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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

今夜はまたパソコンのボヤキ記事です。

 やっちゃいました~。

 先日ですが、寝る前にPC(パソコン)をシャットダウンしようとして、アップデート(更新)の案内が入っている事に気がつきました。
 もう歯も磨いて、眠る寸前だったサキはちょっとイラッとしたんですが、しょうがないので「更新してシャットダウン」を選択したんです。
 ところが、グルグルマークがついたまま10分たっても20分たってもシャットダウンが完了しません。
 そのまま放っておいても良かったのですが、PCのLEDって部屋の電気を消すと良く目立つんですよ。ボヤーッと部屋が明るいと眠りにくいし、ハードディスクや冷却ファンの動作音も気になります。
 そこで悪魔が囁いたんですよね。
 エイヤッ!!!サキは主電源を切ってしまったのです。

 翌日、夕食後のことです。
 PCを起動してみて、サキは大変なことになっている事に気がつきましたが、もう後の祭りでした。
 BIOS設定画面で妙に時間がかかるなぁ・・・と思ってみていたのですが、WINDOWSの起動画面からブラックアウト、そしてハードディスクスキャンの確認画面でモタモタしているうちにスキャン画面に移行して、Scanning and Repairing Drive(E:): 0% completeになったまま進みません。グルグルマークが延々と回っているだけです。
 青くなりましたよ。画面は黒いんですけれど・・・。悪魔の画面?

fix-stuck-scanning-and-repairing-drive-in-windows-10.jpg

 先に見てもらいましたが、「このまま明日まで放っておくんだな。無茶をやってみてもいいが、一晩くらいは様子を見てからにしよう」と言います。
「え?ぼんやり明るいし、ファンがうるさいから嫌だなぁ」サキは儚い抵抗を試みたのですが。
「主電源を落とす奴が悪い。一晩くらい我慢しろ」と一蹴されてしまいました。
「え~!今夜もパソコン無し?マイクロソフトが余計なアップデートなんかするから・・・」サキはまだブツブツ言ってみましたが、完全に無視されてしまいました。

 さらにその翌日です。
 スキャン画面は 9% completeになっただけで他に変化はありません。
 先はこの画面を確認すると「しょうがないが、幸いEドライブだからな」と、パワーボタンの長押しでPCを止めてしまいました。
「あ!大丈夫?」サキは心配です。だって大切なデータがたっぷり入っているんですもの。
「いきなり主電源を落とす奴が言うな!」先のきついお叱りです。
 サキは返す言葉もありません。
「確か、Eドライブはバックアップ用だったろ?」先が聞きます。
「うん、OSやプログラムはCドライブのSSD、データはDドライブ、Eドライブにはドキュメントやムービー、ピクチャーなんかのバックアップを置いてあった」
「Eドライブは諦めた方が良いかもしれないな」
「え?壊れちゃったの?」
「スキャンが進まないから、その可能性もある。お前がいきなり主電源を切ったからな。けどEドライブでまだ良かったぞ。CやDだったらえらいことだ」
「でもEドライブだって1テラだし、もったいない」
「自業自得だ」先は主電源を切るとケースの蓋をあけ、さっさとEドライブのハードディスクを取り外してしまいました。
「あ~あ・・・」サキはまだ未練たらしく埃にまみれたハードディスクを指先で拭っています。
「さてと・・・」先はケースの蓋を開けたまま電源を入れました。
 BIOS設定画面、WINDOWSの起動画面、順調に起動していきます。
 そしてついに初音ミクのデスクトップが表示されるところまで行きました。
 ヤレヤレです。
「ほれ、直ったぞ!」
「ありがとう」
「ちょっと気になることもあるから調べておく、それまでこれで我慢しろ」
「いいけど・・・」サキはとりあえず我慢することにしました。

