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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

物書きエスの気まぐれプロット(2)

700拍手リクエスト作品出来ました。
夕さんからいただきました。リクエストオリキャラは「エス」でお題は「虹」です。
よろしければどうぞ。続けて7777HITリクにお答えしていきます。

物書きエスの気まぐれプロット(2)

 こんなに順調にいって良いものなんだろうか?
 夜明け前に死体の処理は終わった。
 冷凍倉庫で芯まで凍らせるのに3日間を要したあの美しい死体は、チョッパーにかけられ細かく裁断され、さらに冷凍されたイワシや添加剤と共に混合されミンチにされ、プラスチックバケットに入れられ、再度冷凍庫に入れて凍らせられた。
 後はこのままそこに並べておけば、8時の業務開始と共に船に積み込まれ自動給餌器によって魚に与えられる。
 そしてそのまま魚の腹に入り込み吸収され、跡形もなくなるのだ。
 すべては無に帰る。
 何もなかったことになって僕の人生はリセットされる。
 僕はチョッパーとミンサーを丁寧に水で洗い始めた。この洗浄作業は毎日何回も繰り返される。痕跡が完全に消え去るのに何日くらい必要なんだろう。僕はそんなことを考えながら開放感を味わっていた。
 勢いよく噴出する洗浄水の水飛沫に、開け放された入り口から差し込む朝日が当たり始めた。早朝の新鮮な光線は、そこに美しい虹を作り出した。

 ハッと目が覚めた。僕は自分の部屋にいる。僕のベッドの中だ。
 左の肩を下にして横を向いて寝ていたので肩が痛い。
 もうすでに夜は明けていて、カーテンの向こうから朝日の気配がする。今日はとてもいい天気のようだ。そして目の前にはアイの顔がある。黒くて艶のある肩より少し伸ばした髪、形の良い小さな唇、行儀の良く纏まった鼻、閉じた瞼の下には大きな焦げ茶色の瞳をもつ愛らしい目があるはずだ。その可愛らしい顔をこちらに向けて幸せそうに眠っている。
 そうだ。僕らは昨日婚約したんだ。知り合ってから3カ月、一方的に僕の片想いだと思っていたが、決死の覚悟でしたプロポーズを彼女は笑顔で受けてくれた。なのになんでこんな変な夢を見たんだろう。夢で見た美しい死体、その顔は確かにアイのものだった。
 アイが何か寝言を呟きながら微かに動いた。僕は髪を撫ぜてやろうと手を動かした。
 その時、僕は背中に気配を感じてそっと寝返りをうった。
 そこにはアイの寝顔があった。
 僕は驚いてベッドの上に上半身を起こして、自分の右側を確認し、左側を確認した。そして両側にアイが寝ていることを確認した。二つの同じ顔、それは夢の中の凍りついたアイの美しい死に顔に重なり、僕を真空中に放り出された生身の人間のような気持ちにさせた。もちろんそんな経験は無いが、血液や体液が沸騰し、きっとこんな風な感じになるに違いない。その時はそう思った。
 僕は暫く茫然と2人のアイに挟まれて座っていた。僕の両側で顔をこちらに向けて眠っていた2人のアイは、ほとんど同時に微かな唸り声を発し、同時に目を開けた。大きな黒い瞳のまったく同じ目だ。そして同時に起き上って「「おはよう」」と言った。二つのまったく同じ声は重奏になって僕の耳に届いた。
 驚く僕に2人はクスクスと同じように笑った。
「アイ?」僕は左右を交互に見ながら言った。
「「ふふ……驚いた?」」2人はまた同時に微笑んだ。それはまるでステレオだ。
「私はマイ」右側のが言った。
「私はミイ」左側のが言った。
「アイは?」冗談のような自己紹介に僕は困惑して質問したが、2人は微笑みを返すだけだ。
 2人はベッドから下りると着替えを始めた。僕は2人の着替えをを交互に見ながら、2人の差異を必死になって探した。これは何かの冗談だ。アイはどっちなんだ。僕はアイの特徴を思い出そうとしたが、それは2人のどちらにも当てはまった。黒くて艶のある肩より少し伸ばした髪、形の良い小さな唇、行儀の良く纏まった鼻、大きな焦げ茶色の瞳をもつ愛らしい目、どちらもまったく同じだ。優しい肩や腰のくびれのライン、肌の白さ、パジャマのズボンを脱いでジーンズに履き替えるときにチラリと見えた左のお尻にある六角形のホクロ、右の足首に巻き付いている龍の形のアザ、細かいところまで2人はまったく同じだった。
 2人は着替えを終えるとキッチンに行き、仲良く並んで朝食の支度を始めた。楽しげにしゃべりながらコーヒーを入れパンを焼く。2人の声はまったく同じで、しゃべり方も同じだ。どちらもアイに間違いない。手つきはまったく淀むところもなく、2人共いつもやっていること、という風に見える。僕はベッドから下りると大股で歩いてキッチンを覗き込み「アイ!」と呼びかけた。
 2人は同時に振り向き「「なぁに?ジュン」」と僕の名前を呼んだ。
 そして右側のが「でも私はマイだよ」続けて左側のが「私はミイだよ」と微笑んだ。
 僕は激しい目眩に襲われた。僕はこれまで3ヶ月間誰と付き合ってきたんだろう。どっちなんだ?いや、2人が交互にいたのか?それともアイは2人とはまた別にいるのか?必死に考えを巡らす僕に2人はまた同時に言った。
「「2人一緒に呼ぶときはアイでいいよ」」

