Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

名前の話、そして9000HIT

 9000HITに達しようとしています。
 Debris circus この奇妙な、更新もまばらな、ひとりよがりのブログにもかかわらず、まもなく9000HITと2周年を迎えようとしています。
 お付き合いいただいているブロ友の皆さん、コメントをいただいている皆さん、拍手をいただいている皆さん、そして覗いていただいている皆さん、ありがとうございます。
 感謝の気持ちを伝えるためにこの記事をUPさせていただきます。

 さて、今日は八少女夕さんの名前の話に触発されて名前の記事です。
これまで山西左紀がでっちあげてきた作品の登場人物の名前を一同に発表しちゃおうと思います。ではいきます。

「シスカ」左紀の処女作、長編ですがいまだに未完。
シスカ(キタハラ シスカ) 主人公 ヘリコプターの整備士でセミプロの歌手
ショウ 少年
シキシマ(シキシマ ミユキ) 少年の恋人
サエ シスカの幼なじみで親友
アツコ (シマ アツコ)シスカの親友 潜水艇のコパイロット
ロク(キタハラ ロク)シスカの義父
ナオミ(キタハラ ナオミ)シスカの義母
ヨウコ(アキヤマ ヨウコ)通訳兼看護士 シスカの小学校の同級生
キリュウ 潜水艇艇長
クラモチ 海洋調査プロジェクトリーダー
コバヤシ(コバヤシ レン)プロジェクトサブリーダー
イシダ プロジェクトサブリーダー
アルナ ベクル人の歌手
ラサ(ラサ タカジュナ)ベクレラのサルベージ会社社長
ボースン(ニックネーム?)サルベージ会社社員
ダイク サルベージ会社社員
オラク サルベージ会社社員
キナラグ サルベージ会社社員
イノウエ 海洋調査船乗組員
ナトリ 海洋調査研究員
ミヤシタ 国境警備隊員
サヌキ 国境警備隊員(女性)
エンドウ 国境警備隊員

「赤い記憶」シスカのサイドストーリー
エリカ 小さな女の子

「メテオ」エリダヌスシリーズのプロローグに当たるお話し
クウ 宇宙飛行士(クウと話をしているのはエカと思われる)
エリ 長女(彼女達の兄が登場するが語り手だったため名前が出てこない)
エカ 次女
イム 三女
テイ 四女

「エリダヌス」エリダヌスシリーズ本編
クウ 宇宙飛行士(クウの兄が登場するが名前は出てこない)
サリー A・I(人工知能SAL)

「Achernar (アケルナル)」エリダヌスの終章
キラ 末っ子(メテオの中で生まれている)
エカ 次女

「SAKURA」エリダヌスのサイドストーリー
マミ 宇宙貨物船エリダヌス船長 
クウ 宇宙貨物船エリダヌス乗組員
セリカ 宇宙貨物船エリダヌス乗組員
ロナ 宇宙貨物船エリダヌス乗組員
ワキシ 宇宙貨物船エリダヌス乗組員
サリー A・I(人工知能SAL)

「サイハテ」エリダヌスのサイドストーリー
サベナ 東カナル市を管理する受刑者

「Horologium(ホロロギウム)」エリダヌスのサイドストーリー
キラ 末っ子(メテオの中で生まれている)
エカ (黒いドレスの女)(もう1人黒ずくめの女が登場するが名前が無い)

「ほうき星」読み切り短編
エル 婚約者と旅行中
シン エルの婚約者

「V645 Centauri (プロキシマ)」中編小説
ケント 主人公 考古学者
タウリ ケントが出会う不思議な少女

「Blue Moon(青の月)」(サキの頭の中ってこんなふう?)短編
サキ 主人公

「白い月と黒い月」(連作)夢のように美しい理想郷で展開する孤独な物語
ゲンマ A・I(人工知能)
スピカ 理想郷に生活する女性

「254」 中編 男と女の日常と非日常
コトリ(サヤカ)バイク少女(バイクショップの親父も登場するが名前は出てこない)
ヤキダマ(コウキ)コトリに思いを寄せる大学院生

「720(Seven two zero)」 続編254enhancedのさらに続編
コトリ(サヤカ)(バイクショップの親父も登場するが名前は出てこない)
ヤキダマ(コウキ)
スギウラ 弁護士の先生

「1006(ラグランジア)」 254のサイドストーリー
サヤカ(コトリ)(あと少女が2人登場するが名乗らない)

「物書きエスの気まぐれプロット」シリーズ物
エス 主人公 ブログ小説を書く少女
ダイスケ エスの父親
ケイ エスの母親
トロ 劇中劇の登場人物
タモ 劇中劇の登場人物
S9000 A・I(人工知能)
アイ 劇中劇の主人公の妻
マイ 劇中劇の謎の女1
ミイ 劇中劇の謎の女2
S9004 A・I(人工知能)

「絵夢の素敵な日常」シリーズ物
絵夢 主人公 お嬢様
黒磯 絵夢の執事役
山本 絵夢の執事役(サブ)
由布 絵夢の親友
アバ(ニックネーム)由布の先生 
榛名(ハル)由布の幼なじみ
メイコ 絵夢の素敵な日常(10)Promenadeでのゲスト
ミク 絵夢の素敵な日常(10)Promenadeでのゲスト
香澄(コズミ)HONG KONG EXPRESSの主人公他

「アスタリスク」長編 未完
アルマク 主人公 長い金髪、赤い瞳の女の子
ミラク アルマクの尻に敷かれる男 料理が上手い 宇宙タンカーのナビゲーター
アンドロメダ アスタリスクのエースパイロット
デバラ アスタリスクのパイロット
アルフェラ ウェヌス族の末裔
ミナガワ・ヤスコ ミラクの同僚(ミラクの上司、部長が登場するが名前が無い)

 いかがでしたか?長々と書いてしまいましたが、結構たくさんいるんですね。いいかげんで適当な名前が並んでいると自分でも呆れてしまいますが、書き出しながら1人1人憶えていることには驚いてしまいました。でもサブキャラなんかが抜けているかも……。名前の無いキャラもおりますし大目に見てやってください。
 さて、まもなく9000HITなんですが、今回はキリ番リクエストはお受けいたしません。
 というのはまだ8000HITリクエストが2つ出来てないんですよ。
夕さんからの「香澄さんの続き~」お題は「さくらんぼ」、そして 栗栖紗那さんからのお題「懐中時計」です。
「香澄さんの続き~」はまもなく仕上がってると思います。コズミと、もう1人ユミが活躍します。そして発表したら、もう1つ残っている栗栖紗那さんのリクエストに集中しようと思っています。そういうわけですので、どうかお許しください。
 次のイベントは多分10000HITになると思いますので、その節はまたよろしくお願いいたします。山西のオリキャラを女性1人とお題を1つでいこうと思いますが、その際、上の名前一覧が参考になると思います。キリ番、踏まれたら軽い気持ちでいかがですか?リクエストが無いなんて寂しいですから。
 ではまた。

