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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

天使の分け前

 あ、空席がある。喫茶コーナーに空席を見つけたテイは、大急ぎでカウンターに向かうとホットコーヒーを注文した。
 コーヒーは大きなマグカップに7分目くらい注がれる。
 テイはそれがちゃんと熱いことを確認すると砂糖とミルクを追加し、こぼさないようにそろりそろりと目的の席へ向かった。
 喫茶コーナーは駅ビル9階の巨大書店の一角にある。テイが向かった席は大きな窓に面して10席ほど並べられた1人掛けのソファーのうちの1つで、窓の向こうにはメガステーションのプラットホームが見下ろせるようになっている。
 メガステーションにはたくさんのプラットホームがあって、すべてのホームは駅の北側と南側に建てられた高層ビルに跨って架けられた巨大な屋根に覆われている。
 喫茶コーナーの窓はその屋根の下の一番高い位置に設けられているから眺めは抜群だ。眺めを求める人は多いらしく、この窓の傍の席だけは空いていないことが多い。だが大概の場合、そこに座る人々は目の前に広げた本に夢中で、窓の外など見てはいない。

 テイは嬉々としてその席に荷物を置くと、早々に窓に近づいて外を見下ろした。
 足元に見えるのは11番ホームだ。長距離を走る特急が出発するホームで、特急列車の屋根が見えている。その向こうは上りのホームが並び、その向こうは下りのホームだ。新快速や快速、普通電車の屋根が見える。一番向こうは市内を廻る環状線のホームで、“内回り”と“外回り”と呼ばれる線路に挟まれたホームは、他のホームより幾分幅を取ってある。ホームの端にそって埋め込まれたLEDランプがオレンジの点滅を繰り返しているので、間もなく電車が入って来るのだろう。
 すぐにオレンジの電車が入ってくる。ドアが開き、たくさんの人が電車から吐き出される。その様子を眺めながら、テイは少し後ろに下がってソファーに腰をおろした。
 腰を下ろしてしまうと向かいの駅ビルが視界の大半を占めるようになり、見下ろせる範囲は一気に狭くなる。見えるのは環状線のホームと、その手前の下りホームが少しだけだ。
 座ってしまうと意味がないのかな?テイはホームを眺めることを諦め、ショルダーバックから文庫本を取り出して読み始めた。

 どれくらいの時間が過ぎたのだろう。
『ちょっと待って・・・』テイは耳元で優しくささやかれた様な気がして本から顔を上げた。
 あたりへ顔を向けるが、左右に人は立ってない。後ろのテーブルも空席で、1メートル程離れた隣の席に誰かが座っているだけだ。
『綺麗だよ』また耳元で囁かれる。
 誰?生まれてからこの方、そんなことを言われたことの無いテイは、今度はキョロキョロと周りを見渡す。
 やはりあたりには誰もおらず、隣の席に誰かが座っているだけだ。
 テイは改めてその誰かを観察した。
 軽くウェーブしたゴールデンブロンドの髪を持ったスマートな青年だった。歳はテイより年下、もしかしたら十代かもしれない。
 窓に面した特等席のソファーに浅く腰を掛け、膝の上に文庫本を乗せたまま窓の下、環状線のホームを凝視している。
 テイは彼につられて窓ガラスの向こう、環状線のホームを見下ろした。
 ホームでは大勢の人が電車を待っている。
 そのうちの1人にテイの目が留まった。
 若い女だった。
 シックな秋色のツーピースの下からスラリとした長い足が覗いている。少し茶色の髪は短めに纏められ、色白の小顔の・・・ここからでは少し距離がありすぎるが、たぶん美しい人だ。
 誰かを待っている様子でホームの柱に軽くもたれているのだが、そこだけが華が咲いたように引き立っている。
 ホームの端にそって埋め込まれたLEDランプがオレンジの点滅を繰り返し始めた。間もなく電車がホームに入って来る。
『行こう』また声がした。
 彼女が柱から離れた。
 待ち人来るかな?それとも電車に乗る?
 彼女はゆっくりと黄色い線に近づいて行く。
『進んで・・・怖がらなくていい』声が耳元で囁く。
「え?」テイの口から声が漏れた。
 テイは隣の席の男を見る。
 男はじっと窓の向こう、ちょうどホームの上の彼女の方を見つめている。
『前へ・・・』
 彼の口は確かにそう動いた。
 テイはホームに目を戻した。
 彼女はホームの端へと進んで行く。
「え?!え?!」テイは立ち上がって窓ガラスに顔をくっつける。
 視界の隅にホームへ侵入してくる電車が見えた。
「あ!」テイは叫び声を上げた。
 彼女がホームから転落するのが見えたのだ。
 激しいブレーキの音。こんな所から聞こえるはずはないのに、すぐ傍に立っているようにはっきりと響く。
 テイは思わず目を瞑り顔を逸らせた。

