Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

物書きエスの気まぐれプロット(26)クリステラと暗黒の石

scriviamo!

クリステラと暗黒の石

「これはまた・・・」分厚いドアを開けて中に入ったオルガノートは思わず声を上げた。
 部屋の壁は全て本棚で覆われていて、天井の明り取りの小さな丸窓から入ってくる光だけでは薄暗い。だがその弱々しい光の中に、無限と思えるほどの数の本が巨大な物から小さく薄い物まで、大きさ別にあるいは分野別にきちんと整理されて納まっている様はまさに壮観だ。天井までは5テルリ(約7メートル)程もあるから、押しつぶされるような圧迫感を伴って迫ってくる。
 オルガノートは中央に置かれた年代物のテーブルと、座り心地の良さそうな布張りの椅子を避け、床に敷かれた分厚いなじゅうたんの上を進んだ。
 部屋の反対側には入ってきたドアより一回り小さなドアがあった。オルガノートはそこに取り付けられている真鍮のドアノブを回した。
「カチリ」精密機械のような音がして扉は滑らかに開いた。
 奥の部屋もやはり薄暗い。
 部屋はさっきの本の部屋より幾分大きかったが、同じように天井に小さな丸窓が設けられているだけで、壁に窓は無い。
「おお・・・」部屋の中央に目を向けたオルガノートは再び声を上げた。
 そこにはたくさんの巨大なガラス製の容器が並べられ、その間にはいくつもの真鍮やあかがねの金属容器、複雑な形をした瓶の類が収まり、それらを加熱するための炉が各所に配置されている。それぞれの容器や瓶からは何本もの太いガラス管が突き出し、天井までの空間を埋め尽くすように伸びあがり、ある部分はうねりながら、ある部分はのたうちながら、またある部分はとぐろを巻きながらそれぞれを複雑に繋いでいる。そしてそれらが天井からの細い光の束を反射して、薄暗い中に不気味に浮かび上がる。
『まるでバハムートの内臓のようだ』
 皇帝に仕える前、巨獣専門の獣医だったオルガノートは、バハムートの開腹手術を手がけたこともある。その際目にしたバハムートの内臓は、今目の前にある異形の装置と印象を一にしていた。
 暫くの間、オルガノートは呆然とそれを見つめていたが、やがて自分がここに何をしに来たのかに思い至った。
「クリステラ、居るのか?」オルガノートはこの部屋の主の名前を呼んだ。
「居るよ」すぐに可愛い声で返事があったが姿は見えない。
「どこだ」オルガノートは“バハムートの内臓”の裏側に回った。
 そこには巨大な机が据えられていて、その手前には優雅な肘掛けの大きな椅子が置かれている。
「そこか」オルガノートはその椅子の前に回り込んだ。
 艶のある白い衣装を纏った小柄な体がそこにあった。ほとんど白に近いプラチナの髪、透き通るような白い肌が、薄暗い部屋の中でぼんやりと浮かび上がる。
 クリステラはルナローバ属性を持つシトロン族だ。だからこういう環境下で燐光を発するのは当然なのだが、アルビノであるため余計にその傾向が強い。
「こんな所まで呼び出して、いったい何の用だ?」オルガノートは気圧されていることを気づかれないように努めて冷静な声を出した。
「ちょっと見てもらいたい物があってね」クリステラはルビー色に輝く瞳をオルガノートに向け、舌をチロッと出して上唇を舐めた。
『こいつがこういう仕草をするときはろくな事が無い』オルガノートは用心しながら「俺に?」と声を出した。
「ふふ、そんなに警戒しなくでも・・・」クリステラは微笑んで「これ」とガラスケースを取りだした。中には真っ黒な石が収められている。指2本でつまめるほどの小さな物だ。
「これは?」
「こうやって」クリステラはケースを開けて石を取り出すと、両手で包み込んだ。
「まさか・・・」
「そう、そのまさか」肩の位置で切り揃えられたクリステラの白い髪がフワリと広がった。そしてそれが合図だったかのようにクリステラの体が1テルリ程空中に浮かび上がった。
「おお!」オルガノートは1歩2歩と後ずさりした。
 クリステラはゆっくりと漂い、やがて静止する。
「体温まで加温すると共振が始まるの。安定した飛行には慣れが必要ね。もっと温度を上げれば強力なエネルギーも取り出せるわ」クリステラの赤い瞳がオルガノートを見下ろす。
「暗黒石!ネザーロックなのか?」
「そう」何でも無い様子でクリステラは返答する。
「だが暗黒石はもうこの世に存在しないはずだ」
「少し前まではね。でも今は違うわ。作っちゃったもの」クリステラは少女のようなあどけない笑みを見せる。
「作った?どうやって」
「これを使って合成したの」クリステラは空中でクルリと回転し、背後の“バハムートの内臓”を指した。
「しかし・・・」
「ドラゴンの中でも特に凶暴なヨルムンガンド種とニーズヘッグ種の結石をそれぞれ一度分解してから混合して再合成したんだ」
「そんなに簡単に・・・」『できるはずがない』オルガノートは言葉を飲み込んだ。現物がここにあるのだ。
「簡単じゃないよ。それなりに苦労した。このアタシが・・・だ」クリステラは“アタシ”の部分を強調した。そしてオルガノートに視線を合わせ不敵な笑みを浮かべる。
 オルガノートは冷静さを取り戻すためにクリステラから視線を逸らせた。
「どれくらい作れる?」オルガノートは質問を続ける。
「原料の結石さえあればいくつでも、もっと大きな物も合成できる。質量を増やせば、無限大のエネルギーを取り出すことも可能だ。あんたなら結石の調達も簡単だろ?」クリステラはオルガノートの顔を覗きこんだ。
「このことは俺の他に誰が知っている?」
「誰も・・・あんたとアタシだけだ。あんたなら上手にこれを使えるだろ?」クリステラは口元を緩め、また舌をチロッと出した。
「あ・・・あぁ」『これがあればこの世界を支配する事だって簡単だ』オルガノートの頭脳はめまぐるしく回転を始めた。


