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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

夏の終わり・・・

 ここのところ、ブログの更新が滞っておりましたが、実は身内に不幸がありました。
 祖母が亡くなったのです。
 お通夜とお葬式を済ませてようやく少し落ち着いた心持ちになり始めています。
 祖母はずっと伏せっていて、最後の方は意識も無かったので、亡くなってしまっても今までと何も変わらないのですが、やはり火葬場で骨になり、体が無くなってしまった時にはそれなりの思いになりました。
 こういう時には自分は薄情になろう、冷静さを保とう・・・いつもそう心がげているのですが、祖父が亡くなったときと同じように、思い通りには行きませんでした。(取り乱したりすることはまったくなかったのですが)
 暫くの間は色々と用事(法事)や手続きが残っていて、サキもそれを手伝わなくてはならないのですが、なんとか時間を作り出して、創作を再開しようと思っています。
 その方が気も紛れるかな?
 今、2つの未完成作品を抱えていますが、ちゃんと完成させる意欲は有ります。
 UPまですこし時間をください。
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テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

ルビコン

 肩越しに甲高い声が響き、数人の女子が僕を追い越していった。白いブラウスに明るい色のチェックのスカート、襟元に同じチェックのリボンが付いた制服を着ているから、おそらく通学中の高校生だろう。
 どうにも女子は苦手だ。何を考えているか分からない彼女たちは僕にとって未知の生物だ。友達の中には個人的に付き合っている奴もいるが、傍から見ていてもその気苦労は同情に値する。そうまでして?僕には到底理解できないことのように思える。僕にとって彼女たちと付き合うという行為は、集団的にしろ個人的にしろ、そう、ルビコンを渡る?って表現でいいのかな?それくらい覚悟のいる行為のように思える。
 僕は下を向いたまま眉をひそめると、彼女たちに続いて改札口を入った。
 駅は朝の通勤ラッシュの只中にあったが、大都市のそれに比べるとかなりの余裕がある。僕は所帯道具一式が入ったリュックを背中にしょったままゆっくりと階段を上った。

 学校をさぼって旅に出てもう一週間になる。
 大学受験に追い回される日々から少し距離を置きたくなったのだ。
 家族はなんとなく理解をしてくれているが、正式には何も告げていないから、暗黙の家出と言ってもいい状態だ。
 学校には家族が取り繕ってくれているはずだが、もうそろそろ限界かもしれない。
 それに思ったよりも宿泊にお金がかかって、財布の中も心もとない状態だ。道端やベンチで寝ることに抵抗は無かったが、警察沙汰になりそうだったし、まだ彼らの世話になるつもりもなかった。
 のどかな内海に沿ってひたすら西へ・・・フリー切符での気ままな一人旅のつもりだったが、そんな悠長なことは言ってられなくなってきた。金の切れ目が縁の切れ目?って表現でいいのかな?今日辺りが潮時かな?僕は気弱になり初めていた。

