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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

牧神達の午後

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牧神達の午後

 コトリの勤めるバイクショップ「コンステレーション」は、本来は仮想都市・カンデシティー郊外に存在する。しかし現実世界を舞台とする企画との整合性をとるため、この物語では神戸近郊の町を舞台として設定した。
 そのためこの物語に登場する「コンステレーション」は、神戸近郊のとある町の北の外れを東西に貫く3桁ナンバーの国道から、それをアンダーパスする産業道路へ下りていく側道に面して存在している。
 二階建ての古い建物の一階部分にあるその店は、大きなベニヤ板の手書きの看板を掲げた以外は何の装飾も無く、倉庫のような内装のままの店内に大型バイクばかりを並べた一風変わった作りだ。

 8月初旬のとある午後、抜けるように青い空からは刺すような日差しが降りそそぐ。空気はうだるように暑く、期待の夕立は今日もやって来そうに無い。店の中に人影は無く、前を走る国道の自動車のノイズだけが聞こえている。
 人間は恒常的なノイズをいつまでも意識の上に残すことができない。それはやがて意識の上で、静寂と同等に解釈されていく。
 その静寂の中、甲高いツーストロークエンジンの音が聞こえ始めた。ケッチンの運転する大型バイク、マッハⅢが国道を飛ばして来ているのだ。バイクは白煙の尾を引きながら国道を外れると、側道を下って歩道に乗り上げ、コンステレーションの前の駐車スペースに停車した。来客はこの場所にきちんと整列して駐車することになっている。白煙と爆音をまき散らしていた3本のマフラーはイグニッションオフと同時に沈黙した。ケッチンはヘルメットを脱ぐと、暑そうにライディングジャケットの前をはだけ、そのまま店内に入った。
 店内には国内4メーカーに混じってDUCATI、MOTO GUZZI、MV AGUSTAなど大型のバイクがずらりと並んでいる。ただし注文を受けた物以外はすべて中古品だ。かなり年式の古いものも混じっているが、これらのバイクはこの店のオーナーである親父が色々な伝(つて)を使って仕入れてきた逸品ばかりで、1台ずつ丁寧に整備して販売される。その状態の良さはビンテージバイクに乗りたいと思っているライダーの間で評判を呼び、その整備技術の高さに惹かれて新車を注文する者もあらわれ、常連客は徐々に増えていった。
 さらに付け加えれば、ここ数年メキメキと腕を上げてきた後継者が可愛い女性であったということも、それに一層の拍車をかけた。彼女はコトリというニックネームで呼ばれているが、その整備技術とライディングテクニックは“魔法使い”と呼ばれた親父をも凌駕する位置にまで高まりつつあった。
 ケッチンは辺りを見回した。店内には誰も居ない。
「親父さん!」ケッチンは声をかけた。
「おう!ケッチンか?すまんが、冷蔵庫からアイスコーヒーを出しといてくれ。今、手が離せないんだ」TOILETと書かれたプレートの付いたドアの内側から親父の大きな声が答えた。
 ケッチンは「はい」と答えると裏口のすぐ横にあるキッチンに入っていき、暫くしてアイスコーヒーを乗せたトレーを持って戻ってきた。そして一番奥にある大きなデーブルにセットされた長椅子に腰をかけた。
 アイスコーヒーにシロップとミルクを入れグラスに口を付けると同時に、ドアの開く音がして親父が顔を出した。小柄だがガッチリとした男だ。親父は長椅子に腰をかけると、何も入れないでアイスコーヒーのグラスに口を付けた。
「W1はどうした?最近、マッハばかりだな」親父はケッチンの2台の愛車の事を話題にした。
「コトリさんに見てもらってから、調子が良くなって乗りやすいんですよ。それにダンゴがね。マッハを贔屓にするもんだから・・・W1のことは気に入らないみたいなんです」