 またその翌日です。
 会社から帰ってきた先はPCの様子に異常が無いことを確認するとシャットダウンし、電源を落としました。
 そして昨日取り外した例のハードディスクを元の位置に取り付けました。
「え?いいの?」サキはまた心配になってきます。
「調べてみた方法を試してみる」先は電源を入れパワーボタンを押します。
 ピ・・・POS音がしてPCは起動していきます。
 そして、やはり取り付けたハードディスクのせいでモニターが黒くなって起動が進みません。そしてハードディスクスキャンの確認画面が表示されます。
 先は素早くEnterキーを押しました。
「これでスキャンを回避しないと、またあのスキャン地獄に入ってしまうんだ」
 少し時間はかかりましたがデスクトップが表示されました。
「さて・・・」先はWindowsのショートカットキー「Win+E」を押してファイルエクスプローラを起動しました。
 Eドライブが見えています。
「ここでうっかりEドライブの中を見ようとするとフリーズしてしまうんだ」先はそういうとマウスでEドライブを選択し右クリックしました。
 表示されたメニューから「プロパティ」を選択、さらに「ツール」タブを選択し、「チェック」ボタンをクリックします。あたりまえですがエラーを警告されています。
 先は「ドライブのスキャン」を実行します。すると、修復するかを聞いてきますので修復を行いました。
「よっしゃ!」修復完了を待って先はウィンドウを閉じ、PCをシャットダウンし、また起動します。
 少し時間はかかりましたが、引っかかることなく初音ミクのデスクトップが表示されました。
「行ける?」サキは恐る恐る聞きます。
「どうかな?」先がファイルエクスプローラからEドライブを左クリックすると中のフォルダーやファイルが表示されました。
「あ!見れた!!!」先からマウスを受け取りクリックしてみますが、ファイルの中身も問題ないようです。ハードディスクの復活です。
「よかったぁ」余計な出費が回避できてサキは一安心です。
「もうすぐ父の日だな・・・」先はそれだけ言うと自分の寝室に戻って行きました。
 プレゼント用のビールのグレードを上げてやろうかな・・・サキはそんなふうに思ったのでした。

 その後アップデート自体は無事に終了したのですが、サウンドが出力されないという不具合に見舞われました。
 現在はもとのバージョンにダウングレードして問題に対処しています。
 何のためのアップデート?
 マイクロソフトの馬鹿野郎!

・・・ということで20000HITリクエスト第3段、また遅れています。
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テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

生存報告です。

「大阪北部地震」(マスコミではもう名前が付いています。仮名でしょうけれど・・・)大きく揺れましたが、とりあえずみんな無事でいます。
サキのところは震源からは少しだけ離れていますので、まだましだったようです。
物が落ちたり、引き出しが開いてしまったりしましたが、被害は軽微です。

でも、大きな揺れでした。
阪神淡路を経験しているといっても、まだ小さくてよく覚えてないので、実質初体験みたいなものですよ。怖かったです。
自宅は高層階ですから、ドドンガタガタガタときてからユ~ラユ~ラと長時間揺れ続けました。
揺れが治まってからもまた来るんじゃないかと思ったりして恐怖でした。
余震に警戒しながらですが、今は落ち着いています。
取り急ぎお知らせしておきます。
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ミクとジョゼの物語(最終回?)

 ミクはスポットライトを浴びて舞台のセンターに立った。
 一瞬の静寂の後ミクは歌い始める。
「え?」ジョゼは観客席で身をすくめた。
 声がちゃんと出ていない!少なくともベストの声ではない。
 ジョゼの背中に冷たいものが流れ始めた。

 ・・・

「助けて!」ミクが叫んだ。
 ミクの服は襟元から腹にかけて血にまみれている。
 よろめくように数歩進んでから力尽き、ゆっくりと倒れ込む。
 そして動かなくなった。
 ナイフを持った男は暫くの間呆然と突っ立ていたが、やがておぼつかない足取りで走り去った。
 頭上には赤い月がナイフのように輝いていた。

 ・・・

 ジョゼは闇の中で目を開けた。
 枕元の灯りを点けると時計は午前4時を指している。
 夜が明けたらすぐに出発だ。
 ミクが受けるポリープの手術は明後日行われる・・・いや、もう日が変わったから明日だ。
 執刀するのはこの分野で世界的に名を知られたドクターだ。
 それにミクが入院しているローマの病院では、絵夢の知り合いもサポートしてくれていると聞いている。絵夢の知り合いというだけで、かなり手厚いサポートだということが想像できる。
 心配することは何も無い。
 ジョゼはそう自分に言い聞かせると無理やり目を瞑った。