 階段を上がりホームに出ると、すでに電車は停車していた。
 いつも見慣れている電車は銀色や葡萄色の艶のあるボディを持っているのだが、ここに停まっている電車のホワイトで塗られたボディは錆と汚れでくすみ、ところどころに雨が流れた跡がこびりついている。ペンキもあちこちが剥がれ、サイドに一直線に引かれたブルーのラインも勢いを失っている。いつごろから使われている車両だろう?
 僕はくたびれた電車を横目に足早でホームを進み、編成の真ん中あたりのドアから乗り込んだ。
 車内には据えたような臭いが漂っている。辺りを見回したが込み合っていて、すでにシートは埋まっている。僕は比較的空いていたドア横のロングシートの前に進んだ。
 そこもやはり乗客で埋まっていたが、一番奥の端に女の子が座っている。さっきの女子たちと同じ格好で、大きなトートバッグを抱えているから、やはり通学中の高校生なのだろう。背中まで伸ばされた真っ直ぐな黒髪、眼鏡をかけているが、外せばぐっと引き立ちそうだ。おとなしそうな感じだし、1人だし、そっと眺めるだけなら危害はないだろう。
 彼女の前にはすでにOL風の女性が立っていたので僕はその横に並んで、つまりその女の子の斜め前に立った。僕の前では中年のサラリーマン風の男が眠り込んでいる。
 急に静かになった。照明が消え、同時に床下にある機器のファンも止まったようだ。明るい時間だから問題は無いが、非常灯だけが灯っている。
 故障?僕は不思議に思ったが、誰も動じる様子は無い。女の子も無表情でじっと座っている。
 彼女の顔を覗いたままの数秒が過ぎると、まるで止まっていた時間が、また動き始めたように照明が点き、ファンも回り始めた。
 彼女もそれに合わせるように顔を上げたので、僕は慌ててホームの方へ顔を向けた。
 行き先を案内するアナウンスが繰り返され、発車の合図が鳴る。電車はドアを閉めるとゆっくりと動き始めた。
 やがて線路は並行する線路をまとめて1本に収束し、電車は大きな音を立てて鉄橋を渡った。
 そろそろかな?僕の期待に違わず電車は程なくトンネルに突入し、下り勾配の闇の中を進んでいく。
 このトンネルは海底トンネルだ。いま電車の上には海峡が広がっているはずだが、そんなビジュアルは想像でしか見ることができない。僕は暫くトンネルの闇を流れ去る照明のパルスを眺めていたが、面白みの無くなった車窓から目を戻した。
 目を戻した先には困惑した彼女の顔があった。
 隣の男が寄りかかっていたのだ。深い眠りに落ちているらしく、思い切り彼女の方へ寄りかかり、おまけに頭を彼女の肩に乗せている。
 彼女は何度か肩を動かして男の頭の向きを変えようと試みたが、男は呆けたように眠りこけていて、まったく姿勢を変えることはできない。あきれた奴だ。
 僕は隣に立つOL風の女性と顔を見合わせたが、彼女もなすすべがないという顔だ。
 仕方が無い。正面に立っていた僕は両手でつり革を掴んでから勢いよく膝を曲げ、男の膝に思い切りぶつけてやった。
 ガツン!男は何事かと頭を起こし目を開けた。あたりをキョロキョロと見回すが、僕は知らん顔をして窓の外の闇を見つめている。
 彼女は急いで居住まいをただし、男との距離をできるだけ取った。そして僕の方へ顔を向け小さく頭を下げた。
 よかったね。そういう思いが伝わるように僕は少し口角を上げた。
 やがて窓の外が明るくなった。トンネルを抜けたようだ。
 電車は海底トンネルの出口の勾配を登りきりスピードを落とし始めた。
 何本かの線路が並行し始めた。その向こうには錆びた線路が幾つも並行する。現代では効率化が進んで過剰設備になっているが、当時はここに長大な貨物列車が幾筋も並んでいたのだろう。
 さらにスピードが落ちると、急にまた照明が消えた。
 あれ?僕は辺りを気にしたが、やはり誰もそんなことを気にしている様子は無い。
 まもなくまた照明が灯り、電車はホームに滑り込んだ。
 僕はここで降りなくてはならない。ちょっと寄りたい所があるのだ。
 ドアが開くと同じ制服の女の子が乗ってきた。
「おはよう!マイテ」その子は明るい声でそう言うと、僕と入れ違いに彼女の前に立った。
「マイテ?ニックネームかな?」そんなことを考えながら僕はホームに降り立った。

