Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

物書きエスの気まぐれプロット(27)HARTS Field 2

HARTS Field 2

トロはトロッコに駆け寄るとサイドに付けられたハンドルを両手で掴んだ。
 音は轟音に変わりはじめ、流れる空気もどんどん強くなる。トンネルの中が徐々に明るくなり始めた。
「来る!」トロは車体を揺すってタイミングを計ってから「うおおおおお!!!」全身の力を振り絞ってトロッコを押し上げた。
 だが50センチほど浮き上がった車体は、そこで動きを止めてしまう。焦りが体の動きを余計にぎこちなくする。
 接近する列車のヘッドライトが射るようにトロを照らし出す。
「うううん」トロは渾身の力を込める。
 轟音、風、そして振動が体を包み込む。
『だめか・・・』トロが車体を放り出して後ろへジャンプしようと身構えたとき、急に車体が軽くなった。誰かがもう1つのハンドルに手をかけたのだ。
 一気に車体は持ち上がり線路の向こう側にひっくり返る。
 真っ白な光を放つ先端はもうほんのそこにまで迫っている。
 トロはその誰かの方に目を向けたが、ヘッドライトに幻惑されて何も見えない。トロは動けなくなった。まるで闇夜にライトで照らされた野生動物のように。
 誰かがトロの腰に腕を回した。そのまま後方へステップして大きくジャンプする。誰かは空中で体を捻り体勢を入れ替え、トロはその誰かの上に落ちた。
 誰かはもう半回転してトロの上に被さり、両手と胸でトロの体をかばう。
 間髪を置かず尖った先端を光らせた列車が、すぐ横を轟音と共に猛スピードで通過する。
 激しい振動と轟音と爆風とさらに輝きを発しながら、幾つもの巨大な車両が弾丸の後に続いて通り過ぎる。今回はその数を数えている余裕は無い。あっという間に最後尾の尖った尻尾と、その先端に灯った毒虫の様な赤い光が流れ去る。
 やがて世界に闇と静寂が戻ってきた。

