Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

物書きエスの気まぐれプロット 炉心融解  2/2

 ふう~ん。やっぱりまた“サルベージ”なんだ。でもいったい何のことなんだろう?さっぱり意味不明……だよね。わたしはモニターを覗き込みながら小首を傾げた。
 でも去年と同じに活動中断を予告しておくなんてやっぱり律儀だね。そしてまたボーカロイドだし、懲りない奴だね。
 ん?でも去年と同じということはそろそろ……。
カチャリ、玄関の鍵を開ける音がしてドアが開く気配。
 うわっ!もうエスの部屋へは戻れない。廊下は玄関から丸見えだ。ドアを閉めるのも忘れた気がする。
 ええい!ままよ!エスの小さな机から食卓へジャンプ、そこからソファーの肘掛けへ飛び移ってちょこんと腰掛ける。そして気配を消して聞き耳だけを立てる。

「ただいま~」エスの声だ。“サルベージ”から戻ってきたんだ。
「あれ?僕の部屋が開いてる。ちゃんと閉めておいてよ」
「そお?ちゃんと閉めたはずだけど」ケイの声だ。
「きちんと閉まってなかったんじゃないのか?」ダイスケの声だ。
「そうかもね」エスの声とカチンとドアを閉める音。
「やっぱり家は落ち着くね」エスの元気な声が近づいてきた。
 どうか不審に思われませんように……。

04 Dec
こんばんは!エスです。
 今日午後にサルベージから帰ってきました。
 今回は自分では予定していなかった再度のチャレンジでしたので去年以上に不安な気持ちでしたが、なんとか無事に終了です。
 11月25日の記事は不安な気持ちをすこしでも整理しておきたくなったという事もありましたし、やっぱり何日も留守にするので一応書いておこうかなということでUPしました。
 ご心配をいただいた方にはお詫びを申し上げます。お陰様で無事に戻ってきています。長編の更新やイベント作品のUPも再開しますが、用意が出来るまでしばしお待ちください。皆さんのブログ訪問も再開です。読みたい作品がたまっています。マイペースで訪問させていただきますので、よろしくお願いします。
 お詫びの印と言っては何ですが、サルベージの合間を縫ってラージエスとその連れ合いが紅葉狩りに行ってきましたので、その写真を載せておきます。ラージエスと僕の関係、このブログを見ていただいている方にはもう分ってますよね?
 心配ばかりしていないで気分転換しておいでよ……と僕が勧めたのですが、平等院・興聖寺・宇治神社・宇治上神社・三室戸寺と回ってきたようです。紅葉の宇治はずいぶん綺麗だったみたいです。
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鳳凰堂
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興聖寺(琴坂)
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宇治市源氏物語ミュージアム
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三室戸寺
2人は今年の紅葉はもう満腹だと言ってました。天候も良かったみたいで、僕が計画したことはサルベージも含めてみんな上手くいったようです。
 でも、不思議なことがありました。大事にしているミクのぬいぐるみ(また写真をUPしておきます)、出かける時はベッドに置いておいたはずなのにリビングのソファーに座っていたんですよ。
 ラージエスの連れ合いさん(呼び方を考えなくちゃ)は「ベッドをかたづけた時にこっちへ持ってきたかも」なんて頼りないことを言っているし……
ミクぬいぐるみ2


