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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

物書きエスの気まぐれプロット

ポール・ブリッツさんに、愛をこめて……
そしてエスの大切な友人に、感謝をこめて……。


 フラウンホーファー炉、それは様々な物質をエネルギーに変え、逆にエネルギーから様々な物質を生成することが出来る変換炉だ。大型の物から小型の物まであるが原理は同じで、大型の炉からは様々な物質、人類に必要なあらゆる原材料が生産される。
 一方小型の炉は大切に彼女の体内に埋め込まれ、生命を維持するためにあらゆる物質を供給する。これを埋め込まれた者は何も食べなくても生きて行けるのだ。
 炉から発生するエネルギーは、受容器を備えたあらゆる機器に有線を介すること無く送られ、それらを駆動する。余ったエネルギーは、個体毎にハブとして機能する炉の相互リンクによって作りだされたリゾームに溢れ出す。それは、単にエネルギーのスマートグリッドとして機能するだけでは無い。同じ機能を利用して超高速で大容量のデータをやり取りする巨大なソサイエティーを構成する。
 さらにこの炉は作られてから何の補充も無しに、200公転期は機能を維持することが出来る。
 200公転期、それは目の前に置いたパワータブのタッチキーボードを軽やかに叩いている彼女の余命の優に二倍はある。
 フラウンホーファー炉。それの発見は、彼女達、ここでいう人類のすべてを変えた。


「エス、帰ったよ!ただいま」ダイスケの声が聞こえた。
「おかえり」リビングの隅に置かれた小さな机で、PCに向かって軽やかにタイピングをしていたエスは、モニターを見つめたまま答えた。
「ケイは?」キッチンを覗きこみながらダイスケが訊いた。
「母さん?回覧板を回しにちょっとそこまで出てる。すぐ戻って来ると思う。立ち話が長引かなければね」タタタタッと軽いタッチの音を立てながらエスが答えた。
「で、父さん、先に風呂に入る?湧いてるよ」ちらりと顔を上げてエスが訊いた。
「そうさせてもらおうかな。ケイも済ませたようだしな」
「じゃあ、上がったら作品を見てくれる?まだ断片しかないけど」
「おお!俺でいいならな」服を脱いで下着でウロウロしていたダイスケはバスルームに消えて行った。

 マルベル機関は軽やかな音を立てて快調に回っている。
 その動力を受けて台車は快調に線路を走る。
 トロの台車は町の工場で作られた小さな車輪に木製の台枠を組み、その上に板で作った荷台を載せた簡単なトロッコだ。これで人や荷物を運ぶのがトロの仕事だ。
 今日のお客はおばさん連中が5人、野菜のたっぷり詰まった籠を台車の上に置いて、世間話に花を咲かせている。彼女らは町へ野菜を売りに行くのだ。トロは彼女らの会話に耳を傾けながら、町の外れにある青空市場へと台車を進めていた。台車はレールの継ぎ目を通り過ぎるたびにゴトン・ゴトンと振動する。台車にはサスが無いので、振動はダイレクトに伝わりお尻に堪える。おばさん連中もトロも、断熱材を入れた袋をお尻の下に敷いていた。
 線路は高架橋のスラブの上に敷かれていて、ほぼ真っすぐに伸びている。頭の上は刷毛で軽く掃いたような雲が所どころに有るだけの吸い込まれるような青空。周りは一面の緑深い森。そして、森の彼方には降り注ぐ太陽の下、キラキラ輝く海が広がっている。海は台車の進行に合わせて木々の間に隠れたり、またパァッと広がったりしてトロを退屈させなかった。トロの真黒な髪は肩まで届いてはいなかったが、微かに潮とフィトンチッドの香りを含んだ風を受けて、気持ち良さそうに揺れいていた。好奇あふれる大きな焦茶の瞳は、目の前に広がる世界の無限の大きさと、5人の客から受け取ったチップの気前良さに輝いていた。さらに車輪の軸受けをメタルからベアリングに交換して走行がとてもスムーズになったこともトロの顔を明るくさせていた。
 間もなく前方に駅の跡が見え始めた。台車がそこに近づくと内陸の方からもう一本の高架橋が寄り添ってきた。その上にはやはり線路が敷かれていて、やがてトロの台車の走っている線路と合流する。ゴトンゴトン、台車はひときわ大きな音を立てて分岐ポイントを通過した。錆ついた分岐機には、内陸へ向かう方向へ開いた形跡は無い。
 トロが酒場で耳にしたところによると、内陸へ向かう線路は新界というところに繋がっているらしい。でも、そこへ着くまでにリンクが切れるという噂もあった。“リンク切れ”それはすなわち死を意味していた。
 トロは内陸に向かって伸びる線路を、台車の上に立ちあがって眺めてから、プラットホームの跡に目を戻した。減速してホームに沿って緩やかなカーブをなぞると、今まではホームの影になっていて見えなかった線路の向こうから、一台の台車がこちらに向かってくるのが見えた。トロは額に手をかざしてトロッコを操っている主を見た。「タモ?」先に出発した仲間の名前を口に出し「もう折り返してきたのか。速いなあ」トロはすれ違いの為に台車を止めると、前方にある分岐機の方へ歩いて行った。


