Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

あなた達は何が欲しいの?

 現代と平行する世界、ここではないあるところにイルマとベクレラ、そしてグロイカという三つの国が有りました。
 イルマはあまり大きくないけれども四季のある美しい海洋国家で、ベクレラは寒い地方の広大な青い森の広がる大陸国家、そしてグロイカは海の向こうの無限の草原の広がる大陸国家でした。

 数十年前、大きな戦が始まろうとしていた時、その三つの国のうちの1つベクレラの西の果て、ネラヴェラという小さな国に不幸な出来事が起こったのです。
 国といっても住んでいるネラヴ人がそう思っているだけで、実際はベクレラに支配される自治州に過ぎませんでした。
 ネラヴェラにはたくさんのネラヴ人が住んでいましたが、彼らは大昔からベクル人の支配をとても嫌っていました。歴史上何度も立ちあがって独立を求めたのですが、その度に大勢のベクレラ兵が押し寄せ、独立の機運はつぶされていたのです。
 大きな戦の気配が漂うこの時期、ベクレラは同盟国と組んで世界の中で力を得ようとしていました。 ネラヴェラはそれを利用しようと考えたのです。同盟国と対立していた連合国に所属するイルマとグロイカに助けてくれるよう頼んで、ベクレラに対して反乱を起こしたのです。
 グロイカはもちろん、イルマもそこそこの軍事力を持った国です。イルマに至ってはグロイカとの間に1つの島を巡る国境紛争も抱えているので、手を差し伸べてくれると考えたのです。
 しかし世の中はままならないものです。
 突然(ネラヴェラにはそう思えました)ベクレラは同盟を離れ、連合と手を組んだのです。当然イルマとの国境紛争は棚上げにされ、ベクレラを連合に繋ぎとめておきたいイルマとグロイカは、援助の手を差し伸べてくることはありませんでした。
 ベクレラ軍は、その地域に住むベクル人を保護するという名目でネラヴェラに大挙してなだれ込み、一瞬で支配を確立しました。
 そして自治政府は解体され、ベクレラ連邦に含まれる共和国の1つに吸収され、ネラヴェラという名前すら失ったのです。
 ネラブ語も禁止され伝承されていませんし、ネラヴ人とベクル人の混血もどんどん進んで行きました。ネラヴェラは見捨てられたのです。
 その最後の反乱に参加した人の一部は、その3つの国への恨みを抱えたまま地下に潜ったのです。
 今でもどこかで復讐の機会を狙っているのかもしれません。

 これはつい先日まで、サキの頭の中の物語の世界で起こったことだったのです。
 しかも仮想の平行世界で、それも過去に起こった事です。
 夢物語だと思っていました。
 でも今、現実世界でも似たようなことが起こっています。
 色々と事情は違っているようですが、軍隊が介入する様子はすごく怖いです。
 これ以上世界の情勢が悪い方へ流れて行かないように祈っています。
 この出来事が引き金になって、あらぬところであらぬことが起こったりしませんように……。


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テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

