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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

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offkai.png【オリキャラのオフ会】参加作品です。

 敷香(シスカ)は息を詰めて水面を見つめていた。
 薄い半紙で出来たおみくじは表面張力でようやく水面に浮いている。そのかろうじて船の役割を果たしているおみくじの上には百円玉が乗せられていて、自らの重みによって少しずつおみくじを水中に沈めようとしている。おみくじの船は微かな風の動きによってゆっくりとこちらに近づいてくる。少しずつ周りから水が入り始めた。侵入した水はついに百円玉に達し、それと同時におみくじを水中へ引き込んだ。
「3分28秒」クロノグラフを見つめていた敦子が声を上げた。敦子の浮かせたおみくじは徐々に遠ざかろうとしている。
「早いね!しかもすぐ手前じゃない。身近にいるってことかしら?」紗枝は自分のおみくじを見つめながら言った。紗枝のおみくじに乗せられた百円玉はかなり沈み込んでいる。
「でも、意外!敷香が一番だなんて」洋子がコメントを入れる。洋子のおみくじにはほとんど動きが無い。
「ほっといてくれ!こんなのただの偶然だよ」敷香は唇を尖らせた。

 *

 怜子はゆっくりと2回礼をした。そして柏手を打つ。平日ということもあるのだろうか、珍しいことに観光客の姿も無く、静かな境内に柏手の音だけが響く。手を合わせたままもう一度礼をして、頭の中で願い事をとなえる。静かに礼を終えると怜子は社務所で薄い半紙のおみくじを買った。
 本殿から裏手に抜けて暫く小道を進むと森の中に小さな祠がある。その祠の傍には「鏡の池」と呼ばれる神池がある。「鏡の池」は稲田姫命が、スサノオノミコトに勧められ、この社でヤマタノオロチから身を隠している間、鏡代わりに姿を映したと伝えられるもので、良縁占いで有名だ。
 占いの方法は簡単だ。社務所で売られている薄い半紙の中央に、小銭を乗せて池に浮かべると、お告げの文字が浮かびあがり、やがて池の中へ沈んでゆく。沈むまでに紙が遠くの方へ流れていけば、遠くの人と縁があり、早く沈めば、早く縁づくといわれる。
 怜子が森の中を進んでいくと、しめ縄が渡されたその池の淵には4人の女性が佇んでいた。池の淵に近づこうとした怜子は、ドキリとして一瞬立ち止まった。立っている3人のうちの1人の女性の髪が真っ白だったからだ。日が差し込んでくるとその白に近いプラチナブロンドの髪はキラキラと輝いた・・・それは実に華麗な、そして不思議な光景だった。4人の女性は一緒に旅行している仲間らしく、立っている3人は会話を交わしている。髪の白い女性は外国人かと思っていたが日本語で喋っている。1人だけしゃがんでいる女性は、水面をじっと見つめていて、池には半紙のおみくじが1つだけ孤独に漂っている。怜子は立っている3人の分はすでに沈み、しゃがんでいる彼女の分が沈むのを待っているのだと推測した。そして心を落ち着かせると何事もなかったかのように池の淵にしゃがみこんだ。
 怜子は自分の半紙のおみくじに、ポケットから出した百円玉を乗せて水面にそっと浮かべた。チラリと腕の時計を見る。半紙に文字が浮かび上がる。それは怜子にとって嬉しい予言だった。それに“吉”とある。しゃがんでいる女性がチラリと視線を向けてきた。彼女のおみくじはまだ浮かんだままだ。
 怜子は息を詰めて水面を見つめた。表面張力でようやく水面に浮いている薄い半紙のおみくじは、ゆっくりとこちらに近づいてくる。少しずつ周りから水が入り始める。そしてゆっくりと回転を始めると水をまきこみながら優雅に沈んでいった。時間にして2分弱といったところだろうか。祈るように両手を組み合わせていた怜子はホッと溜息を洩らした。
 隣にしゃがんでいた女性のおみくじはまだそのまま水面を漂っている。怜子はそっとその場を離れた。

