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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

物書きエスのきまぐれプロット(H1A)

Stella/s 月刊ステルラ4・5月合併号 投稿作品

H1A

「寒い・・・?」
さっきまで体中が細かく震えていたのに、震えも止まった。
寒さも感じなくなった。
そしてなんだかフワフワした気分になってきた。
あれ、体が動かないぞ。
「まぁ、いいかぁ・・・」
僕はぼんやりとした頭の中で考えた。

 ケッチンの運転するオートバイ、H1は悲鳴のようなエンジンブレーキの音を響かせながら減速し、コーナーに入っていく。
 2月の空気は肌を切るように冷たい。「寒~い」タンデムシートに座っているダンゴは前に座っているケッチンに回した手に力を込めた。背中にピッタリとくっつくと少しだけだが暖かくなるような気がするのだ。つなぎのツーリングウェアの上にオーバーパンツを履き、モコモコのダウンを着込み、さらにその上に分厚い革製のジャケットを羽織っているのに、寒さは体の芯にまで伝わってくる。
 H1はコーナリングを始める。それにつれて体はコーナーのインに向けて傾き、路面が迫ってくる。
 オートバイに乗せてもらい始めた頃は今にも路面と接触しそうなこの状況に、ダンゴはいつも体を起こしたい衝動に駆られた。でも、そうするとスムーズなコーナリングが出来ないとケッチンに叱られるので、ケッチンの背中にギュッとしがみつきながら恐怖に耐えていた。でも最近はこの一体感のあるコーナリングを楽しめる程度にはなってきていた。コーナリングの開始と同時にタイミングを合わせてインに向かって体を倒し込む、次のコーナーでは反対側に、そしてまた反対側に・・・リズミカルな動作はなんだかダンスみたいだ。そんなふうにすら感じる事もあるくらいだ。
 ストレートに出たH1は軽やかに加速していく。辺りは少しずつ明るくなり始め、夜明けが近いことを感じさせる。なんとか日の出前に岬にたどり着けそうだ。ダンゴは次のコーナーに備えながら安堵のため息をついた。

 素晴らしい日の出だった。そうでなければケッチンに嫌みの一言も言われていたところだ。何故なら真夜中をずいぶん過てから急に「岬の先端で日の出を見たい」と言い出したのはダンゴだったからだ。どうしてかは自分でもわからなかった。
 ダンゴがそう言い出したとき、「日の出?しかも岬で?寒いぞ!」ケッチンは困ったような顔をしたが拒否はしなかった。「それに日の出の見える岬なんて近くにはないぞ。シオミ岬なら見えると思うけど、夜明けに間に合うかな?」
「じゃあ、すぐに出かけよう。バイク、仕上がってきてるんでしょう?」
「H1のことか?あれで行くのかぁ?」
「なによ。じゃじゃ馬だから恐いの?」挑戦的なダンゴの言葉にケッチンは渋々腰を上げた。
 大急ぎで2人は分厚い服を着込み、ケッチンはヘルメットに頭を押し込む。ダンゴもヘルメットを被るために、両腕を肩の上に挙げてポニーテールを留めていた赤いリボンを解く。そしてそのまま髪を1つにして、再び赤いリボンでキュッと纏める。ケッチンは立ち上がったまま、その様子をずっと目で追っている。「こんなんでいいんだ・・・」ダンゴは満たされた気分で小さく呟いた。
 だから素晴らしい日の出は必須だったのだ。付き合ってくれたケッチンの為にも、自分の為にも・・・

「綺麗だったな」ケッチンはまだ東の空の方を向いたまま言った。太陽は高度を上げ始めていたが、おそらく気温はまだ最低を記録したままだ。
「来て良かった?」ダンゴの吐く息が白く拡がった。
「まあな。でもダンゴ、寒さは大丈夫か?」ケッチンの白い息がそれに混ざる。
「そりゃぁ、寒いよ~。でも大丈夫。今、お日様に力をもらったもの」そう言いながら「あれ?」ダンゴは横に並んだケッチンの向こうに目線をやった。何かの気配を感じたのだ。
「どうした?」ケッチンも同じ方を見る。駐車場の端に置いてある。いや、多分捨ててあるダンボール箱が目に留まる。気配はそこから感じられる。
 ダンゴはケッチンをそこに残してダンボール箱に近づいた。そしてそっとその蓋を開ける。「大丈夫か?」いきなりの行動に驚いたケッチンが声をかける。
「ケッチン!来て!」ダンゴはそんなことにはお構いなしに大きな声でケッチンを呼んだ。
 ダンゴはケッチンと並んでダンボール箱を覗き込む。ダンゴは中のものにそっと手を触れ、順番に状態を確認していく。「大丈夫、冷え切っているだけ」そう言うと、ケッチンの目を見つめてちいさく頷き、了解を求めた。そして、おもむろに胸のジッパーを幾つか降ろすと、ダンボール箱の中のものをそっと抱き上げ、それをジッパーの中へ、乳房の間に押し込んだ。「冷た~い!」そう言いながらジッパーを上げるダンゴの胸元を、ケッチンは斜めの視線で見つめていた。
「早く帰ろう」ダンゴに促されてケッチンは立ち上がり、オートバイに近づくとエンジンをかけた。甲高いエンジン音が響き渡り、3本のマフラーから白煙が吐き出された。

