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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

あなたがそうしたいのとおなじように・・・

Stella/s 月刊ステルラ6・7月合併号 投稿作品

太陽風シンドローム

「なんだ?」オペレーターがモニターを覗きこんだ。
「どうした?」当直士官が声をかける。
「いま、ポッドが1つ射出されました……」
「どのポッドだ?」
「貨物輸送用のです。13番」
「申請はあったのか?」
「申請は受けていません。誤って射出されたのでしょうか?」
「ポッドのコントロールを捕れ!奴を捕まえろ」
 オペレーターは短い時間コントロールパネルを操作していたが、手を止めると「ポッドはコントロールを受け付けません。何者かがコントロールを持っているようです」と報告した。
「各部に問い合わせをしろ。俺は上に報告する。それから念のために内部にスキャンをかけろ」当直士官は通話機を取りながら指示を出した。
「アイ・サー」

+++

 アニマは気密服のバイザーを下げて、小さな覗き窓の向こうに広がる風景を見た。赤茶色の大地の上に、真っ白な雲がまるで無数の繭をまき散らしたように点々と広がっている。次の瞬間、外は暗転し真っ黒な宇宙空間に変わる。そしてさっきまで乗艦していた宇宙戦艦が見え、それがまた真っ暗な宇宙空間に暗転、そしてもう一度赤茶色の大地と白い雲。めまぐるしく変わる風景に目が回りそうだ。ポッドは前後軸を中心に回転しているのだ。
 アニマは気密服に取り付けていたタブレットを取り出し、いくつか操作をした。ポッドは回転を止め、風景は赤茶色の大地と白い雲の風景に固定された。このポッドは貨物用なので、内部にコントロール用のコンソールは持っていない。だからアニマは遠隔操作用のタブレットを持ち込んでいた。今覗いているこの窓だって、たまたまこのハッチが有人用との共用だから付いているだけのものだ。本来なら外を覗きたくなる奴なんか、乗っているはずはないのだから・・・。
 大気圏への突入が迫っている。アニマは軌道の最終チェックを行ってから、突入に備えて貨物用のベルトで体を固定した。貨物機にはGシートも装備されていない。

+++

「生命反応があります」操作を終えたオペレーターが言った。
「なに!」オペレーターの報告に当直士官は目を剥いた。「誰かが乗っているのか?確認を急げ」
「アイ・サー」
「誰が乗っているにしろあれは貨物機だ。並の人間ではGに耐えれんぞ。着地も荒っぽいものになる」当直士官はモニター画面を睨み付ける。モニターの上ではポッドを表す緑の三角が、徐々に位置を変えていく。
「くそ。もう大気圏か。誰が乗ってるか、まだわからんのか?」当直士官は苛立ちをあらわにした。
「確認終わりました。アニマが居ません」
「アニマだと・・・また奴か!艦長を起こせ!」当直士官は唇を噛んだ。

+++

 微かに小鳥の声が聞こえてくる。ケトルの沸騰する音がこれに重なり始める。辺りはそれぐらい静かな環境だ。
 シュンは火を小さくして、ティーカップとポットにお湯を注ぎ入れた。ポットが適温になると一旦お湯を捨て、計量スプーンで茶葉を慎重に計り取り、ポットに入れる。そこへ一気に沸騰させたままのお湯を注ぎこみ、ポットに蓋をする。陶製の蓋がきちりと収まったことを確認すると、彼は腕につけたクロノグラフのスタートボタンを押した。
 シュンの住んでいるログハウスは大きな谷の入口にあって、その谷は森に覆われている。特に小屋の周りの木々の背は屋根を超えるぐらいにまで成長していて、小鳥や小動物たちも定住し、繁殖も始めている。さらにシュンは、小さな畑を作り、数頭ではあるが家畜の飼育もスタートさせていた。
 先人やその後を継いだシュンがこの谷で実践した環境構築データは、これからの開発にとって非常に有益なものとなるはずだ。というのは開発が行われていないこの谷の外側には、ただ原野が広がっているだけだからだ。この地表のほとんどを植物、できれば森や作物で覆う。これがこの計画の当面の目標だった。長い長い開発の道のりはまだ始まったばかりなのだ。
 暫くするとシュンはクロノグラフに目をやった。そして規定の時間が経過したことを確認すると、温めたティーカップにお茶を注いだ。ダージリンの芳醇な香りが立ち昇る。『いずれはお茶の木も植えてみたいな』そう考えながらシュンは食卓の硬い椅子に腰を下ろした。