*** 暗 転 ***

 小さな乗用車は石畳の道を登り始めた。
 カーブを幾つか通過するとヘアピンカーブが現れ、またカーブを幾つか通過するとヘアピンカーブが現れ、徐々に高度が上がっていく。車窓からは大きな川の流れと、その袂に広がる町の姿が見渡せるようになり、やがてその向こうに海原が現れた。
 大西洋だ。
 エアコンの調子が悪せいで窓は全開になっているが、入ってくる空気は清々しい。
 ヘアピンを曲がり、緩やかなカーブをなぞりながらさらに上ると、大きな石造りの教会が見え始める。
 ジョゼはハンドルを軽やかに回しながら助手席の方へ目をやった。
 助手席には肩までの髪を風になびかせながらミクが座っていて『ん・・・?』という感じで微笑んだ。
『なんでもない』微笑だけでそう伝えるとジョゼはまた前方に視線を戻した。次のカーブが迫っている。ジョゼはハンドルを回し、ミクの手はそっとジョゼの太ももに触れた。

 新婚旅行のスケジュールはなかなか決まらなかった。結婚式の後、オペラの歌い手であるミクに、オファーが続いた事も大きかったが、ミクの都合がつきそうな時に限ってジョゼが忙しかったりした。ジョゼはミクを故郷の日本へ連れて行こうと考えていたが、ジョゼがそのお金を用意するのも大変だった。
 だらだらと時間ばかりが過ぎて行き、いつの間にか新婚旅行にも行けなかったなぁ・・・という事態に陥りそうになった頃、ミクからポルトガルを見てまわりたいというリクエストがあった。
 ミクはティーンエイジャーの頃、祖母のところに引き取られてポルトの町にやって来た。それ以来ポルト近郊のガイア地区に住んでいるのだが、祖母のメイコがポルトを離れたがらなかったせいでミクも必然的にそうなったし、大学に入ってからも、オペラの歌い手になってからもドイツのアパート暮らしだったから、ポルト近郊以外にはほとんど見識が無い。結婚を機会に、自分を受け入れてくれたこの国を回ってみたい。そう言う気持ちからのリクエストだとジョゼは理解した。
 予算が下がったことで新婚旅行はようやく形を見せ始め、予定しなければならない休暇も短くなって、ミクのスケジュールも合わせることができた。
 まだ少し肌寒い日もある3月の下旬、2人はジョゼの小さな乗用車にスーツケースを押し込んでポルトの町を出発した。
 ポルトガルはそんなに大きな国ではない、ゆったりとした旅程で幾つかの町を巡り、今夜はヴィアナ・ド・カステロの町はずれの小高い山の上にあるホテルに宿泊する予定だった。

 車が教会を回り込むと、今度は正面にホテルの建物が見え始める。乗用車は非力なエンジンを唸らせながら山道をさらに登り、ローマ遺跡の横を抜けてホテルの駐車場にたどり着いた。
 ジョゼは玄関前に回り込んで車を止めた。
 ガラスのドアを開けて入るとそこは広いロビーだった。

アーチ窓1024x768

 ロビーの突き当りのアーチの向こうには、さっき通り過ぎてきた教会の灰色のドームとオレンジ色の屋根が、柔らかな夕日の中に浮かんでいる。山の上にはこのホテルと教会が建っているだけの静かな環境だ。
 ジョゼは左手にあるフロントに向かい、ミクは引き寄せられるように真っ直ぐ進んで窓に近づいた。
 教会の向こうに見える海原には、吹き寄せる春風によって幾筋もの白い波の帯が描かれ、それが砂浜にうねりながら押し寄せている。その様はまるで一枚の絵画のように美しい。

聖ルチア教会夕1024x768

「絵夢・ヴィンデミアトリックス様からご紹介いただいたジョゼ・シルバ様ですね?」彼女の名前が出るとフロントクラークの対応も何気に丁寧なような気がする。絵夢が紹介してくれたこのホテルの印象は、非日常的な華やかさの中にも落ち着きを感じさせるものだ。
『この分だと食事も美味いに違いない。それに静かそうだからゆっくり寝れるかな・・・』ジョゼはロビーからの風景に見とれているミクの後姿に目をやりながらチェックインを急いだ。