 激しい息づかい、早鐘のような鼓動、自分のものに加えて上に覆いかぶさる誰かのものも背中越しに伝わってくる。
『生きている・・・』トロは心底ホッとした。そしてその安心感を確かめるのと同時に、背中に覆いかぶさるものが何か、いや、何者なのかを確かめようとした。
 背中の誰かがゆっくりと体を離す。
 起き上がったようだ。
 トロは横たわったまま発光環の照度を上げ、その誰かを見上げた。
 それはブロンドの髪を持った青年だった。いや、あのトロッコを持ち上げた行動から青年と思われた。顔は性別を感じさせないくらい端正で、非の打ち所のないほど美しい。少なくともトロにはそう思えた。肩まで伸ばされ緩くカールした髪は発光環の光を反射して滑らかに輝く金色で、肌は透き通るように白い。そして吸い込まれるような水色の瞳でトロを見つめてくる。それは、この世のものとは思えないくらい魅力的だった。
 トロの住む世界にはこんな髪色の人間は存在しない。大概が黒か、せいぜい茶色、そしてそれに類する色合いだ。肌も程度の差はあるが、こんなに色素の少ない者は見かけない。金色の髪や白い肌は、図書館で何かの文献で偶然見かけた時に、奇異の目を向けた記憶が微かに残っているだけだ。
 トロは目の前に存在する奇跡に驚いて、ただじっと青年の方を見上げていた。
 青年は数回の瞬きをした。そして唇の端を少しだけ上げた。
 それはトロにとって微笑みのように感じられた。
 続いて青年のその口から、何らかの音節が発せられた。どうやらそれは言葉のようだ。意味は全く分からないが心地よく耳に響く。トロはニュアンスから『大丈夫?』と言われているに違いないと想像した。
 恐怖による緊張は弛緩し、別の感情が別の緊張をもたらし始める。
 トロの顔は熱くなり、それにつれて発光環の輝きも増してゆく。トロはあわてて照度を下げた。
「ありがとう」トロは一生懸命笑顔を作り上げると礼を言った。
 また青年が何かを言ったが、やはり意味は分からない。ただ優しい笑みから意味を想像するだけだ。
 青年にとってトロの笑みは答えになっていないようだ。諦めたように視線を外すとトロの頭を抱え後頭部を覗き込んだ。続いて背中、肘、膝と手を当てながら何かを訊いてくる。どうやら怪我をしていないか気にしているようだ。
 その様子を眺めているうちに、トロは青年の指先が光っている事に気が付いた。肘や膝に触れる時、彼の手がぼんやりと光っているのだ。
『やっぱりあの時の・・・』トロは最初にトンネルの調査に来た特、当時まだあった壁の向こうに居た人間たちの事を思い出した。タモは不気味な奴らと言ったが、トロにとっては光る指先は綺麗だったし、物腰も優しげに見えた。そのとおりだった・・・トロは青年を見つめながらそう思った。
「大丈夫だよ。どこも痛くない」トロが笑顔で答えると、彼は満足げに頷いた。
 その時、トロは彼の着ている服の肩の部分に血が滲んでいることに気が付いた。トロを抱えてジャンプした時に肩から落ちたのだ。トロは起き上がると彼の肩を指差した。彼は何でもないというふうに首を振ったが、ゆったりとした服の首元を広げると傷口が現れた。トロは立ち上がって大急ぎで線路を横断し、自分のリュックの中から救急キットを取り出した。
 真っ白な肌に開いた傷口は痛々しい。トロはドキドキしながらその傷口を消毒し、特大の傷パッドを張り付けた。
 彼がまた何かを言った。たぶん感謝の言葉なんだろう。トロはそう解釈して笑顔を返した。
 彼はまだ何か言葉を続けている。『何を言ってるんだろう?』トロが怪訝な顔をすると、彼は線路の向こう側を指差した。
「あ!」トロの記憶が戻ってくる。「タモ!タモは?」大慌てで線路を横断し、寝かせていたタモのところに駆け寄る。さっき救急キットを取りに来たときはタモの事はすっかり忘れていた。いっぺんにいろんな事が起こりすぎたんだ。きっと・・・トロは自分を納得させた。
「タモ!タモ!」相変わらず反応はない。トロはタモの心臓の上に耳を当てた。
 規則正しい鼓動が伝わってくる。体も暖かい。呼吸も感じられる。意識が無いだけで体の方は大丈夫そうだ。
「大丈夫みたいだけど」トロは振り返って、後ろに立っていた彼に告げた。
 彼はトロと入れ替わり、暫くの間タモの体を触っていたが、やがて『わからない』というふうに両手を横に広げた。そして何か言葉を発しながらトロッコを指差し、それをトンネルの出口の方へ向けた。
「急いで戻った方が良い、と言っているのね?」トロは同じように指を動かしながら答える。
 トロがトロッコのハンドルに手を掛けると、彼も同じようにした。2人はひっくり返ったトロッコを元に戻し、車体を持ち上げて半回転させ、線路の上に戻した。これで出口に向けて戻れる。
 トロが2人分の荷物をカゴに積んでいる間に、彼がタモを抱きかかえシートに納めた。トロはシートの下を覗き込んで、キルヒホッフ反応機関の様子をチェックした。ドームは安定を示す緑色に発光し、中の気泡も穏やかだ。逆さまになったが問題はなかったようだ。トロはホッと息をつくと彼の方を見やった。
『大丈夫だね』彼はそのような言葉を発し、じゃぁというふうに片手を上げた。
「ありがとう」トロはいつものように握手をするつもりで右手を差し出した。
 彼は一瞬戸惑ってから右手を差し出した。そしてゆっくりと人差し指を伸ばすとトロの人差し指の先に触れた。
 彼の指先の輝きが増した。同時にトロの発光環の輝きも増す。暖かい感覚を憶え、彼の指先とトロの発光環は今までに経験したことのない色で発光した。
 2人はお互いの反応に驚いて手を離し、そのとたん輝きはいつもの色に戻った。
「行くね」トロが笑顔になって言った。後ろ髪を引かれる思いだったが、タモの事も心配だし、また列車がやって来るかもしれない。
 彼も笑顔で答える。
 トロはシートに納まるとコントロールスティックを引いた。
「またね」トロは振り返りながら手を振る。
 彼も同じように手を振った。
 スピードが上がり、彼はたちまち闇の中へ消えていった。