「で、これをどうしろって言うんだ?エス?」ダイスケは食卓に置いたノートPCを覗き込んでいたが、やがてため息混じりにそう発言した。
「クスクスクスクス……」リビングの隅に置かれた小さな机で、PCに向かってタイピングを続けていたエスは、我慢できなくなって笑い始めた。
「何が可笑しい?」ダイスケの声が低くなった。
「ごめんなさい。だって父さん顔が深刻なんだもの。いつものようにどう思うか、聞かせて欲しい」エスはお願いの顔をした。
「そりゃそうだろう。お前はこれをどう続けるつもりなんだ?色々な展開が考えられるぞ。言ってしまえば、導入部分を削除してコメディータッチで展開するっていう手もある」
「さあ。どうだろう?う~ん、何にも考えてない。正直言ってここまでで止まってる。誰かブロともさんに書いてもらいたいぐらい……」
「そんなことだろうと思った。それが感想だ」
「え~~っ!ひどい」
「どっちがだ。I・My・Meの方がよっぽどひどいぞ。冗談は止せ!だ」ダイスケは食卓を離れてエスの前に立った。
「え~。いいと思ったんだけどなぁ。でもそれは仮名ということで、まだきちんと決めていないし、でもなんだか頭の中に出てきたんで出力しておきたかったの。この後この2人は何事もなかったかのようにジュンと一緒に生活するの。そして対外的には1人として行動してアイを名乗るんだけど、まったく同じ彼女が2人居ることを知ってしまったジュンは、2人に翻弄されてだんだんおかしくなっていくの、どう?」エスは上目使いにダイスケを見た。
「それが導入部分に繋がっていくんだな?凍結した死体が上手く魚の餌になるかどうかはわからないがな。髪の毛なんかがちゃんとミンチに混ざるかどうかなんて、検証のしようが無いからな。面白いとは思うがなぁ……」
「ジュンは2人のアイと同時に愛し合ったり、良い思いもするんだよ」
 コツン!ダイスケのゲンコツがエスの頭に落ちた。
「なによぉ」エスは唇を尖らせた。
「お前はオレがお前の何だか考えて喋れないのか?」
「えへへ。そんなに照れなくてもいいのに」
 コツン!ダイスケのゲンコツがもう一発エスの頭に落ちた。
「ああん。ごめんなさい」エスは頭を両手で覆った。
「でも何ていうのかすごく難しいんだ。この2人、良い役と悪い役どっちでもいいんだけど、基本を善意に設定すればコメディータッチで進められるでしょ?でもどちらかを、あるいは両方の基本を悪意に設定したとたんドロドロになるの」エスの顔は少し嬉しそうだ。
「ふ~む。俺は文系の教育は全然受けていないから、そういうのは難しいな」
「ウチのライブラリーデータではまだこの先には進めないということもわかってるんだよ」
「まあ、このまま塩漬けにしておけ、そして何年かしてから読み返して落ち込むんだな」
「あ~。やっぱりひどい!優しい言葉が欲しかったなぁ」エスはまたタイピングを始めた。
 ダイスケは少しの間黙ってエスを見ていたが「優しい言葉は無理だが……」と言った。
「え?」エスが嬉しそうに顔を上げると「後ろ、振り返ってみろ」ダイスケは顎をしゃくった。
「何?」エスは椅子に座ったまま振り返った。
「うわ~~!!!」エスの後ろは大きな窓になっていて、その先には彼方までの眺望と大きな空が広がっている。
「ダブルレインボーだ!!!」そしてその大きな空には地上から地上まで繋がる大きな二重の虹が架かっていた。

