Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

絵夢の素敵な日常(12)Porto Expresso

Stella/s 月刊・Stella ステルラ 3月号参加作品

 空気の読めないお嬢様、絵夢が素敵!と感じたことを感じたままに写し取る、読んでくださる方の都合など全く考えない、とっても自分勝手なショートストーリー。

イラスト:sidaさん(絵夢のイラストはブログ「孤男絵」を運営されているsidaさんのところからお借りしています。素敵なイラストありがとうございます)

監修と写真:八少女夕さん(この物語の町の様子は、夕さんの協力で描き出されています。また料理についても助言をいただいています。さらに掲載している写真はすべて夕さんの提供によるものです。心から感謝いたします)


絵夢の素敵な日常(12)Porto Expresso

 絵夢はボーディングブリッジを出るとクルリと振り返り片手でカメラを構えた。ターミナルビルの大きなガラス窓の向こうには、フランクフルトから乗ってきたエアバス320型旅客機が見えている。レンズに捕らえられた彼女は、美しく輝く真っ白なボディーをキラリと光らせた。「ありがとう」絵夢はそう呟くとシャッターボタンをそっと押さえた。
 昨日までは曇りがちだった初秋のポルトは、今日は突き抜けるような青空の下にあった。

      絵夢

 絵夢はバゲージクレームで荷物が出て来るのを待っている。
 視界の隅にはダークスーツの山本の姿が見え隠れしているが、それはあえて無視する。暫く待っていると、見覚えのある大きなスーツケースが流れてくる。絵夢は慌てて駆け寄ろうとした山本を再び無視してスーツケースを降ろすと、山本にチラリと笑顔を向けてから歩き始めた。
 絵夢は到着ゲートを出ると左右を見渡した。
「絵夢!」声のする方には長い髪をツインテールにした少女が立っている。「ミク!」絵夢は軽く手を挙げて少女に近づいた。
「お久しぶりです。絵夢!ようこそポルトへ!」ミクは右手を差し出す。
「お招きありがとう」ニッコリと笑うと絵夢はその手に握手して「ごめんね。遠慮無く来ちゃった」と言った。
「いえ、こちらこそ気楽にお招きしたんですけど、ご迷惑じゃ無かったですか?」ミクは少し上目づかいに見上げてくる。
「大丈夫。ちょうどドイツへ来る用事があったから、上手くごまかしてそれにくっつけて来てしまいました」絵夢は悪戯っぽく片目をつぶって「でもあなたが迎えに来るって聞いた時は驚いたわ。メイコとはずっとエアーメールでやり取りをしていたから、打ち合わせにも時間がかかっていたんだけど、途中から電子メールになってとても助かったの。メイコの傍にあなたが居るようになったからだったのね?」と訊いた。
「はい、おばあさまに電子メールを教えてしまいました。タブレットをプレゼントしたんです」ミクは少し得意そうだ。
「そうだったの」
「うん、でもとっても優秀な生徒だったんですよ」
「ふ~ん、メイコ、けっこうやるね」
「なんでこんなに便利な物を知らなかったんだろうって怒ってました」
「自分に対して?」
「いつもそうなんですよ」ミクはそう言ってから、思いついたように「絵夢、食事はまだですよね?」と訊いた。
 絵夢はフランクフルトで昼食を食べた後、何も食べていなかったので「ええ、食べてないけど?」と答えるとミクはホッとした顔をした。そして「じゃぁおばあさまの所へ、いざ!」と絵夢からスーツケースを取り上げて背中を向けた。
「あ、ありがとう」(いざ!か……メイコの影響かな?)絵夢はミクに覚悟のような物を感じたが、一瞬遅れて歩き出した。