「う~ん、どうもしっくりこないなぁ」エスは椅子の背もたれに背中を預け、体を反らせた。
「またぼやいてるの?」コーヒーメーカーをセットしてスイッチを入れたコハクがキッチンから顔を覗かせる。
「なんでファンタジーを書く企画に参加しちゃったのかなぁ。いつも途中で挫折して、1作も完成させたことがないジャンルなのに」
「なんでって、マリアに誘われたんじゃなかったの?」

 マリアというのは、イタリアに住んでいるネット上の創作仲間だ。エスがインターネット上で小説を公開し始めてから数年になるが、ごく初期の頃から交流をもち、お互いの小説について忌憚なく意見を交わしている。

「そうだったのかもしれないし、そうでなかったのかもしれない」
「どういう事?それ」コハクはリビングに入るとエスの後ろに立った。
「どっちでもいいってこと!でも参加するって手を挙げちゃったからには、何かは完成させないとね。ああ、困った」
「マリアの進捗はどうなんだろうね?」
「マリアはまったく書いたことの無いジャンルだと言ってた。ファンタジーもまともに読んだこともないし、この系統の映画もほとんど観ていないらしいよ」
「じゃぁ、エスよりもっとチャレンジャーなんだね」
「たしかに。でも、どうしてるんだろう?ここんとこチャットにログインする時間もなかったから」
「それだけ躍起になって書いていたってこと?」
「まぁ、そんなところかな。そうだ、メールの方で何か言ってきてるかも・・・」エスはメールソフトを起動した。たくさんの迷惑メールが振り分けられ、そうでないメールが受信フォルダに入ってくる。「あ、来てる来てる」
「なんて?」
「ちょっと待って」エスはイタリア語で書かれたメールに目を通した。
「やっぱり展開に困ってるみたい。どうしても陳腐に思える。パンチのあるひねりが欲しいと言ってる」エスは翻訳しながら要点を伝えた。
「作品は添付されているの?」
「それがね。ウッカリ消去してしまったんだって」
「え?バックアップは?」
「なぜだかわからないけど、全部消えてしまったらしいよ」
「全部?どうやったらそんなことができるの?」
「さぁ・・・」エスは上を向いて両手を横に広げた。
「空ファイルで上書きしちゃったとか?」コハクは考え得る可能性を述べる。
「まさか!でも、大丈夫なんだなぁ」エスはフォルダーの中のファイルを開いた。アルファベットが並んだウィンドウが開く。
「これは?」
「マリアのファンタジーだよ。すこしづつ読ませてもらってたんだ」
「じゃぁ、これがバックアップになるじゃない」
「でもこれはこの間送ってもらったファイルだから、最新の物じゃぁないの。だからこの後に書き足した部分は、また書いてもらわなくちゃならないけどね」エスは少し得意げだ。
「でも全部消えたよりはずっとましだわ」
「そして、これがその日本語訳。コハク、読んでみる?」ファイルを開いたエスが立ち上がる。
「読む読む」コハクはエスの代わりにモニターの前に座った。
 コーヒーメーカーがプシュ~ッと音を立てた。ドリップが終わった合図だ。
 エスはコーヒーを入れるためにキッチンに向かった。