 感謝を込めて…… 山西左紀
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OSAKA EXPRESS(大阪急行)

「OSAKA EXPRESS(大阪急行)」

雲
雲 by 篠原 藍樹 2013/07/21 on pixiv

 キャセイ・パシフィックのボーイング747はゆっくりと高度を下げていく。窓の外を大阪城が通り過ぎ、キタのビル群が流れてゆく。淀川を渡り神崎川を越え阪神高速をかすめると、まもなく大阪国際空港32L滑走路だ。
 コズミは恐怖で閉じそうになる目を懸命に開け、手には冷や汗をにじませて窓の外を見つめている。コズミが見つめる窓の外には、2つの大きなエンジンとフラップをいっぱいに下ろした翼が見えている。やがて建物が途切れ、草地が広がって、そして滑走路だ。ドスン、ドドンッ、着陸の衝撃が伝わってくる。リバースと、スポイラーの展開で急激に速度を落した機体は、滑走路から誘導路に進入するとゆっくりとタキシングを始めた。英語のアナウンスが予定より早い到着を告げ、大阪の気象情報の案内を始めた。
 コズミは隣に見られないように小さくフゥと息をついた。
 19歳の誕生日を暫く前に迎えた彼女は、やせっぽちな体や、肩にどかないようにカットされたふわりした黒い髪から、一見弱々しそうな印象を受ける。
 だが、その下にある大きな目、その中にある猫のような大きな焦げ茶色の瞳、やや大き目の口や真っすぐ通った鼻、そしてそれらで構成された彼女の顔と相対し、よく通る声を聞けば、彼女の並々ならぬ意思の強さを感じ取ることが出来る。
 実際、彼女は自分の意思を押し通したために、かなり破天荒な経歴を持っている。高校へはほとんど通わず、18歳で男を追いかけて単身日本を飛び出し香港へ渡り、一人ぼっちで放り出されていたところを、長身でやせ形、ラフな感じで紺のスーツを着こなした男に助けられ職を得た。それはなんとヴィンデミアトリックスという名家の香港別宅の管理スタッフ、俗にいうメイドという変わった職業だったが、持ち前のバイタリティーでなんとか仕事を憶え、そしてその努力が認められたのか、日本の本宅での研修を命じられて一時帰国したのだった。もっともこの研修には2人目の子供、女の子が誕生して忙しさを増したヴィンデミアトリックス本宅の雑用を手伝うという側面もあったのだが……。
 コズミは何も知らないまま不安をいっぱいに抱え込んで出発した大阪国際空港へ、今一応の社会人として帰ってきたのだ。
 コズミは入国審査の列に並ぶ前に、肩から提げたポーチに入っている最新型の携帯電話の電源を入れた。日本へ戻る日程が決まった時、1人での行動が不安だからと渡された物だ。着いたらすぐに電源を入れるようにという指示を受けていた。
 入国審査を終え、バゲッジクレームでスーツケースを受け取る。香港に着いたときは、身の回りの物だけを入れた小さなスーツケースだったのだが、今は大型のスーツケースだ。何も持たず身軽だったコズミは、この1年で生活に必要な物を増やしていた。
 その重さに辟易としながら、優しそうなおじさまを選んで税関検査を終えて到着ゲートへ……。ゲートを出たところで彼が待っていてくれているはずだ。ゲートを出たコズミは長身でやせ形、ラフな感じで紺のスーツを着こなした男を探し始めた。
 コズミの目は並んだ出迎えの人々の間をくまなく動き回り、ゲート前のフロアを大きなスーツケースを引きずりながら何度か往復した。1年前、香港空港の到着ロビーで1人ぼっちで過ごした長い時間と耐えがたい孤独感が蘇り始めた頃、ポーチの中で携帯電話が鳴り始めた。
 コズミは慌てて電話に出る。
「ああ、もう着いてたか。今どこだ?」長身でやせ形、ラフな感じで紺のスーツを着こなした男からの電話だ。
「今、到着ロビーに出たとこ。黒磯さんは?」コズミは少し嘘をついた。そして周りを見渡した。
「すまない。緊急の案件があってな。今それが終わったところで、そちらに迎えに行けてないんだ」電話の向こうの黒磯の困った顔が見えるようだ。
「どういうこと?」つっけんどんに言葉を発してからコズミは『しまった!』と顔をしかめる。
「いや、今頃は到着ゲートでお前を待っているはずだったんだが。どうしても抜けられなくてな。今から出てもお前を待たすことになってしまう。すまないが、ターミナルビルの前からタクシーを拾って、そのまま本宅の方へ来てくれないか」
 いつもは大して気にもならない“お前”と言う言い方まで気に障って、「わかった」出てくる言葉はさらにつっけんどんになる。コズミは自分の口調を後悔しながら、湧きあがってくる怒りを抑えられない。感情のままに「でも、タクシーなんか使わへんから!」と告げてから電話を切った。そしてそのまま大きなスーツケースを引きずって国際線ターミナルの自動ドアを出た。