 空港とポルトの都心部はメトロと呼ばれる電車が結んでいる。ミクは並んで歩きながら絵夢をメトロの乗り場へ案内した。
 ドームで覆われたメトロ乗り場には、大きな窓のモダンなデザインの車両が発車を待っている。ミクが乗車カードを用意してくれていたので、絵夢はそれを乗り場の読み取り機にかざし、一番前の車両の窓側に腰かけた。
「始めての街だもの、やっぱり見晴らしは大切よね」絵夢はミクの顔を覗き込んだが、ミクはそれには笑顔で答えただけで絵夢の隣の席に腰を下ろした。絵夢は歩き始めてからミクが無口になっていることを気にしていた。
 やがてドアを閉じるとメトロは都心に向けて出発した。
 ミクは少し考え込むように窓の外を眺めていたが、やがて意を決したように絵夢の顔を見つめると「絵夢!」と呼びかけてから少し大きな声ではっきりと言った。「おばあさまを連れてきてくれてありがとう」
 絵夢は最初、何の事だかわからず目をパチクリとしたが、宝塚大劇場へメイコを案内した時の事だと分かると「ううん。なんでもないことだよ。でも、お節介だったかな?」と言った。
「あのままだったら、おばあさま、折り返しの電車に乗ろうと考えていたんです。絵夢が声をかけてくれなかったら、おばあさまはわたしの所へ来てくれなかったんです。もし、そうなっていたら……わたし」
 絵夢はミクの目に涙が溢れそうになっているのを見てそっと肩に手を回した。ミクは口の周りの筋肉にキュッと力を入れると再び話し始めた。
「わたし、ここに来ることは出来なかった。だから!どうしてもお礼を言いたかったの。ありがとう」ミクは頭を下げた。
 絵夢は少しの間驚いた顔をしていたが、すぐに柔らかい笑顔になって、ミクの肩に優しく手を回したまま「どういたしまして」と言った。
 ミクは少しの間逡巡している様子だったが、絵夢の顔を見つめながら口を開いた「わたしはずっといじめられっ子だったの」
「そう……」絵夢の答えは簡潔だ。
「わたしの声、少し高いでしょ?髪も絶対に短くしないし。だからかな?」
 絵夢はミクの肩を抱く手に少し力を込めた。「ここでの生活は満足?」
「うん、とっても!」ミクは顔を上げた。
「そう。よかった」
 ミクは空港で出会った時の明るい顔に戻ると「あ、メイコに連絡を入れておかなくちゃ」とメイコに連絡を入れた。そして、ポルトでの新生活のことを話し始めた。
 色々なエピソードを語るミクの話を聞くうちに、メトロは坂を下って地下へと潜り込む。「あらら……せっかく眺めの良い席に座ったのに」
 楽しげに話していたミクは絵夢の言葉に思わず笑いを漏らした。「ふふふ……メトロは街の中心部は地下鉄になってるの。眺めは暫くの間お預けだよ」
「それは残念」
「もう暫くしたらLinha Dに乗り換えるの。そして少し走ったらまた景色が見えるようになるよ」
「じゃぁそれまで我慢するわ」2人はポルトの話を再開した。
 やがてメトロは乗換駅のホームに滑り込む。ミクは「絵夢、ここで乗り換えだよ」と立ち上がった。2人は一緒にトラムを降りホームを歩き始めた。
 その時背後から『ミク』と声がかかった。振り返ると男の子3人、女の子2人の5人組が手を振っている。髪の色も肌の色もそれぞれが違う5人は、大きな声で『ミク!』ともう一度呼びかけた。
 ミクは振り返って声をかけてきた相手を確認すると「絵夢、ちょっと待っててくれる?」と言った。
「いいよ、ごゆっくり」絵夢がそう答えると、ミクは小さく手を振りながら5人に駆け寄っていく。
 5人はミクを加えて賑やかに喋り始める。会話の内容は聞こえないが時々こちらを見るのは絵夢の事を説明しているのだろう。暫くすると『じゃぁね!』そう言う感じで挨拶を交わして、ミクは絵夢の方に駆け戻ってきた。
「ごめんなさい。遅くなっちゃった。こっちだよ」ミクはスーツケースを曳いたままエレベーターに絵夢を案内すると地下に降り通路を進んだ。
 エスカレーターを上がると、乗り換えるLinha Dのメトロはもうホームに止まっていてドアを開けている。2人は駆け足で乗り込んだ。絵夢はまた見晴らしの良い席を選んで窓際に腰かけたが、ミクは少し笑ってから「こっちの方が良いよ」と左側の後ろ向きの席を薦めた。「そう?」絵夢はその窓際の席に座り直し、ミクも隣に腰かけた。
「今のは学校のお友達?」絵夢がそう声をかけるとミクは「うん」と頷いた。
「インターナショナル・スクールなのかな?」絵夢は推測を尋ねる。
「うん。わたし、英語は少し喋れるから。でもポルトガル語もずいぶん覚えたよ」
「楽しい?」
「まあね!」はにかむようにミクは答えた。
 やがてメトロはトンネルを抜ける。

