
エスったら、おこもりさんしていると言いながら、ちゃっかりお出かけしていましたか。まあ、通販で手にないらない&店頭販売数量限定品となれば、じっとしてられないか。うん、わかるわかる(わかるなよw)
エスのミク推しやYOASOBI蘊蓄につきあいながら、そこにしっかりツッコミ入れるコハクは、さすがというかエスの良き理解者ですねぇ(笑)
ラストのイラストに、こそこそ&いそいそと夜遊びならぬ買い物に出かけるエスの姿が重なって、楽しいです。サキさんも、あんな感じでお買い物に行かれたんですか?

『夜に駆ける』、ミクバージョンとikuraバージョンを聴きました。エス(=サキさん?)の意見も、わかるなぁ。この曲の雰囲気だと、ミクのアーティフィシャルな歌声が案外マッチしているように感じます。ボカロ、あなどりがたし。
TOM-Fさん 
せっかくミクのアルバムを手に入れたので記事にしようとしていて、ふと思い立って掌編にまとめてみました。
夕さんにはご迷惑だったかも・・・と反省はしているのですが、どんなお返しを書いてくださるのだろうという興味に負けてしまい、イベントにも参加しちゃいました。

そしてこの気持ち、わかってくださいますか。限定とかゲリラ的に発売とか言われると居ても立ってもいられなくなったんです。
“先”にわがままを言って車を出してもらったのですが、カーナビと睨めっこしながら梅田まで、慣れない街中をなんとか付き合ってくれました。
本当は大型書店とかも覗きたかったのですが、これ以上リスクは侵せないので後ろ髪を曳かれる思いで即Uターンしてきました。
新コロ、早く収まってくれるのを祈るばかりです。

ね、これ良いですよね!さすがTOM-Fさん、ようやくプラスの評価を聞くことができました。
コメントありがとうございました。

 
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