Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

黒い月

Stella/s
月刊・Stella ステルラという企画に参加しています。これはその11月号に掲載する作品です。6600文字程度あります。
よろしければどうぞ。

黒い月

 東側の山越しに差し込んでくる太陽光線が、湖の反対側の山々の上部を照らしている。太陽光線はまだ遥か上空を通過していたので、彼女の短くカットされた白い髪や、つやを失い幾筋もの皺が刻まれた顔や、ほっそりとした体は影の中にあった。
 それらは彼女の年齢に見合ったものだったが、絶妙のバランスで構成されていたので、実際の年齢よりはかなり若く見える。凛とした立ち姿や、何気なく着ているシンプルなワンピースが、さらにその印象を強くした。
 彼女はテラスの手すりに肩幅より少し広げた両手を置いて軽く体重をかけ、眼前に広がる湖を見つめていた。
 季節は秋、時間は午前6時、まだ上がりきらない気温のために、彼女の息は白い蒸気となって呼吸に合わせて広がっては消えていった。
「ゲンマ!ゲンマ!中に居るの?」彼女は家の中に向かって声をかけた。
 私は上空からベランダへと降下した。「スピカ、こっちだ」
「なんだ。上に居たの。ほら!今日は風が凪いでいるから湖面がまるで鏡のようよ。見て!」スピカは両手を広げて湖を抱擁してから「あそこ!」と外輪山の中腹を指差した。「あの日があたり始めたところの紅葉と緑色のコントラストがとても素敵でしょ。日のあたっていない部分ととても対照的で、まるで陰影の上に浮かび上がった天空の庭のようよ。それに目の覚めるような空の青!それがそのまま湖に映ってるんだもの。ため息が出るわ」
 スピカの言った日のあたる部分は時間をかけて領域を拡げていき、やがて光は湖面に達した。そして暖められた空気は上昇気流となった。
「ああぁ、せっかく鏡のようだったのに。どんどん輪郭がぼやけていく……」上昇気流によって発生した風は湖面を正反射から乱反射に変化させ、スピカをがっかりさせた。日のあたる部分はさらに領域を拡げ、ようやく届き始めた太陽光線が彼女の白い髪に断続的に反射し始めた。
 暫く名残惜しそうに湖面を見つめていたスピカだったが、クルリと顔をこちらに向けると「ねえ、ゲンマ。今日は空気がキーンと張ってるね。そろそろ解禁だと思うんだけど?」と尋ねてきた。だが私の意見など聞く気も無い事は明白だ。
「スピカがそう思うなら時期が来たんだろう」
「そうね。朝ごはんを食べたらキノコ狩りに出かけようよ。もういっぱい出てるような気がする」そう言うと、期待に胸を躍らせている様子で朝食の用意をしに小屋の中へ入って行った。
 それは毎年スピカが決めることだった。大型の食用キノコを採りに出かける日、それを空気の温度や自然の色の変化と人間の勘と呼ばれる感覚で決定するのだ。キーンと空気の張る日、とスピカは言うのだが、私の高感度のセンサーは昔から完全に無視されてきた。
 ここ数十年スピカはこの大きな火山が崩壊して出来た穴、アルファルド・カルデラの探検を続けてきた。特に菌類、中でもキノコに非常な興味を持ち、次々と新しい種類を探してアルファルド中を歩き回った。キノコについては写真を撮るのと食べる事がその目的の大半だったが、専門的な知識も蓄えて学術的な調査らしき事もしていた。スピカが若いうちは徒歩やボートで何泊もキャンプをしながら外輪山を一周することも多かったが、歳を取ってあまり無理ができなくなると、さすがにそういうことは無くなった。しかし、まだまだ足腰は丈夫で、日帰りできる位の距離までは出かけていたし、ボートを使えば少し遠出もできた。もちろん私が漕ぐのだが。
 今日もその探検に出かけようというのだ。食事を済ませるとスピカは山行用の丈夫な長ズボン、ウインドブレーカー、前方に小さなつばのついた帽子、それにトレッキングシューズといういでたちで出発した。テラスから出発して森の中を少し下るとスピカが作った小さな農園が有る。数年毎に焼畑を繰り返して何十年も耕作を続けてきた大切な畑だ。色々な種類の作物が生産され、釣獲することのできる魚と合わせて、かなり前から冷凍庫のパウチパックを利用することはほとんど無くなっていた。
 収穫が終わって刈り跡だけがランダムに並んで残る穀物畑の横を抜け、種を取るために野菜や豆が少しだけ残してある畑の横を通り過ぎると、道は踏み跡に変わって森の中へと続いてゆく。私は横に並んだり上空から見降ろしたりしながら、スピカの状態が把握できる程度の距離を保って同行した。スピカの小屋は湖に突き出した半島の先端に立っていたが、今日の山行はその半島の付け根まで歩き、さらに外輪山の中腹まで登るというものだった。尾根にそって出来た踏み跡を辿りながら、時々沢伝いに下ってキノコを探し、生えていれば写真を撮ったり採取したりし、また尾根まで登ってを繰り返す。スピカは5ヶ所でこれを繰り返してから尾根の上で休憩を取った。
「ゲンマ、わたしも歳を取ったのかな?若い頃なら外輪山まで休憩なしで行けたのにね」スピカが湖の向こう、遠い外輪山を見つめながら訊いてきた。
「私のデータとスピカの話を総合すると、すでにスピカは90歳を超えている。これは人間として歳を取ったと判断するには充分だ。だが、その年齢でこの体力は驚愕に値する」
 スピカは遠くを見つめたまま微笑んだ。
 暫くそうした後、急にこちらを向いて「ありがとう。それは誉めてもらってると解釈していいんだよね?」と言った。
「私は人間が嬉しく感じることを自分も嬉しいと感じるように作られている。そして私はスピカが自分の体力を維持できていることを嬉しく感じていると考えている。だから誉めていると解釈してもらって結構だ。データベースにその年齢でこの体力を維持した人間のデータは無い」
「わたしは嬉しいのかどうか自分ではわかんないな……」スピカはまた遠い目をしていたが「でも、体が辛いよりはこのほうがずっといいよね!」と立ち上がった。