「あれ?」僕はふと目を覚した。
「暖かい・・・それにこのお尻の下の柔らかいものはなんだろう?」僕は体を動かそうとした。ちゃんと動くようにはなっていたけど、ここはずいぶん狭い。でもほんわかで、何だかいい匂いがする。それに僕の本能がここは安全だと言っている。トク・トク・・・安心の音もする。
ジッとしていよう。僕はそう決めて目を閉じた。

 2人は大急ぎでケッチンのアジトであるロフトへ戻ると石油ストーブに火を入れた。徐々に芯に火が回って辺りが暖まると、ダンゴは幾つかのジッパーを降ろして中のものを取り出した。ケッチンの遠慮がちな視線に気が付いたダンゴは、慌ててジッパーをもとへ戻した。
 取り出したものは小さな目を開けていた。ダンゴはそれをそっと床へ降ろす。それは恐る恐る足を床におろすとダンゴの足下に寄り添った。

子犬
このイラストの著作権はユズキさんにあります。

「うわぁ!可愛い!」ダンゴは思わず声を上げる。
「モコモコだな・・・」ケッチンもそっと背中を撫でる。
 ダンゴはケッチンからそれを奪い取るように抱き上げた。「男の子だね~!よしよし~」頬ずりをする。
「なぁ、そいつ、ここで飼うのか?」ケッチンは気になっていたことを訊いた。
「わたしの家はアパートだし、お願いできないかなぁ」ダンゴがケッチンの顔を覗き込む。
「じゃぁ、名前は俺につけさせろよ。帰り道、ずっと考えてたんだ」
「いいけど・・・」ダンゴの顔は不安げだ。
「じゃ、こいつはアヴェンタドール。アヴェンタドールだ」
「アヴェンタドール?何それ?」
「いいじゃないか。ここで飼うんだろ?」
「うん、ま、いいか。でも変な名前だね」
「格好いいからいいんだ。こいつ大型犬みたいだし。それに俺が飼うんだから」
「ベンタ!ベンタ!」ダンゴは早速名前を呼んだ。
「ベンタかよ・・・」ケッチンは顔をしかめた。

2015.04.30
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

おおっ 
こんばんは。

復帰第一作(?)はダンゴとケッチンでしたか!
おお、ずいぶんいい感じになってきていますね。
ケッチンは仔犬になりたかったんじゃないかしら。
そんなところに、潜り込ませてもらえるなんて(笑)

そして、せっかくケッチンが厳かに命名したのに、全然そう呼ぶつもりのないダンゴがかわいいです。一応、略して、なのかな?

こういうサキさんの書かれるほのぼの系も素敵です。ユズキさんのイラストともよく合っていますね。
ま、まさか 
更新、お疲れ様でした。

なに、H1A? まさかJAXA系なのかっ……あ、あのお話の続きなんですね。
ダンゴ、可愛いなぁ。「じゃじゃ馬だからこわいの?」というセリフ、あれはケッチンをあおってるんですよね、やはり。マッハとダンゴ自身の両方を指しているのかなぁとか思ってしまいました。
コトリとヤキダマのカップルも素敵ですけど、こちらもいいカップルになりそうですよね。シスカ・ワールドのこちら側って、なんか、ほんわかな人が多いですね。
って、あのムクムク犬が「アヴェンタドール」ですか~。
「ムルシエラゴ」の後継ですよね、たしか。あのクルマ、ちょ~カッコイイですけど、デザインのもとになったのはカメムシらしいですよ。イタリア人のセンスは、どうもわからん(爆笑)
ありがとうございました! 
おはようございます(・∀・)

仔犬イラストのご利用ありがとうございました(^ω^)
物書きエスのきまぐれプロットのほうはまだきちんと読めていないのですが、本編を知らなくてもベンタ(笑)を中心にお話が判って面白かったです。

名前もつけてもらえたし、何を考えているのかも書いてもらえて嬉しいですw 更においしいところで温めてもらえて(笑)
八少女さんの作品でウチのフェンリルが、やはりおなじようにジャケットのなかに入れてもらったシーンがありましたが、ベンタくんのほうが役得ですね☆