「う、うう~~ン・・・」タモが間抜けな声を出した。首をもたげて薄く目を開け、寝ぼけたような顔をトロに向ける。「あれ?トロ、いったいどうなったんだ?」
「バカ・・・!」トロは右手でコントロールスティックを操作しながら、左手でタモのおでこをはたいた。


「エス、このお話いったいどのくらい間が開いてしまったのかわかってる?」コハクの声がまた尖る。
「え?」エスは目を泳がせた。
「前に展開の読めないまま読まされたのはいつだった?暑かったのは憶えてるんだけど」
「2014年・・・だったかな?」エスは愛想笑いで答える。
「3年も前なの?」コハクの口が大きく開いた。「道理で繋がらないわけだ」
「突然ウチの頭の中で繋がったんだ。だから・・・」
「しょうがないなぁ」コハクはため息を漏らした。
「ごめんね」エスはまた上目づかいでコハクを見た。
「確か、トロとタモがトロッコに乗って、謎の弾丸列車が走るトンネルの探検に出かけるっていうお話だったよね?」
「さすがコハク、よく覚えてる」エスが顔を上げる。
「だから、茶化すなって」コハクが眉間にしわを寄せる。
「新界との境界線を越えたところでタモが意識を失って、そこへ弾丸列車が突っ込んでくるところで、前回は終わっていたの」
「そうそう、だから、うおおおおお!!!って始まったんだ」コハクはハンドルに手を掛けてトロッコを持ち上げる動作をした。
 コハクの機嫌は直ったようだ。「繋がった?じゃぁ感想は?」エスはホッとした様子で尋ねた。
「感想?今それを聞くの?」
「え?だめ?」
「いいけど、でもエスとしてはこの金髪の彼、珍しいよね。白人系のキャラって始めてじゃない?どういう心境の変化があったの?」
「え?そうかな?別に拘りはないと思うけど・・・」エスが視線を逸らす。
「男性キャラがってことよ。ヨーロッパに行った影響かなぁ?あ!」コハクは記憶を辿るように斜め上を見た。
「え?なに?」エスは居心地が悪そうに体を動かす。
「ほら、イタリアのコモでヨナタンに会ったじゃない。それでか・・・」
「でも、ヨナタンって黒い髪で焦げ茶の瞳だったじゃない。全然違うよ」エスは慌てて否定する。
「道案内をしてもらっただけなのによく覚えてるじゃない。エスは優しくしてもらったからねぇ」
「そんなことないよ。普通だよ。ステラだって一緒だったし」
「エスの事だからダイレクトに書けなくて、髪と瞳の色は変えたんだろうけど、イメージは彼なんじゃないの?」コハクはエスの顔を覗きこむ。
「ちっ、違・・・」エスの顔は赤くなってしまった。
「あらら・・・」コハクはエスをそのままにして、コーヒーを淹れにキッチンに向かった。


おしまい

2017.07.14
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

まさかの…… 
こんばんは、

え〜、『トロとタモ』(『HARTS Field』だっておっしゃっているのに)、三年ぶりでしたか?
そんなに前だったとは。エスの話は、まめにアップなさっていらっしゃるからなのか、そこまで久しぶりとは感じませんでした。

で、手に汗握る展開……のあとに金髪の王子様登場にも驚きましたが、モデルはあの根暗兄ちゃんなんですか! それが一番の驚きかも(笑)
しかも、金髪の彼にドギマギしているのはいいとして、トロったら、タモを忘れていましたね。あらあら。