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---52---


 *

 ルラが見上げてくる。
 目は完全に『嫌だ』と言っているのだが声には出さず黙っている。
「じゃぁ、行くぞ」カズィムがシスカに声をかける。
「お世話になりました」シスカはニナに礼を言った。
「そんなふうに言われると、困ってしまうんだけれどもね……」ニナは少し困った顔になって笑った。
「そうかもしれませんが僕の偽らざる気持ちです。本当にお世話になりました」シスカはもう一度ニナに礼を言って頭を下げてから、腰につかまって見上げてくるルラに向かって『じゃ、ルラ、行くよ。ありがとう。元気で』と覚えたばかりの単語を並べた。
 ルラはしっかりとシスカの体につかまっているだけで何も言わない。
 らちが明かないので、シスカは体をカズィムの方に向けようと捻った。ルラは振り放されるような形になってシスカから離れると、ニナの後ろに飛び込み隠れてしまった。
 シスカは涙腺に弛みを感じながら振り向き、2人にバイバイと手を振った。
「シスカ!×××××××××?」ニナの後ろでルラが叫ぶ。
 シスカにはそれが“また来てくれるよね?”という意味であることは理解できた。横に立っていたカズィムが「また来てほしい、と言ってるんだ」と通訳してくれた。そして「わかった、××××××と言ってやってくれないか」と小さな声で付け加えた。
 シスカは言われた通りの発音でルラに応えた。
 ルラはニナの後ろに隠れたままだったが、ほんの少しだけ顔を覗かせた。片方だけ覗いている目は涙に濡れている。
 シスカはカズィムの後について外に出ると大きな4輪駆動車に乗り込んだ。ルラとニナはドアの外まで出てきたが、ルラはまだニナの後ろに隠れたままだ。
 シスカは助手席の窓を開けると2人に向かって『ありがとう、元気でね』と声をかけた。
 ニナはにこやかに手を振っていたが、ルラはニナの後ろを飛び出し『シスカ!また来てくれるよね?』と繰り返した。
 シスカもまた『わかった』と繰り返し、手を振った。
「出すぞ」カズィムは車をスタートさせた。2人の姿とシスカが二月程を過ごした小屋はみるみる小さくなった。シスカは2人が完全に視界の彼方に消えてからようやく窓を閉じた。
「帰ってもいいという神様の許可が下りたと言うことかな」シスカは皮肉を込めて言う。
「そういうことだろう。神のみぞ知るだから俺にはわからんが」カズィムは皮肉に応えて言った。
 シスカはそのまま風景を眺めている。
「早速だが、嫌な要求をしなければならない」カズィムは前を向いたままシスカに小さな紙袋を渡した。
「睡眠剤?」中を覗いたシスカが尋ねる。
「ここを君に知られるわけにはいかないからな。飲んでくれ。常習性は無い」
「僕をどうやって元の世界に戻すんだ?それくらい答えてくれてもいいだろう?」シスカは袋を持ったまま訊いた。
「君は荷物として長距離を移動する。そしてある安全な場所に付いたらそこに放置される。だが心配しなくていい。そこは安全な場所だしGPS発信機をその時点で有効にするから、そう待たされずに救出にやってくるものが現れるはずだ。その発信機を仕掛けた奴がな」
「僕には発信機が付いているのか?どこに?」
「巧妙に仕掛けてあった。その作業用ブーツは履き替えないようにしたほうがいい」カズィムは皮肉っぽく言った。
「ここに?確かに仕事中は絶対にこれを履くし、他に靴は持ってきていない」シスカはしげしげとブーツを眺めた。
「もういいだろ」
「もう一つ、教えてほしい。僕が解放されるということは目的が達成されたということか?」シスカはルラの手前、質問できなかったことを聞いた。
「む……」カズィムは唸ったがやがて続けた。「そう思ってもらってもいい」
「目的はなんだったんだ?」
「…………」カズィムの返答は無い。
「じゃ、ラサ・タカジュナはカズィム達とどういう関係なんだ?」
「答えられない。忘れることだ」カズィムは冷たく答え「早く飲んでくれ。抵抗するなら注射器を使うことになる。手荒なことはしたくない」と言った。
 カズィムはカバンからペットボトルを取り出しシスカに向けて放った。
『わかった』シスカはわざわざベクル語で返答し、袋の薬を口に放り込んで水と一緒に飲み込んだ。
 かなりガタが来た4輪駆動車は、サスペンションの軋む音を立てながら、凍りついた荒野を走っていく。シスカは暫くの間車の揺れに身を任せていたが、やがて深い眠りに落ちて行った。
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シスカ52話をUPします。

暫くぶりにシスカが進みます。
52話まで来てしまいましたね。あと少しで完結ですが、まだエピローグが書き上がってないので少しずつ発表をずらせていくかもしれません。
書き上がったら一気にUPしてしまいますけど、いまはイベント作品もありますし、作品を書くスピードも落としていますのでどうなることやら。
自分の勝手で申し訳ないのですが、無理はしないように、そしてのんびりとしすぎないように書いていこうと思っています。ご了承ください。

さて今回はカズィム一家の登場です。
ルラにとって辛いものになってしまったのかもしれませんが、それはそれでいい体験になったでしょう。ルラはシスカに出会えてラッキーだったと思います。
サキも会いたいですもの。

よろしければ下のリンクからどうぞ。

シスカ52話
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絵夢の素敵な日常(初めての音)Porto Expresso2

scriviamo! この作品はscriviamo! 2015の参加作品です。

 最高の秋晴れだ。幸先がいい。

 アパートを出て暫く通りを行って買い物を済ませる。まずばあちゃんの頼まれ物を買っておかないと……この店の物でないと美味しくないってうるさいんだ。そんなに味が違うのかな?僕は買い物を袋に入れて肩にかけ、のんびりとアリアドスへ出てから坂を下る。たくさんの車が市役所前広場を通って、サン・ベント駅の方へと曲がっていき、僕も同じ方向へと歩いて行く。
 リベルダーデ広場にはいくつものカフェの椅子とテーブルがでていて、観光客たちが眩しい陽光を楽しんでいる。
「ジョゼ!」通りの向こうから声がかかった。車の切れ目を縫ってこちら側へと道路を渡ってくるのは友達のエジーニョだ。でも女の子と一緒だ。
 カミラ!僕は彼が連れている女の子を見て驚いた。エジーニョはカミラと付き合ってたんだ。カミラは栗色の長い髪と瑠璃色の目の素敵な女の子で、クラスではマドンナ的存在なんだ。
「よぉ。どこ行くんだよ」エジーニョは少し自慢げだ。
「やぁ、ちょっとばあちゃんの所へね」僕は袋の中身をチラリと見せた。
 エジーニョは『ああ』と納得の顔になったが、カミラは同じように覗き込んでから『これがどうしたの?』という顔をした。
「ジョゼのばあちゃんの好物なんだ。特にこの店のがね」エジーニョがカミラに説明する。やつは僕の幼馴染みだから何でも良く知っているんだ。
 当然のことながら僕もやつの幼馴染みなんだけど、やつがカミラとデートに出かけられる仲だなんて、全然知らなかった。だから驚いたんだ。
「お前こそなにやってるんだよ」僕は少し冷やかし気味に聞こえるように訊いてみた。
「俺か?見ての通りだよ」エジーニョはカミラの肩を軽く抱き寄せた。
「いやだぁ。何言ってるのよ!」カミラもまんざらではなさそうだ。
「じゃ、もう時間がないから行くよ。楽しくやってくれ」僕は顔が赤くなっているのを見られないように背中を向け、片手を挙げて挨拶をすると歩き始めた。
 エジーニョは根は良いやつなんだけど、小さい頃から女の子の扱いが下手で、気になる子が居るとちょっかいを出して泣かせてしまうということを繰り返していた。だからカミラが楽しそうに一緒に居たのに驚いたんだ。
 僕の場合は気になる子が居てもそっと見ているだけの事が多い。だから、やつの積極的な行動はとても信じられなかった。大勢の仲間と一緒に友達として付き合うのは楽しかったけれど、1対1で面と向かってはちょっとね。そんなふうに考えていた。ま、恋愛が絡むと面倒くさいし、もともとあんまり興味なんてないからね。僕は少し歩調を早くして通りを進んでいく。
 通りの向こうには、赤や黄色の観光客用の二階建てバスが出発時間になるのを待っている。白い市庁舎、ドン・ペドロ四世の銅像。秋晴れの青い空はずいぶん高くなったけれどまだまだ日差しは強くて、少し歩いただけでもう汗ばんでくる。