 スピカはキノコ狩りを始めた時からずっと、採取したキノコの同定に私の分析システムは使わず、持参したタブレットからサーバを参照して、そこに有るライブラリーのデータを頼りに食べられるかどうかを判断した。食べられると判断しても、最初は微小なかけらをゆでて食べることから始め、異常が無ければ徐々に大きくした。一歩間違えば命にかかわることだ。私は何度も警告した。するとスピカは「大丈夫よ。ちゃんと調べてるんだから。もしあたって私が死んでもゲンマは困らないでしょう?だれも悲しむ人もいないわ。この真っ赤な艶々とした、いかにも毒々しいこのキノコが美味しく食べることができて、こっちの茶色のふんわりとしたパンのようなキノコが毒を持っているなんて誰が考える?これとこれ、どう見ても全く同じキノコに見えるのにこっちは猛毒、そしてこっちは食べられるなんて信じられる?ドキドキするわ。ねぇ!そう思わない?ゲンマ」そう言うとまた新しいキノコをテーブルの上に載せ、データと見比べるのだった。その微笑みを湛えた生き生きとした表情を見ると、私は何も言うことができなくなった。その時私は自分が人工知能の3原則を逸脱することができることを認識したのだ。
 ただ、私がもしスピカが死んだらNET上の友人達がどう思うだろう、と質問した時のスピカの諦めきったような表情と無言で返された答えは、私のメモリーに非常に大きなデータを残した。スピカは言葉では質問に答えず「ねえ。ゲンマ。この妖精のお家のようなオレンジ色の傘、美味しそうだし可愛いと思わない?でもデータと見比べると多分このキノコね。猛毒って書いてあるわ。駄目ね」と写真にデータを付けライブラリーに保存した。私はスピカがなぜ命を賭けてまでキノコ狩りに熱中するのか理解することはできなかった。
 本当にスピカが死んでしまっても私にとって何も支障は無かったが、実際には何回かお腹を壊すぐらいで済んではいた。それ以降、私はスピカを静かに見守ることにした。

 スピカは尾根沿いに歩を進め、さらに何ヵ所かの沢を下り、いつもの場所でいつもの美味しいキノコを発見し歓声を上げた。「やった~!輪を描いてるよ」大きく傘を広げた茶色いキノコが輪を書くように群生していた。独特の香りがセンサーに感じられる。「いい香りだね。食べられる香りだよ」周りは胞子で真っ白になっていて、落ち葉の下を探るとキノコのつぼみが幾つも出てきた。スピカは大騒ぎをしながら食べきれるだけそれを採集し籠に放り込んだ。さらに少し横道に入っては、これまでに見たことの無いキノコの写真を撮り、少しだけ採集した。籠がいっぱいになると、それは私の下げている大きな籠に移され、運搬は私の役目になった。やがて踏み跡は外輪山に差し掛かり、急な登りになった。スピカは息を切らしながら、それでもキノコの採集を続け中腹にある少し開けてテラス状になっている岩棚まで登った。「ふ~~ぅ」スピカは大きく息を上げると「ゲンマ!今日はここまでにしよう。お昼を食べてゆっくりしたら引き上げよう」と言うとテラスの一番前に座り、足をテラスの外にぶら下げた。足元は垂直な岩の壁になっていて、ぶら下げた足の下には20メートル以上の空間が広がっていた。

