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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

ポルト夢想

DSCN3856☆

「ふう」エスは大きく溜息をついた。
 目の前に広がるドウロ川、その向こうのリベイラの町並みは曇天の空気の中に沈んでいる。
 ポートワインのセラーで見学ツアーが始まる時、この後もっと回復して青空が広がればいいなぁ・・・エスはそんなふうに願っていた。
 だが見学ツアーを終えてセラーから出てみると、空はより分厚い灰色の雲に覆われ、今にも泣き出しそうになっていた。
 エスは空模様と同じように泣き出しそうな気持ちになってワインセラーの玄関に立っていた。
 今朝からのポルトの天気は万全とは言えなかった。どうも大西洋で発生した雨雲の切れ端が西風に乗って断続的に流れ込み、春の太陽が町に降り注ぐのを妨害しているようだった。
 綺麗に晴れ上がったかと思うとにわかにかき曇り春雨が通り過ぎる、そんな不安定な天気が繰り返された。
 そして、いまはまた町は次の雨雲に覆われてしまっている。その断片はこれまで以上に大きく分厚いようだ。見える範囲の空は暗い灰色に覆われてしまった。
「ふう」エスはもう一度大きく溜息をついた。
「どうしたの?」背後から友人が声をかけてきた。
「なんでもない」エスは振り返り、その友人に笑顔を向けた。
「嘘、顔にガッカリって書いてあるよ」
「え?」エスは驚いて自分の顔に手をやった。
「あはは!冗談に決まってるじゃない。そんな反応をするとは思わなかった」
「意地悪!」
「晴れてて欲しかった?」
「そりゃ、やっぱり・・・ね」エスは諦めて本音を口にした。
 二人は並んで階段を下り、ドウロ川の川岸まで歩く。
「今日はありがとう」歩きながらエスは友人に声をかけた。
「いいよ」
「嫌がってたのに、あなたが彼に告白をした場所に連れて行ってもらったし、それに今彼と初めて出会ったワインセラーにも・・・」
「恥ずかしかったんだよ。強いリクエストが無ければ、それにエスじゃなければ、そんな所にわざわざ案内しない・・・初めて合ったとき彼、小学生だったんだよ。あたしは高校生だったし・・・」
「知ってるよ。あなたのことはなんでも知ってる。だって・・・」だって・・・?どうしてだろう?エスはその先を続けることができなかった。
「そりゃ、そうだけど」
「感謝してる。どうしてもその場所を検証しておきたかったんだ。だから実際のその時みたいな天気であって欲しかったんだ」
「まるで物語の作者みたいなことを言うのね」
「へへ、ごめんなさい」
「でも、これもポルトなんだよ」友人はドウロ川に目をやりながら言った。
「だよね」エスも川の方に顔を向けた。
「我が儘を言ったらキリがないよ。それにリベイラ地区でランチや町歩きをした時は晴れていたし、その時は青空の下の町並みやドウロ川やドン・ルイス1世橋の姿を見れたじゃない」
「そうだったね」それはついさっきのことなのに、エスには随分前の事のように思えた。
「つまり、今日一日でこの町のいろんな風景がいっぺんに見れたってわけ・・・」
「うん。たしかに」エスは笑顔になった。
 友人はそれを確かめてから言葉を続けた。「さて、これからドン・ルイス1世橋の上段を歩いて渡ろうと思うんだけど、上まで歩いて登る?それとも・・・」

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 鉄骨で組み上げられた巨大なドン・ルイス1世橋は上下2段構造になっている。二人はリベイラ地区でのランチの後、橋の下の段を渡って対岸のガイア地区へ入ったのだが、今度は橋の上段を渡ってみようというのだ。上段を渡るには急な坂道を登って高度を上げなければならない。
「え!歩くの?」エスは遙かに上にある橋の上段を見上げた。
「それとも、ロープウェイを使う?」友人は片目を瞑る。
「そんなのがあるの?それならもちろんロープウェイがいい」
「軟弱者!」友人は叱咤したが「こっちよ」とロープウェイ乗り場の方へエスを誘った。「そのあと、待ち合わせ場所の大聖堂へ案内するね」
「お願い。なんと言ってもあなたたちはそこでお互いを意識するようになったんだものね」
「かなわないなぁ」友人は顔をしかめた。
「良いじゃない」エスは友人の腕に自分の腕を絡めた。
 二人はポツリポツリと降り始めた春雨に追われるようにロープウェイ乗り場に急いだ。
 ポルトの午後、雨は止み間を挟みながらも徐々に強くなっていった。

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2020.04.30
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