***

「う~ん、面白いけどなぁ」コハクはようやくコーヒーカップに口を付けた。
「でしょ。ちゃんとファンタジーもののセオリーに乗っ取って書かれているし、とても初めてとは思えないよ。それにこのヒロイン、かっこいい」お気に入りのヒロインに出会った時、エスはいつもこういう言い方をする。
「そうね。ロジェスティラ、エスが気に入りそうだもの」コハクは横に並んだエスの顔を見ながら言った。
「でもマリアは、気に入らないんだよね。どこかで聞いたような話になっちゃってるって言ってる」
「そうかなぁ」
「ねぇ」エスがふと思いついたようにコハクの耳元で言った。
「なに?」コハクが顔を上げる。
「こうしたらどうだろう?ロジェスティラはヒーローのオルヴィエートにあいそをつかすの」
「え?」コハクの口は半開きになった。
「オルヴィエートって、なんだか坊ちゃん育ちの感じでしょ。ロジェスティラはそんな甘ちゃん将軍なんかほっぽらかして、モルガントとよろしくやるの。モルガントはロジェスティラと幼馴染という設定だから都合がいいわ。どう?」エスは嬉々とした表情でコハクの顔を覗きこむ。
「そんな、モルガントってベタの敵役だよ。メチャクチャだわ」コハクは困惑した表情だ。
「そう、メチャクチャ。だから本当にメチャクチャにならないようにちゃんと設定が必要なの。モルガントがなぜ光の子や皇帝を裏切ったのか、ちゃんと読者が納得できる説明が必要だわ。大局的に見てモルガントの方がオルヴィエートより正義だということを読者にわからせるの。闇の子たちが邪悪な者だなんてどうせその辺のトンチンカンが決めているんだから、どちらが正義かなんてどうとでもなる」
「トンチンカンって・・・」
「闇の子も光の子も同じものなのよきっと。相反するように見えているのはそれを見る者の目が節穴なんだわ。そういう事よ」
「節穴・・・」コハクは何かを言おうとしたが、諦めたように口をつぐんだ。
「ロジェスティラの心が揺れ動いて、徐々にモルガントの方へ傾いていく過程が肝になると思うの。モルガントが隠された真実を語るシーンはクライマックスになるわ。マリアならきっと読者を説得できるよ。どうせ書き直しをしなくちゃいけないし・・・」エスの声に力が入る。
「勝手に盛り上がってるけどエス、こんなメチャクチャな意見をマリアに言っても大丈夫なの?マリアって私達よりだいぶ年上なんじゃないの?」あくまでコハクは冷静だ。
「大丈夫、怒ったりしないよ。マリアは創作仲間の意見としてちゃんと聞いてくれる。受け入れるかどうかは作者のマリア自身が決めることだし、ウチもマリアの決定に何も言わない。最初は遠慮してたんだけど、最近はわりと遠慮なく意見を言わせてもらってるし、言ってもらってる」
「忌憚なくってこと?」
「そうそう、その忌憚なく」
「大丈夫かな?」コハクはエスを見上げる。
「大丈夫だよ。もう、しつこいなぁ」
「わかった、わかった」コハクはモニターの前から立ち上がった。
「じゃぁ、早速メールにしてマリアに伝えるね。それにウチの作品に対する意見とアドバイスももらわなくちゃ。それが一番肝心・・・あ、バックアップが残っている事も早く伝えなくちゃ・・・。喜んでくれるかな?」エスはモニターの前に坐りなおした。
「コーヒー冷めちゃったね。温め直すよ」コハクは両手にカップを持ってキッチンへ向かった。