 * * *

 午後も遅い時刻になって、僕はようやく駅に戻ってきた。
 いよいよ財布も寂しくなってきたので、このまま海底トンネルを戻り、そのまま東へ向かうつもりだった。
 ベンチに腰掛けて待っていると、やがて電車が入線してきた。
 今朝と同じ白いボディに青いラインの、あの少しくたびれた電車だった。
 ドアが開き乗り込む。
 まだラッシュの時間には早く、車内は空いている。僕は車内を見渡しながら奥のボックスシートの方へと進んだ。4人掛けのシートに2・3人が座っている状態だったが、僕は窓際に1人だけ後姿が見えているボックスシートに近づいた。今朝見かけた制服を着ているから女子高生だ。僕は彼女の前の席にリュックを置くと、その隣の席に腰を下ろした。
 斜め前に文庫本を読みふける顔が見える。驚いたことに、彼女は今朝“マイテ”と呼ばれていたあの子だった。メガネを外しているから印象が変わっているが絶対にそうだ。
 チラリと顔を上げた彼女は僕に気が付くと『今朝はどうも・・・』という感じで小さく頭を下げる。僕もそれに応じて軽く頭を下げた。今朝は気付かなかったが彼女の虹彩は明るい茶色だった。大きな目と通った鼻筋、そして整った口元、そのはっきりとした顔立ちはエキゾチックですらある。思った通りだ。メガネを外すとやはり魅力的だ。
 見つめすぎないように彼女を観察していると、時間が止まったように急に静かになった。照明が消え、同時に床下にある機器のファンも止まったようだ。夕方が近い時刻だから車内は薄暗くなり、非常灯だけが灯っている。
 やはり誰も動じる様子は無く、1人きょろきょろしている僕を彼女がじっと見ているだけだ。
 数秒が過ぎると、また照明が点きファンも回り始めた。時間はまた無事に動き始めたようだ。
「動作試験です」思い切ったように彼女が言った。
「動作試験?何の?」
「ここでは電車は交流20,000ボルトで動いてるんです。だけど、海峡の向こうは直流1,500ボルトだから、この駅を出てすぐのところにあるデッドセクションで交直切換が正常にできるか、この駅で動作試験をしたんです」
「デッドセクション?」
「交流と直流は直接繋げない。だから、架線に電気の流れていない区間、デッドセクションを設けて接続してあるんです」
 そういえばそんな話を聞いたことがある。海峡を挟んで電流が違っていて、行き来できるのは2つの電流に対応した電車だけだと・・・。今朝、車内の電気が消えたのもその切り替えだったに違いない。
「デッドセクションのある区間は両方の電流に対応した交直両用電車でないと走れない。でも交直両用は両方の機器を搭載している関係でコストがかかるし、使える場所も限られているから、そんなに簡単に新しくできない。だからこんな古い電車を大切に使っているんです」
『なるほど』彼女の説明は納得のいくものだったが、僕はきっと呆れ顔だったに違いない。彼女は喋るのを止め、窓の方へ顔を向けた。
 ドアが閉まり電車は走り始めた。
 やがて照明が消えた。
 やはり僕は辺りを見回す。
「ここがデッドセクション」たまらなくなったように彼女が解説した。
 少し進むと照明が点いた。
「今、直流に切り替わった」
「そういうことか・・・」頷く僕を横目で見ながら彼女は笑顔になった。
 今その顔をするか・・・。海底トンネルへの下り坂を加速する電車に揺られながら、僕の鼓動は速くなった。こういうのを茫然自失?って言うのかな?微妙に違うのか?とにかくまるで自分が未知の生物に取り付かれてしまったような気分だ。
 電車は海底トンネルに入り、窓の外は真っ暗になった。
「大学生」窓の方へ顔を向けたまま彼女は独り言のように言った。語尾は上がっていないが、暗い窓にはこちらを向いた彼女の顔が写っているから、僕の顔も彼女には見えているはずだ。これは僕への質問だ。
「いや、高3」
 彼女は驚いたようにこちらへ顔を向けた。
「年上に見えた?」僕は愛想笑いを浮かべる。
「だって・・・」
「君と同じ高校生、しかもしがない受験生さ」
「受験生?学校は?」
「さぼり中」
「いいの?そんなんで!」彼女の目は大きく見開かれた。
「いいさ」僕は事情を説明したが、どうもそれは彼女の理解を超えているようだった。
「こんな時期に信じられない。バカなの?それともよっぽど・・・」それが彼女の感想だった。僕はすっかり呆れられてしまったようだ。
 電車は海底トンネルを出ると鉄橋を渡り、ホームに滑り込んだ。
 終点を告げ、乗り換えを案内するアナウンスが繰り返される。
 向かいのホームには東へと向かう電車(彼女によると直流1500Vの電車だ)が待っている。僕はその電車に乗り換えて振り出しに戻るつもりだ。
 ドアが開いて、僕らはホームに降りた。
 じゃぁ・・・彼女は軽く右手を上げると僕に背中を向ける。なにか急ぎの用事でもあるようだ・・・。
「君はたしか今朝“マイテ”って呼ばれていたよね。それって君の名前?」どうしてそんな質問をしたんだろう?僕は彼女の背中に向かって声をかけた。
 振り向いた彼女は黙って僕を見つめる。
 そして暫くの沈黙の後「さて、どうでしょう?」と薄く笑う。
 思いがけない答えと表情に僕は二の句が継げない?って表現でいいのかな?とにかく言葉が出ない。
「あたしは明日も同じ電車に乗る。じゃぁね!」彼女は上げた右手をひらひらと振ると踵を返し、足早に階段を下って行った。
『明日・・・』
 電車を乗り換えて東へ向かうつもりだった僕は、自分がこの町で宿を探す事態に陥っていることに気が付いた。

 僕はデッドセクションを通過してルビコンを渡り、新しい領域に踏み込んでしまったのだろうか?

2019.09.17
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

「ルビコン」をUPします

 今夜は「ルビコン」をUPします。5000文字弱の掌編です。
 書きかけで放置されていた2作品の片割れです。
 書きかけの作品にはもう1つ、八少女夕さんが35000HITピッタリを踏まれていただいたリクエスト作品があるのですが、それとは別の作品です。
「ルビコン」の方を優先したのは、この作品は急に思い立ったアイデアをそのまま作品にしているので、新鮮なうちに作品にしないと消えてしまうように思ったからです。
 それに、夕さんからいただいたリクエスト作品は、サキの以前書いた物語のキャラクターたちが活躍するお話ですから、後に回しても色あせてしまうことは無いように思いました。
 それで悪いとは思ったのですが、夕さんのほうをお待たせしてしまう方を選択したというわけです。
 夕さん、この場を借りてお詫びします。
 永らくお待たせしてすみません。ちゃんと書きますからね。

 今夜の「ルビコン」は最近カテゴリー化した「アリスシンドローム」シリーズに含める1編です。
 サキがよく使うシチュエーションで書かれていて、ちょっとマンネリ気味です。そしてやはり、ここのところありがちな断片的な作品です。
 こんな作品でもよろしければ、この下のリンクからお進みください。

「ルビコン」

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テーマ : 二次創作:小説    ジャンル : 小説・文学
 
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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。

山西 左紀

Author:山西 左紀
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