 僕は歩きながらずっとデジャビュだと思っていた。
 でもこれはデジャビュじゃない。あの時も今と同じだった。そう言えば季節も天気も同じような感じだし、歩いている道も同じだ。途中で寄りたいところは違うんだけど、ばあちゃんの所に向かっているのも同じだったんだ。
 あの時、まだ小学生だった僕はばあちゃんの頼まれ物の買い物を済ませ、ポートワインを試飲する観光客に紛れ込んで一杯やろうとして、川向こうのワイナリーに向かっていた。そして、姉貴達に出会うことになったんだ。姉貴と姉貴のおばあさんのメイコは、お客さんを連れてワイナリーに来ていた。お客さんは綺麗な女の人で、僕はその女の人のボディーガードを彼女を誘拐しようとしているマフィアと間違えてタックルしたんだ。
 間違いだと分ったとき、僕は物凄く恥ずかしい思いをした。「あんた、いったい、何やっているのよ」僕は姉貴に叱られた。でも、そのお陰で僕は姉貴やメイコ、綺麗な女の人、そしてその人のボディーガードの男の人と友達になれたんだ。メイコには手料理をご馳走になったりして、家族のように接してもらっている。メイコの手料理はウチのばあちゃんに負けないくらい美味いし、それに腹一杯食べられるんだ。
 お客さんだった綺麗な女の人は物凄い名家のお嬢様で、男の人は彼女の執事だったんだけど、この2人ともクリスマスカードのやり取りが続いている。
 特に姉貴とは姉弟のように付き合ってもらっていて、今でもときどきあまり上品でないポルトガル語で叱られるんだ。姉貴は日本人なんだけど、どこであんなポルトガル語を覚えたんだろう。その上品でないところがまたいいんだけどね。
 そのいつも叱られてるばかりの姉貴からお願いがあるって言われたら、そりゃぁ乗らなきゃいけないだろ?
 そういうことで僕は今、カテドラルに向かっているんだ。
 カテドラルっていうのはこの町の大聖堂のことで、姉貴からこの中で待っているから来て欲しいという連絡があったんだ。僕は緩やかな坂を登って建物を回り込むと、待たせちゃったかな……少し急ぎ足になって広場を横切り建物の入り口を入った。
 午前中の早めの時間だったせいか中はまだガランとしていて、僕は姉貴を探しながら祭壇に向けて長椅子の間の通路を進んだ。
 前の方、大きな柱の陰にいつもの長い髪の後ろ姿が見えた。姉貴は手入れが面倒だとボヤキながらも絶対に短くしない。そして頑なにツインテールの髪型も変えようとしない。何をそんなに拘る必要があるの?何度もそう訊いたが姉貴はまったく聞く耳を持たなかった。
 僕は姉貴の座っている位置までゆっくりと進んでいくと、声をかけようとしてそのまま固まってしまった。
 姉貴は長いすの一番奥に姿勢良く座っている。そして何を思っているのか祭壇の方を一心に見つめている。僕が近づいたことに気がついた様子はまったくない。薄暗い大聖堂に天井から降り注ぐ光が姉貴の姿を照らし出す。
 艶やかな髪の毛やまつげの1本1本、鼻から頬にかけての顔の輪郭、引き締まった口元、細くて長い首筋、肩から鎖骨そして胸に向けてのラインが、光を反射して薄暗い背景にほの白く浮かび上がる。どうしてだろう?僕の心臓はドキドキと速くなった。

