fc2ブログ
Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

新世界から Scene3・Habitat

Habitat

 眼下は一面の雲だった。
 性質の異なる空気の境界面がそこにあるのだろう。
 柔らかそうで優しげなその境界は、真下は真っ白、地平線に近づくにつれて灰色味を増しながら、目視できる範囲の彼方まで拡がっている。
 その遙か下は海面のはずだが、雲は隙間無く広がっていて見えることは無い。

 42式高速偵察機は、その高速に特化されたスマートなシルエットを雲の表面に投影しながら、巡航速度で飛行を続けている。
 涙滴型のナセルに覆われた2機の二重星形エンジンは軽快な音を響かせて自らが順調であることを示唆し、それと同時に最高出力までの余裕を感じさせている。
 すべては順調だ。
 ズイキは進行方向に向けていた目を、一瞬オドメーターとプレッシャーゲージにやってから、再び進行方向に戻した。

 終戦協定は二ヶ月前に締結され、長く続いた大戦はようやく終結を迎えた。
 戦勝国となったイルマは、自国周辺での支配を確定的にするため、西域での軍の撤収を優先的に進めようとしていた。西域の軍備を解いて東域に再配備することによって、軍備の集約と軍事費の削減を図ったのだ。戦勝国同士の諍いで本国の国境線にきな臭い煙が上がり始め、遠く離れた地域に軍備を裂いている余裕は無くなっていた。
 そんな状況の中でズイキに与えられた任務は、この機体を西域の最前線基地から同盟国にある拠点基地まで撤収させることだった。
 この高速偵察機は名前の通り他に類を見ないほど高速で、敵機はおろか友軍の戦闘機でもこれに追いつける機体は存在しない。航続距離も充分で、機体やエンジンも非常に安定している。普通に考えればたやすい任務と言えるだろう。
 だがそれはすべてが順調に推移した場合のことだ。トラブルの発生や、未知の敵の存在は完全には否定できない。まだ世界は終戦の混乱の中にあるのだ。
 西域戦線でのエース級パイロットであったズイキがこの回航の任務に選ばれたのは、司令部がこの最新鋭の機体を失いたくないという思いでいることを物語っていた。

 ズイキの目が左側を向いたまま固定された。
 遠方の雲の中に何かを見つけたのだ。
 ぼんやりと現れた黒い影は徐々に大きくなり、形もはっきりし始めた。
『戦闘機か?』ズイキはスロットルを少し引いて機速を上げた。
 やがてそれは雲の中から姿を現した。やはり戦闘機だ。機体後部にプロペラを持つ単発機でライトブルーに塗装されている。見たことのない機種だったが、敵機に分類されるマークを付けている。識別信号は発していない。
 並行に飛行していて、今のところ敵意は無さそうだ。
 ズイキはフルスロットルに入れた。
 振り切れると予想していたのだが、相手も速度を上げ2機の間隔は徐々に詰まってくる。
『付いてこれるのか?』ズイキは諦めて巡航速度まで速度を落とした。いくら航続距離に余裕があるとはいえ、出来れば余計な燃料は使いたくなかったし、いまだに対象に攻撃の意図は感じられなかったからだ。
 機体はいよいよ接近し、パイロットの姿が見えるようになった。
 パイロットは顔の横に手を上げ、指で形を作った。無線機の出力を最低にしろと言っているようだ。
 ズイキは了解の合図を送って、出力を最低にして無線機のスイッチを入れた。
 ザ・・・ノイズに混じって声が入ってくる。
「ファーキンだな?」女の声だ。
「何故わかる?」ズイキは自分のコードネームを呼ばれて驚いた。
「お前たちの暗号を解読するのにそんなに時間は必要ない。それに戦勝に浮かれて弛んでいるからな。行動はすべて筒抜けだ」
 ズイキの顔は苦笑いになった。確かに軍規は緩んでいるように感じていたのだ。
 機体は更に接近する。そしてお互いの主翼に僅か30センチほどの隙間を空けただけの編隊飛行になった。巡航速度でこの間隔を保ったままの飛行を続けられるテクニックは、このパイロットがただ者ではないことを示している。
「オッドアイか?」ズイキは確信を持って訊く。西域戦線での敵側エースパイロットのコードネームだ。
「ふふ・・・何故わかる?」相手は同じ言葉で返してくる。
「どうしてだろう?」ズイキは自分に問いかけるように答えた。
「もう乗らないのか?」オッドアイが突然訊いてきた。
「戦闘機にか?」
「そうだ。その機体は速いが、自由には飛べない」
「戦争は終わった。潮時だろう?」
「飛びたいとは思わないのか?」
「飛びたいとは思うが、人殺しはもう止めようと思う」
「人には3つ必要なものがある。なんだかわかるか?」オッドアイは唐突に話を変えた。
「さあね・・・」
「居場所と役割そして死に場所だ・・・」
「なんだそれ」ズイキは苦笑を漏らした。
「お前はこの戦争で居場所と役割を得ていた」
 確かにそうだった。ズイキは空軍に居場所を得、エースパイロットとしての役割を担った。
「後は死に場所を探していればそれでよかったのだ」
 そうだったのかもしれない。ズイキは思った。
「だが戦争が終わった今、お前はすべてを失った・・・」
「オッドアイ、それはお互い様じゃないのか?」ズイキが問いかける。
「そうだな。だが私にとってはまだ戦争は終わっていなかった。だから私は今日ここでお前と一戦交えるつもりだった。そうすればここがどちらかの死に場所になる」
「勘弁願いたいな」
「心配するな。お前がその機体を操縦していた時点で作戦は放棄された。そして私もすべてを失ったのだ」
「お互いにその3つの必要なものとやらを探さなければならなくなったというわけか?」
「そうだ、だが私はまだ自由に飛ぶことをあきらめたわけではない。そしてファーキン、お前と戦うことも・・・」
「そう思うことは勝手だが、アタシはアタシのやり方でやる。自由に飛べなくても良い、人殺しはもうごめんだ」
「そうかな?」オッドアイはそう言葉を発した瞬間、機体をロールさせて反転し、背面飛行でコックピットを対面させた。惚れ惚れする動きだった。まるで妖精みたいに・・・。
 真上、1メートル程の距離を置いてキャノピー越しにオッドアイの顔がある。
 彼女はバイザーを上げた。バイザーの下からは、サファイアのような青い左目と、ルビーのような真紅の右目が現れた。雪のように白い顔には、まだ少女のようなあどけなさが残っている。僅かに覗いた髪はパールホワイトだ。
『本当にオッドアイなんだ』ズイキはイメージと全く異なる顔に一瞬たじろいだ。高度が下がりオッドアイの顔が遠ざかる。
「顔を見せろ」オッドアイが要求する。
 ファーキンもバイザーをあげて機体の間隔を戻す。
 暫くの間対面飛行が続く。
「その顔は永遠に忘れないぞ」オッドアイは背面のまま機体を上昇させると大きくロールさせ、そのままズイキの側方をダイブした。
「また会おう」
 たちまち機体は雲の中に消えた。