 国際線ターミナルを出て駐車場を囲む環状道路に沿って歩くと、隣は国内線のターミナルになっている。コズミはその前の歩道を勢いよく通り過ぎようとして、自動ドアから出てきた人影と鉢合わせしそうになった。
「ごめんなさい」コズミは慌てて謝る。
「すみません」自動ドアから出てきた人影も声をあげる。明るい色のワンピースがよく似合う、コズミよりずっと年上に見える女性で、彼女も大きなスーツケースを引きずっている。見合わせた顔は凜々しい感じの美人で、近寄りがたい雰囲気に気圧される。2人はどちらからということもなく歩道を並んで歩き出した。
 ターミナルを通り過ぎると道はカーブを描いて向きを北東に変えて空港から離れ始め、やがて着陸の時にかすめた阪神高速へ登るランプウェイをくぐる。
 その頃になって始めて、コズミは同じようにスーツケースを引きずって並んで歩く女性が、どこに向かっているのかが気になり始めた。
「「あの」」相手も同じようなことを考えていたのか2人同時に喋り始め、コズミは手を差し出して相手を促した。少し戸惑った風だったがその女性は口を開く。
「どこまで行かれるんですか?」
「蛍池の駅まで行くつもりですが。あなたは?」コズミも疑問に思っていたことを尋ねる。
「私もそのつもりですけど、タクシーやリムジンバスは使わないんですか?」女性も至極当然のことを口にした。
 コズミはその質問をそのまま彼女に返したい気持ちだったが、同じ行動を取る彼女に奇妙な同族意識を感じて、話してしまう気になった。コズミは微かに微笑むと「迎えに来てもらうはずが、都合が悪くなったみたいで、タクシーを拾うように言われたんやけど。なんや腹がたって……。タクシーなんか使わんと電車で行こうと思って……」としゃべり方を崩した。
「ふふっ!」女性も相好を崩して「私も同じような理由かな?ちょっと重いのは、私の場合、もうほとんど“成田離婚”じゃないな“伊丹離婚”みたいな感じ?それくらいかな」と笑う。
「どういうことですか?伊丹離婚って?」
「知らない?新婚旅行が終わったときに即離婚って。そういうの成田離婚って言うの」
「あ、ここは伊丹だから?」
「そう。でもここは豊中だけどね」2人は声を上げて笑ったが、コズミは笑っている場合では無いことに気がついて緩んでいた口元を引き結ぶ。
「ごめんなさい。笑い事やないね」
「いいよ。ほんとに腹が立ったから。奴がタクシーに乗ってから『もういい』ってほっぽってきてやったんだ。ああ、清々した。ざまあみろ」吹っ切ったように言う。
「でも、これからどうするの?」
「私はまだアパートをそのままにしてあるから、とりあえずそこへ帰る。長田なんだけど。あなたは?」
「わたしは他に行くところも無いから職場に行くけど……」
「けど?」女性はコズミの顔を覗き込みながら口元を緩める。最初に感じた近寄りがたい雰囲気はどこかへ消えている。歳も思ったほどに離れてはいないようだ。
「腹立つからタクシーは意地でも使わへん。わたしは御影まで行きます」コズミは毅然とした口調で答える。
「十三(じゅうそう)から神戸線だね?一緒に行かない?」
「うん。連れがいたら嬉しい。わたしはコズミって言います」
「コズミさん?」
「うん、変わってるでしょ?香るに水が澄むの澄むでコズミ」
「コズミック?から来てるのかな?いい名前だね。私はユミ。自由の由に美しいでユミ」
「じゃあよろしくね。ユミ」コズミはユミの質問には答えなかった。
「こちらこそよろしく。コズミ」
 コズミは同じような境遇に置かれた者として短い時間で打ち解けた気持ちになったし、ユミもそういう気持ちなんだろうと想像した。2人は楽しそうに喋りながら電車のガードをくぐると右に折れ線路沿いを進んだ。やがて前方に少しくたびれた蛍池の駅が見えてきた。

阪急路線図


「コズミは国際線の方から歩いて来たけど、どこから帰ってきたの?」プラットホームで電車を待ちながらユミが話題を変えた。
「香港から。わたしは今、香港で働いてるんやけど、研修で一時帰国してん」
「香港で働いてるの?すごいね。それになんだかかっこいいね」
「ううん。日本語が通じるところで補助みたいな仕事やから、かっこいことなんかないよ。英語や広東語もまだまだやし」コズミは言葉とは裏腹にちょっと誇らしげに言い「ユミはどこから?」と続けてから「あ、ごめん、喧嘩してるんやったね」と小さな声になって謝った。
「いいよ別に。東北地方を1週間かけて回ったの。私は山形が実家なんだけど、彼が東北地方は行ったことが無いって言うもんだから。八甲田、奥入瀬、十和田湖、平泉、松島、実家にも寄って、けっこう楽しかったよ。最後に大喧嘩だけどさ」コズミの耳に届くユミの声は少し寂しげに聞こえる。
「2人の新居はどこに構えたん?」コズミがそっと訊いたが「宝塚」ユミの答えはそっけなかった。彼女は逆方向の電車に乗ろうとしているのだ。
 梅田行きの電車がホームに滑り込んでくる。昼間の普通電車はよく空いていた。
 大きなスーツケースを持ち上げて電車に乗り込んだ2人は、スーツケースを前に置いて並んで座った。
「なんで喧嘩なんかしたん?」コズミはまた思ったままを口にして「あ、ごめん……」と小さく謝った。
「ふふっ。コズミはストレートだね」ユミは思わず笑顔になった。
「そう言われて考えると全然大したことじゃないの。ほんと、つまんないことで意地を張って喧嘩しちゃったんだ。バカみたい……」ユミは向かいの車窓に目をやりながら小さく笑ったが、コズミには自嘲しているように見えて「ごめんなさい」とまた小さく謝った。
「謝らなくっていいって。じゃぁ、お返し!コズミはどうして腹を立てたの?もう1つ理由がわからないんだけど?」
「え……わたし?」コズミはいきなり話を振られて困惑したが、空港での出来事を順々に話し始めた。しかし話をまとめてみると、自分がどうして腹を立てたのか上手く説明が出来なかった。コズミもやはり「全然大したことない」という結論に達したのだ。
「でさ、その黒磯さんってコズミとどういうご関係?」ユミが満を持して質問する。
「えっ!黒磯さん?」コズミは言葉に詰まる。
「どういう関係って、仕事の上司なんやけど……」コズミは自分の顔が赤くなっているんじゃないかと気にしながら、単身で香港に向かった時のことや、声をかけられた時のことを話し始めた。
 電車は庄内に停車した。当たり前のように、降りる人を待ってから乗客が乗ってくる。話を続けながら横目でそれを眺めていたコズミは、体のスイッチを香港から日本に切り替えた。ホームの向かいを急行が通過するのを待って電車は出発した。
 コズミの事の顛末を聞き終わったユミはコズミの顔をじっと覗き込んでから「ごちそうさま」と言って微笑んだ。
「あの。ごちそうさまって、そんなんと違うよ」コズミは顔を赤くする。
「まるで映画みたい。素敵な出会いだわ。でも、あなた、見掛けによらず相当無鉄砲だね。良くここに居るなと思うわ」
「そうかな?でも、これくらい思い切らないとなにも変わらへんよ?」コズミは不満そうだ。
「すごいよコズミ、でも私には無理。もうそんな無茶をしちゃダメだよ」ユミは呆れた顔になった。
『まもなく十三、十三です』のアナウンスがあって電車は速度を落とし始め、2人は降りる支度を始めた。

