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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

---37---

 *

 ヨウコはマザー2の自分の船室で1人座っていた。同室のシスカとアツコはオルガに泊まっているので、今はヨウコが部屋を独占できているのだ。ヨウコは鞄の中から携帯端末を取り出してイヤホンを接続し片方の耳に入れ、画面を何度かタッチするとそれに向かって喋り始めた。
「部長?お元気かしら?」
 イヤホンからは男の声が聞こえる。「お気遣いありがとう。元気にやってるさ。ゴリアテ、君は?おっと!今はヨウコだったな?」
「ええ、こちらはなんとかやってますわ。レポートは読んでいただけました?」
「読ませてもらったよ」
「じゃあ報告事項はそれ以上ありません」
「うむ!完璧な報告書だったよ。事件が解決していないことを除いては」
 ヨウコはそこでため息をついた。
「これがそんなに簡単に決着すると思われますか?皮肉はよろしいですから、こちらの質問に答えていただけますか?」
「うむ。君の質問は非常に興味深いものだった。あらかじめ言っておくが全ての前提を覆す恐れさえある」
「それはどういうことですか?私は少し気になった言葉の意味を尋ねただけなんですが……」ヨウコは部長の発言の真意が理解できずに質問した。
「君はネラヴ人の話を聞いたことがあるか?」
「ネラヴ人ですか?聞いたこと無いですね」
「又聞きの発音にも随分と惑わされたが、君の質問の“ラド・ネラック”というのはおそらくそのネラヴ人が話していた言葉、ネラヴ語だ」
「話していた?」ヨウコは過去形であることが気になって訊いた。
「そうだ。その民族も、その人々が暮らしていた国ももう存在しない。その国、というか先の大戦直前までベクレラの西のはずれにあったネラヴェラという小さな自治州だった」
「なぜ、存在しないんですか?国や民族が消えるということは相当大きな出来事だと思うんですが、なぜ私の記憶にないんですか?」
「まず最初の疑問に答えよう。ネラヴ人はベクレラに侵略され服従を強いられてきた歴史を持っている。そして何度も解放を求めて立ち上がっている。大戦直前にも独立を企てて立ち上がったんだが、その地域に住むベクル人を保護するという名目でベクレラ軍の侵攻を受けて鎮圧された。そしてそれが最後の抵抗になった。その後自治州は自治権を剥奪されて隣の共和国に吸収され、今では影も形も無い。ネラヴ人とベクル人の混血もさらにすすんでいる。言葉も伝承されていないはずだ。そのせいもあって解読に非常に手間取ってしまったのだ」
「言い訳はいいですから“ラド・ネラック”というのは?」ヨウコは冷静な様子で部屋のドアを見つめながら訊いた。
「“ネラック”というのはネラヴ人の信じる全能の神だ。“ラド・ネラック”で神への感謝の言葉になる。色々な意味を持つが君の言ってきた場面で使われたとすれば、それは“いただきます”という意味で使われたと思われる」
「じゃあ、そういう意味では何も不自然なことは無いですね」
「そういうことになるが、ことはそう単純じゃない」
「といいますと?」
「この言葉を使った人間が居るということが気になる。君の質問だけではどのような人物がその言葉を使ったのかわからないが、使うということはネラヴェラに縁のある者の可能性が高い。この言葉は現在ベクレラでは使うことを禁じられていて、あえてこの言葉を使う者がいるとすれば、それは紛争後地下に潜った抵抗組織ぐらいしか考えられない」
「それは侵攻したベクレラに恨みを持つ組織に属する者の可能性があるということですか?」
「君の推測は正確だ。ただもう一面の現代史を理解していない」
「私は現代史の専門家じゃないですから。皮肉はいいですから本質を教えてください」
「君にお願いされるのは快感だね」
「事件の解決が遅れたのは部長の回答の送れが原因だったと、報告書に書きますよ」
「ははっ、それは勘弁願いたいね。実はネラヴェラ自治州がベクレラの侵攻を受けたとき、援助を求めた国がある」
「援助……ですか?」ヨウコは一瞬思案していたが「まさか」と声を上げた。
「そう。その、まさかだよ。ベクレラとの領土問題を抱えていた我が国、イルマに仲裁と援助を申し入れているのだ」
「続けてください」
「だが大戦に突入する直前であったために、イルマはここでベクレラとの関係を悪化させるわけにはいかなかった。イルマはその要請を無視したのだ。だから要請の記録はいまやどこにも残っていない。この紛争自体の記録も跡形もなく消されてしまっている。連合を組む必要のあったグロイカでも同じような対応だ。まさにネラヴ人は歴史の狭間に消された民族ということができる。君の膨大なメモリーに無いのも無理はない。これがさっき君が訊いた二つ目の疑問に対する答えだ」
「ということは、侵攻したベクレラに恨みを持つだけでなく、見捨てたイルマにも恨みを持つ者の可能性があるということですか?」
「この情報だけでは断定できないが、その可能性があるとはいえる」
 ヨウコは軽い目眩を覚えた。「今部長が話されたことは、私の調査にとってとんでもなく重要な要素になっていると思われますが?」
「そうだな。そういう組織の存在は、今回のガス田事故はおろか、マザー2爆破事件へのこの組織の関わりをうかがわせ、しかも一気にテロという言葉を浮かび上がらせる。全ての前提を覆す恐れさえあるというのはそういうことだ」
「私はどうすればいいですか?」ヨウコは困惑した声で尋ねた。
「マザー2爆破事件について、我々は単純にベクレラ側の妨害工作だと考えていた。確認になるが、君にマザー2スタッフの調査を命じたのはこの事件への協力者の存在を疑ってのことだ。だが君を送り込んだ船はオルガに派遣され、君が何気なく聞いた一言から、予想外の当たりくじを引いてしまった可能性がでてきた」部長はいったん言葉を切った。そしてトーンを少し下げて続けた。
「ヨウコ、その言葉を使ったのは誰なんだ?」
「すべてはまだ仮定と可能性の範囲をでていません。ですからもう少し調査を進めてからお答えします」
「今の段階で強制はしない。そのまま調査を続けてくれたまえ。だがミッションは変更するわけではない。あくまでこの事件の協力者の調査という範囲内でだ。だがその過程で明らかになる事柄に制限をかけるつもりはないが……」
 ヨウコはまた大きく溜息をついた。「またそれですか……連絡を終えますが、他に何かありますか?」
「ネラヴェラの抵抗組織に関する情報をファイルで送っておいた。現状については何もわかっていないが参考にしてくれ。他には特にない」
「では、また連絡します」
「気をつけてな」
 ヨウコはベッドにバタンと倒れ込むと、上を向いたまま目を閉じてじっとしていた。
 そして30秒後、腹筋を使って勢いよく起きあがると携帯端末を操作し始め、苛つくように同じ操作を何度か繰り返してから「チッ」と舌打ちをして、そのまま部屋を飛び出していった。