 私がスピカに出会った頃、始めてここにやってきた時もこうやって座るので私は警告した。すると「大丈夫よ。ちゃんと気を付けて座ってるんだから。もし私が落ちて死んでもゲンマは困らないでしょう?だれも悲しむ人もいないわ」と言ってぼんやりと向かいの外輪山を眺めたのだった。そして立ち上がった時には「ここで立ち上がるとわたしはね、ゲンマ。こうやって……」と一歩前へ踏み出そうとした。「飛び出したいっていう衝動に駆られるの。ブワ~~ッてここから降りていく感じ?すごく気持ちが良さそうな気がするのよね。でも頭から肩までキュ~ンと締め付けられる感覚?そんな感覚で一歩前へ出ることは出来ないの。それでね。そっと後ろへ下がるの」とゆっくりと後ろへ下がった。そしてまだつやつやしていたその顔で力なく微笑んだのだった。
 私はそれ以降警告することを止めてしまった。

 70年が経過した今もスピカは足をブラブラさせながらぼんやりと向かいの外輪山を眺めている。足元には馬蹄形の第2カルデラを構成する2つの半島がミアプラキドゥス湖に向かって突き出している。半島には右側はボルックス、左側はカストルと言う名前が付けられていた。スピカの小屋はカストルの先端にあって、我々はカストル半島を先端からずっと移動してここまで登って来たのだ。2つの半島に囲まれた濃い青色の水を湛えた水域は中湖と呼ばれ、この湖で一番水深が深い部分だ。
「ねえゲンマ。ここから見る風景は本当に綺麗だね!」スピカは子供のような顔をこちらに向けて嬉しそうに言った。とても90歳を超えているようには見えない。
「冬葉緑に紅葉色や黄葉色や枯葉色をちりばめた山、本当にこれが自然に出来たものだって思う?この組み合わせとバランス、絶妙だと思わない?木々が一本ずつのそれぞれに勝手に色付いてたら、とてもこんな風な並びにはならないと思うの。何か不思議な力が離れた所から全体のバランスを見て配置を決めたんじゃないかって思えてくるんだ。わたしはこれまでそんなことを思わないようにしていたんだけど……」私は反応を返さなかった。
「それにあの中湖の透明な冷たい深水色、周りの湖の色よりいっそう深くて、こんな深い色合いの巨大な宝石が、この細かな綺麗な色の飾り石をちりばめたボルックスとカストルの間に、自然にはまり込んだなんて。誰が信じる?」私が反応を返さないので、スピカは景色の方へ目を戻してしまった。
 しばらくして小刻みに震える肩を見て私は尋ねた。「泣いているのか?」
「泣いていたらいけない?」振り向いたスピカはポロポロと涙をこぼしていた。
「スピカが涙を流していてもなんら不都合は無い」
「でしょ。でも、わたし……なんで泣いてるんだろう?わかんないよ。ゲンマ、少しの間泣いていてもいい?」
「時間はたくさん有る、問題無い」
「ありがとう」しばらくの間スピカは遠く外輪山の方を向いて肩を震わせていた。

 スピカが私に泣き顔を見せるのはこれで二度目になる。前回は23歳の頃、私にぶら下がって上空4000メートルまで上昇して外輪山の外を覗いた時だ。延々と広がる赤錆色の砂漠に声を失ったスピカは静かに涙を流したのだ。それ以降スピカはこのアルファルド・カルデラを出る話はしなくなった。そして菌類の調査に情熱を燃やし始めたのだ。

「お昼ごはんにしようか?」振り向いたスピカは勤めて明るく振舞う様子で言った。
「かまわないが、私には……」いつものように私が答えようとすると、スピカもいつものように途中で遮り「ゲンマの最大の欠点は食べないこと、だよね」と言ってニッコリ笑った。

