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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

月刊Stella 2015年8・9月合併号 参加者募集中です

月刊Stellaの8・9月合併号のご案内です。

Stella/s

「月刊Stella」は小説、イラスト、詩等で参加するWEB月刊誌です。上のタグをクリックすると最新号に飛びます。


サキはあまり自分のブログ以外で作品を発表する事は無いのですが、月に一度、「月刊・Stella ステルラ」という企画にだけは小説を出しています。
この企画はブロガーの、スカイさんと篠原藍樹さんが、毎月編集してくださっていたWEB月刊誌で、小説・詩・イラストなどで参加することが可能です。

編集してくださっていた・・・と過去形なのは、運営してくださっていたお二人が、暫くの間物理的な事情から定期的な発刊に関われないという状態になったためです。
せっかくの発表の場所ですし、休刊にしてしまうのも惜しいと言うことで、スカイさん、篠原藍樹さんと常連参加者で打ち合わせをした結果、当面の対策として、お二人が復帰されるまで常連参加者が持ち回りで編集発刊を担当する事になりました。これまでTOM-Fさん、八少女夕さんと担当され、今回は、このサキが当番にあたっています。作品をUPするというような形式ではなく、リンクを張るだけで簡単に参加いただけますので、ご参加いただけると嬉しいです。

月刊Stella8・9月合併号は、栗栖紗那さんのご厚意により、
【月刊Stella特設サイト】 http://monthlystella.blog.fc2.com/
にて、2015年9月8日(火)に発刊(掲載)させていただきます。

8・9月合併号掲載作品の応募締め切りは、2015年9月6日です。

参加して下さる方は、この記事のコメントに、
・ジャンル(読みきり小説・連載小説・イラスト・詩 等)
・下記の【ひな型】に必要事項を記載したもの
を書き込んでください。
この【ひな型】を利用して担当者が目次を作り【月刊Stella特設サイト】の表紙ページを編集します。

【ひな型】
<*span style="color:#333333">☆<*/span><*a href="ここに参加される作品のURLを入力してください" target="_blank" title="ここに作品名を入力してください">ここに作品名を入力してください<*/a> 
<*span style="color:#66cc00">ここに参加される作品のサイト名を入力してください  ここに参加される作品の名前を入力してください<*/span>

FC2の月刊Stellaコミュニティのトピック を利用いただいてもけっこうです。
サキのブログでは見てくださる方が少ないので、広報になるかどうかは微妙ですが一応告知しておきます。
ご参加いただけると嬉しいです。
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【初音ミク】エレクトロトレイン

今日は息抜きです。
初音ミクのエレクトロトレインをご紹介します。
サキはLat式のミクが大好きですが、このTda式ミクはまじ素敵です!!
ダンスの動きも、表情や色使いもいいですね。ちょっと気に入っています。あ、曲ももちろんですが・・・。
ぴしっとモーションを決めて。滑らかに。ミクは元気だなぁ。(当たり前ですね)
前半の黒っぽい制服風の衣装もいいですが、後半のデフォルトコスチュームはちょっと凄いです。(サキは余り好みませんが・・・)
歌詞を 海兎氏 が、PVを ブラザーP が手掛けています。



いま、オリキャラオフ会の番外の番外をボチボチと書いているのですが、発表できるのかどうか微妙になってきました。
ですから、息抜きです。
お付き合いありがとうございました。

サキ
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牧神達の午後

offkai.png
牧神達の午後

 コトリの勤めるバイクショップ「コンステレーション」は、本来は仮想都市・カンデシティー郊外に存在する。しかし現実世界を舞台とする企画との整合性をとるため、この物語では神戸近郊の町を舞台として設定した。
 そのためこの物語に登場する「コンステレーション」は、神戸近郊のとある町の北の外れを東西に貫く3桁ナンバーの国道から、それをアンダーパスする産業道路へ下りていく側道に面して存在している。
 二階建ての古い建物の一階部分にあるその店は、大きなベニヤ板の手書きの看板を掲げた以外は何の装飾も無く、倉庫のような内装のままの店内に大型バイクばかりを並べた一風変わった作りだ。

 8月初旬のとある午後、抜けるように青い空からは刺すような日差しが降りそそぐ。空気はうだるように暑く、期待の夕立は今日もやって来そうに無い。店の中に人影は無く、前を走る国道の自動車のノイズだけが聞こえている。
 人間は恒常的なノイズをいつまでも意識の上に残すことができない。それはやがて意識の上で、静寂と同等に解釈されていく。
 その静寂の中、甲高いツーストロークエンジンの音が聞こえ始めた。ケッチンの運転する大型バイク、マッハⅢが国道を飛ばして来ているのだ。バイクは白煙の尾を引きながら国道を外れると、側道を下って歩道に乗り上げ、コンステレーションの前の駐車スペースに停車した。来客はこの場所にきちんと整列して駐車することになっている。白煙と爆音をまき散らしていた3本のマフラーはイグニッションオフと同時に沈黙した。ケッチンはヘルメットを脱ぐと、暑そうにライディングジャケットの前をはだけ、そのまま店内に入った。
 店内には国内4メーカーに混じってDUCATI、MOTO GUZZI、MV AGUSTAなど大型のバイクがずらりと並んでいる。ただし注文を受けた物以外はすべて中古品だ。かなり年式の古いものも混じっているが、これらのバイクはこの店のオーナーである親父が色々な伝(つて)を使って仕入れてきた逸品ばかりで、1台ずつ丁寧に整備して販売される。その状態の良さはビンテージバイクに乗りたいと思っているライダーの間で評判を呼び、その整備技術の高さに惹かれて新車を注文する者もあらわれ、常連客は徐々に増えていった。
 さらに付け加えれば、ここ数年メキメキと腕を上げてきた後継者が可愛い女性であったということも、それに一層の拍車をかけた。彼女はコトリというニックネームで呼ばれているが、その整備技術とライディングテクニックは“魔法使い”と呼ばれた親父をも凌駕する位置にまで高まりつつあった。
 ケッチンは辺りを見回した。店内には誰も居ない。
「親父さん!」ケッチンは声をかけた。
「おう!ケッチンか?すまんが、冷蔵庫からアイスコーヒーを出しといてくれ。今、手が離せないんだ」TOILETと書かれたプレートの付いたドアの内側から親父の大きな声が答えた。
 ケッチンは「はい」と答えると裏口のすぐ横にあるキッチンに入っていき、暫くしてアイスコーヒーを乗せたトレーを持って戻ってきた。そして一番奥にある大きなデーブルにセットされた長椅子に腰をかけた。
 アイスコーヒーにシロップとミルクを入れグラスに口を付けると同時に、ドアの開く音がして親父が顔を出した。小柄だがガッチリとした男だ。親父は長椅子に腰をかけると、何も入れないでアイスコーヒーのグラスに口を付けた。
「W1はどうした?最近、マッハばかりだな」親父はケッチンの2台の愛車の事を話題にした。
「コトリさんに見てもらってから、調子が良くなって乗りやすいんですよ。それにダンゴがね。マッハを贔屓にするもんだから・・・W1のことは気に入らないみたいなんです」
「ほう・・・。ダンゴはあの騒々しいじゃじゃ馬が御贔屓なのか?最初に店ににやって来たときは、どっちかっていうと、バイクに興味なんか無いように見えたが?」親父はダンゴが単身殴り込んできてコトリに突っかかった時のことを言っている。
「そうなんです。バイクに興味なんか持ってなかったんです。僕の話もつまらなそうに聞いていたし。でもコトリさんと仲良くするようになってから、ちょっと変わったかな」ケッチンはその時の詳しい顛末については分かっていない。いたって呑気にそう答えた。
 親父はケッチンの顔を見てニヤリとした。「真っすぐ走らない、曲がらない、止まらない、の3ないじゃじゃ馬だからな。コトリも難儀していたみたいだったぞ」
「そうでしょ。そこがまたいいんですよ」ケッチンが答える。
 親父の豪快な笑い声が響いたが、ケッチンはよく分からないまま愛想笑いを返した。
「ところでコトリさんから連絡はありますか?」ケッチンは思いついたように訊いた。
「おお、コトリ達は浦河で楽しくやってるみたいだぞ。お前の所には連絡は無いのか?」
「毎日ここまで走って無事、という連絡は来るんですけど。愛想が無くて・・・。もう少し詳しい状況を伝えてくれるといいんですけど」
「そうか。愛想がないか・・・」親父はまた少し頬を弛めた。「道北を回った後、知床で1泊、そして知床峠、羅臼、野付半島、摩周湖から美幌峠、そして屈斜路湖畔へ戻って1泊、それから1日で阿寒湖、オンネトーを回り、野塚トンネルを抜けて浦河まで行ったようだ。写真も送られてきているが、中学生の兄弟とか、婚前旅行中のカップルとか、奇妙な外国人の二人連れとか、面白い出会いもあったみたいだぞ」
「奇妙な外国人・・・ですか」ケッチンはそこに反応した。
「王様と伯爵だと言っていたぞ。写真を見せてやるよ」
「いえ!遠慮しておきます。かえって心配事が増えそうで・・・」ケッチンの声は弱々しい。
「ははは・・・、そうかそうか」親父はまた豪快に笑った。「だが浦河に着いたらもう安心だ。浦河では俺の知り合いが経営する牧場で泊めてもらうことになっているからな」
「知り合いって?」
「ずいぶん前だが、俺がツーリングで走り回っていた時に世話になった人で、相川長一郎という剛健で頑固な爺さんと、その頑固者を密かに尻に敷く相川奏重という婆さんだ。出会った時はまだ若かったんだが、俺も爺さんになったからな。お互い歳を取った」
「浦河では何を?」
「聞いてないのか?牧場の体験実習みたいなことをしているみたいだ。相川牧場は競走馬の飼育をやっているから、特別な体験ができるだろう」
「俺なんかすっかり置いてけぼりですよ・・・」ケッチンはついに弱音を吐いた。
「そうか、置いてけぼりか!」親父は実に楽しそうに笑った。「毎日仕事を終えてからは宴会なんだそうだ。相川の爺さんは蟒蛇だから酒好きをたくさん呼び寄せたようだな。鏡の爺さんも押しかけているしな」
「鏡の爺さん?」
「鏡一太郎といって京都の宮大工の大棟梁だ。この人もまたよく飲む」
「知り合いなんですか?」
「若いころ京都で一緒に飲む機会があってな。底なしだったなぁ。それ以来の付き合いだ。後で鏡の爺さんと相川の爺さんが親友だったというのが分かって、それにも驚いたがな。人間、妙なところで繋がっているもんだ」親父は遠い目をした。
「そんなだったら、親父さんも押しかけたらよかったじゃないですか」
「店を空けるわけにはいかんだろ?お前らも困るだろうし」
「それはそうですけど」
「ヤキダマが出張でアメリカへ出かけてしまって、コトリが寂しそうだったからな。相川牧場がワーキングホリデーって言うのか?それをやると聞いたんで、ちょっと焚き付けてみた訳だ。それにコトリは俺の孫みたいなもんだ。3人に俺の孫をお披露目しておこういう気持ちもあった。コトリがダンゴを誘ったのには驚いたが・・・」
「俺も驚きですよ。急にコトリさんとタンデムで北海道なんて」
「お前も誘われたんじゃないのか?」
「そんなはずないでしょ!あっさりとベンタをお願いね!って言われましたよ」ケッチンは情けない顔になった。
 親父はその様子を見てまたひとしきり笑った。「いいじゃないか。おかげで自分の気持ちに素直になれただろう?」
 ケッチンは複雑な笑顔を浮かべた。
 物憂げな午後、うだるような暑さはまだ収まる気配を見せなかった。
 
