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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

帰国しています。

 帰国しています。
 4日の夕方には戻っていたのですがさすがに疲れました。
 更新は予告通り5日になってしまいました。

 旅行は実に楽しかったです。あまりフリーの時間は取れなかったので自分勝手にうろつくわけにはいきませんでしたが、まぁ贅沢を言ってはきりがありませんから・・・。
 春の時期だからでしょうか、ちょっと雨にもたたられましたが(サンティアゴ・デ・コンポステーラでは雹に会いました)ハイライトシーンの天候はおおむね良好でした。

 ポルト、素敵な町でした。
 ミク達が歩くであろう通りをゆっくりと散策することもできて幸せでした。
 時折雨にも会いましたが、こういうのも良いかも・・・。
 添付している写真はミクとジョゼ、そして23とマイアが式を挙げた場所だと思われる教会です。

サン・ジョゼ・ダス・タイパス教会

 なんと、改修中だったのですが、夕さん、ここですよね?
 バスの中から地図とにらめっこして探したのですが、どうでしょうか?
 この教会の前にマイア達の乗った6ドアのグランド・リムジンが・・・。
 いろいろと想像するとドキドキしちゃいますよ。
 何かいろんなイメージがどんどん湧き上がってくるような・・・。
 なんか、ちゃんと近代的なんですけれど、行き交う人々が、観光客までもが純朴な感じなんですよね。
 素敵な町でした。

 元気に帰国していますので、とりあえず報告しておきます。
 この後リスボンまで南下していますが詳しい報告はまたあらためてゆっくりと。
 素朴な町々、それぞれに素敵でした。
 イースター休暇とテロ特需(ポルトガルならテロが発生する可能性が他より低いと考えているらしい)で観光客は多めだったようですが、それでもけっこうゆったりと観光できました。

 では今夜はこの辺で・・・。
 時差ボケかな?眠いです。
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テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

花(仮題)

 汐見橋駅のホームは心地よい日差しに包まれている。
 ホームのベンチに座ってその日差しを全身に浴びていると、いつもなら不快に感じる下町の喧騒や空気にすら、その中に萌え出る春の成分が含まれているように思えてくる。
 ホームにはボクの他、誰もいない。
 やがてその閑散とした駅に電車がやって来る。
 たった2両の可愛らしい編成だ。
 渡り線を渡った電車はブレーキを軋ませてそろりと停車し、まるで溜息のようにエアーを吐き出してからドアを開けた。
 コンプレッサーが忙しげに規則正しい音を響かせる。
 この駅は終点だから電車はここで折り返す。
 ボクはその音に促されるようにゆっくりと立ち上がり、今先頭になった車両の一番前のシートに腰掛けた。
 コンプレッサーはエアータンクを一杯にすると動作を止めた。
 たちまち都会の喧騒は遠ざかり、大都会大阪のど真ん中とは思えないローカルな時間が流れ始める。
 発車までは暫くの時間がある。ボクは薄い文庫本を取り出すとそれに目を落とし、暫しの間安息の空間に入り込んだ。