おしまい

2017.01.11
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scriviamo!完成です。

はい!できました!!!
八乙女 夕さんが企画されている「scriviamo! 2017」参加作品完成です。
サキは今回プランBで参加してみました。(プランB参加者第一号です)
プランBというのは、まず夕さんが先に書き(描き)、それに対して参加者のブロガーが(サキの事ですね)が創作作品や記事などを書くという参加方法です。

余裕をかますために『夕さんが気になる、或いは気に入ったサキのキャラとコラボしていただけたら 嬉しいです』とお願いして、いの一番に申し込んだのですが、夕さんはほとんど速攻で作品を書き上げてくださいました。

Bプラン:夕さんのサーブ作品
【小説】夜のサーカスと天空の大聖殿

流石に速いなぁ。あっという間ですよ。これはそんなにグズグズしてはいられないぞ・・・と発破をかけて書き上げたのがこの作品です。(ポール・ブリッツさんからも微妙な催促がありましたし・・・)

Bプラン:サキのレシーブ作品
物書きエスの気まぐれプロット(26)クリステラと暗黒の石

タイトルからもお分かりのように、夕さんの書いてくださった作品もサキの書いた作品も、ファンタジーを劇中劇にしたSSで、夕さんのキャラである小説ブロガーのアントネッラと、サキのキャラである同じく小説ブロガーのエスの交流を描いたコラボレーションになっています。
ファンタジー小説。サキは一応書いたことはあるのですが完成できていませんし、夕さんもほとんど書いた経験をお持ちでないようです。
夕さんは経験の無いジャンルにあえて挑戦する姿を、作中のキャラクターに被せて書かれ、物語の中にも遊びの要素を盛り込んでおられましたので、サキもそのまま素直にお返しする形にしました。
いかがでしょうか?
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とんど

 今日1月15日は“とんど”と呼ばれる行事が行われる日だ。地方によってその呼ばれ方は様々だが、正月に飾ったしめ縄や松飾をたき火にくべて焼く行事で、鏡餅や蜜柑も一緒に焼いて食べたりする。書き初めを一緒に燃やすと字が上手になるとかいろいろ言われているが、僕の字はあまり上手にはならなかった。

 僕の母親の実家は、今住んでいる所から2時間ほど車で山奥に入ったところにある小さな村にあり、今は祖母が1人で住んでいる。村の行事はその村の住民から輪番で選ばれた人が当番になって催されることになっているのだが、その"とんど”の当番が祖母の所に回ってきたのが事の発端だった。
 祖母は年の割にはとても元気なのだが、やはり村の神社の大きなしめ縄や松飾を運んだり、大きな薪を組み上げて火を起こしたりするのは大変だ。それに大変だからと、もう1人居る当番の方に全部お任せしておくわけにはいかない。
 ・・・というわけで、昨日から僕たち一家3人は祖母の家にやって来て、村の神社の大きなしめ縄や松飾を外して運んだり、薪の準備をしたりと忙しく働いた。そして今朝も6時ごろから薪を組み上げ、火を起こすのに苦労していた。
 というのは、大陸から最大級の寒気団がやって来ていたからだ。昨日の夕方からずっと雪が降り続き、50センチほどは積っているだろうか。こんなに積ることはとても珍しい。祖母も昔はよくあったが、最近では記憶にないと言っているくらいだ。“とんど”の行われる広場まで行くだけでも、長靴が雪に埋まって大変だし、たき火の場所をまず雪かきしなけりゃならないし、薪や道具を運ぶ一輪車は雪に嵌って進まないし、薪を組み上げても降りしきる雪と風に消されてなかなか点火できないし、点いてもたちまち消えてしまうし、あ~寒い!!!本当に大変だ。

DCF00040.jpg

 手も足もかじかんで細かい作業ができない。そろそろ村の人も集まってくる時間なのに、気ばかりが焦ってくる。
 でもついに僕らが持ってきた大量のバーベキュー用の着火剤と、もう1人の当番の方が持ってきた強力ガスバーナーの力を借りてようやく点火。炎が大きくなり始めたころ、村人たちがそれぞれしめ飾りや鏡餅を持って集まり始めた。
 餅を焼くための炭火も上手く熾(いこ)りだしたし、やれやれ、何とか間に合った。僕らはようやく一息入れて、たき火に当たりながら焼けた餅を頬張った。