2015.08.12 
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

オリキャラオフ会2参加作品の3作目発表です。

offkai.png

大海彩洋さんのところで企画されました『オリキャラオフ会2・また一緒に遊ぼうにゃ~!』への参加作品、その3作目を書きましたのでUPします。
完結編と言うよりも番外編、或いは枠外編という感じの作品です。
皆さんが続々と作品を発表される中、サキ1人舞台の袖から俯瞰で、さらに斜めに見ているような感じの物ができあがりました。
3作目ですから良いかな?という感じで書いてみました。
ちょっとイベントの趣旨とは違ってきているようなのですが、寛大な心で読んでやってください。
よろしければ、この下のリンクからお進みください。

牧神達の午後
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テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

ダンゴのお気に入り、そして新作について

 大海彩洋さんのところで企画されました『オリキャラオフ会2・また一緒に遊ぼうにゃ~!』には、左紀は「696」と「牧神達の午後」で参加しています。その物語のヒロインはコトリとダンゴの2人なのですが、そのダンゴの友達以上恋人未満の関係のケッチンはビンテージバイクが大好きなのです。
 今日はその彼の愛車を覗いてみようと思います。
 まずケッチンとダンゴが始めて登場した「H1」では、ダンゴがケッチンのすみかを訪れた時、倉庫の隅にKAWASAKI W1が登場します。

Stella/s
1967 Kawasaki W1SS

 この写真は左紀の持っているイメージとは少し違うのですが、だいたいこんな感じのバイクです。伝統的な4ストローク650cc2気筒エンジンで、いかにも武骨な感じですね。
 エンジン特性上激しい振動が発生し、それが原因の故障も多かったようです。
「H1」では、ダンゴがこのバイクについて語られるケッチンの蘊蓄にうんざりしている様子が出てきます。

 そしてその後、ダンゴは倉庫の裏手から聞こえてくる大きな音を確かめに行って、ケッチンが友人から手に入れたばかりのKAWASAKI H1を目にするのです。

Stella/s
1969 Kawasaki 500 H1 MachIII

 これはマッハⅢとも呼ばれるバイクで、2ストローク3気筒エンジンです。2ストローク500ccのエンジンはかなり発熱するのですが、現在では考えられないことに空冷なんです。今だったら絶対に水冷にします。
 おかげで発熱には悩まされたようで、オイルの量やガスの濃さなど微妙な調整が必要だったと思われます。
 当時としては高出力だったようですがピーキーな性格で、いきなり繋がるクラッチの特性もあって、発進時に竿立ち(ウィリー)になってしまう。など、じゃじゃ馬ぶりを発揮しました。コーナーでの安定性にも問題があり(直進性もよくなかったようです)利きの悪いブレーキと相まって、現在のバイクとは比べものにならないほど危ないバイクでした。ま、こういう意見は、そうとう無茶な乗り方をした場合のもので、普通に運転したら普通に走るのかもしれません。
 ダンゴは白煙と爆音を吐き出すマッハⅢに辟易とし、マッハⅢの整備のためにダンゴをほったらかして「コンステレーション」に行ってしまったケッチンに腹を立てるのです。その店の店長が若い女性だと言うことも知っていましたから。そうです、その店長がコトリだったんですね。
 その後、ダンゴの殴り込み事件などを経て、コトリとダンゴの関係は非常に良くなっています。さらにコトリのバイク好きに感化さえて、最近ではダンゴはマッハⅢの方を贔屓にしているようです。KAWASAKI W1は相変わらずお気に召さないみたいですけど。

 さて、今回の北海道ツーリングでコトリが運転しているDUCATI 696ですが、こんな感じです。(一番手前のバイクですね)モンスターというサブネームが付いています。

Stella/s
Ducati Monster 696 with Termignoni exhaust, in front of a Ducati Hypermotard, in front of Ducati 848

 いかがです?カッコいいでしょ!
 これの深紅のモデルにコトリとダンゴでタンデムですからね・・・って興味のない方にはつまらない話題だったかもですね。
 お目汚しでした。

 さてさて、ここのところの話題です。
 サキは本日、新作の2編(第1話と第2話)を書き上げています。
 ウェブ月刊誌Stlla用に書き上げたものですが、前にもどこかに書いたとおり、第1話は「物書きエスの気まぐれプロット(16)」の作中作「Firkin(ファーキン)」のかなりの部分を改めて書き直したものです。第2話は「物書きエスの気まぐれプロット(神様の降りるところ)」の作中作「新世界から Scene2」に続きを追記し各部を改変した物です。
 タイトルは「新世界から」で、ウェブ月刊誌Stlla8・9合併号ではScene1とScene2の発表になります。
 今、先の校正と推敲を受けていますので来週中にはUPできると思います。
 お楽しみに!
 Stella8・9合併号はサキの担当なので参加しないという選択肢はありません。頑張って書きました~。偉いでしょ?
 あ、ただしScene3は難航していていつになるか分かりません。

山西 左紀


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テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

新世界から Scene1(旧作)

Stella/s月刊ステルラ8・9月合併号 投稿作品


 エルロン(補助翼) とは、飛行機を左右に傾ける(バンク、横転、ロール)ために使う動翼である。通常左右の主翼後縁の外側に取り付けられており、機体の前後軸を中心とした回転運動を制御する。

 ラダー(方向舵)とは、飛行機の機首を左右に向ける(ヨーイング)ために使う動翼である。通常垂直尾翼後縁に取り付けられており、機体の上下軸を中心とした回転運動を制御する。エルロンと併用すると、定常釣り合い旋回を行うことができる。

 エレベーター(昇降舵)とは、飛行機を機首上げ、機首下げの姿勢にするために使う動翼である。通常尾翼後縁に取り付けられており、機体の左右軸を中心とした回転運動を制御する

 フラップとは、高揚力装置の一種で、飛行機の揚力を増大させるための装置である。必要時に主翼から展開させるタイプのものが多い。副次的に抗力が増大するため、機体を減速する作用もある。
(Wikipediaより抜粋し補筆)

Firkin(ファーキン)

 ファーキン、それは特定の戦闘機のパイロット、或いはそのパイロットが乗り込む機体を表すコードネームだ。本来は小型の樽や容器を意味する単語だが、この世界では頭文字がファイターを表す「F」だということの方が重要だった。コードネームは戦闘に関連の無い単語が選ばれることが多いが、「G」(ジェネラル、グレート、ガン)や「T」(トップ)など、頭文字に意味を見出し、それに関連付けて付けられることが多かった。戦闘機乗り達はコードネームの頭文字で相手の腕の良さを想像した。