こうして物語に加えていただけるとホント嬉しいですw ありがとうございましたヽ(・∀・)ノ
夕さん 
コメントありがとうございます。

復帰と言いますか、休養を意識していたわけではないんですけれど、久しぶりの小説UPでした。Stellaもご無沙汰でしたので、ホノボノ系で、気合いを入れすぎずに、気楽な気分を意識しながら書きました。
ダンゴとケッチン、良い感じでした?ダンゴは少し思い切りよくなっているのでしょうか?ケッチンのダンゴを見る目も少し変化しています。だから子犬が羨ましかったのかも。
アヴェンタドールってスペインの闘牛の名前が元らしいんですけど、省略してベンタ?ケッチンの思惑通り物事は運びません。すっかりダンゴのペースですね。
TOM-Fさん 
あ、JAXA系ではなくてKAWASAKI H1の次のバージョンがH1Aだった、と言うだけのことです。
ダンゴは夕さんとこのステラに赤いリボンを貰ってから少しずつ進化しています。だから自分自身を指してあおっている?そういうことも考えられますね。
コトリとヤキダマとはまた違ったカップルに書けていると良いのですが。どうかな?どちらもシスカとは違って、ほんわか系なんですけど。
アヴェンタドールは前から使ってみたかった名前なんですが、犬の名前にしてみました。省略されてベンタになったようですが。ケッチンの思いは無視です。
でもカメムシですか?そう言われればなるほど・・・なんとなくイメージ出来ますね。

コメントありがとうございました。
ユズキさん 
可愛いイラストを使わせていただいて、ありがとうございました。
あらためてお礼を申し上げます。
名前、ダンゴがかってにベンタってつけてしまいましたが、フルネームは「アヴェンタドール」です。
格好いいでしょ?これ実はスーパーカーの名前なんです。そしてスペインの闘牛の名前が元になっているようです。大型犬という設定にしましたので、大きくなったらイメージ通りのたくましい成犬になるかな?
でも、今はダンゴの胸に納まるくらいかわいらしい存在です。ダンゴに拾ってもらえて、そこに入れてもらえたお陰で九死に一生を得たのですから、そうとう運が良いんでしょう。
ベンタ君、このお話の続きにまた登場させると思います。お楽しみに。

コメントありがとうございました。
うん 
可愛いラスト、でも物語の中にサキさんらしい硬派な部分があって、このバランスがサキさんなんだよなぁとしみじみ思いながら拝読しました。
でも何より、サキさんが動き始めた!ってそれが嬉しいなぁと。シスカを書ききって少し骨休め、でも何か書きたいって気持ちが自然に表れたものなのかしら。そこにダンゴとケッチン、というのが何とも自然で、こちらもちょっとほっとさせてもらったような気がします。
あぁ、TOM-Fさんみたいに「アヴェンタドール」って名前に反応できないのはちょっと悔しいけれど、でもこの感じ、サキさんワールドにまた浸れそうな予感です。
かわいい 
私も、サキさんが作品を書かれるだけで、何だかうれしくなってきます。
執筆って不思議なもので、書きはじめるとなんだか意欲がわいてくるものなんですよね。書かなかったら、ずっとそのままになってしまうけれど。
このお話は、単体で読ませていただいたのですが、この二人の関係性がとても温かいですね。
2人が拾った仔犬をめぐってのやり取りも、微笑ましいなあ。
ベンタ(この相性の方が好きw)視点も混ざっていて、これから話が膨らんで行きそうな、そんな予感もします。
彩洋さん 
はい、動き始めました。時間が解決しているのでしょうか、すこしづつ創作意欲ってのが湧いてきています・・・かな?
嬉しいと言ってもらえて、凄く励みになります。
何か書こうかな、と思い始めたとき、ユズキさんのこのイラストとダンゴとケッチンのこのカップルが思い浮かびました。この2人、登場時点からホノボノ系なのでホッとしていただけたのなら嬉しいです。特に大きなメッセージとかは入れずに気楽な気分で書いています。今はそんな気分です。
「アヴェンタドール」についてはなんの問題ありません。本当に作者の自己満足ですから。
とりあえず再スタートです。またよろしくお付き合いをお願いします。
limeさん 
え!そうですか?それはありがとうございます。
そういっていただけるととても励みになります~。
確かに書かないでいるとそれはそれでどんどん時が過ぎていきますね。そして訪問者も居なくなって、ついに閉鎖なんてことになるんでしょうね・・・きっと。
今回のお話しはそんな事態にならないように、気楽な気分を心がけて、ふわりと書いていみました。そんな気楽な物語、わざわざ読んでいただいてとても嬉しいです。
ですからダンゴとケッチン、ほのぼのカップルなんです。
“ベンタ”がいいですか?ケッチンはこんなふうに省略されるとは考えていなかったので驚いていると思いますが、“アヴェンタドール”はどう考えても略してベンタでしょう?サキもダンゴと同意見です。
物書きエスのシリーズですからまた続きが出てくるかもしれません。
お楽しみに。

 
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