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Debris circus

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頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

絵夢の素敵な日常(11)(ラグーン)

空気の読めないお嬢様、絵夢が素敵!と感じたことを感じたままに写し取る、読んでくださる方の都合など全く考えない、とっても自分勝手なショートストーリー。
絵夢の素敵な日常の第11話をUPします。

よろしかったらどうぞ。


絵夢の素敵な日常(11)(ラグーン)


 潮騒が微かに聞こえる。
 緩やかな空気の流れがレースのカーテンをそっと揺らす。
 潮の香りがほのかに鼻孔をくすぐる。
 絵夢はそっと目を開けた。
 天井には海面で反射した太陽光線が不思議な模様を描いていて、それは一瞬も静止すること無くユラユラと形を変える。
 絵夢は心地良いまどろみの世界を漂いながらその様子を眺めていたが、やがてシーツから右手を出して枕元をさまよわせた。そして目的の物が見つけられないことが分ると顔を緩め、ゆっくりとベッドの上に起き上った。
 長く伸ばした黒い髪がシーツの下から流れ出す。絵夢はベッドから足を下ろすと立ち上がった。
 広々とした部屋は木を基調とした南国風の内装と調度品の落ち着いた色合いで統一され、ベッドの正面と左側の二方向が大きな窓になっている。絵夢はそのまま正面に真っすぐ歩いて大きな窓に近づいた。
 大きく開け放たれた窓の外は広いテラスになっていて、その向こうには明るく輝く淡いエメラルドの水面が広がっている。ラグーンになっているのだろうか?水面は穏やかで、高度を上げ始めた太陽がその透明度の高さを際立たせる。目を沖に向けると、環礁だろうか?白い水平の帯が海を分かち、その向こうに白く砕ける波が見る。さらに向こうにはコバルトの海が水平線まで続いている。
「ここは?」絵夢は少しの間放心したように窓際に立ちつくしていた。

「お嬢様?」後ろから声をかけられ、絵夢は驚いて振り返った。
 部屋の入り口に女が立っている。やせっぽちな体型、ふわりした黒い髪、白すぎるくらいの肌、丁度好い位置についているのにアンバランスに大きな目、その中に輝く好奇心に満ちた大きな焦げ茶色の瞳。「香澄!」絵夢は一瞬戸惑ったがやがて笑顔になり、そのまま駆け寄ると勢いよくハグをした。長いハグになった。
「どうしたの?急に!びっくりするじゃない」絵夢は体を離すと改めて言った。
「それについてはあまり深く詮索されないほうがよろしいかと……」香澄はサラリと言うと言葉を続けた。「それよりお嬢様、朝食の用意が出来ております。お召し上がりになりますか?」
「そうね。なんだかお腹が空いた。今何時なのかしら?」絵夢はさっきから感じている疑問を口にした。
「朝、ですけれども、時間はちょっと……。ここには時計が無いのです」そう言いながら香澄はテラスの方へ歩き出した。
「あ、それで……」絵夢はさっきいつもの場所に目覚ましが無かったことを思い出しながら、あたりを見回したがすぐに時計を探すのを諦めた。そして香澄に付いてテラスへ出た。
 テラスは大きく張り出した庇に覆われ、それが作り出す影の下にテーブルと椅子がセッティングされている。香澄は朝食が並べられたテーブルに絵夢を誘った。
 テーブルの上には、フランスパンやコーヒー、トロピカルジュースなど定番の朝食メニューの他にトロピカルフルーツを美しく盛り合わせたボールが置かれている。
 絵夢はいつもと違って2人分の用意がされていることを一瞬不思議に思ったが、すぐに「うわ~綺麗」と歓声を上げた。
 香澄は椅子を引いて絵夢を腰かけさせてから「では失礼して……」と、向かいの席に座った。
「香澄とこうして食事をするなんて初めてじゃないかしら?」絵夢は楽しげだ。
「今日は特別です」2人はいただきますを言うと食事を始めた。

