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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

物書きエスの気まぐれプロット(20)

無事に旅行から戻っています。
お出かけ報告の記事の中で触れていました報告記事ですが、ありきたりの旅行記では書いていても面白くないので、エスに登場願いました。
サキは山奥の温泉でのんびりして観光もしてきました。楽しかったです。

物書きエスの気まぐれプロット(20)

「ふう~」エスは大きく息を吐き出した。そして湯船のふちに頭を乗せて両手を上に上げると、「う~ん」と思い切り伸びをした。湯船に体がふわりと浮いた。露天風呂には誰もいない。エスの体にはあまり他人には見せたくない傷跡が残っているので、こういう状況はとてもありがたかった。誰に気兼ねするでもなく、自分のままに振舞うことができる。
 露天風呂は単純な長方形で、5人ぐらいが間隔を開けてゆったりと並んで入れる大きさだ。湯船の向こうは大きな窓のような開口部が開いていて、お湯に浸かると沢の向こうにある山の木々の連なりとその上の空が見える。風景は建築のセオリー通り、大きな窓枠に切り取られ、まるで額縁に入れられた絵画のようだ。
 午後5時30分、夕闇が迫り、木々の緑色と夕闇色との区別がつけにくくなってきた。さっきまで降っていた雨のせいだろうか、木々の間を山の斜面に沿って霞がゆっくりと登ってゆく。雨を集めた沢の音が響いてくる。他には何も聞こえない。空は残照だけがかろうじて絵画の余白部分の役割を務めていたが、その白さも徐々に弱まってゆく。ゆっくりとゆっくりと夕闇が迫っている。
 エスは長い間動かないでその光景を見ていたが、やがて湯から出て湯船のふちに腰掛けた。だいぶのぼせたのだろう、ピンク色になった肌は湯気をあげている。冷たい空気の中、彼女から立ち上る湯気も、湯船から立ち上る湯気も一緒になって風景の中の霞に加わってゆく。その様子をじっと眺めていると、彼女はまるで自分が風景の中に溶け込んでゆくような気持ちになった。
 ふとエスは自分の頬を伝うものがある事に気づく。手が濡れていたので、それが涙だということに気づくのに時間がかかる。何度もゴシゴシと目元をこすって、ようやくそれが涙だということを理解すると、『泣き虫だなぁ』エスは両手で湯をすくって顔を洗った。
 冷たい空気に晒された体が少しずつ冷えてくる。エスはまた湯船に体を沈めると大きく体を伸ばした。
 いよいよ風景は光を失ってゆく。だが闇に閉ざされる一瞬前でも一瞬一瞬が心を揺り動かす力を持っている。夕食は6時半からで、まだ少しの猶予があるはずだ。『今少し』エスは湯船に体を沈めたまま、自分だけの空間に留まった。

泉質:単純弱放射能泉 (うち、ラドンを豊富に含む)
効能: 神経痛、筋肉痛、関節痛、慢性消化器病、慢性皮膚病、婦人病、冷え性、通風、疲労回復など

2015.12.18
2015.12.19 微修正
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

お帰りなさい 
断片からも素敵な旅行だったんだなって感じます。
素晴らしい描写の断片ですね。世界が綺麗で、エスが思わず涙を流してしまったわけが、詳細は分からなくても伝わってくる気がします。
そして、サキさんにとっても、自然と心が動かされるような、そんな時間だったのですね。
これからもまた気持ちをリフレッシュする旅行にぜひ出かけてください。
彩洋さん 
とっても普通の物見遊山の観光旅行、或いは家族旅行だったんです。
サキの心に残った幾つかのシーンの中から、1番旅行記らしくない部分を抜粋しました。いくらエスが主人公とはいえ、少し恥ずかしかったのですが・・・。
ま、時期的なこともあったのでしょう。旅館が空いていたのでこんなシーンに遭遇できました。創作ですから本当にあったこととは違っていますが、心を動かされた事は事実です。
また出かけたいですね。

コメントありがとうございました。
オカエリナサイ 
旅行、楽しんでこられたようですね。

入浴シーン、ちょっと色っぽくて素敵でした。
黄昏どきに、露天風呂から美しい風景を眺めるって、心の洗濯になりますよね。
泉質から想像するに、鳥取県の関金温泉でしょうか。いいなぁ。私もどこかの温泉で、ゆっくりとしたいなぁ。
TOM-Fさん 
タダイマ
はい!とっても楽しかったです。
え!?色っぽかったですか?でもこれはエスのお話しで、サキのお話しではないですから。そこのところ誤解の無いようにって・・・わかってらっしゃいますよね?
何でも無い風景なんですが、本当に心を揺り動かされました。そして素敵でした。
心の洗濯ですか?サキの捻くれた心が幾分素直にはなったと思います。

あ、TOM-Fさん、近い所ですがちょっと違いますね。
でもこの辺りウラン鉱山もあった地域ですから、結構放射能泉がありますね。
いったい何ミリシーベルトぐらい浴びたんだろう?サキはそんなことを思ってしまいました。
お帰りなさい 
こんばんは。

温泉旅行、いいですね。美味しいものも楽しまれてきたでしょうか。

露天風呂での夕暮れを独り占めするエス。センチ(死語)になっているのでしょうか。
美しい光景を目にしたときの心の動きって、本当に形容が難しいんですよね。まるでその場にいて追体験しているようです。こうやって誰にも邪魔されずに眺められるのはとても贅沢なことかもしれませんね。

そういえばラドン温泉、日本だとそんなに怖れる人はあまりいないんですけれど(むしろ健康にいいとわざわざ行くくらいだし)こちらだとおののいて大騒ぎしているなあ。結構多いんですけれどねぇ。
おかえりなさい^^ 
ああ、心も体も温泉の温かさにゆだねて、リラックスしている様子が伝わります。
1人での入浴って、やっぱりホッコリしますよね^^
私はあまり温泉とか銭湯とかに行った事がないので、他人がいたら緊張してしまって。
心からホッとして、露天風呂から見える自然に溶け込み、無意識に涙するエスが、とてもかわいらしいです。上気した肌も色っぽい^^
エスもサキさんも、いい旅が出来たようですね。
夕さん 
あ、料理のことを忘れていました。
料理長おまかせのナントカ・・・の和食コースで、凝っていてとても美味しかったですよ。
昼食も土地の名産品にしたりして楽しみました。久しぶりの贅沢三昧でした。
露天風呂ですが、まぁ、サキは妙に冷めていますから、エスほどはセンチにならなかったのですが、けっこうグッときました。何でも無い普通の山景色なんですが・・・。
一人ポツンと湯船につかっている、辺りは沢の音だけ、というのが良かったのでしょう。

そして、ですよね。絶対軽~く被爆しているはずです。
欧州では騒ぎになるんですか?さすがのリスクコントロールですね。
コメントありがとうございました。
limeさん 
はい、リラックスしちゃいました。溶けてしまいそうでしたよ。それこそ霞みになってしまいそうな・・・。
なかなかこういう場所で一人っきりになることは少ないんですが、たまたま運が良かったのでしょう。サキも他人が居たら遠慮したり緊張したりする方なので、とても嬉しかったです。嬉しくて泳いじゃったりして(すみません)。
エスはサキと違ってとても感傷的です。こういう風にできたらいいな、というサキの願望からこのSSはできあがっているんです。
でもサキの中にもこういう気持ちはちゃんと有るんですよ。素直に出てこないだけですよ、きっと。

コメントありがとうございました。

 
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こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。

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