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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

フォマルハウト Sequence 8 (後編)

 置き火から焚き火を復活させ、アダブラの乳を暖め、グィラを入れて、簡単だが動き回るには充分な熱量のある朝食を済ませると、各々は荷物をまとめ出発の準備を始めた。
 アズミはウツボの輸送車のキャビンを1つ空けさせ、自分の引越しを始めようとしたが、さすがにそういうわけにはいかない。シャウラは丁寧に詫びて自分たちがそちらに移ることにした。引越しについてはツィーが怪訝な顔をしたが、シャウラはそれを無視した。キャビンに積まれた荷物を積み替えるのに少々の時間と人手は取られたが、シャウラたちの方は少ない荷物を移すだけだ。一瞬で引越しは完了した。
 そのドタバタが済むと今日の道程に関する話し合いが行われた。
「さて」輪になって座った全員に向かってアズミが声をかけた。「今日まではシンガリ国内だったから比較的安全に過ごすことができた。昨夜は国境の近くだから本来なら警戒を強めなくちゃならないんだが、幸いなことに国境警備隊の砦の傍にキャンプを張ることが出来たから、ゆっくりと休むことができた。だが・・・」アズミは全員の顔を見渡した。
「今夜からはそうはいかなくなる。国境を越えるとタブリに入る。皆も知っているとおり、ここの治安は極端に悪い。警備隊もあるにはあるが、まず街道で出くわすことは無いから、まったく当てにはできない。シャウラ!」アズミはシャウラの方へ目を向けた。「せっかく引っ越してもらったんだが、今夜からはよろしくやっている暇は無い」
「いや、だから・・・」
 御者たちは堰を切ったように大笑いした。
 ツィーは何のことかわからずキョトンとしている。
 笑いが収まると「当てにしているよ」アズミが真剣な顔になって言った。
 シャウラは黙って頷いた。
 アズミは大きな地図を広げた。男たちが額を寄せてそれを覗き込む。
「それでこれからの旅程だが、国境を越えたらまずミヤネへ向かいそこで一泊する。宿はいつもの所を考えている。そこから先はサラブ、サッケズ、タカブを経由して首都のアルダビルへ入ろうと思う」アズミは棒でそれぞれの都市を指し示した。「どうだ?異存は無いか?」合議の上物事を先に進める。最終的にはアズミが決定を下すのだが、それがアズミのやり方だった。
 だがアズミが話を進めようとしたとき「それは駄目」ツィーが囁くような声で言った。
「どうした?ツィー」シャウラがツィーの顔を覗き込んだ。
「それは駄目」今度ははっきりとした声でツィーが言った。
 ツィーの瞳は奥行きを失っている。朝食を食べていた時は御者たちと普通に会話していたし、問いかけにも笑顔で答えていた。引越しの際も理由を知りたがったり、普段と変わりは無かったのだが、今は表情が消えている。
「異存があるのか?ツィー」アズミがツィーに顔を向けた。
「それは駄目」ツィーはまた繰り返した。
「どうしてだ?これはいつものコースだし、特に問題も聞いていない。理由を説明してくれ」
 ツィーは答えない。奥行きを失った瞳をただアズミに向けているだけだ。
「困ったな・・・」アズミは顔を歪めた。
「言うことを聞いておいた方が良い」ワタリが口を開いた。
 全員が顔を上げてワタリの方を見た。
「例えばまずリザの町へ向かう。そしてスレイ、カスカラを経由してタカブへ出れば、山脈の反対側を通ることになるが距離もさほど長くならないし、泊まるところもちゃんと有る。他に問題が無いのならワシはそちらを勧める」ワタリは地図を指し示しながら言った。
 全員はツィーの顔を見たが、今度は何も言わず黙ったままだ。
「理由を聞いているんだが?」アズミは今度はワタリの方へ顔を向けた。
「理由はツィーがそう言ったからだ。他に説明のしようが無い」
「なるほど」アズミは考えを巡らせていたが、再びツィーの顔を覗き込んだ。
 ツィーの青い目は輝きを失ったままだ。奥行きのない瞳でどこか遠くを見ている。
「ツィー、お前はどこを見ているんだ?」
 やはり答えはない。
 アズミはワタリに訊いた。「ツィーに何が起こっているんだ?」
「そうだ。説明してくれ!」シャウラも続いて訊いた。
「ツィーに何が起こっているのか?」ワタリは思わせぶりにシャウラを見ながら言った。「今説明するのは止めておこう。ただ、ワシの経験では今の状態にある者の言うことは聞いておいた方が良い。言えることはそれだけだ」
「今の状態?昨日のアレのことか?」シャウラが訊いた。
「そうだ。今ツィーは特別な状態にある」
「特別な状態・・・」シャウラの声は不安げだ。
「安心しろ。今朝も言ったがツィーの健康には何の問題も無い」
「そうは言われても・・・」シャウラは抗議しようとしたが、それをアズミが手を上げて制した。全員が沈黙し、アズミの裁定を待った。
 長い間アズミは黙って考え込んでいたが「よしわかった」と、心を決めたように顔を上げた。「我々はリザへ向かう」
「ツィーの言うことを信じるんですか?」シャウラが驚いて言った。
「勘だ」アズミは立ち上がった。そして辺りを見回した。「あたしの勘がそうしろと言っている。異存のあるものは居るか!」
 誰も意見を言うものは居なかった。
「では決まりだ!」アズミは地図をたたむと先頭の輸送車に乗り込んだ。続けて他の皆も立ち上がり、それぞれの持ち場に散った。
 シャウラも立ち上がりながら「行こうか」とツィーに声をかけた。
「どこへ?」ツィーが顔を上げた。
 ん?違和感を感じてシャウラはツィーを見下ろす。
 ツィーは問いかけるようにシャウラを見上げていたが、その目は奥行きを取り戻している。
「どうした?」
「何が?」
「憶えていないのか?」
「え?」
 話がかみ合わない。どうやら特別な状態は終わったようだ。ツィーの健康には何の問題も無いというワタリの言葉が蘇る。
 いったいどうなってるんだ?シャウラは首を捻りながらスハイルに跨がると、腰を屈めてツィーに手を差し伸べた。
 シャウラを見上げてその手を掴むツィーの様子は普段と変わらない。
 シャウラは軽々とツィーを引っ張り上げた。金色の髪がシャウラの顔を撫ぜ、ツィーはシャウラの腕の間に納まった。