 風呂上がりのダイスケは、パジャマを着た上にフリースを羽織って、リビングのPCの前に座っていた。
「うーむ」と薄くなった髪をかき上げる。
「この台車はこの間テレビでやっていたのがあったよな。あれがモチーフか?」
「あれ?ばれた?そう。それを使ってる」エスはチロリと舌を出した。
「この話の前半部分の“フラウンホーファー炉”か?これはなんだ?」
「これを埋め込めば、何も食べなくてもとりあえず生きてはいける。すべての物質やエネルギーもこれがあれば無限に供給できる。食べ物ですらそうなの。食べなくても生きていけるとしても、人間にとってやっぱり必要でしょ?すべての物にほぼ無限の循環が与えられるの。こんなものが人間に与えられたらどうなるかなって思って、ババッと書いてみたの」と言ってヘヘッと笑う。
「ネットワークもだろ?」ダイスケはエスを見た。「あくせく仕事をしなくても食っていけそうな社会が出現しそうだな。面白い発想とは思うが、これは難しいぞ。矛盾なく展開させられるか?それにこの後半?マルベル機関の部分にどうやって繋げるんだ?」ダイスケは一応厳しい顔をした。
「マルベル機関もフラウンホーファー炉からのエネルギーを受容器で受けて動くんだよ。この万能の炉を発見した人類が、その後どういう道をたどったのか。トロのいる世界はその後の世界なんだけど、なぜこんな世界になったのか。トロやタモ達は幸せなのか。内陸に続く線路はどこへ繋がっているのか。謎はとてもたくさん有るわ。そしてあとは父さんが考えるんだよ」エスはあっけらかんと答えた。
「バカヤロウ!お前の作品だろう?」ダイスケの声は思わず大きくなった。
 エスはそれを笑って受け流し「わかってるって。そんなにむきにならないでよ。もう少しまとめてから校正をお願いするよ。まだまだ荒削りなきっかけだけの断片なんだけど、今の段階で意見を聞いておきたかったの。」とお願いの顔をしてから続けた「でね、あともう1つ意見が聞きたいの」
ダイスケは、お願いの顔はまだ練習の余地があるなと思いながら、「なんだ?」と、少し顔を優しくして訊いた。
「ウチのブログのブロともさんで、ウチに会いたいっていう人が現われたの。女の人なんだけど、20代後半くらいかな。用事でこっちに来るらしいんだ」
「会いたいったって……それは無理だろう?」ダイスケは困惑の顔になった。
「わかってるって。それは何とか説明したんだけど。ラージエスでもいいから会いたいって」
「ラージエスって俺のことか?無理だって、相手は若い女性だろ?無理無理!それに会ってしまったらどうしたって、なぜおまえが会えないのか説明することになるだろう?それは俺にとって……楽しいことじゃない」
「だよね……。分かった。何とか説明してみる。それを聞いておきたかったんだ」
「相手に失礼にならないように、そしてこれからもブロともとして付き合ってもらえるようにちゃんと言えるか?それに付いては俺は校正できないぞ」
「考えてみるよ。難しいけど」エスはぎこちなく微笑んだ。
 その時、ドアが開く音がした。
「あれ?もう帰ってるんだ。すっかり遅くなっちゃった」玄関から声が聞こえた。
「母さん。やっと帰って来た」エスの顔がパッと明るくなった。
「いつまで井戸端会議をやってるんだ。ケイ。もう風呂も上がったぞ」ダイスケが玄関に声をかける。
「すみませんねぇ!じゃあ急いで夕食にしましょう」ケイはパタパタとキッチンへ入っていった。
 ダイスケとケイは食卓に向かい合わせに座って食事を始めた。エスは2人の会話に時々加わりながら、リビングの隅に置かれた小さな机で、PCに向かって軽やかにタイピングを続けていた。