 ファーキンはコックピットからあらゆる方向を素早く見回した。
 空に溶け込むようなブルーグレーの戦闘機が2機!識別は赤。敵だ!
 それを確認すると、エルロンを僅かに操作して機体を右へロールさせる。でもこれはフェイントだ。
 敵のうち1機は右へ流れた。残ったのは1機。
 すぐに反対へロール。左下へほとんど背面でダイブ。
 ついておいで・・・おいで・・・おいで・・・ファーキンは口の中で繰り返した。
 フラップを使って急激に減速。今だ!エレベーターを上げる。目いっぱい。敵は急激な減速と姿勢の変化にに対応出来ず、射撃のタイミングを逃した。エレベーターを戻す。一瞬ラダーをあててからスロットルを閉じる。浮遊感が襲ってくる。
 機体が方向を変え始める。スロットルいっぱい。
 ほら!相手の横っ腹が見えた。トリガーを絞り込む。相手のコックピットに弾が吸い込まれていき、キャノピーが赤く染まる。
 やった!快感!快感!ファーキンの口の左端が僅かに上がった。
 機体は自由落下を続けている。舵面に当たる空気の速度が遅いからまだ舵が効かない。墜ちる。舵は?まだか。敵は?ファーキンは焦り始める。
 その時、ガン!ガン!ガン!機体に大きな衝撃があった。撃たれた?ばかな?どこから来た?裏からか?ファーキンは辺りを見渡す。
 コックピットの中を何かが跳ね回ってる。
 舵が戻った。左へ急旋回。ロール。キャノピー越しに敵の姿を捉えた。怒りが沸々と湧き上がってくる。アドレナリンの分泌は最大だ!この野郎!ファーキンは怒りにまかせて必要以上の弾を打ち込んだ。お返しだ!破片が飛び散り翼がもげる。まだ弾を喰らわせる。相手が火を噴いた。もんどりうって落ちていく。
 ヒャッホ~!
 離脱。反転して下を確認してからゆっくりと姿勢を戻す。辺りを確認。他に機影は見えない。もういないはずだ。
 まずったな~。ファーキンは思い切り顔をしかめた。

「ファーキン。いるか?」無線が入った。
「ガリレオ。いるよ。今のところ2機」
「こっちも2機、状態は?」
「う~ん」ファーキンは少し間を置いた。「コードL33」
「どこだ!」ガリレオの声が慌てている。“L”は「一部に損傷」“33”は「緊急着陸を要請する」というコードだったからだ。腹側から打ち抜かれている。どこか油圧系統もやられて油圧が下がっている。燃料系もエラーが出ている。エンジンにも喰らったようだ。「もってくれると良いんだけど」ファーキンはガリレオに聞こえないように呟いた。
 それにさっき跳ね回った何かがどこかに当たったらしい。ラダーが思うように操作できなくなってきた。さっきまで大丈夫だったのに。
 ガリレオが上がってきて右に並んだ。ファーキンはガリレオに向かって手を振った。
「ファーキン、陸地までは遠い、その様子じゃもたないと思うが、どうだ?」
「かもしれない」ファーキンは短く返事を返した。
「近くに空母が居る。お前の腕なら甲板をいっぱいに使って降りられるだろうし、だめなら着水という手もある。そこへ向かうか、あとは時間はかかるが降りやすい91ベースまで飛ぶかだ、どっちを選ぶ?」
 ファーキンは少し考えてから答えた。「空母を選択する」
「了解、ついてこい」
 ファーキンはそのままガリレオの左側に並んで降りていった。

 高度を下げ、いったん水平飛行に入ってからガリレオが真横、少し上方に並んできた。背面飛行でコックピットを覗き込んでくる。ファーキンはガリレオに向かってもう一度手を振って見せた。
「ファーキン、戦闘空域を出た」ガリレオから無線が入る。
「了解」
「空母とは連絡を取った。甲板は着くまでに空けてくれるそうだ。機体は空母の軸線に乗っている。このまま真っ直ぐ進入する」
「了解」
「大丈夫そうだな。だが主翼と胴体に幾くつも穴が開いているぞ」
「へまやっちゃった」ファーキンは声を振り絞った。
「オイルが漏れているようだ。コントロールは?」
「真っ直ぐなら問題ない」
「エンジンは?」
「シリンダーが2つ死んでいる」
「またあれをやったのか?」ガリレオが訊いてくる。何もかもお見通しだ。ファーキンは返事をすることが出来ない。
「そいつは無暗に使うなと言ったろう?無防備になるから、やるのは相手が1機の時だけだ」
 言い訳をすることが出来ない。でもこれまでそれで生き延びてきたんだ。ファーキンは心の中で呟いた。
 ガリレオが少し離れて前方に出た。
 ファーキンはコックピットを覗き込まれなくなったのでホッとした。腰から下の感覚が無い。でも真っ直ぐなら問題ない。問題ない。自分に言い聞かせる。
 徐々に高度が下がる。雲が切れて下にはキラキラ光る海面が見え始めた。この機体であそこに降りたら助かる保証はない。滑らかに着水する自信はあったが、ほんの僅かな角度の違いが、うねりのタイミングが、致命的な結果をもたらすことはよく分かっている。できれば甲板にふわりと降りたいんだけど・・・。ファーキンは楽観的に考えることに意識を集中した。
 飛行艇に乗っていたころなら、あそこは帰るべき場所だった。滑るように海面に降り立ち、そのままゆっくりと機体を桟橋に横付けする。そして係留作業を眺めながらエンジンを止めると、その日の仕事は終わった。呑気なものだ。
 そして桟橋ではあいつが待っていた。ファーキンはほんの少しの時間、あいつの顔を思い浮かべた。
 夕闇の迫る茜色の風景が広がっている。
 ヤシの木は穏やかな風に微かに葉を揺らせる。
 ラグーンの海面は穏やかだ。
 潮の香りがした。

 空母までまだあるのかな?視界は徐々に暗くなり始めた。日が沈もうとしているのかな、ファーキンはそう考えた。
「ガルレオ、空母に誘導灯を点けるように言ってほしい」
「なんだって?ファーキン、繰り返してくれ」
 下半身ばかりでなく痺れと冷たさは徐々に拡がり始めている。太陽は完全に沈んでしまった。辺りはどんどん暗くなる。どうしたんだろう?空母は?誘導灯は?ファーキンは足掻く。
「ガリレオ・・・あと・・・どれぐらい?」
「あと3キロ、いや2キロだ」
「暗いな・・・」
「どうした?」
 体がゆっくりと傾き始める。
「おい!そっちじゃない。戻せ!ファーキン!ファーキン!」
 無線機からは叫び声が聞こえる。妙にはっきりと。
「カンザキ!上げろ!カンザキ」
 アタシを呼んでいる。
 だがファーキンにはどうする事も出来なかった。

2015.08.26
2016.09.05 若干の修正

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「新世界から」の掲載を開始します。

 今日は新しい作品をUPしたいと思います。
 構成・推敲係りの先がけっこうバタバタしていたので時間がかかってしまいました。とりあえず今日は第1話「Scene1・Firkin(ファーキン)」です。
 前にも書いたように、この第1話は「物書きエスの気まぐれプロット(16)」の作中作「Firkin(ファーキン)」のかなりの部分を改めて書き直したものです。展開は少し変わっていますが、ベースが同じですので、この作品を読まれた方は既視感があると思います。お許しください。
 第2話「Scene2」も完成していますので、最後の詰めを行ってから近日発表します。
 どちらもウェブ月刊誌Stlla8・9合併号掲載作品です。合併号ですから2話分用意しました。よろしくお願いします。
 ただし、「Scene3」は難航していて、「Stlla」の発刊に合わせて月1の連載としてUPすることは難しそうです。ウンウン唸らないとアイデアや展開が出てきません。「シスカ」を連載開始したときみたいなわけにはいかないようです。ちょっと苦しいなぁ・・・。
 それにこの調子だと、後から例のごとく細かい修正が入る可能性も排除できません。
 寛大な気持ちでお待ちいただければ嬉しいです。

 作品のタイトルは「新世界から」です。よろしければ下のリンクからお進みください。

新世界から Scene1・Firkin(ファーキン)
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新世界から Prologue

  エルロン(補助翼) とは、飛行機を左右に傾ける(バンク、横転、ロール)ために使う動翼である。通常左右の主翼後縁の外側に取り付けられており、機体の前後軸を中心とした回転運動を制御する。

 ラダー(方向舵)とは、飛行機の機首を左右に向ける(ヨーイング)ために使う動翼である。通常垂直尾翼後縁に取り付けられており、機体の上下軸を中心とした回転運動を制御する。エルロンと併用すると、定常釣り合い旋回を行うことができる。

 エレベーター(昇降舵)とは、飛行機を機首上げ、機首下げの姿勢にするために使う動翼である。通常尾翼後縁に取り付けられており、機体の左右軸を中心とした回転運動を制御する

 フラップとは、高揚力装置の一種で、飛行機の揚力を増大させるための装置である。必要時に主翼から展開させるタイプのものが多い。副次的に抗力が増大するため、機体を減速する作用もある。
(Wikipediaより抜粋し補筆)


マーマレード

 マーマレード、それは柑橘類を加工した食品を指す単語だが、ここでは特定の戦闘機のパイロット、或いはそのパイロットが搭乗した機体を表すコードネームだ。
 コードネームはシステマティックに定められたリストの中から選ばれるが、優秀なパイロットには伝統的に「F」の頭文字を持つコードネームが与えられた。「F]はファイターの頭文字だからだ。
 リストにある「F」で始まる単語には限りがあるうえ、他人が使っているコードネームを名乗ることは出来ない。それゆえ自然と「F」を使う者に対する伝説が出来上がった。「F」が使えるということはそれなりの実績を残しているはずだ・・・戦闘機乗り達はコードネームの頭文字で相手の腕の良さを想像した。
 マーマレード、その頭文字は「M」だ。だがそれはマーマレード自身が望んだことだった。マーマレードには「F」で始まるコードネームを名乗る資格は充分すぎるほどあったし、上司や仲間からも何度も「F」を勧められた。だがマーマレードはそれを固辞した。

