Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

お気に入り

 
よくまぁ。これだけの物が作れるなぁ……と思って、つい何回も見てしまいます。
人工的な歌声もいいですが、曲もアニメーションもとても素敵です。
5月の初更新がこれでは先が思いやられますねぇ。
失礼しました。

20130502 UP DATE
サキはトゥーンレンダリングだと思いますね。
サキは変にリアルな3DCGよりこっちの方が自然に感じて好きです。
ミクの人間離れしたアクション(当然ですが)や適切な色っぽさがすばらしいです。「01」のタトゥーもチラリといい感じ。
全体の演出や細かい動き、カメラワークも何でこんなに出来るんだろう?
なんて良いセンスなんだろう?
部屋のグラフィックもすごいですよね。
廃墟のシーン、空を飛び回るミクの浮遊感など、とんでもなく臨場感あふれるモーションになっています。
まるで自分が飛んでいるように感じて好きです。こんなふうに飛べたらいいのにな。
ミク以外誰もいない廃墟や都市は何を暗示しているのでしょうか?(涙のシーンはありきたりですが、サキは好きです)
海中シーン、エンディング、とても印象的です。
短いですが、アニメーションの大きな可能性を感じさせる作品でした。
ビックリでした。

サキはこれ聞きながら、シスカのサイドストーリーを書いていました。
すでに書き上がっていますが、校正と推敲に時間がかかっています。
UPは連休開けぐらいになりそうです。
そして「シスカ38」のUPも同時ぐらいに出来るかもしれません。
待っておられる方いらっしゃいましたら、お楽しみに。
ではでは。

サキ

ヤレヤレ、またちょっと病気が出ましたね。

山西 先
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山西サキって?

サキはとても照れています。
正直、恥ずかしいんですけどUPしてしまいます。
ブログ「λ.Piscium」を運営されているブロ友の高橋月子さんに、山西サキのイメージイラストを書いていただきました。
月子さんからサキの誕生日のお祝いに何かプレゼントを……とお申し出が有り、調子に乗ってリクエストしたんです。
そうしたら、こんなに素敵な作品を書いてくださってとっても喜んでいます。

長~い髪は月子さんが線画の時から描かれていたんですが、髪と瞳の色はミクに合わせていただいたんです。
最初は静かにしていたんですが、だんだん本性が出てしまって、もうサキが初音ミクのファンだっていうのはばれてしまっているので、多分それで髪を長くしてくださったんだろうなと思ってお願いしてしまいました。
月子さんは快く彩色してくださいました。
でも、なんていうんだろう?やっぱりすごく照れくさいんです。
サキはこんなに可愛くはありませんし、アクティブでもありません。
イラストの彼女、可愛いし、思ったら活発に行動しそうな感じでしょう?
サキの性格は少し暗めで、こんな笑顔は出来ないんだろうなぁ、と思います。
でも、このブログを始めてからずっとブロ友としてお付き合いいただいて、抱いていただいたサキのイメージがこのイラストに表現されているのかな?と思うとすごく嬉しいです!!!
本物のサキもこのイラストのサキのように明るく活発に生きていけたらいいなぁ。
行動指標ということにしたいと思います。
月子さん、わがままリクエストに応じてくださって、本当にありがとうございました。

サキで~す
イラスト作成は高橋月子(λ.Piscium)さん (クリックすると大きくなります)

このイラスト、山西左紀のプロフィール紹介ページに使わせていただこうと思っています。
今まではプロフ画の下の「山西 左紀について」からリンクで「テンプレート変えてみました」の記事
につなげてサキと先を紹介していたんですが、専用のページを作ろうと思います。
そこでサキのイメージイラストとして使わせてもらおうと思ってます。
では!!!

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ナオミの夢

 ナオミは視線を感じたような気がして立ち止った。
 あちこちに紛争の爪痕が残るマサゴ市。その中心部にある市民会館は、ホールの屋根に大穴が開いてはいたが、まだ建物の形は残している。そのエントランス部分を使って開設された避難民救済センターは、避難民登録や避難所を求める人々でごった返していた。ナオミは避難先登録をシンキョウ市に変更するために夫のロクとそこを訪れていた。
 視線を感じた方に顔を向けると、そこには少女が座っている。その容姿は異彩を放っていて、今生きてゆく事に精一杯で、他人にかまう余裕などあるはずのない避難民の衆目すらも集めている。
 髪はプラチナブロンド、というよりもほとんど白髪に近い。そしてこちらを向いた目は右が黒、左が透き通るような明るいブルーだった。
 4歳位だろうか?栄養失調に見えるその痩せた体を壁に預けて座り、頭部は後ろの壁の窪みに上手い具合にはまり込んで固定されている。彼女はナオミを見つめていたのではなく、焦点の定まらない目がたまたまこちらを向いていた……ただそれだけのことだった。だが、ナオミはこの喧噪の中、その無気力な表情から向けられる弱々しい視線を感じ取った自分に驚いていた。
 ベクレラ連邦とイルマ国によるキタカタの領有権を争った国境紛争は、まだ停戦協定が成立したばかりで、ここ避難民救済センターは混乱の極みだ。紛争が終結する直前になって戦線が激しく動いたせいで、大量の民間人が争いに巻き込まれ、多くの避難民が出た。そのうえに、強引に暫定国境線を引いたために、相手側の国に取り残されてしまった人も少なくは無かった。少女は髪や目の色から想像してベクル人で、混乱の中イルマに取り残された中の1人なのだろう。自国民だけでも救済の手は不足しているのに、ほんの数か月前まで敵だった人々へのそれはよけいに滞りがちだ。少女の行く末を案じながらナオミは、その青白い顔を見つめていた。
 一緒に歩いていたロクは、ナオミが立ち止ったのに気付いて、振り返って待っている。
「どうした?何かあったのか?急いで戻らないと移動手段が無くなるぞ」
「うん。ちょっと……」ナオミはロクに待っているように手を挙げると少女に近づいた。
 黒と明るいブルーの瞳はどこを見ているのだろう。いや、何も、どこも見ていないのかもしれない。意識がそこに存在するのかさえ疑いたくなる。そんな少女に近づいたナオミは、一瞬ためらってからそっと少女の白い髪に手を置いた。
 驚くべき反応だった。瞳に一瞬意識のような物が見て取れたと思った瞬間、少女は高圧電流が流れて痙攣したように動いて、ナオミの指に噛みついた。
「アッ」後ろで見ていたロクの方が声を上げた。
 ナオミは左の手の平を向けて近づこうとしたロクを制した。ギリギリ……少女は全力で噛みついている。痛みに耐えながらそのままの体勢でじっと少女を見つめる。少女の目は今は意識を持ってナオミを見ている。やがて危害を加えられることはないと感じたのか、あるいは諦めたのか、力を緩めるとグタッと人形のように元の場所にもたれかかった。ナオミは噛まれていた右手をポケットに入れ、左手でそっと少女の頭を撫でた。白い髪は汚れていたが、ふわりとしていて柔らで、暖かだった。(天使みたい)ナオミはそんな感想を持った。
 少女はまた動かなくなった。
「大丈夫ですか?」女性スタッフが駆け寄って来た。
「ええ」ナオミは頷いたが、ポケットから出した指からは血が滴り落ちていた。看護師であるナオミは、手慣れた様子でハンカチをまいて手当てを終えると「この子は身寄りが無いのですか?」と訊いた。
「ええ。多分取り残されたベクル人です。1人で瓦礫の中にうずくまっているところを保護されたんですが、ほとんど何も喋らないし、喋ってもベクル語だし、何も分からないんですよ。それに今みたいでしょ?あなただけでは無いんですよ。噛まれたのは」と女性スタッフは大きな傷テープを巻いた指を見せた。
「あら、そうなの?わたしが気に入らなかったのかと思ったんだけど。そうじゃなかったのね」ナオミはチラリと少女の方を見た。
「お止めしようと思ったんですけど。あっというまで間に合わなかったんです。でもあの後あの子の頭を撫でてらっしゃいましたよね?あの子が体を触らせるのは始めて見ました」彼女は驚いた声で言った。そして「ただ1つ、着ていた服にベクル語でシスカという縫い取りがあったんです。ですから、多分彼女はシスカという名前なんだと思います」と付け加えた。
「シスカ……」響きに運命のような物を感じながらナオミはその名前を繰り返した。そしてまた少女にそっと近寄るとゆっくりと頭に手を置いた。女性スタッフが「アッ」と小さく叫んだ。ロクは緊張して見つめている。ナオミはそっと頭を撫でながら「シスカ?シスカ?」と優しく言った。
 少女はゆっくりと顔を上げ、今度ははっきりとナオミを見つめて小さく口を動かし何がしかの言葉を口にした。そしてまた無表情になって動かなくなった。
「ナオミ、そろそろ行かないと、本当に足が無くなる」ロクが言葉を挟んだ。
「そうね。行きましょう」ナオミは「お騒がせしました」とスタッフの女性に声をかけると歩き出した。ロクはチラリと少女を見てからナオミを追った。

 2人は言葉を交わすこと無く道を急いだ。何とかバスターミナルで列に並んでバスに乗り込まなくてはならない。ロケット弾で破壊されてはいるが、どうにか寝ることのできる家まで、歩いて帰るには少し遠すぎた。
 バスを待つ列に並んでからも暫く2人は無言だった。
「なぁ……」ロクが沈黙に耐えられなくなって訊いた。「ナオミは何を考えているんだ」
「なにを?」ナオミは列の先を見たまま答えた。
「俺達は充分に話し合ったよな?」
「そうね、充分に話し合ったわ。そして結論も出した」
「ならいいんだ」2人はまた黙り込んだ。
 ナオミが子供を産まない方がいい体だという事が分かったのは、2人が結婚して暫く経ってからだった。出産はナオミの寿命を大きく縮めるリスクを伴う、ということがはっきりしたのだ。2人は充分に話し合った。時には喧嘩にまで発展した話し合いは何日にも及び、2人はナオミの体のために子供は作らないということでようやく合意した。
 ロクがさっき言った、充分に話し合った、というのはそのことを指し、ナオミが答えた“結論”もそれで得た結論を指していることはナオミにも痛いほど分かっていた。ナオミが子供を産めない以上2人の間に子供はいらない、確かロクがそう発言し自分が頷いたのを覚えている。
 ナオミは自分の頭の中に湧き上がってきた感情を消え去るぐらい小さく押さえ込んだ。そして隣に並んだロクに笑いかけた。
「大丈夫だよ。ロク。大丈夫」
 ロクの心配そうな顔がこちらを向いていた。