*** 暗 転 ***

「ジョゼ!ジョゼ!」誰かが呼んでいる。
 頬を軽く叩かれている。
 意識がはっきりすると目の前に茶色の瞳があった。
 心配そうにこちらを覗き込んでいる。
「ミク」ミクの襟元に血はついていない。ジョゼの緊張は一気に解けた。
 そう、ミクは舞台の上では無く目の前にいる。 
 そしてここはホテルの客室だ。ミクが読書灯を点けてくれたのだろう。部屋は柔らかい光に包まれている。
「どうしたの?」ミクが心配そうに声をかける。
「夢を見ていたんだ」
「どんな夢か聞いてもいい?」ミクは少し頬を弛めて言った。
「ミクの舞台の夢」ミクがポリープの手術を受ける前、こういう夢を何回か見たが、手術が上手くいってからは見なくなっていた。でもまさか今夜見るなんて・・・ジョゼは縁起でもない夢に罪悪感を感じながら返事をした。
「へえ、なんの舞台?」
「ミクが初めてプリマを務めた舞台だと思う」
「え?あの舞台、見てもらったっけ?」ミクは少しだけ目を見開いた。
「いや、見てないよ。でもミクの話を何度も聞いているから・・・勝手な想像さ。夢だしね」
「ふ~ん、それでうなされていたの?」
「うなされてた?」
「そう!ミク!ミク!って」
「え?そんなこと言ってた?」ジョゼは声を大きくした。
「うそ」ミクは悪戯っぽい笑顔になった。「でも、少しうなされてたよ」
「そうか・・・」
「うなされるなんて、あたしそんなにへたっぴぃだった?」
「そんなんじゃないさ」
「そう言われると気になるな。どんな夢?」ミクはジョゼの顔を覗きこんだ。
 こうなるとジョゼに抵抗の手段はない。変に取り繕っても表情を読まれたり矛盾点を追及されたら、余計にややこしいことになる。
「・・・大きな舞台の上でミクの声がちゃんと出なくなってしまう夢だったんだ。ごめん・・・縁起でもないよな」
「謝ることは無いよ。ジョゼ、ずっと心配してくれていたもん。手術の時だって、仕事をほっぽらかして来てくれたじゃない」そう言うとミクはジョゼのベッドにもぐりこんできた。

*** 暗 転 ***

 待合室には2頭の熊がいた。
 1頭はジョゼ自身だ。待合室の廊下側の壁に沿って、行ったり来たりを繰り返している。ジョゼは自分をミクの良き友人だと思っていた。だからここローマまでやって来てミクの手術に立ち会うことは、身の程をわきまえない行為だと考えていた。実際、祖母のメイコがローマに向かうべく準備をしていたのだが、高血圧の持病が出てドクターストップがかかり、思いもかけずジョゼが名代として派遣されることになってしまったのだ。
 もう1頭はハンス・フリードリッヒ・ガイテルだ。彼はミクの才能を見出した新進のオペラ演出家兼プロデューサーだ。ミクの歌声が復活するかどうかは、彼の演出家人生の大きな分岐点だったが、それだけが彼の心配事の全てではないようだった。ジョゼと同じように待合室の窓側の壁に沿って、行ったり来たりを繰り返している。 
 部屋の中央に置かれたソファーには2人の女性が座っている。
 1人は絵夢・ヴィンデミアトリックス。世界的な財閥を牛耳るヴィンデミアトリックス家の、俗に言うお嬢様だが、ミクの親友でもある。今回の手術が可能になったのは彼女の尽力によるところが大きい。忙しいスケジュールの合間を縫って駆け付けてくれているのだ。
 もう1人は、詩織。可愛らしい日本人だが、彼女はローマ教皇に直接仕える名家、ヴォルテラ家次期当主の義姉に当たる人物だ。ヴィンデミアトリックス家の依頼で、ミクのローマでのサポートをかってでてくれているらしい。
 昨日は若きヴォルテラ家次期当主や詩織の夫・・・つまり次期当主の兄、そして高名な音楽家らしき人物とその娘らしき二人連れも様子を見に来ていたし、世界的なロック歌手や音楽関係者、何やら華やかな人々から、強面のダークスーツの面々まで、ミクの親しくしている人々や関係者の見舞いがひっきりなしだった。
 だからミクと2人きりで話す時間はなかなか取れなかった。
 だが、詩織の心遣いで手術の直前、麻酔の処置が行われる少し前、ミクと2人きりで話をする時間があった。
 暫くの間取り留めの無い話をしたころ、手術開始を告げる看護士がやって来た。
「じゃぁ、行ってくるね」ミクは笑顔でそう言うと手術室に向かった。
「ああ」ジョゼはなんと言ったらいいのかわからず、曖昧に返事をした。「待っているよ」と付け足すのが精一杯だった。それが笑顔で言えたのかどうかも曖昧だった。
 この手術は非常に難しいものと聞いている。だがそれはミクの声を完全な状態に戻すという目標があるからだ。
 一般的なポリープの手術として見れば、リスクはさほど大きくはない。
 もしミクの声を完全な状態に戻すことができなくても、普通には歌えるだろうし、日常生活を送る事にも何の支障も無い。ただプロの歌手としての活躍は難しくなる。
 そうなったらミクは僕のステージに降りてきてくれる。彼女は新進気鋭のオペラ歌手では無くなって、普通の女の子になる・・・。
 ジョゼは一瞬でもそう考えてしまった自分に嫌悪感を抱いていた。
 その気持ちを処理する時間が欲しかった。
 だが時間は待ってくれない。どんな励ましの言葉をかけようか迷ううちに、ミクは手術室に向かってしまった。
 ジョゼは熊のように同じ所を繰り返し往復しながら、激しい後悔の念に苛まれていた。