 これがスピカと私の最後のキノコ狩りになった。このあとスピカはキノコ狩りに出かけなくなったのだ。何度かのシーズンがやってきたが、スピカはもう尾根を歩くことはなく、昼は畑仕事や魚釣り、たくさんある雑用、そして夜は映画を見たり小説の創作に勤しんだ。NETに発表する作品の数は増えていき、コメントもたくさんもらっているようだった。しかし、徐々にスピカの精神機能は衰え、スピカと私との意思疎通は難しくなった。私にボートを漕がせて湖に出ても、長い時間黙ったままぼんやりと周りの風景を眺めることも多くなった。
 たった一人で70年以上の時を過ごしてきたスピカにとって、やはり精神的な負荷は相当大きかったのだろう。アルファルドという名の通りの絶望的な完全閉鎖世界で、NET上に構築された仮想社会と人工知能とのコミュニケーションだけでこれだけの間機能を維持できたのは、スピカの精神の特異性によることが大きかったと思われる。スピカの精神はこの特殊な環境に見事に適応してきた。しかしそれにもやはり限界があったのだ。私は起動してからずっと観測を続けていたが、データベースにはこのような特殊な環境に適応した人間のデータは存在していない。
 徐々に精神機能の衰えたスピカは、私を機械として認識したり人間として認識したりを交互に繰り返し、私は友人になったりロボットになったり初恋の人になったりした。私には色々な人格をエミュレートする機能があったので、どんな対応でも可能だった。初恋の人の記憶が戻っている間に、私はスピカの本当の名前を知ることができた。それは東域の弓状列島にあった国に咲く、美しい花の名前と同じだった。記憶が戻っている間にその名前で呼んでやると、彼女はたくさんの人と繋がりを持っていた若い時代に戻るのだ。彼女は笑い、はしゃぎ、そして快活に喋った。そして時が来るとまたスピカに戻った。

 外輪山に薄っすらと雪が積もり、テラスが凍りついた霜で白く光る冬の朝。
 彼女は静かに逝った。

 私は彼女の生命反応が完全に停止したのを確認すると、閲覧可能になったメモリー最下層のディレクトリの中に入った。そこにはこれまでの経緯情報と現時点以降の行動指令データが入っている。
 第三次アポトーシスであるデュスノミアの崩壊直後、関連設備の数は連鎖崩壊により最低稼働限界値を遥かに下まわり、人類再生計画はついに破棄された。わずかに残された再生施設は細々と稼働を続けたが、徐々に数を減らし、ついに4年後に最後の1つ、それも生活環境施設を残すのみとなった。それは奇しくもアルファルド“孤独なもの”と呼ばれる施設だった。その事実が確定となった時、人類再生計画を司る人工知能メイサV30は機能を限定モードに移行してサポートに回った。サポートとしてのメイサの役割はもうほとんどなかったが、スピカが利用していたNET仮想社会のダミー人格などはメイサが作り出したものだ。そして、終焉観測システムを司る人工知能ゲンマV30が限定モードから起動した。それが私だ。メイサとゲンマ、全く同じに作られた2つの第13世代V30シリーズ人工知能は相互にバックアップ機能を補完しあう双子のシステムだ。
 だが彼女が逝った今、私もすべての役割を終えた。行動指令データでは私達2つの人工知能に対して機能停止の許可が与えられていた。私達が機能を停止してもアルファルド、この地上最後の楽園は、もうしばらくの間(10年程度と推測される)核融合電池の寿命が尽きるまでは維持されるだろう。

 終焉観測システム「MITORI」
 MITORI
 exit

 observer 880
 shut down
 
 A.I MEISSA V30 system
 halt
 
 A.I GENMA V30 system
 halt

 see you again
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

駄目ですね。

 先です。
 駄目ですね。
 今日の午後、日本中の紅葉の中をモーターパラグライダーで飛んで撮影する番組の再放送をやっていたんです。冬葉緑に紅葉色や黄葉色や枯葉色をちりばめた山々(どっかで聞いたような?)、素晴らしい風景だったです。ミアプラキドゥスのモデルの十和田湖もやっていたんですが、それを見ていたサキが涙ぐんでるんですよ。今にもこぼれそうです。
まぁ、元気は元気なんですけど、まだ頭の中がスピカのままみたいです。戻ってくるのに2~3日かかりそうかな。自分の作品は書けないみたいで、皆さんのブログにお邪魔してゆっくりと作品を読んでいる様子です。今はPCの前でモニターを覗き込みながらカタカタとキーボードをたたいているので、多分感想コメントでも書いているんでしょう。
 そっと覗いてみるとやはりそんな感じです。テキストエディターで書いているので、後で校正をかけろって言ってくるんでしょう。何故かほとんどの文章をそうするんですよね。先が見た後でコメントさせていただくことになると思います。お目汚しですが見てやってください。
 それと、4000HITのお題も頂いているんですが少し待ってやってください。
 では。
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トラックバックテーマ 第1549回「いつか行ってみたい【秘境の地】はどこですか?」

トラックバックテーマ 第1549回「いつか行ってみたい【秘境の地】はどこですか?」



 テーマからは少し(大いに)離れてしまいます。
 でも、このテーマから思いついてしまったんですよ。

 秘境…の地ではないんです。もう絶対行けないところ、とても行きいんですけど、もう見ることのできないところ……そこは世界と世界、国と国の勝手な都合で生まれた不幸な都市、「東ベルリンと西ベルリン」です。

