Debris circus

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頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

物書きエスの気まぐれプロット(12)前編

 月刊ステルラ8月号 投稿作品

HARTS Field

「タモ?」工房を覗き込みながらトロは声をかけた。
 返事はない。トロはおっかなびっくり工房に踏み込んだ。
 タモの工房はトロの工房の倍ぐらいの広さを持っていて、その中央には彼が改造に改造を重ねたトロッコが置かれている。四方の壁は入り口以外全面棚になっていて、複雑怪奇なパーツや工具が納められている。壁際にはやはり複雑怪奇な工作機械が所狭しと置かれ、足の踏み場もない。トロは機械を避けながらトロッコに近づいた。
(今度はどんな改造をしたんだろう?)トロはそんなことを思いながら、台車の足回りやマルベル機関を覗き込みトロッコの裏に回った。そこでトロは今までその陰に隠れていて見えなかった物を発見した。
 それはやはりトロッコだったが、いつも使っているトロッコに比べてずいぶんと小さな物だった。取り付けられている車輪が幅の広い線路用の物なので車幅はそれなりにあったが、軸間をかなりつめているので全長が非常に短い。さらに木製の台枠に板が乗っているだけのこれまでのトロッコと違って、軽合金のフレームに背もたれの付いたシートが低い位置にセットされている。シートの前には操縦用のスティック、下にはマルベル機関が収められている以外一切の無駄は省かれ、全体的に非常にコンパクトに纏まっている。
「へぇ……」トロはその小さなトロッコの周りを回りながら、好奇あふれる大きな焦茶の瞳をそのボディに向けた。
「カッコいいだろ」突然タモの声が響いたので、シートの下を覗き込んでいたトロは驚いて体を伸ばした。
「ごめん、脅かすつもりじゃなかったんだけど」工房の入り口にタモが立っている。
「ああ、驚いた。ビックリさせないでよ」トロは表情を緩めた。そして「これ、何なの?」と小さなトロッコの方を振り返った。
「それを見せたくって呼んだんだ」タモは嬉しそうにトロッコに近づいた。そして自分の肩ぐらいの背丈のトロの横に並ぶと、眩しそうに彼女の髪の間に覗くうなじを見下ろした。
「で?」トロは催促するようにタモを見上げた。
 タモは「あ……」と慌てて視線を前に戻した。「うん。トロはこれ何だと思う?」
「ウチが訊いてるんでしょう?」トロは大きな瞳で見上げる。
「あぁ、トロッコさ」タモは気圧された様子で答えた。
「そんなこと見れば分るよ。何に使うトロッコ?」
「ああ……車輪の幅は気がついてるよな?」
「それぐらい分るよ。広い幅の線路用だね。でも、どうして?」
「もう一度あそこを走ってみるつもりなんだ」
「あそこって、あのトンネル?」
 タモは頷いた。
「でも!あそこはあれ以来入れないよ!いつ来るか分らないんでしょ?」トロは頭の上を通過する列車を思いだしながら言った。
 トロとタモが弾丸列車に轢かれそうになった例の事件以来、あのトンネルは封印が解けたように弾丸列車が高速で通過するようになった。今のところあの列車と同じ方向に向かう一方通行らしいが、運行の間隔は全く規則性が無く、予測は不可能だと聞いている。
「そうらしいな。でもこの前行った場所の向こう側や反対側の先がどうなっているのか見てみたくないか?壁はもう無くなってるんだぜ」
「それは……」トロの大きな瞳は一瞬輝いたが、すぐに不安に曇った。
「だからこれは小さく軽く作ったんだ。奴が来たら素早く線路からどけられるようにね」
「え?これをタモは素早くどけられるの?あんなに早いのに?時間はそんなに無いと思うよ」
「大丈夫さ!」タモはトロの方を見てニヤリと笑った。
「え?まさか!」トロは目を空中に彷徨わせた。
「そのまさかさ。このトロッコは定員2名なんだ」
「う……」トロの目は見えない物を見ているように空中で固まった。始めに見た時、シートの幅が必要以上に広いなとは思っていたのだ。
「だからトロを呼んだんだ。2人ならあっという間にどけて待避できる」タモは得意げに言った。
「でも、リンク切れとか大丈夫なのかな?」
「もう壁は無いんだぜ。リンクはもっと繋がっているはずさ。それにリンクが切れてどうなるかなんて誰も経験したことなんか無い。死んでしまうなんてただの伝説さ」
「そうかなぁ。それにウチ等の炉だけではマルベル機関は保たないと思うよ」
「はは」タモは得意そうに笑った。
「ここに積んでいるのはキルヒホッフ反応機関なんだ」
「なにそれ?」
「つまり、この機関は自分でエネルギーを供給して、フラウンホーファー炉とのリンクとは関係なく動く。そしてこの炉を中心に新しいリゾームが作られるからリンク切れの心配は無い。だからお前が行かなくても俺は行くよ。1人でも飛び降りてここを掴んで跳ね上げれば5秒でどけられるし、分解も可能だから1人でもなんとかなる」タモはサイドに付けられたハンドルを両手で掴んで持ち上げた。トロッコは片側が軽々と浮き上がって、そのまますぐに線路脇に裏返しにどけられそうだった。
 トロはだまってその様子を見ていたが、やがて「やっぱり、ウチも行く」と言った。「2人の方がもっと早くどけられるし、タモ1人だけはずるい」トロの気持ちにスイッチが入った。こうなるともう誰にも止められない。でもそれはタモの作戦だったのかもしれない。タモの顔はしてやったりの表情に輝いた。
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Comments

 
更新、お疲れさまでした。

お、久々にタモとトロのお話ですね。
あの弾丸列車トンネルにまた行くつもりなんですね、たしかに、あの列車がどこから来るのか、トンネルがどこに繋がっていつのか、タモならずとも興味深々です。
レーシングカートを思わせるカスタムトロッコでの冒険、胸がわくわくしますね。今回が前編ということは、近いうちに後編が来るんですね。楽しみだなぁ。
次話の更新、お待ちしています。
こんばんは 
タモったら、あそこに行くためにわざわざ工夫を凝らして大改造したのですね。

一人で行ってもいいと言われると、ちょっとずるいというトロの氣持ち、わかります。
でも、行くのも怖いし?

タモとトロはもの書きエスの小説では一番たくさん出てきていますよね。
どんな風に続いていくのか楽しみにしています。
あ、まず後編か。
TOM-Fさん 
コメントありがとうございます。
そうですね、久しぶりになりますね。
本当に思いつきの断片からスタートして、設定をひねり出しながら一番多く更新を続けてきた、変なシリーズになってしまいました。
タモの作戦にまんまと乗せられれしまったトロの運命やいかに!
カスタムトロッコの活躍にもこうご期待!というほどのこともないか。
いま、続きを書いていますのでしばしお待ちください。
(シスカはどうした?とかは聞かないでくださいね)
ではまた。
夕さん 
こんばんは、コメントありがとうございます。
そうなんです。そのために改造というか、もう軽合金フレームから新造してしまったということなんですね。
タモもそうですが、トロはこげ茶の大きな瞳をくるくる回して、タモに輪をかけて好奇心いっぱいです。それに向上心もあります。
何とか現状を変えていこうとする意志はこの二人の共通点です。
現れ方は男女の違いもあって少し違っていますけれど。
続きですか?やっぱりこの前編も何も考えずに書き終わっていますので、いま後編を書きながら設定を考え中です。
少しお待ちください。

ではまた。

 
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