 * * *

 隊商は国境を越えリザ、スレイを経由しカスカラに到着していた。
 国境を越えた先は宿場と宿場の間がかなり離れていたが、町でないところでキャンプを張るのは命知らずもいいところだ。隊商は日の出から日の入りまで少し無理をしてでも前進し、必ず町中に宿を取った。実際、町の外ではシャウラの活躍で事なきを得る場面が何度かあった。
 町もけっして治安が良いわけではなかったが、警備隊が常駐しているので何も無いよりは安心だった。
 山脈の北側を通る北回廊は通る予定だった南回廊よりも若干回り道になるうえ峠もやや険しい。そのせいで通行量は少なく、町々の規模も小さかったが、反面住民たちの人柄は素朴で暖かいように感じられた。
 カスカラは北回廊では最も大きな宿場町だ。二重の城壁に囲まれ、軍隊が常駐している。軍は警備隊よりも人数が多く士気も高いことから他の町より安心度は高かった。
 宿場町には隊商を相手としている宿が必ず有り、そんな宿は宿泊場所と同時に、輸送車を止める場所やアダブラのための場所を提供している。アズミはそんな宿の中から何度か使ったことのある一軒を選択したが、今日ここに宿を取っている隊商はアズミの隊だけだった。
 広い食堂には大テーブルが幾つか置かれていて、その一つを10人の御者たちとワタリ、それにシャウラが囲んでいる。アズミとツィーの姿が見えないのは、二人が風呂の最中だからだ。ワタリは風呂にまったく興味を示さなかったが、男たちはすでに風呂を済ませ、二人が戻ってくるのを待っていた。
 これまで通過してきた地方では湯船に浸かる習慣がなく、水浴びや体を拭く程度で我慢せざるを得なかったが、それはシャウラにとって結構辛いことだった。レサトにとって、風呂とは湯船に浸かることだったからだ。だが幸いなことに、この町には湯船に浸かる習慣があり、大浴場があった。久しぶりに湯船に浸かって足を伸ばせたシャウラはとてもくつろいだ気分になっていた。
 ツィーはどういう環境で育ったのかはわからなかったが、喜々として出かけていった所を見ると、やはりそういう習慣の下で育ったのだろう。
 食堂のドアが開いてツィーが入ってきた。宿で貸してもらった湯上がり着を着ていて、男共の視線は自然にツィーに向けられる。
「長は?」シャウラが訊いた。
「先に行っててくれって。帳場でなにか話があるみたい」ツィーは上気した顔をシャウラに向けた。湯上りでピンク色に染まったツィーの肌はシャウラの視線をさらに引きつけた。
 先に食事にするわけにもいかず13人はアズミを待った。
 腹が減ったなという声が聞こえ始めた頃、ようやくアズミが戻ってきた。
「ツィー、厨房へ行って合図するまで待つように言ってきてくれる?それからあたいの緑の上着はわかるかい?」
「はい、わかります」
「じゃ、すまないけど、あたいのキャビンまで行って、それを取ってきてくれ」
「わかりました」ツィーは言いつけられた用事を済ませるために食堂を出て行った。
 それを見届けてからアズミは口を開いた。
「酒が入る前に話しておかなくちゃならないことがある」
 テーブルの全員が顔を向けるとアズミは淡々とした口調で言った。
「ミヤネの砦が壊滅した」
 テーブルは沈黙に支配されたが、やがて先頭の御者のアカザが口を開いた。
「壊滅というと?」
「皆殺しだ。神族の大軍に攻め込まれてひとたまりもなかったらしい」
「いつのことだ」アカザは確認する。
「昨日の未明だ。今ミヤネの町は神族の支配下にある」
 全員が顔を見合わせた。自分たちが南回廊を進んでいれば鉢合わせだったはずだ。