 東ベルリンについては山西なんかは映画から得た暗い抑圧されたイメージしかないんですけど、そこで人々はどんな生活を送っていたのか実際に見てみたかったです。実際に機能するベルリンの壁も見て体験したかったです。

 その当時、自由を謳歌していたように見えた西ベルリン、この孤島のように取り残された都市はどんな雰囲気だったんだろう。などと想像すると、もう絶対に行くことができないのが残念でなりません。でもヨーロッパが平和に一歩近づいたために無くなったのですから、そんなことを思うのは不謹慎でしょうけど。
 西ベルリンの地下鉄が一部東ベルリンの地下を走っていて、そこにあった駅は閉鎖されていた…とか(乗ってみたかったな)、日本人だったらベルリンの壁を通過することが出来たのかな?などと想像しながら悶々としています。

 現代でこういう環境にある都市は、エルサレムやベイルートぐらいなんでしょうけど、軽々にいける環境ではなさそうですし。板門店なら何とかいけるかも。でも都市じゃないし。タイムマシンが使えるならサイゴンとか返還前の香港とか(九龍城なんか)も覗いてみたいです。
 負の世界遺産みたいな感じですね。つまんない記事になりました。ごめんなさい。
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なにかいいアイデアありませんか?

 絵夢の素敵な日常(7)4000HITバージョン、書いています。もうずいぶん時間が経過してしまいましたが、ちゃんと書いています。
 ほぼ出来上がって校正と推敲にかかっているんですが、ここで図々しいお願いです。下にあるのは(7)の一部分なんですが、山西のボキャブラリー不足から下線部分のいい表現が思いつきません。どなたか何かいいアイデアありませんか?
 昼間に夜のお店がたくさん並ぶ裏通りを通り過ぎる絵夢の感想を上手く表現できるといいんですけど。何回か書き直してるんですが詰まってしまって、こうなるともう出てきません。
 どなたかアイデアをいただけないかなぁ……。


絵夢の素敵な日常(7)4000HITバージョン より抜粋

地下鉄の改札を抜け複雑な階段を上下し地上に出ると、真っ昼間、太陽の下に放り出された夜行性動物のような困惑の漂う裏通りを抜け、11月のまだ完全には冷え切らない風に長い髪を揺らしながらスクランブル交差点を渡り駅の前に出た。


 う~ん、継ぎ接ぎ状態でしっくりこないまま途中で放り出しています。どうでしょう?
アイデアを頂いてもそのまま生かせるかどうかは分かりませんが、思い切ってここに書いてみます。
 時間ばかりが経過していきます。焦りますよ、ほんとに。
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絵夢の素敵な日常(7)

「Debris circus」4000HIT記念

 空気の読めないお嬢様、絵夢が素敵!と感じたことを感じたままに写し取る、読んでくださる方の気持ちなど全く考えない、とっても自分勝手なショートストーリー。

「お嬢様!」「絵夢お嬢様!!」黒磯は玄関を入ると声をかけた。時計は午前10時をさしている。返事は無い。「お嬢様!」もう一度声をかけてから「上がらせていただきます」と入り込み、いつものように各部屋を手馴れた様子で確認していく。もちろんベランダに出て前回気付かなかったスペースも覗きこむ。前回はここに潜まれていて見つけることができなかったのだ。
 キッチンからベランダへ出るドアのカギが、外からも開ける事の出来るタイプに替えられていることに気付いたのはつい先日のことだ。外から鍵を開けることができるということは、自ずからベランダに絵夢の秘密が存在するということで、そのスペースの発見にはいくらも時間はかからなかった。
「逃げられたか……」黒磯はリビングに入ると丁寧に窓を閉め、もう一度部屋を確認してから玄関を出た。ダブルロックをかける音が部屋に響いた。