 
おお、サキさんもエア旅行記ですね。
といっても、ちょっと趣向が変わってますね。

途中までは、エスは誰と旅してるんだろう、と思っていましたが……
そっか、カノジョでしたか。となると、これはさしずめ「セルフ聖地巡礼」ってところですね。

雨のポルトの描写、臨場感ありますね。さすがに現地に行っているのは大きいなぁ。
サキさんの作品や、八少女夕さんの作品でさんざん描かれた街なので、なんだか行ったことがあるような気になりますけど……。やはり行ってみたい街ですね、ここ。
 
こんばんは〜。

あ、友人って「コハク?」と最初だけ思いましたが、読み進めてわかる、あの方でしたか。確かに「セルフ聖地巡礼」。
ご本人に案内してもらえるのはいいですねぇ。

そして、サキさんのポルト滞在は一日だったのかしら。
その一日で全天候制覇とは、反対にかなり珍しくて美味しい滞在でしたね。

「黄金の枷」三部作の聖地巡礼となると、かなりマニアックなところも多いのですけれど、ジョゼを登場させた場所は、大体どこもさほどマニアックでない有名観光地なので、短い時間でも効率よく回れたのではないでしょうか。

ドン・ルイス一世橋は、やはり上を通るのが正解ですよね。ケーブルカーはちょっと高いですが、背に腹は代えられませんよね。

エス、堪能できたようで何よりでした。

友人によると、現在のポルトは、閑古鳥だそうです。
TOM-Fさん 
だんだん自粛にも飽きてきて、ついに空想で出かけることにしました。
ついでですから本来ならUPしない曇天と雨のポルト、ドン・ルイス1世橋をUPしてみました。
どのツアーパンフをみても青空の下の写真ばかりですので、こんな写真はかえって珍しいかもしれません。さすが天邪鬼。
そして、ひねくれついでに普通の紀行文にはせず、分身のエスを登場させました。
そうですね、やはりここへ行ったのは聖地巡礼という目的もありましたから、友人として町を案内してもらったのは例の彼女です。
でもあくまでエスの話なのでサキのキャラクターを直接登場させるのは止めておきました。
へんなこだわりですが・・・。

イベリア半島以外の欧州に行ったことがないのでメジャーな所と比較はできませんが、ポルトは素敵な町ですよ。

コメントありがとうございました。
夕さん 
コハクって思いますよね。でも今回は聖地巡礼にしたかったので彼女に登場してもらいました。
サキはポルトでは聖地を巡れてとてもドキドキワクワクし、幸せな気分になったのを思い出しました。
もしシーンに設定した場所が存在しなかったり、設定に矛盾があったらどうしよう、などと心配していたのですが、概ね大丈夫でした。
この掌編の中でエスも言っていますが、問題は天候でした。出来れば設定と同じ状況だったら最高だったんですけれど。
そしてエスも感じたように、曇りも雨も、それもポルトなんだな・・・と納得したのでした。
ランチの前後、カラリと晴れ上がったのも本当です。これはラッキーでした。
そして同じようにロープウェイを使っています。

閑古鳥のポルト、それも見てみたいような気もしますが、また賑わいの戻ってくることを祈っています。みんな、喰ってけませんものね。

コメントありがとうございました。
こんばんは 
これはいいですね~。そうそう、エア旅行。
なるほど、彼女が登場してエスを案内してくれたのですね。こういうの、いいなぁ。旅の想い出をまた違う形で表現しているという気がしました。二度美味しいってかんじ。

旅行先のお天気、まさに神のみぞ知る、ですものね。私は昔、バックパッカーしてた頃、ほとんどお天気の良いイタリアばかりうろついていたので、ソ連に行った時、あ~、そうか、世界にはいっつもこんな天候の国があるのか、と、ある意味、感動いたしました。自分がその町に行ったときの、空気の密度、匂いとかは、リアルでしか味わえないものですから、特にプライスレスな想い出ですよね。
ポストコロナで、これまでと同じような旅が出来るのか、分からない時代になりそうですが、やっぱり旅は良いですね。聖地巡礼にロケハン、昔はよくやったなぁ。エスの旅を読んで、またどこかに行きたいと思いました(o^^o)
彩洋さん 
> これはいいですね~。そうそう、エア旅行。
ありがとうございます。
サキはセルフ聖地巡りを兼ねて行ってきましたから、そのままを記事にしてもよかったのですが、エア旅行らしくエスに行ってもらいました。
実際、思い出に浸りながら二度美味しかったです。
晴れから曇り、そして雨、曇ったかと思えばまた晴れ間、めまぐるしく変化した天候は、その変化のたびにポルトのリアルを感じさせてくれたんだなぁ・・・と、今となっては思います。
本当にプライスレスの思い出です。

ポストコロナかぁ・・・。いったいどんな世界が待っているんだろう?
お籠もり生活は得意なのですが、そっちの方も興味津々ですね。
またどこか遠くへ行けるようになったら良いなぁ。

コメントありがとうございました。

 
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プロフィール
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