Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

166 (254シリーズ番外)

 アオイはコインパーキングに車を止めると国道の方に向かって歩き始めた。
 雨の季節はまだ終わっていないというのに太陽は激しく照り付け、いっそう不快指数を上昇させている。『バイクだったら地獄だわ』アオイは自動車のクーラーにほんの少し感謝した。
 アオイは仕事での移動にはほとんど自動車を使う。今日も仕事の合間にちょっとだけそこに立ち寄るつもりだった。
 国道に突き当たり角を左に曲がると「バイクショップ・コンステレーション」と手書きで書かれた大きなベニヤ板の看板が見えてくる。二階建ての古い建物の一階部分にあるその店は、看板を掲げた以外は何の装飾も無く、店の前にはMOTOAERO254という中型のバイクと、DEZMO720ダッシュ5という大型のバイクが、真っ赤なボディーを仲良く並べて止まっているだけだ。
『居るわね』アオイは2台のバイクの間を通って店内に入った。
 店内は倉庫のような内装のままの店内に大型バイクばかりを並べた一風変わった作りだ。オイルの臭いを嗅ぎながら店の一番奥に向かうと、そこには大きなテーブルが置かれている。テーブルに人影を認めたアオイは「こんにちわ~」と声をかけた。
 人影は動かない。アオイはもう一度「こんにちわ~」と声を出した。
 人影はこちらを向いているが、視線はラップトップパソコンを覗き込んでいる。そして耳にはイヤホンが差し込まれている。
 ふ・・・軽くため息をついてアオイはその人影の横に立った。耳の傍に口を近づけて「用心が悪いわよ。コトリ」と声を張る。
 コトリは顔を上げ「あっ」と声を上げた。そして慌ててイヤホンを外し「スギウラ先生!いらしてたんですか」と言った。
 アオイはコトリの顔を見て驚いた。「どうしたの?」目が泣き腫らして赤くなっているうえに涙の痕まである。
「あ、なんでもないんです」コトリは慌てて両目を拭った。
「何があったの?そんなになっちゃって。良かったら聞かせてくれない?まさかヤキダマが原因?」
「違います。違います」2回も不定するところが怪しい、アオイは職業柄そういうところに変にこだわる。
「本当に違うんです。スギウラ先生。説明しますから」コトリは懇願するような眼つきをした。
「わかった。話は聞かせてもらうわ。でも、その前に“先生”はやめて。約束でしょう?」
「あ、すみません。スギウラさん」
「アオイって呼びなさい」この際そう呼ばせてしまおう。アオイは威圧的に言った。
「はい・・・アオイさん」コトリが戸惑いながらそう言うとアオイはようやく笑顔を見せた。
「それでいいわ。じゃぁ、説明を聞かせてもらおうかしら」
「これを見ていたんです」コトリはラップトップの画面をアオイの方に向けた。
「なにこれ?テレビの番組?」アオイはコトリの隣に腰掛けた。
「ええ、ずっと前にハイビジョンで放送された番組のオンデマンドなんですけれど」
「へぇ、バイクの番組?」
「そうなんです。166というレーサーを観客の面前で1つ1つ分解していく趣向なんです」
「おもしろいわね」
「でしょう!特にこのバイク、250ccで6気筒なんです。50年以上前に彗星のように登場して、世界GPで10戦全勝した伝説のレーサーです」コトリの声は勢いを取り戻した。
「6気筒!あなたの254は、たしか231ccで市販では世界最小の4気筒エンジンだったわね、28馬力10500回転だったかしら」
「ええ、この166は世界最小の6気筒エンジンで、18000回転で60馬力以上あります。4連キャブでも大変だったのに6連キャブって、そんなのまるで精密時計ですよ。キャブの同調や点火のタイミングや、性能を維持するだけでも大変だったろうと思います」
「うん、確かに凄いけど、この番組がどうしたって言うの?」
「ああ、それはここです」コトリはジャックからイヤホンを引っこ抜きマウスを操作した。「行きますよ」
 番組なかではゲストがエンジンをかけてほしいと促している。メカニックが数秒間でしたら・・・と応じる。
 スターターが繋がれエンジンが始動した瞬間、乾いた爆音がスタジオをゆるがせ、ゲスト達が驚いている様子が映し出される。耳に手を当てているゲストもいる。全員が放心したように166を見つめる。何回かアクセルが煽られ、レブメーターの針は16000から18000辺りでダンスを踊る。そしてイグニッションオフ。
 エンジンは停止した。
「・・・」アオイはコトリの方を見た。
『でしょ?』そう語りかけるコトリの目にはまた光るものがある。
「すごい、たしかに・・・」アオイが小さな声で言った。
 コトリはまた目元を拭った。

 
2016.07.12


追記:
コトリがオンデマンドで見ていた番組はこれです。

https://youtu.be/S7Eh8stZsf8



2時間近くある長い番組ですので、興味ある方以外には退屈なだけかもしれません。でも艶やかなエンジン内部、光るカムシャフト、小さなピストン、6連キャブ、連なるギア、怖ろしいほど美しかったです。ガソリンタンクの赤い塗装や6本マフラーの曲線も美しいです。メカに弱いアナウンサーのハチャメチャコメントも楽しいですよ(きっとわざわざそういう人を当てています)。
エンジンをかけるシーンは10分50秒あたりからです。
ほんと、あの音はたまりません。速さだけを求めた結果出てきた純粋な音だと思います。ま、このバイク全体がそうなんでしょうけど・・・。
関連記事
スポンサーサイト

 
 

Comments

ひえ〜 
こんばんは。

今年はこの名前が流行っている?(笑)
そうかスギウラ先生。
私にちなんで付けたわけではではないだろうけれど、素敵な方と同じ名前になれて嬉しいです。

それにしてもコトリらしいなあ、これみて泣いちゃうんですね。
どこをどう振っても私からは出てこない展開だわ……。
おそらく五分でチャンネル変えてしまうかも。
(そしてきっと連れ合いがチャンネル権を奪い返す?)

