Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

フェールオーバ

 意識が戻ってくると猛烈な苦しさが襲ってくる。
 助けて・・・アタシは目を開けようとした。
 瞼の裏側でも外の世界が明るいのは分かる。
 だが、瞼はまったく動こうとしない。
 瞼でさえそうだから体の他の部分が言うことをきくはずもない。
 苦しい・・・この状況から逃れるためならもう諦めてもいいかもしれない。
 アタシは疲れ果てて、すべてを放り出す事を考えた。そう考え始めると苦しさもいく分か和らぐような気さえしてくる。

「まもなくアップロードが終わります。あと少しだ。頑張ってくれ」声が聞こえる。その頑張れはアタシに?
「いけそうか?」何がいけそうなの?
「コピー元の生体レベルは基準内です。この分ならベリファイの完了まで持ちそうです」
「それはありがたい。だがいったい何時間待たされるんだ」
「人間1人分の脳回路と神経回路の情報を全て写し取るんですよ。どれだけのデータ量があると思ってるんですか。それなりの時間が必要です」
「そんなことはわかってる。だが今回は第三世代のスキャナを使ったんだろう?もっと高速で転写が可能だと思っていた。身体スキャンとMEMSによる身体形成よりも時間がかかるとは・・・」
「格段にスキャニングの精度を上げていますがらね。人1人分のデータはさらに膨大なものになります。でもこれだけ拾えれば完璧な人格が再構成されるはずです」
「だったらいいんだが」
 なんの話をしているんだろう?アタシは朦朧とする意識の下で考えた。

「誘導シナプス経路が定着しました」別の冷静な声が告げる。
「バックアップ」事務的に答えが返ってくる。
「ホログラムの形成を確認」
「形成されたネットワークは正常です」何人いるんだろう?また別の声だ。
「バックアップ」事務的な声。
「覚醒します」冷静な声。
 沈黙・・・。そして小さなどよめき。
「ここは?」誰かの声。
「お目ざめですか?あなたのお名前は?」最初の声が尋ねる。
「×××」え!今なんて言った?
「フルネームはなんとおっしゃる?」二番目の声。
「×××・××××××」アタシの名前だ。じゃぁこれはアタシの声?
「生年月日は答えられますか?」最初の声。
「××××年×月×日」アタシ?が誕生日を答えている。そう、正解。
「ご家族はお見えか?」二番目の声。
「控室に」最初の声。
「お呼びして!確認を」
「はい」人が動く。
 ややあって誰かが入ってくる気配。
「×××!」おかあさんの声だ。アタシを呼んでいる。
「おかあさん」アタシ?の声。
「手を貸してさしあげて」
「×××!×××!よかった!」おかあさん。泣いているの?
「どうしたの?おかあさん。何が起こったの?」アタシ?の声。だけどそれを聞きたいのはアタシの方。
「事情を説明しよう。動力炉の暴走事故でね。君は大量の放射線を浴びてしまったんだ。記憶に有るかね?」
「はい、確かアタシはオイローパ号でオべリスへ向かっていて・・・途中でトラブルがあって・・・そうしたら急に世界が真っ白になって・・・」アタシ?の声。確かにアタシはオイローパ号でオべリスへ向かっていた。そして真っ白になって・・・。
「その通り。その時に君は放射線を浴びたんだ。記憶は上手く定着しているようだね」二番目の声。
「おかあさん。お嬢さんは暫くは入院して精密な観察とリハビリが必要です。このまま特別病棟へ運びます」最初の声。
「よろしくお願いします」おかあさんの声。
 もう1人のアタシ?が運び出される気配。キャスターの音。
 アタシは?アタシは朦朧とする意識の中で訴えたが、やはり体はどこも動かない。
「あの・・・先生、こっちの×××はどうなるのでしょうか?」おかあさんの声が不安げに尋ねる。こっちのって、アタシのこと?
「残念ですが、こちらの体はもう使えません。致死量を遙かに超える放射線を浴びてしまいましたからね。スキャンのために生体レベルは最低限維持されていましたがそれももう限界です。規定によって冷凍状態で保存されます」おかあさんは二番目の声の主を先生と呼んだ。この人お医者さん?
「そうですか」それだけなの?おかあさん。
「お嬢さんの医療記録を見せていただきましたが、卵子も規定量を保存されていますね」
「ええ、そのはずです」うん、ちゃんと規則通り保存したよ。
「だったら安心ですよ。あの体で問題になるのは生殖機能だけです。お嬢さんは何の不自由も無くこの先の人生を送ることができますよ。処理が間に合ってよかった」何が間に合ったの?
「ありがとうございます」ありがとうって?
「さ、お嬢さんのところへ」おかあさんと先生は部屋を出て行ったようだ。
 辺りが暗くなっていく。こういう状態を意識レベルが下がると言うんだろうか。不安でいっぱいになっていた心は諦めで満たされていく。さっき目覚めたアタシは、本当にアタシなの?もしあれが本当のアタシなら、このアタシはいったい誰?ずっとアタシはアタシのつもりでいたのに・・・。
 ますます暗くなってきた。
 もうくたくた・・・。
 そろそろお終いにしようか。
 アタシは頑張ったよ!
 だからもういいでしょ?
 