「ほう・・・。ダンゴはあの騒々しいじゃじゃ馬が御贔屓なのか?最初に店ににやって来たときは、どっちかっていうと、バイクに興味なんか無いように見えたが?」親父はダンゴが単身殴り込んできてコトリに突っかかった時のことを言っている。
「そうなんです。バイクに興味なんか持ってなかったんです。僕の話もつまらなそうに聞いていたし。でもコトリさんと仲良くするようになってから、ちょっと変わったかな」ケッチンはその時の詳しい顛末については分かっていない。いたって呑気にそう答えた。
 親父はケッチンの顔を見てニヤリとした。「真っすぐ走らない、曲がらない、止まらない、の3ないじゃじゃ馬だからな。コトリも難儀していたみたいだったぞ」
「そうでしょ。そこがまたいいんですよ」ケッチンが答える。
 親父の豪快な笑い声が響いたが、ケッチンはよく分からないまま愛想笑いを返した。
「ところでコトリさんから連絡はありますか?」ケッチンは思いついたように訊いた。
「おお、コトリ達は浦河で楽しくやってるみたいだぞ。お前の所には連絡は無いのか?」
「毎日ここまで走って無事、という連絡は来るんですけど。愛想が無くて・・・。もう少し詳しい状況を伝えてくれるといいんですけど」
「そうか。愛想がないか・・・」親父はまた少し頬を弛めた。「道北を回った後、知床で1泊、そして知床峠、羅臼、野付半島、摩周湖から美幌峠、そして屈斜路湖畔へ戻って1泊、それから1日で阿寒湖、オンネトーを回り、野塚トンネルを抜けて浦河まで行ったようだ。写真も送られてきているが、中学生の兄弟とか、婚前旅行中のカップルとか、奇妙な外国人の二人連れとか、面白い出会いもあったみたいだぞ」
「奇妙な外国人・・・ですか」ケッチンはそこに反応した。
「王様と伯爵だと言っていたぞ。写真を見せてやるよ」
「いえ!遠慮しておきます。かえって心配事が増えそうで・・・」ケッチンの声は弱々しい。
「ははは・・・、そうかそうか」親父はまた豪快に笑った。「だが浦河に着いたらもう安心だ。浦河では俺の知り合いが経営する牧場で泊めてもらうことになっているからな」
「知り合いって?」
「ずいぶん前だが、俺がツーリングで走り回っていた時に世話になった人で、相川長一郎という剛健で頑固な爺さんと、その頑固者を密かに尻に敷く相川奏重という婆さんだ。出会った時はまだ若かったんだが、俺も爺さんになったからな。お互い歳を取った」
「浦河では何を?」
「聞いてないのか?牧場の体験実習みたいなことをしているみたいだ。相川牧場は競走馬の飼育をやっているから、特別な体験ができるだろう」
「俺なんかすっかり置いてけぼりですよ・・・」ケッチンはついに弱音を吐いた。
「そうか、置いてけぼりか!」親父は実に楽しそうに笑った。「毎日仕事を終えてからは宴会なんだそうだ。相川の爺さんは蟒蛇だから酒好きをたくさん呼び寄せたようだな。鏡の爺さんも押しかけているしな」
「鏡の爺さん?」
「鏡一太郎といって京都の宮大工の大棟梁だ。この人もまたよく飲む」
「知り合いなんですか?」
「若いころ京都で一緒に飲む機会があってな。底なしだったなぁ。それ以来の付き合いだ。後で鏡の爺さんと相川の爺さんが親友だったというのが分かって、それにも驚いたがな。人間、妙なところで繋がっているもんだ」親父は遠い目をした。
「そんなだったら、親父さんも押しかけたらよかったじゃないですか」
「店を空けるわけにはいかんだろ?お前らも困るだろうし」
「それはそうですけど」
「ヤキダマが出張でアメリカへ出かけてしまって、コトリが寂しそうだったからな。相川牧場がワーキングホリデーって言うのか?それをやると聞いたんで、ちょっと焚き付けてみた訳だ。それにコトリは俺の孫みたいなもんだ。3人に俺の孫をお披露目しておこういう気持ちもあった。コトリがダンゴを誘ったのには驚いたが・・・」
「俺も驚きですよ。急にコトリさんとタンデムで北海道なんて」
「お前も誘われたんじゃないのか?」
「そんなはずないでしょ!あっさりとベンタをお願いね!って言われましたよ」ケッチンは情けない顔になった。
 親父はその様子を見てまたひとしきり笑った。「いいじゃないか。おかげで自分の気持ちに素直になれただろう?」
 ケッチンは複雑な笑顔を浮かべた。
 物憂げな午後、うだるような暑さはまだ収まる気配を見せなかった。
 