「香澄、香澄が来てくれたのは私が6年生の時だった?」ジャムをつけたパンをほおばりながら絵夢が訊いた。
「正確には6年生の3学期の始業式の日からです。一旦退職しておりましたから補助的な立場でしたけれども……」
「そうだったかな?傘を差して空から降りてきたんだよね?」
「またそんなご冗談を。私はメリーポピンズではありません」
 フフフ……2人は顔を見合わせて笑った。
「香澄が来てくれてからはとっても面白かった」
「それはありがとうございます」香澄が嬉しそうに礼を言った。
「だって、メチャクチャなんだもの」いたずらっぽく絵夢が笑う。
「どちらがですか?前言は取り消します」言葉とは裏腹に香澄は微笑んでいる。
「一番面白かったのは2人で香港の家に行った時だったわ。九龍を散策したときは本当に楽しかった」絵夢も微笑み返す。
「散策だったんですか?誘拐事件と間違われて大騒ぎになって、後でこっぴどく叱られましたけれども……」香澄はコーヒーに口をつけながらすました顔で言った。
「ごめんなさい」絵夢は神妙な顔になった。止める香澄を引っ張り回し、警察が出動する大騒ぎになった記憶があったからだ。この後、香澄は絵夢と2人きりで出かけることはなくなった。
「謝ることはありません。私も連絡を怠りましたし、これ以上無いくらいスリルを楽しみましたから」香澄は本当に楽しそうに話し、絵夢も笑顔でそれを受けた。
 2人は朝食を終えてからもそのままテラスで思い出話に花を咲かせていたが、やがて絵夢が大きく伸びをしながら欠伸をした。
「ごめんなさい。2度寝をしてもいいかしら?なんだかまた眠くなっちゃった」
「どうぞ、ご自由になさいませ。ここでは何をしても自由ですから。時計もありませんし」そう言うと香澄は立ち上がり「少しお待ちください。ベッドをお直ししますから」と部屋に入っていった。
 絵夢はしばらくの間ラグーンを眺めていたが、やがて香澄に呼ばれて部屋に入っていった。
 絵夢がベッドに横になると香澄はシーツをかけ「ごゆっくりお休みください。私は隣に居りますので」と言った。香澄がレースのカーテンを閉めたので、部屋は落ち付いた雰囲気になった。
「ありがとう。おやすみなさい。でも香澄、ここはどこなのかしら?」
「それについてはあまり深く詮索されないほうがよろしいかと……」香澄はまたサラリと言った。
 絵夢はゆったりとした気持ちになって天井を見上げていたが、やがて心地よい眠りに落ちて行った。

 断続的に繰り返す耳障りな音に眠りは中断された。絵夢はシーツから右手を出して枕元をさまよわせ、目覚まし時計を見つけるとスヌーズボタンを押した。
 しかし音は鳴りやまない。「香澄!香澄!」訳が分からなくなって絵夢は香澄を呼んだがどこからも返事はない。
 ようやく鳴っているのが自分の携帯電話だということに気が付くと絵夢はサイドテーブルに手を伸ばした。そして携帯を取り、発信者を確認すると電話に出た。
「出るまで鳴らせとのご指示でしたので……」電話の向こうから黒磯の声がする。
 今までのウキウキした気持ちが萎えて行くのを感じながら絵夢は沈んだ声を出した。「ええ、ありがとう。黒磯。もう大丈夫、目が覚めたわ。スケジュールは決まった?どうすればいい?」
 黒磯の長い説明が始まった。絵夢はそれ黙って聞いていたが、思っていたことが思わず口をついた。「香澄の方が優しいな……」
「何かおっしゃいましたか?」
「香澄の方が優しいなって、今なんとなくそう思ったの」
「香澄……ですか?あれはお嬢様を甘やかしすぎます。あれとお嬢様を組み合わせたら最強ですが、破壊力が大きすぎますので……で、あれが何か?」
「ううん。何でも無い。暫く会ってないなと思って」
「お嬢様が独立なさった時にお側を離れましたからね。でも、いつでもお会いになれますよ」
「そうね」絵夢は今度黒磯家に押しかけようと考えて、いたずらっぽい笑顔になった。
「でも黒磯の説明、聞いてなかった。もう一度最初からお願い」
「は?もう一度ですか?」黒磯は今日のスケジュールについての長い説明を最初から繰り返した。絵夢の忙しい1日が始まった。