「ユミ。さっきからずっとわたしだけが喋ってる。ユミも彼氏のことを喋ってよ」
十三駅の地下道の階段を大きなスーツケースを下げて昇り降りし、神戸線のホームに出てホッとしたところで、コズミは唐突に話を向けた。
 ユミは一旦息を止めて顔を上げ、低いトーンで「離婚した彼のことを?」と睨みつける。
「あ……、ごめんなさい。わたし」コズミは俯いた。
「あ!嘘嘘、冗談よ。ちゃんと話してあげるから。顔を上げて」ユミは慌てて手を左右に振ると笑顔を作り「大きなスーツケースを怖い顔で引っ張っていた女の子と、こんな話をするなんて全然思わなかったわ」と笑った。
「ええ?それはこっちの台詞や。すっかり喋らされたよ」コズミは言い返した。
 まもなく須磨浦公園行きの特急がホームに入ってきた。特急は空いていたので、2人はスーツケースをドアの横に置いて、横の席に並んで腰かけた。ユミは彼氏との慣れ染めから話し始め、コズミは話に耳を傾けながら、ユミの顔がゆっくりと変化していくのを眺めていた。
 電車は神崎川を渡りながら加速していった。
「いい彼氏だと思うけどなぁ」話を聞き終わったコズミはやっぱり思ったままを口にする。
「ふう……」ユミはそれには答えず、少し憂鬱そうに溜息を漏らした。
「ユミ。わたしは次で普通に乗り換えやから降りるけど、せっかく出会ったんやから連絡先を交換しておかへん?」コズミはユミの溜息を気にしていたが、なるべくそう見えないように振舞った。
「そうね。せっかくコズミに出会ったんだから、このままさよならなんか出来ないわ」
 2人はメモを取り出すとそれぞれの連絡先を書き込んで交換した。
「ユミは長田のアパートなんやね」コズミはチラリとメモを見てからユミの顔を見ている。
「うん」ユミはコズミのメモを見ながら、考え事をするような様子だ。
「それは研修で泊まることになっている寮の住所、その下は香港のわたしが住み込みで働いているお屋敷の住所。研修が終わったらそこに戻ってるから。その書き方で書いてくれたら、わたしのところへダイレクトで届くから」
「うん。分かった」ユミはコズミのメモをじっと見つめたままだ。
「でもこのVindemiatrixって、あのヴィンデミアトリックスだよね?」
「うん。わたしが雇われてる人のファミリーネームやけど、有名?」コズミは小首を傾げる。
「有名って……あなた働いてて知らないの?有名どころか、かなり有名」一瞬口を半開きにして動きを止めてからユミは答えた。
「日本人なのに変な名前って思ってたんやけど、やっぱり有名なんや」
「コズミ!それはピントがずれてる。ヴィンデミアトリックス家って日本の政財界ばかりじゃなくて国際的にも大きな影響力を持った名家だよ」ユミの目は事実を伝えようと真剣だ。
「そう?とんでもないお金持ちやとは思ってたけど、そんなにすごいんや」コズミは大きな目をさらに大きくしたが、その表情は何もわかっていないように見える。実際、働きだして1年以上たつのにその辺の知識については疎いのは事実だった。雇い主が家の品格を持ち出したり振りかざしたりすることは無かったし、コズミ自身にもあまり興味の持てることでは無かったうえに、自分が環境に慣れ仕事を覚えるのに手いっぱいということもあったからだ。
「ふう~」ユミはまた大きく溜息をつくと「まるで他人事だね。コズミは驚くって事が無いの?」と呆れた顔だ。
「え?ちゃんと驚いてるよ」コズミはキョトンとした顔になった。
『まもなく西宮北口、西宮北口です』武庫川の橋梁を渡った電車は減速を始めた。

 コズミはスーツケースを手元に寄せると「じゃぁ、わたしは次で普通に乗り換えやから」と立ち上がった。
「うん」ユミは窓の外を見やりながら頷いた。
 電車がホームに滑り込みドアが開く。ホームの向かいでは普通電車が特急に追い越されるのを待っている。
「じゃあね。楽しかった。絶対連絡するからユミも連絡してね!」ユミが笑顔で頷き、手を上げるのを見ながらコズミは電車を降りた。
 乗客が乗り込み発車の合図が鳴る。コズミはホームに立って、ユミの乗った特急が出て行くのを見送ろうとしている。
 その時だ。ユミはいきなり立ち上がるとスーツケースの取っ手を掴みドアに向かって駆けだした。閉じかけたドアはユミを挟みこんだ後あわてて開き、その隙にユミは電車を降りてしまった。
「どうしたん?ユミ」今度はコズミが呆れた顔で尋ねた。
「うん……まあね。やっぱり帰ってやろうと思ってさ」
「彼のところへ?」コズミはニンマリとユミの顔を覗き込んだ。
「コズミと話しているうちにね。腹を立てる程の事じゃ無いような気がしてきた」ユミは努めて冷静に話そうとしているようだ。
「新居は宝塚やったよね?じゃあ、今津線に乗り換えややからちょうどええね」
「だから、あわてて降りたんじゃない」
「くふふ」コズミはしてやったりの顔をして「じゃあ、これを使う?」とポーチから携帯電話を取り出すと「へえ!携帯電話?いいの?」ユミは目を丸くする。
 コズミは「どうぞご遠慮なく。社用の物でございますが、お客様のご用なら使うことを認められておりますので」と恭しく頭を下げる。
 ユミは「コズミ、さまになってるよ」と誉めてくれてから「最新型?ずいぶん小さいね。さすがヴィンデミアトリックス家だね。じゃあ、お言葉に甘えて遠慮なく」と受け取った。普通電車は2人を残して出発して行った。
 コズミがホームのベンチに腰掛け2つのスーツケースの番をしている間に、ユミは少し離れたところで電話をかけている。
 三宮行きの次の普通電車が入線してきた。
 電話を終えたユミはコズミに電話を返し「ありがとう。私、これから今津線で宝塚に帰る」と言った。
 コズミは幼子のように「よかった」と微笑んで「じゃあ、その新居の連絡先を教えて欲しいんやけど?電話番号もね」と付け加えた。
 ユミは「こっちこそ、コズミのその携帯電話の番号を教えて欲しいんだけど?」と笑ったが、コズミにはそこに現れたその可愛らしい表情こそが本来ユミが持っている性質のように思われた。2人はベンチに並んで腰掛けると新しい連絡先を交換した。
 特急電車が入線してきた。
「じゃあねコズミ。ありがとう。とっても楽しかった」
「こっちこそ。ありがとう。わたしも怒った理由がわからんようになったし」
「あ、ちょっと待って!」ユミは急いでスーツケースを開けると中から箱を1つ取り出す。「これ、私の実家からのお土産なんだけど、良かったら受け取ってくれる?」
「え?もらえるの?何やろう?あ、サクランボや!山形って言ってたもんね。わたしこれ大好き!」コズミはその箱を持って1回転してから「じゃあ……」と自分のスーツケースを開け中から同じように箱を取りだした。
「お返しね!これあげる」
「ありがとう。なにかしら?あれ?これってペニンシュラのチョコレートじゃない?らしくないね」
「なにそれ?どういう意味?」
 2人は顔を見合わせて大笑いした。特急が出発したので、コズミは普通電車に乗り込んだ。
「じゃあね。ユミ。落ち着いたらすぐに連絡入れる。新居の方にね」
 微かに間を開けてはにかんでからユミが応える。「うん。待ってる。きっとだよ。待ちきれなかったらこっちから携帯電話に連絡を入れるから」
「うん。じゃ!」発車の合図が鳴り、コズミはあわてて付け加える「お幸せに」
「あなたこそ。あなたに逢えてよかった」
「わたしも」
 ドアが閉まり、普通電車はゆっくりと加速を始めた。コズミはしばらくの間、手を振りながらホームで同じように手を振るユミを見ていたが、やがてユミが見えなくなるとゆっくりと空いている席に座った。
 電車は六甲山の麓に沿って走り、夙川・芦屋川・岡本と停車してほどなく御影にたどり着く。電車がホームに入りドアが開くと、コズミは地図を手に持って電車を降りた。もちろんこの駅に降りるのは初めてだったし、ましてやヴィンデミアトリックス本宅を訪れるのも初めてだった。
 不安げに改札口に向かうコズミの目に、長身でやせ形、ラフな感じで紺のスーツを着こなした男の姿が飛び込んでくる。改札の向こうでこちらを向いて立っている男に、改札を抜けてゆっくりと近づいてゆく。どんな顔をしようかと迷っているコズミに「よお!」男は片手を挙げた。
 コズミは最高の笑顔になると男に駆け寄った。