miku
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 姉貴は僕よりずっと年上だし、だからガンガン文句を言ってくるし、叱ってくるし、怒ってくるし、でも東洋人だから顔立ちは子供っぽいし、ペチャパイだし、声は高いし、カミラの方がずっとグラマーだし色っぽいし、だから僕はこれまで彼女をこんなふうに見つめたことはなかった。だいいち彼女は僕の中で、ずっと姉貴だったんだから。僕は通路に立ったまま声をかけるのも忘れてじっと見つめていた。
 フッと姉貴の顔から力が抜けて視線がこっちを向いた。
「ジョゼ……。居るんなら声をかけてよ」姉貴が言った。
「ああ、ごめん。つい……ね。何をじっと見てるのかなって……」僕はしどろもどろになって答えた。
「え?ああ、ちょっと考え事をね。でも今日はありがとう。忙しいんじゃなかったの?休日だからデートの予定とかさ」
「大丈夫。でもなんでここ?もっと気のきいたところがあっただろ?」
「変かな?だって、ここなら絶対に間違えないし、この時間ならまだ静かだし、タダだし、それにあたしはここの雰囲気が好きだから」
「まあ、確かにそうなんだろうけど」そう言ってから僕は小さい声でゴニョゴニョと付け足した「でももうちょっと若者らしく……」
「何か言った?」
「何でも無い。で、今日は何の用?呼び出したのは姉貴だろ」
「うん。実はね、あたしあと2年学校に残ろうと思うんだ」姉貴はいつものようにいきなり本題に入った。
「落第したの?」僕は驚いて訊いた。
「まさか!何言ってんの。違うよ!院に行くんだよ」
「インって、大学院のこと?」
「そう!その院。だからあと2年はポルトに戻れなくなったんだ」
「ふ~ん。姉貴って案外優秀なんだね。でもお金とか大丈夫なの?」
「その点はメイコの了解を取ってるし、奨学金も出るから大丈夫なんだけど」姉貴は少し言い淀んだ。
「けど?」
「メイコは応援するって言ってくれてるんだけど、やっぱり寂しいみたいなんだ。今までずっと1人だったし大丈夫だって言うんだけど、あたしとしてはそれだけにかえって心配なんだ」姉貴はまた祭壇の方に目をやった。
「メイコはこの町を離れる気はないんだろう?」
「メイコはこの町を愛しているもの。絶対にそれは無いよ。だからジョゼにお願いがあるんだ」姉貴の目は真剣だ。
「姉貴からお願い?怖いな」僕は戯けた調子で答える。
「悪かったわね」姉貴の視線が弱くなった。
「冗談だよ。で、お願いってなに?」僕は慌てて話を元へと戻す。
「時々はメイコを尋ねてやってほしいの。ジョゼの都合の合う時だけでもいいから。メイコはジョゼのことをあたしの弟みたいに可愛がっているから、喜ぶと思うんだ。今でも凄く歓迎してくれるでしょう?」
「そうだな。腹一杯食わせてくれるし、それに凄く美味いんだ」
「だからそうやって時々尋ねてやってほしいの。そしてその時の様子をあたしに知らせて欲しいの。お願いできるかな?」
 僕はニッコリと微笑んで言った。「もちろんOKさ。喜んでやらせてもらうよ。僕はメイコが好きだし。メイコがそう思ってくれているんなら、何回でも行くさ。迷惑じゃなければね」
「良かった」姉貴が初めて微笑んだから、僕はまたドキッとして固まってしまった。
「あたしも休みが取れればなるべく帰ってくるようにするし、電話やメールもたくさん入れるようにする。でもジョゼが時々でも覗いてくれる方が安心。メイコもいつ押しかけても歓迎してくれると思うよ」
「そんな、ちゃんと連絡を入れてから行くよ。その方が美味しいものがたくさん食べられるからね」
「現金な奴。でも一月に1回は覗いてもらえると助かる」
「わかった。約束は出来ないけど、それ以上は覗くようにするよ」
「ありがとう。やっぱりジョゼはやさしいね。そういうところ好きだよ」姉貴がまたニッコリ笑ってそんなことを言うもんだから、僕の心臓はまたドキドキする。
「任せとけって、姉貴」僕は少し胸を張る。
「姉貴はやめてよ。もうジョゼはあたしより大人に見えるから姉貴って変だし、どう見ても姉弟に見えないし、照れくさいよ」
「え?じゃあ、任せとけって、ミク?こんな感じかな?」僕の心臓はますますドキドキだ。
「ジョゼはこの後どんな予定なの?」満足そうに頷いてからミク…が言った。
「僕?ごめん、これからばあちゃんのとこに寄らなくちゃいけないんだ」
「じゃぁ、あたしも一緒に行っていいかな?」
「もちろん!大歓迎さ。ミク…なら、ばあちゃんも大喜びだよ」
「じゃぁ。そうしようかな」
「それにほら、これ」僕は肩にかけた袋の中身をミクに見せた。
「あ!これ、パステイス・デ・ナタじゃない。あの店のだよね?」
「そう。ばあちゃんちで食べよう。行こうよ」僕は立ち上がった。
 そろそろ増え始めた観光客の間を縫って表に出ると、僕らは並んで歩き出した。
 僕は歩きながらミクの方を見たが、ミクの横顔はこれまでとは全然違って見えた。
 ミクはそんな僕の視線に気がついたのか、上目づかいにこっちを見ると優しく微笑んでくれた。でも、なぜこんなことで僕の心臓はドキドキするんだろう?
 僕らの上には最高の秋晴れが広がっていた。

おわり

2014.12.15
2015.02.17微調整
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15000HITにキリ番企画第一弾が完成しました。

 最高の秋晴れだ。幸先がいい。

 こんな感じで始まります。遅くなりましたが、15000HITのキリ番企画作品第一弾が完成しました。
 リクエストをいただいたのは、八少女 夕さん。ご指定のキャラは、「ミク」。お題は「パステイス・デ・ナタ(エッグタルトのことらしいです)」でした。ミクについて再度説明を入れておきますが、「絵夢の素敵な日常(10)Promenade」に出てくる女の子で、サキがボーカロイドファンであることから初音ミクをイメージしたキャラです。ただし初音ミクではありません。
 その後「絵夢の素敵な日常(12)ポルト急行」ではポルトに引っ越しているという設定で再登場していますし、夕さんにコラボしていただいた作品「追跡『絵夢の素敵な日常』二次創作」にも登場しています。