 マーマレードはコックピットからあらゆる方向を素早く見回した。
 左に空に溶け込むようなブルーグレーの戦闘機が2機!識別は赤、敵だ!
 それを確認すると、エルロンを操作して機体を右へ急激にロールさせる。でもこれはフェイントだ。
 敵のうち1機はそれにつられて方向を変える。残ったのは1機。
 それを確認するとすぐに反対へロール。左下へほとんど背面でダイブ。
 ついてこい・・・こい・・・こい・・・マーマレードは口の中で繰り返した。
 今だ!フラップを使って急激に減速。エレベーターを目いっぱい引き機首を上げる。敵は急激な減速と姿勢の変化に対応出来ず射撃のタイミングを逃した。機首が真上を向く。エレベーターを戻す。一瞬ラダーをあててからスロットルを閉じる。浮遊感が襲ってくる。
 機体は舞い落ちる木の葉のように一瞬で方向を変える。
 相手の横っ腹が見えた。トリガーを絞り込む。相手のコックピットに弾が吸い込まれ、キャノピーが赤く染まる。
 マーマレードの口の左端が僅かに上がった。
 機体は自由落下を続けている。フルスロットル。舵面に当たる空気の速度が遅いからまだ舵が効かない。墜ちてゆく。
 その時、ガン!ガン!ガン!機体に大きな衝撃があった。撃たれた?バカな!どこから来た?裏からか?マーマレードは辺りを見渡す。
 一瞬のアンコントロールを突かれた。コックピットの中を何かが跳ね回ってる。
 舵が戻った。左へ急旋回。ロール。キャノピー越しに敵の姿を捉えた。アドレナリンは最大に分泌されているはずだが、精神は研ぎ澄まされた刀のようにように冷ややかだ。トリガーに指が掛かる。コックピットに吸い込まれてゆく弾道が予測できる。だがトリガーを絞る一瞬前に敵はひらりと方向を変えた。まるで重力や慣性など存在しないかのように・・・。
 回り込んでくるつもりだ。マーマレードもエレベーターを引いて回り込む。お互いに後ろを取ろうと旋回半径が小さくなる。強烈なGが襲ってくる。キャノピーが正対し、相手のパイロットが見える。意識は一層冷却され、舵は意識の支配を離れる。敵の動きはまるでスローモーションのように遅くなった。
「オッドアイ?」マーマレードの口から苦しそうな呟きが漏れる。敵のパイロットのコードネームだ。機体には何のマークも描かれていないからパイロットの当たりは付けられない。だが、ここまで自分を追い込んでくるパイロットは他には思い当たらない。あのしびれるように美しい俊敏な動き。きっとそうだ。いや、そうでなくては自分が納得できない。マーマレードはさらに回転半径を詰めた。
 その時、一瞬の操作の間を突いて敵が機種の向きを変えた。上空から黒い影が落ちてくる。識別は青、友軍機だ。それを目にしたマーマレードは一瞬追尾を戸惑った。敵はロールと急降下を組み合わせて雲の中へダイブして消えた。
 マーマレードは友軍機に感謝はしたが、同時にせっかくの邂逅を邪魔された怒りも感じていた。
 離脱。反転して下を確認し、ゆっくりと姿勢を戻す。辺りを確認。敵の機影は見えない。もういないはずだ。
 友軍機は急降下してからゆっくりと水平飛行に入った。
 フォックスバットの機体だ。
 まずったな~。この時になって始めてマーマレードは思い切り顔をしかめた。

「マーマレード、状態は?」無線が入った。
「う~ん」マーマレードは少し間を置いた。「まずったかも」
「どこをやられた!」フォックスバットの声が慌てている。
 機体は腹側から打ち抜かれている。どこか油圧系統もやられて油圧が下がっていて、燃料系にエラーが出ている。エンジンにも喰らったようだ。「もってくれると良いんだけど」マーマレードはフォックスバットに聞こえないように呟いた。
 それにさっき跳ね回った何かがどこかに当たったらしい。ラダーが思うように操作できなくなってきた。さっきまで大丈夫だったのに。
 フォックスバットが上がってきて右に並んだ。マーマレードはフォックスバットに向かって手を振った。
「だいぶやられたな。陸地までは遠い、その様子じゃもたないと思うが、どうだ?」
「かもしれない」マーマレードは短く返事を返した。
「近くに空母が居る。お前の腕なら甲板をいっぱいに使って降りられるだろうし、だめなら着水という手もある。そこへ向かうか、あとは時間はかかるが降りやすい91ベースまで飛ぶかだ、どっちを選ぶ?」
 マーマレードは少し考えてから答えた。「空母を選択する」
「了解、ついてこい」
 マーマレードはそのままフォックスバットの左側に並んで降りていった。

 高度を下げ、いったん水平飛行に入ってからフォックスバットが真横、少し上方に並んできた。ロールして背面飛行でコックピットを覗き込んでくる。マーマレードはフォックスバットに向かってもう一度手を振って見せた。
「マーマレード、戦闘空域を出た」フォックスバットから無線が入る。
「了解」
「空母とは連絡を取った。甲板は着くまでに空けてくれるそうだ。機体は空母の軸線に乗っている。このまま真っ直ぐ進入する」
「了解」
「大丈夫そうだな。だが主翼と胴体に幾くつも穴が開いているぞ」
「まずった」
「お前に穴を空けるとはな・・・どんな奴だ?」
「良い奴だった」
「良い奴?敵のことか?」
「素敵な奴!惚れ惚れする動きだった。まるで妖精みたいに・・・」マーマレードは声を張った。
「妖精?」
「そう、楽しかった。ワクワクした」
「ワクワク?まるで恋人に出会ったみたいだな。変わった奴だ」フォックスバットが吐き捨てるように言った。
「オッドアイだったかもしれない」
「オッドアイ!本当か?」
「あんな風に動けるなんて、だからきっとそうだ」
「お前なら、動けているさ」
「だったら素敵だけど、きっとそうじゃなかったんだ・・・だから・・・まずった」
「オイルが漏れているようだが、コントロールは?」フォックスバットは話題を変えた。
「真っ直ぐなら問題ない」
「エンジンは?」
「シリンダーがたぶん2つ死んでいる」
「なんとか持たせよう」フォックスバットが少し離れて前方に出た。
 マーマレードはコックピットを覗き込まれなくなったのでホッとした。腰から下の感覚が無い。でも真っ直ぐなら問題ない。問題ない。自分に言い聞かせる。
 徐々に高度が下がる。雲が切れて下にはキラキラ光る海面が見え始めた。この機体であそこに降りたら助かる保証はない。滑らかに着水する自信はあったが、ほんの僅かな角度の違いが、うねりのタイミングが、致命的な結果をもたらすことはよく分かっている。できれば甲板にふわりと降りたいんだけど・・・。マーマレードは楽観的に考えることに意識を集中した。
 飛行艇に乗っていたころなら、あそこは帰るべき場所だった。滑るように海面に降り立ち、そのままゆっくりと機体を桟橋に横付けする。そして係留作業を眺めながらエンジンを止めると、その日の仕事は終わった。呑気なものだ。
 そして桟橋ではあいつが待っていた。マーマレードはほんの少しの時間、あいつの顔を思い浮かべた。
 夕闇の迫る茜色の風景が広がっている。
 ヤシの木は穏やかな風に微かに葉を揺らせる。
 ラグーンの海面は穏やかだ。
 潮の香りがした。

 空母までまだあるのかな?視界は徐々に暗くなり始めた。日が沈もうとしているようだ。マーマレードはそう考えた。
「フォックスバット、空母に誘導灯を点けるように言ってほしい」
「なんだって?繰り返してくれ」
 下半身ばかりでなく痺れと冷たさは徐々に拡がり始めている。太陽は完全に沈んでしまった。辺りはどんどん暗くなる。どうしたんだろう?空母は?誘導灯は?マーマレードは足掻く。
「フォックスバット・・・あと・・・どれぐらい?」
「あと3キロ、いや2キロだ」
「暗いな・・・」
「どうした?」
 体がゆっくりと傾き始める。
「おい!そっちじゃない。戻せ!起こすんだ!マーマレード!」
 無線機からは叫び声が聞こえる。妙にはっきりと。
「上げろ!引き上げろ!」
 誰かがアタシに操縦の指示をしている。このアタシに・・・。
 だがマーマレードにはどうする事も出来なかった。

2020.01.19 Scene1(旧作)をリライト

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新世界から Scene1・Huwari(フワリ)

Stella/s月刊ステルラ8・9月合併号 投稿作品

Huwari(フワリ)

 雨が上がって日が差し始めると、大気は一気に蒸し暑さを増した。
 通りに沿って立ち並ぶ中層の建物は薄汚れ、くすんでいて、あちこちが傷み、歪んていた。
 路面はアスファルトで舗装されていたが、あちこちが剥がれ、めくれあがって水が溜まっていた。往来する自動車がそれにタイヤを落とし、あちこちで跳ねを上げた。
世界を巻き込んだ戦争はまだ続いていたが、戦いは遠く離れた場所での事だったし、戦況も有利だったので、人々にはどこか別世界での出来事のように感じられた。裕福な者は裕福に、貧しい者は貧しいまま、いつものように日常生活を送っていた。