深海少女

Stella/s 月刊ステルラ4月号 投稿作品

 厚さ14センチのメタクリル樹脂製の小さな丸い窓。その向こうには深海の闇が拡がっている。潜水艇はその能力の限界付近までまで潜航していて、ここに太陽の光が到達することは無い。その果てしない真の闇の中で、私は潜水艇のスポットライトに照らし出される僅かな視野を凝視していた。
 30分前、予定の探索を済ませて浮上の準備を始めようとした私が、微かな海水の成分と温度の揺らぎに気づいたのがきっかけだった。その確認の為にスラスターで少しずつ移動していくうちに、海中の熱水噴出孔の一種であるブラックスモーカーを見つけたのだ。真っ黒な熱水を吹き上げるその異様な姿に私は驚いたが、同乗する研究員の女性が簡単に説明してくれた。
 鉱物を大量に含んだ熱水は、海底から吹き出して低温の海水と接触すると、生成物が析出・沈殿し煙突のような構造物を形成する。
 黒色の硫化物の微細結晶を多量に含む熱水を吹き出す噴出孔は、その色からブラックスモーカーと呼ばれ、それの存在はすなわち周りに大量の希少鉱物が存在する事を示している。2人の研究員は驚喜し、艇長とコパイロットである私に様々な指示を出した。潜水艇はそのチムニーに寄り添うように接近して、各種の観測を行い、様々なサンプルを採取した。
 そして潜水可能時間の終了間際になって、私はスポットライトの照らし出す視界の隅にたくさんの白い物がうごめくのを見つけたのだ。
 それは先端に紅色の花を付けた白い筒状の物の大群だった。一見植物にも見える。後ろにしゃがみ込んで私と一緒に窓を覗いていた研究員の女性が「これはチューブワームというのよ。これでも動物なの。このブラックスモーカーから吹き出す熱水に含まれる硫黄分をエネルギー源とするバクテリアを体内に共生させて生きているらしいわ」と教えてくれた。
 私は頷いたが視線の先にはさらに興味深い物がうごめいている。
 真っ白な蟹だ。それもかなりの数が群れを成している。私はマニピュレーターを操作してその1匹を捕獲しようとした。
 彼は危険を感じたのか、大きな1対の鋏と脚をきちんとたたみ込む。するとその体は美しく磨き込まれた正楕円形の真っ白な珠に擬態する。それがこの光の無い世界でどのような意味を持つのか分らなかったが、私はマニピュレーターを一旦引き上げ、観察用のHDカメラを向けてズームアップする。
 刺激が去ると、やがて彼はゆっくりと鋏を突き出し、脚を拡げて元の体勢に戻った。「きっとここにだけ存在する新種の蟹よ。目は退化して痕跡も無いわ。口の周りやお腹には細かい毛がたくさん生えているようね。多分そこにバクテリアをたくさん飼っているんだわ。そして口の動きで水流を作って、バクテリアが作り出す有機物を食べているのよ。主食はチューブワームかもしれないけど」モニターを見つめながら研究員の女性が解説してくれた。

「仕事が落ち着いたらまた学生時代みたいにルームシェアしないか?」親友にはそう誘われている。だが、自分の希望通りの仕事に就き、意気揚々と勤め始めている彼女とは違って、まったく畑違いの職場に放り込まれ、ミスを連発していた私は正直そんな気にはなれなかった。だって、そうでしょう?無理だよ、そんなの……。
 私が学生時代ルームシェアしていた彼女は、その外観や男のようなしゃべり方も特異だったが、性格はなお特異だった。私は最初に出会ったときから彼女に惹かれる気持ちを持ったが、他人との関わりを完全に避けるような彼女の態度に近寄りがたい物を感じ、遠くからそっと眺めるだけで満足していた。だが、その生活が3ヶ月ほど続いた後、私は彼女に惹かれる気持ちをどうしても押さえられなくなった。
 彼女とは専攻するコースが違っていたが、一般教養では同じ教室になることが多かった。教室で近くに座ることから始めて徐々に近づき、ついに隣に座ることが出来た時は飛び上がるほど嬉しかった。反面、彼女の体臭までも感じようとする自分が少しおかしくなったのではないかと心配もした。
 口から飛び出しそうな心臓を押さえながら、始めて掛けた言葉が『おはよう』だったことは、今でもはっきりと憶えている。そして彼女はものすごく驚いた顔を暫くこちらに向けてから、ぎこちなく『おはよう』と言葉を返してくれたのだ。それをきっかけに彼女との距離は縮まった。
 並んで話すようになってはっきりと感じたのだが、彼女は優秀だったし努力家だった。自分も結構努力家だとは思っていたが、彼女にはかなわなかった。私はそんな彼女になんとなく気づいていて、それが彼女に対する憧れになり、さらに友達になりたいと言う気持ちに繋がったのだと自分では分析した。それは偽りのない気持ちだったが、それ以上の感情があったのか私には分らなかった。
 それは必然の成り行きだったのか、やがて私と彼女はルームシェアを始め、それによって経済的負担はかなり楽になった。でもそんなことより彼女の傍に居れる事や、彼女の家庭の事や本音を聞けることの方が嬉しかった。そして自分の事情や本音を彼女に話すことも多くなった。

