FC2ブログ
Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

*アスタリスク(11)

Stella/s Stella7月号

 一面の砂だ。
 見渡す限りすべてが砂漠だった。しかもピンク色のだ。
 砂丘の向こうはまた砂丘で、その向こうもその隣も、さらにその向こうにもその隣にも無数のピンク色の砂丘が、永遠とも思える繰り返しで続いている。
 淡いオレンジ色の空にはすべてを圧倒する太陽が輝き、反対側にはそれから逃れるように欠けて薄くなった大小3つの月が、遠慮がちに白い骸骨の様な姿を曝している。
 降り注ぐ強い太陽の光は砂を焼き、その上を容赦なく吹き付ける高温の風が、美しい風紋を描いていく。ここまでつけてきた足跡は、数十メートル歩くか歩かないうちに風によってかき消され、風紋に置き換えられていく。そしてただ1つ己の意識だけを残して、生命活動の痕跡はすべて消え去ってしまう。孤独を友とする人の話を読んだ記憶があるが、ここではそんなことは不可能だ。真の孤独に苛まれた精神は、たちまちのうちに石と化し、粉々に打ち砕かれ、ピンク色の砂に帰化して見分けがつかなくなってしまう。
 地平線のあたりはここよりもずっと風が強いのか、舞い上がった砂塵が赤い雲を形作っている。それは様々な動物を連想させる形を連ねながら眼前に広がり、徐々にこちらに近づいてくる。空想に浸っている時間はあまりなさそうだ。
 ヘッドセットからは、一定の強さで休みなく吹き付ける風の音と、遥か遠方の砂嵐の予感だけが聞こえてくる。それは女性合唱だけで演奏される前衛音楽のように耳に響く。パワードスーツのヒートポンプと送風ファンは回転数を上げているはずだが、その合唱にかき消され意識されることはない。保護装置の力を借りなければ、肌を焼かれ体温が上昇して倒れるまで数分というところだろうか。そして後は水分を奪われ干からびていくだけだ。
「ミラ……ミラク……どこ…………か?」ヘッドセットから途切れ途切れに聞き覚えのある声が流れ出した。電波状態は悪く、映像データはブロックノイズで確認できないままエラーが出た。
「アルマク!どこだ?」あわててナビゲーション画面を覗くがマークは無い。
「アルマク!アルマク!」オレはサーチをかけながら呼びかけを続けた。
 
 必死に呼びかけを続けていたオレは、目の前に拡がる風景がいつの間にか自分の部屋の天井に置き換わったことにようやく気がついた。オレは自分のベッドの中で目を覚ましたところだった。
 部屋はとっくに夜の帳を片付け、朝の舞台転換を終えた後の様子で、可視光線をいっぱいに満たしている。あわてて周りを確認すると、オレの横にはその可視光線を必要としない女が眠っている。彼女は……アルマクと言うのが彼女の名前だが……柔らかな曲面を描く小さな白い背中をこちらに向け、豊かな金色の長い髪をその背中とオレとの間に波打たせ、たわやかな体を少し丸めて眠っている。ゆっくりとそして気持ちよさそうに小さな寝息が聞こえ、それに合わせて肩が緩やかな動きを繰り返す。オレは夢だったことを確信し、緊張は一気に弛緩する。そして、緊迫して流れていた時間もそれに合わせるように急激に速度を落としていく。
 オレはほとんど流れるのをやめてしまったような時間の中で、体の中が安心感で満たされていくのを感じていた。
 だが、やがてアルマクの背中に微妙な変化が表れ始め、アルマクの呼吸が徐々に速くなっていく。そして過呼吸になるんじゃないかと心配するほどになって、全身にじっとりと汗が浮かぶ。オレが声をかけようと手を動かし始めたその瞬間、寝言で何かを呟くと寝返りを打ち、こちらを向いて目を開けた。オレは動作を止めてアルマクを見つめた。
 アルマクは肩で息をしながら、その赤い瞳をオレの方に向けている。あくまで想像だが、じっとオレの方を“見て”いるはずだ。そして艶やかな唇が動き始めた。
「やっと会えた」その唇はそう発音した。
「え?」唐突な言葉にオレは思わず訊き返した。
 アルマクは首を持ち上げて周りを見回してから「砂漠だったんだ」と呟いた。そして枕にトンと頭を落とした。
「さっきまで、ずっと砂漠だったんだ」今、ここに戻ってきたかのように、アルマクは言った。呼吸はまだ速かったが、さっきよりは落ち着きを取り戻しつつある。
「砂漠?」オレは驚きながら思わず「ピンク色の?」と付け加えた。
「うん。オレは1人でそこに居たんだ。でもなぜか近くにミラクが居ることはわかっていた。無線で呼びかけると一旦はミラクの声が聞こえたんだけど、何度か聞こえただけで消えてしまって、暫く呼びかけてみたけどミラクの声は帰ってこないし、サーチをかけても反応は無いし、オレは1人になってしまった。そう思ったら本当に不安になって、パニックを起こしそうになったんだ。そうしたら急に景色が変わって、ここに居た」そこまで一気に喋るとアルマクはいったん言葉を切って、一瞬考えてから「でもなぜ。ピンク色なのを知ってるんだ?」と訊いた。
「オレもそこに居たからさ。そのピンク色の砂漠に……」オレがそう答えるとアルマクは「オレはそこで確かにミラクの声を聞いた。オレの名前を何度も呼んでいた」と言った。
「そう、オレは何度もアルマクを呼んだ。熱い風がずっと吹いていた。風が砂に刻む模様がとても綺麗だった」
「風が刻む模様?あの波みたいな?」アルマクは首を少し傾けて訊き、オレは小さく頷いた。
 アルマクは「そう、綺麗だった。いったいどこなんだろう?同じ夢を見るなんて、不思議な話だね」と言うとそっと寄り添ってきた。そして頭を俺のわき腹に当てグリグリしてから「でもよかった。もう会えないかと思った」と小さく呟いた。
 オレはアルマクの頭を抱いた。
「大丈夫。夢の世界の話だよ」オレはアルマクの耳元で呟いた。
「そう。だったのかな?」アルマクは少し考えてから思い直したように言った。「そうだね。きっと……」
「お腹はすいていないか?朝ごはんにしようか?」オレがいつものようにそう言うと、アルマクは少し間を置いた。
 そして「今はいらない」アルマクはトンッと頭を胸にぶつけてきた。 
 オレはアルマクの体をそっと触った。
「ん……」
 アルマクの体はもう準備が出来ていた。