 怜子は鳥居をくぐって道路に出るとバス停に向かった。停留所のポストは鳥居から少し離れた広場の隅に立っている。怜子はバス停のポストの下に付いている時刻表を覗き込む。「あれ?」時刻を確認しながら怜子は思わず気落ちした声を出した。次のバスまで30分以上時間があったのだ。さっき出たばかりのようだ。「まぁいいよね」怜子は傍の待合室のベンチに腰掛けようと向きを変えた。
 その時エンジンの音がして一台のステーションワゴンが停車した。助手席の窓が開いてさっき池の淵でしゃがんでいた女性が顔を覗かせた。利発そうな目が印象的だ。
「どちらまで行かれるんですか?」にこやかに声をかけてくる。
「え?」怜子は意味を計りかねて答えに窮した。
「松江の街中までなら送っていきますよ。よかったら乗っていませんか?」
「でも・・・」
「あ、怪しい物じゃないです。私達女ばかり4人で北海道から来たんです。のんびりとした旅行だから遠慮はいりませんから」
 こうにこやかに誘われると怜子は断る理由を思いつけなくなった。そして「本当にいいんですか?それじゃぁ、お言葉に甘えちゃおうかな」と遠慮気味に言った。
「どうそ!遠慮しないで・・・って、私の車じゃないんだけどね」と片目をつぶる。怜子は吹き出してしまった。
「じゃぁ、ここに乗ってください。私は後ろで3人で座るから」
「あ、そんな・・・」
「いいからいいから」彼女はさっさと車を降りると後部座席に座った。
「すみません」開いたままになったドアから車に乗り込むとドライバーズシートではさっきのプラチナの髪の女性がハンドルを握っていた。「どうぞ、遠慮しないで」つっけんどんだが温かみのある喋り方だ。そして目を合わせて驚いた。『オッドアイなんだ』彼女の瞳は左が明るいブルー、そして右が焦げ茶だった。
 真後ろの席に移った彼女を中心に会話を交わすうちに、和菓子職人をしている彼の家まで送ってもらうことになった。彼女は話の誘導が上手で、いつの間にかそういう話になってしまったのだ。プラチナの髪の女性は怜子が告げた住所をカーナビに手早く入力すると車を発進させた。
「あ、そうそう自己紹介がまだだったわね」後ろの席に移った彼女がシート越しに話しかけてくる。「横でハンドルを握っているのが敷香」敷香は運転しながら軽く頭を下げた。短めのプラチナのボブが揺れる。「変わった名前でしょ?でも気にしないで。後ろの真ん中が紗枝」
「こんにちは」紗枝が笑顔で挨拶をする。長い髪と切れ長の目に大きな瞳が素敵だ。
「そして窓側が敦子」
「敦子です。よろしくね」顔つきからの想像どおりの可愛い声だ。
「そして私が洋子」洋子は簡単にメンバーの紹介を終えた。
「私は怜子といいます。大学生です」怜子は振り返って頭を下げた。
「皆さんは北海道からこの自動車で?」怜子は質問した。
「そう」洋子が答える。
「ずっと走って来たんですか?」
「まさか!小樽から敦賀まではフェリーで、そこからは京都経由で日本海沿いをドライブしてきたの。敷香がいくらでも運転できるから私たちは楽チン。彼女、ヘリコプターのパイロットなの。だから運転が好きなのね」
「へえ!」怜子は驚いて隣を見た。敷香は関心の無い様子で前方を見つめている。
「あ、ついでだから紹介してしまうね。敦子は船のオペレーター、紗枝はレストランをやってる。そして私はしがない国家公務員」
「バラバラですね」
「そう、でも何となく友達としてまとまっているの。不思議でしょう?」
「女子会旅行みたいな感じですか?」
「そうね。この旅行は私達4人が係っていた大きなプロジェクトの打ち上げなの。何とか無事に終わったから羽を伸ばそうってわけ」洋子が答える。
「まずは出雲大社だと思ったんだけど、八重垣神社の恋占いの噂を聞いて、先にこっちへやって来たのよ」紗枝が言葉を繋げた。
「でも地元のあなたがわざわざ八重垣神社に詣でていたのはやっぱり恋占い?」敦子が興味津々で聞いてくる。
「ええ、まぁ」怜子は言葉を濁して話題を振った。「洋子さんのおみくじは上手く沈みましたか?」
「やっぱり見てた?」洋子が答えるまでに一瞬の間があった。
「敷香のおみくじが一番早くて3分28秒。次が紗枝で4分54秒。私が7分16秒。そして洋子は・・・」敦子は言葉を止めた。洋子が睨んでいたのだ。
「実はね、あなたがやって来たとき私たちはもう1時間以上あそこで待っていたのよ」紗枝が言葉を続けた。
「1時間以上!ですか?」
「悪かったわね。だから最後は指でチョイっと・・・」洋子が言った。
「え!突っついたんですか?」怜子は呆れた声を出した。
「いくらのんびり旅行でも限度があるわ。感謝なさい。あんなところで暗くなるまで待ってられないでしょ。ええ!そうなの。私は一生結婚なんてしないのよ」洋子は開き直ってしまった。