DCF00030.jpg

 次々と村の人たちがやって来て、しめ縄や松飾を灰にする。これを持ち帰って庭や畑に撒いて家内安全や豊作を祈るそうだ。
 そして持ってきた鏡餅や蜜柑も焼いて食べる。健康になるって言ってたかな?ちょっと聞きそびれた。雪は降り続いているが、のんびりとした時間が流れ、“とんど”を囲んだ村の人たちは世間話に花が咲く。なんか、噂話は盛り上がるなぁ。僕はそれとなく耳を傾ける。
「サキちゃんはどうなん?」
 僕の話はいいから・・・。
 やがて村人たちは銘々に自分の焼いたしめ飾りの灰や焼けた鏡餅を持って家路に着く。自分のしめ飾りの灰が分からなくなって、まぁいいか・・・とその辺の灰を適当に持って帰る人もいたけれど。いいのか?それ・・・。
 徐々に人が減り、たき火も小さくなって、それと同時に雪も風もまた強くなってきた。
 燃え残りの薪は消火してそのまま置いておくことにして、僕らは家路についた。片付けるのは雪が落ち着いてからにするそうだ。そんな降りになっていた。
 家までの道のりは遠かった。ほんのそこなのに、一歩づつ雪かきをしながら進まなくちゃならないから、遅々としてたどり着かない。
 まるで遭難しそうな気分だ。
 手先や足先の感覚が無くなってきた。
「ああ、寒いよう・・・」
 横殴りの風が吹き付ける。
「眠いよう・・・」
 一輪車を押して先に行く“先”の姿が降りしきる雪の向こうに小さく霞んで見えた。

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マタモヤ天使

170120_またもや天使
このイラストの著作権はlimeさんに有ります。

「楽園はすぐそこよ。ついてきて・・・」エーディンは大きな複眼を備えた頭部を少し傾げて言った。そして紫色に輝く羽を羽ばたかせ、軽やかに舞い上がる。
「エーディン、駄目なの」マタモヤは少し涙目になってエーディンを見上げる。
「どうして?マタモヤ。あなたも羽を持ってるんでしょう?」エーディンはマタモヤの顔の前に舞い戻った。
「ええ、でも駄目なの。飛べないわ」
「普段からそうやって隠していて使わないから、いざというとき役に立たないのよ」エーディンは羽を優雅に動かしながら言った。
「そんなんじゃなくて・・・」
「言い訳はいいわ。とにかく羽を出しなさい」
「そんな・・・」
「なによ。わたしの言うことが聞けないの?」エーディンの羽ばたきは少し忙しなくなった。
「恥ずかしいもの・・・」マタモヤは下を向いてしまう。
「なにをオボコい事言ってるのよ。つべこべ言わずに出しなさい。見てあげるから」エーディンはマタモヤの金色の髪にとまって背中側を覗き込んだ。
 マタモヤは諦めたようにピンク色のワンピースの胸元を開けた。そして襟元を両手で拡げて肩を出し、胸を隠せるギリギリの位置まで下げた。
 一瞬の間をおいてマタモヤの背中から羽が拡がった。真っ白な羽は新緑に反射する光に輝き、白銀色に浮かび上がる。久しぶりに解放されて、伸びをするように二度三度と羽ばたく。
 何枚かの純白の羽毛がひらひらと舞った。

「なにこれ?」エーディンはその羽を見て言った。
「だから、駄目だって言ってるじゃない」
「体重に比較してあきらかに翼面積が小さすぎる」エーディンは独り言のように呟く。
「余計なお世話よ」マタモヤはエーディンを睨みつけた。
「ちょっと羽ばたいてみて」かまわずにエーディンは指示をする。
 マタモヤはパタパタと羽ばたいてみせた。
「う~ん。下手くそだわ。それにこの様子じゃパワー不足で、浮かぶだけの揚力も発生しない」
「だから、恥ずかしいって言ったじゃない」マタモヤは顔を赤くした。
「まったく飛べる気がしないわ。マタモヤ、この羽は飾り物なの?」エーディンの発言には遠慮が無い。
「もう!エーディンなんか知らない」マタモヤは完全にふくれっ面になって、羽を大きく羽ばたかせてエーディンを追い払った。
 追い払われたエーディンは暫く上空を舞っていたが、やがて諦めたように楽園の方へ飛び去って行った。


