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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

新世界から

scriviamo!

BLUE HOLE

 大佐はズイキの敬礼に丁寧に応じてからおもむろに口を開いた。「君に来てもらったのは他でもない」
 司令部の執務室は午後の日差しで満たされ静まり返っている。大佐のよく通る声だけが辺りの空気を振るわせる。「軍へ復帰してもらいたい」
 ズイキは少し目を見開いて薄い唇をきつく結んだ。
「どうだ?君は退役したつもりでいるようだが、実際のところ君はまだ軍籍を持っている。その気になれば予備役からの手続きは簡単だし、復帰前後の面倒ごともすべてこちらで的確に処理する」大佐は机の上にあったファイルを手にとった。「君の戦歴は素晴らしいものだ。当然ながらそれに相応しいポジションも用意する」
 大佐は一拍を空けてからさらにたたみかけた。「再び操縦桿を握って大空を駆け回ってみたいとは思わないか?少尉」
 その瞬間奇妙な浮遊感がズイキを襲ったが、それをなんとか堪えて彼女は眉の間に皺を寄せた。「私は予備役です。もう少尉ではありません」
「硬いことは言うな。復帰すれば君にはもっと上のポジションが与えられる」
「私が除隊を申し出たとき、軍医の診断書を提出したにもかかわらず、除隊は認められませんでした。傷痍軍人ではなく予備役として軍に籍を残す。それが軍務を離れられる唯一の選択肢でした」
「その判断は賢明だったと我々は考えている」大佐は視線を窓の外に向けた。
「ただ、復帰には私と担当医の同意が必須という条件が付いていたはずです」
「愚かな妥協をしたものだが、担当医からは同意をもらっている」
「圧力をかけたんですか?」ズイキは気色ばんだ。
「そんなことはない。担当医とは十二分に話し合った。君は軍務に耐えられる程に回復している。君さえ決断してくれればすぐにでも軍は君を厚遇・・・」
「お断りします」ズイキは大佐の言葉を遮り、ピシリと敬礼をきめると扉に向かって決然と歩き始めた。
「オッドアイが戦線に戻っている」大佐がズイキの背中に向かって言葉を発した。
 ズイキの足が止まる。
「奴が?どうやって?」オッドアイが所属していた軍は敗戦で解体されたはずだ。ズイキは思わず大尉に顔を向けた。
「大勢のパイロットが奴の犠牲になっている。生存者の中には君の目撃情報と同じオッドアイを見たと報告する者が何人かいる。どうやら外国人部隊として参戦しているようだが、我が軍の損害は甚大で、パイロットが抱く恐怖も大きい」
『居場所を見つけたという訳か』ズイキは小さく呟いた。
「わざわざコックピットを相対させて己の特徴を見せつけているのは西域戦線でエースを張り合った君に対する挑発ではないのか?」
「失礼します」ズイキはもう一度大尉に敬礼を決めると、今度は立ち止まらずに執務室を出た。

