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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

---22---

 *

 その音が携帯電話の呼び出し音だと認識するまでずいぶんかかった。
 クラモチは寝床から手だけ出すと携帯電話をわし掴みにし通話ボタンを押した。
「はい?」声はまだガラガラだ。
「コバヤシです。すぐテレビを点けてください。BS3です」
「コバヤシか?」うめきながらチラッと時計を見ると午前7時を少し回ったところだ。
「とにかく早く点けてください」冷静にせかされてリモコンのBS3を押した。
 テレビではアナウンサーがニュースを読み上げていた。
『今朝早くキタカタ州マサゴ市の東海岸に、大量の油が流れ着いているのが発見されました。この大量の油は海流から見てベクレラ連邦から国境を越えて流れ着いたものと思われます』
 クラモチの頭は急速に覚醒した。
「なんだこれは。事故か?テロか?どこから漏れている?」テレビに向かってわめいたつもりだったが、携帯電話の向こうからさらに冷静な答えが返ってきた。
「現在調査中です。テレビ局でも今放送してる以上には状況はわかっていません。マサゴ市や州政府も調査中を繰り返すばかりです。ただ……」
「ただ、なんだ」
「ベクレラのオルガ市にあるサルベージ会社に友人が居るんですが、それに連絡を取って訊いてみるとどうもリグで事故をやらかしたみたいですね」
「ガス田か。ベクレラ政府はどうしてる?向こうのマスコミは?」
「だんまりを決め込んでますね。向こうの衛星放送は朝のバラエティー番組でのんきに芸能スキャンダルをやってます。シンキョウの官邸にいる友人にも問い合わせていますので追って何か言ってくると思います。中央政府としても何らかのアクションを起こさなければなりませんから」
「そんなところにも友達がいるのか」クラモチはあきれたように言った。
「何か分かったらまた電話します。私はオフィスにおりますので、こちらに出勤されますか?」
「そうだなここでは情報が限られるからオフィスに出よう。2時間後だ。連絡は携帯でくれ」
「了解です。イシダにも連絡を入れて呼び出します」
「頼む」クラモチは短く答えると携帯電話を切ってテレビを見ながら身支度にかかったが、ふと気がついてつぶやいた「コバヤシ、なぜオフィスにいるんだ?」

 クラモチはライトレールを待ちながら、小さなホームに設けられた待合室の中で足踏みしていた。濁った灰色の空はここのところ毎日で、雪も波状攻撃のように降っていた。軽くお尻を乗せられるだけの簡易ベンチを囲む小さな待合室は風よけにはなったが、寒さは防ぎきれなかった。
 この島は大陸とは狭い海峡を挟んで対峙しているだけなので雪はあまり多く降らない。その代わり寒気をたっぷり持った季節風が吹き抜けることが多い。
 クラモチはやっと来た電車に乗り込むと暖房のきいた車内で大きく体をゆすり防寒着の中の空気を入れ替えた。そのまま暖かい車内でウトウトしていると電車は港の突堤のすぐそばにある終点の一つ手前の停留所に到着した。
 オフィスはすぐ前だ。ビルに飛び込んでエレベーターで6階まで上がると勢いよくオフィスのドアを開けた。中ではコバヤシとイシダが机に向かって腰掛け、電話をかけていた。
 コバヤシが電話を終えてこっちを向いたのでクラモチは「どうなってる?」と声をかけた。
「少しづつ状況がわかってきました。やはりリグでやらかしたみたいですね。」コバヤシがまじめに結論だけを述べた。
「で、途中経過は?」クラモチが促すと、報告が始まった。
「事故が発生したのはガス試掘井のオルガⅢです。位置はここです」と正面の大型モニターに地図を表示した。
「この試掘井で試掘が終了して、ライザーの中を泥水から海水に置き換える作業を終えてBOPの上部の解放作業中にガスキックが起こって、井戸からライザーあるいはドリルパイプを通って海水が吹き上げたようです。それを止めるべく対応をしていたようですが、その作業中に吹き上げたガスに引火、爆発、炎上、リグに乗り込んでいた126名のうち、11名が行方不明になったとのことです」
「引火原因は現在のところ不明ですが、リグはそのまま破壊されて沈没、ちぎれたライザー、あるいはドリルパイプを通って油が流出中というところです」コバヤシは続けて被害状況の説明を加えてから報告を終えた。
「情報の出所はどこだ」クラモチは確認した。
「ベクレラのオルガ市にあるサルベージ会社の友人です。何人かいるんですが、この詳しいバージョンはその会社の社長からです。何より事故現場から命からがら脱出してきた本人ですので、かなり信憑性は高いと思います」
「だったら間違いないだろう?」
「何事も100%はありませんので」コバヤシは冷静に答えた。
「お前もベクル語をしゃべるのか?」クラモチはヨウコの件を思い出していた。
「いえ挨拶程度しか。彼らとはグロー語で会話しますので」コバヤシは不本意そうに答えた。
「イルマ政府のアクションは?」
「官邸の得ている情報も我々と大差ありません。すでに大使館を通じて問い合わせを行っていて、正確な情報の即時開示を求めています。正式な抗議の準備も始めているようです。それから油の処理作業は準備が整い次第開始されるようです。軍と民間企業が数社、依頼を受けて動き始めています。珍しく今回は対応が早いですね」
「軍が動いているのか?」
「事件が事件ですからベクレラに文句は言わせないつもりのようです」
「官邸の友人からの情報だな?」
「そうです。首相の側近とはいきませんが、かなり…近しい人物ですのであまり間違った情報はまわってこないはずです」コバヤシは”かなり近しい”の部分で一瞬微妙な表情をした。
「そうか。こちらにお鉢が回ってこなければいいがな」クラモチは眉間にしわを寄せて大型モニターを見つめた。クラモチの長い一日が始まった。


(2014/08/09 更新)
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

こんばんは(^^) 
山西さん
こんばんは(^^)
も寒い一日でしたね。

初詣に行くのってワクワクしますね。
シスカ22話読ませて頂きました。
すっごく今後が気になるんですが……。

短編、ぜひぜひ
期待いたしております(^^)
本年もどうぞよろしくお願いいたします(^^)
高橋さん 
こんばんわ。
お読みいただいてありがとうございます。
次の23話はアツコの話の予定です。
よろしければまたお付き合いください。

短編がんばります!できるかな?心配です。
先に書いてしまったら逃げれませんよね?



 
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