 さてキリ番企画第一弾ですが、このお話けっこう難産でした。
 というのは、サキはポルトを訪れたことが無いので。最初、知らない街をを舞台に書くのを今回は止めようと思ってしまったんですよ。ですから大阪を舞台にしたものを書き始め、次にリスボンを舞台にしたものを書き始めていました。リスボンはリアルコハクの証言がありますからね。
 でもどちらも上手くいかなくて、ついに夕さんの作品「追跡『絵夢の素敵な日常』二次創作」のシチュエーションをそのままいただいてしまうという暴挙をやって、ようやく完成にこぎつけました。
 ですから、夕さんの作品と同じ書き出し、最高の秋晴れだ。幸先がいい……と言う具合に始まります。
 あきれる夕さんの顔が浮かぶようですが、あきれられるついでに夕さんの大事なキャラクターまでお借りしてしまいました。
 一応、左紀なら自由に使ってもいいよ、というお許しはいただいていたので、事後報告になってしまいますがお許しください。
 おまけに勝手に設定を作っていたりしていますが、番外編ということで、これもお許しください。
 そしてもうやけくそです。フライングで「scriviamo! 2015」参加にしちゃいます。夕さん、わがままをお許しください。改めてエントリーさせていただきますけれど、とりあえず予告だけ入れておきますね。

 よろしければ下のリンクからお進みください。
絵夢の素敵な日常(初めての音)Porto Expresso2

 そして次は大海彩洋さんとlimeさんのリクエストを書いていきます。
 あらかじめお断りしておきますが、お2人のリクエストの答える順番が前後するかもしれません。左紀の都合ですのでお許しください。
 そして年を越えてからの発表になる恐れもあります。これもお許しください。
 でも、今日はたくさん謝りました。

 1作ずつゆっくりと書いていきます。
 ではまた……。
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---53---