おしまい

2016.01.20
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またもや天使

まず最初に謝ってしまいます。ごめんなさい。

limeさんは「(scriviamo!参加イラスト)またもや天使。」の天使と蝶の素敵なイラストで、八少女 夕さん企画の「scriviamo!」というイベントに参加されています。
その記事の中でlimeさんは、

あ、もしもこのイラストで、何か創作したいと思われる奇特な方が いらっしゃいましたら、どうぞお持ち帰り下さいませ。

とおっしゃっていましたので、サキはなんか書けないかな~と構想を練っていたんです。
ところが、なんと!予定よりだいぶ早く出来上がってしまいました。

夕さんの作品が出来上がるのを待つのが筋なんでしょうが、サキは書きあがってしまうと仕舞っておくことができない性質みたいなんです。
つい他の方の迷惑も考えずに「見て見て~」って感じでUPしてしまうんです。
そしてこれだけ自己分析が出来ているのにやっぱり我慢が出来ないんだなぁ。
それにサキの書いた物は夕さんの書く作品とはだいぶ方向性も違うし。
たぶん、ファンタジーだし。
・・・ということでUPします。
しょうがないなぁ~。と許してくださる方は下のリンクからお進みください。

「マタモヤ天使」

もう一度謝っとこう。
夕さんごめんなさい。

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絵夢の素敵な日常 貿易風(alisios) 前編

貿易風 (alisios) 前編

「ねぇ。ここはどこなのよ。ねぇ」エレクトラの声を無視してジョゼはエスカレーターを下る。「ジョゼってばぁ」
「勝手についてきたんだから文句を言うなよ。疲れたならホテルに戻れば大丈夫だから」
「冷たいこと言わないでよ。ここから1人で戻るなんて無理よ」
「だったらおとなしくついてこいよ」ジョセは歩幅をエレクトラに合わせた。
「だって、自由行動の日なんてほとんどないんだもの。せっかく食い倒れの町なんだから、一緒になにか美味しい物を食べたいじゃない」

 研修旅行はもう最終の行程に入っていて、昨日は食い倒れの町と呼ばれている大阪で一日中缶詰になって講習と実習が行われた。そして今日は久しぶりのオフで自由行動が可能な日だった。“食い倒れ”とは、飲食に金をかけ過ぎて,貧乏になるという意味で、大阪にはそれくらい美味しい物がたくさんあるということらしい。

「僕は今日は個人的な用事で出かける。しかも食には全く関係ない用事だから、とはっきりことわったはずだよ」
「だって、一緒に出掛けたかったんだもん」エレクトラは泣きそうな声を出す。
「しょうがないな」ジョゼはエレクトラが追い付くのを待った。
「ありがとう。やっぱりジョゼは優しい」泣いてしまいそうな顔は一瞬だった。エレクトラはジョゼの肘に手を通すと満面の笑みを浮かべた。
 ジョゼは一瞬顔をゆがませたが、そのまま並んで歩き始めた。
「ねぇ。私達はいったいどこにいるの?」
「池上という町だ」
「イケ・・・?」
「イケガミ、だ」
「そのイケなんとかに、ジョゼは何の用があるの?」エレクトラは体を寄せる。
「邪魔だなぁ・・・」ジョゼは顔をしかめた。
「いいじゃない」エレクトラは気にする様子もない。
 駅を出たところでジョゼは「Information」の表示を見つけ、その入り口を入った。カウンターの女性に近づき、彼が仕事で培った最高の笑顔を向ける。
「何かお困りでしょうか?」ジョゼの姿から判断したのだろう。女性は英語で話しかけてきた。
「すみません。お尋ねしたいのですが、この辺にイケウエという家は有りませんか?」ジョゼはスイス生まれなので英語も堪能だ。エレクトラは英語が苦手なのでキョトンとした顔で横に並んでいる。
「イケウエミュージアムの事でしょうか?それでしたら・・・」女性はラックからパンフレットを取り出すと行き方を説明してくれた。