 少しの間をおいてテイはそっと目を開けた。
 電車は彼女の上を通り過ぎて止まっている。
 電車の向こうには人だかりが出来ている。
 ホームの係員も駆けつけようとしている。
 どうしようもない。テイはゆっくりと窓ガラスから離れると、ストンとソファーに腰を下ろした。
 そっと辺りを観察する。
 喫茶コーナーは何事も無かったように静かだ。
 皆、ソファーに腰を掛けたまま読書したり、談笑したり、各々の時間を過ごしている。
 隣に座っていた彼が膝の上に置いていた本を仕舞って立ち上がった。
 テーブルのマグカップを持って歩いていく。
 一瞬の躊躇の後、テイも慌てて文庫本をショルダーバッグに入れて立ち上がった。
 どの様な行動をするのが正しいのか、テイには判断できなかったが、そうせずにはおれなかったのだ。マグカップを持って後を追う。
 彼は返却用カウンターにマグカップを戻して、エレベーターの方へ向かう。
 テイもマグカップを戻し、少し離れて後を追う。
 彼はエレベーターホールに入ると下りのボタンを押した。
 テイは少し離れた柱の陰に隠れ、そこに置かれた植木の隙間から彼の方を観察する。ゴールデンブロンドの髪にスレンダーな体型。すこしやせすぎの様な気もするが、何とも不思議な魅力を持った青年だ。
 ポ~ン、エレベーターが到着した。
 彼はスマートにエレベーターに乗り込む。
 向きを変え行先階のボタンを押す。
 テイは柱の陰から出た。
 彼はこちらを向きテイと目を合わせた。まるでテイがそこに立っている事を予期していたかのように。
 彼がニッコリと頬笑む。
 明るいブルーの瞳だった。
 その印象だけを残して、エレベーターのドアが閉じる。
 まるで天使の微笑だ。テイはただ呆然とそこに立ちすくんでいた。


2018.10.03
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

今夜はちょっと変わったお話をUPしようと思います。

今夜はちょっと変わったお話をUPしようと思います。
あ、サキのはみんなちょっと変わってますから、いつもと同じと言えば同じなんでしょうけれど・・・。
時間軸は現在、舞台は現実世界にモデルがあります。
主人公は例のごとく女性、ヒロインですね。
サキがいつも妙にこだわる名前は、テイといいます。
正直、今回は名前が無くても良かったのですが、もう1人女性が登場し、その女性には名前が無いんですよ。
ヒロインを“彼女”と呼称して書くと、もう1人の女性との区別が面倒になってしまうんですよね。
ですからテイと名付けました。テイって妙な名前だとお思いでしょうが、これはアルファベットの“T”から来ています。
アルファベットはSTと続きますから、テイはエスの妹分というところでしょうか。
アルファベット名は良く使いますが、この名前はまだ不特定ですので、少女Tと同じようなものと考えてください。以前にもどこかで登場しているかも・・・。
何度も登場するようなら特定し、キャラ個人の名前として定着させますが、今のところは何となく名ですね。

よろしければ下のリンクからお進みください。
天使の分け前

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ここのところのPC

こんばんは。
突然ですが、サキのパソコンが起動しなくなりました。
どうもWINDOWSの基本的なファイルが壊れてしまっているようなのですが、原因不明の上、修復にも失敗してしまいます。
現在大急ぎでSSDを仕入れ、ピュアなWINDOWS環境を作って、そこからデータファイルを救い出すべく準備を進めています。
別のパソコンを使えばWEBを覗いたりすることはできるんですが、サキ専用ではないので自由が効きません。
時間さえかければ何とか復活できそうなんですが、それまでの間自分のブログの更新、皆様のブログへの訪問・コメントが滞ります。
お許しください。

先!協力して!!!
あ~大変だ!!!
面倒くさい!!!
小説を書きたいのに!!!
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復活です。

 もう少し時間がかかるかと思っていたのですが、案外早く復帰できました。
 まだソフトのインストールが必要ですが、それはまた必要になった時に少しずつ作業していこうということで・・・。
 コメントでもお返ししたのですが、WINDOWSには「復元」という機能があって「復元ポイント」の時点まで遡ってトラブルを回避する事ができるようになっています。「復元ポイント」は任意でも作成できますが、何かアクションが有った時には自動で作られます。
 ところが起動出来ない場合はその機能自体が使えないため、役に立たなかったんですよ。最悪でした。
 この間のハードディスクエラーにはなんとか対応できたのですが、その後シャットダウンが出来ないという状態がしばらく続いていたのでやばいなぁ、とは思っていたんですよ。でもパワースイッチONからいきなりエラー画面が出てリセットを繰り返しすのは勘弁してほしいですね。この間までは、しばらく大きなトラブルに遭遇していなかったので油断していました。
 やっぱりPCというのは完璧な製品ではないということですね。

 そして、トラブったSSDはリスクが高いかも・・・と考えて、新しいSSDにまっさらな状態でWINDOWS10をインストールし、データドライブと連動させました。

DSCN7252_2.jpg
Crucial MX500 250GB
新しいSSD(Solid State Drive)です。120GBから250GBに大きくなりました。
安定性や寿命も良くなっているといいのですが。

 でも、データをすべて別ドライブにしていたのは正解でした。
 こっちの部分には被害が無かったのは不幸中の幸いです。
 今後はこのデータもUSBハードディスクか何かにコピーしてバックアップしておこうかな、と思っています。痛い出費ですがデータは無くなったら帰ってきませんからね。
 書き溜めた小説はもちろんですが、書きかけの作品、大幅な変更がされる前の作品、別バージョンのお話など、ブログに上げてない作品群が無くなったら目も当てられませんから。

 さて、ボヤキはこのへんにして、そろそろ創作に取り掛かるとしましょうか。
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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。

山西 左紀

Author:山西 左紀
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アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
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limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
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