Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

絵夢の素敵な日常・カーテンコール・ミク

 拍手が鳴りやまない。
 ほとんどの観客が立ち上がっている。スタンディングオベーションだ。
 カーテンコールは5回目になった。
 歓声と声援が頭の中にこだまする。沸き立つような興奮が感動になり、自分が自然と笑顔になるのがわかる。最高の瞬間だ。だがこんなことが自分の身に起こるなんてとても信じられない。ミクは舞い上がる自分とは別に、冷静に見届けようとするもう1人の自分の存在を感じていた。もっともこの冷静な人格は今のところ、自分自身の体を操ることはできないようだ。

 舞台の中央に立っていたミクは頭を深く下げた。拍手はいっそう大きくなる。ミクは頭を上げる一瞬の隙をついてジョゼの姿を探そうとした。だが照明の関係で客席は暗くてよく見えない。カーテンコールの間なら少しは探すことができると思っていたが、この興奮の中ではやはり無理だ。楽屋でゆっくり話をしよう・・・ミクは気持ちを切り替えた。
 オーケストラピットにスポットライトが当たり指揮者が紹介される。そして紹介のアナウンスと共に、スーツ姿の男がやや遠慮がちに舞台に現れた。このオペラの演出家、ハンス・ガイテルだ。ここまで4回行われたカーテンコールでは舞台に立たなかったのだが、5回目にして初めての登場だ。大波のように盛り上がる拍手の中、舞台中央に立っているミクに近づいてくる。彼はそのままミクをしっかりと抱きしめ両頬に唇を触れさせた。ミクは驚いたが、興奮がすべての感情を上書きし、まるで夢の中の出来事のようだ。浮遊感の中でミクはハンスの背中に手を回し抱擁を返す。どよめきが湧き起こる。2人並んで手を繋いで正面に向き直り優雅に頭を下げると、更なる歓声と拍手が2人を包み込む。ミクは達成感に我を忘れた。
 観客席の照明が点いた瞬間、ジョゼの顔が見えた様な気がしたが、すぐに焦点が外れ見失った。
 居並んだキャスト全員と共に笑顔でお辞儀をするとカーテンコールの幕は閉じた。

 ガイテルは本当に嬉しそうだった。カーテンコールが終わってからもずっと喋りづめだ。話はどんどん膨らんで、次の公演のプログラムにまでおよんでいく。幾つかの候補を挙げられて意見を求められたが、今の舞台の興奮も冷めやらないミクには無理な相談だった。
「ごめんなさい・・・今はちょっとそこまで考えられない」ミクはガイテルを見上げながら困惑した表情をした。
「そうだね。すまない。僕がちょっと先走り過ぎた。次々とアイデアが浮かんでくるんでね。また日を改めるよ」ガイテルはもう一度ミクを抱きしめようとしたが、その瞬間ミクがわずかに距離を開けた事に気が付くと笑顔を見せ、右手を軽く上げてから自分の部屋の方へ歩き去った。ミクはガイテルに向かって暫くの間頭を下げていたが、やがて楽屋に与えられた自分の部屋に向かった。
 ミクは部屋に入るとソファーの上に身を投げ出した。まだ心臓がドキドキしている。天井に顔を向けて両腕を目の上に重ね、視野を暗くして大きく息を吐き出す。興奮が治まらない。体が火照っている。こんなにハイになるんだ・・・ミクは自分の中に秘められた情熱に驚いていた。
 流れる時間に身をまかせて上を向いていると、やがて冷静な自分が体の中へ降りてくる。そしてその自分が徐々に体を操れるようになっていく。ミクの興奮は少しずつ治まり始めていた。