 昼過ぎの地下鉄四つ橋線難波駅は乗客の数も少なく、先に降りた乗客はすでにエスカレーターや階段を忙しげに登っていった。最後に電車を降りた絵夢はゆっくりと歩き、ホームの一番南側の端にある登り口にたどり着くと、いきなりクルリと振り返りホームに人影が無いのを確認した。そして再び向き直り、今度は歩調を速めてエスカレーターを歩いて登り、改札を抜け迷路のような階段を上下して地上に出ると裏通りに入った。両側に夜の客を迎える店が並んだ狭い通りには、白日の下に曳き出された夜行性動物の困惑と違和の気配が漂っていた。絵夢はその気配をないまぜにした哀れみに似た感覚を抱きながら通りを抜け、11月のまだ冷え切らない風に長い髪を揺らしてスクランブル交差点を渡った。
 たくさんの歩行者に紛れて高島屋の東のはずれを少し南に下り、そこからさらに東へ歩を進めると通称“オタロード”と呼ばれる通りが南へ伸びている。仮想と現実、快楽と苦悩、繁栄と衰退、相反するものが混然となって存在するこの街はある種の高いエネルギーを発している。絵夢はそれを、生命力などとはまた違った未知のエネルギーのように感じていた。
 ゲームソフトやフィギィアやカードゲームそれにPCパーツなどのショップが並ぶ通りを進み、メイド服やネコ耳の女の子の横を抜けると左に折れ、くたびれたビルの入り口をくぐった。
 そして何度も折り返しのある狭い階段を3階まで登ると“SOLARIS”と小さなプラスチックの板に書かれた札の付いた灰色のドアの前に立った。絵夢はもう一度階段の方を確認してからドアを開け中に入った。
 薄暗いドアの中は細長いカウンターになっていて、3人の初老の男が並んで座り何事か話しこんでいる。カウンターの中にはこれも初老の身長の高い痩せた男がグラスを拭いていたが、入って来た絵夢をちらりと見るとまた元の作業に戻った。3人は一番奥から並んで腰かけていたので、絵夢は彼らから少し間隔をあけて、ドアから3つ目の椅子に腰をかけた。すると手前に腰かけていた小柄な男が声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、お嬢ちゃん、ここは会員制やで。その辺の店とおんなじように好奇心で入ってきてもうたら困りまんなぁ」
 絵夢が口を開こうとした時、カウンターの中の男が声を出した。
「おい!カスレ。この子はええんや。偉そうにいうな」
「なんやいな。こんな若いお嬢ちゃんの会員なんか、わしは聞いたことも見たこともないで。なあ、お前ら」「そうや、そうや」
カスレと呼ばれた男は奥の2人に声をかけ、彼らも同調した。
「この子ぉはやな……」カウンターの中の男が屈みこむと声をひそめて話し始めた。店の一番奥で4人の男らは頭を突き合わせひそひそ声で話しあっている。
「えぇ!ビンデミアトリックス!この子ぉがかいな。なんでそんなええし(良家)の子ぉがこんなとこにおるねんな?」
「それはまあいろいろ事情がやな……」
 ビンデミアトリックスの部分が3重奏になって絵夢の耳に届いたが、その後はまた徐々に声は小さくなって聞きとれなくなった。カウンターの中の男の解説が済むと客達は納得したのか、また自分達の会話に戻っていった。
 カウンターの中の男が近づいてきた。「絵夢ちゃん。もうちょっと待ったってな。さっき少し遅れるいうて電話あったわ」
「わかりました。マスター」絵夢はニッコリと微笑んだ。
「何か飲むか?」
「そうですね。始めてここに来た時出していただいた物をいただけますか?」絵夢はまた微笑むとそう言った。
「絵夢ちゃん。きついなぁ。ほんまにそれでええんかいな」
「ええ。とっても気に入ったんですよ」
「せやったらええねんけど」
 マスターは冷蔵庫を開けると特濃牛乳のパックを出し、それをグラスに注いだ。そして絵夢の前に置いたコースターにグラスそっと乗せると、シロップを入れたピッチャーとストローを添えた。
 絵夢はそれを見ながら言った。「始めての時はミルクにグラニュー糖だったですよね?」
「またまたきついなぁ!勘弁したってぇな」
「え?でも、沈殿するぐらい砂糖を入れていただいて、それがすごく気に入ったんですけど?」絵夢はシロップを全部グラスに入れた。マスターは頭を抱えてしまった。
「マスター、それ、たいがいな嫌がらせやで。他人(ひと)のこと言えんやないか」カスレがこちらを向いて言った。「そうや、そうや」奥の2人も同調した。
「俺も知らんかったんや。あんたみたいな可愛い子ぉの来る店とちゃうで、ゆうて教えたらなあかんと思たんや。すまんかったな。あやまっとくわ」マスターは絵夢に頭を下げた。
「え?でも美味しかったですよ。とっても」絵夢はキョトンとした顔をした。
「気に入ってもらえたから良かってんけど……まぁゆっくり飲んどいて」マスターは諦めて店の奥に引き上げた。
 絵夢はミルクを飲みながらマスターの引き揚げた先を見ていた。店の奥に陣取った男達の前には黄ばんだクリーム色の箱と古いモニターが置かれていた。箱は多分パーソナルコンピュータだ。男達は正方形の封筒のような物をその箱のスリットに挿入しスイッチを入れた。「ほれ!やっぱりメモリーが足りん」「ボヤキ、お前CONFIGいじれ」「HIMEM.SYSとEMM386は入っとるか?」「ファイルメンテ入れとったかな?……おるおる……と」真ん中のボヤキと呼ばれた太目の男は、老眼鏡をかけるとキーボードをたたき始めた。
 絵夢はこの店の雰囲気が気に入っている。カウンターの向こうにある棚には一部にアルコールやグラスの類が並んでいる他は、10年以上も前に発売されていたパーソナルコンピュータがずらりと並んでいるのだ。絵夢にはよく分からないが、PC9801、FM-TOWNS、X68000、IBM、COMPAC、GATEWAYの文字が見えるものや、子犬のようにちょこんと座り込んでいるリンゴマークの可愛いらしいものなどが並んでいる。棚の下には大小幾つもの古いサーバー機が座っている。この不思議な空間は過去のコンピュータ達のパラダイスの様相だったし、薄暗い店内で小さなスポット照明をあびて輝きを放っているそれらは、絵夢を少年の秘密基地に迷い込んだ少女の気持ちにさせた。