「神族は南回廊に連なる町を手に入れて南回廊を勢力下に収めるつもりのようだ。これまでタブリは治安は良くないが比較的自由に行動できた。だがこれで状況が変わる」
「攻められたのは南側からなのか?」
「そうだ、ラァスル・グール皇国だそうだ」アズミは冷たく言い放った。
 全員が押し黙った。
「それって、覇権争いでアルゴル皇家を滅ぼした・・・」シャウラが言った。
「そう、奴らは自分たちの原理を厳密に守り行動する神族の強大な軍事国家だ。そんな部族の戦闘に巻き込まれなかったのは幸運だった」アズミが付け加える。
 ラァスル・グール皇国が対立する魔族国家だけでなく、同じ神族のアルゴル皇国までを侵略し、皇家を滅ぼしたのは有名な話だ。しかもツィーはそのアルゴル皇家の出である可能性が高い。アズミがツィーに用事を言いつけたのはこの話を聞かせたくなかったからだろう。
「我々はこのまま北回廊を進んで、様子を見ながらタカブへ出る。奴らはどうやら首都にまで手を出すつもりは無いらしいからな。依存は無いか?」アズミはテーブルを見渡す。
 全員が頷いた。
「ツィーのお陰だな」ワタリがポツリと言った。
「どうしてツィーがあんな事を言ったのか、理由が知りたいもんだが?」アズミがワタリに顔を向けた。
 シャウラも含め男共も顔を向ける。
「それはまぁ、おいおいな・・・」ワタリは話をはぐらかした。
 その時、食堂のドアが開いてツィーが入ってきた。手に緑色の上着を持っている。
「これで揃ったな。じゃぁ食事を始めようか」アズミは緑色の上着を羽織りながら手を打って合図した。
 厨房との仕切りが大きく開いて料理と酒が運ばれてきた。
 男たちはとりあえず問題を横において、一気に戦闘態勢に入った。


2020.09.07
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フォマルハウトUPしています

innocentia200821(448x336).jpg

今夜はフォマルハウト Sequence8(後編)をUPします。
サキがあちこちに浮気をしてしまったので随分と間が開いてしまいましたが、ようやくと言うか何と言うか、とりあえずは読んでいただいても大丈夫という気になりましたので、またその気が消えてしまわないうちにUPしてしまいます。
放っておくと、気の向くままとどんどん修正を重ねてストーリーが崩壊し、全部書き換えるまで発表できない、なんてことになっちいますから・・・。
色々アイデアは思いつくのですが反映しようとするとろくなことにはなりませんし、そうやって詰ってしまうと他の物語に浮気したりしてますます発表が遠のくことに・・・。ほんとうに困ったものです。
読んでくださっている方の迷惑も考えろ!とか、ただでさえ読んでくださる方は少ないのに、愛想を尽かされちゃうぞ!とか、いろいろと言われるのですが、なかなかねぇ。

さて、前編ではツィーの不思議な発光事件があってシャウラが誤解を受けましたが、シャウラとツィーは今のところ鋼鉄のように硬い関係です。
 後編では隊商はキャンプを出発し、先日の地図にあるアルダビルへ向かうのですが・・・。物語は文字数の分だけ先へ進むのですが、肝心の2人の関係は・・・。

よろしければ下のリンクからお進みください。
フォマルハウト Sequence 8 (後編)
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Author:山西 左紀
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