Debris circus

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頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

センチの朝

Stella/s月刊Stella 2017年 8月9月合併号掲載作品

今夜は「太陽風シンドロームシリーズ」のSSをUPします。
このシリーズはサキが気まぐれで書く、仮想世界を舞台としたオムニバス形式のいいかげんな作品群です。
一編ずつ独立していて関係性はありません。
単独で読んでいただけますのでよろしければどうぞ・・・。

センチの朝

「センチ、そろそろ起きなさい。7時になったよ」母の声だ。センチは薄く目を開けた。
 母は小さいころから彼女の事をずっとあだ名で呼ぶ。『ちゃんと名前があるんだから、名前を呼んでよ』センチは寝ぼけた声を出した。
 まだまだ眠いし、部屋の中は冷え切っている。センチはもう一度布団の中へもぐり込んだ。
「学校の集会、9時からでしょう」追いかけるように母の声が聞こえてくる。
「集会?」センチは布団の中で呟く。
「遅れたらペナルティーは半端ないんじゃなかったの?参加者は厳重にチェックされるんでしょ?リストに登録されて、居残り講習で2時間は拘束されてしまうんでしょ?午後から遊びに行くんじゃなかったの?」
「あ!そうだった」今日は大事な用事・・・デートとも言う・・・があるのに、それを諦めるなんてとんでもない。センチは勢いよく起き上がった。
『でも集会って、何だっけ?』センチは首を傾げながら、ダボッとしたパジャマを脱ぎ、枕元にたたんで置いていた下着を身につけると、大急ぎでベッドを出て服を着込んだ。
 部屋を出て廊下を走り・・・と言っても3メートル程だが・・・トイレに飛び込んだ。用を済ませると、今度は洗面所の鏡を覗き込む。
 鏡の中には半分ぼやけたような自分の顔がある。一番気に入っている大きなブラウンの虹彩は目ヤニで濁っているし、本来は肩の上で綺麗にカットされている髪は、寝癖で半分以上天井を向いてしまっている。センチは小ぶりな薄い唇を、小さな鼻にくっつけるように斜め上に曲げた。
「早くなさい!」母にもう一度急かされるとセンチは睨めっこを中断し、忙しげに両手を動かし始めた。
 なんとか暴れ回る髪を押さえ込み、冷たい水で顔をシャキッとさせてキッチンに入ると、テーブルでは父と兄がすでに食事を始めている。
 いつもの朝の風景だ。センチの心は落ち着きを取り戻した。
「とーさんは今日は遅くなるのよね」母が父に確認する。
「ああ、残業で3時間の勤労奉仕だからな」
「重工業は大変よね」
「どこだって同じさ。それに先月うちは政府目標に達しなかったからな。文句は言えないよ。晩ご飯は先に食べといてくれ」
『勤労奉仕?』また首を傾げながら「おはよ~」センチは眠そうに声を出した。
「「おはよう」」父と兄は合唱で答え、センチに笑顔を向けた。
「早くなさい」母は相変わらずだ。
 センチはご飯をよそい、味噌汁を入れるとテーブルに座って食事を始めた。「いただきま~す」
「はい、おあがりなさい」母がおかずを並べてくれる。
『いつもの朝だよね!』センチは自分に言い聞かせた。
「お兄ちゃん、インターンシップ来月だったっけ」母が隣に座る兄に声をかけた。
「6日からだよ」
「3週間の予定だから26日まで?大変だね」母がカレンダーを見ながら言う。
『3週間?』地平線から湧き上がる黒雲のように、センチの心の中でまた不安が首をもたげる。
「うん、参加しなかったら就職にも影響するから、ほとんど全員参加みたいになってるからな。でも面倒なだけで、そんなに大変でもないらしいよ。週休2日だし、先輩に聞いたら、移動学校みたいな雰囲気で結構楽しいと言ってた。ハラスメントにならないようにプログラムされているから、教官やリーダーも丁寧に指導してくれるらしいしね」