 彼女はエンジニアを目指していて、実家の有る町の小さな航空会社で職に付いた。
 彼女の実家の有る最北の町は天然ガスの開発景気に沸いていて、整備士の需要が結構有ったらしい。彼女の父親もヘリコプターのパイロットだということだった。「彼のコネもあって何とか潜り込めたよ」彼女はそう言って謙遜したが、私は彼女はそれなりに実力を認められて採用されたと思っていた。
 何がしたいのか明確な目標が持てず、受ける傍から全て不採用になり、就職活動も滞りがちになっていた私は、エンジニアになれて嬉しそうに見える彼女に、劣等感や嫉妬、さらには怒りの様な感情を抱いてしまうことを押さえられなくなっていった。私は望んではいなかったが、彼女との間に少しずつ壁を作り始めていた。
 私に面接の案内が届いたのはそんな時だった。それは海洋開発会社の面接案内で、応募した記憶が無かった私は不思議に思ったが、せっかく訪れたチャンスを無にする気は起きなかった。それに会社の所在地が彼女の実家のある町だった事、それが私の背中を強く押した。壁を感じながらも私は彼女との距離を拡げたくなかったのかもしれない。
 面接会場には男が2人並んで待っていて次々と質問を投げかけてきた。分野の違いのある質問も多く、私は何度か窮地に陥ってから、ついに疑問を口にした。
「私を何に採用されようとしているのですか?」そう、採用職種すら知らなかったのだ。
「見習いだ」右側に座っていた厳つい男が、私の履歴書を横に放り出しながら答えた。そして「良いんじゃないのか?こいつ、良い匂いがするぞ」と左側の細い男の方を向いた。
「そうかな?まぁ大きさも丁度良さそうだしね。どうせ1からだし、たしかに良い匂いだよ」細い男が答えた。
『おおきさ?それになんで臭いの話なのかな?ちゃんとお風呂にも入って清潔にしているのに……』などと鼻をヒクヒクさせているうちに採用が決まり、私は選ぶ余裕もなくそこに採用された。そして混乱の毎日が始まったのだ。
 採用されたのはなんと潜水艇のコ・パイロット見習いで、なんの覚悟もできないまま国家試験を受けさせられたり、潜航させられたりした。艇長(面接で左側にいた男だった)が一番心配していた閉所恐怖症の症状こそ出なかったが、このスパルタ式順応訓練に私は音を上げそうになった。
 そんな混乱の中、私は適当な理由を付けて彼女と別々の生活を始めた。自信喪失状態の自分を彼女に見られたくないというのがその理由だったが、彼女に対して劣等感や嫉妬、さらには怒りの様な感情を抱く自分を見たくないという気持ちも大きかった。
 彼女の誘いに返事をしないまま、数か月が過ぎようとしていた。

 今日は暫くぶりの深海への潜航で、潜水艇はその能力の限界付近までまで潜航している。私にとってその深度は初めての経験だったが、少しは潜ることに慣れてきたのか周りの物を観察する余裕がある。私は懸命に有機物を捕食する白い蟹を見つめていた。
『このチムニーが噴出しなくなったらどうなるんだろう……?何を好き好んでこんな真っ暗な海の底に居るんだろう?』
 2つ疑問は口に出ていたようで研究員の彼女が答えてくれた。「チムニーの噴出が止まると彼らはゆっくりと死んでゆくのよ。それがここに暮らす者の運命なのね。でも彼らはここで生きている間に子孫を残すわ。ここで孵化するものもいるでしょうけど流れ出すものもたくさんいるの。そしてまたどこかのチムニーの脇に定着するのかもしれない。みんな与えられた環境で生きていこうと足掻いているのね」
 私は忙しなく口を動かすこの白い蟹が愛おしくなった。
「よし潜水時間はいっぱいだ。浮上しよう」艇長の声が響いた。
「了解」私が声を張る。
「ブロー深度まで浮上する」艇長が唇の端を少し上げて私の方を見た。
「ブロー深度まで浮上」
「バラスト1番投下!」
「バラスト1番投下!」艇長の指示に私が復唱して操作する。
 投下されたバラストが海底に落下し粉塵が巻き上がる。
 潜水艇はゆっくりと浮上のプロセスに入って人間世界への帰路に着いた。
 浮上したら彼女とルームシェアの話を進めよう。
 私はそう思い始めていた。

