Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

物書きエスの気まぐれプロット(25・前編)北極星に呪いを・・・

Stella/s月刊Stella 2017 2・3月月合併号参加作品

「で、なにこれ?」コハクは顔をしかめた。
 先日の欧州旅行の写真整理が出来たとエスに呼び出されたのだが、モニターにあるのは飛行機から見おろしたと思われる灰色の町だ。

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「ふふ、これ、どこだと思う?」エスは得意気にモニターの写真を拡大した。
「だから・・・わざわざ呼びつけて何これ?」」コハクの声には怒気が含まれる。
「これはね。帰りの飛行機から撮したんだ」エスは気にする様子もなく答える。
「何をやっていたかと思えば・・・」コハクは呆れ顔になった。
「暇だったから、ずっと窓の下を見ていたの。コハクは横でグースカ寝てるし」
「当然でしょ。はしゃぎ回るあんたの相手で疲れていたし」
「ごめんね」エスは一応申し訳なさそうに言った。
「いや、そんなことはいいんだけど。これ、どこかの町だよね。明くなってるから、シベリアでも極東地方だと思うけど、大きな河だね」
「これを見て」エスは地図画面を開いた。

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「ああ、なるほど。ハバロフスクね。それにアムール川?うん、確かにそうだ」コハクは写真と地図を見比べて言った。

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「飛行機はここで右に旋回したから、きっとフランクフルトから東へ東へと飛んで、ハバロフスクで向きを南に変えて羽田へ向かったんだよ」
「なるほど・・・」

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「じゃぁこれは?ハバロフスクの後で撮したんだけど」エスは新しい写真を開いた。

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「人類が居るの?ここ。こんなのじゃわかるはずないよ」そこには2つの岬に挟まれた大きな入り江が写っていた。
「そう思うでしょ。でも飛行コースから推測して調べてみると」エスは地図を開き拡大してゆく。

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「あ、この形!」
「そう。このヴェセリ・ヤルの辺りで間違いなさそうでしょ?」

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「たしかに。へえ、よく調べたね。こんなところにも町が有るんだ」コハクはエスの奇妙な好奇心に感心した。
 エスは得意気な顔になった。
「でも疲れてたんじゃないの?よく起きてたね」コハクはエスの顔を覗き込む。
「せっかく飛行機に乗ってるのに、おちおち寝てられないよ」
「好きだなぁ。とてもあんたには付き合ってられないよ」コハクの呆れ顔が戻ってくる。
「でも、こんな風景をぼんやりと見おろしていると、ふっと物語が浮かんでくるんだよね」エスが笑顔で見上げてくる。
 コハクは苦笑いになった。


