Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

絵夢の素敵な日常 貿易風(alisios) 前編

貿易風 (alisios) 前編

「ねぇ。ここはどこなのよ。ねぇ」エレクトラの声を無視してジョゼはエスカレーターを下る。「ジョゼってばぁ」
「勝手についてきたんだから文句を言うなよ。疲れたならホテルに戻れば大丈夫だから」
「冷たいこと言わないでよ。ここから1人で戻るなんて無理よ」
「だったらおとなしくついてこいよ」ジョセは歩幅をエレクトラに合わせた。
「だって、自由行動の日なんてほとんどないんだもの。せっかく食い倒れの町なんだから、一緒になにか美味しい物を食べたいじゃない」

 研修旅行はもう最終の行程に入っていて、昨日は食い倒れの町と呼ばれている大阪で一日中缶詰になって講習と実習が行われた。そして今日は久しぶりのオフで自由行動が可能な日だった。“食い倒れ”とは、飲食に金をかけ過ぎて,貧乏になるという意味で、大阪にはそれくらい美味しい物がたくさんあるということらしい。

「僕は今日は個人的な用事で出かける。しかも食には全く関係ない用事だから、とはっきりことわったはずだよ」
「だって、一緒に出掛けたかったんだもん」エレクトラは泣きそうな声を出す。
「しょうがないな」ジョゼはエレクトラが追い付くのを待った。
「ありがとう。やっぱりジョゼは優しい」泣いてしまいそうな顔は一瞬だった。エレクトラはジョゼの肘に手を通すと満面の笑みを浮かべた。
 ジョゼは一瞬顔をゆがませたが、そのまま並んで歩き始めた。
「ねぇ。私達はいったいどこにいるの?」
「池上という町だ」
「イケ・・・?」
「イケガミ、だ」
「そのイケなんとかに、ジョゼは何の用があるの?」エレクトラは体を寄せる。
「邪魔だなぁ・・・」ジョゼは顔をしかめた。
「いいじゃない」エレクトラは気にする様子もない。
 駅を出たところでジョゼは「Information」の表示を見つけ、その入り口を入った。カウンターの女性に近づき、彼が仕事で培った最高の笑顔を向ける。
「何かお困りでしょうか?」ジョゼの姿から判断したのだろう。女性は英語で話しかけてきた。
「すみません。お尋ねしたいのですが、この辺にイケウエという家は有りませんか?」ジョゼはスイス生まれなので英語も堪能だ。エレクトラは英語が苦手なのでキョトンとした顔で横に並んでいる。
「イケウエミュージアムの事でしょうか?それでしたら・・・」女性はラックからパンフレットを取り出すと行き方を説明してくれた。

 ミク・イケウエ・エストレーラ、それがミクのフルネームだ。彼女の祖母であるメイコも同じミドルネームを持っているのだが、2人ともそれを書いたり名乗ったりすることは無い。ジョゼも何かの公的な書類を見る機会があって、初めて知ったぐらいだ。その時それについて尋ねたジョゼに、ミクはメイコの旧姓だと答えた。ということは・・・ジョゼはそれがミクが日本にいた時の名字に違いないと考えていた。
 今日ジョゼはミクが生まれた場所を訪ねるつもりだった。
 ミクはほとんど日本での生活の事は話さなかったが、ミクと絵夢が宝塚の町で出会った時の話を聞いたとき、ミクがその近くの池上(イケガミ)という町に住んでいたことは聞き出していた。
 それに池上(イケウエ)という家はかなりの名士である事も分かっていたので、池上の町でその名前を出せば何らかの手がかりが得られるだろうと考えていた。だから一発で反応があった事にも、たいして驚きはしなかった。だがミュージアムというのはジョゼの予想を超えていた。