2016.09.30
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

悲しいお話ですね 
こんばんは。

科学技術が進んで、こういうことが本当に可能になるのかもしれません。
そうなった時に「私」とは何なんだろうと問いかけなくてはならなくなるんですね。
「間に合ってよかった」というセリフを耳にしながら、最後まで大切な人にも看取ってもらえずに取り残されていく「アタシ」。
こういう最後は迎えたくないなあ……。

そして、名前がないのは、ちょうどこの「私の存在とは何なのか」に呼応しているようにも感じられます。たぶん付けない方が印象的だと思います。

とてもサキさんらしい心に残る作品でした。
夕さん 
サキにとってはずっと気になっていたことのようで、それをSSに仕上げてみたようです。
本当にこのようなことが出来るようになったら、こういうことにならないように処理されると思いますが、実際どうなんでしょうね。私にも「意識」のことはよくわかりません。
名前の件、私もそのように思います。キャラには悪いのですが、名前の無いままということで。
そしてサキからクレームです。
エンディングに「おかあさん・・・」という一文があったのですが、そんな物は書いた覚えがないから消すようにとのことです。
ちゃんとサキからもらったテキストには書いてあったんですが、覚えがないの一点張りで、俺は入れてないぞ・・・と言っても聞きません。
と言うことで削除してしまいました。
変にこだわりますね。ちょっと面白い反応です。夕さんはどう思いますか?

コメントありがとうございました。
再登場 
こんばんは。

本当だ。「おかあさん・・・」がなくなっている。
ない方がスタイリッシュですが、あった方がよりズキンと来る印象的なエンディングだったかなあ。こういうのって難しいですね。
私だったらどうするだろう。付けたり消したり繰り返しながら悩むかな。

他の方は、どうお思いになるんでしょうね。
夕さん 
再度コメントすみません。

確かにズキッと度は下がると思います。
でもサキはそうしたいから削ったはずだと言うんです。
すこしエンディングを軽くしたかったみたいですね。

あ、私のコメントを読み返したら尋ねる形になってますね。
気になったのでつい夕さんに尋ねてしまったようです。気を付けます。
お忙しい中ご意見ありがとうございました。
うむむ~ 
執筆、お疲れ様でした。

今回は、ちょっと意表を突かれました。
そっか、そういう可能性もあるのか。
こういう場合、オリジナルの方は「消える」という先入観に縛られていましたので、目から鱗って感じでした。
卵子を保存していたり、母親の反応から察すると、この世界ではこういうことは一般的に行われている確立した技術みたいですね。そうすると、アタシのような存在もいっぱいいるのかな。想像すると、ちょっとぞっとします。
ほんとうに「自分」ってなんだろう、ってなりますね。