 気配に顔を上げるといつの間にか向かいの席、運転士のすぐ後ろに少女が座っている。真っ直ぐな黒髪を肩に垂らし、端正な作りの顔に大きな目が良い意味でとてもよく目立つ。まるで見ることを禁じられている妖精を間違って見つけてしまったかのように、ボクは呆然と彼女を見つめていたが、彼女がこちらを見ている事に気がつくと慌てて視線を逸らせた。
 彼女は隣の県にある超有名な進学高のセーラー服を着ていた。ボクの妹も通っていた学校だから見慣れた制服だが、髪型やスカート長、スカーフに靴下、それに襟元のバッジが明らかに校則に違反している。持っているカバンも『違うだろそれ!』とツッコミを入れたくなるような代物だ。
 おまけにまだ昼を過ぎたばかりで、学校の授業が終わるには早すぎる時間帯だ。方向も反対だから、これから登校するわけでもないだろう。
 彼女はそんなことを全く気にする様子も無く、悠然と向かいの席に座っている。
 やがて運転士がやって来て出発の準備を始めた。幾度かレバーが操作され、エアーが解き放たれる音がやけに大きく車内に響く。
 前方の信号が青になって出発の合図が鳴ると、ガタガタと大きな音をたててドアが閉まり、電車はモーター音を響かせて走り始めた。乗客は彼女とボク、たった2人だ。
 芦原橋、木津川、電車は人気のない駅に律儀に停車してはドアを開け、誰も乗せないまま発車する。かつては貯木場があって賑わった沿線は、今は寂れて往時の面影はない。まるで大都会の真ん中にぽっかりと開いた異次元ポケットの様だ。
 電車は緩やかに左カーブを曲がり、津守の駅に近づく。
 運転士の後ろで何処ということも無く、ドアの方へ視線を向けていた彼女が、前方へと視線を向けた。
 線路の両側に寂れたホームが見え始め、そのホームの一番向こうの端に人影が見える。電車がホームに入ると、それが大小2人の人間である事がわかる。さらに近づくと2人は中年の女性と小さな女の子であることがわかる。彼女はその2人をじっと見ているのだ。
 彼女は立ち上がってドアのところに立った。
 電車は2人の前に停車すると扉を開けた。
「ママ!おかえりなさい!」弾けるような笑顔を見せて女の子が電車に乗り込んできた。金色のおさげ髪とそばかすが可愛らしい。 
「ただいま」彼女も笑顔になって女の子を受け止める。
 中年の女性が彼女と女の子に微笑を向けた。「また明日ね」
「ウン!おばあちゃん、バイバイ」女の子が小さく手を振るとドアが閉まる。
 彼女と中年の女性は目で合図を送りあった。
 電車は気怠そうに走り始めた。
 中年の女性が見えなくなるまで手を振っていた女の子がこちらを向いた。『あれ?』という表情で青い瞳をこちらに向けてから、彼女の方を見上げる。彼女と良く似た大きな目がとても愛くるしい。
「今日は駄目よ」彼女は小さな声で言い含めると、運転士の後ろに女の子を座らせ、その隣に腰掛けた。女の子は靴を脱ぎシートに立ち上がって運転士の背中越しに前方を見ようとする。
 ボクは諦めてシートの前方を少し開けた。
 それを見ていた女の子が『いいの?』という表情でこっちを見る。
 ボクが大きく頷くと女の子は嬉しそうにこっちにやって来た。そして同じようにシートに立ち上がって前方を眺める。今度は遮るものが無いから見晴らしはいいはずだ。
 彼女が『すみません』という風に軽く頭を下げた。
 電車はのんびりと進み、女の子は嬉々として前方を見つめている。はち切れんばかりのエネルギーを含んだ幼子の匂いが鼻をかすめる。
 電車は西天下茶屋駅を出ると坂を登り始め、終点の岸里玉出駅のホームに入る。ドアが開く前に女の子は慌てて靴を履き、彼女の元へと駆け戻った。
 2人はしっかりと手を繋ぎ、開いたドアから降りて行く。
 もう一度彼女が頭を軽く下げ、女の子が「バイバイ」と手を振った。
 ボクも「バイバイ」と手を振り返し、暫くの間2人の姿を追う。
 ボクの中にあった驚きや疑問、疑念、憶測、そして偏見は一気に消えていった。そんなものどうだっていいじゃないか・・・。
 2人が階段に消えるとボクは我に返り、ゆっくりと立ち上がった。そして荷物を肩にかけ、今先頭になった車両の方へ歩き始めた。


2018.04.11
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花(仮題)について

『花(仮題)』をUPします。
最初に謝っておきますが(最近謝る事が多い)、これ30000HITのリクエスト作品ではありません。
リクエストを頂いているTOM-Fさん、お待たせしてすみません。もう少しお待ちください。今、展開に唸っている最中です。