 コンコン・・・ドアがノックされた。廊下は騒がしいから聞こえ辛かったが確かにノックの音だ。
 ミクはソファーから飛び起き、「ジョゼ?」ドアに向かって声をかけた。
「私です。絵夢です」ドアの外から声がする。
「絵夢!?」ミクは飛び上がるようにソファーから起き上がるとドアを開けた。
「ミク!」ドアを開けたとたん絵夢が飛び込んできた。そしてそのままミクを抱きしめると「素敵だったよ」と言った。
「ありがとう」ミクも絵夢の体に手を回して答えた。
 絵夢は暫くの間ミクの存在を確認するように抱擁を続けてから、両肩に手を置いて体を離した。
「待ちきれなくて来ちゃった」絵夢はミクの目をじっと見つめて微笑んだ。
「この公演には来れないって・・・」ミクは驚きを隠せない。
「だから、待ちきれなくって無理やりスケジュール変更をねじ込んだの。黒磯と山本には怒られたけどいつもの事ね。なんとかしてくれたわ」
「そんな・・・」また無理をさせてしまった?ミクの言葉は続かない。
「大丈夫、ちゃんと穴埋めはできるから。心配しなくていい」絵夢は視線を強くしてミクの顔を覗きこんだ。「そんなことより喉の調子はどう?」
「大丈夫、調子はとてもいいの。気を使わずに歌えるのが、こんなに素晴らしい事だなんて、いままで思いもしなかった」
「よかった」絵夢は顔を緩めた。「歌声にもそれが表れていたわ。あなたはとても素敵だった。歌も演技もとても輝いていた」
「絵夢のおかげだよ」
「ううん。そんなことはない。あなたの実力よ。私はちょっと手伝っただけ」
「でも、絵夢に助けてもらわなかったら・・・」
「そんなことを考えなくていい。私はあなたが活躍出来てとても嬉しい。こんなこと言ったらなんだけど、あなたは私が想像していたよりずっと豊かな才能を持っている。だからあなたの復活を手伝うことが出来てよかった。本当にそう思ってる。それにこれは私の仕事でもあるの。だからそんなこと、考えなくていい」
「でも・・・」
「考えなくていいの!」絵夢の視線はいっそう強くなった。
「うん・・・」ミクは不承不承返事をした。
 それを感じたのか絵夢はもう一度ミクをしっかりと抱きしめた。
「来てくれてありがとう」ミクは絵夢の耳元で言った。
「どういたしまして」絵夢は優しく答えてから急に話題を変えた。「さっき、ジョゼって言ったわよね?」
「・・・」ミクの顔は少し赤くなる。
「公演に招待したの?」
「うん。今日の舞台を見せたの。舞台がはねたらここを尋ねてくることになってるんだけど」
「だけど?」絵夢はミクの顔を覗きこんだ。
「まだやってこない」ミクは仕方が無いという風に答えた。
「そう」絵夢は少しの間思案するように間を開けた。
「どうしたの?」ミクは心配になって聞いた。
「ということは、私はお邪魔ってわけね」
「そんな、邪魔だなんて」
「でもそろそろ退散するわ。ミクの舞台はたっぷり見せてもらったし、こうして話もできたから少し安心できた。それに、実は今日は無理を言ったからそんなに時間が無いの。会えて嬉しかった。次の公演を楽しみにしているわね」
「もう帰るの?」
「ええ、あらためて時間を作ります。その時にゆっくり話しましょう。ジョゼと2人でどんな話をしたのかもね」
「・・・」ミクの顔はまたいっそう赤くなった。
「でもねミク。ジョゼとはちゃんと話をしなくちゃだめよ。黙っていては何も通じない。だってあなたたちは女と男なんだから。探し物はじっとしていても出てこないのよ。わかった?」絵夢はミクがちゃんと頷くのを見届けると慌ただしく部屋を出た。廊下では女性が待っていて(たしかこの間紹介された時、香澄と名乗ったはずだ)こちらに向かって笑顔で挨拶をした。
「じゃあまたね」絵夢が片手をあげた。
「ありがとう」ミクも片手をあげて応じる。
 絵夢は何度か振り返りながら帰って行った。
 ミクは手を振ってその様子を見送っていたが、記者たちが廊下に入ってこようとしているのを見てドアを閉じた。

 ドアの外が騒がしい。きっと廊下では記者たちが待機しているのだろう。さっきスタッフがやって来て、記者たちが話を聞きたがっているから何かコメントをと言われたのだが、今は話したくないと返事をした。なんとかなだめてくれているようだが廊下の喧騒は収まりそうにない。
 ジョゼはまだやってこない。
 スタッフには話してあるから中へは入れるはずだが、入りにくいのかな?ミクはポシェットから携帯を取り出し、通話アプリを起動した。
 呼び出し音が鳴り続ける。ミクは20を数えたところで呼び出しをやめた。
 少し待ってリダイアルする。今度は電源が切られている旨を告げるメッセージが流れる。
 ミクはまたソファーに身を投げ出すと、不安げに天井を見上げた。