「インターンシップって、なんの?」センチが顔を上げて兄の方を見る。
「体験入隊さ、前から言ってるじゃないか」
「そうだった?でも入隊って自衛隊みたい」
「自衛隊?なに寝ぼけてんだよ。軍隊になったじゃないか」兄はセンチの顔を覗き込む。
「え・・・あ、ごめん。それで体験入隊するんだ」当然のような兄の言葉に、センチは思わず頷いてしまう。
「お前、大丈夫か?」
「だよね。ハハハ・・・」心配げな顔の兄に、センチはとりあえず相槌を打った。
「そのまま予備役になる国に比べたら楽なものさ。実弾も撃たせてくれるっていうしな・・・」
「実弾?お兄ちゃんが?」センチは目を大きく見開いて兄を見る。
「大丈夫だよ。お前だって3年後には希望すれば参加できるんだぞ」兄は茶化すように言う。
「わたしが?いつのまに・・・?」センチは口の中で呟いた。
「昔はこんな制度はなかったのになぁ」兄は溜息をつく。
「就活に有利になるんだから頑張りなさい!」母が兄の背中をポンと叩いた。
「でもさ・・・」センチにはまったく理解できていない。
「喋ってないでさっさと食べちゃいなさい。間に合わないよ」母が時計を確認しながら言う。
「う・・・うん」センチは箸を動かし始めた。
 兄妹が黙って朝食を食べ始めると、静かになったキッチンにニュースの音声が流れ始める。テレビでは綾部首相がいつものように両手を大きく動かしながら熱弁をぶるっていたが、解説に切り替わった。
『・・・首相は要求を拒絶する声明を発表し、同時にこれが受け入れられない場合は条約からの脱退も躊躇しないと表明しました。この発言は条約参加国の間でも驚きを持って受け止められ、我が国が条約参加国に対してどの程度の影響力を持っているのかが試される局面になっています。首相は増強した軍事力を背景に強気の発言を繰り返しており、各国の対応が注目されています。今後我が国は余談を許さない・・・』
「それじゃ、出かけるぞ」食事を終え身支度を整えた父が言った。
「俺も行かなきゃ」兄も父に続く。
「はいはい」母が2人を玄関まで送っていく。
『・・・こういった行動は我が国の主権を全く無視したものであり、国際裁判所も機能をはたしていないと主張しています。今後、我が国は毅然とした対応を・・・』
「なにがどうなってるの?」センチは箸を置いて携帯端末を取り出した。画面をタッチして覗き込むと、友達のメッセージが幾つか受信されている。センチは友達の名前を確認した。いつもつるんでいる仲間たちだ。いつもの場所、いつもの時間で待ち合わせだ。
「センチ、時間!」玄関から戻ってきた母がリミットを宣言した。
「あ、は~い」センチは急いで端末を置くと、残りの朝食を掻き込んだ。
 そして「やっぱりいつもの通りだ」無理やり自分を納得させると、大急ぎで身支度を整えて玄関を飛び出した。
 
 春はもうそこまで来ている。まだまだ肌寒いが、降り注ぐ日差しや流れる空気の中には、微かな生命の息吹を感じ取ることができる。道筋の生垣や街路樹の新芽はもう芽吹く準備を終えていて、はち切れんばかりに膨らんでいる。この通りは桜並木だから、あと少し待てば満開の桜の中を通学できるだろう。
 センチはポケットから両手を出すと大きく伸びをした。そして両手を大きく振りながら大股で歩き始めた。
 センチはぐんぐんと街路樹の並ぶ美しい通りを真っ直ぐに進んでいく。
 駅前の広場に出てロータリーを回り込む。
 とんがり屋根のいつもの駅舎が見え始めた。
 センチはチラリと腕時計を見た。
「あなたは国家のために何ができますか?」駅前にはのぼりや横断幕がはためき、何かのキャンペーンをする人々の威圧的な声が聞こえていた。


2017.02.09
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