 カップを持ち上げて香りを楽しみ、最初の1口を口に含もうとしたその時、シュンは微かな空気の振動を感じてカップをソーサーに戻した。まだ遙かな彼方だ。しかし確かに何かが始まろうとしている。それを証明するように、その微かな空気の振動は、徐々に振幅を増し始めた。
『宅配便か?』シュンは考えたが、今日はそれが来る予定の日では無い事を思い出した。しかしその振動はやがて空気を切り裂くような音に変わり、さらにどんどん大きくなり、やがていつもの宅配便では考えられないくらいになった。
『近すぎる!』シュンは急いで小屋を飛び出して上空を見上げた。谷が開けている方向の森の上に白い筋が引かれている。何かの航跡なのだろうが、それは明らかにこちらに向かって伸びてくる。シュンは経験から、貨物輸送用のポッドが降りてきているのだと判断した。しかし、通常より速度が速い、それに近い。危険を感じるくらい高度も低い。
 耳をつんざくような轟音を立て、白い雲を曳きながら、そのポッドと思われる物体はシュンの頭上に差し掛かった。空気の振動が感じられるくらい近い。
「やっぱり貨物ポッドだ」機体の後部から小さなドローグシュートが曳きだされ、後部の貨物コンテナが耐熱シールドから切り離される。すぐに大きなメインパラシュートが開く。貨物コンテナはどんどん減速した。残された耐熱シールドは減速出来ず、そのまま落下を続け、轟音と共に浅い角度で森に激突した。立ち上る巨大な噴煙、引きちぎられた森の木々が舞い上がる。高温の耐熱シールドは数百メートルに渡って森の木々をなぎ倒し、引きちぎり、焼き払った。そして激しい衝撃波がやってくる。シュンは両耳を手で押さえたまま地面に突っ伏した。
 先人達が何十年もかかって育て上げた森林には、復活するのに何十年も要するであろう巨大な傷が刻まれた。

+++

 小さな覗き窓の向こうはオレンジ色からやがて白く輝きだした。耐熱シールドの温度が上がっているのだ。大気圏に突入してしまえば、もうポッドをコントロールすることは出来ない。運を天にまかせて、ただ耐えるだけだ。
 アニマはこの耐えるだけの時間が嫌いだ。だからなるべくその時間を短くするために、燃え尽きないギリギリの軌道を計算し組み込んだ。それにアニマは回り道も好きでは無い。だから目的地になるべく接近できるように、最適の軌道を計算し組み込んだ。
 計算通り耐える時間は最短だった。ポッドは一気に大気の層を突き抜け高度を下げた。耐熱シールドはほとんどが蒸発してしまっただろう。それに速度が速すぎる、多分リサイクルが出来ないほど破壊される。だがアニマにとってそんなことはどうでもいいことだ。我慢する時間は短いほどいい。
 タブレットがシグナルを点滅させた。ドローグシュートが開く合図だ。アニマは両手でしっかりとベルトをつかんで衝撃に備えた。
 激しい衝撃が来た。減速が始まったのだ。コンテナは切り離され、そしてさらに激しい衝撃。メインパラシュートの展開だ。息が出来ないほどの衝撃だったが、こんなものは戦闘時のGに比べたらどうと言うことはない。耐熱シールドは地面に激突しただろうか、きちんと目的地からは逸れるようにセッティングしたから問題ないはずだ。最終の減速が来た。突き上げるようなスラスターによる減速だ。普通の人間なら命を失いかねないレベルだが、これもアニマにとっては問題の無いレベルだ。ゲンマ戦線やタイガ星系R戦線ではもっと酷いのにも耐えてきた。そして最後に着地による衝撃が来た。