 *

 町外れの大きな建物の前に四輪駆動車が停車した。エンジンを止めドアを開けると、男は確認するように辺りの様子を見渡してからゆっくりと車を降りた。190センチを超えるのではないかと思われる位の大きな男だ。
 3月ももう終わろうとしているのに、ベクレラの極北地方有数の都市チクシはマイナス10度以下の寒気のまっただ中だ。
 辺りにも同じような建物が幾つか固まって建っているが、いずれも人影はない。男はポケットから携帯端末を取り出し、何かを確認するように操作した。
 端末を操作する指はピアニストのように長くて細い。そしてそれに合わせるように手足も長かった。すらりと背が高いのでスタイルは良いはずなのだが、体との長さのバランスが悪いのだ。その体型はたとえるならまるで蜘蛛男、そう表現するのがピッタリだった。
 男は真っ白な息を吐きながら防寒着の前のファスナーを首元まで上げた。細長い指をポケットに入れると中から拳銃を取り出して安全装置を外し、再びポケットに納めてから目の前の建物に向かって歩き始めた。
 暫く建物の周りを歩いてようやくドアを見つけてノブをそっと引くと、ドアは微かな錆の音を立てながら開き男を迎え入れた。建物は機械部品か何かの工場だったようで、内部には生産ラインが収まっていた。だが長い間稼働した様子はなく、一部は売却されたのか撤去されていて、そこだけはポッカりと空間が空いていた。
 男はまたポケットから端末を取り出して画面を眺めていたが、やがて階段を見つけるとそちらへ向かって歩き始めた。階段の先には生産ラインの上に張り出すように作られた区画が有り、そこには生産の様子を見下ろせるように幾つもの大きな窓が設けられていた。
 窓は暗く、中に灯は見えない。男は少しの間躊躇してから階段を上がっていき、ドアを開けて室内に侵入した。内部は何かをコントロールするためのパネルやモニターがズラリと壁面を埋めていたが、全ての状況は活動を停止してから長い時間が経過していること示していた。
 男は正面のパネルとパネルの間に、隙間から微かに光を漏らす1枚のドアを見つけた。近づいてドアに耳を当て物音がしないのを確認すると、ドアを手前に引いて部屋に入り拳銃を構えたまま部屋全体を見渡した。
 部屋の電気は生きていて、ここだけは天井の照明がこうこうと灯っている。エアコンも動作しているのか室内は暖かく、微かにファンの音が聞こえてくる。
 部屋の中には本棚や椅子テーブルなど僅かな家具と、奥にはベッドが置かれているだけだ。男は拳銃を向けたままベッドに向かい、まず素早い動作でベッドの下を確認した。それからベッドの上に横たわるものに目を向けた。
 ベッドの上では寝袋に包まれた女が静かに眠っている。微かな寝息と僅かに上下する胸の動きで彼女が眠っていることがわかる。男は彼女がほとんど白に近いプラチナブロンドであることを確認すると、彼女の額にゆっくりと銃口を向けた。
「部長!」その瞬間、背後から鋭い女の声が聞こえた。
 部長と呼ばれた男は反射的に声の聞こえた方向を振り返って拳銃を向けた。
「私です。部長」部屋の外から声がする。
「ゴリアテ」男は銃口を下げ、かすれた声を発した。
「こんなところで何をなさっているんですか?」ヨウコは冷たく言った。
 男は黙っている。
「私が位置の連絡を入れたら、ベクレラの特殊部隊が救出に来るはずでしたよね?」ヨウコは部屋に入った。
 男は黙っている。
「何をなさっているんですか?とお尋ねしているのですが?」ヨウコの声は容赦ない。
「確認だ……」男はようやく質問に答えた。
「先日、19番でサエにお会いになりましたよね?」ヨウコの質問が続く。
「何の話だ?」男の声は弱々しい。
「そこで部長はシスカの話をされましたね?」
 男は黙っている。
「サエがシスカがセミプロの歌手だと言った時に、部長は蛙の子は蛙だとおっしゃいましたよね?」
 ヨウコが言葉を切ったので、辺りを沈黙が支配した。
「シスカの母親が歌手だったことをなぜご存じなのですか?」
 再度沈黙の時間が過ぎる。
「それは紛争中に偶然出会っていたから……」男はようやく返事を返したが消え入るように言葉を止めた。
「紛争中にシスカ親子に会われたことはお認めになるんですね?」
 男は黙っている。
「部長は紛争中は国境軍に所属されていましたね?」
「・・・・・・・・」
「ゴリアテの調査能力を見くびってもらっては困ります。部長が所属されていたことはすでに確認済みです」
「それがどうしたというんだね?」
「最近、シスカの記憶は少しずつ回復してきています。サエにもお聞きになってご存じですよね?」
「何の話をしているんだ?君は」
「シスカは紛争中の記憶を無くしています。それはとても大きなショックを受けたからだと診断されていますが、特別な精神状態のときにその記憶が少しずつ漏れ出てくることがあるんです。私は一度そういう場面に遭遇したことがありますが、彼女は『蜘蛛みたいな長い手足の大男なんだ。吐き気がするほど汚らわしい。ぞっとするほど悍ましい。あのマークは国境軍のだったんだ』と口走っています。蜘蛛みたいな長い手足の大男、というのはあなたの容姿そのままですね。そしてシスカが記憶を無くした時期、国境軍のマークを付けていましたよね?」
 男は身動きもしない。
 ヨウコは続けた。「母親を亡くしたシスカが紛争中、あなたからどのような仕打ちを受けたのか、想像するのも虫酸が走りますが、シスカが記憶を回復してあなたを見た時にどんな反応をすると思われますか?それが恐ろしくてあなたは今ここに居るのではないのですか?」
 男は反撃を試みる。「私は確かに国境軍に所属していた。そして偶然に紛争中にシスカ親子に出会っている。ただそれだけのことだ。何もやましいことは無い」
「では」ヨウコは冷え切った視線を男に向けて言った。「なぜこんなところに現れてシスカに銃を向けたのですか?」
「2人は激戦の市街地に取り残されていたのだ。私が保護しなければ2人共確実に死んでいたのだ。感謝こそされても、恨まれるような筋合いはない。私の言うことを素直に聞いていればよかったのだ。抵抗などするから……」
 男は黙り込んだ。
「抵抗などするから……?」ヨウコは顔を上げた。
「お認めになるのですね?」声は氷のようだ。
「クッッ」男は銃口をヨウコに向けた。
 その瞬間、ヨウコの右手が一瞬早く動き、続けて2つの発砲音がした。
 男は一言も発さずそのまま後ろ向けに倒れた。
 
 ヨウコは男の傍に立ってその死顔を見下ろしていた。
 ヨウコの放った弾丸は男の右目から入り後頭部へ抜けていて、頭の下には血だまりができ始めている。
 男の放った弾丸はヨウコの肩をかすめていて、徐々に痛みがこみ上げてくる。やがてヨウコは体の空気を入れ換えるように深くため息をついた。
 体の空気を全て入れ替えてから、ヨウコはシスカに寄り添って寝袋のファスナーを下ろした。
 白い首筋に手を当てると脈拍が伝わってくる。呼吸に合わせてゆっくりと胸が上下し、そっと触れている手からは体温が伝わってくる。自分の鼓動が早くなっていくのがわかる。
 衝動を抑えることができなかった。ヨウコは両手でシスカの肩を抱いた。そして優しく唇を合わせた。
 沈黙の時がゆっくりと過ぎていく。
 やがてヨウコは唇を離すと寝袋のファスナーを閉じ、シスカの頬をそっと撫ぜた。
「大丈夫。もう少しの辛抱よ」ヨウコはシスカにそう声をかけた。ヨウコの声は震えていた。
 その時だった。「ミユキ……ミユキ……」シスカの口元が微かに動いた。ミユキという名前に覚えは無かったが、シスカの精神状態について詳しく知っているヨウコはたいして驚かなかった。
「どうしたの?」ヨウコはシスカの耳に顔を近づける。
「よかった。消えたんじゃなかったんだ」微かにシスカの瞼が開いた。
「あなたは誰?」ヨウコは優しく声をかける。
「え?僕だよ。ショウ、ショウだよ」
 ショウはシスカが持つ別人格の名前としてカルテに記載されていた名前だ。
 幼いシスカが何らかの虐待を受けた際、分離したのではないかと診断されていた。
 ヨウコは続けた。「ミユキって?」
「シキシマ?シキシマじゃないの?」
 ヨウコはオルガのホテルで朝食の時にシスカと交わした会話を思い出していた。「ミユキってシキシマのこと?」
 シスカが頷いたように見えた。
「大丈夫よ。大丈夫だから安心なさい」ヨウコは言葉をかける。
 シスカは何か言おうとしたが再び意識を失った。
「ショウ?ショウ?」ヨウコは何度か呼びかけたが応答はなかった。
 ヨウコはシスカの様子を再度確認してから、何かを振り払うように立ち上がった。そして携帯端末を取り出し耳に当てた。
「ナギノ?ヨウコです。処理は終わったわ。そう、もう義理を立てる必要は無くなったのよ。すぐにベクレラの特殊部隊との繋ぎを取ってちょうだい。そう、10分後に行動を開始するように伝えて頂戴。お願いね。じゃ」ヨウコは端末をしまうと、もう一度シスカを見やり、そして部長だった物を見下ろしてからドアを閉めた。
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シスカ53話をUPします。