 絵夢はミルクのグラスを空にすると立ち上がって店の奥に向かった。カスレとボヤキそして一番奥の男は少しおびえた目つきで絵夢を見た。
「なんぞ用かいな。お嬢ちゃん」カスレがおどおどとした様子で訊いた。
 絵夢は愛想の良い笑顔を向けると「その四角い封筒のようなものは何ですか?先ほどそこのスリットに差し込んでおられた……」と訊いた。3人は顔を覗きこまれて少し赤くなっていたが、カスレがあわてて咳払いをして解説を始めた。
「これはスリットやなくてフロッピードライブやな。そんで封筒てこれか?ちょっと待ってや」カスレは箱から四角い封筒のような物を取りだし「これはフロッピーディスクや」と絵夢に手渡した。
「これが?」絵夢は疑問の顔をカスレに向けた。
「無理ないわ。見たこともないやろ?これは5インチのフロッピーディスクや。なんやフニャフニャで頼りないやろ?」
「これにデータが入るんですよね?」
「1.2メガバイトのな」
「メガバイト……ですか?少ないですね」
「ははっ!せやろ。小さいもんや。これにOSやゲームとかを入れるんやからな。大したもんやろ?」
「すごいですね!これで動くんだ」
「この機械はな。40メガバイトのハードディスク内蔵でな。そこにDOSとこのフロッピー7枚分のゲームをインストールして動かそうとしてるんや。今はメモリー不足でまだ起動せんけどな」
「40メガバイト……ですか?ギガでなくて」
「昔はこないなハードディスクだけで10万以上もしたんやで、遅いしメモリーも少ないから複雑なプログラムはそのままやったら動かんのが普通やった」
「いろいろ工夫しないと動かないんですか?」
「せやな、一筋縄ではいかんわ。こんな昔の機械、わしらみたいなもんで、さっぱり言うこと聞きよらん」4人の男達は爆笑した。絵夢もそれにつられて少し笑った。
 その時、店の入り口のドアが開いた。絵夢は弾かれるようにドアの方向に顔を向けた。
「お!オーナーのお出ましやな」カスレが声をかけた。
 ドアの所には長身の細長い中年男が、すこし背中を丸めて立っていた。
「カソール先生!」絵夢は店内を駆けるとカソールの胸に飛び込んだ。カソールはよろよろとドアの所まで後退しながら「アトリ君!元気そうだね。相変わらず」と絵夢の頭を撫ぜた。
「先生こそ。お元気そうで」絵夢はカソールの細い胴体に手を廻して締めあげた。
「痛いよ!痛い!!少しは加減してくれよ」
「だって!お会いするのは1年ぶりぐらいなんですもの」
「そんなに会ってないかな?」
「そうですよ。この前始めてこのお店にお邪魔した時は、電話でお話ししただけだったですから」
「そうだったね。呼び出しておいて私が来れなくなってしまって、私が電話で連絡するまでマスターにずいぶん苛められたって聞いてるよ」
「勘弁してやぁ。誰や報告したんは」マスターは頭を掻いた。
「えっ!でも面白い飲み物も頂いたのに、美味しかったし、苛められてなんて無いですよ」絵夢はまたキョトンとした顔をした。
「絵夢ちゃん。それ皮肉やなくて、ほんまに天然か?すごいわ。御見逸れしました」そしてマスターは深々と頭を下げた。
「頭を上げてください。わたしマスターに頭を下げていただくようなこと、何もしてませんから」絵夢はマスターの頭を上げさせるとカソールの方を向いた。「カソール先生、今日お邪魔したのは例の件で御報告があったからなんです」
「例の件って、お願いしていたペットボトルのことかな?」
「そうです。先生は携帯もメールも持たれてないから連絡の取りようが無いんですもの。マスターを経由してやっと連絡できるだけなんですから、とっても不便ですよ」
「すまないね。私はそういうものから離れた生活がしたくなったんだ。まぁ最高のわがままだね」
「周りはみんな迷惑やけどな」カスレがチャチャを入れた。
「で、ですね。お願いされていた大型の炭酸飲料用ペットボトルですけど、日本には製造している会社がありませんでした。兄に調べてもらってやっと見つかったんですよ」
「あったのかね?容量は?」
「ええ。ご注文のとおりです」
「おぉ!!それは嬉しいね」
「で、いま商品サンプルとして他の品物と積み合わせで海上コンテナに乗っています。30本用意しましたけどそれでよろしいですね?炭酸飲料容器の規格に合致していることも確認済みです」
「充分だよ。アトリ君。さすがに素早いね」
「入船と通関のスケジュールから見て、お届けは12月1日。配送場所はこのお店でよろしいですか?」
「それで大丈夫だ。マスターに受け取らせるよ。代引きにしておいてくれたまえ」
「そんなもん、何に使うんや?先生」矢継ぎ早に繰り出される会話に目を丸くしていたカスレがようやく訊いた。
「ロケットを打ち上げるんだよ。カスレ君」
「ロケット?ペットボトルロケットかいな?」
「そう。200メートル以上上昇する大型の2段式ロケットを作るつもりなんだ。アトリ君なら想像がついていると思うけど」
「ええ。こんなものの使い道はそれぐらいかなぁって思ってはいました」
「来年第1四半期の打ち上げを予定している。日程が決まったらまたマスターからお知らせするよ。もちろん打ち上げにもご招待するよ」
「嬉しい!」絵夢はまたカソールに思い切り抱きついた。
「お三方も来てくださいよ」カソールは少し顔をしかめながら3人の客にも声をかけた。
 そして「マスター!前祝いだ。なにか飲み物とおつまみをお出しして。今日はオーナーのおごりということでパ~ッといきましょう」と両手を広げた。
「やった~」4人の客の声が響いた。