+++

「何だったんだ!」衝撃波が収まると、シュンはゆっくりと立ち上がった。『森の奥では山火事が発生しているかもしれない。後で見に行った方が良いな』シュンはそう考えながら上空を見上げた。上空からは貨物コンテナが降りてくる。貨物コンテナの着地をこんなに間近に見るのは初めてだった。やがてコンテナは森の木々のすぐ上まで高度を下げると減速のためにスラスターを噴射した。スラスターの噴射は木々を吹き飛ばし、コンテナは大きな音を立てて辺りの木をへし折りながら着地した。激しい衝撃音が辺りに響いた。『貨物だからこれで保つけれど、人間だったらひとたまりも無いな』シュンは傾いたコンテナを前にそう思った。
 シュンは動きが落ち着くのを待ってから、用心深くコンテナに接近した。コンテナはへし折った木を下敷きにして大きく傾いたままだ。まだ減速用のスラスタエンジンは熱を持っていて、白い煙を上げている。
 機体の中央にあるハッチのロックが外れた。ゆっくりとそれが開き、音を立てて全開になる。そして中から気密服を着た人間が現れた。人間が乗っているとは思っていなかったシュンは驚いて立ち止まった。あの衝撃に人間が耐えられたということが信じられなかったのだ。
 気密服の人間はバネをきかせて勢いよく飛び出すとヘルメットを脱いだ。
 ヘルメットからはボブにまとめられた真っ赤な髪が溢れ出した。前髪の隙間からアンバーの瞳が見つめてくる。シュンは口を半開きにして動きを止めたままだ。
「アニマ・・・?」ようやくシュンは声を絞り出した。アニマは斜めになったコンテナの上を滑って倒れた幹の上に飛び降りると、その上を伝ってシュンの傍までやって来た。アニマの背はシュンの肩までしかなかったから、そこからジッと見上げてくる。そのアンバーの瞳はセンサーのようにシュンの顔を観測した。
「げんきだった」長い間見つめてから、アニマは抑揚を欠いた少しハスキーな声で言った。
「ああ。元気だよ。でも驚いた。こんなに早く来てくれるとは思ってなかったから」
「あなたがそうしたいのとおなじように、わたしもそうしたいとおもったから」
「ありがとう」シュンはアニマの体をそっと抱いた。
 アニマは一瞬体を硬くしたが、やがてシュンの腰に腕を回した。
 軽い抱擁は強い抱擁になり、やがて次の段階へと進んでいった。
 森の奥からは真っ黒な煙に混じって、真っ白な煙も立ち上り始め、それは徐々に勢いを増していった。
 シュンはアニマの頭越しにその様子に気がついたが、抱擁を解くことはなかった。アニマの起こすトラブルにはもう慣れっこになっていたし、彼女の処理能力の高さも充分に理解していた。彼女が来てくれたことは、この大きなトラブルを差し引いたとしても、この開発計画にとっても彼にとっても有益なはずだ。シュンはアニマを抱く腕にさらに力を込めた。アニマの体は一層熱くなった。

2015.06.20
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

ひぇ〜 
こんばんは。

詳しい事情は語られていませんが、遠距離恋愛の果てに恋人のところにやってきたすごい女の子、なのですね。

いつも感心することですけれど、現在の世界よりもずっと進んでいるらしい世界の細かい設定が詳細で、目に見えるようです。サキさんが経験することが出来るとは思えないような描写も、とてもリアルです。

シュンは、アニマと違って、自分からアニマに逢いにいけるような能力はなくて、でも、あいたくて、逢う日を心待ちにしていたのでしょうね。それもとてもよく伝わってきます。

で。二人は熱くなっているようですが、え〜と、山火事にならないといいけれど……。余計な心配かな……。
わあ 
これは本当に映像にしたくなる様なエキサイティングな描写の連続ですね。
余計な説明はほとんどないのに、適確な描写が世界観をびしっと伝えてる。
サキさんのクールさが光ってます。
ここに出て来るキャラは、初登場なのですか?
そして、これはSSなんでしょうか。それとも冒頭?

激しいシーンと、ログハウスでお茶を煎れるシーンの緩急がいいですねえ。
このアニマ、いろいろ大胆で、面白い^^そして情熱的なのですね。
シュンも、きっとこの子が好きなんだろうなあ。