 S9000……それは後ろにシリーズを付けるとA.I(人工知能)の形式名になる。単にS9000と表記すれば、それはS9000シリーズの個体番号になり、一桁目の0は試作機を表す。本体である頭脳は相応に大きくなるし、発熱もするので特定の場所に置かれている。したがって、通常人の目に触れるのはボディだけだ。S9000の場合、ボディは別名“人形”とも呼ばれる人型の本格的なものと組み合わされている。
 本体とボディの間は、大量のデータを高速でやり取りする必要があるので、専用の回線と専用の無線インターフェース・ステーションを使用する。そのためボディはステーションからあまり離れることは出来ない。せいぜい半径100mの範囲を動き回ることができる程度だ。外観も有名なデザイナーの手でデザインされてはいるが、人間とそっくりな形態は取らない。フィギュアチックな外観を選択したのは、下手に人間そっくりにして違和感を覚えるのを防ぐためだ。S9000とコミュニケーションを取る人間は、人間とは違う知性体として接することができ、かえって違和感を覚えることは少ない。現在のA.Iは、まだそこまで完璧に人間と同じように機能することは出来ない。
 だから人間に似て非なるものであるS9000は無理やり食事を取るふりをする必要もない。食事をする人間の邪魔にならないように軽く会話に加わりながら、PCに向かって軽やかにタイピングをしていても少しも不自然ではない。
 試作機から3号機までの運用テストは現在継続中で、4号機S9004の起動は間もなくの予定だ。


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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

 
左紀さん、早っ!
この短時間でこれ書いちゃったんですか?

新生エスはシリーズにしても面白そうですね。エスの書く物語と、エスの話そのものと。それに、ダイスケ夫婦と、エスのブロともの話も……。

P.S. 先さんの正体がわかったような……
夕さん 
コメントありがとうございます。
結構創作時間はかかっていると思いますよ。
やっぱりじっくりタイプですから。でも、まだ読み返していて次に進めないんですけどね。
シリーズ化は今のところ考えていません。
フラウンホーファー炉やトロ、タモ、S9000は活躍させてみたいんですけど……
なにしろ気まぐれプロットです。展開はなかなか大変です。

> P.S. 先さんの正体がわかったような……

ドキッ!!!
この物語はフィクションです。実際の人物や団体名とは関係ありません。

ではまた。
 
エスとは人工知能だったんですか。

SFとしては、これから「先」の物語を期待してしまいますが、それを書くと長編になってしまうよなあ(^^;)
 