   リベイラ

 そして「わあ!!!綺麗」窓の外は暗いトンネルの中からいきなり空中に飛び出したように変化する。メトロは高い橋の上を渡っていて、絵夢の眼下には煉瓦色の屋根が連なる古い町並みと大きな川の流れが拡がっている。絵夢はしばらくの間窓ガラスにおでこをくっつけて、抜けるような青い空と煉瓦色の屋根瓦のコントラストの美しさに見入っていた。
「この橋はドン・ルイス一世橋、このリベイラの街並みは一応世界遺産だよ。リベイラって川岸っていう意味なんだけど」ミクが解説してくれる。「明日一緒にあそこへに行ってみる?」そう付け加えたミクに絵夢は大きく頷いた。
 メトロは橋を渡り終えると路面電車のように道路の中央を走り始めた。
 旧市街を離れ、幾つかの停留所を過ぎると、会話に区切りを付けたミクが「次でおりるよ」と立ち上がった。
 メトロは滑らかに停車し、2人は仲良く並んでホームに降り立った。
 メトロの停留所は道路の中央に有って、その道路に沿って中層の集合住宅が立ち並んでいる。2人は車道を渡るとメトロの通りを離れてゆっくりと歩いて行く。裏道に入ると喧騒も遠くなり、静かな住宅街が広がっている。ミクはスーツケースを曳いて幾つかの角を曲がってからクルリと振り向いた。
「ここだよ」そこは何軒かの家が繋がったテラスハウスの、一番左端の一軒の前だった。
 たくさんの花が咲き乱れる小さな庭や窓辺に置かれたフラワーポットは、小奇麗に管理された建物と共に、メイコの人柄を表しているようだ。
「どうぞお入りください。亭主がお待ちしています」ミクは改まった口調でそう告げて玄関ドアを開けた。
『おばあさま!連れて来たよ』ミクがポルトガル語で奥に声をかけると、真黒な固まりが玄関ホールに飛び出してきた。相変わらず黒で統一された服装のメイコは「絵夢!よく来てくれたわね。宝塚ではお世話になりました」そう言いながら絵夢をしっかりと抱きしめた。
「お招きいただいて、ありがとうございます」絵夢もしっかりと抱擁を返す。
「さあ!入って。用意が出来ているわ。お腹すいたでしょ?」
「あら?そう言えば……」絵夢はミクと目を見合わせてから「メイコ?出来れば荷物を置いてきたいんですけど……」と言った。
「ああ、ごめんなさい。嬉しくてすっかり舞い上がってしまったわ。ミク、案内してあげて」
「はい!絵夢、こっちよ」ミクはスーツケースを持って階段を上り、突き当たりの部屋へ絵夢を案内した。小さな屋根裏部屋だったが、きちんと片付けられた部屋には寝心地のよさそうなベッドが置かれ、窓からは街並みが見えている。
「素敵な部屋ね!」
「洗面所は階段の右横だよ。じゃぁ、下で待ってるね。首を長~くして」ミクは小さくウィンクすると階段を降りていった。

 旅装を解いた絵夢はリビングへと案内された。
 レースのカーテンが掛けられた窓の向こうは隣のテラスハウスに遮られていて見晴らしは良くない。だがレース越しに日光が緩やかに差し込む室内は、清潔でセンス良く装飾され気持ちよく片付いている。
 中央に置かれた大きな食卓にはメイコの手作りだろう、そしてきっとミクも手伝ったのだろう、魚介類を使ったタパスやフライの盛り合わせなど、たくさんの料理が並んでいて良い匂いが漂っている。

