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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

物書きエスの気まぐれプロット8(H1)

Stella/s 月刊ステルラ4月号 投稿作品

H1

 ダンゴは入り口の引き戸をそっと開けた。赤いリボンで纏めたポニーテールを揺らして隙間から中を覗く。ダンゴは普段、髪を纏めることはあってもポニーテールにはしない。なんとなく恥ずかしいような気がするからだ。まして赤いリボンなんて生まれて初めての経験だった。気になるのか、ダンゴはリボンにそっと手を触れた。
 引き戸の中は薄暗い倉庫で、フレキシブルコンテナが隙間無く積まれている。ただし引き戸を入ったところから正面にある梯子までだけは通路が空けてあって、そこには大きなオートバイが1台置かれている。
 ケッチンの愛車、カワサキのW1だ。ずいぶん古いバイクで、厳つくて重たくて、それに大きな音を立てて、いずれにしろダンゴは好きになれなかった。
『大昔のイギリスのバイクを真似て作られたんだ。だから変速ペダルが右側にある。それを現代でも使いやすくするために、リンクとロッドを使って無理矢理左側に……』何回も聞かされたケッチンの蘊蓄が思い出されて、ダンゴの顔はうんざりしたものになった。おまけにため息まで吐き出される。
 自分が入り込めるだけ引き戸を開けてほっそりとした体を中に入れると、ダンゴはバイクに近づいてむき出しのエンジンにそっと手を触れた。
『冷たい……』ということは今日はまだケッチンは出かけていないということだ。
 ダンゴはいつもなら絶対に履かない短いスカートを気にしながら梯子を上り、ロフトを覗き込んだ。
 ロフトはケッチンの就寝スペースで、ビールケースを並べて作られたベッドの上には布団が敷かれている。布団は綺麗に敷き直されていて人の気配は無い。ダンゴは赤いリボンと一緒に小首を傾げた。
 ガウ~~ンン、バリバリバリ……
 聞きなれない音が響いた。倉庫の裏手からだ。
 ダンゴは慎重に梯子を降りると一旦引き戸を出て、それから路地を通って倉庫の裏手に回った。
 バランバランバラン……まだ聞きなれない音は続いている。白煙が路地に流れ込んできて油の臭いがする。ダンゴは何が起こっているのか想像することが出来ず、急ぎ足で路地を出た。
 倉庫の裏手は白煙が渦巻いていて、中に何かの影が見える。近付くとそれは白煙をまき上げる1台のバイクと、横に立ってハンドルを握るケッチンだった。
「よう!ダンゴ。今朝は早いな」ケッチンが白煙の中から声をかけてきた。
 紺のラインが入った白い燃料タンクにKAWASAKIの文字が見える。
「なに?そのバイク、故障?」聞いてしまってからダンゴはしまったと思った。
「これか?」ケッチンはエンジンを止めた。静かな日曜の朝が戻ってきて、そしてケッチンの蘊蓄が始まった。
「これはカワサキの500SSっていうバイクなんだ。それも最も初期型のH1タイプ、別名マッハⅢって言うんだ」
「この煙は何?」あえて“マッハⅢ”については訊かない。
「はは、ダンゴは2ストロークエンジンは見たことが無いか?原付きで白い煙を出しているバイクやスクーターを見たことがあるだろ?」
 ダンゴは無言で頷いた。
「あれはエンジンの潤滑のために燃料と一緒にオイルを燃やしてるから煙が出ているんだ。原付きは50ccだからあんなもんだけど、このバイクは500ccだからな。きちんと調整できてないからちょっと多いけど故障じゃないんだ」
「これで?」ダンゴは顔をしかめた。
「こいつは俺の友達が持っていたんだけど調子が悪くてさ。交換部品も無いし。それに走ったとしても真っすぐ走らない、曲がらない、止まらない、の3ないじゃじゃ馬で物凄く扱いにくいんだ。怖くて乗れないって、それで俺が買ったんだ」
「また買ったの?これで何台目?」ダンゴは腕組みをして訊いた。
「このバイクは旧車の中では結構人気が有って、すごく高値で取引されているんだ。今回はお買い得だったよ」
 ダンゴはまた大きく溜息をついてから、足を肩幅より少し広げ、両手の甲を腰に当てて言った「それで?」
「とりあえずキャブを調整してエンジンがかかるようにしたんだけど、やっぱりこの3つあるシリンダーの真ん中が焼きつき気味なんだ。で、オーバーホールしてもらおうと思ってこれからバイク屋に持って行くところさ」
「バイク屋って、女の子の店員さんのいるあそこ?」
「こんなゲテ物、診れるところはそこしかないよ」
「またお金をかけるんだ」ダンゴは腰に当てた手に力を込めた。
「まあね」そう言うとケッチンはイグニッションを回してバイクに跨った。そしてキックレバーに足を置くと思い切り蹴り降ろした。
 ガウ~~ン……甲高い排気音が響いて、また白煙が3本のマフラーから吹き出した。
 ダンゴは顔の前に両手をかざしながら2歩3歩と後退した。
 ケッチンは「じゃちょっと行ってくる。代車を借りるからすぐ戻る」と頭をヘルメットに押し込むと“カコン”とギアを入れた。
 ギュウ~~ン……バリバリバリ……カァ~~ンン……
 そして煙だけを残してケッチンは角を曲がって行った。
「ケッチンのバカ!!!」
 煙の中、赤いリボンを揺らしながらダンゴは叫んだ。