2013.10.22 訂正追記
(2014/04/26 更新)
(2014/08/13 更新)
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Comments

 
「シスカ」第37話まで読み終えました。とりあえず、ここまでの感想を書かせてもらいますね。
 物語として、面白いと思いました。
 シスカの身体的特徴である、プラチナブロンドの髪とオッドアイを、彼女のアイデンティティプロブレムに直結させ、その謎の解明と問題の解決がテーマに据えられている、というふうに読み解いたのですが、合っていますでしょうか。私はどうも読解力が不足気味で、若干心配なので(笑)
 それを前提にすると、きちんとストーリーとリンクしている点は、上手いなあと感じました。
 文章表現も端正で、読みやすかったです。ところどころに出てくるマニアックな内容や、陰謀めいた部分も、私の好みに合うので、読んでいて楽しかったですね。架空の世界ですが、微妙に現実世界をほうふつとさせる部分があって、その点も面白かったです。
 やはり、サキさん(でいいんですよね)とは、なにか波長が合っているような気がします。
 物語は、そろそろ佳境というところかとお見受けします。続きがすごく楽しみですので、次話の更新をお待ちしています。
 あ、でも無理はしないで下さいね。こんなこと書いていても、読むのは結構遅いヤツなので(笑)
TOM-Fさん 
おぉ!シスカ37話まで読んでいただけましたか、ありがとうございます。
面白いと言っていただけて喜んでいます。この一言が一番嬉しいです。
TOM-Fさんで完読していただいた方、何人目だろう。まぁ1桁なのは間違いないですけど。
この長い駄文を読んでいただけただけでも感謝です。
そうなんですよ、シスカのアイデンティティプロブレム、これがこの作品のテーマなんでしょう。
「アイデンティティプロブレム」って言葉は夕さんのブログの記事で始めて知って、意味をなんとなく理解したんですけど、サキは専門的な教育を受けたわけでも勉強したわけでも無いので、小説の仕組みや作法ってのがよく分かってないんですよ。作品を書きながら0からの勉強です。端正で読みやすいとのお言葉にホッとしています。
マニアックな部分は先の影響を強く受けています。
この架空世界はサキの脳内で構成されたもので、シスカを生活させるためだけに考え出しました。
楽しんでいただけたのなら良かったです。
まもなくTOM-Fさんのお題作品と、シスカ38話をUPする予定です。
コメントをいただければ嬉しいです。
では。

 
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Author:山西 左紀
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