 フワリは軒先を出て、そこここにできた水溜まりや、行き来する人々を避けながら通りを歩き始めた。
 彼女はまだ12歳だったがその割には背が高く、背の割には体重が不足していた。つまりやせっぽちだった。肌の色はやや濃いめで、大きな目と深い湖を思わせる藍色の瞳が印象的だ。そして腰まで届く漆黒の髪は首の後ろでシンプルに束ねられ、律動的な足取りに合わせてリズミカルに揺れていた。
 身に着けているサイズの小さいワンピースは、もともとの色が何色だったのか想像することも難しいくらい変色していたし、そのほっそりとした長い足にまるで似合わないズック靴は、メーカーも分からないくらい型崩れしていた。上空には大きな二重の虹がかかり始めていたが、彼女がそれに気づいた様子は全くなかった。
 もっとも、大勢歩いている、あるいはたむろしているこの街の住人の中で、その大きな虹に気が付いた者がどれだけ居たのだろう。おそらくその住人を探し出すことは至難の業だ。
 やがてフワリは十字路に差し掛かるとそこを右に曲がった。右に曲がった先は少し静かな通りになっていて、辺りは2階建てかせいぜい3階建の建物が立ち並んでいる。ほとんどが宿泊かそれに類する目的で使われる建物だったが、好き勝手に増改築された不統一な外観がこの通りの景観に一層のカオスを加えていた。
 通りを暫く進むと左側に緑の木々が見えてくる。緑はその奥に建つ3階建の建物の前庭で、ほとんど手入れもされていなかったが、それなりの広さを持っていたし、大きな木もたくさん植えられていたので、周囲に一定の潤いと安らぎの様な物を与えていた。
 庭は錆びついた鉄製の柵で囲まれ、入口には崩れかけた石造りの門があった。その門の前には紺色の薄汚れたセダンが1台、通せんぼをするように止まっている。フワリはそれをぐるりと回り込んで門を入り、木々の奥に見えている建物の入口まで、庭の飛び石を伝って近づいていった。飛び石の間隔が開いていてジャンプをしなければならない所もあったが、地面がぬかるんでいるので靴を濡らさずに庭を通り抜けるには飛び石を伝うしか無い。
 奥に立つ建物の1階はバーになっていて、その入口からバーテンダー風の男が出てきて声をかけた。「おかえり、フワリ」
 その“フワリ”の発音は、柔らかさや軽やかさを表すその言葉の本来の発音とは全く違っていて、解剖を表すよく似た別の言葉の発音のように抑揚を欠いた硬い物だった。
 フワリはその男の方にチラリと目をやったが何の受け答えもせず、そのまま入口をくぐった。
 ホールには女が3人たむろしていて、カウンターの中にはマネージャー風の男が暇そうに座っている。
「おかえり、フワリ」女達は口々に硬い方の発音でフワリに声をかけたが、彼女はさっきと同じように受け答をせず、真っ直ぐにホールを横切って階段へ向かった。そして階段の一段目に足を乗せると、カウンターの中に暇そうに座っている男に目を向けた。
「接客中だ」その様子を見てカウンターの中の男が短く要点だけを言った。
 フワリは一段目から足を下ろすとそのままカウンターの椅子に登って腰掛けた。
「しかも2人もだ」男はいやらしく顔を歪めた。
 フワリは黙っている。
「どうした?何か用でもあるのか?」マネージャー風の男が声をかける。
 フワリは黙ったまま顔を上げて男の顔をじっと見た。そして首を左右に振った。
「そうか。まぁ、そこに座ってな。まだ暇だしな」男はゆっくりと立ち上がるとカウンターを出て外の様子を見に行った。フワリはそれ目で追っていたが、男が入口から出ていくと目線を前に戻した。そして正面の棚に並べられた酒の瓶を熱心に眺め始めた。まるで瓶に貼られたラベルにとても重要な表記が隠されているかのように。
 他愛のない女たちの会話が聞こえていたが、それはフワリの耳には届いていなかった。
「フワリ。フワリ!」呼びかけられてフワリは顔を上げた。階段の登り口の処からエリの顔が覗いている。整った丸い顔にショートカットの黒い髪の女だ。もう40歳を超えているはずだが、その可愛らしい顔立ちのせいで30代前半に見える。「ちょっと、上に来てくれる?」エリは人差し指で上を指した。フワリは暫くエリの方をじっと見つめていたが、やがて椅子からポンと飛び下りると階段の方へ向かって歩いて行った。エリは傍に来たフワリの肩にそっと手を添えると一緒に階段を上って行った。

 エリは2階の部屋の扉を開けた。フワリは入り口で少しの間立ち止まっていたが、エリに促されて部屋に入った。
 部屋の雰囲気はいつもと違っていた。いつもなら据えたような男と女の体臭が充満している部屋は、今日はその気配もない。部屋の右手にはダブルサイズのベッド、そして奥に押し込まれたソファーには、濃紺のスーツをきっちりと着込んだ2人の男が窮屈そうに座っていた。
「フワリです」エリがフワリを紹介すると、男達は立ち上がって深々と頭を下げた。1人はがっちりとした大男で、もう1人は痩せた小男だった。
 フワリは少しだけ目を見開いた。藍色の瞳は一層深みを増し、まるで観測装置のように男たちの頭のてっぺんを見つめ続ける。
「フワリ様ですね」頭を上げてから、小さい方の男が確認するように訊いた。体格から受ける印象の通り甲高い声だ。
 フワリは2人の男の顔を交互に眺めてから、小さく頷いた。
「大きくなられましたね。お久しゅうございます」大きい方の男が言った。太くてよく通る声だ。そしてもう一度揃って頭を下げた。
 フワリはただ黙って前を向いている。
「驚かれましたか?そのお顔は小さいころのフワリ様そのままでございます」小さい方の男が懐かしそうに言った。
「確かにフワリ様だ」大きい方が続けた。
「それでは本日わたくしども共がここに参った理由、わたくしの方から説明させていただきましょう。どうぞおかけください」小さい方の男がベッドに座るよう促した。
 フワリとエリがベッドに腰掛けるのを待って、2人の男は再び窮屈そうにソファーに腰を下ろした。
「まず、わたくしの方から自己紹介をさせていただきます。わたくしはベントと申します。そしてこちらの大きいのはボウズと申します。お見知りおきをくださいませ」2人はまた小さく頭を下げた。
 そして続けた。「フワリ様、あなたはご自分が何者なのかご存じですか?」
 フワリは小さく首を振った。実際フワリは自分が何者かを知らないはずだ。フワリは母親を知らなかったし、もちろん父親も知らなかった。家族や親せきにもこれまで会ったことはない。この屋敷の女達はすべからく優しかったが、家族のように接することはなかった。エリだけが、家族の代理のような役割を担っていたが、それでもやはり家族とは違う関係を保っていた。自分はどこかで生まれて、そして捨てられた。フワリは漠然とそういう自覚を持っているようだった。
「わたくし共はフワリ様が何者か、そしてこれから何をなさらなければならないか、お伝えするために参ったのです」ベントと名乗った小さい方の男が宣言した。
「ところでフワリ様はいくつにおなりですか?」気分を変えるようにベントが尋ねる。
「・・・・・・」フワリの瞳は観察を続けているが口は動かない。
「先月で12になりました」フワリが黙っているのでエリが代わって答えた。
「お前に訪ねているわけではない。フワリ様自身にお答えいただきたかったのだ」ベントと名乗った小さい方の男が声を強めた。
「すみません」エリは不満げに答え、そのまま俯いた。
 ベントは暫くフワリと見つめあう形になったが、フワリの口は微塵も動かない。
「ではもう裳着は済んでおられるわけですね」ベントは根負けしたように口を開いた。
 フワリは相変わらず黙っていたが、エリは顔を上げて頷いた。
 それを確認するとベントは厳かな口調で語り始めた。
「これからお話しすることは、フワリ様にとって耳障りのよい話ではないかもしれません。だがフワリ様はもう12歳になっておられる。我々の間ではもう一人前と見なされます。逃げることはできないのです。あなたは我々の王なのですから」
「オウ」フワリは初めて口をきいた。小さいがよく通る澄んだ声だ。
「フワリ様はパミラウをご存じでしょうか?」ベントは質問を投げかけた。
「パミラウ」フワリは単純に繰り返した。そして首を小さく左右に振った。
「パミラウとは南洋にあった海洋国家のことです」
「あった」フワリは瞳の焦点の位置を変えた。
「はい、南洋のたくさんの島々を配下に置く強大な海洋国家でしたが、今はもうありません」
「どうして」フワリは抑揚の無い声で言った。
「今の戦争が始まる前、パミラウがイルマの統治領になった時に消えたのです。パミラウの独立を最後まで守ろうとして戦ったのが、あなたのお父様であるガウガ王なのです。王は戦で亡くなり、国は滅び去りました。」
「お父様」
「はい、フワリ様、あなたはパミラウの最後の王ガウガの娘なのです」ベントはそう言うとまた深く頭を下げ、ボウズもそれに合わせるように頭を下げた。エリはその様子をぼんやりと眺めていたが、男たちが頭を上げないので慌てたように頭を下げた。
「フワリ様、あなたはパミラウ王朝の正当な継承者である王女なのです。あなた以外に継承権を持っておられる方はもう生きておられません。ガウガ王が亡くなった時から、あなたが我々の王なのです」
「国が無いのに」
「ですから、我々はパミラウを蘇らせるのです」
「どうやって」
「蘇るためにあなたのお父様、ガウガはたくさんの財宝を残されています」
「・・・・・・」フワリは無言で話の続きを待っている。
「ただ、これまではそれがどこに隠されているのか分からなかったのです。だが幾つかの伝承を整理し検討した結果、我々はついにその鍵を発見したのです」
「・・・・・・」
「フワリ様は先日病院で検査を受けられましたね?」ベントはエリの方を向いた。
「ええ、私達全員に性病を含めた体の検査を受けるようにと、当局の指示があったから・・・」エリが答えた。
「それは我々の差し金で行われたことです。そして、我々は鍵を発見したのです」
「何を?どこに?」エリは質問した。
「何を?鍵を、です。どこに?フワリ様の中に、です」
「あたしの中」フワリは感情を排した声で言った。
「そうです。鍵はフワリ様の中にありました。内蔵の隙間に巧妙に隠されています。多分それはマイクロフィルムの入ったカプセルです。それを取り出し解読することによって財宝の隠し場所が分かるはずです」
「どうやってそのカプセルを取り出すの?」エリが不安そうに訊いた。
「もちろん、手術で取り出します。超一流の医師を手配しますから、安全性に問題は有りません。そして、これは我々の王であるあなたの責務なのです。フワリ様」ベントはフワリの目を覗き込んだ。
 フワリは何の反応もせず、暫くの間ベントの目を覗き込んでいたが、やがてゆっくりと立ち上がった。そしてドアを開けて部屋の外へ出て行った。
 ベントが首を振って指示を与えると、ボウズが後を追った。