2014.03.11
2014.03.12 校正

追記があります。


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物書きエスの気まぐれプロット8(H1)

Stella/s 月刊ステルラ4月号 投稿作品

H1

 ダンゴは入り口の引き戸をそっと開けた。赤いリボンで纏めたポニーテールを揺らして隙間から中を覗く。ダンゴは普段、髪を纏めることはあってもポニーテールにはしない。なんとなく恥ずかしいような気がするからだ。まして赤いリボンなんて生まれて初めての経験だった。気になるのか、ダンゴはリボンにそっと手を触れた。
 引き戸の中は薄暗い倉庫で、フレキシブルコンテナが隙間無く積まれている。ただし引き戸を入ったところから正面にある梯子までだけは通路が空けてあって、そこには大きなオートバイが1台置かれている。
 ケッチンの愛車、カワサキのW1だ。ずいぶん古いバイクで、厳つくて重たくて、それに大きな音を立てて、いずれにしろダンゴは好きになれなかった。
『大昔のイギリスのバイクを真似て作られたんだ。だから変速ペダルが右側にある。それを現代でも使いやすくするために、リンクとロッドを使って無理矢理左側に……』何回も聞かされたケッチンの蘊蓄が思い出されて、ダンゴの顔はうんざりしたものになった。おまけにため息まで吐き出される。
 自分が入り込めるだけ引き戸を開けてほっそりとした体を中に入れると、ダンゴはバイクに近づいてむき出しのエンジンにそっと手を触れた。
『冷たい……』ということは今日はまだケッチンは出かけていないということだ。
 ダンゴはいつもなら絶対に履かない短いスカートを気にしながら梯子を上り、ロフトを覗き込んだ。
 ロフトはケッチンの就寝スペースで、ビールケースを並べて作られたベッドの上には布団が敷かれている。布団は綺麗に敷き直されていて人の気配は無い。ダンゴは赤いリボンと一緒に小首を傾げた。
 ガウ~~ンン、バリバリバリ……
 聞きなれない音が響いた。倉庫の裏手からだ。
 ダンゴは慎重に梯子を降りると一旦引き戸を出て、それから路地を通って倉庫の裏手に回った。
 バランバランバラン……まだ聞きなれない音は続いている。白煙が路地に流れ込んできて油の臭いがする。ダンゴは何が起こっているのか想像することが出来ず、急ぎ足で路地を出た。
 倉庫の裏手は白煙が渦巻いていて、中に何かの影が見える。近付くとそれは白煙をまき上げる1台のバイクと、横に立ってハンドルを握るケッチンだった。
「よう!ダンゴ。今朝は早いな」ケッチンが白煙の中から声をかけてきた。
 紺のラインが入った白い燃料タンクにKAWASAKIの文字が見える。
「なに?そのバイク、故障?」聞いてしまってからダンゴはしまったと思った。
「これか?」ケッチンはエンジンを止めた。静かな日曜の朝が戻ってきて、そしてケッチンの蘊蓄が始まった。
「これはカワサキの500SSっていうバイクなんだ。それも最も初期型のH1タイプ、別名マッハⅢって言うんだ」
「この煙は何?」あえて“マッハⅢ”については訊かない。
「はは、ダンゴは2ストロークエンジンは見たことが無いか?原付きで白い煙を出しているバイクやスクーターを見たことがあるだろ?」
 ダンゴは無言で頷いた。
「あれはエンジンの潤滑のために燃料と一緒にオイルを燃やしてるから煙が出ているんだ。原付きは50ccだからあんなもんだけど、このバイクは500ccだからな。きちんと調整できてないからちょっと多いけど故障じゃないんだ」
「これで?」ダンゴは顔をしかめた。
「こいつは俺の友達が持っていたんだけど調子が悪くてさ。交換部品も無いし。それに走ったとしても真っすぐ走らない、曲がらない、止まらない、の3ないじゃじゃ馬で物凄く扱いにくいんだ。怖くて乗れないって、それで俺が買ったんだ」
「また買ったの?これで何台目?」ダンゴは腕組みをして訊いた。
「このバイクは旧車の中では結構人気が有って、すごく高値で取引されているんだ。今回はお買い得だったよ」
 ダンゴはまた大きく溜息をついてから、足を肩幅より少し広げ、両手の甲を腰に当てて言った「それで?」
「とりあえずキャブを調整してエンジンがかかるようにしたんだけど、やっぱりこの3つあるシリンダーの真ん中が焼きつき気味なんだ。で、オーバーホールしてもらおうと思ってこれからバイク屋に持って行くところさ」
「バイク屋って、女の子の店員さんのいるあそこ?」
「こんなゲテ物、診れるところはそこしかないよ」
「またお金をかけるんだ」ダンゴは腰に当てた手に力を込めた。
「まあね」そう言うとケッチンはイグニッションを回してバイクに跨った。そしてキックレバーに足を置くと思い切り蹴り降ろした。
 ガウ~~ン……甲高い排気音が響いて、また白煙が3本のマフラーから吹き出した。
 ダンゴは顔の前に両手をかざしながら2歩3歩と後退した。
 ケッチンは「じゃちょっと行ってくる。代車を借りるからすぐ戻る」と頭をヘルメットに押し込むと“カコン”とギアを入れた。
 ギュウ~~ン……バリバリバリ……カァ~~ンン……
 そして煙だけを残してケッチンは角を曲がって行った。
「ケッチンのバカ!!!」
 煙の中、赤いリボンを揺らしながらダンゴは叫んだ。