 飛行艇が右旋回を始めると間もなくコパイロット側の海上にブルーホールが見える。太古の時代に作られた鍾乳洞が陥没し、そこに海面の上昇によって海水が浸入した地形だ。青々とした浅い海の中に更に深い青色の丸い穴がポッカリと開いていて、まさにブルーホール、言い得て妙なネーミングだ。
 風が弱い場合、飛行艇はこのブルーホールを右手に見ながら旋回を終え、着水態勢に入る。飛行艇は最適の機首角度と降下率になるようにエンジンの推力を増減し、最終進入速度を保持したまま着水域まで真っ直ぐ進入する。高度を下げる機体の下を白い環礁が通過し、前方に真っ青なラグーンが広がる。
 機体が着水する直前、機体の下に伸びたセンサーが海面の接近を知らせるパイロットランプが点灯した。「センサー接水」ズイキが声を上げる。
「降りるぞ」ゲン爺の合図で機体は旅客機らしくスムーズに着水した。不安定さなど微塵も感じさせない。
『見事なものだ』コパイロット席でズイキは感嘆の息を漏らした。
 キャビンクルーが到着の案内を始める。ゲン爺は一旦絞ったエンジンの出力を上げて機体の方向を変え、そのまま真っ直ぐにラグーンの中を進み、ゆっくりと桟橋に横付けした。桟橋で待機していた数人の作業員が近づいてきて係留の用意が始まった。
「エンジン停止」ズイキは4つ有るエンジンを次々と停止した。
 飛行艇は週に2回イルマの首都シンキョウとこのパミラウ諸島の間を往復する。往路はシンキョウから3カ所の諸島の主要都市を経由してこのパミラウ諸島の首都パミラウへ向かい、復路はその逆を辿る。
 戦後、パミラウ諸島を含む周辺の群島は独立した国家ではなくなり、イルマ国の統治領になった。まだリゾートとしての開発は途についたばかりで利用客は採算ラインを満たすにはほど遠かったが、イルマはパミラウが自国の領土であることを世界にアピールするためにもこの航空路を維持する必要があった。
 ズイキは乗客やクルーたちがタラップを降りたのを確認しシャットダウンを終えると、雑務の残るゲン爺を残して機体を出た。
 常夏の太陽はまだ高い。あたりにはクッキリとした透明な風景が広がっていて、潮の香りを含んだ穏やかな風は椰子の葉を微かに揺らせている。いつものようにラグーンの海面は穏やかだ。
『静かだ・・・』ズイキはタラップを降りながら南国の空気を吸い込み、風景に目をやる。
 桟橋の向こう、椰子の木の陰に“あいつ”の姿が見えた。
 ズイキは挨拶のために手を上げようとした。
「カンザキさん!」その時、聞き覚えのある声が自分を呼んだ。
「軍への復帰は決められましたか?」振り返るとシンキョウ新聞のウチヤマが立っている。シンキョウ空港でも声をかけられたことがあるが、悪い印象しか持てない男だ。
「どうしてアタシにつきまとう?」足を止めてしまったことを後悔しながらズイキは訊いた。
「この前、あなたがアイドルだからだと申し上げたはずですが」ウチヤマはズイキの顔を覗きこんだ。小ばかにしたような表情を作ってズイキの反応を待っているのだ。
「もういい!」ズイキは歩き始めようとした。
「オッドアイの話はお聞きになりましたか?」ウチヤマがたたみかける。
 ズイキの足が止まった。
「お聞きになっているようですね」ウチヤマはしてやったりの顔をした。
 ズイキは無言だったが既知であることはすでに態度に出てしまっている。
「どうやらオッドアイは外国人部隊に所属して東域戦線に参加しているようです」ウチヤマはズイキに近づいた。
「確かなのか?」ズイキは諦めて質問した。
「興味は持たれますか?」ウチヤマはズイキの反応を吟味するように言った。
「戦闘機乗りの末路に興味があるだけだ。あんたと同じようにな」ズイキは皮肉を込めた。
「そりゃぁ、興味はありますが、私はもっと他のことを追いかけています。例えばこの無益な戦争が兵士たちにもたらす精神的な影響とか・・・」
「なら、もっと他の誰かを当たるんだな」
「まぁ、そう無下にしないでくださいよ。オッドアイの情報はお話しますから」
 ズイキはしかたがない、という風に溜息をついた。
「セシル・ディ・エーデルワイス・エリザベート・フォン・フォアエスターライヒ、それが彼女の名前です。あ、まずオッドアイが女性であることからお話ししなくてはいけませんか?」
「女だとは認識している。でも、セシル・ディ・エーデルワイス・・・って長いな」
「エリザベート・フォン・フォアエスターライヒ。フォンが付いていることからわかるように彼女は貴族で、フォアエスターライヒ大公の娘ではないかといわれています」
「フォアエスターライヒ大公ってフォアエスターライヒ公国の?」
「ええ」
「王女様なのか?」
「王国ではなくて公国ですのでちょっと違いますが、まぁそのようなものです」
「そんな奴がなぜ戦闘機に乗っている」
「国の上に立つ者は国を守る任務に一度は就くという国是がきっかけのようです。公国は強力な国防軍を持っていましたが、彼女はそこでパイロットとして希有な才能を開花させ、大戦に参戦するとたちまち頭角を現したようです。そして西域でエースとして戦ううちにあなたの噂が耳に入ったのでしょう」
「オッドアイと直接戦ったことはない」
「しかし終戦直後、あなたはオッドアイと邂逅していますね?その時のあなたの報告によるとオッドアイはあなたを相当意識しているようだ」
「なぜそのことを知っている。どこからそんな情報を・・・」
「蛇の道は蛇です」ウチヤマは唇の端をつり上げた。
「それで?」ズイキは先を促した。
「ベクレラ軍筋の情報からもオッドアイが東域戦線に参戦しているのは間違いないと思います。それに、イルマ側にもあなたが西域で目撃されたのと同じように、オッドアイの目撃情報が複数あります。相手を反撃できないまで弱らせてから、わざわざギリギリまで接近して自分がオッドアイであることを見せつけるそうです」
 ズイキは西域の空でのアクロバチックな編隊飛行を思い出していた。オッドアイはわざわざゴーグルを外して自分の顔を見せた。
 ウチヤマは話を続ける。「まるであなたを誘っているようだ・・・だからあなたに白羽の矢が立ったのではないかと・・・」
「ただの想像だろう?」
「軍の動きを丹念に追っていればそういう流れは自然と見えてきます。イルマ軍の損害は甚大で、恐怖で戦意を喪失するパイロットも多いようです。私も対抗措置としては理にかなっていると思います」
「買いかぶりすぎだ・・・戦争は国家という巨大組織どうしの争いだ。アタシ1人でどうにか出来るものじゃないし、オッドアイの影響も限定的なものだ」
「だが、軍としては面白くないでしょうな」
「アタシには関係の無いことだ」ズイキはウチヤマから目を離して歩き始めた。
「では、復帰は無いと?」ウチヤマは食い下がろうとしたがやがて足を止めた。
 ズイキは無視して桟橋を進んでいく。
 桟橋を降りたところにいつものように“あいつ”が立っている。
 “あいつ”はズイキより少し背が高く、やせっぽちの、やや濃い目の肌を持った13歳の少女だ。明るい生成りのワンピースを着て、腰まで届く漆黒の髪を首の後ろでシンプルに束ねている。そして足元には黒い塊、パラパラを連れていた。パラパラはゲン爺の飼い猫で、真っ黒な体と金色の目が特徴だ。もう15年は生きている年老いた雄猫だが、もうすでに化け始めているのか毛並みは艶やかだ。気まぐれで、自分本位にしか行動しない老猫がなぜ彼女に付いてきているのかはわからなかったが、いかにも退屈そうに大きく口を開けて欠伸をした。
 ズイキが近づいてゆくと彼女は大きな眼で見下ろした。その虹彩はまるであのブルーホールのような深い青だ。
「ただいま」ズイキは声を掛けた。
 あいつはゆっくりと微笑んだが、そのままズイキの背中越しに焦点を合わせて固まった。
 ズイキが振り返る。
 ウチヤマが手に持った小型カメラのシャッターを切る瞬間だった。