***

「ふう・・・」ベントが溜息を洩らした。「いつもあんな感じなのか?」
「そう、じっと観察して、判断して、そして判断したとおりに行動する。そんな子よ」
「やれやれ、さすがは頭(かしら)の娘だ。あの目は頭とそっくりだな、全てを見透かされているようで、自分が酷く愚かに思えてくる」ベントは頭を掻いた。
「これまであの子に何の関心も持ってこなかった報いよ。突然やってきて、どういう風の吹き回しかと思ったら、こんな話だし。それに、パミガーラについては何も言わないつもりなの?」エリが訊いた。
「これだけ言えばフワリも覚悟の様な物ができるだろう。黙って無理やりやるよりはずっといい。それに、でたらめでもない」
「そりゃぁ、そうだけど・・・」エリはフワリが出て行ったドアの方を眺めながら言った。「パミラウ王朝の正当な継承者である王女、確かに彼女の一面だけど」
「しかたなかろう。俺達は極悪非道の海賊集団、パミガーラの残党で、あんたはその頭、ガウガの娘ですって言うわけにもいかんだろう」ベントは同意を求めた。
「そりゃ、そんなことは伝えたくないけど・・・」エリは言い淀んだ。
「俺達が海賊パミガーラだったということは明かさない方が良い。いま俺達の正体が漏れるるようなことがあったら、今度は完璧に叩き潰される。グロイカ政府もこの件ではイルマ政府と呉越同舟だ。やつらが根絶やしにしたかったのはパミガーラの方だからな。秘密を知る者は1人でも少ない方が良い。それにこういう話しにしておくと、事を進めるときにフワリに一応辻褄の合った説明ができる」
「それはそうかもね。パミラウの話やガウガの財宝の話は、一応それで説明がつきそうだから。パミラウは群島丸ごとの国家のような組織だったし、ガウガの頭を頂点にした王国。まさにパミラウ王朝だったというのは本当のことだから・・・」
「ただ王国の収入源の1つがパミガーラの海賊行為だったというだけのことだ。そして、表のパミラウは滅び、裏のパミガーラだけが生き残った」ベントはエリの目を見ていった。
「ベント、本当にパミラウを蘇らせる気?」
「まさか!」ベントは小さく両手を広げた。「目的は金だ。残された俺達が生きていくためには金が必要だ。充分な金があればみんなまた這い上がれる。繁栄の光の中へな」
「でも財宝が本当にあるなんて話、初耳だよ」
「頭がたくさん財宝を隠しているという噂はずっとあった。何代も昔から海賊を続けていて、美味しい物件もたくさん襲っているようだしな。調べるのにはずいぶん手間取ったが、ようやく鍵のありかにたどり着いたというわけだ」
「そうだったんだ。でも、娘の体内に隠すなんて頭も酷い事するね」
「頭のことだ。そんなこと何とも思っちゃいないさ」
「そうかもね。でもそれより、その手術をやってくれる超一流の医師って、本当に大丈夫なの?」
「・・・・・・」ベントは天井を見上げた。
「その財宝って、どのくらいあるの?」エリは慌てて次の質問をした。
「小さな国が買えるくらいだ」はっきりとした口調でベントは答えた。
「そんなに・・・」エリの目は大きく見開かれた。
「残された仲間のために是非とも手に入れたいだろう?エリ」ベントはエリの目を覗き込みながらそう言った。そして不敵な笑みを浮かべて付け加えた「たとえフワリの命と引き換えになったとしてもな・・・。」
 エリは言葉を返せない。
「さて、王女様ともう少し面談をさせてもらおうかな」ベントはボウズの後を追って部屋を出て行った。
 エリはそのままの姿勢でベッドの上に留まっていた。
 彼女の顔からは血の気が引いていた。

 午後の大気はいっそう蒸し暑さを増していた。

2016.09.05 更改
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新世界から Scene2 (1)

Stella/s月刊ステルラ10・11月合併号 投稿作品

Eri (エリ) 前編

 今日の客は気前が良かった。中年の、少し頭の薄い、小太りのその男は、相場の2倍以上を気前よく払ってくれた。それなりの節度も持ち合わせていたし、ある程度礼儀正しかった。あまり上手とは言えなかったが、エリにもちゃんと配慮してくれた。お金をもらっている以上、エリに文句の言える筋合いはなかったのだが、それでも一応の達成感は得ることができた。
 セックスを終えたエリは仰向けになって天井を見つめている。天井では髑髏模様のしみが、いつものように憂鬱なメロディーを口ずさんでいる。男はエリの横で俯せになって眠っている。規則正しく聞こえる寝息がそれを証明する。男は眠っているのだ。
 確信を得た彼女は顔を男の方に向け、男の首筋にそっと手を当てた。指先に心臓の鼓動が伝わってくる。彼女はそこがナイフでカットされる様子を思い浮かべた。入念に研磨された愛用の長いナイフを使って、昔よくやったように・・・。
 命乞いをする男共や女達の首筋、その頸動脈の上にナイフを当ててゆったりと微笑みながら、頭(かしら)の指示を待つ。動脈を流れる真っ赤な血液の脈動がナイフから伝わってくる。それはまだ生きていることを激しく主張している。頭の右手が上がった。一瞬のためらいもなくエリの右手が動く。小さく笛のような音が鳴って、血潮が吹き上がる。偉そうに頭の横に立っていたベントの顔が恐怖に歪む。ボウズが顔を背ける。臆病者、エリの口から嘲りの言葉が漏れた。
 エリは“血まみれエリ”と呼ばれていたが、どの位置に立ってどのようにカットすれば血しぶきを浴びないですむかを熟知していた。通り名の様に血まみれになったのは最初のうちだけだ。
 ナイフを一瞬で動かして首筋を切り裂く、この感覚が蘇るのは何年ぶりだろう。もう完全に忘れてしまったと思っていたのに・・・。ヒュッ・・・エリは口の中でそう音を発しながら右手の人差し指を横に動かした。
「なんだ・・・?」俯せになっていた男が寝ぼけた声を出した。
「ううん、何でも無い。良い子だから寝てなさい」そう言ってやると、疲れ果てた男はまた寝息を立て始めた。無防備な奴、エリは起き上がりベッドから出ると衣服を身につけた。そして男の寝息を聞きながら音を立てないように部屋を出た。廊下には誰も居ない。
 エリは階段を降りてホールに出た。ホールにも誰も居ない。いや、そんなはずはない。エリはカウンターを覗き込む。そして発見する。今の自分がもっとも大切に思う“物”を。
 それはカウンターの奥、外からは見えにくい位置につり下げられたハンモックの中に収まっていた。エリは横手のドアからカウンターに入ると、ハンモックに近づき中を覗き込んだ。憑かれたように妖気を発していた顔は一気に穏やかになる。長い間それを見つめてからエリは言葉を発した。
「フワリ?」
 その発音は、柔らかさや軽やかさを表すその言葉の本来の発音と同じだった。「フワリ?」エリはもう一度同じ発音で呼びかける。
 フワリの瞼がゆっくりと開いた。
「フワリ?」エリは三度同じ発音で呼びかける。
 フワリの藍色の瞳がエリを認めたようだ。微かに唇が動く。「エリ、もう部屋で寝てもかまわない?」
 エリは顔を左右に振った。「まだ駄目、お客がいるわ。だから少しの間話をしてもいい?」
「眠いよ」フワリは甘えた声を出した。
 これまでフワリがそんな声を出したことはなかったのでエリは少し驚いた。「少しだけ我慢して私の話を聞いて、お願いだから」強い調子で言い聞かせる。
「わかった」フワリは両手で目をこすりながら頷いた。
 ホールに誰もいないことをもう一度確認するとエリは話し始めた。「フワリは今日ベントから何を言われたの?詳しく聞かせて」
 フワリはエリの目を覗き込んだまま黙っていたが、やがて抑揚の無い話し方で答えた。「なるべく早く手術を受けてほしいと言われた」
「なるべく早くって、いつ?」
「それはオウとしての義務だ。オウは大きな義務を果たさなくてはならない、それもなるべく早く。それは運命なので逃げることはできない」フワリはまるで録音を再生するように話した。
「逃げたらどうなるって?」
「重い罰を受けることになる」
「それは殺されるってこと?」エリはたたみかけたが、フワリは否定しない。
「義務を果たせば大きな権力を与えられる」フワリは録音の再生を続ける。
「そんなもの・・・犬にでもくれてやれ」
「夢のような贅沢な暮らしができる」
「くそ食らえだ」エリの言葉は激しくなった。
「あたしはそんなものはいらない。でも来週の金曜日に迎えに来る」
「来週の金曜日」エリは頭の中で日を数えた。「十日後だ」なんとかなるだろうか。
「お腹をちょっと切るだけの簡単な手術だし、ベテランの医者だから安心していい、と言った」
「あの出まかせ野郎!」エリはほぞをかんだ。「フワリ、良く聞いて。私はあなたをベントに渡さないことに決めた。かまわない?」エリの頭脳は回転を速める。
 フワリは長い間じっとエリを見つめてから頷いた。
「明日からそのための準備を始める。どうするかはまた説明する。それまではどこへも行かないでここで待っていて。いい?」一気に説明するとエリはフワリの顔を覗きこむ。
 フワリは黙ったまま頷いた。
「ひとでなしめ」エリは悪態をついたが、自分がもっとひとでなしだったことはフワリの前では忘れてしまっていた。