「どうだった?」エスはお願いの顔をした。
「起きたのか。どうだ?調子は?」ダイスケは心配げだ。
「ちょっと引っ張りまわしすぎたか?」とエスの顔を覗き込む。
「ううん。大丈夫だよ。それより、どう?見てくれたんでしょ」
「ああ、バイクの蘊蓄の部分は大分書き足したぞ。だがバイクの音は文字ではどうしようもないな」ダイスケは顔を上げた。
「だよね。一生懸命話を聞いても、やっぱりそこのところは上手く書けないよ。見たことも無いんだもの。音も難しいね」
「俺だって実際に乗った事があるバイクじゃないし、やっぱり想像だけどな。まぁ小説だし止むを得んだろ」
「他には?」エスはダイスケの顔を覗き込んだ。
「今回は珍しく纏まってるな。とりあえず1つのエピソードとして完結してる。いつもはほとんど断片なのにな」
「たまには短くても纏まることもあるよ」
「ケッチンはまあこんなもんだろ」
「そう?あ、名前、ありがとうね」
「それからこの子、可愛い子だな」
「そう思う?よかった」エスはニッコリと微笑んだ。
「彼女が腰に手を当てるシーン、これはどうした?」
「これ?これはね、マリアの作品に有ったシーンからいただいちゃったんだ。元気いっぱいって感じでしょ?素敵だなって思って」とエスは同じポーズをした。
「ふむ、確かにな。しかしこの子、ダンゴっていう名前はちょっとかわいそうだぞ」
「はは、ダンゴね。これは幼馴染のケッチンが付けたあだ名なんだ。だからしょうがないということで、本名はちゃんと可愛いのが有るよ」
「なんていう名前なんだ?」
 エスは一瞬止まってから言った。「まだ決めてない」

2014.03.19

ダンゴがなぜ赤いリボンを付けているのか?気になる方はこの作品とコラボしてくださっている夕さんの作品「夜のサーカスと赤いリボン」をご覧ください。
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物書きエスの気まぐれプロット9(接触点)