 *

 敷香はあらかじめセットされていた玉造温泉をカーナビに呼び出すとガイドを開始した。
「どうもありがとうございました」「またぜひいらしてください。次は町を案内しますよ」車の外で怜子と怜子の恋人と思われるルドヴィコが頭を下げている。怜子はあくまでアルバイト先の同僚として紹介したが、2人はどう見ても恋仲だ。『気づいていないのは怜子だけじゃないのか?』鈍い敷香ですらそう感じていた。
「こちらこそご馳走様でした。怜子、今度は2人で北海道にいらっしゃい。案内するわ」洋子が助手席で、後ろの座席では紗枝と敦子が頭を下げている。
「じゃ、出すよ」敷香は車を発進させた。
 リアウインドウには見えなくなるまで並んで頭を下げている2人の姿があった。
「松江で和菓子職人のスイス人に合うとは思わなかったね」洋子が言った。
「それがまた日本人より日本的で、すごく素敵だった。怜子とお似合いだわ」紗枝が答える。
「だって、怜子のおみくじ、あっという間に沈んだじゃない。しかも怜子の目の前で」敦子が付け加える。
「ええ、ええ、どうせ私のは沈みませんでしたよ」また洋子が拗ねてしまった。

 敷香は鮮やかなハンドルさばきで車を進めていく。だが広い道路に出てから徐々に車速が落ち、やがて信号待ちの列に取り込まれてしまった。松江の町は夕方のラッシュにかかり始めたようだ。さっきまで騒いでいた3人もウトウトしているようで静かになった。さすがに旅の疲れが出始めたかな。敷香はそんなことを思いながらふと視線を右に向けた。
 敷香の運転するレヴォーグの右側は右折車線でシルバーのベンツが並んで止まっている。運転席には濃いグレーのスーツをきっちりと着込んだ運転手が、生真面目な視線を前方に向けている。ベンツが僅かに車間を詰めたので後部座席が真横に並んだ。
 何気なく視線を右に向けていた敷香は目を疑った。後部座席には真珠色の長い髪の女性が優雅に座っていたのだ。向こうも驚いたのかこちらを見て、目を見開いた。なんとオッドアイだ。左側はサファイアの青、右目はルビーの深紅。敷香も多分大きく目を見開いたのだろう。2人は暫くの間見つめ合うことになった。
 信じられないことだった。自分と同じ白い髪とオッドアイを持つ女性に日本で、しかも一地方都市である松江で出会うなどということがあり得るのだろうか。しばらく見つめ合うと、女性は微かに不敵な笑みを浮かべてから視線を外し、向こう側に座っている金髪の大柄な男性の方へ顔を向けた。
 オートクルーズが前車の発進を告げた。敷香は慌てて視線を前方へ戻し、アクセルをそっと踏んだ。レヴォーグは車速を上げた。

つづく、のか?

2015.03.21
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

【オリキャラのオフ会】参加作品発表です。

うわっ!大変です。彩洋さんの作品がUPされて焦らざるを得なくなりました。 offkai.png

【学院七不思議シリーズ】番外編・松江ループ(1)始まりは露天風呂~学院の8つ目の謎と闘え!~

実は、夕さんの松江オフ会の企画作品、書き上がっていたのです。
で、後はゆっくり“先”に校正と推敲をしてもらおうと思っていたのですが、彩洋さんの作品ではどうやら敷香(シスカ)に何らかのアクセスがありそうです。その部分を彩洋さんが発表されると、今書き上がっている作品との整合性が心配になってきたのです。書き上がっていなければ、楽しみにお待ちすれば良いのですが、もう書き上がっていますので上手く繋がらなければちょっと困りますよね。同じ時間の中を動いているのですから。それにお話しを展開できる名所も限りがありますし・・・。
で、“先”に至急で校正と推敲を要請しました。文句を言いながらも事情を理解して、ちゃちゃっと見てくれました。「もっとゆっくり読みたかったな」と言われましたがやむを得ません。
というわけで、scribo ergo sumの八少女夕さん企画の【オリキャラのオフ会】、『島根県松江にて』、への参加作品発表です。
よろしければ下のリンクからお進みください。

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