この作品、実はlimeさんの記事『(雑記)南海電鉄小説コンテスト』に触発されて書いたものです。
もちろん、もちろんなのですが、これ、limeさんの作品に対抗心を燃やしたとか、コンテストに仮想応募したとか、そういうつもりは全くないのです。
自分のレベルは自覚しているつもりです。
ようするに、『南海電鉄沿線を舞台に「愛」をテーマにした小説を募集します』というキャッチフレーズから、愛?鉄道?しかも南海ですって?・・・ポッカリ、そんなふうにして浮かんできたアイデアをそのまま廃棄できなかっただけなんです。
せっかくのアイデア、そんなことはできないですよね?
言い訳がましいですが、本当にそんな感じです。
旅行直前にプロットをまとめ、冒頭部分を書き始めて、後は旅行中に構想をまとめました(なにしろ飛行時間が長いですからね)。
帰宅後にすぐ書き上げるつもりでしたが、時差ボケのような症状にグズグズしていてすこし時間がかかってしまいました。
とりあえず上げますので、よろしければ下のリンクからお進みください。
なんとタイトルなんか“仮”のままですよ。
しかも、南海電鉄が自社の宣伝のために企画したコンテストでしょうから、汐見橋線を取り上げている時点で落選は必至でしたね。
梅田と関空の連絡線構想からは脱落してしまったようですし、南海としてはお荷物になっている路線かも。廃線は時間の問題かな?
阪神難波線の桜川駅に接続して多少便利になったので、なんとか生き残ると嬉しいんだけれど・・・。

花(仮題)
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30000の出会いに乾杯

 電車は十三の駅を出ると淀川の堤防を駆け上がり、淀川橋梁に差し掛かった。
 夕方のラッシュにはまだ早い時間で、車内は比較的空いている。
 エスはいつものように電車の一番前、前方が見渡せる特等席に座っていた。
 普段はダークグリーンやダークブラウンのダボッとした格好でダラダラと行動するのだが、今日は水色とマリンブルーでデザインされた上着を着て、細身の白っぽいジーンズを履いている。いつもは適当に撫でつけられるだけの髪には丁寧に櫛が当てられ、肩より少し上の位置で綺麗に切り揃えられている。おまけに顔には薄く化粧までしている。それはエスにとっては晴れがましいと呼べるほどの格好だったが、それとは裏腹に唇は強く引き結ばれ、頬は強張っている。進行方向に向けられた目も虚ろで、せっかく確保できた特等席からの展望も目に入らない様子だ。いつもなら並走する神戸線や京都線の電車を眺めたり、進行方向を見たりとあちらこちらに忙しく顔を向けるのに、今日は前を向いたままじっと座っている。
 エスはこれから立ち向かう試練に押しつぶされそうになっているのだ。
 桜も散り果て、爽やかな風が吹き抜ける季節になったのに、エスの心の中はまるで木枯らしが吹き荒れる真冬のようだった。
 電車はそんなエスにはなんの配慮も見せずに橋梁を渡り終え、中津の駅をさっさと通過した。
 速度を落とし、カーブを曲がり始めると間もなく前方に大きな駅が見えてくる。終点の梅田駅だ。
 電車は滑るようにホームに進入すると慎重に定位置に停車した。
 乗客は一斉に立ち上がり、開いたドアから降りていく。やがて反対側のドアが開くと、今度は乗客が乗り込んでくる。その頃になってエスはようやく立ち上がり電車を降りた。
 上を見上げて深呼吸をしてから腕時計を確認する。
 まだ時間には十分余裕がある。
 エスは、ゆっくりと地下鉄の梅田駅に向かって歩き始めた。

