Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

初めての音 Porto Expresso3

scriviamo! この作品はscriviamo! 2015の参加作品です。

 フランクフルトからの便が到着してから30分以上が経過したのに、到着ゲートからは待ち人は出てこない。ジョゼは出迎えの人々の中に立って辛抱強く待っていた。ポルト空港の到着ロビーはそれほど混雑しているわけではないから、見逃すはずはないし、向こうも気がついてくれるはずだ。
『おかしいなあ、乗り遅れたのかな』ジョゼは到着便が表示されているパネルに顔を向けた。
「お待たせ!」突然後ろから声をかけられて、ジョゼは驚いて振り返った。ジョゼは一瞬記憶と現実とのギャップに翻弄されて認識に手間取り、ようやく認識を終えてからさらに度肝を抜かれた。「姉貴?姉貴・・・だよね」
「驚いた?」ミクは首筋に手を当てながら恥ずかしそうに言った。
「ど・・・どうしたんだ?その髪」ジョゼはようやくそれだけを口にした。
 ミクのツインテールにまとめられていた長い髪は、見事なショートカットに変わっていた。いつもはゆったりとしたラフな格好ばかりなのに、今日はおしゃれな感じの明るいショートコートと紺のミニスカート、少し踵のある黒い靴、そして耳元にはトパーズの並んだヘアピンがキラキラと輝いている。その大人っぽい雰囲気もジョゼにとっては初めての経験だった。
 ジョゼは訳が分らずただジッとミクを見つめるだけだったが、混乱の中で『レースのリボンにしなくてよかった』と、とりあえずホッとしていた。
「ジョゼ、時間ある?メトロに乗る前に軽くお茶に付き合ってくれない?」ミクが訊いてきた。
 ジョゼはまだ驚きを収めることが出来ていなかったが「いいよ!」と答え、大きなスーツケースを引き受けてミクの後を歩き出した。