「お!今年もサクランボが届いたのか?」連れ合いが声をかけてくる。
「うん。こっちもチョコレートを送ってるからね」香澄が答える。
「いつもこれを送ってくれるのは、母さんが研修で始めて本宅に来た時に出会った人だったよな?たしかその時もらってきたのが最初だったよな?」
「そう。由美って言うんやけど、新婚旅行から帰ってきたとたん彼と喧嘩して、離婚だって怒ってて、わたしもカンカンに怒ってたから意気投合したの。長い付き合いになったよ。怒ってたわりに夫婦仲は良いみたいやけど」
「母さんは何に怒ってたんだっけ?」
「覚えてないの?」
「まったく覚えてない」香澄は連れ合いの顔を観察したが本当に覚えてないようだ。ひょっとすると香澄を怒らせたという意識すら無いのかもしれない。
 香澄は早速箱を開けると1粒サクランボを取り出し「あ~ん」と連れ合いの口元にぶら下げた。連れ合いはパクッとそれをくわえ込むと「お!やっぱり山形産は美味いな」と言った。
「ハルがお腹にいたときはこればっかり食べてたんやから。ちょうどこの季節やってんね」とサクランボを口に放り込んだ。甘酸っぱい味が広がった。『これって青春の味?』香澄は連れ合いを見ながらそう思った。


2013.09.12 八少女夕さんに……


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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

8000HITの記念作品第1弾UPします。

8000HITの記念作品第1弾UPします。
八少女夕さんからのリクエストで、
オリキャラの指定は「香澄さんの続き」
お題は、「さくらんぼ」でしたが、さくらんぼの季節には全然間に合いませんでした。すみません。
そして、イラストに篠原 藍樹さんの「雲」を使わせていただきました。なんとなくイメージが合ったものですから。 藍樹さんお借りします。

すぐに出来るだろうとたかをくくっていたんですが、雑用に追われてしまい、アイデアもなかなか湧いてこず、リクエストいただいてからずいぶん時間が経ってしまいました。いつまでたっても出来上がらないので、慌てて9000HITのイベントまで中止しなくてはならなくなりました。しかもどんどん長くなってしまって9000文字近くあります。夕さん、お待たせしてしまった上にダラダラと長い作品になり申し訳ありません。でもようやく完成です。
よろしければ下のリンクから作品へお進みください。絵夢シリーズ「HONG KONG EXPRESS(香港急行)」の続きです。

「OSAKA EXPRESS(大阪急行)」

そうそう、夕さんの「樋水龍神縁起 Dum Spiro Spero(11)詩曲」を読ませていただいたんですが、その前書きと後書きで夕さんがこの作品の設定の突っ込みどころを語っておられるんです。
この夕さんの作品に関してはとても面白く読ませていただいたのですが、シリーズ物の1編なので感想を述べるにはシリーズを読む必要を感じています。そんなことを思いながら、前書きや後書きまで興味深く読ませていただいたのは、実は左記のこの作品にも突っ込みどころがあったからです。そのために絵夢シリーズ全般に若干の設定変更をおこなう必要にすら迫られています。
どういう突っ込みどころかと言うと、「香港急行」では香澄が1人で香港を動き回る時に携帯電話が重要な役割を果たします。ですが、絵夢や由布そして榛名の年齢から見て、その時期と携帯電話の登場時期が非常に微妙なんです。携帯電話をハンディトーキーに置き換えることも考えたんですが、不自然さはぬぐえません。世界で初めてようやくポケットに収まる携帯電話が出始めた年を香澄の18歳と重ねて、後はヴィンデミアトリックス家の財力にまかせて強引に設定してしまおうと考えています。
深く考えずに設定してしまい、少し前に先の指摘を受けて判明しました。
舞台設定原案が先の思い出の中、ストーリーはそこを舞台にサキが展開した事の弊害ですね。やはりサキは携帯世代です。携帯が何の不思議もなく世の中に存在しています。携帯の登場時期を意識して書くのは難しいですね。
ギリギリ辻褄を合わせましたが、深い突っ込みには耐えられません。まぁその……フィクションだということでお許しください。
榛名は由布の幼馴染なのは変わりませんが少し年下に変更せざるを得なくなりました。一部の年齢が出てくる部分の修正は済ませていますし、「香港急行」の携帯電話に関する記述も、そっと変更しようと思っています。
内緒ですよ!!!
次は栗栖紗那さんのリクエスト「懐中時計」に集中します。
そしてあこがれの10000 HITイベントをやりたいなぁ。
ではまた。