北極星に呪いを・・・

 フェリーは両側から突き出した岬の間を抜けて、湾の中に入った。船はフェリーとしては非常に小型で、中型のトラック2台にオンボロのワンボックス、それにクラシカルなセダンを乗せただけで車両甲板はいっぱいだ。年期も相当に入っていて、もともとは真っ白だった船体も今は全体が錆色と表現してもいいくらいだ。エンジンは気怠そうに推力を絞り出し、煙突からは薄汚れた排気が漏れ出している。
 俺はデッキに出て通り過ぎて行く両側の岬の先端を眺め、それから船の進む方向に目を向けた。冷え切った風が吹き付け、顔は凍傷になりそうだったが、始めて見る風景にそうせずにはいられなかったのだ。
 湾内にはいると波は少し穏やかになり、船の上下動も治まった。
「軍の関係者か?」寒さに耐えかねてキャビンに戻ると、乗客の1人が声をかけてきた。乗客は俺を含めてもたった5人で、俺以外は積み込まれたそれぞれの車両のドライバーだ。この男はオンボロのワンボックスを運転していたはずだ。
「いや、観光だ」俺は少しの笑顔を付けて返答した。
「観光?」男は宇宙人を見るような目で俺を見つめた。「そりゃまたあんた、相当な物好きだな。こんな所、何もないぞ」
「そこがいいんだ」俺は“何でもない”という雰囲気が伝わるように返事を返した。
「そんなもんかね」ありがたいことに男はそれ以上追及してこなかった。
「正面に半島が見えるだろう?」男は窓の向こうを指差した。ひげに埋もれたその顔から表情を読み取るのは難しいが、少し愛想笑いを浮かべているようだ。髭を生やしているせいで年上かとも思ったが、声の調子からしても俺と同じ三十路半ばだろう。
「ああ」俺は短く返事をした。
「あれを左、つまり南だな、へ向かうとアイェナ・ムシカ。右、北だな、へ向かうとアイェナ・ナバートだ」
「この船はアイェナ行きだよな」俺は確認した。
「ああ、アイェナ・ムシカは元々はアイェナと呼ばれていたからな。アイェナ・ナバートが作られたとき、区別するためにムシカをくっつけたのさ。船はアイェナ・ムシカの港に入る」
「そのアイェナ・ナバートへは行かないのか?」
「あそこは軍事施設だからな。アイェナ・ムシカからバスで行くんだが、軍人専用だ。一般人は乗れない」
「アイェナという1つの町だと思っていた」
「オレ達もそう思ってるし、そう呼んでいる。だがここは貧しい所だ。漁業や農業だけではなかなかやっていけない。ほとんどがナバートの軍人たちを相手に商売をして食いつないでいるんだ。だからムシカの名前を黙って受け入れたってわけだ」
「大変だな」俺は愛想を言った。
「このあたりはやばい土地だぜ。観光なんかで来るところじゃない。もうこの時期、気温は氷点下のままだから、無人地帯なんかをうろついたらあっという間に遭難する。おまけにナバートは軍の施設だから周りを歩いているだけで即拘束だ。運が悪いと狙撃される。町を離れたら命が幾つあっても足りんぞ」
「えらい所へ来てしまったな」俺は半分嬉しくなって返事をした。こういう胡散臭さは望むところだ。
「今夜、宿のあてはあるのか?」男は思いついたように訊いてきた。
「いや、決めていない。行き当たりばったりが俺の旅行のもっとうなんでね」
「あんたは運が良い。下手をすると凍え死んじまうとこだったぞ」
「死にたくは無いな」
「だろ?オレのところは雑貨屋なんだが、宿屋もやってるんだ。オレの所へ泊ればいい」男は笑顔になったが、それは単なる親切心ではなさそうだった。
「値段は?」
 男は値段を言ったが、相場よりはかなり高めだ。
「部屋を見てから決めてもかまわないか?」俺は少し慎重になって言った。
「かまわんさ。だが、他に行くところなんかないぜ!」男はおどけた風に両手を横に広げた。
「まずは見てからだな」この土地に快適な宿があるとはとても思えなかったが、俺はとりあえずそう言っておいた。
「オレはクラフ・エチミア。クラフと呼んでくれ」
「俺はサトルだ」俺たちは握手を交わした。
 船体に何かがぶつかる音が断続的に響き始めた。
「流氷だ」クラフが窓の外を指さす。海面にはたくさんの流氷が見える。「今年は厳冬かもしれないな」クラフの顔は厳しくなった。
 船体が右に傾いた。フェリーは舳先を南に向け、アイェナ・ムシカに進路を取り始めた。