 到着ロビーに隣接した喫茶スペースに座り、それぞれに飲み物を注文し他愛のない話を少しした。そして飲み物がテーブルに置かれると、少し口を付けてからミクは話し始めた。
「あたし、歌手を止めなければならないかもしれないの」
「え?どうして!」ジョゼはようやく落ち着き始めた心をまた震わせた。「今回の公演だって評判はよかったじゃないか」
「喉にね、ポリープが出来ているの」
「ポリープ?」ジョゼは立ち上がりそうになる自分を押さえ込んだ。
「うん、暫く前から全力で歌うと声が微妙に割れるの。この間、日本のお医者さんに診てもらったんだけど手術は難しいと言われた。位置が悪くて失敗すると声に影響がでるかもしれないって」ミクは淡々と事実を語る。努力してそうしているようだ。
「そんな・・・」ジョゼは言葉を失った。
「それで髪を切ったのか?」暫く間を開けてからジョゼが訊いた。
「これ?もう歌えないんだったらいいかなぁって・・・そう思ったの」ミクは髪の上から首筋に手をあてた。
「で、そのポリープって、まさか・・・」
「ううん、日常生活にはなんの問題も無いんだよ。悪性ではないって」彼女は声を明るくする。
「そうか」ジョゼは安堵の息を漏らした。そして顔をあげて言った。「でも、何か上手い方法はないのかな」
「日本にいるときにね、絵夢に会うことが出来たの」ミクはカップを口に運びながら言った。
「絵夢に?それで?」ジョゼは続きを促す。
「言われたの、まだ歌えなくなるって決まったわけじゃないって」
「うん、その通りだと思う」
「ジョゼもそう思う?」ミクはカップに口を付けた。
 ジョゼは大きく頷いた。
「でね、絵夢にお医者さんを紹介してもらうことになってるの。イタリアの専門の先生なんだって。諦めるのはその先生に診てもらってからになさいって」
「で、いつ診てもらうんだ?」ジョゼは身を乗り出す。
「ポルトに帰ってから連絡をもらうことになってる」
「そうか、そんなチャンスがあるならチャレンジするべきだし、まだまだ希望を失うことはないよ。
「そうだね」ミクは少し顔を緩めて微笑んだ。
「でも絵夢に会えてよかったな」ジョゼは飲み物で口を湿した。
「うん。実は不安になって、あたしから呼び出しちゃったんだけどね」
「かまわないんじゃないのか。友達だし。黙っていたら絵夢が怒ったと思うよ」
「そうかな?迷惑かけてなければいいんだけど」
「そんなこと言うなよ。絵夢はそんなこと思ってないよ」
「ごめんね。こんな話をして。でもジョゼにはちゃんと言っておきたかったんだ」
「謝るなよ。友達じゃないか」そう言いながらジョゼはミクとの関係について考えていた。「絵夢から連絡が来たらちゃんと僕にも知らせてくれ。絵夢みたいに色々出来るわけじゃないけど、出来ることは何でもするし、一生懸命応援するから」
「うん、ありがとう」ミクはそう言いながらジョゼに頭を下げた。耳元のヘアピンがキラリと輝く。
「ところでさ、そのヘアピン可愛いな」ジョゼは話題を変えた。
「あ、これ?」ミクはヘアピンに手をやった。
「この前の舞台の演出家の人にもらったんだ。喉の治療のために暫くお休みするって言ったら。成功を祈っている。復帰したらまた一緒に仕事がしたいって」ミクは下を向いたので表情が読めない。
「そうか・・・」ジョゼは複雑な心持ちで返事を返した。
「そろそろメイコのところへ行こうか。あまり遅くなると心配する」ミクは腕時計をチラリと見て言った。
「そうだな。今日は何を食わしてくれるのかな」
「もうお腹すいてるの?」
「僕はいつも腹ぺこさ」ジョゼがそう言うとミクは声をたてて笑った。
「そうだ!姉貴。明日時間があるならちょっと僕に付き合ってくれるかな?」ジョゼは勇気を振り絞って言った。
「明日?いいよ、何も予定は無いから」ミクはそう答えたが、その声は少し寂しげに聞こえた。
「じゃぁ、明日の予定に入れといてくれ。午前10時に迎えに行く」力強くジョゼが言った。
「わかった」ミクは明るい声で答え、そして付け加えた。「また姉貴って呼んでるよ。姉貴はやめてよ」
「ごめん。ずっとそうだったから・・・気をつけるよ」ジョゼは苦笑いになって頭を掻いた。
 2人は横に並んで、メトロ乗り場に向かって歩き始めた。

2015.02.15
2015.02.17微調整
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

うおお 
やっぱり、サキさんが書くミクは魅力的〜。
ミクのショートカットをみて衝撃を受けるジョゼ、目に浮かぶようです。
関係ないですけれど、ポルトの空港って、なんとなく「ミク色」なんですよね。
窓ガラスの重なっている色が、ああいうカラーなんです。似合うだろうなあ。

それと、私のところで「ここつっこみどころ」と思って書いた小さい記述を全部拾っていただけて感激です。リボンの件や、ピンも。あ、ピンの件で、ジョゼはもしかしてぐるぐるしている?

ここでもよくわからないんだけれど、ジョゼの恋には希望はあるのかなあ。
私はものすごく応援しているんだけれど、こればかりはミクの胸三寸ですよね。
その舞台の演出家とか、大人の付き合いがあるかもしれないし(ぐるぐる)

せっかくなので、彩洋さんのお書きになるもののお邪魔にならない程度に、小さなお返しを書かせていただきますね。ちょっとだけ、メイコを貸してくださいませ。
なるほど 
更新、お疲れ様でした。