 ナオミはマサゴ市の瓦礫だらけの大通りを歩いていた。崩れた建物が所々で道をふさいでいるので、その部分は通りの端まで回り込んで、完全に瓦礫でふさがっている部分は隣の通りへ迂回して進まなければならない。停戦して数ヶ月が経過しようとしているのに、復興の槌音はまだ弱々しい。市民会館はすぐそこに大穴の開いた屋根をさらしているのに、なかなかたどり着けない。ナオミは少しイライラしながら歩調を早めた。いつも少し先を歩くロクの姿は見当たらなかった。
“充分に話し合った”ロクは確かにそう言った。ナオミも確かにそれに合意して一緒に結論を出した。ただロクの言った“充分に”の中にこれが含まれていたか、そうでなかったか、それだけの違いだった。2人の意見はどこまで行っても平行線で、堂々巡りだった。
「あの子は精神的にも大きな問題を抱えている。きっと丁寧なケアが必要だ。ナオミにそれが出来るのか?」黙って毎日少女の様子を見に行っていたことを知ったロクがついに切れた。そしてその後は、出来る出来ないの応酬が続いた果てに、ついに2人は決裂した。修復は不可能だった。ナオミは家を飛び出し、ロクは残った。それだけだった。
 避難民救済センターは前よりもいっそう激しい喧噪に包まれていた。大きな声で抗議を繰り返している男性、泣き声を上げてすがりつく女性、泣き叫ぶ子供達、倒れ込む老人達『避難民救済は行政の後手後手に廻る政策によって、以前に増して混乱している』避難所に張り出される壁新聞にそんなニュースが掲載されていたのは昨日の事だったろうか。ナオミは人混みをかき分けながら進み、いつも少女がもたれかかっている壁を目指した。気持ちは焦るが人の流れに逆行する形になってなかなか進めない。「すみません。ごめんなさい」声をかけながら人混みを押し分ける。その時ナオミはまた視線を感じた。顔を向けると人と人の隙間にあの黒と明るいブルーの瞳を持つ顔が見える。ナオミはここまで持ち続けてきた緊張をようやく緩め、全力で人混みをかき分けながら少女の元へ近づいていった。
 どこも見ていないように見えた少女の視線は、正面に現われたナオミの顔に焦点を合わせた。少なくともナオミにはそう見えた。ナオミはいったん立ち止まってから、少女によく見えるように、ゆっくりと正面から近づいた。そして「シスカ。こんにちは」と声をかけ、そっと白い髪を撫でた。少女は不思議そうな顔をしてナオミの事を見上げていた。
 しばらくそうしていたナオミは、突然湧きおこった激しい衝動に耐えられなくなって、少女の右手を取ると「シスカ、行きましょう」と声をかけグイッと引っ張った。シスカは引かれるまま立ち上がるとナオミに付いて歩き始めた。
「何をされてるんですか?困ります!」女性スタッフが立ちふさがった。ナオミがその女性を押しのけてさらに進もうとすると、女性は首にさげていたホイッスルを吹いた。数名のスタッフが集まってきてナオミはもう前進できなくなった。
 シスカは手を引かれたままナオミの様子をじっと見ていたが、やがて喧騒の中へ意識を埋めた。

 避難民管理官は初老の男だった。彼はナオミを自分の机に向かい合わせに座らせると、両肘をつき手を顎の下に組んで、まるでナオミを値踏みするように眺めながら「いきなり手を引っ張って連れて行こうとされても困りますね」と皮肉っぽく言った。
「すみません。どうしてあんな事をしたのか自分でもよく分からないんです」ナオミは素直に謝った。
「この混乱の中ですが、たとえベクル人であったとしても、一旦我々の保護下に入った者を何の手続きも無しに引き渡す訳にはいかないんですよ。あの子を引き取りたいとおっしゃるなら正式に手続きを取ってください、そうでなければあなたを警察に引き渡すことになります」
「では、正式な手続きを取ります。どうすればいいんですか?」
「まず、あなたの身分を確認する必要があります。何か身分証明のようなものをお持ちですか?」
 ナオミは住民カードを手渡した。管理官はそれをチラッと眺めてから「あなたは避難民ですよね?」と訊いた。ナオミが頷くと「とても安定した身分とは言えませんね」管理官は困った顔をした。
「私は避難民ですが、シンキョウで生活する当てがあります。先日、夫と一緒に避難先登録をシンキョウ市に変更したところです」もう夫のロクの協力を得られる状態では無かったが、ナオミはそんなことはおくびにも出さずに答えた。
 管理官の顔が少しほころんだ「なるほど、そういうことでしたら、ちょっと確認させていただいてもよろしいですか?」
「どうぞ、ご自由に」
「では失礼」管理官はデスクにあったタブレットを何度かタッチし、住民カードをリーダーにかざした。
「フム。キタハラ・ナオミさん、ですね」
「ええ」
「再度確認ですが、あの子、シスカという名前は推測ですが、シスカをを引き取りたいとおっしゃるわけですね?」
「ええ。何度もそう申し上げていますが……」ナオミはうんざりした顔で頷いた。
「キタハラさん」管理官は改まった表情で喋り始めた。「我々もまぁ正直、困り果てていたというのが本当のところです。現在の条例は混乱の中、策定が間に合わず穴だらけです。あの子の場合も管轄がはっきりせずに、施設間での押し付け合いが続いています。このまま放置すれば、あの子が落着く場所は見つからず、当センターはいつまでもあの子を抱えていなければならなくなるでしょう。しかし、穴だらけということは解釈によっては実に簡単な手続きで、合法的にあの子をあなたの保護下に置くことが出来るということです。有り体に申し上げれば、、あなたはあの子を自分の元に置ける。我々は問題を残さず厄介払いが出来る。そういうことです」管理官はナオミを見つめた。
「このまま手続きを始めますか?なに、そんなにお手間は取らせません」
 ナオミは事態が今一つ飲み込めず返事が出来なかった。
「シスカをお連れになってもよろしいと申し上げているのですよ。手続きを始めますか?」
 管理官のその言葉によって、ナオミはようやく事態を理解した。
「ええ。始めてください」ナオミが頷くと、「では事務課の方へご案内します。こちらへ」管理官は立ち上がった。

「最後に、登録手数料として7000イキューを納めていだだきます」手続きを終え立ち上がろうとしたナオミに女性のスタッフが言った。「えっ?」ナオミは言われたことの意味が分からず聞き返した。
「登録手数料として7000イキューを納めていだだきます」女性は事務的に繰り返した。
「子供を引き取るのにお金がいるのですか?」
「いいえ。そうではなくて登録するのに手数料が必要なんです」
「同じことだと思うんですけど……」
「お手持ちが無ければ3日後までに振り込んでいただければ大丈夫です。ただしその場合は振込手数料がかかりますが」女性の事務的な説明が続く。
 ナオミは何かを言おうと口を開きかけたが、諦めてバッグから財布を出した。そしてお金を出すと黙って机の上に置いた。
「ではこれが領収証です。納付の証明になりますので、大切にお持ちください。手続きはこれで終了です。子供を連れてまいりますので……」そこで同僚に肩をたたかれた女性は振り向くと小声で二言三言会話した。「申し訳ありませんが、子供のところにお連れしますのでそこでお引き取り願えますか?」女性は向き直るとそう言った。
「わかりました」ナオミはそう言うと立ち上がった。

 繋いだ手を離すまいとして力を込めているのがわかる。
 シスカがこんな反応を示すとは思わなかった。喚きまわってついてこなかったらどうしようか、などと考えていたのが嘘のようだ。時折ナオミの様子を確認するように見上げて、おぼつかない足取りではあるがついてくる。管理官と女性スタッフが並んでこちらを見ているが、厄介払いが出来てホッとした表情のように見える。ナオミはシスカの様子を細かく観察しながら避難民救済センターを出た。
 センターの前は小さな広場になっていて、2人はゆっくりと広場を横切っていく。
 ナオミは広場の向こうのベンチに見慣れた男を見つけていた。
 男は立ち上がって待っている。2人は男の方へ近づいていった。
「よお」ロクが声をかけてきた。
「何よ!」ナオミがぶっきらぼうに答える。
「その子に始めて触った時、その子はなんて言ったんだ」
 ナオミは少し迷ってから答えた。「“おかあさん”と言ったのよ……」
「帰ろうか」ロクは2人に背を向けて歩き出した。
 2人はその背中を追った。
 長い長い苦難の始まりだった。 
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7000HI「ナオミの夢」出来ました!