2013.06.28 イマ乃イノマさんに……
関連記事
スポンサーサイト




テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

おはようございます 
夢の世界の中でも共鳴しあう仲。この二人だったらそれもとても自然です。
ピンクの砂漠は、現実の世界でもどこかに存在しているんでしょうか。
宇宙は広いから、どこかにはあるのかもしれませんね。
そして、二人は本当にそこへ行っていたのかも。


それと、「食っちゃ寝」だけでないアルマクも新鮮ですね(笑)
 
こんばんわ!すみません、わざわざ書いて頂いて!!

同じ夢を見たということはどこかの世界に行ってたんですかね?そして部屋に戻って来たと・・・・・・。

ピンク色の砂漠かー・・・・・・。一度見てみたいですね!!
夕さん 
コメントありがとうございます。
この二人は選び選ばれた者ですから、そういうことが得てして起りうるのです。
ピンクの砂漠、サキも一度見てみたいですが、どこかに有るのかなぁ。
今のところサキの頭の中だけにあります。

> それと、「食っちゃ寝」だけでないアルマクも新鮮ですね(笑)

あ、新鮮でしたか?サキとしてはかなり思い切って書いたんですよ。
推敲の時、先のゲンコツが軽く一発来ましたけど。
エスみたいになっちゃいました。
イマ乃イノマさん 
リクエストいただきありがとうございました。
そしてコメントありがとうございます。
楽しく書かせていただきました。また機会がありましたらリクエストよろしくお願いします。
ピンク色の砂漠はサキがとても見てみたいと思っている風景です。
怪しいでしょうねぇ。それとも美しいのかな?
淡いオレンジ色の空ですしね。

 
ピンク色の砂漠、オレンジ色の空、白い三つの月。
地球ではないどこかの惑星を思わせる、幻想的でSFチックな光景ですね。
砂漠の風紋は綺麗ですよね。ネットかなにかの写真で見たことがあるのですが、地球でも飛行機から見下ろすと砂漠がピンク色に見えることがあるのだそうです。一度、見てみたいなぁ。
ミラクとアルマク、同じ夢を見るなんて「繋がっている」感じがいいですね。前世とか先祖の記憶を引き継いでいるんでしょうかね。それとも、脳波が共鳴している、とか?
素敵なお話でした。でもこれって、やはりなにかの暗示とか伏線なのかな?

次話も楽しみにしています。
TOM-Fさん 
コメントありがとうございます。
どこかで見たような風景でしょうが我慢してください。
サキにはこの辺が限界です。
でもね、TOM-Fさんのコメントにはいつもどきっとさせられます。
設定、読まれちゃってるかな?
どう動いていくのかは、まだまだサキの頭の中で練られていきますのでお楽しみに。
というところでしょうか。
では。

サキ
Re 
風景が彩り豊かですね……それが、夢のなかでつながる。
どこか別の場所を連想させる不思議な回でした
それに、私はこの物語は全部が全部を読めているわけではないのですが、アルマクが久方ぶりに……動いた? というか、キャラ設定の枠から出た動きを見せた感じがしました

以上です。


PS:余談ですが、確か同時に複数人が同じ夢をみることって実例あることだと風のうわさで聞いたのですが、本当なのでしょうかね? 
篠原藍樹 さん 
コメントありがとうございます。
このピンクの砂漠の世界はどこか別の所なんだと思います。
アルマクとミラクは、曳かれあってくっついていますので、同じ夢を見るって事もあるんでしょう。
この2人は運命の2人なのかもしれません。
続きを書くことが出たなら、その辺の設定も書いていけるかもしれません。
また、お越しくださいネ!
お待ちしています。

そうですね。アルマクは少し動いてはみ出たかも……

> PS:余談ですが、確か同時に複数人が同じ夢をみることって実例あることだと風のうわさで聞いたのですが、本当なのでしょうかね?

不思議なことですが、サキにはまだそんな経験はありませんねェ。 

 
<- 06 2020 ->
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -
プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。

山西 左紀

Author:山西 左紀
「山西 左紀について知りたい方はこちら」
(ニコニコ静画フリーアイコンより)

ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
イラストをクリックすると記事に飛びます。よろしければご覧くださいネ!
スカイさんシスカイメージ
スカイさんのシスカイメージ
シスカ・イメージ高橋月子さん作
シスカ・イメージ 高橋月子さん作
シスカ・イメージlimeさん作
シスカ・イメージ limeさん作 コトリ・イメージユズキさん作
コトリ(コンステレーションにて)ユズキさん作
リンク
ブロとも申請フォーム

Archive RSS Login