 間もなく夜が明けようとしている。一寝入りした男は、目を覚ますと逃げるように引き揚げて行った。彼の首筋はまだ切り裂かれてはいなかったが、気になるのか首筋に手を当てながら部屋を出て行った。彼が目覚める前からエリがずっと出していた妖気が彼をそのような気持ちにさせたのだろう。
 ベッドに横になったまま男を見送ったエリはそのまま手を伸ばし、ベッド脇のテーブルの一番下の引き出しを開けて奥から何かを取り出した。そしてそれを手首の陰に隠し持ったまま、ユーティリティへ入って行った。狭いユーティリティには、シャワーと手洗い、便器、そしてビデが詰め込まれていたが、エリはそのうちのビデに腰掛けた。そして正面の壁にある鏡を覗きこんだ。
 そこに居るのは昨日の朝まで鏡の中に居た自分ではなかった。それはとっくの昔に失われてしまったと思っていた自分だった。ゆったりと微笑みながら頭(かしら)の指示を待つ、あの時の自分だ。「あいつのせいだ・・・」エリは手首の陰に隠し持っていた物を器用に持ち替えると斜めに動かした。シャワーカーテンが斜めに切り裂かれパックリと口を開ける。エリが隠し持っていたのはナイフだった。それは長い時間をかけて入念に研磨され、冷たい輝きを放っている。エリはそっと刃に指を当てて、チリチリとしたその感覚を確認する。そしてナイフを口元にやり、その刃にそっと舌を触れさせる。わずかでも動かせば血が流れるだろう。その冷たい感触を使って、エリは気持ちを元の位置へと押し戻そうとした。昨日、あの男たちがやってくる前の状態にまで・・・。
 エリは大きく長くため息をついた。

2015.10.08
2015.10.10 微妙な修正
2015.11.06 微妙な修正
2016.09.05 更改
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新世界から Scene2 (2)

Stella/s月刊ステルラ10・11月合併号 投稿作品

Eri(エリ) 後編

 エレベーターの無い古い建物の5階にその部屋はあった。エレベーターが無いのは逃走の時間を稼ぐために違いない、エリはそんなことを考えながら4階層分の階段を登った。大理石で装飾されたその階段は、かろうじて重厚な雰囲気を保っていたが、それももう限界のようだ。あらゆる部分が擦り切れ、歪み、くすんでいた。
 5階に辿りつくとインターホンを押して用件を告げ、深くかぶっていた帽子を取って監視カメラの洗礼を受ける。ややあってガチャリ・・・と鍵の開く音が重々しく響いた。ドアを開けるときに異様な質量を感じる。一見普通に見えるドアだが、中身は頑丈な鋼鉄製なのだろう。中はオフィスになっていて、応接セットの向こうに大きなデスク、その奥には天井にまで達する大きな窓、その向こうにはだだっ広い公園が拡がっている。この街では最も大きな公園だが、手入れがされていないせいで雑然とした雰囲気だ。大きなデスクではほっそりとした男が暇そうに爪を研いでいた。
「久しぶりね。グジ」エリは威圧するように声を出した。
「お久しぶりです。ねえさん」グジと呼ばれたほっそりした男が顔を上げた。右目の下には長い傷があって、そのせいで左右の目の大きさが異なっている。その大きさの異なる目からは微かな警戒の色が見て取れる。歳はエリよりも少し若いはずだが、本人の申告だから全く当てにはならない。実際、エリよりも年上に見える。
「電話で話したことはちゃんと伝わっているのかしら?」エリも油断なく男を見据えたまま続ける。エリはずっと苦労を共にしてきたこの男を信用している。だがそれは他人と比べてということだ。エリにとって、何事にも100パーセントはない。グジはテーブルをまわってソファーに腰掛けるとエリにもソファーを勧めた。
「ええ、ねえさん。ちゃんと伝わっていますよ。ですがね。ねえさんはいつも無理難題を吹っかける。それも相当手の込んだやつを・・・」エリが腰掛けるのを待ってグジは言った。少し顔をしかめたので右目はいっそう細くなり、鼻の上に皺が寄った。
「難しいの?」エリは感情を押し殺した声で質問を返す。
「おっしゃる条件だと、まずねえさんの分は無理です。ねえさんは顔が割れているし、顔を変えるにしてもご要望の期限には間に合わない。つまらない変装じゃ、全てがぶちこわしになる。あいつらは人物を見分けるプロですからね。その点は保証しますよ」
「じゃぁ、仕事は受けられないということ?だったら・・・」(こんなところまで呼び出すな!)エリは抗議の声をあげた。
 グジは右手でそれを制すと、諭すように言った。「ブツを誰にもばれないように精巧に作る。しかも締め切りが異様に短い。行き先の指定もある。これだけのことでも、これがどれだけ面倒な、そして大変なことなのかわかるでしょう?」グジは薄笑いを浮かべた。
「私が無理なら子供だけでもいい。金なら出すわ、いくらになるの?」
 グジは目安となる金額を言った。「これから増えることはあっても減る事はありません。そして最終的に申し上げる金額からびた一文まかりません。それでご不満なら他所へいってください。引き受けるところがあればのことですがね」グジは薄笑いを浮かべたまま言った。
「ひとでなしめ」エリはこのところ悪態ばかりついている。
 エリの一言を受けてグジは薄笑いを収めた。「ただし1人分じゃありません。2人分です。ねえさんの依頼、親方は受けないとは言ってません。ただ条件的に要望に応じられない部分もあるし、困難な作業のコストに見合う報酬を求めているだけです。極めて妥当な値段だと思いますよ?ねえさん」
「どういうこと?」エリは質問した。
「子供1人での移動に際しては、もちろん正規のサービスを利用しますが、万が一を考えて、乗務員のサポートが得られるよう手をまわします。もちろんそれも込みになっています」
「むう・・・」エリは言葉を飲み込んだ。
「それに」グジはエリの顔を覗きこんだ。「子供を移動させるだけでは、残ったねえさんの立場が非常にやばくなりますよね?」
「わかってる!だから一緒に・・・」
「それは先ほど言った理由で不可能です」グジは言葉を被せる。
「何かいい提案は有るの?」エリはたたみかける。
「ねえさんを安全な場所に匿い、顔を変え、あらためて出国させます。海外に出てしまえば奴らの影響力は非常に限定的な物になりますし、万が一追手がかかっても“血まみれエリ”はもう見つからない」
「それはそうだけど、でも顔を変えるとなると大事ね」
「そうです。 大事になります。あらかじめ言っておきますが、ねえさんには全くの別人になってもらいます。顔も名前も国籍もこちらで選定した人物になりますから、子供と同じ国に行ける可能性は低いと思います。もう会えることは無いかもしれません。もっとも、会っても誰だか分からないでしょうけれど。先ほど言った料金はそこまでを含んだ物だということをお分かりいただけますか?」
 エリは黙り込んだ。グジもそのままの姿勢で黙って待っている。
 エリはグジに向けた顔を笑顔に変えた。「そんなに整形外科にツテがあるんだったら、フワリからチップを取り出せるんじゃないかしら?」エリは柔らかいその本来の発音で実名をあげた。
「それについては考慮に入れて、色々と調べてみましたが・・・」グジは努めて冷静な様子で言った。「まずはっきりしていることは、ベント達にはフワリを生かしておくつもりは全く無いと言うことです」彼は“フワリ”を硬い音で発音した。「フワリはガウガの娘です。つまり、彼らはこの先ガウガの影響力を残すつもりは全く無いんです。だから、我々が高度な医療設備をもった病院と腕の良い医者を紹介することができても、彼等にとってそれは全く余計なお世話だ、ということです。つまり、彼等はフワリの体内に埋め込まれたチップを必要としていますが、フワリには全く興味が無いんです。それどころか彼等にとってフワリは邪魔な存在です。簡単に言えば消えてほしいんです」
「酷い奴らだ。ま、他人の事は言えないんだけど・・・」
「そしてねえさんも同じだと考えている」
「私はそんなふうには考えてない」
「でもねえさんはパミガーラの“血まみれエリ”だ。当然、そう考えていると奴らは思っている」
「そうでないと生き残れなかっただけだ。私は変わったのよ」
「誰もそのことに気が付いていない。そこが彼らの唯一の、そして致命的な誤算です。それにフワリの検査結果を調べてみましたが、チップは取り出すのがかなり難しい位置に納まっています。成長に伴って微妙な位置に入り込んだんでしょうが、取り出すには全身麻酔を含め、かなり高度な医療設備と技術が必要です。そんな設備と技術を持った医療機関は国と繋がっていてとても接触できません。危険すぎます。チップ自体は命にかかわることはありませんから、そのまま放って置くのが懸命です。いかがですか?我々の提案に従う以外、手がないと思いますが・・・」
 エリはまた黙り込んだ。グジもそのままの姿勢で黙って待っている。