 数時間後、手術を終えた医師の説明は端的だった。
「手術は問題無く終わりました」
「成功したんですね?」絵夢が堪えきれずに訊いた。
「最善を尽くしました・・・というより、出来る限りの最高の処置が出来たと思いますよ。経過を見てみないとまだなんとも言えませんが、あとは本人の回復力とリハビリ次第ということですね」
「よかった・・・」絵夢はジョゼの方を向いた。そしてジョゼの体に両手をまわした。
『うわ~、絵夢とハグしてる』大きくなってからは初めての経験にジョゼは舞い上がる。
 舞い上がる気持ちの中で、ジョゼはミクがもう自分と同じステージに戻らない事を理解したが、それよりもミクの前に道が開けたことを素直に喜んでいる自分が嬉しかった。
 詩織とガイテルが丁寧に礼を述べている事に気がつくと、絵夢も慌てて医師の方に向かい礼を言った。ジョゼもそれに倣う。
「もう暫く経過を見させてください」そう言って医師は引き上げて行った。
 ガイテルはジョゼの方に向き直り、複雑な表情で右手を差し出した。
 ジョゼはその右手をしっかりと握った。ガイテルがその上に左手を重ねて笑顔になる。ジョゼも笑顔で左手を重ね、しっかりと上下に揺り動かした。
 詩織とも握手を交わした。「大切な方ですものね・・・」詩織は意味深な物言いをした。

*** 暗 転 ***

「あたしこそ心配ばかりかけてごめんね」
 毛布の中でミクが言った。
 ジョゼの横腹に唇を寄せ、胸から首筋へと這い上がってくる。
 ミクの熱い息が感じられる。
 やがてジョゼの隣にミクが顔を出す。
 ジョゼはミクの体をそっと抱き寄せた。
 とてもあのボリュームで歌うとは思えないくらい細くて華奢な体だ。
 でもマシュマロの様に柔らかい・・・。
 ミクは暫くの間ジョゼを見つめてから、安心したように微笑んだ。
 そして、右手でそっとジョゼの頬に触れ、左手で読書灯を消した。

*** 暗 転 ***

 朝食を済ませると2人はテラスに出た。
 客室の窓から、食堂から、ロビーから、テラスから、このホテルの正面にずっと見えているあの教会に行ってみようということになったのだ。

聖ルチア教会朝1024x768

 テラスの先の小道を下って行くと道路を歩くより近道だということは、朝食後にフロントクラークから聞き出している。
 新緑の中、ミクが先になって小道を下って行くと、やがて鉄製の小さな門が現れた。それを開けて石畳の道路に出ると、教会はすぐそこだった。
 聖ルチア教会と呼ばれているその教会は灰色の大きな石で作られている。以前はもっと暗い色合いだったらしいのだが、何年か前に汚れを落としたという話で、今は明るい灰色の壁面を取り戻している。
 裏手からぐるりと建物を回り込んで正面の階段の上に出ると、もう入口の扉は開いていた。
 昨日前を通った時は観光バスや乗用車が停まっていて、観光客の姿も見えたのだが、まだ朝早いせいだろうか人影は無い。
 ミクの後を付いて教会の中に入ったジョゼは思わず息をのんだ。
 祭壇の上には大きな天井画が描かれている。

聖ルチア教会天井画1024x768

 青空を背景に中央に描かれているのはイエス・キリストだ。キリストの周りには放たれる光を表す白い同心円と、四方にも何かが流れ出すように白い帯が描かれている。そしてその外側を楽器を持った天使たちがぐるりと取り囲んでいる。
 ミクは祭壇の前の階段を少し上ってジョゼの方に向き直った。ジョゼはベンチの間の通路に立ってステンドグラスを見上げている。

