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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

オリキャラオフ会2参加作品 696(足寄国道)

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696(足寄国道)

 大気は冷たく、そして澄みきっている。深く息をするたびに肺の組織が再生されていく様な錯覚を覚えるくらいだ。
 コトリは湖畔に設けられたウッドデッキの上で何度か深呼吸をした。そしてそのまま真上を向いて、広がる青空にそっと祈りをささげた。ゆっくりと流れる幾つかの小さな雲以外は抜けるような青、その上にさらに青が重なる。
 コトリは宗教にほとんど関心を持っていない。だが、この祈りだけは息をするのと同じくらい自然な習慣になっている。
 祈りを終えて顔を下ろすと、ちょうどダンゴが視界に入った。さっきまで歓声を上げていたダンゴは、今度は静かに水面を覗き込んでいる。足元の湖水は不純物を含まない水晶の様に透明で、底に沈んでいるたくさんの倒木の様子までクッキリと透過する。
 広がる湖面は陽光を反射する木々の色を移し込んだように萌黄色に輝き、湖を囲む深い森は、美しい成層火山の阿寒富士、そして荒々しい山肌の雌阿寒岳の裾野にまで繋がっている。コトリはこの光景が現実であることを確かめるために、もう1度大きく深呼吸をした。

 昨日宿で知り合った4人が早朝に出発したので、コトリ達も予定より早く宿を出た。国道241号から240号へ入り、阿寒湖と雄阿寒岳にはあまり時間をかけないようにして、再び241号を西進、午前中の早い時間に森の中にひっそりと佇む湖、オンネトーを訪ねたところだった。

 ダンゴは黙り込んだまま、まだ水面を見つめている。コトリは少しの間迷ってから声をかけた。「ダンゴ・・・?」
 ダンゴは顔を向こうに向けてから「綺麗だね・・・」と言った。
 コトリにはそれが涙声に聞こえたので「どうかしたの?」と近づいた。
「ううん・・・」ダンゴは振り返って、何でも無いという風に顔を左右に振った。だが、ダンゴの目元は涙に濡れている。
「ダンゴ・・・どうしたの?」コトリが問いかける。
「コトリ、さっき空を見上げてたでしょ?私、ヤキダマさんからコトリの家族のことを聞いていたから・・・だから・・・」ダンゴは目の周りを袖口でふきながら言った。

 コトリはダンゴが初めてコンステレーションを訪れた時の様子を思い出していた。
「いらっしゃいませ」応対に出たコトリに、彼女は開口一番こう言った。「ケッチンにちょっかいを出さないでください」
 コトリは彼女が何を言っているのか意味が分からず、大きく目を見開いたまま立ちすくんだ。
 ダンゴは厳しい目つきでコトリのことを睨みつけていたが、やがて目に涙が浮かんできた。ダンゴはさっきのように、あふれた涙を袖口でふきながら「コトリさんですよね?」と、今更ながら相手を確認したのだ。
 その猪突猛進な態度にコトリは思わず笑いを漏らしてしまった。
“ケッチンをたぶらかす悪女”の汚名を晴らすためには、それ相応の時間が必要だった。それ以前に、ケッチンにガールフレンドがいること、それが今目の前にいる彼女らしいという事を理解するのにも時間が必要だった。だが、その前に見せたダンゴの一途さがほほえましかったし、その幼さも可愛かった。
 コトリは今またそれと同じものを見たような気がして「ありがとう」とダンゴの方を向いて微笑んだ。ダンゴは顔を左右に小さく振って向こうを向いてしまったが、コトリはかまわず続けた。
「ダンゴ、それでヤキダマはどこまでしゃべったの?」コトリの声はほんの少しきつくなっている。
 そしてコトリはヤキダマが、コトリの家族が全員事故で亡くなっていることや、たまに空を見上げるのはその家族のことを思っている時だ・・・など、ほとんどの事情を喋らされていることを知った。
「ヤキダマのお喋り・・・」コトリは小さな声でそう呟いた。