さて、53話です。いよいよシスカが解放されることになるのですが……。
これまでのお話でシスカがなぜこんな容姿なのか、、シスカがなぜここに居るのか、そしてなぜこんな精神的問題を抱えているのか、などを少しずつ明らかにしてきました。
今回でもう一歩踏み込みますが、読んでくださる方はどのような感想を持たれるかな?ちょっと気になっています。
この物語で使っているシスカの小さいころの体験なんかの設定は、サキにとってかなり思い切ったものです。自分でも虫唾が走りますが、あえてそうしました。この呪縛からシスカが解放されていく過程が上手く書けているといいのですが。
自分の力不足を痛感しながら、でもここまで来たからには曲がりなりにも完成させなければ……と足掻いています。

よろしければ下のリンクからどうぞ。

シスカ53話

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マッチ売りの少女

 町は冷たい空気に覆われていました。ひらりひらりと雪が舞い、街角はもうすっかり暗くなり始め、今年最後の夜がやってこようとしていました。
「マッチ、マッチはいかがですか?マッチはいかがですか?」この寒さと暗闇の中、1人の少女が通りを歩いておりました。
 頭には何も被らず、薄い生地の着古した服をまとい、肩にかけたショールだけが少女を寒さから守っていました。ショールは少女のお母さんが使っていた物でした。お母さんが亡くなる少し前に少女の肩にそっとかけてくれたのです。
「マッチ、マッチはいかがですか?マッチはいかがですか?」少女は手に提げたバスケットにたくさんのマッチを入れ、手に1つ持っていました。
 でも一日歩き回っても、誰も少女から何も買いませんでした。 わずか1エキューだって少女にあげる者はいませんでした。 寒さと空腹に耐えながら少女は町を歩き回っていました。

 舞い落ちる雪が強くなり少女の金色の長い髪を覆い始めました。輝く髪は少女の首の周りに美しくカールして下がっていましたが、少女にとってそんなことはどうでもいいことでした。いまの少女にとっては空腹の方が大きな問題で、少女はそのことで頭がいっぱいだったのです。どの窓からも暖かそうな光が漏れ、 ガチョウを焼いているおいしそうな匂いがしました。 家々では大晦日のお祝いの用意が整い始めていたのです。
「マッチ、マッチはいかがですか?マッチはいかがですか?」少女は寒さと空腹を紛らわせるように声を上げましたが、もうその声には力強さは感じられませんでした。
「お嬢さん、ちょっとそれを見せてくれないか?」突然後ろから声がかかりました。
 少女は声がかかることなんか予想していなかったように驚いて振り返りました。
「それは何型?ちょっといいかな?」男はひょいと少女のバスケットからマッチを1つ取り上げると街灯の明かりにかざしました。
「ふむ……このマッチは溶融金属冷却の核分裂型超小型原子炉が内蔵されているね。いくらかな?」
 少女は値段を伝えましたが、男は首を振りました。
「確かに安いけれど、今ではもっと安全性の高い核融合型がその値段の倍ぐらいで売っているよ。制御用のソフトもこちらで用意しなければならないようだし、バージョンも古いね。すまないけど……」男はマッチをそっとバスケットに返すとそのままスタスタと立ち去っていきました。
「あ……」少女は男を追おうとして雪溜まりに足を取られ転んでしまいました。 履いていた大きな靴が脱げて跳ね上がり、車道の隅に落ちました。その靴は少女と同じような貧しい身なりの少年が走り寄って持って行ってしまいました。
 少女は立ち上がって追いかけようとしました。その靴はお母さんが履いていたものだったからです。でもすぐに膝の痛みに耐えかねてしゃがみ込んでしまいました。膝からは血が滲んでいます。
 少女は暫くの間そこにしゃがんでいましたが、やがて立ち上がり歩いていきました。 何も履いていない小さな両足は冷たさのために紫色になっていました。

 降りしきる雪の中をどれくらい歩いたのでしょう。もう足の痛みも感じなくなりました。体に力が入らなくなった少女は、二つの家に挟まれた行き止まりの小さな路地に這うように入っていきました。そこなら雪や風を凌げるように思えたのです。
 少女はその隅に座って小さくなりました。小さな足を引き寄せ、体にぴったりとくっつけましたが、少しも暖かくなりません。けれど、家に帰ることもできません。マッチはまったく売れていないし、たったの1エキューも持って帰れないからです。このまま帰ったら、きっとお父さんにぶたれてしまいます。それに家だって寒いのです。隙間だらけの家は風が音を立てて吹き込み、外で眠るのとそんなに変わらないのですから。