しかし、この金髪にいちゃん、ただのカッコいいナイスガイだけではない模様。なかなか謎めいた存在のようです。この後の展開はどうなるんだろう。せっかくですので、また近いうちに続きを読ませていただけると嬉しいですね。
夕さん 
3年ぶり、サキもそんなに開いているとは思ってなかったのですが、調べてみるとそうでした。エスシリーズはこのお話から始まったのですが、他にも面白い断片が登場したせいもあって、忘れられた存在になっていたんですね。
今回、サキの頭の中でストーリーが繋がったので、かなり苦労しましたが書き出しました。読んでいただけて嬉しいです。
王子様は以前から設定にあったものです。でも、こういうイメージにするというのは今回決めました。だって前回のお話しが終わったときには、エスがヨーロッパに行くなんて全く想定外だったんですから。エスはコモでヨナタン達に助けてもらってますからね。きっと優しく接してもらったんだろうって・・・。
3年も経つと思わぬ事が起こりますね。この3年間は良い展開で物事が動いたんだなぁ・・・と思っています。
夕さんはじめ、ブログでかまってくださった皆さんに感謝です。

はい、たぶんただのカッコいいナイスガイではないんですよ。
細かいところはなにも決まっていないんですけれど。

コメントありがとうございました。
おひさ~ 
更新、お疲れ様でした。

あ、トロッコの話だ。トロとタモのコンビ、久しぶりだなぁと思いましたが、まさか三年まえだとは思いませんでした。そんなに空いていたわりには、このお話はけっこう印象に残っていましたよ。
緊迫の展開でハラハラしたところに、命の恩人の王子様登場。見た目もいいし、なんか優しい感じだし、トロがぽ~っとなるのもわかりますけど、タモは最後まで出番なしでしたね(笑)
そして、ヨナタンとのことを指摘されたエスの反応が、すごく可愛くてほっこりしました。

JBLといえば4300シリーズでしょくらいな私としては、HARTSFIELDはもうオーディオ機器というより家具って感じですね。我が家にはあんなの、絶対に設置できないわ。それ以前に買えないし(笑)
TOM-Fさん 
はい~。三年ぶりなんです。すみません。彼の登場は予定にはあったのですが、王子様パターンは今回思いついた設定なんです。
前回を書き終えてからサキの環境には驚くべき変化が起こっていて、それにつれてエスもずいぶんと元気になって活動範囲を広げています。イタリア旅行にも行けましたしね。
金髪の彼が登場する背景には、そんな環境の変化の影響もあったんだろうなと思っています。
エスがヨナタンにポ~ッとなっていたのはご愛敬ですが、可愛いとのコメントをいただけて嬉しいです。

あ、サキはJBLについては詳しくないんですよ。もちろん先の入れ知恵です。

コメントありがとうございました。
私もびっくり 
まさかの3年ぶりですか。時が過ぎるのって早いんですね! びっくり!!
でもTOM-Fさんもおっしゃっている通り、トロッコ設定が印象深かったのか、まさかそんなに空いているとは思えませんでしたよ。しかも、そういえばこんな危機的なところで終わってた!そうそう。
あ、でもコハクとエスの会話が何となくなじみなので、あまり空いている気がしなかったのかも。

ここで何やら素敵な出会いがあったようで。しかもヨナタンモデル? そんなのが楽しいですよね。コハクの突っ込み、ナイスです。
異世界との出会いって、やっぱり良いなぁ。というのか物語ってやっぱり異世界との接触から始まる、展開するってのがよいですよね。ファンタジーじゃないなら、異世界ではなくて、新しい出会いとか異分子の登場によって、ということになりますが。
う~ん、何か書きたいけれど、まとまった時間を捻出できなくて。でも刺激を受けました。
彩洋さん 
はい、3年も開いてしまったんですね。
書いている本人もそんな事になっているとは夢にも思わず、カウントしてみてびっくりしました。
これじゃぁ読んでくださる方もいなくなりますよねぇ。
でもサキが書いているいろんな物語がこんな状態なんですよ。困ったものです。
そのうえ、最近ちょっと書けない。
あ~困った困った。

ところでお話の方ですが、
エスはコモで親切にしてもらったヨナタンにちょっと気が有ったみたいで、それが物語にも表れたという設定で書いてみました。
エスは4分の1イタリアの血が入っていますからね。ビビッときたということなのでしょう。
コハクにはバレバレです。
そして例のごとく、トロの新しい出会いがどう展開するのかは霧の中です。
またまた困ったものです。

コメント、そして拍手コメありがとうございました。

 
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