コンステレーション、経営も順調のようですね。
ヤキダマは、濡れ衣をかけられそうになりましたが、どうしているのでしょうか。
親父さんも含めて、また254の世界にどっぷり浸りたいなあ。

久しぶりのコトリに会えて嬉しかったです。
夕さん 
こんばんは。
アオイという名前、どうも流行っているようですね。響きが良いので使ってみたかったのですよ。
スギウラアオイ・・・ほら!なんか良い感じでしょ?

え?夕さん5分でチャンネルチェンジですか?せめて15分は持って欲しいなぁ。
サキは連れ合いさんに1票、ちゃんと2時間近くじっくりと見てしまいました。
面白いと思うんですけれど・・・。でもかなり変わっているのかも。それは自覚しています。
涙までは出ませんでしたけど、コトリだったらきっと・・・ですね。

そしてそうですね、コンステレーションを舞台にまたみんな登場させてみたいですね。
今回はSSでしたけど、掌編ぐらい書いてみたくなりました。
また機会がありましたらということで。
コメントありがとうございました。

 
こんばんは。

あははっ、アオイさん発見。
良い名前ですよね。

コトリシリーズは、私はまだ本編のほうを読めていなかったのですが、番外編だし、と思って。

それにしても、この番組はすごいですね。二時間も!
私もすぐチャンネル変えちゃうなぁ……。
けど、エンジン音は素敵でした。
路上で聞くときはうるさくて仕方がないのに、こうして聞くと格好良かったです。

コトリのお話はバイクのお話しなのですね。(そこから)
やっぱり本編も読もう!
スカイさん 
スカイさんに刺激されたのでしょうか、アオイさんを登場させてしまいました。
いかがでしたでしょうか?
でもこのお話、番外ですけれどかなり意味不明だと思うんですよ。
本編、読んでいただけるなら嬉しいのですが・・・。

あれ?スカイさんもこの番組は駄目ですか?
サキはわくわくして見てしまうんですけれど・・・。やっぱりサキは少し変なのかな?コトリほどではないですが見入ってしまいました。

エンジン音は、そうですね。凄いとおもいますが、格好良さなどを狙った物ではなくて、純粋に出力を上げようとした結果そうなっただけなんですね。
そういうところにエネルギーを感じて、とりあえず感動してしまうんだと思います。

コメントありがとうございました。

ホンダ・ミュージック! 
更新、お疲れ様です。

あらら、そんなビデオにうるうるしているとは、いかにもコトリらしいですね。
ニーハンの六発! トルク、なさそう(爆)でも、バイクなら、それもアリか。

エンジン音、聞きました。さすがのホンダ・ミュージックですね。
ヴァイオリンの音色を思わせるF1用のV12もすごかったけど、これもなかなか。あのレブカウンターの動きとか、レーシングエンジンだなぁ。

ホンダのエンジンは、市販車用のものでも「回してナンボ」って感じでしたからね。私が一時期乗っていたクルマのエンジンH22Aは、 VTEC機構付DOHCで、最高出力は7200rpmで出ました。5500rpmを超えて高回転カムに切り替わったあとの、官能的なエンジン音と吹き上がり、そしてあの爽快な加速感は異次元のものでした……。
って、なんか、私もすっかりコトリ化してしまいました(笑)
TOM-Fさん 
まぁ、コトリとサキはちょっと変わっていますから・・・。特にコトリの思い入れは半端でないんです。あの音でジーンとしてしまうくらいですから。
あ、トルクは結構あって運転しやすいそうですよ。どこかにそんなコメントがのっていました。サキは信じませんけれど・・・。
でも、あの精密なエンジンはやっぱり凄いです。コトリだったらその性能を維持することが出来ると思います。RC166、コンステレーションに持ち込んだら、全てをバラバラにしてから綺麗に磨いて、一から組上げそうです。6連キャブなんか嬉々として調整しそうです。

H22Aですか?サキは知りませんでしたが、先は何だか頷いてます。
やっぱりTOM-Fさんはこだわり派ですね。その熱くなり方、コトリに負けませんよ。

 
<- 10 2017 ->
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
イラストをクリックすると記事に飛びます。よろしければご覧くださいネ!
スカイさんシスカイメージ
スカイさんのシスカイメージ
シスカ・イメージ高橋月子さん作
シスカ・イメージ 高橋月子さん作
シスカ・イメージlimeさん作
シスカ・イメージ limeさん作 コトリ・イメージユズキさん作
コトリ(コンステレーションにて)ユズキさん作
リンク
ブロとも申請フォーム

Archive RSS Login