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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

新世界から Prologue

  エルロン(補助翼) とは、飛行機を左右に傾ける(バンク、横転、ロール)ために使う動翼である。通常左右の主翼後縁の外側に取り付けられており、機体の前後軸を中心とした回転運動を制御する。

 ラダー(方向舵)とは、飛行機の機首を左右に向ける(ヨーイング)ために使う動翼である。通常垂直尾翼後縁に取り付けられており、機体の上下軸を中心とした回転運動を制御する。エルロンと併用すると、定常釣り合い旋回を行うことができる。

 エレベーター(昇降舵)とは、飛行機を機首上げ、機首下げの姿勢にするために使う動翼である。通常尾翼後縁に取り付けられており、機体の左右軸を中心とした回転運動を制御する

 フラップとは、高揚力装置の一種で、飛行機の揚力を増大させるための装置である。必要時に主翼から展開させるタイプのものが多い。副次的に抗力が増大するため、機体を減速する作用もある。
(Wikipediaより抜粋し補筆)


マーマレード

 マーマレード、それは柑橘類を加工した食品を指す単語だが、ここでは特定の戦闘機のパイロット、或いはそのパイロットが搭乗した機体を表すコードネームだ。
 コードネームはシステマティックに定められたリストの中から選ばれるが、優秀なパイロットには伝統的に「F」の頭文字を持つコードネームが与えられた。「F]はファイターの頭文字だからだ。
 リストにある「F」で始まる単語には限りがあるうえ、他人が使っているコードネームを名乗ることは出来ない。それゆえ自然と「F」を使う者に対する伝説が出来上がった。「F」が使えるということはそれなりの実績を残しているはずだ・・・戦闘機乗り達はコードネームの頭文字で相手の腕の良さを想像した。
 マーマレード、その頭文字は「M」だ。だがそれはマーマレード自身が望んだことだった。マーマレードには「F」で始まるコードネームを名乗る資格は充分すぎるほどあったし、上司や仲間からも何度も「F」を勧められた。だがマーマレードはそれを固辞した。

 マーマレードはコックピットからあらゆる方向を素早く見回した。
 左に空に溶け込むようなブルーグレーの戦闘機が2機!識別は赤、敵だ!
 それを確認すると、エルロンを操作して機体を右へ急激にロールさせる。でもこれはフェイントだ。
 敵のうち1機はそれにつられて方向を変える。残ったのは1機。
 それを確認するとすぐに反対へロール。左下へほとんど背面でダイブ。
 ついてこい・・・こい・・・こい・・・マーマレードは口の中で繰り返した。
 今だ!フラップを使って急激に減速。エレベーターを目いっぱい引き機首を上げる。敵は急激な減速と姿勢の変化に対応出来ず射撃のタイミングを逃した。機首が真上を向く。エレベーターを戻す。一瞬ラダーをあててからスロットルを閉じる。浮遊感が襲ってくる。
 機体は舞い落ちる木の葉のように一瞬で方向を変える。
 相手の横っ腹が見えた。トリガーを絞り込む。相手のコックピットに弾が吸い込まれ、キャノピーが赤く染まる。
 マーマレードの口の左端が僅かに上がった。
 機体は自由落下を続けている。フルスロットル。舵面に当たる空気の速度が遅いからまだ舵が効かない。墜ちてゆく。
 その時、ガン!ガン!ガン!機体に大きな衝撃があった。撃たれた?バカな!どこから来た?裏からか?マーマレードは辺りを見渡す。
 一瞬のアンコントロールを突かれた。コックピットの中を何かが跳ね回ってる。
 舵が戻った。左へ急旋回。ロール。キャノピー越しに敵の姿を捉えた。アドレナリンは最大に分泌されているはずだが、精神は研ぎ澄まされた刀のようにように冷ややかだ。トリガーに指が掛かる。コックピットに吸い込まれてゆく弾道が予測できる。だがトリガーを絞る一瞬前に敵はひらりと方向を変えた。まるで重力や慣性など存在しないかのように・・・。
 回り込んでくるつもりだ。マーマレードもエレベーターを引いて回り込む。お互いに後ろを取ろうと旋回半径が小さくなる。強烈なGが襲ってくる。キャノピーが正対し、相手のパイロットが見える。意識は一層冷却され、舵は意識の支配を離れる。敵の動きはまるでスローモーションのように遅くなった。
「オッドアイ?」マーマレードの口から苦しそうな呟きが漏れる。敵のパイロットのコードネームだ。機体には何のマークも描かれていないからパイロットの当たりは付けられない。だが、ここまで自分を追い込んでくるパイロットは他には思い当たらない。あのしびれるように美しい俊敏な動き。きっとそうだ。いや、そうでなくては自分が納得できない。マーマレードはさらに回転半径を詰めた。
 その時、一瞬の操作の間を突いて敵が機種の向きを変えた。上空から黒い影が落ちてくる。識別は青、友軍機だ。それを目にしたマーマレードは一瞬追尾を戸惑った。敵はロールと急降下を組み合わせて雲の中へダイブして消えた。
 マーマレードは友軍機に感謝はしたが、同時にせっかくの邂逅を邪魔された怒りも感じていた。
 離脱。反転して下を確認し、ゆっくりと姿勢を戻す。辺りを確認。敵の機影は見えない。もういないはずだ。
 友軍機は急降下してからゆっくりと水平飛行に入った。
 フォックスバットの機体だ。
 まずったな~。この時になって始めてマーマレードは思い切り顔をしかめた。