 オンボロのワンボックスは機嫌の悪そうなエンジン音を響かせながらフェリーを降りた。ランプウェイの段差で嫌な軋み音を立てるのは、荷物がこれ以上は乗らないくらい一杯に詰め込まれているからだろう。『今にも車軸が折れそうだな』俺は助手席でその音を聞いていた。
「大丈夫だよ。いつもこんなだ」俺の不安を感じたのかクラフが気休めを言ってくる。
「この前までは大丈夫だったんだろうが、今日はどうかな?」俺は素直な気持ちを口にした。
「心配性だな。大丈夫だって」クラフはスピードを上げた。
 気温はもちろん氷点をかなり下回っていて、あらゆるものが凍りつき、雪と氷で覆われている。だが雪はそんなに積らないようだ。路面の轍の部分は開いていて、ひび割れたアスファルトが覗いている。ワンボックスは路面の白い部分を避けるようにその轍に沿って進む。
 凍りついた海に沿って暫く走り、真っ白になった川に架かる小さな橋を渡ると町が見えてくる。寒さから身を守る為だろうか、コンテナハウスのような建物が身を寄せ合うように集落を形成している。厳しい気候による傷みを手入れをする資金も無いのだろう、それぞれは薄汚れ、くすんでいて、申し合わせた様に灰色か赤茶色だ。
 ワンボックスは町に入ったところで急停車した。
「どうした?」
「またやられたな!」クラフは舌打ちをした。
 車の前方、道路の上を横切って走るパイプラインから白い物が勢いよく漏れ出している。
「蒸気か?」
「ああ、暖房用の蒸気配管だ。背の高い車両が当てやがったんだ」
「充分高い位置を通っていると思うけど・・・」俺は配管を見上げる。
「軍の車両に決まってるだろう。とんでもなく背の高いやつだ。連絡を入れて修理をしなけりゃならん」クラフはワンボックスを発進させた。
 少し進んで広場に出ると、その向かいにひときわ大きな建物が見えた。ワンボックスはその前で停車した。
 大型の船舶コンテナを幾つも積み上げ、それを繋ぎ合わせた様な建物だ。例にもれず灰色と赤茶色で塗られ、店の名前と思われる文字列が赤茶色の上に黄色で書かれている。その一角にアルミサッシ製の両開きの扉があり、そこが入口のようだ。
「オレの店だ。入ってくれ」サイドブレーキを引きながらクラフが言った。
 俺は車を降りると大きなザックを肩にかけ、入口の戸を開けた。
 中は雑多な日用品をメインに食料品や酒も扱っている店舗になっていた。入ってすぐの位置に有るレジの隣はカウンターで、立ち飲みで一杯やれるようだ。棚には強そうなアルコールが並んでいる。
「ルル、帰ったぞ」クラフが奥に向かって声をかける。
「お帰りなさい」棚の間から少女が現れた。じっとこちらを見てニコリともしない。
「それにお客さんだ。部屋を見せてやってくれ。暫くの間、泊まりたいんだそうだ」クラフはもう決まっているような言い方をする。
「いらっしゃいませ」ルルと呼ばれた少女はきちんと頭を下げて挨拶をした。
 この地方では同じ音を繰り返す名前を付けることは少ない。ルルというのはたぶんニックネームなのだろう。12歳くらいだろうか、胸まで延ばした真っ直ぐな黒髪に小さめの顔、はっきりとした目鼻立ちは将来の美人を予感させる。そして誰だってその大きな黒い瞳で見つめられたら、この宿を断る理由を無くしてしまうだろう。
「ルル、本通りの蒸気配管が漏れてるんだ。オレはすぐに修理の手配をしなきゃならん。すまんが部屋を見せてやって、宿泊の手続きをしておいてくれ。」クラフはテキパキと用事を言いつける。
「はい」ルルは返事を返し背中を向けると、そのまま通路を進み、狭い階段の上がり口で振り返った。どうやら『ついてこい』という事らしい。そして階段を上り、廊下の先の右側の扉を開け「こちらです」と言った。抑揚を欠いた物言いで最小限しかしゃべらないが、取り立てて愛想が悪い印象でもない。
 部屋は非常にシンプルな作りだったが、大きめのベッドに暖かそうなフトン、小さな机と椅子、壁際には大きなスチームヒータが供えられていた。古ぼけてはいるが居心地は良さそうだ。カーテンを開けると小さな2重サッシの向こうに表の通りが見えている。通りは閑散として寒々しく、全ての外来人を拒絶しているかのようだ。だが俺はここに宿泊することに決めた。
 俺が室内を見回していると、ルルが「トイレとシャワーは共同で、廊下の反対側にあります」と言った。どうも客の心の動きはお見通しのようだ。トイレもシャワーもくたびれてはいたが手入れの行き届いた清潔なもので全く問題は無い。
「ルル」俺は声をかけた。
「はい」ルルは俺の顔を見る。
「さっきクラフに言われたんだが」俺はクラフに言われた1泊の値段より少し安めの値段を言ってみた。
 ルルの表情は変わらなかった。
 俺はそれを確認すると「いくらかまからないかな?1週間分先払いするから」と笑顔で言った。
 ルルは少しの間考えていたが、いくらかまかった値段を言った。これなら充分相場価格だ。
「じゃ、それで決まりだ。ここに暫く泊めてもらうことにする」
 ルルは生真面目に「ではフロントで手続きを・・・」と答え、階段を降りて行く。
 俺は快適な宿を手に入れることができた幸運を喜びながら、ルルの背中を追った。