接触点

 トロは緑色の光を発するドームに目をやった。
 マルベル機関の上部には小さな透明のドームが乗っていて、機関の状態がモニターされている。緑色の光を発し、その中に透明な気泡がゆっくりと立ち上っていく状態(今の状態だが)、それが安定してエネルギーを放出している状態を表している。
 トロッコは線路の継ぎ目をスムーズに通過し、快調に進んでいく。ついこの間、地底トンネルの調査を終えてから、トロは自分のトロッコにショックアブソーバーを取り付けている。これでタモのトロッコの性能に追いついて、仕事の入札に負けることは無くなるだろう。トロは少し悔しそうなタモの顔を想像して溜飲を下げた。だが、地底トンネルで弾丸列車に轢かれそうになった時、タモの見かけによらず厚い胸板に抱きかかえるようにして守られたことに連想が及ぶと、慌てて自分を現実世界に引き戻した。体内に埋め込まれたマルベル機関のモニタードームの気泡は数を増しているに違いない。トロの鼓動は少し早くなっていた。
 トロは緑色の光と、機関が立てる軽やかな音を確認してから、今日のたった1人の乗客に目をやった。その小柄な老人はトロッコの揺れに合わせてユラユラと揺れながら目を瞑っていた。
 トロッコはやがて築堤に差し掛かり、辺りは淡紅色の花でいっぱいになった。トロが仕事の事前調査で調べたところによると、この先には接触点と呼ばれる地点があって、その周辺半径10キロが森になっている。
 暖かくなり始めたこの時期、この広大な森を構成する数え切れないほどの木々は、枝全体に一斉に花を付けていた。淡紅色で埋め尽くされた世界は、線路の真上だけに僅かに真っ青な空が覗いているが、まるで花のトンネルだ。幾千幾万の花はトロッコの動きに合わせて前方から後方へと流れ去り、1つ1つの花は滲み混ざり合い、淡紅色の幻想空間を作り出す。トロは前方を確認することも忘れてその光景に見入っていた。
sakura5.jpg
このイラストの著作権はユズキさんにあります。