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ファンタジーを書く。

 今、栗栖紗那さんの8000HITイベントのお題「懐中時計」で書いているんですが、なんとサキはファンタジーを書いています。
 実はサキはあまりファンタジーを読んだことがありません。強いてあげれば「ハリー君」ぐらいでしょうか?サキはファンタジーを読まずに、もっと屁理屈をこねくり回す小説を(なに系とは言いませんが)読んでいたりします。
 以前、書けない!!!などと宣言したこともあるファンタジーを書いてみる気になったのは、ネタ切れと言うこともあるのですが、どれ!一回チャレンジして見ようかな?などと無謀なことを考えてしまったのが始まりでした。
 サキにとってファンタジーというのは、悪魔や神、魔法使い、或いは妖精のようなキャラが登場し人間との物語を繰り広げる、というきわめて偏ったいいかげんな認識しか有りません。
 不思議な力や(魔力とか超能力でも良いのかな?)不思議な力を秘めた武器も登場させなければ。
 世界観は現実的、科学的である必要は全然無く、結構自由に展開しても良いようです。
 こういう一見縛りが無いような設定、結構難しいんです。
 サキは設定とキャラを決めて書き始めたものの、どうもきちんと辻褄の合う設定を追求してしまう癖が抜けきれず、説明ばかりが長くなってしまい物語が展開しません。何でも出来てしまう魔法のような能力なんて、サキには設定してしまうことに抵抗があります。必要があれば設定してしまいますが、やはり普通の人のように苦労して、プラスアルファーとして存在する能力のような設定にしておきたいなぁ……などと考えたりして。
 何度も長すぎる解説部分を削って書き直しを繰り返しています。誰か狂言回しを早めに設定すればよかったかな、などと考えたりしますが今更書き直しも出来ずに困っています。設定を全部説明すればお話しは解説ばかりがどんどん長くなってしまうし、ダラダラ長いばかりでは読む方も大変だし、試行錯誤の上、いつものことですが、プロローグだけで構成されたような掌編が出来はじめています。
 まだ設定の一部分しか解明されていませんし、物語としては不完全ですが、きりがないのでこの辺で一応の完成にしようと現在奮闘中です。先もファンタジーか、と困惑気味です。
 完成前に内容を一部にしろ暴露するのは珍しいんですが、更新間隔がどんどん開いてしまいますので、この辺でカミングアウトと言うことにしたいと思いました。
 紗那さん、ちゃんと書いていますのでもう暫くお待ちください。
 ファンタジーって結構大変なんですよ。と言いながらこれって本当にファンタジー?状態です。
 書いてみて大変さがよく分かりました。

サキ

PS:中秋の名月綺麗でしたね。感動ものでした。
青い月というより金の月という印象だったかな?
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フォーマルハウト

Stella/s 「Stlla」10月号掲載作品・読み切り・掌編

『捕まえた……』シャウラは頭の中で呟いた。
 狙撃用のライフルのスコープには標的の頭部が捕らえられている。
 顔は砂色の布で覆われ、隙間から目だけが覗いている。その大きな瞳は琥珀色に輝き、自分の進む方向を見つめている。シャウラはスコープの十字線をその目と目の間に合わせると、普段は使わない脳の機能を使って補正をかけ、慎重に引き金を絞り始めた。
 その瞬間だった。照準を合わせていた頭部がスコープから消え去った。慌ててスコープを左右に振るが標的を見つけられるはずも無い。目をスコープから離して確認すると、そこには標的の乗っていた奇妙な四足の動物が、ゆったりと歩を進めるのが見えるだけだ。体はふわふわした白い体毛に覆われ、長い首の上に乗った小さな頭には尖った短い角が2本生え、両側には可愛らしい目が覗いている。
『どこへ行った?』シャウラの目は忙しなく周りを確認する。しかし、その標的の姿を見つけることは出来なかった。
 シャウラは一旦ライフルを自分の脇に横たえると、ひっくり返って仰向けの姿勢を取る。『そんなバカな。この僕が引き金を引く前に標的を見失うなんて……』自分の腕前に絶対の自信を持っていたシャウラは目の上に両手を重ねてしばらくの間瞑想した。やがて彼はそれをすべて自分の目が太陽にやられたせいだということにして、再び俯せになりライフルを構え直した。
 視界にはやはり標的の乗っていた奇妙な動物が歩いている様子しか見えない。シャウラはスコープを覗いて細部を確認したがやはり標的の気配は無い。その動物は崖の下をゆっくりと歩み去り、シャウラはスコープを覗いたままその姿を追いかけていく。
 と……シャウラは激しい殺気を感じてスコープから目を上げた。上空からは砂色の布に身を包んだ人形(ひとがた)が太陽を背に剣を構えたまま降ってくる、まさにその瞬間だった。本能の命じるまま体を捻る。剣は頬をかすめ、伸び始めた髭を剃り落として風化した花崗岩に当たり、ジャリ~ンと破片と火花をまき散らす。シャウラは全身をバネのように使って起き上がり、腰に差していた剣を引き抜きざま横一文字になぎ払う。人形は飛び上がってそれを避け、頭部をめがけて剣と共に再び落下する。ギィ~ン……両手で支えた剣がそれを受け止める。人形はそれを反動にしてクルリと回転し一旦距離を取る。と思う間もなく低い体勢で地面を走り、地表近くに構えた剣で大気を下から上に切り裂く。シャウラは剣先が額をかすめるのを感じながら後方宙返りでそれを避けた。だが、それが精一杯だった。シャウラは着地に失敗し、前のめりに地面に倒れ込む。その隙を逃すはずも無く、人形は一瞬で肩の上に膝から落下する。鎖骨と肩甲骨が粉砕される不気味な音が頭蓋骨の中から聞こえ、激痛が脳の中を走り抜ける。直後、首筋に剣を当てられる冷やりとした感覚に、今感じていた激痛も遠のく。
 時間は凍り付いた。

 やがて人形が声を出す。「動くな……で、通じている?」
 女の声だ。シャウラは「わかった」と声を絞り出した。
 女は取り落としたシャウラの剣を遠くへ放り投げた。
「なぜアタシを狙う?理由によっては容赦はしない」砂色の布の隙間から大きな琥珀色の瞳が睨みつける。
 シャウラは剣から首をそらしてその瞳を見つめ返した。再び激痛が蘇ってくる。女は、顔をしかめるシャウラをじっと見ていたが、やがて視線を緩めた。シャウラは女が微笑んだのだろうと思った。
 女は剣をシャウラの首筋に当てたまま、顔を覆っていた布を下げた。琥珀色の大きな瞳を持つその顔は、彼自身の命の存在と激痛を意識の彼方に吹き飛ばし、シャウラの心を一瞬で虜にした。
 顔を見つめたまま押し黙っているシャウラに痺れを切らしたのか、肩を押さえつける膝の圧力を少し上げながら女が声を発した。
「なぜアタシを狙う?」
 シャウラは呻き声を上げながら答えた。「僕はレサトの衆だ。レサトは生業として神族を狙う」
「レサト?」
「知らないのか?僕らの家系の呼び名だ」
「シンゾクとはなんだ?」また少し肩に力がかかる。
「お前は神族じゃないのか?神族は僕ら魔族の敵だ。もう4千年も争っている」痛みに耐えながらシャウラは答える。
「4千年?気の長い話だな。アタシはそのシンゾクでもマゾクでもない。人間だ」
「人間?人間だって?僕は人間を見るのは始めてだ。こんな所で人間に会えるとは思わなかった。そんな恰好をしているからてっきり神族かと……」シャウラはうっかり仰向けになろうと体に力を込めた。その瞬間、肩を思い切り押さえつけられたシャウラは、その激痛に呻き声を上げ、頭を地面に落して意識を失った。