 事の発端はマリアからのメールだった。マリアというのはエスのブロ友のイタリア人ブロガーだ。
 エスは物書きを自負していて、拙いながらも自分のブログで小説を発表している。もちろん日本語で発表しているのだが、エスは自分の祖母がイタリア人であることもあって、小さいころからイタリア語の読み書きもできる。大きくなってからは意識して学んだので、ある程度の自信もある。
 それで勉強の意味も兼ねて、自分のブログにイタリア語のページも設けて、自分の小説をイタリア語に翻訳して発表する、という冒険に打って出た。
 反応は芳しくなかったが、ある時そのマリアから、物語の感想と同時に文法の誤りを指摘するコメントが入った。それが彼女との交流のきっかけだった。
 マリアも趣味で小説を書き、それを自分のブログで発表する小説ブロガーだった。お互いの作品に対するコメントをやり取りしたり、イタリア語の添削をしてもらったり、データ検索を依頼されたり、マリアの小説を日本語に翻訳したり、ブログ仲間のイベントに一緒に参加したりするうちに、2人の交流は深まっていった。
 そして、エスがイタリアを訪れてマリアを探したが、お互いのリアルをほとんど知らなかったうえに、全くの準備不足だったこともあって、出会えなかったという事件まで発生した。
 後にそれを知ったマリアは残念がったが、それがこの日本訪問に繋がったようだ。
 メールにはマリアが訪日する旨が書かれ、会いたいからセッティングをお願いしたいという内容だった。都合が合う人だけでもいいから日本のブロ友にも会いたいとも書き添えてあった。
 エスは困った。ネットの世界と現実は分けておきたいと考えていたからだ。
 イタリアに行ったのも、観光と祖母の生まれ故郷を訪ねるというのが目的だったし、マリアを探したのも、もう2度と来れないだろうからもし偶然にでも出会えれば・・・という程度の動機だったのだ。だから下調べもほとんどしていかなかったし、会えないなら会えない方が良い、そんな気持ちだった。
 でも今度はマリアが本当にやって来る。しかも会いたいと希望して。
 最初は代理人を立てる事を考えた。ケイはイタリア語を喋るが、彼女にはすげなく断られた。エス自身になんとかさせる方が良いと考えたようだ。ダイスケにもその日に仕事がある事と、外国語がからっきしなのを理由に体よく断られた。最後の頼みのコハクは冷たい奴だった。たぶんダイスケもコハクもケイと結託したのだろう。
 ここまで足を運ばせて、いまさら無碍に出来ない。悩みに悩んだ末、エスはようやく覚悟を決めたのだ。
 アリアの大まかな旅程はすでに決まっていたからそれに合わせてスケジューリングしたが、細かい段取りは日本のブロ友に丸投げした。
 手はずではマリアが乗った新幹線の到着に合わせて新大阪駅のホームで落ち合うことになっている。