2013.11.17
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

わあ 
こんばんは。

私の好きな二人が共演しましたね。
あはははは。かつて二人で香港の街角を逃避行のように遊び回ってしまったんですね。この二人なら、確かに無敵ですよね。

夢の中、ちょっと楽園のようなラグーン、いるのは好きなことをさせてくれて暖かい香澄で、これってもしかして絵夢の理想のパラダイスなのかもしれませんね。全く時計がないのは、いつもスケジュールに追われているからなのかなあと思ったり。

そして絵夢はいつも香澄と一緒にいる黒磯をちょっとうらやましく思っているのかもしれませんね。

とてもさわやかな作品をありがとうございました。
また香澄と絵夢を共演させてくださいね〜。
 
更新、お疲れ様です。

わぁ、絵夢だ。久しぶりに彼女に会えて、嬉しいです。
今回は、トロピカルなリゾートで優雅にすごす時間という感じで、素敵ですね。タヒチのボラボラ島や、セーシェルや、モルディブあたりのイメージが浮かびました。時計のないコテージで、気の置けない人とのんびりと過ごす休日……いいなぁ、行って見たいなぁ。
絵夢も、けっこう忙しいみたいですし、せめて夢の中だけでもゆっくりさせてあげたいですね。
読んでいて、すごく気持ちが良かったです。最近、めっきり寒くなってきたので、南の島が恋しいですね。
夕さん 
こんばんは。
共演させました。この2人が共演するのは始めてなんですよ。
サキは書いている途中で気が付きました。
一緒に居て当然の様に思ってましたけど、実は香澄は絵夢の1歳くらいの時に(大阪急行の時ですね)研修で本宅にやってきて、暫く絵夢の世話を手伝っているだけなんです。その後黒磯と結婚、そして出産の時に休職し、仕事に復帰したのが絵夢が6年生の3学期の始業式の日、ということになっています。そこから本格的に絵夢の世話をするようになったんですね。補助的な立場だと本人が言っていますから、正式なメイド的な立場の人は別に居ると思われます。絵夢はもちろん香澄の方に懐いたんですけど。
このラグーンとコテージはサキにとってもパラダイスです。行ってみたいなぁと思ってます。無理ですけど。
あ、夕さんに言われてそうなんだと思いました。黒磯のこと羨ましく思っているかもしれません。
また機会がありましたら共演させますね。
コメントありがとうございました。
TOM-Fさん 
こんばんは~。
そうですね。久しぶりの登場です。そういえば香港急行、大阪急行と絵夢は出てきませんものね。
このリゾート、サキも行ってみたいなぁと思っていて、思い切り空想しながら書いてしまいました。これでも描写がウザくならないように我慢して書いたんですけど、すごく気持ちが良かったと言っていただけたのなら何とか上手くいったんでしょうか?
絵夢って結構忙しくお嬢様をこなしているようなんです。精力的に動く子なので、その性格と若さで保っていると思います。元気ですから。
でも香澄と2人で過ごすコテージでの休日、夢の中ですけどゆっくり出来たと思います。
絵夢のことですから、そのうち実現させてしまうんだろうなと思います。
夢は努力して叶える子ですから……。
コメントありがとうございました。
 
途中まで、もしかして香澄さん死んだのかと思って読んでいたから最後にホッとしました(^^;)

まあ常識的に考えればそうだよな(^^;)
ポール・ブリッツさん 
読んでくださる方を引き込むための工夫でした。

って、そんなわけ無いですよ。
あ、言われてみればそういう雰囲気、なんとなくありますね。
読み返してみるとますますそう感じます。
まったく気がついてなかったです。

勉強になるなぁ。
コメントありがとうございました。

 
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