 灯が揺れている。頭上には満点の星空が拡がっている。徐々に意識を取り戻したシャウラはゆっくりと周りを見廻した。
 夜の闇の中で、ユラユラと揺れている灯は焚き火だ。厳しく冷え込んだ空気の中で、体のそちら側だけは、ほんのりと暖かみを感じる。焚き火の傍には人影が見える。その脇には例の奇妙な動物が、寄り添うようにたたずんでいる。
 人影は顔をこちらに向けるとゆっくりと立ち上がった。「気がついたか?」覚えの有る声がして、長い髪がふわりと揺れる。焚き火の弱々しい光の中で正確な色は分らないが、光を反射して光る様子から明るい色の髪なんだろうとシャウラは想像する。
「目が覚めたのか?」シャウラが黙っているので女はもう一度聞く。
 これ以上黙っているとまた骨折した場所を痛めつけられそうな気がしてシャウラは慌てて「殺さなかったんだな……」と言った。
「ククッ!アタシは殺すのが生業のレサトじゃ無い。アタシの生業はサーベイヤーだ」女は短く笑って言った。
「サーベイヤー?」シャウラにとって初めて耳にする単語だった。
「実はアタシにもよく分かっていない。こうして旅をするのがアタシに課せられた使命だ」女はシャウラに近づくと様子を確認するように顔を覗き込んだ。
 女の顔は陰になっていてよく見えなかったが、昼間見た顔を思い出したシャウラの心臓は鼓動を速めていく。そっと傷口に触れられて、そこに添え木と布が当てられ手当をされている事に気がついた。
 暫くシャウラの体を触ってから「腹が減ったろ」そう言うと女は例の奇妙な動物に近づいた。そして背中に乗せられたザックから大きなお椀の様な器を取り出し、背中を向けたまま何かしていたが、やがて器を持ってこちらに戻るとそれを差し出した。「飲め」声は少し暖かみを帯びたように思えた。
 シャウラは体を起こそうとして痛みに顔をしかめる。女は、しょうがないな……という風に、シャウラの後ろに回り込んで腰を降ろした。そして器を地面に置いてから、シャウラの上半身を支えて自分の胸にもたれ掛けさせた。
 シャウラは後頭部に当たる女の胸の膨らみと、頬に触れる女の長い髪を感じながら、ますます速くなる鼓動が女に伝わらないか心配した。
 女は無事な方の左手に器を持たせてくれたが、そこには白い液体が入っていた。
「これはブースターの乳だ。飲めば元気になる。それにしてもお前の傷の回復力は凄い。みるみる治っていく。それはマゾクとやらの力なのか?」
 空腹を感じ始めていたシャウラは慌ててそれを飲もうとしてむせて、傷口の痛みにまた顔をしかめた。
「慌てるな。ゆっくり飲め」女はそっと器を支えてくれた。ゆっくりと口に含んでから飲み下す。それはほんのりと甘くそして暖かく、腹に収まると体中にエネルギーが浸み渡って行く。
「これくらいの傷は今夜寝て明日起きればだいたい回復している。人間だとどれくらいかかるのかは知らないけど」器を空にしてからシャウラは答えた。
「アタシ達だと少なくとも3ヶ月はかかる」
「不便なものだな」
「マゾクは人間より強いのか?」女が尋ねる。
「聞いた話だけど、魔族と神族は元々は同じ種族なんだ。一括りにしてイノセントと呼ばれる。イノセントから複雑な機能を省いて量産し易くした種族、それが人間、ギルティと呼ばれる者なんだそうだ」
「ギルティ?ふ~ん、アタシ達人間はイノセント?の量産型なのか」女は思案げに呟く。
「ところでブースターというのはあの動物のことなのか?」疑問を口にしながら、シャウラは少し寒気を憶えていた。
「そうだ」簡潔に答えた女はシャウラの微かな体の震えを見逃さなかった。「うん?寒いのか?」
「ブースター」女が呼ぶとその奇妙な動物は女のところへ回り込んできた。
「ブースター、悪いけど、こいつを入れてやってくれないか?」女が声をかけるとブースターはシャウラのそばで横になった。
「ほら、ここに入れ」女がブースターのお腹を触ると大きく穴が開いた。シャウラは女に支えられたまま、その袋状の穴に体を滑り込ませ、頭だけを袋から出して中に収まった。そこはまるで別天地のように暖かだった。
「僕はお前を殺そうとした。なのにどうしてこんなに親切にしてくれるんだ?」
「人違い、いや、神違いだったのだろう?」
「うん、てっきり神族だと思った」
「じゃぁ、お前はアタシを殺そうとしたわけじゃ無い。だったらどうして放っておける?」
「礼を言うよ。痛い目に遭ったけどね」
「それはしょうがないだろう?お前はアタシの命を取ろうとしたんだ」
 シャウラは苦笑いを返してから「ブースターにはこちらの動物の血が入っているのか?」ずっと気になっていたことを訊いた。
「そうだ」落ち着いた声がした。シャウラはあたりを見回し声の主を探した。
「ここだ。私が喋っている」シャウラはブースターの長い首の上に乗った頭についている可愛らしい目が、こちらを見つめていることにようやく気が付いた。
「お前が喋っているのか?」シャウラはあらためて確認した。
「そうだ、私は人間世界の哺乳動物とイノセンティアの両性有袋動物との混血だ。だからイノセンティアの動物の特徴である袋を持っているし、喋ることもできる」ブースターはやはり落ち着いた声で答えた。声は男とも女ともとれる独特のものだ。
「その袋は私の育った子宮みたいなものだ」女は自慢げに言った。
「子宮?」シャウラは怪訝な顔をする。
 ブースターが解説を追加する。「彼女は生まれ落ちてすぐに母親から離されて、私の袋に入れられたのだ。そして世界の果てを目指して王都を旅立って36年。私のお腹の袋の中で私の乳を飲んで育ち、私の教育を受けながら僅かな人間の影響範囲ギルティアを飛び出し、広大な結界を乗り越え、イノセントであるお前達魔族や神族の影響範囲イノセンティアに入り込もうとしているのだ」
「生まれてすぐに王都を?なぜ?」
「アタシがサーベイヤーだからだ。それ以外に理由は無い」女は一切の質問を受け付けない断固とした口調で言った。
「お前、お前に名前はあるのか?」
「他人に名前を聞くときは自分が名乗るのが礼儀じゃないのか?」
「すまない。僕はシャウラ。お前は?」
「アタシは、フォーマルハウト。言いにくいからファムでいい。シャウラ」ファムは照れたような顔で言った。
「じゃ。ファム、ファムは、生まれてから36年間ずっと旅を続けているのか?」
 質問にはブースターが答えた。「王都ではフォーマルハウトが生まれてから実際に36年が経過している。そしてフォーマルハウトはその間ずっと旅を続けている。だが結界空間の歪みの影響で彼女の時間は同じだけ経過しているわけではない。もっと短いものだ。ただ“懐中時計”だけが正確な王都標準時を刻んでいる」
 ファムは体全体を覆う砂色の衣装の内ポケットから小さな物を取り出し、シャウラの顔の前に差し出すと横のボタンを押した。
 カチッと音がして蓋が開いた。
「これが“懐中時計”だ」焚き火の灯を反射する美しい筐体の中では、様々な速度で廻る何本もの針が規則正しく動いている。さらにその盤面の中には幾つもの小さなメーターが組み込まれ、それぞれが重要なデータを指し示している様子だ。
「この一番太くて短い針は“世紀”こっちは“年”これは“月”そして“日”、こっちの小さいのが“時・分・秒・1/10・1/100・1/1000だが、こっち側は速すぎて読み取れない」ファムがそれぞれの機能を指で指しながら説明してくれた。
「この“懐中時計”は、アタシと人間の世界を繋ぐただ1つのものだ。アタシがこれを持っているから王都のコントローラーはアタシと王都との距離を測ることが出来る」ファムはチラリとブースターを見て続けた。「……らしい」
 ブースターは微かに頷いた。
 それを確認すると、ファムは大事そうに“懐中時計”を内ポケットに仕舞った。
 疲れているのだろうか?質問がひと段落したところで、シャウラは激しい眠気を憶えて大きくあくびをした。
「ん?眠くなったか?薬草を入れておいたんだがマゾクにも効くみたいだな。痛みが止まるから楽になる。ゆっくり寝ろ。この様子なら起きる頃には回復してる」そう言うとファムも袋の中にもぐり込んできた。驚くシャウラに「安心しろ。なにもしない」ファムはそう言うとニヤリと笑った。シャウラはファムの柔らかい体を感じながら深い眠りに落ちていった。