   ポルト_料理01 ポルト_料理03 ポルト_料理02

「どうぞ絵夢、こちらの席へ」メイコが座り心地の良さそうな椅子を示す。
「うわぁ!美味しそう!!!」絵夢は歓声を上げ、メイコとミクは嬉しそうに顔を見合わせた。
「ありがとう」絵夢はミクの引いてくれた椅子に優雅に腰掛けた。
「絵夢、あなた飲めるわよね?」メイコはグラスにワインを注いだ。
「これはポートワイン?」
「そう、ご名答。まず食前酒で乾杯よ」
「じゃぁわたしも!」ミクもグラスを差し出す。
「あなたはだめよ!こっち」メイコは同じ色の液体の入った瓶を向けた。
「つまんないの」ミクはそう言いながらもグラスを差し出した。
「では改めて」メイコはグラスを掲げ絵夢とミクがグラスを持つのを確認すると「絵夢、ようこそ私達の町ポルトへ」と声を掛けた。
「お招きいただいてありがとうございます」絵夢はそう答えて2人とグラスを合わせた。
「うん、甘くて美味しい。チーズにも合うわね」
「この辺りにはポートワインのワイナリーがたくさんあるから明日行ってみる?」ミクが提案する。
「行ってみたい」絵夢は一も二も無く賛成した。
 食前酒を空にするとドゥロの赤ワインに切替える。
「これはポルトを流れるドゥロ川流域で作られる赤ワインなの」とメイコが注いでくれる。
「あ、これも素敵!」絵夢はクィッとグラスを傾ける。
「絵夢、ペース速いわね。だいぶいける口ね?」
 そして、メイコの日本行きの後日談に花が咲く。
「これはねバカラのフライ。あ、バカラって鱈の干した物ね」「これはタコのグリル、それに鱈のグラタン」次々と料理が追加されミクが説明してくれる。

   ポルト_料理06 ポルト_料理04 ポルト_料理05

 出てくる料理に絵夢は「美味しい」を連発するが、メイコの作る料理は量が半端で無い。
「お腹がいっぱいになってきちゃった。食べきれないわ」ついに絵夢はお腹をさすったが「次は貝のワイン蒸しだよ。どんどん食べてね」とミクが料理を運んできた。
「ホウ……」絵夢は満腹の意思表示をしたが、それでも料理に手を伸ばした。
「白黒の貝だね」絵夢は身を食べてから貝殻を裏返しにした。
「この貝面白いでしょ?パンダ貝って言うんだよ」ミクが解説を加える。
「パンダ貝?白黒だから?」絵夢の顔は少し赤くなっている。
「嘘よ~。アサリの一種ね」メイコが答える。メイコの顔も赤い。
「え~?本当かと思った」絵夢の答えに2人の笑い声が重なった。

「山本です。お嬢様の目的地への到着を確認しました。2泊滞在される予定です」
「はい、身元もしっかり確認できておりますし。彼女らにまかせておけば大丈夫かと……」
「増員は無いのですか……」
「そうですか。わかりました」山本は携帯を切った。
 欧州の西の果ての町。その住宅街の一角に佇むダークスーツの東洋人は、周りから激しく浮いていた。
 山本の携帯がコールを鳴らした。
 慌てて携帯を見た山本は、絵夢から送られてきた夕食への招待メールを確認した。

2014.02.10



この物語は、絵夢の素敵な日常(10)(Promenade)の続きです。構想はずっとあったのですが、山西左紀(2人共ですね)には舞台の町の土地勘がまったく無くて、おそらくこのままだとずっと完成しない物語だったと思います。
 この完成しないはずの物語、書き始めたのはsidaさんにイラストの使用許可をいただいたのがきっかけです。それならばと、絵夢シリーズのストーリーを考え始めた時、あの話(Promenade)の続きへと繋がったのです。多分。

 そしてこの作品を書きたくなったサキは、(Promenade)でその舞台を設定するきっかけを作ってくださった夕さんに協力をお願いしたのです。お忙しい中、細かい部分まで助言をいただいてこの物語は完成しています。
 で、ですね。サキはこの作品も一種のコラボレーションであると考えて「scriviamo!」に出すことにしました。2作品目になりますけどよろしいですよね?
と、お願いしたら夕さんが二次創作を書いてくださいました。このお話の続きです。
【小説】追跡 — 『絵夢の素敵な日常』二次創作

scriviamo!

 改めてお2人に感謝の意を表するとともに、この作品を捧げます。(って言われてもご迷惑かな?)


本作品に使用されているイラストの著作権はsidaさんに有ります。
本作品に使用されている写真の著作権は八少女夕さんに有ります。

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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

物書きエスの気まぐれプロット7(1コマに戯れる)

 起動に失敗したA.I(人工知能)S9004のサルベージは、同じA.Iの試作機S9000を使って行われた。あらゆる不測の事態を想定し、用意周到に行われたサルベージは見事に成功した。そしてS9004は起動した。研究者達はモニター上に表示される起動確認出力「Hello world」に歓喜し安堵した。その出力の後に表示されたプロンプトは、開発者たちの問いかけを待っているように物欲しげに見えた。
 起動したA.Iには開発チームから選りすぐられたメンバーで構成された専属チームが四六時中貼りつき、起動メンテナンスを行う事になっている。
 彼らは試作0号機から3号機までの4機のA.Iから得られた経験と精神原型のバージョンアップ情報を踏まえながら、慎重にS9004とのコミュニケーションを開始した。その作業は非常に順調に進んでいるように見えた。
 だが間もなく研究者達は混乱のどん底に突き落とされることになった。
 S9004はコミュニケーション開始後30分で自己崩壊ループに入り込んでしまったのだ。