「マーマレード、状態は?」無線が入った。
「う~ん」マーマレードは少し間を置いた。「まずったかも」
「どこをやられた!」フォックスバットの声が慌てている。
 機体は腹側から打ち抜かれている。どこか油圧系統もやられて油圧が下がっていて、燃料系にエラーが出ている。エンジンにも喰らったようだ。「もってくれると良いんだけど」マーマレードはフォックスバットに聞こえないように呟いた。
 それにさっき跳ね回った何かがどこかに当たったらしい。ラダーが思うように操作できなくなってきた。さっきまで大丈夫だったのに。
 フォックスバットが上がってきて右に並んだ。マーマレードはフォックスバットに向かって手を振った。
「だいぶやられたな。陸地までは遠い、その様子じゃもたないと思うが、どうだ?」
「かもしれない」マーマレードは短く返事を返した。
「近くに空母が居る。お前の腕なら甲板をいっぱいに使って降りられるだろうし、だめなら着水という手もある。そこへ向かうか、あとは時間はかかるが降りやすい91ベースまで飛ぶかだ、どっちを選ぶ?」
 マーマレードは少し考えてから答えた。「空母を選択する」
「了解、ついてこい」
 マーマレードはそのままフォックスバットの左側に並んで降りていった。

 高度を下げ、いったん水平飛行に入ってからフォックスバットが真横、少し上方に並んできた。ロールして背面飛行でコックピットを覗き込んでくる。マーマレードはフォックスバットに向かってもう一度手を振って見せた。
「マーマレード、戦闘空域を出た」フォックスバットから無線が入る。
「了解」
「空母とは連絡を取った。甲板は着くまでに空けてくれるそうだ。機体は空母の軸線に乗っている。このまま真っ直ぐ進入する」
「了解」
「大丈夫そうだな。だが主翼と胴体に幾くつも穴が開いているぞ」
「まずった」
「お前に穴を空けるとはな・・・どんな奴だ?」
「良い奴だった」
「良い奴?敵のことか?」
「素敵な奴!惚れ惚れする動きだった。まるで妖精みたいに・・・」マーマレードは声を張った。
「妖精?」
「そう、楽しかった。ワクワクした」
「ワクワク?まるで恋人に出会ったみたいだな。変わった奴だ」フォックスバットが吐き捨てるように言った。
「オッドアイだったかもしれない」
「オッドアイ!本当か?」
「あんな風に動けるなんて、だからきっとそうだ」
「お前なら、動けているさ」
「だったら素敵だけど、きっとそうじゃなかったんだ・・・だから・・・まずった」
「オイルが漏れているようだが、コントロールは?」フォックスバットは話題を変えた。
「真っ直ぐなら問題ない」
「エンジンは?」
「シリンダーがたぶん2つ死んでいる」
「なんとか持たせよう」フォックスバットが少し離れて前方に出た。
 マーマレードはコックピットを覗き込まれなくなったのでホッとした。腰から下の感覚が無い。でも真っ直ぐなら問題ない。問題ない。自分に言い聞かせる。
 徐々に高度が下がる。雲が切れて下にはキラキラ光る海面が見え始めた。この機体であそこに降りたら助かる保証はない。滑らかに着水する自信はあったが、ほんの僅かな角度の違いが、うねりのタイミングが、致命的な結果をもたらすことはよく分かっている。できれば甲板にふわりと降りたいんだけど・・・。マーマレードは楽観的に考えることに意識を集中した。
 飛行艇に乗っていたころなら、あそこは帰るべき場所だった。滑るように海面に降り立ち、そのままゆっくりと機体を桟橋に横付けする。そして係留作業を眺めながらエンジンを止めると、その日の仕事は終わった。呑気なものだ。
 そして桟橋ではあいつが待っていた。マーマレードはほんの少しの時間、あいつの顔を思い浮かべた。
 夕闇の迫る茜色の風景が広がっている。
 ヤシの木は穏やかな風に微かに葉を揺らせる。
 ラグーンの海面は穏やかだ。
 潮の香りがした。

 空母までまだあるのかな?視界は徐々に暗くなり始めた。日が沈もうとしているようだ。マーマレードはそう考えた。
「フォックスバット、空母に誘導灯を点けるように言ってほしい」
「なんだって?繰り返してくれ」
 下半身ばかりでなく痺れと冷たさは徐々に拡がり始めている。太陽は完全に沈んでしまった。辺りはどんどん暗くなる。どうしたんだろう?空母は?誘導灯は?マーマレードは足掻く。
「フォックスバット・・・あと・・・どれぐらい?」
「あと3キロ、いや2キロだ」
「暗いな・・・」
「どうした?」
 体がゆっくりと傾き始める。
「おい!そっちじゃない。戻せ!起こすんだ!マーマレード!」
 無線機からは叫び声が聞こえる。妙にはっきりと。
「上げろ!引き上げろ!」
 誰かがアタシに操縦の指示をしている。このアタシに・・・。
 だがマーマレードにはどうする事も出来なかった。

2020.01.19 Scene1(旧作)をリライト
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

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