 コトリのDOCATI696は独特のエンジン音を響かせながら森の中を駆け抜ける。木々の間にはキタキツネやエゾシカが時折姿を現す。そのたびにダンゴが歓声を上げ、コトリが「はいはい」という感じで受け流す。やがてバイクは道道664号線から国道241号線へと戻った。足寄国道とも呼ばれている幹線道路だ。両側は同じように森に囲まれているが、やはり道幅も広い。コトリはスピードを上げた。北海道らしい直線を主体とした道路が続く。時折現れるコーナーも緩やかなもので、ほとんど減速することもなくコーナーをクリアして距離を稼いでいく。目的地は遙か先だ。午前中に池田より先へ進んでおきたい、コトリはそう算段を立てていた。
 幾つめかのコーナーを立ち上がろうとしたとき、前方に赤色灯が見えた。『やばっ!』コトリは慌てて減速する。次のコーナーの入り口にパトカーが停車しているのだ。警察官が止まれの合図をしている。コトリは速度を落としながら接近すると、すでに停車している車の横をすり抜けてから、バイクを路肩に停車させた。「事故のため通行止めにしています。暫くお待ちください」警察官が事情を説明してくれた。彼の向こうには1台の乗用車がひっくり返っているのが見える。消防車と救急車が止まっていて、大型のジャッキを使って作業中だ。
「挟まれたのかな?」ダンゴが訊いてくる。
「そうみたいだね。少し手間取るかも」コトリの言葉にダンゴはバイクを降りた。コトリもバイクを降り、2人並んで救出作業を見守った。
 暫くすると彼方から唸るような音が聞こえ始めた。
「なに?」ダンゴが森の上を見上げる。
「ローター音だ」コトリは予備知識があったのでその音の出所を言い当てた。
 やがて森の上空に白いボディーと赤のラインのヘリコプターが見え始めた。
「ドクターヘリだよ」コトリがダンゴに解説する。
「ドクターヘリ?」
「そう、お医者さんと看護士さんを乗せたヘリコプターなんだ。けが人を治療しながら大きな病院まで運ぶんだよ。緊急の患者さんには特に有効なの」
「すご~い!」ダンゴはローター音に負けないくらいの声で叫んだ。
 ドクターヘリは右側から回り込み、道路の上空で少しもふらつくことなくホバリングして警察官の合図を待ち、そしてスムーズに道路上に着陸した。
 ローターが回転を落としサイドのドアが開けられると、紺のユニホームに身を包んだ2人が飛び出してきた。1人の背中にはフライングドクターとある。2人は大きなバッグを持って事故車に近づいていく。すでに車体に挟まれていたドライバーの救出作業は終了していて、すぐに医師の治療が始まった。
 ローターが完全に停止すると、ヘリコプターの前部のドアが開き左右から機長と整備士が降りてきた。コトリは機長の方に注目していた。
 道路に降り立った機長は帽子を被っていたが、帽子から出ている髪の毛はやはり真っ白だ。背が高く、整備士の男性を若干見下ろすようにして、何か打ち合わせをしている。遠目ではあるが物腰にも見覚えがある。
「やっぱり敷香だ」コトリの声は大きくなった。
「知り合い?」ダンゴが訊いてくる。
「ちょっとね・・・」コトリは曖昧に答えると、目立たないように人垣の後ろに回った。敷香の邪魔になリたくなかったのだ。
 整備士との打ち合わせを終えた敷香はクルリと方向を変え、こちらに向けて歩き出した。どんどん近づいてくる。そしてコトリの前に立っている警察官と二言三言言葉を交わした。通行止めの段取りについて喋っているようだ。
 ふと上げた敷香の視線にコトリの視線が合わさる。
 左側がライトブルー、右側が焦げ茶、特徴ある敷香のオッドアイが一瞬静止した。だがそれはほんの一瞬のことだ。表情はそのままで小さく頷くと右手を軽く上げる。
 コトリもそれに答えて右手を少し上げて小さく振る・・・それだけだった。敷香はヘリコプターの方へ小走りで戻って行った。
 けが人はストレッチャーに横たえられ、ヘリコプター後方の開口部から機内へ収容された。医師と看護師がサイドドアから乗り込む。続いて敷香が乗り込むとローターが回転を始めた。最後に整備士が機体の周りを一周して外回りの確認をする。そして乗り込んだ。ローターのスピードが上がる。タービンの音がひときわ甲高くなった。
 機体がふわりと浮かび上がる。まだ着陸から15分程しか経過していない。敷香の操縦するドクターヘリは右に回り込みながらスムーズに高度をあげると、南東の空に向けて高速で消えて行った。
 パトカーや救急車が位置を変える。間もなく規制は解除されるようだ。コトリは横に立っているダンゴの様子がおかしいのに気が付いた。
「ダンゴ?」
 それに答えて顔を向けたダンゴの目元はまた涙で濡れている。
「どうしたの?」コトリは訊かずにはいられない。
「今の人、綺麗だったね。それに感動!こういうの、かっこいいなぁ!」ダンゴは興奮気味に言った。そして目の周りを袖口でふいた。
 コトリはポケットの中にあったタオルハンカチを出して、ダンゴの手に握らせるとバイクの方へ向かった。