 7000HIイベント企画作品出来ましたのでUPします。
 今回7000HITを踏まれたのはTOM-Fさんで、オリキャラのご指定は「シスカ」お題は「7000」でした。リクエストありがとうございました。

 小説「シスカ」はサキがコミックとして計画し、サキの頭の中にずっとあったお話です。自分に絵心の無いことを思い知ったサキが、文章でなら何とか形になるんじゃないかと、キーボードをたたき始めたのが始まりでした。
 小説など書いたことも無かったサキが、カタカタと打ちこんだものを、心もとないから見てくれと、先のところへ持ち込んだのがブログ開設のきっかけでした。
 先は初心者が書いたわりには、けっこう面白いと思ってしまったんですよ。
「シスカ」はこの小説のヒロインです。

 本編はプロットが崩壊し、再構築したプロットも尽きて、暫く休止状態になっています。
 今回「シスカ」をご指定いただきましたので、久しぶりにシスカを呼び出して、サイドストーリーという形で作ってみました。久しぶりのシスカワールド、懐かしかったです。
 単独で読んでいただいても何とか形になるように一応完結していますので「シスカ」入門用にいかがでしょうか?もし「シスカ」を読まれた方、いらっしゃいましたら、あぁこれは誰々だとか、あの場面だとかが、わかる読み方が出来ると思います。
 本編はド素人が0から作り上げていますので、試行錯誤の結果上手く統一の取れていない部分がたくさんあります。その点、本作品はサイドストーリーですので、そういう部分に関係なく気軽に読めるかな、などと勝手に思っています。

 そして、この作品に刺激されて「シスカ-38-」が完成しています。今、校正推敲中ですが間もなくUPの予定です。数少ない読者の方少しお待ちください。これで続けて進む訳でも無くて、またプロットは尽きていますけど……。

 作品はこのリンクからどうぞ「ナオミの夢」

 あ、この作品のタイトルは、先のネーミングです。
 サキは意味がわかっていませんが、先はなんだか御満悦です。
 次は7777HITですかね?ではまた。

 山西 左紀
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---38---

 *

「おかあさん。暗いよ……」

 暗い。
 暗い。
 殴られている。
 抑えつけられている。
 いたぶられている。
 なぜだろう?まったく声が聞こえない。いや、音がしない。
 小さな体は人形の様にされるがままに体形を変え、弄ばれている。
 沈殿した闇の底を見下ろすと、どこかからたどり着く僅かな光に浮かび上がり、微かにその様子が見える。絡み合い動き回る。小さな体にのしかかる大きな体は不釣り合いなくらい長い手足を持ち、それを細かく動かす。その様子は吐き気がするほど汚らわしい。ぞっとするほど悍ましい。
 沸々と怒りが湧きあがってくる。思わずこぶしを握りしめ、手近にあった硬くて重いものをつかみ上げる。そしてそれを頭の上に高くふりかざすと、肺に思い切りため込んだ空気を吐き出しながら振り下ろす。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

 灯りが付いて闇が消えた。
「ショウ!ショウ!どうしたの?」
 女の声がする。
 ショウは今の叫び声が自分が出したものだったことに気が付いた。
 全身が鉛になったように重い。無酸素運動を連続で限界までこなした後のように力が入らず、手足を動かす事が出来ない。そのまま仰向けに倒れていると「すごくうなされてたよ。叫んでたし」目の前に声の主がそっと顔を覗かせた。
 ショートにした黒い髪、かわいい系の顔、その中から黒い瞳が見つめてくる。
「シキシマ……」ショウは無意識に呟いてから「どうしてここに?」と声に出した。そして自分の声に驚いた。(ショウ?)
「それを女に訊くの?」シキシマは少し視線をそらせて言った。そして向こうを向いてしまった。白い背中が照明に浮かび上がる。
 ショウは記憶をたどる。なぜここに居るんだ。納得のいく答えはすぐには出てこなかった。「ごめん……」口を突いて出てくるのはありきたりな謝罪の言葉だけだ。
 シキシマは静かにショウの隣に丸まっていた布団にもぐり込んだ。ショウは何が起こっていたのか少しづつ理解を始めていたが、どうしてそうなったのか、まったく思い至らなかった。
「寒くないの?」
「え?」自分も裸だったことに気が付いたショウは、布団を顔まで引っ張り上げて体を覆うと目から上だけを出した。
「それじゃどっちが女だか分かんないじゃない。恥ずかしがってないでこっちに来たら」促されてシキシマの隣に寄り添うと、シキシマの手が胸にそっと乗ってきた。
「ドキドキしてる」シキシマはクスクスと笑った。ショウは真っ赤になった顔を隠すために反対側に顔を向けた。
 そこは10平米程の部屋で、隅にベッドと机が置かれている。室内は明るい色でコーディネイトされていて、本棚に並んでいる本や寝具を見ても、ここは明らかに女の子の部屋だ。(シキシマの部屋なんだろうか?)顔を戻すとシキシマの好奇心に満ちた顔があった。
「さあ。何があったのか話してくれる?私は見つかった?」
「え?シキシマが?」ショウは意味が理解できず言葉が止まった。
「ショウ?ショウが戻ったんでしょ?さっきまでは積極的なショウだったから」ニコッと覗き込む、「元の世界に行ってたんじゃないの?」ん?という感じで訊く。
 ショウは腑抜けのような顔になってシキシマを見つめていたが、ようやく思考がつながったのか、小さく口を動かして「そんな……そんな感じ……だったみたいなんだけど。ここは?」と言った。
「ここは私の部屋よ。今は学校の帰り。午後6時頃かな?両親は出かけているから家の中は私とショウだけ。今夜は帰ってこないわ」シキシマは手短に説明して「何があったのかまで私に言わせるわけ?」と片目をつぶり唇の端を少し上げた。
「いや……」ショウはまた自分の顔が熱くなるのを感じていた。
「じゃあ。話してくれる?とっても興味があるもの。細かいところまで順序通り、きちんとね?」軽く寄り添うシキシマからは彼女の体臭が感じられた。(いい匂い)ショウは興奮を覚えたが、彼女の顔が誰と同じなのかを知ってしまったショウの気持ちは複雑だった。ショウは最初から順序立てて話し始めた。

 ショウが話し始めた時は驚きと興奮に満ちていたシキシマの顔は、話が終わったときには、深い憂いに沈んでいた。「凄い!凄い体験だね!驚いたわ。あなたの基本人格のシスカって女なんだ!ということはどっちにしろショウって、シスカの人格だろうから本来は女性だったんだ。全然わかんなかった。怖ーい」シキシマは自分を奮い立たせるように一瞬戯けて見せてから「私はシスカのお母さん?なの?もう死んじゃったんだ……。」と少し寂しげに言った。
「ごめん……」
「謝ることはないよ。事実なんでしょ」
「僕はもうここには戻れないと思ってたんだ。だからそれがわかった時、もうシキシマには会えないと思った」ショウの目は少し涙ぐんでいるように見えた。
「ありがとう」シキシマは微笑んだ。そして「でも、ショウが目覚める直前、暗い中で見たものは何だったんだろう?それまでと繋がってないね?」シキシマは口元に指を添えた。
「僕もわからないよ。もしかしたらと思うことはあるけど」
 シキシマは暫く口元に指を添えたまま考え事をしている様子だったが「私の考えを言ってもいい?」と振り向いた。
「うん。聞きたい」
「暗い中で見たその記憶は、多分シスカの物心が付いてからキタハラっていう人に会うまでの記憶の一部だと思うの。幼いシスカが何者かにいたぶられてるんでしょう?どう聞いてもそう聞こえるわ」
「僕もそう思ってる」
「なぜ、ショウの記憶にあると思う?しかも俯瞰で」
「フカン?って?」
「ショウ、あなたはその様子を上から覗いているように話したわ」
「そう……だね。確かに」
「自我は体を離れ客観的にそれを見ている。それってショウがシスカから分離したときじゃないの?」
「どういうこと?」
「シスカの精神は小さい頃、限度を遙かに超えたストレスを受けたんだよ。分離は自分の精神を守るための一種の自己防衛だったんじゃないかな?最悪の記憶は本人とは別に形成されたあなた、ショウの中で、客観的な形に置き換えられたんだ。つまり分離された自我はここの世界で、穏やかな日常生活を送るショウになったんだ。そして最悪の記憶はそのショウの中で、他人の出来事としてシスカから隔離されたんだ。だから残されたシスカの精神はかろうじて破壊を免れて、不安定ながらも存在したんだよ。きっと」
 シキシマは少しの間天井を見上げてまた考え事をしていたが、ふと顔を向けてまた話しかけてきた。
「ショウの中に置いておけば、たとえ思い出したとしても、どこかで聞いた他人の記憶としてしか出てこないから、ショウの精神に重大なストレスを与えることはないでしょ?現にさっきもそうだった。激しい怒りは感じているみたいだけど、やっぱり客観的に俯瞰で見ていたもの。ショウは自分のものとして感じないんでしょう?夢だとでも思っているんじゃないの?」
「うん。そう……そう思ってる……かな」
「でもね。ショウのその記憶はシスカの中に戻ってはいけなかったのよ。きっと」
「どういうこと?」
「元の世界に残されたシスカの精神はそれなりに安定してきたみたいだけど、やっぱり大きく欠けていて不完全だったんだよ。そりゃそうだよね。ショウを分離しているんだもの。完全な1つの精神に戻すにはショウの精神を統合しなくちゃならない。けど統合してその記憶が戻るとシスカの精神はまたバラバラに分解してしまうんだわ」シキシマの顔から笑みが消えていた。そして不安そうに付け加えた。「だから一旦統合して自我を再構成してから、ショウの一部だけをもう一度分離したんだよ。その記憶と一緒に」
「じゃぁ。僕は消えてしまうの?」ショウの顔からも血の気がひいていた。
「どうだろう?」シキシマは静かにショウの目を見つめた。
「ショウはきちんとシスカの中に残ると思うな。そして多分……」シキシマは言葉を切った。目は焦点を結ばず遥か遠くを見ているようだ。顔は白い。
「多分?何?」ショウは不安を感じながら訊いた。
「さあね。そんな気がするだけ」シキシマは上の空で答え。そして目を閉じて沈黙した。
 長い沈黙の後、シキシマは何かを決めたかのように目を開いた。
 そして「どうなるかなんて誰にもわからない。もし、そうなるとしても、時間が止まるだけで、何も起こらないことと同じことだもの……」そう言ってショウに強く抱きついた。時間はまだ止まらずに、いつもの速さで流れていた。