ラスト、私が読ませていただいたときには、すでに「おかあさん」という記述はなかったのですが、個人的な好みを言わせていただくと、今の方がいいように感じます。
「アタシ」にしてみれば、「もういいよね」と語り掛けるべき相手は、もはや「アタシ」しかいないように思いますので。
TOM-Fさん 
ああ、こういう話題が出るたびに、サキは残された意識について随分気にしていましたので、それが今回の物語に繋がったんだと思います。
物語の世界設定はTOMーFさんのおっしゃる通りなんですが、こういう技術が開発される段階で大きな問題になってきそうな気がします。
永遠の生命にも繋がる技術ですが、コピーを繰り返すとシナプス経路が定着しなくなったりするかもしれませんね。それが寿命だとか・・・。
サキはこういう方面に妙にこだわります。

ラスト、やっぱりこの一文をカットしたのは、ドライでクールにしたかったんじゃないでしょうか。変更によって湿度が下がったように思いますから。
サキも書いては消してを繰り返して、最後にうっかり消し忘れたんだろうと思います。
そして、語りかける相手は「アタシ」しかいない・・・確かにそうとも考えられますね。
ご意見ありがとうございました。
 
そういやアンパンマンの「捨てられた顔」に意識は残っているとするとどうなるか、ってマンガをツイッターで読んだなあ……。

ふと思い出したであります。
ポール・ブリッツさん 
どうなるんですか?
静かに腐っていくとか・・・
サキはそっちの方もすごく気になります。

コメント、ありがとうございました。
 
たしかマンガのオチでは、落ちた頭は証拠隠滅のためにチーズが食べにくる、だったと記憶しております。そして今日もばいきんまんの攻撃の前に古い頭が捨てられて……(^^;)
ポール・ブリッツさん 
チーズがですか。
証拠隠滅が必要なのかどうか、よくわかりませんが、
捨てられた頭とチーズの多分無言の会話、感じてみたいと思います。

おはようございます(^^) 
あ、サキさんが復活している! ちょっとうれしいので、コメに来ました。あ、いえ、もちろん先さんのコメント・お返事もとってもうれしいのですけれど!
こちらのショートショートはちょっと唸りましたよ。というのか、
時々、誰々の脳が保存されている(アインシュタイン、でしたっけ)というのを聞くと、DNAだけで再合成可能になったらコピー人間が作られて、なんてSF的なこと、想像しちゃうことは誰にでもあると思うのですけれど、それをこうしてするんとお話にまとめちゃうサキさんがすごいです。小説って発想だけでは全然ダメで、こうして形になって初めて意味があるんですよね。サキさんの興味とそれを書こうと(あるいは、書かざるを得ないと)いう気持ちがちゃんと形になるのが、読み手としても楽しいです。
自分を自分だと決めているものって、なんでしょうね。少なくともDNAではなさそうだ。双子だって、胎児エコーで見るとお腹の中では戦争?蹴り合ってたりしますしね。

ポールさんとのやりとりがかなり興味津々でした。そうか、チーズ、確かによく新しい頭を届けに来てるなぁ~あれは事後処理も兼ねていたのか。バイキンマンのえさにもなるかもなぁ。意外に助け合っているかもしれないし。
今回も楽しませていただきました。
彩洋さん 
う~ん。こういうことができるようになったら、こんな事態が発生するんじゃないかと、サキは心配していました。
ちょっと気分転換に短めのSSを挙げておきたくなって、結構短い時間で書き上げた作品なんですが、救いがないし、暗いし、皆さんひきまくるだろうなぁと思っていました。ですからコメントをいただけて嬉しいです。
アインシュタイン博士が再生出来るとは思いませんが、人間の複製自体は可能性が有るんじゃ無いかと考えています。つまりこれが出来ると永遠の生命を手に入れることが可能になるって事なんですけれど・・・。
でも複製ですから、それを複製されたコピー元はどうなるの?まだ意識が残っているかも知れないのに、と思ってしまったらもう思考がグルグルしてしまって、それがこのSSに出てきています。
楽しんでいただけたのなら嬉しいです。

アンパンマンの件、思っていたよりずっとシリアスで面白かったです。
チーズが食べてるのかぁ。

 
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