「若いの」声を掛けられていることに気づいたのは何回目に声を掛けられた時だろう?トロは老人の方を振り返った。
「ホホッ、やっと気がついたか。ちゃんと前を見てもらわないと気が気じゃ無いぞ」老人の皺だらけの口元が笑っていた。
「ごめんなさい」トロは素直に頭を下げて前を向いた。
「若いの、名は何という?」
「ウチ?ウチはトロといいます」
「ではトロ、この花が何という花か知っているのか?」
「ううん知らない」トロは当然のように答えた。
「この花は“サクラ”というのだ」
「サクラ……ふ~ん、良い響きだね」
「その中でもこれは掛け合わせによって人工的に作られた“ソメイヨシノ”という品種だ。葉が出る前に一気に花が咲くというのが特徴だ」
「一気に!それでこんなに綺麗んだね」トロはまたあたりを見渡した。
「トロ、この花はなぜこんなに美しいと思う?」
「え?そういう品種だからじゃ無いの?」
「ホホッ!その答えでは身も蓋もないな。トロ、この木は人の血を吸って美しい薄紅色になるのだ」
「え?血!」トロは真っ赤な血を吸い上げる木を想像していた。
「ではトロ、お前はこの線路の先に何があるか知っているか?」
「もちろん、この先は接触点だよ。こんな所に行くなんて変なお客さんだと思ったもの」
「ホホホッ、変な客か?」老人はまた頬を緩めた。
「あ、ごめんなさい」トロはしまったという顔をした。
「トロ、お前はこの接触点がいつ出来たのか、知っているか?」
「ずいぶん昔?」
「ホホッ、そう、ずいぶん昔だ。100年前の事だ」
「100年」トロは単純に繰り返した。顔は前方を見つめている。
「その様子ではどのようにしてこの接触点が出来たか知らないのだな?」
「うん、知らない」
「100年前、空から都市が降ってきたのだ」
「トシ?」
「そうだ、人口15万人の街が降ってきたのだ。落ちてきた都市が最初に地面に接触した地点、それが接触点と呼ばれている」
「トシって、人がたくさん住んでいるあの都市のこと?」トロは老人の口から出る言葉が理解できなかった。
「そうだ人口15万人の都市だ。それが空から降ってきたのだ」
「人工15万人って、人が15万人住んでいたという事?」
「まだわからんのか?そうだ、それが降ってきたのだ」
「じゃぁ、住んでいた人はどうなったの?」
「考えなくてもわかるだろう」
「みんな、死んだということ?」
「そうだ、ここに有った都市に住んでいた人も合わせて100万人がな」
「みんな?なぜ?」トロは老人を見つめた。
「さて、なぜだかは私にもわからん。人は愚かな生き物だからな。後に起こった10年戦争で記録もすべてなくなった」老人は淡々と語った。
「私はここを記念公園にしようと提唱し、実際に公園を作った者の最後の生き残りだ。接触点を中心に半径10キロをサクラの森にしたのも私達だ。だが、この公園の意義や理念もその後に起こった第二次10年戦争で消えてしまった。もっとたくさんの人が亡くなったからな。そして今ではこの公園に近づく者も居ないありさまだ」
「そうだね、ウチも調べるまでここのことは知らなかったし、こんな仕事をしているのにここへ来るのは始めて。でも本当にここのサクラの花は100万人の人の血を吸っているからこんなに美しいの?だからなんとなく気味悪がって誰も近付かないの?」
「ホホッ、確かにこの花は美しすぎる。あまりに艶やかだ。人の血でも吸っていないとこんなに美しい色にはならない……と考える者がいても不思議は無い」
「そうだね、本当にたくさんの人が死んでここに埋まっているの?」
「本当のことだ。ほとんどが気化してしまったと思われるが、確かにこの場所に100万人の魂が埋まっている」
「でも、そうだとしてもウチは大丈夫だよ」トロは気丈な声を出した。「本当にそれだけの人の血の色が入っているのなら、余計にそれは綺麗だし、今回の依頼は払いもとびっきりよかったからね」
「たくさん払ったのはここへ運んでくれるトロッコ屋が居なかったからだ。みんな気味悪がって、飛びついてきたのは金に目が眩んだお前さんくらいのもんだ」
「え?ひど~い」2人は声を合わせて笑った。
sakura4.jpg
このイラストの著作権はユズキさんにあります。