2019.02.12

追記と解説へ続く(読んでね!)
関連記事
スポンサーサイト




テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

 
執筆、お疲れ様でした。

33333hit企画、お待ちしていました。
あんな無茶なリクエストに応じてくださって、ありがとうございます。

いやあ、面白いお話でした!
「新世界」シリーズの前日譚ということで、サキさんお得意の冷涼感のあるストーリーに、ウチの子をうまく絡めていただいたなぁと感じました。

しっかし、あの子が出てくると、どうしてこう殺伐とした雰囲気になるんだろうなぁ。ほんとに好戦的なヤツですからね。しかもすぐに他人を巻きこむし。
三つのものが「居場所」「役割」「死に場所」というのは、いかにもあの子が言いそうなセリフですね。ああいうのを戦闘機に乗せて戦場に出したら、末路はバトルホリック一直線ですわ、マジで。
いかにも軍人っぽくカッコつけて、「死に場所」を求めているみたいなこと言ってますけど、たぶん自分は死ぬ気なんてさらさらないんだろうな。
「お前の顔は忘れない」とか「また会おう」なんて捨て台詞を吐いてますけど、どんだけ構ってちゃんなんだよ(笑)
一方的に絡まれたファーキン、苦笑いスルーを続けていればいいのに。最後は巻きこまれちゃってましたね。もっとも、彼女も「居場所」と「役割」は探すことになるのかもしれませんね。いずれにせよ、お相手、ご苦労様でした。

ファーキンの乗機のモデルは思い浮かびませんでしたが、記述から推定するとSR-71のレシプロ版といったところですかね(なんだその変態機はw)
で、オッドアイのは、レシプロで単発の推進式戦闘機……まさか太平洋戦争のオーパーツ、震電なのかっ! いや、御作の雰囲気からすると『散香』かな(謎)
つか、いずれにせよ、お互いめっちゃピーキーな操縦性の機体なんだろうに、そのアクロバットとかフォーメーションとか、飛び方がいろいろおかしいですから(絶賛)

楽しく読ませていただきました。
ありがとうございました。
TOM-Fさん 
読んでいただけていうれしいです。
そして、まずホッとしています。エミリー(というよりセシルの方かな?)をお借りしたのはよかったのですが、この子はなかなか謎で、思い通りに動いてくれなくって、設定的に相当無理をお願いしましたから、TOM‐Fさんの了解の範囲内に収まってくれるか、心配していました。
でも、面白いお話・・・とおっしゃっていただけているようですし、なんとか収まったのかな?
とりあえず安心しました。