 パンフレットを受け取り礼を言うとジョゼはエレクトラを伴って「Information」を後にした。案内されたとおり駅前広場を回り込み、正面にある商店街のアーケードに入る。
 商店街の人通りはあまり多くはなく、シャッターの閉まっている店舗も多い。大型ショッピングモールの繁栄と個人商店の衰退の、まさにその典型的なモデルを見るような思いでジョゼは商店街を進んだ。
 エレクトラはジョゼの肘に手を通したまま興味深げに店の商品を眺めている。何度か歓声を上げてその度に衆目を集めたが、今のジョゼにそれにかまっている余裕は無い。
 やがて商店街が尽き、小さな交差点を抜けるとそこが目的地だった。
 それは黒い屋根瓦を乗せた巨大な和風建築だった。道路に面して入口が有って、壁に日本語の表記と並んで「IKEUE MEMORIAL MUSEUM」の文字が見える。
「いったいイケウエという家は、どれだけ大きいんだ」ジョゼは目を見張った。横でエレクトラが色々と質問してくるがそれどころじゃない。適当に受け流したジョゼは恐る恐る入口を入る。
 中は土間と呼ばれるホールになっていて、落ち着いた感じの年配の女性が笑顔で向かえてくれた。
 ジョゼも最高の笑顔で答え「このミュージアムについて説明してもらえませんか」と尋ねた。
 女性は、池上(イケウエ)家がこの池上(イケガミ)の町で代々酒造業を営んできた家である事や、このミュージアムが、伝統的な酒蔵や池上(イケウエ)家の旧屋敷の保存に加え、酒造の歴史や製法の資料、酒造に関する道具などの他に、池上家代々の当主が収拾した美術品や骨とう品の展示を目的として作られた事などを説明してくれた。
 説明は英語だったので、ジョゼはエレクトラのために要点をポルトガル語に通訳した。
「どちらからお越しですか?」その様子をじっと見ていた女性が尋ねた。
「ポルトガルからですよ」
「まぁ、遠い所からようこそお越しくださいました」女性は少し驚いた様子だったが歓迎の言葉を述べた。
 ミュージアムはそんなに大きな物ではなかったので、屋敷の畳敷きの部屋を改装した展示室で絵画や骨董品を鑑賞し、縁側から日本庭園を眺め、さらに実際に使われていた大きな樽や酒造用具の並ぶ酒蔵の見学を終えるのに、思っていたほど時間はかからなかった。
 入口のホールへ戻るジョゼにエレクトラが声をかけた。
「ねぇ、私知ってるんだよ」
「何を?」ジョゼは怪訝な顔を向ける。
「どうしてここへ来たのか・・・ううん、来たかったのか」
「どういうこと?」
「六つも年上なんでしょう?」
「えっ!」ジョゼはエレクトラの思いもかけない言葉に驚いた。
「マイアが休暇で帰ってきたとき、そんな話をしてくれたことがあったんだ。ジョゼにはいい人が居るらしいよ。六つも年上らしいよ・・・って」
「マイアが?」ジョゼは立ち止まった。ホールのカウンターには先ほどの年配の女性が座っている。

 マイアというのはジョゼの同級生でエレクトラの姉だ。そういえばずっと前に出会った時、そんな話をした覚えがある。たぶんポートワインを飲み過ぎたせいだ。

「それに日本人だって・・・だから、ここは彼女に関係のある場所なんでしょ?それぐらい私にもわかってるよ」
 ジョゼは黙ってエレクトラを見つめた。
「ミクっていうんでしょ?調べちゃった」エレクトラはペロリと舌を出した。
「まいったな」ジョゼは頭をかいた。
「お取込み中すみません」カウンターの女性が申し訳なさそうに声をかけてきた。「ミクというお声が聞こえたものですから。不躾な質問で、見当違いだったらごめんなさいね。そのミクというのはイケウエ・ミク様のことなのでしょうか」


2017.01.27

貿易風 (alisios) 後編へ・・・
関連記事
スポンサーサイト

テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

うぅむ 
積極的なエレクトラに翻弄されているようなジョゼですが、歩幅を合わせてあげたり、やっぱり優しいですね。そういうのがさらっとできる辺りは、彼の人柄なんだなぁ。もちろん、客商売をしていて身についたものもあるかもしれませんが、この辺りでその人となりは出てしまいますものね。
そして、エレクトラのアタック猛攻が続いていますね。調べちゃった、というのが、女の子の必死さが出ていて、なんとも切ないなぁ。恋愛ものでは、こういうサブキャラの必死さって実らないのが定番で……しかもジョゼったら多分そんなエレクトラの気持ちをどうこうしてあげたいって思うような余裕はなさそうだしね。
後編で何が起こるのか、この博物館の女性が何を語るのか、楽しみです。
うぅん 
執筆、お疲れ様でした。

お、ジョゼが動いた。しかも、なんかエレクトラ相手だと強気だし。ちょ、もしかしてそれって、フラグ?