 新大阪駅で地下鉄を降りて階段を下り、改札を抜けてJRとの連絡通路に出る。
 マリアは日本行を機にスマートホンを用意していた。何となくこれまでの成り行きで音声通話は使っていないが、メールでのやりとりはリアルタイムで可能だ。
 マリアの乗った飛行機は3日前に成田に到着し、東京都内のホテルに無事に入っている。一昨日と昨日は東京の定番スポットを観光し、日本の不思議に驚いている報告メールが届き、家を出る時には打ち合わ通り“のぞみ”の指定席、12号車に乗ったというメールも受け取った。
 慣れない外国でも1人で行動できるんだ。普段のやり取りではわからないマリアの別の一面を見たような気がして、エスは少し安心した。それにつれてどんな人なんだろうと好奇心が頭をもたげ、胃のあたりに漂っていたモヤモヤも少しは薄らいでいた。だが、いよいよ約束の時間が迫ってくると、やはり緊張は増してゆく。
 エスは歩調を強くして新幹線コンコースに上り入場券を買った。そして改札を抜け、ホームに上がる。列車の到着までまだ30分ほどある。エスは12号車のドアの位置に近いベンチに腰掛け、列車の到着を待つことにした。
「エス・・・さん?」突然声をかけられエスは驚いて振り返った。
 30代なかばに見える穏やかな感じの女性が立っている。
「あ・・・近江さんですか?」エスはしげしげと女性を見つめてから、恐る恐るという感じで訊いた。
「はい、近江サヨです」女性は答え「エスさんですよね?」とさらに確認する。
「あ・・・っと、はい、エスです・・・ってなんか変ですね」予想より早い展開にエスは戸惑っていたが、心の準備が整う前のいきなりの出会いは、エスに過度に緊張する暇を与えなかったし、サヨの笑顔と優しい声はエスの不安を一気に解消した。
「普段、この名前で名乗ることが無いですからね」サヨが笑顔で言った。
「そうですよね」
「失礼なことかもしれないのですけれど、本名も名乗りませんか?」サヨが思い切ったように言った。
 エスは一瞬戸惑った表情をしたが「“真の名”・・・ですね?」と厳かに言った。
「そう、“真の名”です」サヨもエスの目を見つめて厳かに続ける。
「そうですね。こんな事って何度も無い事でしょうから、思い切って・・・良いですよ」エスは少しの間思案してから言った。
「じゃぁ、私から。私はシメノナツミといいます」
「シメノ?」
「難しいですよね?“点”英語だとpointね。それに野原の野と書きます」
 エスは小さなメモとペンを取り出してサヨに手渡す。サヨはメモに名前を書きながら「ナツミは夏の海と書きます」と言った。
「ありがとうございます。綺麗な名前ですね。ウチは・・・」エスも“真の名”を書いてサヨに渡した。
「榛名さん?素敵な名前ですね」
「いえ、とんでもない」エスは赤くなった。「今日は今まで通りエスでお願いします」
「そうですね。じゃぁ私もサヨで・・・」
「でもサヨさん、まだ約束の時間までだいぶありますよ」
「こういう事、オフ会って言うんですか?始めてなんですよ。だから、かなり早めに来てしまいました」
「ウチもです。じっとしていられなくて・・・」
 お互いの“真の名”を明かした2人はたちまち打ち解け、和やかに会話を続けた。