 シキシマはショウのダルそうな様子に「どうしたの?」と訊いた。
「なんだか眠くなってきた。落ちて行くみたい」ショウは激しい眠気に耐えながら言った。
「大丈夫、ショウは大丈夫だよ、きっと」シキシマが優しく寄り添ってきた。
「シキシマ、シキシマは暖かくて柔らかいね」
「何言ってんのよ」シキシマが優しく抱きしめてくれた。
「シキシマ、僕はまだシキシマの名前を知らないんだ。教えて欲しい」
「そうだった?そうかもね。今のショウとはあまり一緒に居たことがなかったもんね。ずっと一緒に居たのにね。変なの」シキシマは短く笑った。
「教えてよ」
「私の名前はミユキ、ミユキだよ」
「ミユキっていうんだ。ミユキ、優しい名前だね」ショウは眠気と不安に耐えながらミユキを抱きしめた。
「ありがとう。嬉しい。きっとまたどこかで会えるわ。それまで私のことを忘れないでね」
(え?)ミユキが何を言っているのか理解できないまま、ショウは深い眠りの中に落ちていった。
「さよなら……」ミユキの声が微かに響いた。


(2014/08/13 更新)
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「椿三十朗」見ました。

「椿三十朗」見ました。
 織田裕二のやつですね。
 カラーのやつです。
 とっても面白かったです。
 陰謀とそれと戦う若い衆、そしてそれに巻き込まれて助っ人する浪人のお話なんですけど、グングン引き込まれてやっぱり最後までちゃんと見てしまいました。充分に楽しませてもらいました。
 十二分に面白かった。とちゃんと言ってからですね。ちょっと思ったことを書いておこうかなと思いました。

 サキは映画をたくさん見て評論をするようなマニアでは全然ありません。ましてや映画論をブログでぶったりするような通でも無いです。ただ面白そうなのを見て、あぁ面白かった…と言っているだけの軽い映画ファンなんです。そんな一映画ファンの戯言だと思って読んでくださいね。
サキは実は昔に作られた「椿三十郎」を見たことがあるんですよ。黒澤明監督で三船敏郎の白黒のやつですね。(先のコレクションの中にあるんです)
 その上でこの新盤「椿三十郎」を見て思ったことがあるんです。
 全体的な印象は織田裕二の演技を含めて昔のものを彷彿とさせる作りでした。まったく解釈を新しくして崩壊してしまうよりはよかったのかなと…思ったのですが、全体的になんて言うのかな?軽い印象でした。前作に比べて三十朗が根っから明るそうで、慣れるのに30分ぐらいかかりました。(なれれば見れます)カラーだからかな?とも思ったのですがそれだけでもなさそうです。
 中村玉緒はまだ馴染めましたが、藤田まことはちょっとこけました(ひっくり返ったの意)。

 そして最後の決闘シーン、ここは新しい演出や、スローモーションなどが取り入れられていたんですが、ここだけはがっかりしました。
 前作には、刀を合わせてからいきなりブシュ~ッと画面一杯に血が噴き出すシーンがあったんです。それにビックリして飛び上がったサキとしては(飛び上がったサキを先がニヤニヤしながら見ていました)、エェ?無いの?という感じでした。なんでブシュ~ッと吹き出さないの?最近の映像ではこういう残酷描写は禁止なんでしょうか?刀を押さえ合うシーンなんかは、実戦的なのかもしれませんが、見方によってはお間抜けです。
 切られて倒れた体から地面にサ~ッと流れ出る血、これも無しでした。エッ?出ないの?ここでもそれを待っている自分を感じてしまいました。
 放映コードに引っかかるのでしょうか?それとも何か別の意図が?
 映画の素人のサキにはよく分からないシーンでした。
 お断りしておきますが、サキは残酷シーンが嫌いです。でもそう思ってしまったんです。

 この映画を見終わって、ここのところが引っかかって寝れそうも無いので書いてしまいました。

 少しスッキリしました。
 では、おやすみなさい。
 
 サキ
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山西左紀について

先日「山西サキって?」の記事の中で言っていた山西左紀のプロフィール紹介ページを作りました。ブログ「λ.Piscium」を運営されているブロ友の高橋月子さんに書いていただいた山西サキのイメージイラストとともにこのページに置いておきます。このページはプロフ画像の「山西 左紀について知りたい方はこちら」からリンクします。



山西左紀について書いておきたいと思います。
2011年10月1日、この変なブログ「Debris circus」は生まれています。
ブログを作っているのは山西左紀です。
最初は一人称は“山西”として長編小説「シスカ」や「小説を書いてみよう会」に参加して「コメット」「V645 Centauri (プロキシマ)」「Meteor(メテオ)」などの掌編を細々とUPしていました。
ところが“先”という人物がコメントしていたり、“サキ”という人物のコメントが暴走したりして“左紀”はどうした?という状態になってきました。

実は、山西左紀とういうのは二人で一人なのですが(そんなこと分かってるって?)、二人で二人分の体験を合成して記事を書いてきたんです。ところが、ゴチャゴチャになってしまって、記事の内容に混乱をきたすようになってしまいました。
記事も書きにくいですし、2013年2月24日テンプレートの変更を機に、矛盾が出ない程度に正体を明かして混乱を収束しようということになりました。ヤレヤレ。

山西左紀、中身の一人目は、まず“サキ”です。サキがすべての物語の骨格やキャラクターを創作しているこのブログの主です。シスカ、タウリ、絵夢、クウ、エスそしてコトリなど、主人公達はすべてサキの頭の中から湧いてきています。これらのキャラはサキの分身であるといっても過言では無いかもしれません。

“サキ”のイメージイラスト(クリックすると大きくなります)
サキで~す
あくまで作成された高橋月子(λ.Piscium)さんのイメージです。
“サキ”の誕生日プレゼントとして書いていただきました。
可愛すぎる、明るすぎるなど、本人とは大きく異なる場合があります。ご了承ください。

そしてもう一人が“先”です。彼が(ややロートルですが)このブログの管理人です。
“サキ”の頭の中で創作された物語は、リビングの隅にある“サキ”の小さな机に置かれたPC(*1)で文章にされていきます。これに“先”のアイデアが組み込まれたり校正や推敲が入ったりして物語は完成していきます。これまでに発表された作品はすべてこの過程を経ています。

(*1)Core i3 2125を使用した“サキ”の自作パソコンです。予備機もありますが、これは“先”が組んだPentium Ⅲ1.4S DUALの古いものです。メインの故障に備えて並べて置いてあります。

このスタイルのままブログを運営しようとして破綻したんですね。

二人は相談して以下のように取り決めました。

よく暴走して勝手に記事を書いていますが、“サキ”が単独で記事を書いた場合は“サキ”を使うようにします。
そして、あまりないでしょうが“先”が一人で書いた記事は“先”を使いましょう。
あと、二人が合意して合作で書いた記事を発表する際には“左紀”を使います。
これまで通りこれが一番多いことになると思っていたんですが、今のところ“サキ”一番多い感じですね。

こうして責任をはっきりさせることにはしましたが、
変な2人が運営しております「Debris circus」、
あらためましてどうぞよろしくお願いいたします。

 山西 左紀
「Debris circus」Since 2011.10.01

PS:使っているプロフ画像は“みまさか”さんに特別にお願いして使用許可をいただきました。
「ミクダヨーさん」を使わせてもらいます。
実は“サキ”が隠れた(公然になってしまいましたが)ボカロファンなもので……。


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ブログをやめる、に思う……

 ブロともさんのブログで、ブログ界を卒業される方の惜別の記事を読みました。
 記事の中で寂しさや無念さを綴っておられましたが、一方、卒業される方の心境や葛藤を思いやられ、無理なお願いは控えよう、そういう趣旨のコメントを書いておられました。
 ブログを始めて1年半、サキも親しくお付き合いさせていただいた方のブログの更新がある日突然止まってしまう。暫く休養の挨拶があってもう半年以上更新が無いなどということが何件かあって寂しい思いをしているのですが、ネット上のつながりはリアルなお付き合いではないということをまず念頭に置いておかなければ、と再認識したのでした。まずリアルな自分が優先するということは火を見るよりも明らかですから。

 そんな事を考えながら思ったんですが、付き合い方がとても難しいです。
 あ、自分のブログとの付き合い方がですよ。
 少しでも覗いてくださる方を増やそうと思うと、面白いウィットに富んだ記事をたくさん書いた方がいいみたいです。でもこのブログはネット小説が基本ですから、軽く読める面白い記事をどんどん書いていては(サキにどんどん書けるとはとても思えませんが)、サキの小説が書けません。とても遅筆ですからね。小説が書けなければこのブログを開いた意味がありませんから、たぶんこちらの方向へは行かないと思います。
 先が書けばいいんじゃないかとサキは思ったりしますが、先はそこまで協力するつもりは無いようです。先は一応忙しく働いていますし(ふりをしているだけかもしれませんが)。「構成や推敲は協力するが、これはあくまでお前のブログだ。お邪魔記事は書くことがあっても媚びたりはせん」というのが彼のスタンスです。
 ということはサキは自分が書いた物語を書きあがった順に淡々と公開する。たまに思いついたことがあれば短い記事をUPする。そういうパターンで月に10回位を目標に、更新を続けながら細々とこのブログを維持していく、これがサキの体力からみて順当な線だというのが結論になる。そう言うことですかね?
 正直に白状しちゃうと、1日に何十何百のアクセスのあるブログはとても羨ましいです。
 でもサキにはそう言う楽しい記事は書けませんし、読んでやろうか!と思えるような物語も作り出せません。自分の心の中にあるこうしてみたい…という気持ちを主人公に乗せて文章にする。しかも長い時間をかけて、ということしかできません。
 サキはまだ始めたばかりですしもうしばらくはブログを卒業してしまう気持ちもありませんから、我慢強く自分の書いた作品をゆっくりとマイペースでUPする事を地道に繰り返していく、それが一番いいような気がしています。
 そもそもこのブログはサキの書庫代わりに始めたものですがら。
 自分の頭の中の世界を文章にしてそれを置いておく場所として、そしてたまたまそれが誰からも自由に覗けるようになっている。そういう原点を思い出して、そこに一旦帰ってみるのもいいかもしれないです。
 ドンドン読んでもらえるかも?!サキはそんなふうに思うようになって少し天狗になっていたのかもしれません。
 少し(少しだけですよ)反省。
 この辺境のブログを訪れてサキの拙い作品を読んでくださる数少ない読者の皆さま、これからもどうかサキを見捨てないでください。気長に我慢強くお付き合いいただければ幸甚です。
 では、今日はこの辺で……。