2015.08.12 
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

おおお 
こんばんは。

こういう参加方法も面白いですね〜。このアイデアはサキさんならではです!

ケッチン、心配でオロオロしているんだ(笑)
ヤキダマの方は、もうちょっと安心しているでしょうね。

でも、親父さんとケッチン、浦河についても安心はできませんよ。伯爵のナンパ攻撃はずっと続いていますから(笑)

親父さんと長一郎さん・一太郎さん、お友だちだったのですね。
こういうのも嬉しいなあ。

そして、ケッチンはペンタの面倒を看させられているんですね(笑)
もう尻に敷かれているぞ〜。

いろいろと美味しくて、楽しい番外編でした。
夕さん 
面白いですか?
夕さんの作品を読んでいて、ふとケッチンはどうしているのかな?などと思い至って、一気に書き上げました。
ダンゴのことなんかまったく眼中に無いようなふりをしていますが、或いはそばに居るとそれが当然の様に思えて気にしていないのかもしれませんが、離れてしまうとどうしようもなく心配になるのでしょう。
ほんと、バカですよね。
文句を言いながらベンタの面倒を見ています。
そう、すっかり尻に敷かれてますね。これ、コトリのアドバイス、というよりも陰謀なのかも・・・。

コメントありがとうございました。
 
おおお。鏡のじいさん、意外なお友達があー。
神戸と京都、近いじゃないかあー。
もしやタンデムに乗せてもらってぶいぶいしていたのかー。それはナウいよ~。
次のじじキャラオフ会(?)のときにぜひ!

コトリとダンゴのパートナーさんのお留守番のお話ですかね。
そうか、留守番する者も当然いるのですよね。うちにもいるわ・・・
すごく意外なつながりにテンション上がりました^^ 
嬉しかったです。ありがとうございました^^
けいさん 
ご迷惑でなければよかったのですが、地理的にも近いので若い頃出会っていたという設定にしました。
タンデムに乗せてぶいぶい・・・というよりも、単なる飲み友達という方が自然な感じでしょうか。
おお!じじキャラオフ会ですか?それは凄い!ぜひぜひ!でも、とんでもない老人が集まってきそうですね!恐いくらいですよ。

はい、このお話に登場するケッチンはダンゴのパートナー、チラッとでてくるヤキダマはコトリの配偶者です。
コトリとヤキダマは大恋愛の末結婚したばかりです。
親父さんはコトリが店長をしているバイクショップのオーナーです。
身寄りのないコトリの祖父のような存在であると同時に、バイクの師匠でもあります。
今回はお留守番チームの視点から書いてみました。

コメントありがとうございました。
ほほう 
更新、お疲れ様でした。

あ、残留組のお話ですね。
じつはちょっと気になっていたんですよ、男連中はどうしているんだろうって。ヤキダマがいないのが残念ですが、まあ、バイク好き同士ということで、仲良くやっていますね。
いずれは、ダンゴもこのなかに入っていくんでしょうね。なんか、バイクにこだわりも出てきたみたいですし。
おやっさん、じつは顔が広かったんですね。そっちのつながりもあったのか。コトリを孫のようだと言うおやっさん、いいですねぇ。彼女、浦河でも活躍してましたし。
面白いお話でした。
ところで、コンステレーションのある場所って、R171それともR176? どっちかなぁと思いながら読ませていただきました。
 