 閉じた瞼の上から照りつける太陽に思わず両手をかざしてしまってから、シャウラはゆっくりと目覚めた。微かに残る頭痛に昨日の出来事を重ねながら、自分が地面の上で厚い毛布にくるまって寝転んでいることを理解した。
『ブースターは?彼女は?なんて言ったっけ?フォーマルハウト、ファムは?』辺りを見回して誰もいないことを確認すると、シャウラは毛布を抜け出して立ち上がった。砂色一色に染め上げられた乾燥地帯のまっただ中の、砂色に微かに緑を帯びさせただけの低いブッシュに囲まれた小さな広場にシャウラは突っ立ている。そっと肩に手を当ててみると、粉みじんに粉砕されたはずの骨は一晩でほぼ痕跡を残さないくらいに回復し、添え木や布も取り除かれていた。昨日シャウラが誰かと戦った痕跡など、もうどこにも残っていない。
 昨夜ユラユラと炎を上げていた焚き火はきちんと地面に埋められ、注意深く探さなければ分らないほどの微かな痕跡を残しているだけだ。この痕跡も午前の風が跡形もなく消し去るのだろう。
 誰かが、ましてやあの琥珀色の大きな瞳を持つ不思議な人間の女とあの奇妙な動物が、自分と一夜を共にしたなどという痕跡は微塵も残っていない。それに、このなんの目印もない荒野で、一旦ここを離れたらもう二度とここへは戻ってこれないだろう。シャウラはそう確信していた。
 シャウラは彼方に見える丘陵の形を目安に自分の位置を割り出し、厚い毛布を肩から被ると、愛用のライフルを肩にかけ、剣を腰に戻した。そして、もう一度確かめるように辺りを見回してから歩き始めた。
 高度を上げて“熱さ”を増した太陽は、大気中を舞う砂に含まれるキラのフィルターの向こうに鈍く輝いている。
 午前の風は強さを増して、不気味な唸り声を上げ始めていた。


2013.09.27 栗栖紗那さんに……
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ファンタジー?完成しました。

8000HIT記念作品第二弾、栗栖紗那さんの8000HIT記念のお題「懐中時計」で書かせていただきました。
栗栖紗那さん、お待たせしました。そしてリクエストありがとうございました。
この作品でようやくいただいていたリクエストをすべてクリアーしたんですけど、リクエストをいただいた方々にはずいぶんお待たせしてしまいました。この場を借りてお詫びを申し上げます。
次は10000HITのイベントをやろうかなと思っていますが(まだ懲りてない)、その節はまたよろしくお願いいたします。
この記事、標題のファンタジーの後ろに“?”を付けています。
6000文字程度に無理やりまとめましたが、やっぱり“?”が付いてしまいます。
多分ファンタジーのカテゴリーに入れても大丈夫とは思っていますが、作者としては納得しているわけではありません。
この作品の世界設定については、ちゃんとプロットの様な箇条書きがあって(偉いでしょ?)、こまごまと取り決めてあるんですが、今回の作品の中ではほとんど出てきていません。でもこれでもちょっと多かったかなと思っています。
作り手としては消化不良気味ですが、全体像を書こうとしたところで、とんでもない大きさに諦めてしまいました。ほとんどをゼロから作り出すファンタジーの世界では、こういうことってあるんでしょうか。1つ1つの設定にそれぞれ矛盾の無いようにそれらしい説明を付けると、物語は説明だけで膨大に膨らんでしまい、とても掌編の範囲に収まらなくなってしまいますし、解説ばかりが膨らんで読んでられなくなってしまいます。
だからと言って、壮大な物語が書けるかというと、全然そんなことは無いんですけどね。
設定だけは細々とたくさん決まっていますが、ストーリーというものがちゃんと出来ていません。この辺にサキの筆力の無さを感じてしまいます。
ワクワクと設定を捏ね回していたサキは、書き始めたとたん思いっきりつまづいてしまいました。で、この前書いた「ファンタジーを書く」の記事になった訳ですが……。
とりあえずここに置いておきます。よろしければ下のリンクからどうぞ。

フォーマルハイト」(サキの書いた初めてのファンタジー)

本作品は「Stlla」10月号掲載作品・読み切りの掌編です。
今の状態ではとても連載を謳えません。

先です。
今回は面白かったです。でもこの混乱の責任の一端は私にあるんじゃないかと思っています。
空想世界の設定はとても楽しいことらしくて、サキは何やかやとアイデアを求めてきます。
それにいちいちまじめに回答していたら、大きく膨れ上がってしまったみたいです。
それはそれで面白い空想世界が出来上がっているとは思うのですが、これは掌編では無理だろ?というくらいの大きな世界になっているようです。そしてその器の大きさに内容が付いていかず、思うように展開が出来ないんだろうな……そんな印象を受けました。
何とか纏めたみたいですが、書いてる方の展開の方が面白かったです。
以上、報告です。

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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
イラストをクリックすると記事に飛びます。よろしければご覧くださいネ!
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