そっか~、あの間にこういう出来事がありましたか。
思えば、私が無茶なリクエストをしたことで生まれたキャラが、コラボを重ねてここまできたんですね。感慨深いなぁ……。
私としても、ミクのこれから先のことはとても気になります。ジョゼとどうなるのかもそうですけど、当面はポリープですよね。
でも、ヴィンデミアトリックス家、ヴォルテラ家、そしてドラガォンの一族、みんなすご~くお金持ちで、すご~く人脈ありそうなので、ポリープの手術は高名な医者に執刀してもらえそうですね。うん、楽勝、楽勝。ミクもジョゼも、安心していいよ~。
あ、恋の行方は安心できないかもしれませんけど(笑)
夕さん 
夕さんありがとうございます。
あまり誉めると図に乗って、また無茶なリクエストをしてしまいますよ。
でも嬉しいです。
あ、そうなんですか、ミク色に見えるのですね。ガラスの建物で使われる「熱線吸収ガラス」や「熱線反射ガラス」は光線の具合によってはこんな色合いに見えるような気がします。
でもですね、ここに登場するミクは普通の日本人ですから、髪の色は黒かそれに類する色ということになるんでしょうね。
でもそんな野暮なことは言わないで、この色はこの子のシンボルカラーということで行きましょう。例の方が選ばれた色ですしね。
多分ピンやリボンは夕さんが突っ込みどころとして用意されているんだろうな、と思いましたので、思い切り突っ込んでしまいました。喜んでいただけて良かったです。
で、ジョゼの恋ですか?夕さんが決着を付けてくださるかな?と期待したのですがまだまだですね。
例の演出家、どんな人でどういう関係なんでしょうね?ドキドキ。
次の彩洋さんがどのように展開させてくださるのか、完全におまかせしていますので、発表を待ちましょう。

夕さんお忙しいのにこれに対する返信も書いてくださるのですか。
ありがとうございます。無理をなさらないでくださいネ。そしてメイコ、遠慮なくどうぞお使いください。
最近出番がないと怒っておりましたので・・・。
TOM-Fさん 
TOM-Fさんがミクの生みの親なのですが、もう親元を勝手に巣立ってしまってドンドン成長しています。今や彼女は28歳ですからね。
少し売れ始めたオペラ歌手ということになっていますし、復帰したら一緒に仕事をしようと言われてトパーズの並んだヘアピンをプレゼントされるくらい、ですから。
手術が上手くいったら上手くいったでまた歌い始めますから、ジョゼはボヤボヤ出来ませんね。
ミク自身ジョゼをどう思っているのでしょう。そうですね、サキは一応応援はしていますが、ミクの本心は決めかねています。
今のところ書いてくださる方の持って行き方次第、というところでしょうか。
マンハッタンシリーズと共に不思議な展開になってきました。
お互いにしばらく楽しみましょうよ。
コメントありがとうございました。
 
こちらも夕さんのお話を丁寧に受け取っての、鮮やかな続編ですね。
皆さんの、まるでリレーのような創作、とても楽しく読ませていただいてます。
ミクや絵夢のお話は今まで読んだことがなかったのですが、こういう部分から知って読んで行くのもアリですよね。

ミクも、シスカに負けないくらいに可愛くてきれいな女の子なんだろうな。ショートカットも似合いそう。
ショートカットの女の子って、好きなんです。
ミクとジョゼの会話がとても初々しくて、この後の二人の展開がまた楽しみです^^
limeさん 
自分で書いていたのではまったく予想できない展開にワクワクしたり驚いたり、ここのところ楽しませてもらっています。
リレーをしている当人はそういう具合でとても楽しいのですが、ただ単に読んでいただいている方はどうなのかな?と思っておりましたので、楽しんでいただけてよかったです。
絵夢シリーズは基本1作ずつの読み切りです。単独で読んでいただいても読めるはずですが、ポルトの関係だけは連作になっています。でももちろんどのような読み方もアリですよ。ルールなんてもともとありません。
ミクはもちろん可愛いという設定です。ショートカットになる予定は無かったのですが、この後の展開もまったく読めなくなってきました。大変です。

コメントありがとうございました。

 
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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
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アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
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左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
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