 ***

2016.08.05
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

え~っ・・・ 
更新、お疲れ様でした。

あのお話のミク・サイドなんですね。エンディングが切ないですねえ。
カーテンコールのステージから、観客席のジョゼを見つけるのは、さすがに難しいですよね。ほらほら、ミクはやっぱり待ってたんじゃん。ジョゼ、気にしないで行けばいいのに。
と言っても、こういう展開だからこそ、読者としてはヤキモキさせられて面白いんですけどね(笑)
ミクと絵夢の再会、感動的でした。そっか、絵夢は時間をねん出してきてくれたんだ。いい子だなぁ。

で、まさか、ここで「おしまい」じゃないですよね。このあとのお話、あるんですよね?
このままじゃ、気になってしかたないので、ぜひ続きをお願いしますね。
あ〜っ 
こんにちは。

後半だ、いよいよ! と思いきや(笑)
絵夢が飛んできてくれたけれど、今はそれどころじゃないか。
復活したミクは、誰よりもジョゼに聴いてもらいたかったし、楽屋にも一番彼に来てもらいたかったのですね。ううむ、彼は逃げちゃいましたけれど、ちゃんとアパートに行くんだろうか。もしかして、アパートの場所は知らないとか?

絵夢は大人だなあ。歳上というだけでなく、いろいろな経験や人との付き合いがそうさせているのでしょうね。あ、世界も繋がったし、いずれカルロスとも会ってくれると嬉しいなあ。あ、香澄も来ている。けっこう役者が揃っています。黒磯と山本は日本でしょうか。

で、TOM-Fさんじゃないけれど、この後、ちゃんとあるんですよね? 結末まで書いてくださるのを激しく希望してお待ちしています!
TOM-Fさん 
はい、ミクサイドで書いてみました。
物語は進んでいませんが、2人の気持ちの動きが少しでも書ければと思いました。
エンディングは切ない感じになってますか?まぁミクはそんな気持ちなんですかね。
ジョゼは煮え切らないし、歳の差は感じるし、どう思ってるんだろう?せっかく思い切って行動したのに・・・って感じかな。
絵夢のアドバイスはミクにとのような影響を与えるの?
え?この後のお話しをご所望ですか?
困ったなぁ。

コメントありがとうございました。
夕さん 
すみません。後半ではなくてまた最初から繰り返してしまいました。
そして話自体はまったく進んでいません。少しはやきもきしていただけましたでしょうか?
でもミクは絵夢が来てくれたことはとても嬉しかったと思うんです。
ちゃんと評価してもらって安心したと思います。絵夢の評価が一番気になっていたんでしょうから。
そして絵夢のアドバイスはミクにどのような影響を与えるのでしょう?気になるところです。けれど、ミクにとってもっとも気になることが解決しないんですよね。本当はここで夕さんにバトンタッチしたいところですよ。
サキがこの物語を展開するのはなかなか難しいです。
え?夕さんもこの先をご所望?
どうしよう。

あ、ジョゼ、ミクのアパートは知らないのかも・・・。
コメントありがとうございました。
まだ先は長そう^^ 
ミクの公演は大成功で、これからのミクの女優・歌手としての幅もどんどん広がりそうですね。
でも、もしかしたら今のジョゼには、それも不安要素なのかな・・・。
なんか、ミクが遠くに行っちゃうような、そんな気がするんでしょうね。
ミクがそれに気づいて、フォローしてあげたらきっとうまく行くんだけど。
若い二人の淡くてピュアな恋。この先も気になりますね^^
ぜひまたこの続きを!
limeさん 
こんばんは~。
おっしゃるとおり公演は大成功です。そしてそうですね。ジョゼにとってこの大成功とあの輝きすぎるミクが新たな不安要素になったと思います。
ミクはただただ自分の回復をジョゼに見てもらいたかったのですが、この観客の反応は予想外で、それゆえジョゼの反応も予想外だったと思います。
ジョゼは自分は弟キャラなんじゃないかと思うし、ミクはなかなか姉貴の立場から変わることができないし・・・。
ミクのフォロー、あるのかなぁ?

コメントありがとうございました。

 
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