後編へ続く
2016.12.19
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

こんばんは 
お。

なんか穏やかでないタイトルですが……。
この物語は、これまでに出てきた世界とは直接関係はない感じでしょうか。
でも、どこか共通の色や香りがしますね。
軍に支配された閉塞感が似ていますし、名前もシスカの世界と同じように東と西の音のものが混在していますものね。

サトルはどうやら観光客ではなさそうですが、その行動の意味は次回明らかになるんでしょうかね。あ、でも、「エスの気まぐれプロット」だから、肝心なところで切られちゃうかも! でも、なかなか魅力的なキャラたちですので、これからも時々出てきてくれると嬉しいですね。

あ、ちゃっかり値切っている。サトルはかなり世慣れていますね。
夕さん 
そうですね。穏やかでないのにはほんのちょっとした理由が有るのですが、それは後編で種明かしということで。
この物語世界は、実はサキの中では繋がっていたりしますが、エスシリーズとしてエスの作品になりますので一応別の世界です。でも後編を読んでいただけたら、なんとなく心当たりが出てくるかも・・・。

そして、はい、サトルは観光客ではないんですね。
さてどうなるのでしょう?
いやいや、今回は肝心の所で切れたりはしません。一応の区切りまでは進みますのでご安心を。でも解決はしませんので悪しからず。

あ、サトル、相場まで値切っちゃいましたね。ルルはクソ真面目ですから・・・。
 
執筆、お疲れ様でした。

この冷涼な雰囲気、やはりサキさんの手になる寒冷地の描写は、素敵だなぁと思います。
サトルは、なんだか怪しいというか、胡散臭いですね。何者だろう? スパイとかじゃなさそうだし、ジャーナリストでもなさそうだし……。一週間の滞在で、なにをしようとしているのか、クラフやルルとどんなふうに絡んでいくのか、後編が楽しみです。

そして、あの航空写真は、こんな場所だったんですね。私はてっきり、バイカル湖あたりの湖岸かと思いました。
荒涼とした雰囲気が、作品のイメージによく合っていると思います。
TOM-Fさん 
ありがとうございます。サキは寒いのは苦手なんですけどね。あ、暑いのも苦手か。
サトルは何者か、後編で明らかになりますが、あまり捻った設定は無いんです。
何をしようとしているかはちょっとだけ捻ったつもりなのでお楽しみに。

航空写真、手前の水面は日本海なんですね。でも、不思議な風景です。コハクの「人類が居るの?ここ」発言は正直なサキの感想です。でも眺めているうちに、この湾へ入っていくフェリーの姿が思い浮かんで、それがこのお話の導入部分に繋がっています。

 
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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
ようこそ!


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アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
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左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
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