 ミク・イケウエ・エストレーラ、それがミクのフルネームだ。彼女の祖母であるメイコも同じミドルネームを持っているのだが、2人ともそれを書いたり名乗ったりすることは無い。ジョゼも何かの公的な書類を見る機会があって、初めて知ったぐらいだ。その時それについて尋ねたジョゼに、ミクはメイコの旧姓だと答えた。ということは・・・ジョゼはそれがミクが日本にいた時の名字に違いないと考えていた。
 今日ジョゼはミクが生まれた場所を訪ねるつもりだった。
 ミクはほとんど日本での生活の事は話さなかったが、ミクと絵夢が宝塚の町で出会った時の話を聞いたとき、ミクがその近くの池上(イケガミ)という町に住んでいたことは聞き出していた。
 それに池上(イケウエ)という家はかなりの名士である事も分かっていたので、池上の町でその名前を出せば何らかの手がかりが得られるだろうと考えていた。だから一発で反応があった事にも、たいして驚きはしなかった。だがミュージアムというのはジョゼの予想を超えていた。

 パンフレットを受け取り礼を言うとジョゼはエレクトラを伴って「Information」を後にした。案内されたとおり駅前広場を回り込み、正面にある商店街のアーケードに入る。
 商店街の人通りはあまり多くはなく、シャッターの閉まっている店舗も多い。大型ショッピングモールの繁栄と個人商店の衰退の、まさにその典型的なモデルを見るような思いでジョゼは商店街を進んだ。
 エレクトラはジョゼの肘に手を通したまま興味深げに店の商品を眺めている。何度か歓声を上げてその度に衆目を集めたが、今のジョゼにそれにかまっている余裕は無い。
 やがて商店街が尽き、小さな交差点を抜けるとそこが目的地だった。
 それは黒い屋根瓦を乗せた巨大な和風建築だった。道路に面して入口が有って、壁に日本語の表記と並んで「IKEUE MEMORIAL MUSEUM」の文字が見える。
「いったいイケウエという家は、どれだけ大きいんだ」ジョゼは目を見張った。横でエレクトラが色々と質問してくるがそれどころじゃない。適当に受け流したジョゼは恐る恐る入口を入る。
 中は土間と呼ばれるホールになっていて、落ち着いた感じの年配の女性が笑顔で向かえてくれた。
 ジョゼも最高の笑顔で答え「このミュージアムについて説明してもらえませんか」と尋ねた。
 女性は、池上(イケウエ)家がこの池上(イケガミ)の町で代々酒造業を営んできた家である事や、このミュージアムが、伝統的な酒蔵や池上(イケウエ)家の旧屋敷の保存に加え、酒造の歴史や製法の資料、酒造に関する道具などの他に、池上家代々の当主が収拾した美術品や骨とう品の展示を目的として作られた事などを説明してくれた。
 説明は英語だったので、ジョゼはエレクトラのために要点をポルトガル語に通訳した。
「どちらからお越しですか?」その様子をじっと見ていた女性が尋ねた。
「ポルトガルからですよ」
「まぁ、遠い所からようこそお越しくださいました」女性は少し驚いた様子だったが歓迎の言葉を述べた。
 ミュージアムはそんなに大きな物ではなかったので、屋敷の畳敷きの部屋を改装した展示室で絵画や骨董品を鑑賞し、縁側から日本庭園を眺め、さらに実際に使われていた大きな樽や酒造用具の並ぶ酒蔵の見学を終えるのに、思っていたほど時間はかからなかった。
 入口のホールへ戻るジョゼにエレクトラが声をかけた。
「ねぇ、私知ってるんだよ」
「何を?」ジョゼは怪訝な顔を向ける。
「どうしてここへ来たのか・・・ううん、来たかったのか」
「どういうこと?」
「六つも年上なんでしょう?」
「えっ!」ジョゼはエレクトラの思いもかけない言葉に驚いた。
「マイアが休暇で帰ってきたとき、そんな話をしてくれたことがあったんだ。ジョゼにはいい人が居るらしいよ。六つも年上らしいよ・・・って」
「マイアが?」ジョゼは立ち止まった。ホールのカウンターには先ほどの年配の女性が座っている。