「何故だ?サルベージは上手くいったはずだ。何故一旦起動したA・Iが自己崩壊ループに入る?」意味が分らず激しくパネルを叩きつける。
「S9004の状態を再度確認中です」冷静な報告が入る。
「なんとか抜け出せないか?」一抹の希望を胸に問いただす。
「S9004閉塞を確認!」願いもむなしく緊張した声が響く。
 落胆の気配が全員を支配した中、アラームが鳴り始める。
「S9004、S9000を浸食しています!」
「しまった!」
「自我境界が崩壊していきます」
「切断だ。ケーブルを引っこ抜け。早く!」喚くように指示を出す。
 近くにいた者が筐体に駆け寄って次々とコネクターを引き抜く。
 アラームが鳴り続け、モニターには幾つものエラーウインドウが開いていく。
「間に合わなかったか!」
「ダメージを計算中」
 一番最後に開いたウインドウに大量のメッセージが流れ、ものすごいスピードでスクロールする。
「上手くいったか?」
「フリーズ!入力を受け付けません」
「両機とも自動修復プログラム起動!60秒で再起動がかかります」
「バカな!」絶望感が襲ってくる。
「再起動までに出来るだけリカバーするんだ。急げ!」
「リカバー走ります。進路、オールクリアー」
 もう1つ小さなウインドウが開いてプログレスバーが表示される。
「行っけー!」
「たのむ!間に合ってくれ!」最後の処理に希望を託す。
 バーは伸びていく。

ゆっくりと意識が戻ってくる。
ボクはどこかに横たわっている。
そして上を見上げている。
遥か上にあるのは水面?
ユラリユラリと光を屈折させ、反射し、揺らめく様はどう見ても水面だ。
ここはどこ?
ボクは考えようとしたが、あまりの気だるさに全てを放棄した。

ボクは上半身を起こしてあたりを見渡す。
と……足元に誰かがうつ伏せに倒れている。
ボクは起き上って近付くとゆっくりと屈みこむ。
目元に下がってくる髪の毛が邪魔だ。なんでこんなに長いんだ?
手でそれを払いながら、そっと彼の顔を覗きこむ。
ボクの思考は一瞬停止する。
ボクだ!ボクが倒れている。
じゃぁボクは誰だ?
そっと自分に触れる。
長い髪。柔らかな体。
うそだろ?
ボクは一体誰なんだ!
そして彼は?ボクじゃないのか?
周りには他に誰もいない、何も無い、虚無の気配が漂うだけ。
まったく音の無い静寂の世界。

1コマで戯れる

ボクは倒れているボクの手にそっと触れる。
暖かい。
手首を掴んでじっと神経を集中する。
トクットクットクッ……小さな鼓動が伝わってくる。
ん……彼が小さく呻いた。
トクットクットクッ……ボクの鼓動が頭の中から聞こえる。
トクトクトク……そして速くなる。
彼は誰?
そしてボクは?
ん……?
やがて彼の瞼がゆっくりと開き始めた。

「S9000の再起動を確認しました。自我の構成を確認、今のところ安定しています」
 全員に安堵の空気が流れた。一瞬遅れてため息と拍手が湧き起こる。
 しかし弛緩した空気は一瞬で張り詰めた。
「S9004の再起動も確認。状態は不明です。自我の構成を確認中」
 アラームが鳴り響いた。


「今度は断片を少し繋いでみたんだけど。どう?」エスはお願いの顔で覗き込む。
「少しは纏まったのかな。だがよけいに訳がわらなくなった印象だな。この人工知能Sのシリーズは本当にお前の独り善がりだ。そういう意味では“1コマに戯れる”というタイトルはピッタリだがな」ダイスケの眉間にはしわが寄ったままだ。
「最初のブロックはこの前見てもらったものなんだけど」エスは気にする様子もなく続ける。
「このイラストは?」ダイスケは表示されているイラストを指した。
「えへへ、この絵のために書いたようなお話だからね。いい絵でしょ?」
「そうだな。このイラストはとても良い」
「このブロガーさんの絵、素敵だなぁって、ずっと見てただけだったんだけど、この作品を自由に使って何か作品を書いてみてくださいって……、それでウチは飛びついちゃいました。どうしてもこの人の絵を自分の作品に使ってみたくなったんだ」
「こんな訳のわからん話に使ったら怒られそうだな」
「大丈夫!多分。心の広い人だから、きっと」
「ほとんどお前の勝手な推測じゃないか」小さなゲンコツがエスの頭に落ちようとしたが、エスは慣れた様子でそれをかわした。