2015.07.30
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

あ! 
こんにちは。

シスカだぁ! そうですよね。北海道にいるんですもの。
もしかしてコトリとはものすごく久しぶりの再会なのでは?
シスカが颯爽と働いている姿も素敵ですし、「キャ〜、久しぶり〜」とは対極の二人の反応が最高でしたね。うん、二人とも、そういうタイプじゃない。

そして、これがダンゴの「勘違い」かあ(笑)
いきなり登場して、おこっちゃった後に本人確認しているし。
そして、ダンゴは涙腺ゆるいんですね。
自分の事も、人の事も大きく心を動かされてしまって、それがまんま外に出てしまうんだ。かわいい。

そして、コトリ、速度違反ではつかまらなかったのですね。
危ない危ない。
お互いに安全運転で、夜に再会いたしましょう。
わあ 
シスカだ^^
シスカはコトリの知り合いだったのですね。
ここに出て来る敷香と、今まで読んで来たシスカとは、別人物の設定なのかは分からないけど、たしかにシスカなんですよね。
北海道で見るシスカって、更にきれいだろうなあ。

第2話ではダンゴとコトリの関係がさらにわかって面白かったです。
その事件が初対面なんですね。
この番外を通して二人を知ることができて、うれしいです。
これは本編もすこし遡って読まなければ(そう思うのに、まだなかなか時間が取れなくてごめんなさい><)
この企画番外、サキさんのはとてもしっかりした中編になりそうですね。
私もやっと書きはじめましたが、おちゃらけコメディになりそうで、申し訳ない~><
つづきも、楽しみにしています。
夕さん 
サキのキャラ同士でコラボってみました。
あ、ものすごく久しぶりでもないんです。コトリは去年結婚したとディランに言っていましたよね。その後の新婚旅行でシスカに逢っていますから、1年ぶりぐらいの再開だと思います。
シスカと敷香は存在世界が違っているだけで同一人物ですから、この辺の時系列は同じです。
出会いが素っ気なくなったのは任務中だからです。救急出動中なので敷香もコトリもアクションを抑えた対応になったのです。
この物語では、ドクターヘリを運用している病院が釧路にありますので、敷香は釧路に住んでいることになります。
多分、浦河のイベントが終わったら敷香の休暇に合わせてコトリは釧路を訪ねる手はずになっていると思われます。(ダンゴは休暇が無くなって飛行機で強制送還かも・・・)

ダンゴの勘違い、楽しんでいただけましたか?
ダンゴは物語の成行き上、だんだんこういう性格に固まってきました。
かわいいから許してやってください。
でも「H1」や「H1A」と違和感が出てなければ良いのですが。

そうそう、北海道はスピード違反で捕まることも結構あるみたいですね。
安全運転でいきましょう。

コメントありがとうございました。
limeさん 
はい、敷香とコラボってみました。
実はコトリはシスカと2度出会っています。
最初は小学校5年生の頃、2度目はヤキダマと結婚して新婚旅行の時です。宣伝になってしまいますが「1006ラグランジア」と「8767 Commontern」というお話です。
それ以来ですから、1年ぶり位の再会ということになります。
シスカと敷香は存在世界が違っているだけで同一人物です。色々な設定も世界が違っていることに合わせて変えているだけなので、基本は同じです。
コトリやダンゴについても同じことです。
ですから、敷香はこの世界では釧路に住んでいることになっています。

ダンゴとコトリの関係はこのお話用に作り上げた物です。ダンゴの猪突猛進ぶりなどを、楽しんでいただけたら嬉しいです。
ダンゴが初めて登場する「H1」というお話では、コトリらしい人物が会話の中にチラリと登場します。そこから膨らませて関係を作りました。
この後はしっかりした中編になるどころか、皆さんにお任せしようかな・・・などとサボる気満々です。
limeさんの作品を楽しみに待っています。