 マイアというのはジョゼの同級生でエレクトラの姉だ。そういえばずっと前に出会った時、そんな話をした覚えがある。たぶんポートワインを飲み過ぎたせいだ。

「それに日本人だって・・・だから、ここは彼女に関係のある場所なんでしょ?それぐらい私にもわかってるよ」
 ジョゼは黙ってエレクトラを見つめた。
「ミクっていうんでしょ?調べちゃった」エレクトラはペロリと舌を出した。
「まいったな」ジョゼは頭をかいた。
「お取込み中すみません」カウンターの女性が申し訳なさそうに声をかけてきた。「ミクというお声が聞こえたものですから。不躾な質問で、見当違いだったらごめんなさいね。そのミクというのはイケウエ・ミク様のことなのでしょうか」


2017.01.27

貿易風 (alisios) 後編へ・・・
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「ジョゼとミクの物語」UPします

 今夜UPするのは「絵夢の素敵な日常」シリーズの「ジョゼとミクの物語」です。
 ここのところ主人公の絵夢の登場機会がほとんど無いんですが、今回も登場しません。
 というのは、今回はポルトチーム・コラボレーションの展開で、八少女 夕さんのブログで2016年11月に発表された「黄金の枷・外伝 ジョゼ、日本へ行く」の続編にあたる作品だからです。
 このシリーズは夕さんと相互にストーリーを展開させて書かれたもので、サキの所のミクというキャラと、夕さんの所のジョゼというキャラの恋模様を描いています。

 簡単にこれまでの物語に触れておきますと・・・。

 ミクは裕福な家に生まれて育っていますが、事情が有って幸せとは言えない家庭でした。お家騒動に巻き込まれ、疎外感にさいなまれ、いじめにもあっていたようです。
 唯一の味方だった母親も亡くなって、居場所を無くしたミクは高校生ぐらいの時にその家を離れ、ポルトガルのポルトという町に住む祖母のメイコに引き取られます。ミクはその街でようやく幸せな家庭というものを手に入れたのです。
 そしてこの町で6つ年下で当時小学生だったジョゼと出会います。
 2人は姉貴と弟分として育ちますが、やがて2人の間に複雑な感情が生まれます。
 ミクは声楽を勉強していたのですが、大学時代にその才能を認められ大学院へ進み、さらにプロへの道を歩みます。やがてミクの才能は開花し、オペラ歌手としての道が開け始めます。
 一方ジョゼは学校を卒業するとカフェのウェイターとして働き始めます。
 一介のウェイターと新進気鋭のオペラ歌手、ジョゼはミクとの格差に悩みながら恋心を募らせます。
 ミクはそんなジョゼの悩みを上手く理解できず、やはり悩み迷います。

 前回の夕さんの作品「ジョゼ 日本へ行く」では、ジョゼは有名ポートワイン会社の企画した日本グルメ研修で日本へやって来ています。ジョゼは研修に派遣されるくらい優秀なウェイターなんですね。
 そのうえ彼はマルチリンガルなんです。母国語の他にスペイン語を話す上に、スイス生まれなので、英語やドイツ語も喋れます。おまけに、ミクとの付き合いの関係で片言ですが日本語も喋るので、観光客が多い現場で重宝されているみたいです。
 そしてこの研修旅行ではジョゼの傍にエレクトラというチャーミングな女性がピッタリくっついています。彼女は同じ研修生仲間なんですが、あのマイア(本編「黄金の枷」のヒロイン)の末妹なんです。彼女はジョゼにアタックしたりして凄く積極的です。
 夕さんからは後は好きにして・・・とコメントをいただいていますが、え?こんなにかき回しておいてから離脱?
 さていったいどうなる事やら・・・。

 ここまでの展開は下のリンクのページにまとめていますが、結構長いです。

ジョゼとミクの物語、「背中合わせの2人」

 そして最新のお話はこの下のリンクからどうぞ。
 とりあえず前編からUPします。そう間を置かずに後編もUP出来る予定です。

貿易風 (alisios) 前編
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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
イラストをクリックすると記事に飛びます。よろしければご覧くださいネ!
スカイさんシスカイメージ
スカイさんのシスカイメージ
シスカ・イメージ高橋月子さん作
シスカ・イメージ 高橋月子さん作
シスカ・イメージlimeさん作
シスカ・イメージ limeさん作 コトリ・イメージユズキさん作
コトリ(コンステレーションにて)ユズキさん作
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