 間もなくサクラのトンネルは終わり、トロッコは森の中の少し開けた場所に出た。
 森が開けるとそこは広場になっていて、1台のトラックが停車しているのが見える。
 線路は広場に中心に埋め込まれた直径10メートル程の石の円盤の傍を通り、また森の中へと消えている。
「そこで止めてくれ」
 トロは老人の指示に従って、その円盤の傍でトロッコを止めた。
 トラックの蔭から人影が現れた。トロの目つきは少し警戒を含んだものになった。
 近寄ってきた人影は10人のやはり老人で、男と女の構成は半々だった。
「あなたもついに世捨て人の仲間入り?」先頭の女性が声をかけてきた。彼女がリーダーのようだ。老人達の中では見掛けも動作もまだ若さを保っている。
「ようやく、と言って欲しいものだな。ようやく解放されるのだ」トロッコの上から老人が答える。立ちあがって台車から降りようとする老人を、先に飛び降りたトロが抱え上げ、そっと地面に下ろす。
「すまんな」老人はトロに礼を言ってから「さあトロ、もう用は済んだぞ。引き上げてくれ」と言った。
「引き上げるけど、あなたは?それにこの人たちは?」トロは何の説明も無しに、老人をここに置いて帰れないと思った。
「私はこいつらの仲間に入る。そしてここで暮らす。だから気兼ねなく引き上げてくれ」老人は優しい目つきでトロを見上げた。
「あなたトロとおっしゃるの?」先頭の女性はトロに声をかけた。
「はい、あなた達は?」
「私達はこの森の森番、この森を守っているの。ここは公園だし、管理をしないと森は荒れてしまうわ」
「サクラの森が?」
「サクラの中でもこの種類はね、子孫を残せないの。挿し木で増えていくしか種を維持できないから、人が管理をしないと消えてしまうのよ」
「ソメイヨシノのこと?」
「そう。よく知っているわね。この木はここに相応しい。妖しいくらい美しい花だわ。私達は生きている限りこの森を守っていく。でも私達はもう年寄りよ。そう長くは生きられない。私達の寿命が尽きるとこの森も荒れていって寿命を終える。とても素敵なことだわ」彼女は遠い目をした。
「私もこれまで一生懸命この森を行政側から守ってきた。だが全ては忘れ去られ、もうその必要も感じなくなった。これからはここでこの森と一緒に朽ちていこうと思う。いつまでも生きていられるわけでは無いのだからな。私の最後のわがままだ。それぐらいは許されるだろう」老人は少し寂しそうに言った。
 トロはまだ納得した顔はしていなかったが「そうなのかな?でも事情はわかった。ウチには何も言う資格は無いよ」と言うとトロッコの分解にかかった。
 一度マルベル機関をおろして向きを逆にする必要があった。そうしないと逆には走れない。トロッコの各パーツはトロ1人でも分解組み立てや乗せ替えが出来るように作られている。だが老人達が手伝ってくれたので、とても少ない時間で逆向きに乗せ替えることが出来た。
「ありがとう」トロは礼を言った。
「なに。こちらこそ礼を言うぞ。気をつけてな。では今生の別れだ。トロ、最後にお前に出会えて楽しかったぞ」
「ウチも楽しかったよ。じゃあね。さよなら」トロはトロッコを発進させた。
「さらばだ」老人は別れを告げた。
「元気で!トロ」リーダーの女性が声を掛け、森番達は各々手を振った。
 トロのトロッコは広場を抜けサクラのトンネルに入った。老人達の姿は薄紅色に霞んでいく。幾千幾万の花はトロッコの動きに合わせて前方から後方へと流れ去り、1つ1つの花は滲み混ざり合い、淡紅色の幻想空間を作り出す。まるで異次元から空間の境界を抜けて元の世界に戻って行くみたいだ。
 トロはマルベル機関の出力を上げた。

「エス!」声を掛けられていることに気づいたのは何回目に声を掛けられた時だろう?エスは振り返った。
「やっと気がついた?何をぼうっとしているの?ケーキが出来たよ」ケイの口元が笑っていた。
「ごめんなさい」エスは素直に謝ってケイの方を向いた。
「また書くのに夢中?」
「ごめんなさい。今、見直しが終わったところなの、こんなんで良いのかまだまだ不安だらけ、このお話は今までの物より展開や結末に不安な部分がたくさん残ったの。自分でもまだ見直さなくちゃいけないし。父さんにも推敲してもらわなくちゃぁ」フウ……とエスはため息をついた。自分の書いた物の展開に納得できていないときの癖だ。
「その前に見てみてよ」またかという顔でケイが声を掛けた。エスはケイの声に導かれるようにキッチンへ入って行った。
「うわ~素敵!生クリームたっぷり!それにイチゴ美味しそう!ありがとう」少し沈んでいたエスの顔は一気に明るくなった。
「今年はイチゴが安かったからね。ちょっと奢っちゃった」ケイの顔も明るくなる。
「うんうん!今夜が楽しみ!父さん、何時頃になるって言ってたっけ?」
「今日は休日出勤だから早いって言ってた。お風呂を済ませて速めに始めよう。ダイスケにはあなたの誕生日って言ってないけど、憶えてると思う?」
「わかんない。けどかなりの確率で忘れてると思う」
「私は憶えてると思うよ」ケイは片目をつぶった。


2014.03.30

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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
イラストをクリックすると記事に飛びます。よろしければご覧くださいネ!
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