「どうだった?」エスはお願いの顔をした。
「起きたのか。どうだ?調子は?」ダイスケは心配げだ。
「ちょっと引っ張りまわしすぎたか?」とエスの顔を覗き込む。
「ううん。大丈夫だよ。それより、どう?見てくれたんでしょ」
「ああ、バイクの蘊蓄の部分は大分書き足したぞ。だがバイクの音は文字ではどうしようもないな」ダイスケは顔を上げた。
「だよね。一生懸命話を聞いても、やっぱりそこのところは上手く書けないよ。見たことも無いんだもの。音も難しいね」
「俺だって実際に乗った事があるバイクじゃないし、やっぱり想像だけどな。まぁ小説だし止むを得んだろ」
「他には?」エスはダイスケの顔を覗き込んだ。
「今回は珍しく纏まってるな。とりあえず1つのエピソードとして完結してる。いつもはほとんど断片なのにな」
「たまには短くても纏まることもあるよ」
「ケッチンはまあこんなもんだろ」
「そう?あ、名前、ありがとうね」
「それからこの子、可愛い子だな」
「そう思う?よかった」エスはニッコリと微笑んだ。
「彼女が腰に手を当てるシーン、これはどうした?」
「これ?これはね、マリアの作品に有ったシーンからいただいちゃったんだ。元気いっぱいって感じでしょ?素敵だなって思って」とエスは同じポーズをした。
「ふむ、確かにな。しかしこの子、ダンゴっていう名前はちょっとかわいそうだぞ」
「はは、ダンゴね。これは幼馴染のケッチンが付けたあだ名なんだ。だからしょうがないということで、本名はちゃんと可愛いのが有るよ」
「なんていう名前なんだ?」
 エスは一瞬止まってから言った。「まだ決めてない」

2014.03.19

ダンゴがなぜ赤いリボンを付けているのか?気になる方はこの作品とコラボしてくださっている夕さんの作品「夜のサーカスと赤いリボン」をご覧ください。
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

あ、これが…… 
こんばんは。
噂のダンゴは彼女なんですね。
うわあ、すごくかわいい子だ。リボンとポニーテール、ケッチンに見てもらいたかったのかな。それなのに、ケッチンはもしかしてコトリの所に行っちゃったんでしょうか。あらあらあら。

男の子って、そういうところありますよね。「髪型? そういわれればいつもと違ったかも、それよりこのエンジンさ……」って。

ダンゴ、かわいいので、またたくさん登場してほしいですね。あ、次は、私が書くのか、ええ〜、どうしよう。頑張ってみます。
夕さん 
ええ、彼女がダンゴです。
かわいい子、というイメージを持っていただいたのならとても嬉しいです。
ダンゴも喜んでいることでしょう。
リボン、誰に付けてもらったのかわかりませんが、絶対に自分ではこんなおしゃれをしない子ですので、誰かの陰謀だったのかな?ミニスカートにしてもポニーテールにしてもそうです。
そういう子です。
それ以外は何も決まっていません。本名も自由にかわいい名前を付けていただいても、そのままで書いていただいても大丈夫です。
このお話は本当にエスの作った断片で、何も設定が無いんですから。