 少女の小さな両手は冷たさでもう感覚を無くしています。マッチの制御棒を上げて核分裂反応を起こして指をあたためれば、 少しは楽になるでしょう。 少女もそう考えたのか、マッチを取り出しました。そしてほんの僅か制御棒を引き上げます。すると何という輝きでしょう。何という暖かさでしょう。それはまるで大きなお屋敷の暖炉の前に実際に座っているようでした。
 その暖炉にはぴかぴかした飾りが付いていて、上には幸せそうな家族の写真が飾られています。 その炎は、まわりに祝福を与えるように燃えました。いっぱいの喜びで満たすように、炎はまわりをあたためます。少女は足をのばして、あたたまろうとしました。しかし、……輝き消え、お屋敷も暖炉も消えうせました。 残ったのは、手の中のマッチだけでした。核分裂反応は臨界に達しなかったのです。

 少女はもう少し、ほんの僅かだけ制御棒を上げました。マッチは明るく輝き、その明かりが壁にあたったところはヴェールのように透け、部屋の中が見えました。テーブルの上には雪のように白いテーブルクロスが広げられ、その上には豪華な食器が揃えてあり、焼かれたガチョウはおいしそうな湯気を上げ、その中にはリンゴと乾しプラムが詰められていました。少女は招かれるように立ち上がってテーブルに向かおうとしました。ちょうどそのとき……反応が止まりました。輝きが消え、厚く、冷たく、じめじめした壁だけが残りました。

 少女はもうほんの僅か制御棒を上げました。すると、少女は最高に大きなクリスマスツリーの下に座っていました。そのツリーは、デパートのイベント広場で見たことのあるものよりもずっと大きくて、もっとたくさん飾り付けがしてありました。
 何千もの光が緑の枝の上で輝き、店のショーウインドウの中で見たことがあるような楽しい色合いの絵が少女を見おろしています。 少女は両手をそちらへのばして……そのとき、輝きが消えました。クリスマスツリーの光は高く高く上っていき、もう天国の星々のように見えました。その時、無数の星々の中からたくさんの星が流れ落ちました。
「いま、たくさんの人が亡くなったんだわ!」と少女は思いました。 お母さんがこんなことを言ったことがあったからです。星が流れ落ちるとき、魂が神さまのところへと引き上げられるのよ、と。

 少女はもう少し、ほんの僅かだけ制御棒を上げました。すると周りは一層明るくなり、その光輝の中にお母さんが立っていました。とても明るく光を放ち、とても柔和で、愛にあふれた表情をしていました。
「お母さん!」と少女は大きな声をあげました。「お願い、わたしを連れてって! 輝きが消えたら、お母さんも行ってしまう。あったかい暖炉みたいに、おいしそうなガチョウみたいに、それから、あの大きなクリスマスツリーみたいに、お母さんも消えてしまう!」少女はついに制御棒を全部引き抜いてしまいました。お母さんにしっかりそばにいてほしかったからです。マッチはとてもとてもまばゆい光を放ち、臨界を超え、さらに暴走を始めました。もう誰も止めることは出来ません。やがてその光と高熱は町全体を包み込んでいきました。

2014.12.24

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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

【物語を遊ぼう】名作を書き換えよう !クリスマス企画作品UPです。

 今日はクリスマス企画の作品をUPします。これ、大海彩洋さんの企画に乗っかることのできる作品として書いたつもりだったのですが、ちょっと趣旨と違ってるんですよね。でもせっかくなのでお披露目しちゃおうかなと……。


彩洋さんの企画: 【物語を遊ぼう】16.名作を書き換えよう

ここで言う書き換えは、登場人物の名前や設定を借りて自由な物語を展開するというタイプの二次創作とは違って、基本的にストーリーの途中まではもとのままで、途中~ラストを変えてしまうというものです。
一応ルールがあって、基本的には物語の途中までは原文のままで設定は変えない(自由枠アリ)、物語の流れに違和感がないようにする(原文の部分~改変部分の継ぎ目に違和感がないように)、などなど、いくつか決まりがありました。
だから自由度は思ったより低かったんですけれど。

でも、ここでは遊びですから、自分が気になっている「あの有名な」物語をいじくってみるのが一番いいですね。
悲劇が気に入らなければハッピーエンドに変えちゃう……

【物語を遊ぼう】16.名作を書き換えよう より


 もちろんこのお話、とある超有名なお話しを書き換えてはいますが、正確には上記の条件を満たしていません。ストーリーは途中までほぼ元のままだと思うのですが、原文のままではありません。NETにあった翻訳を参考にして、ストーリーを思い出しながら書いています。クリスマス企画をうたっている割には内容があれなんですが、まぁ天邪鬼のサキのことですのでご勘弁ください。
 納得のいかなかった所、書き換えた所については、この記事の追記をご覧ください。

サキの作品はこのリンクから……。
【物語を遊ぼう】名作を書き換えよう !クリスマス企画作品
そしてこの企画で書かれた八少女夕さんの作品はこちら。
【小説】二人きりのクリスマス


 そして、多分この記事が今年の最終記事になると思います。
 今年もこの変なブログ「Debris Circus」にお付き合いいただきましてありがとうございました。
 楽しいクリスマス、そして晴れやかな新年をお迎えください。
 2015年もよろしくお願い申し上げます。

(追記があります。Continueからどうぞ)
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アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
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