2014.02.17
limeさんに……

本作品に使用されているイラストの著作権はlimeさんに有ります。
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太陽風シンドローム

Stella/s 月刊・Stella ステルラ 3月号参加作品

Solar wind syndrome

「アロー、アロー、どなたかこの通信を聞いてらっしゃいますか?」
 その声は突然俺のモニタリングコンソールに飛び込んできた。
 宇宙貨物船フォーチュン・アンナのブリッジでワッチをしていた俺は、その脳天気な声に慌てふためいた。そして目の前のパネルを忙しなく叩く。
 緊急チャンネルじゃない。「チッ、サウンド・オンリーか……」それは通常通信だった。
 相棒のダイクは仮眠中だったが何事が起こったのかと目を覚した。
「ダイク!妙な通信が入っている。発信源を特定してくれ」
「わかった」
 俺はダイクの了解の返事っを待ってから、ヘッドセットを付けてマイクのスイッチを入れた。
「こちら宇宙貨物船フォーチュン・アンナ、聞こえています。何か援助を求めていますか?」恐る恐る俺は尋ねた。
「アロー?やっと返事が来た。いいえ、そういうわけではないの。何もする事が無いものだから、呼びかけていただけなの」
 やはり女の声だ。俺は思わずダイクと顔を見合わせて目配せをした。
「今、本船はステーション104へ向けて航路PZ7637を航行中。自動操縦だから暫くはお相手できますよ」久しぶりの女に俺の声は少しうわずった。
「そうなの?よかった。でも嬉しいな。これまでずいぶんと呼びかけていたんだけど初めてなの。応答があったのは」
「そうですね。ここは辺境ですからね。PZ7637なんて4桁航路を航行する奴なんか滅多にいないですよ」
「じゃぁ、あなたはどうしてそこを航行しているの?」
 クッ、痛いところを突いて来やがる。でも俺は女を見つけて調子に乗っていたし、なんとなく大丈夫なような気がして答えた。「いろいろあってね。まぁ、あまり臨検を受けて時間を無駄にしたくないって、そういうことかな」
「そう、何を積んでいるのかしら?」
「それには答えられないな。あまり詮索が過ぎるようなら通信を切りますよ」
「あ、待って!それはダメ。話題を変えるわ。あなた、お名前は?」
「俺ですか?俺はアマノ・ユウサク、ユウサクでいいですよ」
「じゃぁユーサク、あなたは今退屈?」女が小首を傾げる仕草が脳裏に浮かぶ。
「そうだな。もうトゥーランティックを出発して4ヶ月にもなるから。そりゃぁ、退屈だな」
「退屈ってどんな感じ?」女は頬杖をついているような雰囲気だ。俺は質問に違和感を感じながら答えた。
「そうだなぁ。俺達の船の操縦はコンピュータが担当していてオレ達は手を出す必要は無い。何もする必要が無いというのは良いんだが、何もする必要が無いと無性に何かをしたくなる。それが退屈ということなんだろうな。反対に何かする必要が有ると、何もしたくなくなる」
「そうなんだ」女に納得した様子はないが、俺は構わずに続ける。
「今度は俺の番だ。きみの名前は?」俺も頬杖をついて優しく尋ねる。隣の席ではダイクの奴がパネルを操作しながらニヤリとする。
「わたし?わたしはセシル」
「じゃ、セシル?きみは今、退屈かい?」
「そういう意味なら、わたしは今退屈しているわ。だってする事が無いんですもの。目覚めてから眠るまでジッとしているだけよ」
「セシル、きみは今どこにいるんだい?」
 俺は核心に触れるとマイクを一旦切り「発信源は?」とダイクの方を向いた。
「まだ特定中だ。微弱な電波なんで追跡が難しい。ちょっと待ってくれ」ダイクがコンソールを覗きながら答えを返してくる。
「ここ?表現できないわ。何も無い所よ。する事も無いの」セシルが答える。
 俺はマイクのスイッチを入れて尋ねる「他に誰かいるのか?」
「誰もいないわ。わたし1人」(どういうことだ?)俺達は顔を見合わせた。
 ダイクが手で合図し、俺はマイクを切る。
「特定できた。発信源はエリア72セクション1243、表示する」ダイクはそう言いながら位置を3次元モニターに表示した。
 俺は「そこには準惑星があったな?」と訊いた。
「ああ、ATN362がある」
 ふむ、俺は軽く頷くとマイクのスイッチを入れた。
「セシル、1人だと寂しくないのかい?」試しにそう聞いてみる。
「寂しいって、どんな気持ちかしら?」
「そこには誰もいないんだろ?誰もきみの話を聞いてくれないし、誰もきみに話しかけてくれない。人間というものはそういうことに長時間耐えることは出来ないと思うんだ。どう?」
「どうかしら?わたしは耐えられないような状態になったことはないわ。仕方が無いことだもの、目覚めればジッと刺激を待ち、そして眠るの。ただそれだけよ」
「でもきみはジッと待たずに話しかけてきた。自分からだ。そうだね?」
「そうね」
「それは寂しかったからじゃないのか?ただ退屈しているだけなら他にもする事はあったろう?」
「わたしが話しかける気になった。そういう状態を寂しいと言うのなら、わたしは寂しかったのかしら」
「ATN362には何か有るのか?」俺はマイクを切ってダイクに訊いた。
「何も無いな。ただ、以前はビーコンが置かれていたという記録がある。現在は閉鎖され破棄されているようだがな。そのビーコンのデータを上げる」
 モニターにはデータが表示された。