なにか変わったリクエストを、と考えていて思いついてしまいました。
ご面倒ですがよろしくお願いします。
コメントありがとうございました。
わかるなぁ 
先々週パーマをかけたけれど、1週間以上たって、「あ、パーマかけてる」って言ってくれたのは、お客さん(とは言わないけれど)一人だけ。気が付いているけれどあえて言わないのか、気が付いていないのか、本当に不思議。
そう言えば、自分の方にしても、気が付いていても言わないことがあるかも。
こんなふうに男の子に気が付いて欲しい女の子の立場としては、やっぱり「敢えて」言葉にしてほしいですよね。
前半の物語の部分、物語のワンシーンとして本当に素敵なエピソードにまとまっていると思いました。
「赤いリボンと一緒に小首を傾げた」という表現が好きです。

後半は、例のごとく、サキさんの執筆部屋を覗き見る楽しみを味わったような感じで楽しかった。この場面の切り替え、というのか、不意に現実に還る瞬間が、妙に楽しみです。
確かに音って難しいですよね!
マンガなら、音が書いてあっても背景みたいな感じで気にならないけれど、文章の中の音の表現って気になることがあるかも。
何はともあれ、今回もエス、楽しませていただきました(^^)
彩洋さん 
まぁ、普通は気づくことが多いんでしょうけど、照れくさくて黙ってるとか、
なんとなく言いそびれてるとか、ケッチンの場合はどうなんでしょうね?
素で気づいていないならホント困ったもんですよ。
ダンゴが可哀想です。
まだ何の設定も無いのですが、夕さんがどのようなダンゴを書いてくださるのか楽しみにしています。
赤いリボンは少し長めで、ダンゴの動きに合わせてユラユラと動くのをイメージしています。
表現を誉めていただいたのでしょうか?嬉しいです。

今回は音を書いてしまって、とても苦労しました。
書かないで済ませてしまう方法もあったのかな、と思っています。
皆さんはどのように処理されているんでしょうね。
これまで気にしたことが無かったことに、書いていて気づいた次第です。

コメントありがとうございました。
 
更新、お疲れ様でした。

「エス」シリーズが、「254」とセルフコラボという感じですね。
こういう世界観の重なりって、面白いと思います。
ダンゴちゃん、可愛らしいですね。サキさんが描くこういう少女の可愛さは、破壊力あります。ポニーテールに赤いリボン、そしてミニスカート。こういう変化にニブい男の子って、ほんとにまあよくいますよね。ウチの連中も、ケッチンに似たり寄ったりです(笑)
でも、なにかに一生懸命になっている男の子も、それはそれでいいですよね。たぶん、ダンゴちゃんも、ケッチンのそういうところも好きなんじゃないかな、とか思ったりしました。
500ccのツーストですか……音、凄そう。
ツーストエンジンの音って、私は三味線に似ていると思うんですよ。ベベン、ベンベン、べべべべべベェ~って言いながら、走ってますよね。
う~ん、ちょっと違うか(笑)
TOM-Fさん 
軽いコラボになっていたんですが気がつかれましたか?
きちんと登場している訳ではないんですけどね。
でもケッチンはコトリの店へ行ったと想像されても「可」ですよ。

サキの想像ですが、ダンゴはきっと誰かの陰謀でこんな格好をさせられているんですよ。
でもなんとなく嬉しくて、文句を言いながらもケッチンの所へ行ったんだと思います。
それでこれですからね。
ケッチン、困ったもんですよ。
でも、TOM-Fさんのご意見、当たってるかも。
音は文章では難しいですね。
何か良い方法、無いかなぁ。
 
私も読み進めて、すぐに「254」が頭に浮かびました。
サキさんのお話に登場する女の子は、ちょっとだけ男っぽさを持った女性らしくてかわいらしい人が多いですね。

音とか味とかを表現するのって難しいですよね。
グルメ小説(ってあるのか?)とか音楽小説はとてもハードルが高いです。

私の作品にもときどき、別の作品のキャラクターが登場したりします。
私自身が出ることも。笑。
未だに余所様のキャラクターには登場していただいたことはないですけどね。
ヒロハルさん 
お読みいただいてありがとうございます。
そうですね。「254」と軽~くコラボッてます。
女性キャラに限らず、ちょっとワンパターンになってしまっていて、ダメなんだろうなぁ、とは思っているんですが、なかなか他のタイプが書けないんですよ。
サキは結構頑固なんです。
というか、サキの書くお話に登場する女の子はサキの分身であることが多いので、こんな事になってしまうんだと思っています。すみません。
音に関してはもっと適切な方法を考えた方が良いかもしれませんね。

コラボ、楽しいですよ。
プレッシャーが凄いですけれどね。
コメントありがとうございました。

 
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