2021.01.19
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

2021年初めての更新「scriviamo! 2021」

今夜は八少女夕さんの恒例企画「scriviamo! 2021」への参加作品の発表です。

作品へはこちらから

「scriviamo!」というのはイタリア語で「一緒に書きましょう」という意味なんだそうですが、要するに夕さんと一緒に何か作品を書きましょうという、年1で回開催されるイベントです。2013年から続いていて、サキは山西左紀として毎年参加させていただいています。皆勤賞ですね。
参加方法は参加者が作品を発表し、それに夕さんが答える「プランA」を始め「プランB・C」の3種類があるのですが(詳しくはこちら)、サキは今のところ誰もいらっしゃらない「プランC」での参加です。「プランC」は「課題方式」での参加方法で、以下のような課題と制限が与えられています。

*自分の既出のオリキャラを一人以上登場させる
*季節は「夏」
*動物を1匹(1頭/1羽 etc)以上登場させる
*色に関する記述を1つ以上登場させる
*小説の場合は150字から5000字の範囲

ということで、ようやく書きあがった作品は「新世界から」シリーズの掌編「ブルーホール」です(タイトルだけで課題の1つをクリアーですね)。

「新世界から」シリーズは2人のヒロインを登場させたために先へ進めなくなってしまった未完成作品です。いま書き進めている「フォマルハウト」も同じ轍を踏んでしまって、2人のヒロインの暴走に悩まされているのですが、「新世界から」の方は「フォマルハウト」よりも抱えている問題が大きく、イベント用に掌編を捻り出すのが精一杯という状態です。でも今回発表する掌編もプロットには沿っていますから、この作品だけではシーンとして繋がりは見えませんが、作品全体の中の何処かには収まるはずです。
その関係でTOM-Fさんのキャラクターをオマージュしたキャラクターが登場していますが、今回は夕さんのキャラクターは不在です。すみません。

よろしければ下のリンクからお進みください。
「新世界からシリーズ・ブルーホール」
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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。

山西 左紀

Author:山西 左紀
「山西 左紀について知りたい方はこちら」
(ニコニコ静画フリーアイコンより)

ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
イラストをクリックすると記事に飛びます。よろしければご覧くださいネ!
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