こんばんは。

ほぉ……この物語の進ませ方はいいですね。
作中作の“虚”とエスシリーズが稼働する“実”。
入り混じりつつ、この短さで纏めきる技量は、ボクには真似できそうもないですね。

そして、仄めかすようなブロとものという言葉は、読んでいて思わずクスリとさせるもの。
穿ってみれば、これは左紀さん自身の物語のようでもあります。なにせ、イニシャルのSですからね……
ポール・ブリッツさん 
> エスとは人工知能だったんですか。

そういう取り方もできるように書いていますが、思いつきのアイデアで本当にバラバラです。
断片という形はポールさんからの受け売りです。

> それを書くと長編になってしまうよなあ(^^;)

そうです。大変なことになってしまいそうです。
コメントありがとうございました。

エス
栗栖紗那さん 
> ほぉ……この物語の進ませ方はいいですね。

ほめていただいてありがとうございます。
継ぎ接ぎでわかりにくい上に読みにくいかなと思っておりましたので嬉しいです。
そして、少し安心もしております。

> そして、仄めかすようなブロとものという言葉は、読んでいて思わずクスリとさせるもの。
> 穿ってみれば、これは左紀さん自身の物語のようでもあります。なにせ、イニシャルのSですからね……

この物語はフィクションです。実際の人物や団体とは関係ありません!!!
と強く主張しておきますが、まぁ作者の心情の一部を吐露したものではあります。

コメントありがとうございました。
ではまた。
 
こんばんは。読ませてもらいました。
虚構の世界の中の虚構の中の虚構……? ん? どこまでのことかな?
一つの作品で、二つの作品が読める。二度おいしいですね。

毎度のことながら、作り込まれたSF設定には唸りますね。
さすがです。

ところでなぜ「ポールさんに愛を込めて」なんでしょう?
ヒロハルさん 
お読みいただいてありがとうございます。
次々と読んでいただいてとても嬉しいです。
サキも読ませていただきたいのですが、なかなかお邪魔できず申し訳ないです。

このお話、当ブログ6000HIT達成記念イベントで、ポールさんからオリキャラ“エス”のリクエストをいただいて書いたものなんです。
ですから「ポールさんに愛を込めて」になってるんですね。
よくわかりませんか?まぁ良いじゃないですか。

このシリーズ、サキが思いついても展開できていないストーリーをはめ込んで纏めています。
本来発表できない物語を断片の状態で出してしまえるので、けっこう思い切った作品の実験が出来ています。
読む方はたまったもんじゃないでしょうけど。
SF設定、誉めてもらって嬉しかったです。

コメントありがとうございました。

こんばんは 
このたびは自企画にご参加いただき
ありがとうございました。

まず最初に、字が二色あることに驚かされました。
そして作中作と現実とが交差していることがわかって
二度驚きました!
すごい素敵なアイディアですね!

そしていつもながらの緻密な描写はさすがですね^^
皆さん仰っておられますが「エス」というと左紀さんを
連想させられますね。いえ、フィクションだということは
わかっているのですが、「どこまでがフィクションなんだろう?」
という想像させられるところが面白かったです。
ブロ友さんへの気持ちは、読んでいて心が温かくなりました^^

素敵な作品でのご参加、ありがとうございました。
canariaさん 
こちらこそすみません。
なんだか思い立ってしまって、リベンジアップしてしまいました。
それに、さっそく読んでくださってありがとうございます。
こういう物語の断片や異世界の設定は頭の中にすぐに出てくるのですが、物語として纏まることは希なんです。浮かんできた物がちょっよもったいなくなってこんな形で発表したのですが、こんないいかげんな書き方では混乱しますよね?
一種の実験作品というところです。これを書き始めた頃はまだ小説を始めたばかりで、なんでもかんでも実験的に書いていたんです。お邪魔でなければ続けて掲載させていただこうと思っています。

carat!(カラット)の発刊、楽しみにしています。
わざわざの感想コメント、ありがとうございました。


 
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