コメントありがとうございました。
おぉ~ 
そうそう、北海道ですものね。敷香も出てきてもらわなくちゃ! 
でも、オフ会に参加するのではなくても、こうして一生懸命仕事をしている場面を見せてくれる。それが何ともクールでかっこいいじゃありませんか! 
そしてコトリとの無言で分かり合った静かな挨拶。うん、仕事中ですものね。やっぱりかっこいいなぁ。サキさんの書かれる女性たちはやはりクールですね。
予想外の2話目でちょっと感激いたしました。コトリとダンゴのペアも、何だか板についてきて、そして二人の微妙な関係性もなるほどというものがあって、サキさんワールドの答え合わせみたいにもなっていて、思った以上に沢山のものが詰め込まれたお話になっていました。
後は、マコトが首をなが~くしてお土産を、じゃなくて、皆さんをお待ちしております(*^_^*)
あ、今はシレトコで船に乗っているみたいですけれど(^^)
うおう 
更新、お疲れ様です。

第二弾、早いですね~。もうすっかり置いて行かれちゃいました。
ダンゴ、可愛いですね。コトリのところに、殴り込み(笑)に行っちゃったんですね。こういうところから始まる友情(?)も、アリかなぁなんて思いました。
道東には行ったことがあるんですけど、阿寒湖どまりでオンネトーには行けなかったんですよ。ああ、行きたかったなぁ。そのうち、行こう。
そうそう、北海道の道路って、どこまで~も真っ直ぐで、風景も大きいので、ついつい速度が(笑)
道警が出てきたときには、こりゃあコトリ捕まったな、なんて思ってしまいました。スミマセン。いや、過去の苦い思い出が(爆)
ドクターヘリって、北海道らしいですよね。ほんとあそこだとヘリくらいでないと、救急が間に合いませんからねえ。
で、シスカ登場ですか。ヘリが出てきたので、もしやと思いましたが、そっか~ドクターヘリのパイロットやってるんだ。人の役に立つお仕事ですね。うん、他人事だけど、なんか嬉しいです。
あっさりとした、でもちょっとかっこいい再会のシーンは、シスカのイメージによく合っていました。さすがはセルフコラボですね。
彩洋さん 
敷香を登場させてみました。前回の松江オフ会でヘリコプターのパイロットだと紹介しましたので、ドクターヘリのパイロットをしていることにしました。
大変な仕事だと思うんですけど、敷香らしい職業かな?そう思いました。
コトリとの挨拶は、すぐ傍に生死の間を彷徨う人がいるんですから、こんな感じでいこうと判断しました。
旅行の最終版でコトリはきっと釧路に敷香を訪ねますので、ここでは「あとでね!」という感じで挨拶したのだと思います。
ダンゴはきっと羨ましがりながら、とかち帯広空港から帰って行くんですよ。OLはそんなに休暇が取れないでしょうから。コンステレーションは親父さんが開けて営業しています。

コトリを間に挟んで敷香、そしてダンゴとの関係、ダンゴと敷香はもし出会ったらどういうふうに接するのかな?なんて、構想を練っていても楽しいです。

あ、彩洋さん、お土産の追加です。リストに加えて置いていただけますか。
えっと、「清里じゃがいも焼酎(原酒5年)」も持っていくことにします。けっこう強くて44度あります。これもサイドバックの中に入れておくことにします。
よろしくお願いします。

コメントありがとうございました。
TOM-Fさん 
書き始めると、早く出来あがっていくこともあるのです。今回はたまたま早く上がったのです。
ダンゴは猪突猛進タイプだったということにしました。殴り込みですよ。
思わずコトリが吹き出してしまうほど滑稽だったんでしょう。そこから友情に発展したんですね。
ダンゴは登場した頃は、バイクに嫌悪感を持っているように書いていました。でも今ではコトリの優しいレクチャーを受けてすっかりバイクファンになっています。
2人の訪れたオンネトーはけっこう有名で、訪れる観光客も多いらしいんです。ですから少し早い時間の到着にしています。先が訪れた30年ほど前は何も無くて、ただ美しい湖(沼)と拡がる風景があっただけだったらしいですけど。

そしてドクターヘリのパイロットって敷香らしい職業でしょ?
コトリとの出会いは救命作業中ですからこんな感じじゃないか、と想像しました。
この後のストーリーは出てきてません。
皆さんの様子見ですね。

コメントありがとうございました。

 
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