 先です。
 お!珍しくしおらしくなってますね。
 こういうときはあまりうるさく言わないので、
 晩御飯でビールの2本目を開けても何も言わないかな?
 しめしめ。

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FC2トラックバックテーマ 第1653回「あなたが好きな景色」


FC2トラックバックテーマ 第1653回「あなたが好きな景色」


 今日は少し古くなったトラックバックテーマに応えようと思います。

 サキが好きな景色というと「海」かな。
 列車に乗って旅行しているときでも、ドライブでもいいんですけど、車窓から明るい海が見えたときはドキドキします。いえ、ワクワクすると言った方がいいのかな?すごく嬉しいです。思わず「ワ~!!!」と言ってしまいそうです。車だったら確実に声に出ています。サキは声が大きいですから。
 遠いご先祖様が海洋民族だったんじゃ無いかな、と思うくらいです。
 サキの住んでいる地域でこういう風景の見えるのは、列車だったら紀勢本線、車だったら国道42号線、和歌山県ですね。晴天の時、山側から海側へ進んで、パ~ッと沖が黒潮色のキラキラ輝く海が拡がったとき、特にそう思います。
 晴れた初夏の太平洋は沖に黒潮が流れているせいか、さんさんと降り注ぐ太陽のもとでも沖は深いマリンブルーでとても綺麗です。日本海や瀬戸内海もいいんですが、それとはまた違った雄大さがあるような気がします。

 あとは夕方のラッシュアワーの空港ですね。
 薄暗い中、空港へ列を成して降りてくる飛行機達。合間を縫って飛び立っていく飛行機達。
 点滅する滑走路のライト、実は家から見えるんですがずっと見ていても飽きません。
 サキの飛行機好きは先の影響を受けているんですが、そればかりでは無くてこういう環境の影響もあるんじゃないかと思います。
 騒音や安全性の問題もある空港ですが、サキは無くなってしまうと寂しいなぁ、と思っています。

 さて少し近況報告を。
 サキはここのところは作品を書いています。
 完全に自己満足の作品で、自分のために一生懸命書いています。
 もちろん自分以外の方も読んでいただいて面白いと思っていただけたら嬉しいんですが、この作品はちょっと読者を選びそうです。あ!サキの作品はもともとそんな感じのものがほとんどでしたが、今回のものは特にそういう感じ?なのかなと思っています。
 3分の2くらい上がっていますので近いうちにUPする予定です。
 読んでいただけると嬉しいです。自己満足と言っておきながら何ですが……。
 ではまた。
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可能世界のロンド



少し古いものですが、これは傑作だと思っています。
オープニングから圧倒されます。
2機のロボットアームと人形かロボットを思わせるミクとのコラボレーション。
謎の歌詞、ほとんど意味不明です。
人間離れしたミクの歌声にとてもマッチしていると思います。
歌詞は可能世界という哲学の考え方をモチーフに書かれているようなので、まぁ当然と言えば当然かもしれませんが、繰り返されるメロディー、なにこれ?ドンドン引き込まれます。
何種類かのミクが登場しますが、それぞれ個性的で魅力的に作られています。
振り付けも人間離れしている部分と、演劇やミュージカルの舞台を見るような感じの部分が交錯してとても不思議な感覚です。バレーダンスも組み合わされています。
人間のフリをするものだけが演じられ、表現できる世界だと思いました。
サキはいっぺんに引きつけられました。
アルマクの登場する「アスタリスク」のタイトルはここからいただいた物です。

今日は先が出張で留守にしています。
今のうちにUPしておきます。

サキ
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720(Seven two zero)

 Stella/s
 コーナーが迫ってくる。ギアを4・3・2と落として急激に減速する。ギアを落とすたびに、L型ツインエンジンは、レッドゾーンまで回転を上げて独特の唸りを上げる。リアタイヤの暴れが収まってから、体重を右のステップにかけ体を左に移す。バイクは自然に左に傾きコーナリングを始める。インに入りステップを路面にこすりながらカーブをなぞる。遠心力でフレームが変形していく。コーナーの出口が見えた。アクセルをさらに大きく開けるとレブメーターはレッドゾーンまで跳ね上がり、L型ツインは歓声を上げる。間髪を入れずに3速へシフトアップしてレッドゾーン、そして4速。あっという間に次のコーナーが迫ってくる……。

 サンライズドライブウェイのケーブル山上駅前の広場に深紅のDEZMO720を止めて、サイドスタンドを降ろす。ヘルメットを脱ぐとサラッとしたオカッパの髪が流れ出す。真っ黒なその髪には所々に白いものが混じっている。冷たい空気と静寂が頬と耳を“キンッ”と突き刺し、ゆっくりと空を見上げると、吐いた息が白くなって昇って行く。
 3月とはいえ山上はまだ寒い。日差しはあるがカラッと乾燥した空気が頭上を覆い、遥か上空には何機かの飛行機が自らの軌跡を描く。さらに抜けるような青い空がその上を支配する。
 もう朝遅い時間だというのに、この気温ではバイク乗りの姿は見えない。静まり返った広場には観光客の車が少し止まっているだけだ。バイクにまたがったまま大きく伸びをすると、微かに聞こえ始めたエンジン音の方向に顔を向ける。音はどんどん大きくなり、やがてコーナーを曲がって1台のバイクが現れた。黒のEXP600だ。600はCVT独特のエンジン音を響かせながらDEZMO720の隣に並んで停車した。
 バイザーを上げて「相変わらず速すぎるぞ。コトリ」ヤキダマが声をかけた。
「つい……ね」コトリは愛おしげに深紅の燃料タンクをポンとたたいた。
「この子はデスモドロミックだからパワーバンドが広いもの。高回転まで回してもバルブサージングを起こさないし、旧型よりボアが大きい分高出力で、ブレーキもフレーム強度も節度があるから、ちゃんと乗り込んだらもう少し速く走れるよ」コトリがこともなげに答えた。
 楽しげに分析するコトリに呆れたのか、ヤキダマは両手をお手上げにして上を向いた。
「なに!それどういう意味?」コトリは少し怒った声を出したが顔は笑っている。
「どういう意味って、そのままの意味さ。呆れてるんだよ」ヤキダマは手を上に上げたまま答えた。
「やっぱり、わたしって変?」
「ずっと前に、そんなこと言ってたことがあったよな?」
「そう?覚えてない」
「確かに、普通じゃないよ。でも問題は無い。かわいいし……」ヤキダマはその時のことを思い出しながら、その時の台詞を繰り返した。
 コトリは含羞むような笑顔になると、それを見られないように空を見上げた。
「コトリ?」ヤキダマの呼びかけに(ウン?)という感じでコトリが反応し顔を戻した。
「コトリはよくそうやって空を見上げているよな」
「だって、わたしの家族がいるんだもの……」コトリはまた空を見上げて小さな声で言った。
「ごめん」ヤキダマはしまったという顔で謝ると話題を変えた。
「ところで、僕はもう凍えそうなんだけど?」
「そう?わたしは大丈夫だよ」コトリはとぼけた表情だ。
「女性は皮下脂肪が多いからそうかもしれないけど、僕はもう我慢できないよ。寒い寒い」ヤキダマは腕を抱え込むと情けない顔をした。
「じゃぁ。駅のカフェに入ろうか?」
「そうしよう、そうしよう」2人はケーブル山上駅のエントランスにある小さなカフェに入っていった。
 景色の見下ろせる窓際に向かい合わせに座り、熱いコーヒーにモーニングセットを付けてオーダーすると、2人は改めて顔を見合わせた。すぐに目を泳がせたコトリは窓の外を向いて「綺麗……」と言った。窓の向こうにはカンデの街並みが、その向こうには大きな港、さらにその向こうにはキラキラ光る海が広がっていた。
「裁判、終わったな」ヤキダマがポツリと言った。
「うん。5年もかかったけど、やっとね……」コトリは窓の外を見つめたまま呟くと、ヤキダマの方を向いた。そして「長い間かかったけど、色々とありがとう」と伏し目がちに礼を言った。今日はそれが言いたくてヤキダマを誘ったのだ。
「僕は何にもしてないよ。あまり役に立たなかった。ごめんな」
「そんなことない。ずいぶん助かったよ……」コトリは顔を上げた。
「ヤキダマにも親父さんにも感謝してる。あの時、背中を押してもらわなかったら、今でも闇の中に居たのかもしれないもの。ずっと隠れたままじゃあ何も進まなかったし、どこにも行けなかった。そう思うと荒っぽかったけどあれが正解だったと思う」
「そうだな。たしかに無茶苦茶だったよな。でも600マイルブレンドで1日に1000キロ走ってからもう5年になるのか」
「ううん、あと少しで6年たつよ」
「そうか。あのツーリングも大変だったけど、あの後、コトリが住民票を移しに行ったら大変な騒ぎになったよな。“行方不明の女性生存!”なんて大見出しで」
 コトリは伏し目がちに座っていたが顔は笑顔だった。ようやくこの話題を過去のこととして認識できるようになってきた。ヤキダマはそのことを心得て喋っているようだ。
「事故の原因は結局うやむやにされてしまったな」
「でも、わたしが事故の目撃者だったから、明らかになったこともずいぶんあったみたいだよ。国防省や空軍はもっと隠しておきたかったみたいだったもの」
 ヤキダマの顔が心配そうになった。
「大丈夫だよ。ヤキダマに言われた通り無茶はしてないから。見たことをそのまま答えただけ……」
「だったらいいんだ」
「いろんな人が情報源としてわたしを利用しようとしたけど、ヤキダマや親父さんや店の常連さん達がいてくれたおかげで、なんとかここまでこれたと思ってる。わたし1人だったら、もうわたしは生きていないかも……」
「そんな……」ヤキダマの顔は悲壮になった。
「大丈夫。もうわたしは普通の女の子だよ。マークも外れてるし」
「マークされてたのか?」
「スギウラ先生が教えてくれんだけど、そうらしいよ。わからなかったけど。でも、わたしを消すのは簡単だよ。バイクで走ってるところをチョンと……」
「やめてくれ!」ヤキダマの声が響き、コトリは喋るの止めた。
 暫く店の中を静寂が支配したが、そこにモーニングセットが運ばれてきた。店員が去るのを待ってからヤキダマは顔を硬くして「じゃぁ。もう大丈夫なんだな?」と訊いた。コトリはゆっくりと微笑むと「うん。もう普通の女の子だよ。あ、もう“子”じゃないよね?」と言って少し首を傾げた。
 ヤキダマは顔を上げて笑顔を見せると「女の子でいいよ!さぁ食べてしまおう。なんなら追加注文してもいいよ」と言った。
「じゃぁ。ミックスサンドを追加して2人で分けない?なんだか少し足りないような気がする」コトリはさらりと言った。ヤキダマは店員を呼んでそれを注文すると「さあ食べよう」と熱いコーヒーを喉に流し込みトーストにかぶりついた。
 食事を進めながらコトリはヤキダマの顔をそっと観察していたが、頬の筋肉が少しゆるんだような気がして「人心地が付いた?」と声をかけた。
「うん。やっと少し暖まった」ヤキダマは答えたが、すぐにコトリの目を見つめて「ずっと気になっていたんだ。コトリの状態が。国防省は巨大だし、コトリは小さいし……。でもやっと少し安心した」と続けた。
「ありがとう。ずっと気にかけてくれてうれしい」コトリは聞こえないぐらい小さな声で呟いた。
 ヤキダマは聞こえていたのかコトリに微笑みを返すと「コトリ、いや、サヤカに相談があるんだ」と言った。コトリはちょっと目を見張ったが小さく頷いた。