 エリは無意識に右手首の陰に隠し持ったナイフを想像する。それは長い時間をかけて入念に研磨され、冷たい輝きを放っている。右手をあげて自分の首筋にナイフを当てる。わずかでも動かせば血が吹き出すだろう。暫くためらってからエリはナイフを滑らせた。小さく笛のような音が鳴った気がした。

 やがてエリは静かに喋りはじめた。「覚悟はしていたつもりだったんだけど。思っていたよりずっときつかった」エリは唇を噛む。「ショックね。でもフワリに道があるなら、先に進ませるべきかな」
「ねえさん」グジは呆れたような顔で言った。
 さらに長い時間を沈黙が支配した。エリは軽く曲げた右手の人差し指を唇に当て、俯き加減で再び黙り込んだ。両目は薄く開いていたが、それは現実世界を見ているのではなかった。視線は遙かな未来や遙かな過去、あるいはどちらにも属さない非現実の世界を彷徨い、それらの世界を行き来した。
「分かった。その条件を受け入れる。フワリの人生を終わらせるわけにはいかないもの」エリは顔を上げた。


2015.11.06
2015.11.13微調整
2016.09.04微調整
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新世界から Scene3・Habitat

Habitat

 眼下は一面の雲だった。
 性質の異なる空気の境界面がそこにあるのだろう。
 柔らかそうで優しげなその境界は、真下は真っ白、地平線に近づくにつれて灰色味を増しながら、目視できる範囲の彼方まで拡がっている。
 その遙か下は海面のはずだが、雲は隙間無く広がっていて見えることは無い。

 42式高速偵察機は、その高速に特化されたスマートなシルエットを雲の表面に投影しながら、巡航速度で飛行を続けている。
 涙滴型のナセルに覆われた2機の二重星形エンジンは軽快な音を響かせて自らが順調であることを示唆し、それと同時に最高出力までの余裕を感じさせている。
 すべては順調だ。
 ズイキは進行方向に向けていた目を、一瞬オドメーターとプレッシャーゲージにやってから、再び進行方向に戻した。

 終戦協定は二ヶ月前に締結され、長く続いた大戦はようやく終結を迎えた。
 戦勝国となったイルマは、自国周辺での支配を確定的にするため、西域での軍の撤収を優先的に進めようとしていた。西域の軍備を解いて東域に再配備することによって、軍備の集約と軍事費の削減を図ったのだ。戦勝国同士の諍いで本国の国境線にきな臭い煙が上がり始め、遠く離れた地域に軍備を裂いている余裕は無くなっていた。
 そんな状況の中でズイキに与えられた任務は、この機体を西域の最前線基地から同盟国にある拠点基地まで撤収させることだった。
 この高速偵察機は名前の通り他に類を見ないほど高速で、敵機はおろか友軍の戦闘機でもこれに追いつける機体は存在しない。航続距離も充分で、機体やエンジンも非常に安定している。普通に考えればたやすい任務と言えるだろう。
 だがそれはすべてが順調に推移した場合のことだ。トラブルの発生や、未知の敵の存在は完全には否定できない。まだ世界は終戦の混乱の中にあるのだ。
 西域戦線でのエース級パイロットであったズイキがこの回航の任務に選ばれたのは、司令部がこの最新鋭の機体を失いたくないという思いでいることを物語っていた。

 ズイキの目が左側を向いたまま固定された。
 遠方の雲の中に何かを見つけたのだ。
 ぼんやりと現れた黒い影は徐々に大きくなり、形もはっきりし始めた。
『戦闘機か?』ズイキはスロットルを少し引いて機速を上げた。
 やがてそれは雲の中から姿を現した。やはり戦闘機だ。機体後部にプロペラを持つ単発機でライトブルーに塗装されている。見たことのない機種だったが、敵機に分類されるマークを付けている。識別信号は発していない。
 並行に飛行していて、今のところ敵意は無さそうだ。
 ズイキはフルスロットルに入れた。
 振り切れると予想していたのだが、相手も速度を上げ2機の間隔は徐々に詰まってくる。
『付いてこれるのか?』ズイキは諦めて巡航速度まで速度を落とした。いくら航続距離に余裕があるとはいえ、出来れば余計な燃料は使いたくなかったし、いまだに対象に攻撃の意図は感じられなかったからだ。
 機体はいよいよ接近し、パイロットの姿が見えるようになった。
 パイロットは顔の横に手を上げ、指で形を作った。無線機の出力を最低にしろと言っているようだ。
 ズイキは了解の合図を送って、出力を最低にして無線機のスイッチを入れた。
 ザ・・・ノイズに混じって声が入ってくる。
「ファーキンだな?」女の声だ。
「何故わかる?」ズイキは自分のコードネームを呼ばれて驚いた。
「お前たちの暗号を解読するのにそんなに時間は必要ない。それに戦勝に浮かれて弛んでいるからな。行動はすべて筒抜けだ」
 ズイキの顔は苦笑いになった。確かに軍規は緩んでいるように感じていたのだ。
 機体は更に接近する。そしてお互いの主翼に僅か30センチほどの隙間を空けただけの編隊飛行になった。巡航速度でこの間隔を保ったままの飛行を続けられるテクニックは、このパイロットがただ者ではないことを示している。
「オッドアイか?」ズイキは確信を持って訊く。西域戦線での敵側エースパイロットのコードネームだ。
「ふふ・・・何故わかる?」相手は同じ言葉で返してくる。
「どうしてだろう?」ズイキは自分に問いかけるように答えた。
「もう乗らないのか?」オッドアイが突然訊いてきた。
「戦闘機にか?」
「そうだ。その機体は速いが、自由には飛べない」
「戦争は終わった。潮時だろう?」
「飛びたいとは思わないのか?」
「飛びたいとは思うが、人殺しはもう止めようと思う」
「人には3つ必要なものがある。なんだかわかるか?」オッドアイは唐突に話を変えた。
「さあね・・・」
「居場所と役割そして死に場所だ・・・」
「なんだそれ」ズイキは苦笑を漏らした。
「お前はこの戦争で居場所と役割を得ていた」
 確かにそうだった。ズイキは空軍に居場所を得、エースパイロットとしての役割を担った。
「後は死に場所を探していればそれでよかったのだ」
 そうだったのかもしれない。ズイキは思った。
「だが戦争が終わった今、お前はすべてを失った・・・」
「オッドアイ、それはお互い様じゃないのか?」ズイキが問いかける。
「そうだな。だが私にとってはまだ戦争は終わっていなかった。だから私は今日ここでお前と一戦交えるつもりだった。そうすればここがどちらかの死に場所になる」
「勘弁願いたいな」
「心配するな。お前がその機体を操縦していた時点で作戦は放棄された。そして私もすべてを失ったのだ」
「お互いにその3つの必要なものとやらを探さなければならなくなったというわけか?」
「そうだ、だが私はまだ自由に飛ぶことをあきらめたわけではない。そしてファーキン、お前と戦うことも・・・」
「そう思うことは勝手だが、アタシはアタシのやり方でやる。自由に飛べなくても良い、人殺しはもうごめんだ」
「そうかな?」オッドアイはそう言葉を発した瞬間、機体をロールさせて反転し、背面飛行でコックピットを対面させた。惚れ惚れする動きだった。まるで妖精みたいに・・・。
 真上、1メートル程の距離を置いてキャノピー越しにオッドアイの顔がある。
 彼女はバイザーを上げた。バイザーの下からは、サファイアのような青い左目と、ルビーのような真紅の右目が現れた。雪のように白い顔には、まだ少女のようなあどけなさが残っている。僅かに覗いた髪はパールホワイトだ。
『本当にオッドアイなんだ』ズイキはイメージと全く異なる顔に一瞬たじろいだ。高度が下がりオッドアイの顔が遠ざかる。
「顔を見せろ」オッドアイが要求する。
 ファーキンもバイザーをあげて機体の間隔を戻す。
 暫くの間対面飛行が続く。
「その顔は永遠に忘れないぞ」オッドアイは背面のまま機体を上昇させると大きくロールさせ、そのままズイキの側方をダイブした。
「また会おう」
 たちまち機体は雲の中に消えた。


2019.02.12

追記と解説へ続く(読んでね!)
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