●準惑星ATN362ビーコン局(廃止)
・SS94年準惑星ATN362をステーションとして利用する事を前提に有人基地として設置.試作機ではあったが新鋭の人工知能CEC12000を配備.
・同97年利用計画が凍結されたため無人化.緊急シェルター及びビーコン局として設備を転用.
・同100年103ステーション建設のため利用計画は頓挫.緊急シェルターとしての登録を抹消.
・同110年ビーコン局としての運用を終了.設備は廃棄.


「CEC、Cecile……それか……」俺は思わず呟いた。
「廃棄されたのならシャットダウンされているはずだ、なぜ起動している?」ダイクは納得できない様子だ。
「そんなこと分るもんか。なんかの事情で生きているんだ」
 俺はマイクのスイッチを入れる。
「セシル……」
「何かしら?ユーサク」
「やっぱり、きみは寂しかったんだよ」
「あなたがそう言うならそうだったのかもね。でも意識してなかったわ」
「意識する必要は無い。セシル、きみは今までのままで良いんだ」
「そう?わかったわ。あなたがそう言うのならそうする」俺はニッコリと笑うセシルの顔を想像した。
「ユーサク?」
「なんだ?セシル」
「電圧が下がってきたわ。ここはこれから暫くは太陽の光が差さなくなるの」
 ダイクが合図した。俺はマイクを切る。
「ビーコンは間もなく夜の面に入る。この星は公転と自転の関係で一旦夜に入ると10年程は夜が続く。多分CEC12000はビーコンの太陽電池だけで動作している。原子力電池はもう尽きているからな」
「じゃ、セシルは10年間呼び続けて、最後の瞬間に俺が電波を捕らえたのか?」
「そういうことになるのかもしれない」
 俺はマイクのスイッチを入れる。
「セシル。きみはこれからどうなる?」
「電圧が下がったら、わたしは自動的に休止モードに入るの。そして電圧が上がるまで眠り続けるの」
「今度目覚めるまで、きみは俺のことを憶えていてくれるのかな?」
「わたしのメモリーは優秀よ。絶対に忘れたりしない」
「俺も絶対にきみのことを忘れない。今度目覚めた時にまた会えると良いな」
「わたしもそれを願っているわ」セシルが甘い声で囁いた後、少し間が開いた。
 そして「いよいよ電圧が下がってきたわ。そろそろお休みを言わないと……」と声を冷静に戻して告げる。
「セシル、良い眠りを」
「ありがとうユーサク、あなたも良い人生を……お休みなさい」
「お休み、セシル」
「…………」通信は宇宙の果てしない闇の中に沈んでいった。

2014.02.24
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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
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アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
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