 S9004の起動は失敗した。さりげなくニュースサイトのトピックスに掲載された記事はあまり目立たなかったが、関係者に与えた衝撃は大きく、原因は徹底的に調査された。だが、すべてのシステムに異常は無く、原因はまったく不明だということが明らかになっただけだった。ただ、A.I(人工知能)S9000からS9004までの精神原型はすべて同じだったため、試作機以降段階的におこなわれたバージョンアップが原因と思われた。
 4号機の起動失敗は、新しい精神原型を使用する予定の5号機の工程にも大きな影響を与えるため、緊急の対応が取られることになった。つまり、試作0号機を使って4号機の精神サルベージをおこなう事が決定されたのだ。
 この作業をおこなえば4号機の起動失敗の原因を究明できる可能性がある。上手くいけば起動させることも出来るかもしれない。反面、失敗すれば正常に機能しているA.Iを失う可能性もある。
 現在起動しているA.Iの中から試作0号機が選ばれたのは、失うものの量が一番少ないから、という単純な理由に過ぎなかった。
 サルベージ作業は3日後におこなわれる予定だ。



2013.06.13 夕さんに……
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

 
こんばんは。

エスの書く作中作がなにかを示唆するようでもありますが……
試作4号機が起動失敗ですか。そして、サルベージの結果0号機も壊れるかもしれない。
うーん、続きが気になる!

それはさておき、ダイスケお父さんの言うとおり、作中作のこの先はどんな展開も考えうるものですね。
序盤はややグロテスクですけど……

物語ありがとうございました。
栗栖紗那 さん 
コメントありがとうございます。
頭の中に出てきたものの、先へ進めそうもない物語をここに載せている……そんな感じです。
ですから、あまり示唆するようなこともないのですが……
4号機の起動失敗はこのお話に少し影響をあたえるかもしれませんが、続きの構想はまだカオスです。

次のリクエストにもお答えしなくちゃいけませんからね。
ではまた。
 
ちょ、ちょっと、精神サルベージってなんですか〜。
三日後にエスがダメージを受けたりすると、すごく困るんですけれど! 「夜のサーカス」的に!
という、利己的な感想はさておき、早速書いていただきありがとうございました。
しかも、最後に献辞がある。嬉しいなあ〜。

この作中作そのものが面白いお話になりそうだなあ。どうなっちゃうんでしょう。名前に笑いましたが、確かにアイ・マイ・ミーって全部普通の女の子の名前になりますね。

ダイスケは精神サルベージのことを知っていて、このお話が塩漬けのまんまになる可能性を思いながら虹を見せているんでしょうか。虹が幸運の予兆になりますように。
夕さん 
精神サルベージってなん何なんでしょうね?
でもとってもやばい作業みたいです。上手くいくと良いんですけど。
でも大丈夫ですのでエスは存分にお使いください。
夜のサーカスのエス、楽しみにしています。

名前はあくまで仮ですがノリで付けています。
このままで行っちゃえ!とか思ってました。

この先どうするかまだちゃんと決めていませんし、いろいろな意味に取れるように書いてきたつもりです。
また機会があれば追加しようかなと思っています。

コメントありがとうございました。

 
面白い設定なので、是非最後まで書き切って欲しい気持ちが・・・・・・。

でも栗栖紗那さんへのコメントで、「頭の中に出てきたものの、先へ進めそうもない物語をここに載せている……そんな感じです」と書かれてあったので、ああ、なるほどと納得してしまいました。

今は無理でも、いつか書き上げてくれることを願って。
ヒロハルさん 
こんな断片をお読みいただいてありがとうございます。
そうなんです。サキの筆力ではここから先へは進めないんですよ。
サキも面白い設定だとは思うんですけど。
特にマイとミイのどちらかを“悪”に設定した場合、展開を考えるとドキドキします。
でも、サキの言い訳でなるほどと納得していただけたのならよかったです。

> 今は無理でも、いつか書き上げてくれることを願って。

そうですね。いつか書けるように精進します。
わざわざコメントをいただき、ありがとうございました。


 
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