番外編も、しっかり物語の中身に触れていて、面白いですね^^
コトリはいろんな写真を親爺さんに送ってるのかあ~。
奇妙なメンバーばかりなので、意味不明でしょうねw
ダンゴはケッチンに、そこまで詳しい連絡をしていないのかな。
自分が楽しむので夢中なのでしょうね。
多くは語らないケッチンの様子が、ちょっといじらしいです^^
なんとなく待つのは女性っていうイメージがありますが、こんな風に男性陣が待たされるっていうシチュエーションも、楽しいですね。
おぉ~ 
そうか、そうだったのか!と妙に納得し頷きながら拝読しました!
うんうん。じいさん3人、実はお互い通じるものがあって、離れていても静かな友情で繋がっていたのですね。この設定は戴きです。オフ会の最後にこの後日談を書かせていただこうと思います。うふふ。
奏重は金沢の出身で、若いころ浦河を出奔して三味線かついで全国を放浪していた長一郎と知り合ったのですが、そのどこかで出会っていたのかもしれませんね~

それにしても、オフ会の陰でこうした気持ちの交錯があるってのは、なかなか素敵なこと。北海道から離れた場所でも気持ちが動いているのですね。次はケッチンとダンゴの物語が展開するのかも。
それもまたオフ会の素敵な物語のひとつですね。
さ、私も締めなくちゃ!
TOM-Fさん 
コメ返、遅くなってすみません。

はい、残留組のお話しです。
ケッチンは初めて経験するかまってもらえない状態にオロオロしているのでしょうか?
でもこれ、コトリの作戦(陰謀)だと思うんですよ。この状態を経験したケッチンの、今後のダンゴに対する接し方?変化があるかも・・・ですね。
ヤキダマはアメリカ出張なので、コトリの心配はしているでしょうが、自分も仕事で手一杯だと思います。でもこっちはあまり心配していません。きわめて冷静です。

そうです。ダンゴはすでにコンステレーションに恒常的に出入りする人物の1人になっています。今回のツーリングで店でヘルメットなどを購入してますし、バイクに対して興味も持ち始めています。
ケッチンの態度次第ではまたマッハの後ろに乗ってくれると思います。

親父さんと相川爺との関係、彩洋さんの方で使っていただけるようですので、何らかの展開があると思われます。
サキは楽しみにしているんですよ。

コンステレーションですか?内緒ですが、モデルとなった店はR176沿いに実際に存在します。場所は厳密に言えば“とある町の北の外れ”では無いんですけれど・・・。

コメントありがとうございました。
limeさん 
あはは・・・コトリは律儀でマメですからね。スマホをキッチリと活用していると思います。
一方、ダンゴはコトリに言われてあまり詳しくは伝えていないと思います。おもに電話連絡で必要なことを伝えたら「じゃあね!」って切っちゃったりして。
自分が楽しむのに夢中、ということもあるのでしょうが、コトリのアドバイスに従ってるということもあります。
ある意味被害者でもあるコトリは、この2人に上手くいってもらいたいみたいですから。
ケッチン、精々心配しろ!男性が待たされるシチュエーション、面白いですね!

コメントありがとうございました。
彩洋さん 
爺さんが3人揃いましたので、こういう設定を考えてみました。
3人とも若い頃からけっこう色々と無茶しているみたいだし、接点があってもおかしくないだろうと思いました。
もちろん親父も日本中をバイクで放浪していましたし、峠でレースをやっていたこともあるようです。かなり荒れた青春のイメージですが、本人に言わせると真面目にぐれていたのだそうです。(意味不明)公式のレースに出るようになって、少しずつチューニングや整備を経験し、飯を食っていくことを真面目に考えはじめたようです。
よろしければこの設定、どんどん使ってやってください、彩洋さんがどのように受け取り、展開されるのか、楽しみにしています。

次はケッチンとダンゴの物語・・・ですか。
今までは特に真剣に考えてなかったんですが、こんなにお話しが膨らんでくるとどうでしょう?
2人のキャラもサキの中で大きくなってきましたし、考えざるを得ないのでしょうね。

コメントありがとうございました。

 
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