「コトリ!おはよう。どこだ?」定休日明けのバイクショップ“コンステレーション”に親父の大きな声が響いた。
「いるよ!」キッチンのドアから油のシミの付いた白いTシャツと薄汚れたジーンズのコトリが頭を出して、またすぐに引っ込んだ。「あれ?もうこんな時間?」キッチンからコトリの声がする。壁に掛けられた時計は9時を指し、コーヒーの香りが漂っている。
「用意は進んでるのか?」親父はキッチンに向かって声をかける。
「大丈夫だよ。ピットを覗いてみて」声だけが聞こえる。
 親父はピットのドアを開けて中に入って行った。「おお!立派なもんだ。生き返ったな。とても中古とは思えんぞ」ピットから親父の声が響く。「でしょう?後でエンジンをかけるけど、先に朝ごはんにしない?」コトリの声が響いた。
 親父は「おう。そうしてもらおうか」とキッチンに声をかけた。そして、店の一番奥にある大きなデーブルにセットされた木製の長椅子に腰をかけ、テーブルに置いてあった老眼鏡を掛けると新聞を読み始めた。
 目についた記事を幾つか読み終えた頃、キッチンからコトリが出てきて、たっぷりのバターとマーマレードを塗ったトーストと大きなサラダボール、それにハムエッグとホットコーヒーのセッティングを済ませた。
「じゃあ。少し遅いブレックファーストと行こうか」親父が声をかけると、コトリも親父の向かいに座り、コーヒーに砂糖を1杯とミルクを入れた。
 親父はコーヒーだけをカップに注ぐと少し持ち上げ「いただきます」と言った。コトリも「いただきます」と言うと食事を始めた。
「見事なもんだ。驚いたぞ。ここに来た時は動くかなと思ったけどな。金にあかせて買ってみたものの乗りこなせないで、5年以上放置されていた車体だったからな」熱いコーヒーをゆっくりとすすりながら親父が言った。
「全部ばらして組み直したもの。けっこう大変だったよ」
「コトリが前に乗っていたバイクだから思うところもあっただろ?」
「親父さんは720だから引き取って来たんじゃないの?」
「ばれたか?」親父は相好を崩した。「で、昨日は試運転に言ってきたんだろ?」
「うん。いい走りだったよ。わたしが欲しくなっちゃった。でもこの子はダッシュ7だから、やっぱり前乗っていたのと同じダッシュ5がいいかな。少し扱いにくいところがある方が面白いもの」コトリは少し遠い目をした。
「そうか……で、だれと一緒だったんだ?2台で出かけたと聞いたぞ」親父はそこにはあまり触れずに話題を変えた。
「え?」コトリの顔が赤くなった。あわててパンを口に入れて下を向く。
「あの……ヤキダマを誘ったの。ちゃんとお礼を言いたくて」
「そうか。やつは何か言っていたか?」
「あまり役に立てなかったって謝ってた」
「やつらしいな。ずいぶん動いてくれたんだぞ」
「わかってる。だからちゃんとお礼が言いたかったんだ」
 大きなテーブルに向かい合わせに座って2人の会話は続いた。
 食事が終わる頃「親父さん?」コトリが遠慮がちに声を出した。
「なんだ?」孫娘を見る目になって親父が応えた。
「ちょっと、相談があるんだけど……」
 親父は座る位置を変えて少し身を乗り出した。

 午後の“コンステレーション”の前にはたくさんの大型バイクが整然と並んでいる。店に来た者はこの位置にきちんと整列して駐車する決まりになっている。店の中は男どもと数人の女性でごった返している。中には親父とヤキダマの姿も見える。
「そろったようだな?みんな!引き渡し式を始めるぞ!」親父が店の中を見渡しながら言った。
「オォ!」歓声が上がり拍手が湧き起こった。「スギウラさん、ここに立ってくれ」親父が指示を飛ばす。スギウラと呼ばれたツーリングウェアに身を包んだ女性がみんなの真ん中に立った。「いいぞ!コトリ、ここへ出してくれ」親父が声をかけると、ヤキダマがピットのドアを開け、コトリが深紅のバイクを押して現れた。響めきの中、女性の前に720を止めると「いかがですか?スギウラ先生」とコトリが少し自慢げに言った。
「すごい!」女性は驚きの声を上げた。「これがあの埃まみれだったバイク?」とコトリの方を向く。「ええ!ご注文のDEZMO720ダッシュ7ですよ。エンジンをかけてみましょうか?」女性が頷くのを待って、コトリはイグニッションを入れセルモーターを回した。辺りをはばからない大きなエンジン音が響き、コトリのアクセル操作によって軽やかに回転を上げる。コトリは途中で女性にハンドルを預けた。女性は暫く調子を見たあとエンジンを止めた。
 周りから拍手と歓声が巻き起こった。「ありがとう。コトリ!最初はあんなに埃まみれだったから、新車にしようかと思ったんだけど、コトリにまかせてよかった。本当に新車みたい。でもDEZMOは構造が複雑で、新車でも不安定なところがあるから、コトリのチューンだと新車より安心感があるわ。これからもこの子の面倒を見てくれるわよね?」
「もちろんです。スギウラ先生。次の定例ツーリングは私も254でお供します。初の長距離ですからね」
「ありがとう。コトリ、でも先生はやめてくれない?」
「え、でも裁判でもずっとアドバイスをいただいていたし……」
「あれは私の仕事としてやったことじゃないから、あなたを娘みたいに思ってるの、だから先生なんて言わなくてもいいから……あ、娘じゃないわ。妹、そう妹みたいに思ってるんだから」
 一同がどっと笑った。
 一応の儀式は終わり、常連達は720を店の表に引っ張り出してバイク談義に花を咲かせる。コトリとヤキダマがキッチンからアフタヌーンティーの紅茶セットや軽食や菓子を運び出して、コトリが寝床として使っている台の上に並べた。
「親父さん、コトリのチューンが受けられるなら、みんなここで中古バイクを買うぞ。わざわざ新車を買うより経済的だし、コトリにまかせておけば安心だしな」ひげだらけの大男が言った。「コトリはずっとここでバイクの面倒を見てくれるわね?親父さんではちょっと心配になってきたもの」スギウラさんが言った。
「そりゃどういう意味だ?まぁ、ちょっと老眼が進んでるんだが」親父が言うと笑いが巻き起こった。周りからは「コトリはずっとここにいてくれるよな?」と声が上がり、みんなの視線がコトリに集まった。コトリはみんなの迫力に圧倒されている。
 頃合とみたのか親父が声を出した「ちょっとみんな聞いてくれ!重大発表だ!」親父はヤキダマとコトリの方をチラリと見てから「ヤキダマ、発表しろ!」と言って目配せした。
 ヤキダマは「エッ!」と暫く固まって親父を見ていたが、やがてコトリの方を見た。
 コトリも突然のことに驚いていたが、少し間があってから小さく頷いた。
 「あの……」ヤキダマは覚悟を決めたように喋り始めた。「あの、突然の事なんですが親父さんの命令なんで、ここで発表してしまいます。僕と、コトリは結婚することにしました。だから、コトリはずっとここに居ます」
 一瞬の沈黙の後“コンステレーション”は大きな歓声と拍手に包まれた。やがて拍手は「キーッス、キーッス」という小さなかけ声と手拍子に変化し、それはだんだん大きくなって収まらなくなった。店の前を通る側道で信号待ちをする車からもたくさんの視線が集まってくる。
 ヤキダマはコトリに近づきそっと頬を触った。コトリは覚悟を決めて、目をつぶってそっと頬を出した。その直後、ドォ!!!っと大きな歓声が上がった。コトリは唇に手を当てて顔を真っ赤にしている。ヤキダマはそのまま両手でコトリを抱え上げるとクルリと1回転した。ふわりと浮き上がったコトリは驚いたが、サヤカが大空からよく見えるように抱えあげられている事がわかると、笑顔で大空に幸せの報告をした。