 やがて、マリアの乗った新幹線の到着する時間がやって来た。
 アナウンスが列車の到着を告げ、マリアの乗った“のぞみ”は定刻と1分の狂いもなくホームに停車した。マリアには後ろのドアから降りてくるように指示してある。2人はそのドアの傍でマリアが出てくるのを待った。
 乗客はほとんどが日本のビジネスマンと思われる。所々に外国人が混じっているが、マリアらしき外国人女性は見当たらない。この列車は新大阪が終点だからゆっくりと降りてくるつもりのようだ。エスの緊張はピークに達しようとしている。
 やがて乗客が一旦途切れ、それから1人の女性がゆっくりと降りてきた。
 ほっそりとした体にアプリコット色のワンピースを身に着けている。40歳くらいだろうか?ブロンドの髪は銀髪への道のりの半分くらいで、化粧っけのほとんどない白い顔に茶色い瞳が煌めいている。その悪戯っ子のような瞳がこちらを向いた。
『エス!』女性は従えていた小さなスーツケースを放置したままサヨのもとに駆け寄り、大げさに抱きしめた。
 エスは慌ててそのスーツケースを確保する。
『マリア、マリア、私はサヨです』サヨは英語で訂正する。
『え?サヨ?それじゃエスは?』マリアはキョロキョロと周りを見渡した。マリアの大胆な行動はエスの緊張を崩壊させた。
『マリア』エスは覚悟を決め、スーツケースを曳いたままマリアの許に近寄った。
『エス?あなたがエスですね?』
 エスが頷くと、マリアは改めてエスをしっかりと抱きしめた。
『思っていたより小さい。そして細いわね。華奢と言った方がいいのかしら。私も細いけど。あなたは細すぎるわ。もっと食べなさい』マリアはエスを抱きしめたままイタリア語で感想を述べた。その物言いは祖母を思い起こさせ(失礼、マリア。それに念のために言うと祖母はまだ生きている)強い抱擁はエスの心を落ち着かせた。
『マリア、痛い』エスが小さく悲鳴を上げる。
『ごめんなさい』マリアはようやくエスを開放した。
 好奇の目でこの光景を眺めていた野次馬達は徐々に散って行く。
『あなたがエス、そしてあなたがオオミサヨさんですね?』マリアは改めて2人を眺めた。
『はい』2人は同時に返答し顔を見合わせる。
『改めて挨拶するわね。始めまして、マリアです。ご招待いただいてありがとう』マリアは2人に合わせて英語を使った。
『ようこそ、大阪へ!』2人はまた同時に喋ってから顔を見合わせた。
『でも自分をマリアと紹介するのって変な感じね』マリアが顔を歪める。
『そうですよね。リアルではそんなことは起こらないですからね』サヨが同意して続けた。『さっきエスさんとの間で“真の名”を交換したんですけれど、マリアさん、あなたの“真の名”も明かしていただけませんか?』
『“真の名”?本名の事かしら?ここで?』マリアはいきなりの提案に驚いたが、そういうこともありかしらと、応じてくれた。
 3人は近くのベンチに並んで腰掛けて“まことの名前”を書いたメモを交換した。
『アント・・・』サヨが読みにくそうに言った。
『アントネッラ・アナマリア・ハースと言います』マリアが補足する。
『それでマリアなんだ』エスが納得の声を出し、マリアがニッコリと頷いた。
 エスとサヨはコソコソと打ち合わせをしてから『では改めまして』とエスが音頭を取った。そして『アントネッラ、ようこそ、大阪へ!』と声を揃えて言った。
『ありがとう!きっと大阪は素敵な町だわ』マリアは顔をほころばせた。
『でもハルナ、ナツミ、今日は私の事はマリアと呼んでちょうだい。私もエスとサヨと呼びますから。“真の名”は大切だけれど、これを使ってしまってこれまでの繋がりを混乱させたくないですから』
『もちろんです』2人はまた声をそろえたが、イタリア語と英語のデュエットになっていたので、3人そろって大笑いをした。
 気さくなマリアの態度はエスをすっかり安心させた。
『さぁ、いつまでもこんな所ではなんですから移動しましょうか?』サヨが立ち上がった。
『あら?TOM-Hさんともここで待ち合わせじゃぁ・・・』マリアがサヨを見上げる。
『ここへ来る前にTOM-Hさんから遅れるというメールを受け取っています。今日はTOM-Hさんが幹事だから申し訳ないと謝ってましたけれど、30分程遅れるので先に始めておいてくれとの事でした。夕食は夜景の綺麗なレストランだそうですよ。行きましょうか』
『行こう!マリア』完全に丸投げのエスは勢いよく立ち上がったが、小さなスーツケースを曳こうとして『マリア、荷物はこれだけ?』と訊いた。
『あ、ありがとう。大きいのは大阪のホテルに直送してもらったわ』
『なんだか旅慣れてるね』エスが羨ましそうに言った。
『そうじゃないの。今回の旅行にはね、私が仕事で担当した人が亡くなった後、お礼にと遺言で残してくれた旅行クーポンを使っているの。その人、大手の旅行会社の会長だったの。だから、旅行会社の威信をかけて至れり尽くせりなのよ』エスと話す時、マリアはイタリア語になる。
『へえ、凄い!』エスは日本語に訳してサヨに伝えた。
『羨ましいなぁ』サヨが目を輝かせる。
『でもね。旅行クーポンだから旅行にしか使えないの。結構せこいのよね』マリアは英語でそう言うと片目をつぶった。
 3人は大阪駅に向かうためにエスカレーターを下った。