ミクの出自を調べる、しかも自分で検分に出向くなんて、今までの成り行きからすると、あまりいい傾向じゃないように思えるんですよねぇ。そこでさらに「差」を感じちゃって、それでどうするよ、ジョゼ。

博物館の女性スタッフが何を言おうとしているのか、それにサブタイトル「貿易風」の意味も気になります。
なにかが大きく動きそうな予感。これは続編に期待ですね。
おや〜 
こんにちは。

あ、この二人、まだ日本にいた。
しかも大阪まで行っているし。いいなあ。食い倒れなくていいんでしょうか(笑)

エレクトラ頑張っているなあ。よっしゃ! (何が?)
笑ったのは、マイアがちゃっかり実家で噂していた件。
そりゃするだろうなあ。
23やドラガォンの件は言っちゃいけないけれど、そっちはいくらでも言えるんだから。きっとメイコの件などもペラペラ喋っていたに違いない。

そしてミクの実家は神戸ではなくて大阪だったのですね。
酒造業か。
そして、ミュージアムの人も知っているっぽい?

さて、後編でどんなことが明らかになるのか、楽しみにしています。

そうです。あれだけ引っ掻き回して、あとは他人事な私です(笑)
彩洋さん 
ウムム、いつもながら彩洋さんの鋭い推測にタジタジです。
定番ですか~なるほど。そういう展開が多いんですね。
たしかにジョゼ、おおいに戸惑っています。でも、彼女の気持ちをもてあそんでいるつもりは毛頭無くて・・・でもどうなるんでしょう?
夕さんの難しい宿題に頭を悩ませているサキでした。
あ~、もっと恋愛の経験を積んどくんだった。
男の子の気持ちも、女の子の気持ちも、さっぱり理解できません。
もっと深い物語、書けたらいいのになぁ。


後編は博物館の女性が少~し語ります。

コメントありがとうございました。
TOM-Fさん 
あれ、これってフラグだったっけ?
もう混乱の極みです。夕さん助けて~と何度も言外にお願いしていたのですが、なにしろあれ「ジョゼ日本へ行く」ですからねぇ。かえって収束は困難な状況に・・・。
どうして男と女ってこんなにややこしいんでしょう?もうほんとバカばっかです。
でもジョゼは動いてしまいました。だって日本に来てるんですもの。行ってみようって思うと思うんです。ますます「差」を感じてしまうとしても・・・。
夕さんのバカ(あ、失礼)

博物館の女性が何を語るのか、お三方のコメントを読みながらまだ試行錯誤しています。でもたいして変わらないんだなぁ。
自分の底の浅さを嘆いています。
でもなんとかまとめなくちゃ。アセアセ!

コメントありがとうございました。
夕さん 
あ、混乱の張本人のコメントだ。
はい、まだ日本に居ますよ。それに金沢まで来たら大阪でしょう?サンダーバードでシュッと行けますからね。
それにエレクトラ、積極的なんです。良い性格だなぁ。こういう子、サキは大好きでなんす。でも、ミクにも幸せになってもらいたいし・・・。
ああ~。困った困った。

前に夕さんに質問したら、手紙は駄目だっておっしゃってたじゃないですか。ですから実家での噂話に変更しました。これならありそうですからね。
そう、ミクという名前まで言ったかどうかはわかりませんが、かなりいろんな情報が漏れたはずです。
ミクの住んでいた池上(イケガミ)は池田という町がモデルなんですが、確かに大阪府にあります。川を渡れば兵庫県ですけど。

自分の底の浅さに今さらながら気がついて試行錯誤中のサキでした。
たいしたものは書けそうにありませんが、一生懸命頑張りますのでまた読んでいただけたら嬉しいです。
はぁ~

 
<- 08 2017 ->
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
イラストをクリックすると記事に飛びます。よろしければご覧くださいネ!
スカイさんシスカイメージ
スカイさんのシスカイメージ
シスカ・イメージ高橋月子さん作
シスカ・イメージ 高橋月子さん作
シスカ・イメージlimeさん作
シスカ・イメージ limeさん作 コトリ・イメージユズキさん作
コトリ(コンステレーションにて)ユズキさん作
リンク
ブロとも申請フォーム

Archive RSS Login