以心伝心。でも甘すぎず、カッコいいお話です^^
夕さん 
お読みいただいてありがとうございます。
あまり詳しくは書き込んでいませんが、概ねそんな感じです。彼女は物凄く有能な戦闘員なのですが、引き起こすトラブルも半端ない。そういう設定にしました。目的を達成するためには最短距離を進み躊躇しない、そんな子です。
反面、シュンは少し神経質な面を持っているように設定しましたが、伝わりましたでしょうか。
この世界はこのSSの為だけに生み出された物で、全体的な設定はありません。でもリアルに見えているようでしたら成功だったかな。嬉しいです。
2人は熱くなっていますが、山火事はこの後森林の3分の1を焼き尽くします。先人の苦労を水の泡にしてしまう暴挙になってしまいますが、まぁ、アニマが消化に大活躍していますので許してやってください。
limeさん 
世界感、伝わっていますでしょうか?クールだなんて・・・そうですかぁ?嬉しいなぁ。
あ、ここに出てくるキャラは皆初登場です。このお話は「太陽風シンドローム」というSSシリーズの1作で、1話1話のお話しは独立していて、基本的に続きません。サキの頭にふと湧いてきたSFチックなお話しをここにまとめています。

激しいシーンと、ログハウスでお茶を煎れるシーン、2人の性格を込めてみました。
ハチャメチャのアニマ、お楽しみいただけましたでしょうか?
とても面白い子のはずです・・・きっと。
彼女の感情描写、まだほとんど書けてませんからね。

コメントありがとうございました。
 
更新、お疲れ様です。

恋人に早く会いたいからって、無茶しますね~。でも、サキさんが書くと、「悪いこと」をしている感じがしないのが不思議です。
ポッドが大気圏に突入して、地上に着くまでの描写、SF好きとしてはワクワクしましたよ。
元気で無鉄砲な女の子と、ナイーブで真面目そうな男の子、二人の雰囲気はばっちり伝わってきましたよ。こういうカップル、いいですね。きっと、シュンはずっとアニマにリードされるんだろうなぁ。
うん、面白かったです。
TOM-Fさん 
相当無茶苦茶をしています。手段を選ばず、というところでしょうね。
もう逮捕されそうなくらい無茶をしているはずですが、物語の都合上お咎め無し、ということにしています。
「悪いこと」をしている感が無いのは、本人が全くそういう風には考えてないからでしょうね。
でも悪気が無いわりには被害が尋常じゃ無いということになってます。
タイトル、「ハチャメチャのアニマ」でも良かったくらいです。

2人のギャップを楽しんでいただけましたでしょうか?間違いなくシュンは敷かれることになると思います。
コメントありがとうございました。
こんばんは 
これってどんなシチュエーションだったかしら、以前の設定を思い出さなきゃと思いつつ拝読していたのですが、あ、初出場のお二人だったのですね。
サキさんの世界を全部は把握できていないと思いますけれど、何となくイメージがあり、それを適当に当てはめながら読ませていただいています。長編になるなら、サキさんのことですから詳しく説明してくださるのでしょう。でも、掌編なら、設定はよく分からないけれど、大体こんな感じ?とこちらのイメージを勝手に膨らませて読ませていただいています。
二つの場面が動きながら、近付いていく感じがいいです。それもかなり爆発的な形で(*^_^*)
SFで恋愛。これって、私がバイブルとしている竹宮恵子さんの『ジルベスターの星から』を思い出します。あれも、辺境の星へ行った恋人を、女性が追いかけていくというラストなのですが、短い中にぎゅっと世界が詰まった素晴らしい物語でした。サキさんのこのお話も、何だかそれを髣髴させてくれる、きゅんとなるお話でした。
あ、爆発的行動力、キライじゃないです(*^_^*)
彩洋さん 
すみません。また混乱の原因を作ってしまいました。このお話は「太陽風シンドローム」シリーズの中の1つの作品なので、設定はサキの思いつきです。今回限りの限定キャラで、どこかから来たわけでも、この先どこへ行くわけでもないのです。一応1話で読み切るように書いているつもりでしたが、ややこしかったですね。お詫びしておきます。
サキが短いセンテンスで、思いついたヒロインに入り込んで、生いきようとして書いた物語です。サキの頭の中で、まるでサキが生きているように・・・。
実際にはあまり上手くいっていませんが、一生懸命書いています。自分ではアニマとして生きたつもりでしたが、読んでくださるには混乱するだけだったのかも・・・。反省しています。
サキはこんなに変な作者なのです。でも読んでいただけることはとても嬉しいですし励みになります。これに懲りずにまた読んでいただけると嬉しいです。
どうもサキにはこういうやり方しか無いみたいです。大勢の方に楽しんでいただける作品は無理かもしれません。

コメントありがとうございました。


 
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