 レストランは高層ビルの上層にあった。TOM-Hはマリアのために和食、しかも懐石料理をメインとする店をセレクトしてくれていた。
 4人で30000円以内という予算では少し心もとないレベルの店だったが、今日は特別だ。不足分はTOM-Hが補ってくれるつもりのようだ。
 予約の名前を伝えるために、すでにTOM-Hの“真の名”は割れている。
「星河で予約を入れているのですが」サヨが告げると「承っております」と窓の傍のテーブルに案内された。日が暮れたばかりで、薄闇の中に浮かび始めた夜景はまだ序の口だったが、それでもこの世の物とは思えないぐらい美しい。
『TOM-Hさん、さっき京都を出られたから、あと30分かからないと思います』サヨがスマホを覗きながら言った。
「コースは待ってもらって、とりあえずおつまみで少し飲んでようか?」サヨがエスに相談する。
「うん、まかせます」エスは完全に丸投げ状態だ。
 サヨは店員と相談してアルコールとおつまみになりそうな物を注文する。マリアに懐石について説明しているうちに注文した物がテーブルに並べられた。
『これ、日本酒ね』マリアは嬉しそうだ。
『ではまず乾杯から』冷酒を注いでからサヨが小さなグラスを上げた。
 エスとマリアもグラスを上げる。
『この素敵な出会いに、カンパイ』『カンパ~イ!!!』チンとグラスが合わさり、宴が始まった。
 ブログや創作の話で盛り上がり、時間はたちまち経過する。英語が中心になるが、日本語とイタリア語も飛び交う。近くのテーブルから奇異の目で見られてもお構いなしだ。
「あ、いらしたようですよ」サヨがテーブルから目を上げた。
 エスの緊張が一気に増す。顔を上げると入り口の方からスタッフに案内された男性が笑顔を見せながら近づいてくる。
 サヨと同じぐらい、30代なかばだろうか。
 エスは深呼吸をして新しい出会いに備えた。
 宴はまだ始まったばかりだ。


あとがき

この物語は2016年11月に実際に開催されたオフ会を下敷きにして書かれています。
参加者は八少女夕さん、大海彩洋さん、TOM-Fさん、そして山西先の4人でした。
この物語の登場人物とオフ会参加者のどなたがリンクしているのかは、お分かりになると思いますが、それぞれの登場人物の設定はサキの勝手な想像の産物です。元になった皆様との関連性はありませんので、ご承知おきください。
また登場人物はオフ会参加者の方のブログ小説に登場するキャラクターをお借りしていますが、作者に与えられたものとは違った役を演じてもらっているキャラクターもいます。イメージが壊れてなければいいのですが・・・。
エスはもともとの設定どおりの役を演じていますが、サキの分身としては有り得ない行動を取っています。
30000HITのお祝いの物語ですので超特別です。

長々と言い訳を書いてしまってすみませんでした。
そして、読んでいただいてありがとうございました。

下は本作に登場した各キャラクターの出演作品へのリンクです。
マリア(アントネッラ・アナマリア・ハース)
近江サヨ(点野(しめの)夏海)
TOM-H(星河 智之)
エス(黒磯 榛名)


2018.04.26
2018.05.01 アントネッラのフルネームを追記
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第2弾の発表です。

お待たせしました(誰も待ってない?)。
今夜は30000HIT企画のリクエストにお答えして書いた作品、第2弾の発表です。
ようやく書き上がりました。
リクエストはTOM-Fさんから、お題は「タイトルかテーマに30000を使う・サキのオリキャラと、他のブログからゲストキャラ3人とでコラボしてほしい」というものでした。
ちゃんとタイトルには30000を入れたのですが、他のブログからゲストキャラ3人ですか?これには困りました。
同じブログから3人のキャラをお借りしてもいいのですが、それでは芸がないですよね?でも3つのブログからそれぞれ1人ずつお借りして書くのはとても難しい。それにそれぞれに許可を頂かなくちゃいけません。
面倒だなぁ。事後でも許可を頂けそうなのは・・・気前よく了解をいただけそうなのは・・・ストーリー展開に使えそうなのは・・・などと頭を捻った結果、このメンバーになりました。
無断でキャラをお借りした方、事後ですがご了承ください。無茶苦茶なコラボになっていますが、大丈夫ですよね?(気を悪くされないかすごく不安)
そして皆様、なんだか内輪話みたいになっていますが、お許しくださいネ。

よろしければ下のリンクからお進みください。

30000の出会いに乾杯
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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。

山西 左紀

Author:山西 左紀
「山西 左紀について知りたい方はこちら」
(ニコニコ静画フリーアイコンより)

ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
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