聖ルチア教会ステンドグラス1024x768

 一呼吸おいて、ミクが静かに歌い始めた。
 ジョゼは驚いてミクの方を見上げる。聞いたことのない歌だった。
 最初は少し遠慮気味だったが徐々に声量は大きくなり、ソプラノが教会のドームに反響する。
 ミクの歌声だ。オペラの時とは歌い方が違っているが、すべての音が淀みなく発声されていて、ずっと聞いてきたジョゼにはそれがベストな状態だということが分かる。
 それに歌詞はスペイン語だから、ジョゼにも意味は分かる。

・・・健やかなる時も病める時も、富める時も貧しき時も、良き時も悪い時でも、命の尽きる時まで変わることなく、あなたを愛することを誓う・・・

 ミクは渾身の力を込めて歌い上げる。
 もうミクは自分の喉に対して何も心配もしていない。ジョゼはミクの歌う姿を見ながらそう感じていた。
 やがて歌は終わり、ミクは満足そうな笑顔になってゆっくりとお辞儀をした。
 拍手が沸き起こった。
 ミクは反射的に拍手の聞こえた方へ目をやった。
 大勢の観客がミクに拍手を送っている。いつの間にか観光客の団体が教会の中に入ってきていたのだ。
 ミクの満足そうな笑顔は急速に真顔になる。
 大慌てで、階段を駆けおりてジョゼの手を取ると、鳴り止まぬ拍手の中を教会の外へ駈け出した。
 ミクは石畳の道路と小道の階段を駆け上がり、ホテルのテラスに戻った。
「急に走り出して、驚くじゃないか」後を追って駆け上がってきたジョセは息を切らして言った。
「だって、恥ずかしかったんだもん」ミクは激しい息の下でようやくそれだけを言うとジョゼの胸に飛び込んだ。激しい鼓動、激しい息づかい、それに暖かい体温が伝わってくる。
 ジョゼは、もうあんな夢を見ることは無いだろうと思いながら、ミクの体を強く抱きしめた。


2018.06.21
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第3弾の発表です。

 お待たせしました。
 今夜は20000HIT企画のリクエストにお答えした作品、第3弾の発表です。これでようやくミッションコンプリートです。
 リクエストをいただいたのは大海彩洋さん
 ご希望のキャラクターは「絵夢の素敵な日常」シリーズからミクとジョゼ。
 リクエストの内容は、

リクエストは、いよいよ手術となれば、きっとジョゼや絵夢も遠くから見守っているだけではすまなかったと思うので、その辺りのことを、結婚後の思い出話としてでも新婚旅行に絡めてでもいいので、お願いしちゃいましょう。

・・・でした。
 リクエストに“新婚旅行に絡めても・・・”とありましたので、ご希望通りミクとジョゼは新婚旅行中です。
 これまでサキは、ヤキダマとコトリ、ミラクとアルマクの2カップルの新婚旅行について書いていますが、姉さん女房は初めてです。
 六つ年上のミクがジョゼにどんなふうに甘えるのか、或いはリードするのか、悩みましたが一生懸命想像して書いてみました。
 上手く想像できずにぼかしちゃってる部分もありますが、その辺はサキの経験不足から来ているものですのでご勘弁ください。
 そしてこれは「ミクとジョゼの物語」シリーズの最終回でもあります。
 ミクが中学生の頃から始まったこのお話もついにエンディングを迎えることになったのですが、サキはタイトルの最終回の後ろに(?)を付けておきました。
 またなにか機会があったら書きたいじゃないですか。
 それほどこの2人には愛着を感じています。
 ミクはTOM-Fさんのリクエストで生まれ、ジョゼは夕さんがコラボ作品で生み出してくださり(ジョゼは夕さんのオリキャラなんです。時々サキも忘れていますが・・・)、さらに彩洋さんとも楽しくコラボ出来たキャラクターですから、余計にそういう思いが強いんじゃないかと思っています。

 この2人についてご存じない方、或いは忘れてしまわれた方は、
【キャラクター紹介】ミク・エストレーラ
を見ていただければある程度流れをトレースできると思います。

 すべてを読んでみたい奇特な方はこちらのまとめページから・・・。
ミクとジョセの物語・背中合わせの2人

 20000HIT企画・リクエスト作品・第三弾、よろしければ下のリンクからお進みください。
ミクとジョゼの物語(最終回?)
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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。

山西 左紀

Author:山西 左紀
「山西 左紀について知りたい方はこちら」
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アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
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