殺伐な雰囲気なのは、彼女(セシル)を選択した時点でそういう雰囲気が必要と感じて「新世界から」を舞台にしたからです。彼女(エミリー)を表に出したらもっと別の、明るい話でも書けたかもしれません。
「居場所」「役割」「死に場所」はお題に答えるべく無理やりにひねり出した理屈ですが、何とか形になっていたでしょうか。
そしてTOM-Fさんのあの子の心理解説、思わず吹いちゃいました。なにしろ生みの親のコメントですからね。彼女、そんな感じなんですね。構ってちゃんか・・・なるほどぉ。
死ぬ気はさらさら無いというのはわかります。自分が最強だと思ってるんですよ。きっと。
この後ファーキンは居場所と役割を探して悶々とするわけですが、なんとオッドアイも重要な役割を持っています。
万が一このシリーズが展開するようなことがあったら、また登場願うかもしれません。その際はまた了解のお声掛けいたします。

さて、ファーキンの搭乗する機体ですが、おお!おっしゃるようにまさしくSR-71のレシプロ版、その通りです。イメージしていたのは戦略偵察機の元祖、100式司偵なんですから。
オッドアイのは震電ベースですが、もちろん『散香』もありです。でも、この機体自体が震電ベースですよね?
ジェットの開発が遅れ、レシプロが進化を続けている世界ですから、もっと洗練されているかも知れませんが・・・。

楽しみながら書かせていただきました。
リクエスト、そしてコメント、ありがとうございました。
 
こんばんは。

なるほど〜。セシルがパイロットに。でも、彼女なら戦闘機の操縦くらい朝飯前で出来そうですよね。神出鬼没っぽいし。
そして、このズイキはもう退役した後なのかな?

「居場所」「役割」「死に場所」かあ。英雄も大変だなあ。私は小市民でいいやって思っちゃいました。こういう台詞が言えたらかっこいいですけれど(笑)

ちなみに、本文はもちろん、コメント上でのTOM−Fさんとのメカメカ談義も、さっぱりギリシャ語だなあ。これがわかると、きっともっと楽しめるのでしょうね。

あ、「scriviamo!」二作目。「ゆっくりどうぞ」と言いたいところですが、もう二月も半分ですね。えーと、お待ちしています。
夕さん 
イメージ的には合うかなと思って、無理やりにお願いしました。
ズイキのライバルとしても役に不足は全くありませんし、逆に喰われてしまうくらい存在感のあるキャラクターですからね。
いえ、ズイキはまだ退役していません。これが最後の任務くらいでしょうか?この任務を終えてからシンキョウへ向かいフワリと出会います。

あ、この三つの言葉、お題に答えるために無理やり考え出したんですが、大層なことは言ってないんですよ。小市民にも当てはまることだと思いませんか?程度の差はだいぶありますけど。

メカメカ・・・ですね。すみません。これはTOM‐Fさん用に思い切り特化して書いた作品ですから、たっぷりと楽しんでいます。
理解できない部分は読み飛ばしてください。

そして「scriviamo!」二作目、まもなく完成の予定です。
あ、急かされてるのかな?
先の推敲が終わったらUPさせていただきますので、もう少しお待ちください。
 
こんばんは。
戦争が終わって世の中が激変する時は、軍人でも一市民でも、個人レベルでも大きく影響を受けますものね。まぁ私らのような庶民は、結局は流れ流され何ごともなしえず消えゆくのみではありますが・・・
そうした葛藤って、戦中戦後にライバル同士の人生が複雑に交錯する『銀河英雄伝説』も思い出しました。「オッドアイ」というのが『銀河英雄伝説』に登場するロイエンタールのヘテロクロミア(金銀妖瞳)を思い出すというのもありますが(^^;)
へろんさん 
2人共戦争の申し子のような人間ですから、戦うことを止めたらいったい何をして生きれば・・・状態だと思います。
ズイキの方は戦いから離れようとしているようですが、オッドアイの方はまだ諦めていないような・・・。
オッドアイってとても興味を惹かれる特長です。
サキは『銀河英雄伝説』を読んでいないので知らなかったのですが、ロイエンタールさん、かなりな有名人なのでしょうか?
この物語、とても興味はあるのですが、あまりに長大です。
読もうかなと思っては尻込みをしちゃうんですよね。

読んでいただいて、そしてコメントをいただいて、ありがとうございました。

 
<- 04 2024 ->
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -
プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。

山西 左紀

Author:山西 左紀
「山西 左紀について知りたい方はこちら」
プロフィール画像について(“みまさか”さんに特別にお願いして使用許可をいただいた「ミクダヨーさん」です。)

ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
イラストをクリックすると記事に飛びます。よろしければご覧くださいネ!
スカイさんシスカイメージ
スカイさんのシスカイメージ
シスカ・イメージ高橋月子さん作
シスカ・イメージ 高橋月子さん作
シスカ・イメージlimeさん作
シスカ・イメージ limeさん作 コトリ・イメージユズキさん作
コトリ(コンステレーションにて)ユズキさん作
リンク
ブロとも申請フォーム
月別アーカイブ

Archive RSS Login