2013.05.23

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新しい作品「720(Seven two zero)」をUPしています。

新しい作品「720(Seven two zero)」をUPしています。
本作品は「Stella5・6合併号」掲載作品です。下のショートカットからどうぞ。
Stella/s
720(Seven two zero)
このお話は254シリーズ第三話です。シリーズ先頭へ
面倒な方はこの下に254シリーズのあらすじを置いておきます。↓
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 カンデシティーの下町、3桁国道の側道わきにひっそりと存在するバイクショップ“コンステレーション”。
 その店に居候する女の子コトリ、彼女は事故で家族全員を一瞬で失った過去を持っている。そのショックに耐えられず、地元を飛び出して今ここに居る。彼女と店主の親父さん、それと常連客のヤキダマが繰り広げる日常と非日常。
 ある日、親父さんは彼女に1台の古いバイクを託す。これを動くようにして伝説の600マイルツーリングをこなしたら正社員に採用しよう……親父さんの言葉に、コトリはバイクを修理し、ヤキダマと一緒に600マイル(約1000Km)のツーリングに出かけていく。行き先はなんとコトリが生まれ、家族と過ごし、そして家族を一瞬で失った町だった。

 ツーリングの半分の行程を終え、家族を失った事故現場に立ったコトリは心に大きな衝撃を受ける。
 事故は新型爆弾を積んだ爆撃機が墜落したというもので、コトリの家のあった場所はすべて消滅している。事故当日の事を思い出したコトリは激しく動揺する。そしてそのまま、ヤキダマを置き去りにしてバイクをスタートさせてしまう。
 ヤキダマは必死にコトリを追いかけるが、彼の腕ではコトリに追いつけるはずはない。
 コトリを見失った不安と疲れの中、最後の給油ポイントでヤキダマはついに倒れ込んでしまう。
 その時、ヤキダマの両頬に冷たいサイダーの瓶が押し当てられる。目を開けるとそこにはコトリの顔があった。ヤキダマはもうコトリを離さないようにしっかりと抱きしめた。コトリは自分の運命を受け入れ、前向きに生きていく決心を語る。
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以下ネタばれあとがき風です。本編を読まれてからの方がよろしいかと……。
本作は先日の記事でも書きましたがサキの自己満足作品です。僕のブルーになった心を復活させるための治療を行っています。その辺のところをご理解頂ければ嬉しいです。
ようするに甘々になっています。自分で書いていて恥ずかしいですが、サキの心はずいぶん癒されましたので、自分としては満足しています。
このシリーズは主人公とともにバイクを中心に据えています。前2作ではコトリの愛車「254」というバイクが活躍しましたが、本作ではタイトルでお分かりのように「720」というバイクを中心に描いています。
「254」と同じように元になったモデルがありますが、わかる方には一目瞭然でしょうから、ここでは特に触れないでおきます。「720」は例の事故の時にコトリが乗っていたバイクで、コトリにとっては一種のトラウマだったと思います。でも、今回はこのバイクを整備して販売しています。整備の腕はもちろんですが、商売も上手くなっています。過去のつらい体験を克服するコトリの様子が伝わっていたら成功なんですが。
ヤキダマのEXP600も再登場しています。600マイルの後このバイクが気に入って親父さんから購入した(うまいこと売りつけられた)という設定です。
バイクについては、今回も先の指導を受けながら楽しく書かせてもらいました。メカニカルな物は好きですので細かいことを書き込んでいる部分もあります。退屈だった方すみません。
そして「254 enhanced」に少し変更を加えています。
例の事故の原因を、新型爆弾による誤爆から、新型爆弾を積んだ爆撃機の墜落事故に変更しています。こちらの方が被害が大きくなることや、不自然さが改善されるように思いましたので変更しました。でも物語の内容自体は変わっていませんので読み直す必要はないと思います。
別世界に出張したりして幸せを満喫していたコトリとヤキダマは、本作「720」で、自分達の世界でも幸せになりました。
この幸せがずっと続きますように。
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お題で遊べるかな?

夕さんの記事「お題で遊べる?」に触発されて書いています。
ウゾさんのタイトル「イカロスの末裔」ですか。いいタイトルですね。サキはピンとストーリーの出だしがだけ浮かびましたが、ここでは出さないでおきます。これ、ウゾさんのタイトルですもん。
変な先入観が入ってはいけません、タイトルだけが降ってきた段階のようですから。あ、もう取りかかっておられるかも。楽しみに待つことにしましょう。

山西の作品のタイトルはけっこういいかげんにつけられています。サキが思いつかなければ先が考えたり出来ますし、お願いして先がつけてくれたタイトルにサキが文句を言うことはほとんどありませんから。
以下サキが作った作品のタイトルそれぞれについて短いコメントを……。

☆シスカ 主人公の名前そのままです。これは最初から決まっていました。絶対タイトルです。
☆地下鉄のエルフ これは作品の状況そのまま、ヒロインが妖精みたいに見えたのかななどと。
☆赤い記憶 血まみれだったという印象から、サーッと血が流れ出るイメージでした。
☆ナオミの夢 これは先がつけましたが古い歌謡曲のタイトルだそうです。でもイメージにピッタリでした。
☆VY Canis Majoris(オレンジの月)
☆Blue Moon(青の月)
☆白い月 この3作品は作品の中に月が登場するシリーズ、タイトル通りの色で月が出てきます。オレンジは皆既月食の月。青はサキの気持ち。白は消えていきそうな人類に対する象徴です。そして鎮魂の意味も込めています。
☆黒い月 白い月の続編ですので対比させて黒と言うことで。明るい話ではありませんでしたので。
☆ほうき星 改稿前、主人公達が乗っている旅客機のモデルがコメットだったもので「コメット」というタイトルだったのですが、改稿した際にモデルを変更したため日本語に変更しました。
☆V645 Centauri (プロキシマ) 星の名前から。ケンタウルス座V645星のプロキシマの意。Centauri(ケンタウリ)は主人公の名前、ケントとタウリの元になった。
☆Meteor(メテオ) 流れ星の意。これも作品の状況そのままです。ボカロの名曲でもあります。
☆Eridanus(エリダヌス) 星座の名前ですが、主人公の乗る宇宙輸送船の名前でもあります。神話の世界にある川の名前です。宇宙を旅するので。
☆Achernar (アケルナル) 星の名前ですがEridanus(エリダヌス)シリーズ最終話なので“河の果て”という意味を持つ星の名前です。
☆254 主人公の乗っているバイクの名前そのままです。
☆254 enhanced 続編なので。
☆720(Seven two zero) 主人公のトラウマになっているバイクの名前そのままです。
☆物書きエスの気まぐれプロット これも物語の状況説明ですね。本当にプロットを挟み込んで書いたので。
☆絵夢の素敵な日常 これも物語の状況説明ですね。多いなぁ。気紛れに日常生活をUPするというコンセプトで始めたものですから。
☆フム・アル・サマカー 魚の口という意味の星の名前から、主人公が海洋少女だったもので。
☆アルテミス達の午後 ヒロイン達を女神みたいに描きたかったのと、のんびりとした午後の情景をお話しにしました。
☆The Horizontal Blue(s) 青い水平線のような意味合いですが、これもボカロの曲のタイトルからのイメージです。海鳥たちのお話しだったので飛び上がったら水平線が見えるだろうと言うことで。
☆Promenad お話しの舞台そのままです。主人公の状況説明も兼ねています。新しい関係への入り口の意味を込めて。
☆HONG KONG EXPRESS(香港急行) 香港が舞台だったので……あの、これは先が考えました。でもなんでEXPRESS?サキは文句は言わないけど。
☆アスタリスク 宇宙が舞台なので星を意味するアスタリスクがいいかなと、でも、ほんとはボカロの名曲の歌詞からイメージを得ています。

なんだか神話系タイトルの創作で盛り上がっていますね。
サキの作品では
☆地下鉄のエルフ
☆Eridanus(エリダヌス)
☆アルテミス達の午後 
ぐらいが神話系のタイトルでしょうか?
サキも神話系タイトルで1つぐらい書いてみようかなと思ってますが、ウ~ム、なかなか出てきません。考えているうちに今日1日無駄に過ぎて行きました。で、こんな記事になっています。
そうだなぁ。いまプロローグだけで止まっている作品の最新話のタイトルにして、でっち上げてみようかな?なんだかイメージピッタリだし。

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*アスタリスク(ウェヌスの末裔)

 ウェヌス一族の末裔であるアルフェラは、果てしなく広がるピンク色の砂の大地の真ん中をたった1人で歩いていた。上空から降り注ぐ強い太陽の光と、容赦なく吹き付ける高温の風が彼女の肌を、金色の髪を、赤い瞳を焼いていった。
 増え続けた炭酸ガスはこの星の気温を徐々に上昇させ、高温に焼けた大気は熱波を伴った砂嵐となって次々と村を町を、そして都市を焼き尽くし砂に埋めた。長い時間をかけて一族が構成を調整し続けてきた大気は、ある時点から一族の制御を拒否し、ついにこの星の太古の姿に戻ろうとしているのだ。
 この星で生きていくことを望んで、この星に残った彼女達にとって、もう打つ手は無かった。わずかでも可能性のある手は全て打った。しかしこの星はあらゆる手立てを拒否し、たくさんの同族を奪い、ついにはアルフェラの最愛のパートナーを奪った。最後の1人になったアルフェラはすべての可能性が無くなった事を確認し終えると覚悟を決め、保護パワードスーツを出て太陽の元を歩き始めたのだ。
 すぐに肌や肺や目は高温の大気にさらされ蛋白は変性し水分を失っていった。体温が上昇し意識が遠くなってゆく。アルフェラはパートナーの名前を呼び、最後に数歩前に歩いてからドゥと倒れた。
 吹き続ける熱風は砂に刻まれた足跡を消し去り、その上に風紋を描いていった。さらにアルフェラの体も砂の中に取り込んで痕跡を完全に消し去ろうとするかのように、絶え間なく吹き付けていた。

2013.05.28改変
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*アスタリスク(バルキリーの選択)-1

 アルマクは疲れているように見えた。そして少し汗の匂いがした。長い髪はつやを失い、1本1本が好き勝手に暴れまわり、それを何とか抑え込んでまとめているという感じだった。(まるで野良猫だな。どこから帰ってきたんだろう?)そんなことを考えながら「風呂に入るか?」と聞いてやると、腕の中でオレを見上げて「お腹すいた」ともう一度言った。
「だめだ。先に風呂だ。少し汗臭いし。すぐに食べられる物が無い。入っているうちに食事の準備をしておくよ」と言ってやると。「汗臭い?わかった。風呂に入る」とオレをぎゅっと抱き締めた。けっこうな腕力だ。オレは締め上げられるんじゃないかと一瞬体を硬くした。暫くそうしてからアルマクは体を離しバスルームへ向かった。使い方は良くわかっているのかすぐに自動給湯が始まった。
「一時間で用意する」声をかけにユーティリティを覗くと、もう裸の背中が見えている。あわててドアを閉めると「わかった」と声が返ってきた。
「着替えは有るのか?」ドア越しに声をかける。
「持ってきてる」持ってきてるんだ。
「バスタオルとパジャマは横のクローゼットの上から2段目、前に置いていった下着も洗濯してそこに入ってる。汚れものは黄色いカゴの中へ」
「わかってる」わかってるんだ。
「好き嫌いは?」
「無いよ。なんでも大丈夫」
「了解。じゃあオレのオリジンの地域の料理を作ってやろう。驚くなよ。もっとも小学校3生年までしか過ごしてないんだけどな」
「お腹すいた」聞いて無いな。
 もうシャワーの音が聞こえ始めた。「のんびり入ってろ」オレはそう言うと大急ぎで支度を始めた。冷凍庫にはアルマクに食べさせてやろうと思って用意したものの、アルマクの失踪で用無しになってしまっていた食材が詰まっていた。

 アルマクは目の前に置かれた皿を見つめて固まっていた。長い髪は丁寧に手入れされ、後ろに括られている。相変わらずヘッドホンをつけたままだが、パジャマに着替え、食べる気満々でキッチンに入ってきてその皿の上を見たのだ。
 オレは少し皮肉っぽく笑うと「アルマクはハシを使ったことがあるか?」と訊いた。
「ハシってなに?それにこれは?」アルマクは困惑の顔を隠そうともせずに言った。
「これは生のフィッシュミートをスライスしたものだ。サシミというんだ。そこにあるワサビとショウユをつけて食べるんだ」
 植物性蛋白から作られる食材の開発は飛躍的な発展をとげていた。畜肉タイプから魚肉タイプまで人類の要求に答えて様々な種類のミートと呼ばれる塊が開発され生産されている。見た目は少し違うが調理してしまえば、ほぼ人間の欲求を満たす程度にまでは完成されていた。オレはその中でもお気に入りのツナミートと呼ばれているブロックを生のままスライスしたのだ。
 もともと生食を前提には作られていないが製造工程で菌が入り込む余地は無いので、オレと同じ地域の出身者の間ではこういう食べ方がよく行われていた。
「ちょっと面白いかなと思って少しだけ作ってみたんだ。後はこのポークミートをカツにしたのがあるから、トンカツっていうんだけど。とにかく先にサシミを食べてみろよ。このゴハンと一緒にハシを使って食べるんだ」と、容器に盛った炊きたてのゴハンを手渡した。
「ゴハン?ライスだよね、こういう白いのは始めてだよ」アルマクは臭いを嗅いで「食べ物の匂い」と言ってからスプーンを使うしぐさをした。「それはライスをちょうどいい水加減でゆでたものだ」オレはアルマクにハシを渡すと「こう使うんだ」とハシを持ってゴハンを食べて見せた。
 アルマクは見よう見まねでハシを持つとゴハンを食べようとした。苦労してゴハンを口に入れると不思議そうな顔をした。「味が薄い」「ははっ。ライス系のパックとは違うさ。そっちのサシミと一緒に食べるんだ」「これを付けるの?」アルマクは横においてあったワサビのかたまりをハシの先に付けると、止める間もなくそれを口に入れた。暫くの間アルマクは涙をポロポロこぼしてオレに抗議することになった。

 涙を止めるために発泡酒が3本必要だった。しかし何でも大丈夫と言ったのはあながち嘘ではなかった。アルマクはサシミをゴハンと一緒にペロリと平らげ、カツもかなり多めに揚げたつもりだったが、オレが自分の分を確保するのがやっとという勢いでサラダと共に完食した。なんとかハシも使っていたが、途中から間に合わなくなってフォークとスプーンが活躍した。でもなんとか使いこいこなせていたのは大したものだ。もともと器用な方なんだろう。
 目についたものをすべて胃の中に収めると、アルマクはようやく椅子の背もたれに背中をもたせ、くつろいだ表情になって「ミラクは料理が上手だね。サシミっていうの?それがとても美味しかったな。もっと食べたい。もちろん、トンカツ?それも美味しかったよ。また作ってほしい」と言った。
 オレが自分の為にあわてて確保した分を食べ終わって後片付けをしている間、アルマクは椅子の上で膝を抱えて赤い瞳をずっとこちらに向けていた。オレは流しに向かって食器を洗いながら、時々振り向いてアルマクの視線を受け止めていた。赤い視線は、はっきりとどこを見ているという風でも無くあやふやだったが、それはアルマクが疲れているせいだとその時は思っていた。
 片づけが終わったオレは「じゃあオレも風呂に入るよ」と声をかけた。
「オレはもう眠いからベッドに入っていてもいい?」アルマクはそういってオレの顔を覗きこんだ。
「いいよ。疲れてるんだろう?先に寝てなよ。」そう言うとオレはキッチンを出た。
 アルマクはまだぼんやりと椅子の上で膝を抱えていた。
 オレはユーティリティーに入ると、アルマクが軽く丸めてポンと置いていたバスタオルをたたんで脱衣かごに入れ、黄色いカゴから飛び出しそうになっている下着をそっとカゴに収めてから服を脱いだ。オレの汚れ物は少し考えてから洗濯機に直接放り込んだ。そして浴室に入るとシャンプーやコンディショナーのボトルを元の位置に戻した。
 それらの作業を終えてからシャワーを浴び始めたオレは考えていた。アルマクは先々週の火曜日にベッドの中にいきなり現れ、金曜日に突然消えてから今日までほぼ10日間、どこで何をしていたんだろう。アルマクは何も喋らないしオレも訊いていない。でもまぁいい。アルマクがどんな気持ちなのかはわからないけれど、とにかく戻ってきてくれたんだ。オレは赤い瞳や長い髪や小さな白い体を想像しながら気持ちの高ぶりを感じていた。しかしたぶんアルマクは相当疲れている。オレは高ぶる気持ちを袋小路に追い込んで抑え込むことにして、湯船にザブリと入り頭まで湯に浸かると、ゆっくりと全身の力を抜いた。お湯の中で息を止めて限界まで漂っていると、オレの脳は酸素を求めることにその力の大半を使ってしまう。限界の直前でガバッと水中から顔を出すと大きく息をして肺に酸素を送り込んだ。
 大きく息をしているとドアの外から「何してるの?」とアルマクの声がした。「なんでもない。まだ起きてたのか?」オレが答えると「歯を磨くんだよ」と暫く歯磨きをする気配がしていたが「終わったよ。おやすみ」と半透明のバスルームのドアに手を当ててきた。
「おやすみ」オレはその小さな手に自分の手を重ねるように当てると声を返した。アルマクの手は少し力を入れて押し返してきてからドアを離れた。ユーティりティーのドアを閉める音がした。
 オレはもう一度さっきの潜水訓練を繰り返した。
 そして、脳がまた大半の力を酸素を求めることに使ってしまってからバスルームを出た。
 体の水分を拭き取り、丁寧に頭を乾かし、クローゼットの1段目から下着とパジャマを取り出すと身につけ、歯を磨いた。そして一連の寝る前の儀式を終えるとゆっくりと廊下に出た。
 オレは寝室には向かわずリビングに入りソファーに身を投げ出した。照明を落とすのもおっくうになって横になっていると、そのままウトウトしていたようだ。気配に目を覚ましたオレの目の前に、赤い瞳と金色の長い髪があった。
 こっちを見て薄っすらと笑っていた。
 オレはアルマクの頭に手をやると付けていたヘッドホンを外した。可愛らしい白い耳が現れて、すぐに髪の毛の中に隠れた。
「あっ……」アルマクの手はヘッドホンを追いかけて動いたがすぐに諦め、代わりに「ミラク、それはね。オレの目なんだ。返してくれるかな」と言った。
「どういうこと?」オレは驚いて尋ねた。
「先に話しておくよ。オレのこの赤い目は実は物を見るということはできないんだ」
「見えてないのか?でもヘッドホンが無くてもウロウロ……」
 アルマクは頷くと続けた。「オレはね。見えてないけど感じることができる。だから見えてる人と同じように、ウウン、それ以上に行動することができる。たとえ真っ暗でもどこに何があるのか感じてるんだ」
「コウモリみたいだな」そう言ってからオレはあわてて「ごめん」と付け加えた。
「コウモリは超音波を使うんだけど、オレはそれでもない。特殊な能力らしくて、まだよく解ってないらしい」気にする様子もなくアルマクは言った。
「でもね。この感覚で感じていることは、普通の人が見ているという事とは違うみたいなんだ。見えていないことを感じたりするし、見えていることを感じなっかったりする。だから、そのヘッドホンでオレの視神経を経由して補正をかけてるんだ」アルマクはオレからヘッドホンを取り上げるとテーブルの上にそっと置いた。「たとえば、色という概念はこれを付けないとうまく認識できない。色によっては区別できてなかったりするからね……」アルマクは解説を加えながらゆっくりとオレの上に被さってきた。
 シャンプーの香りがした。
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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
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