 店の一番奥に座っていた男が携帯電話を開きながら店を出てきた。男は廊下の端まで行ってから携帯電話を操作し耳に当てた。
「黒磯さん?ナニワです。予想通りお嬢様は例の店です。えぇ。今、パーティが始まったところですよ。大丈夫です。えぇ。もう1・2時間かかると思いますよ。はい。見守ります。お嬢様が店を出られる時に連絡を入れます。はい、了解です。では」
 男は携帯をたたむと店の中へ戻った。
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4000HIT記念掌編出来ました!

 うわ~!!!遅くなってしまいました。4000HIT記念掌編ようやく完成です。
 えぇ?何の話かですって?!そうですよね。ずいぶん時間が経ってしまいましたもんね。忘れられていても当然です。
 では復習です。

 完成したのは山西の変なブログ「Debris circus」の4000HIT記念として企画した掌編小説です。
 お題はペットボトル。指定のキャラは絵夢です。HITを踏まれた栗栖紗那さんのリクエストでした。
 途中ちょっと煮詰まってしまって、思い切ってHELP記事を書いて皆さんのご意見をお願いしたのです。コメント無いかもな~などと思っておりましたらなんと、色々なアドバイスをいただいて、嬉しいやら恐縮するやら、でした。せっかくのアドバイスもちゃんと生かせたのか、グダグダですが切りが無いので(放っておいたら5000HITまで行っちゃいそうです)いったん打ち切って何とかUPしました。ご勘弁ください。
 まだ納得してUPしたものではありまっせんので良くない点など、“やんわりと”ご指摘いただければ嬉しいです。努めて明るく書いたものですから、つい楽しくなってしまって、だらだらと長くなってしまいました。それについてもご勘弁ください。
 作中に出てくる「SOLARIS」で使われている“無駄な知識”は相方が持っていたものです。かなり昔の事なのでもう細かい部分がゴチャゴチャになっているようです。(本人曰く、ほんとうにもう頭の中に残ってないのが良く分かった。間違いをご指摘いただいて修正することはやぶさかではないが、もうそっとしておいてほしい)コンピュータの世界では10年も過ぎるともう前世紀のような感覚です。許してやってください。
 ずいぶん遅くなってしまいましたが、この蝸牛のようなスローペースが本来の山西の書き方なのかもしれません。最近ちょっと量産しすぎてるかも……でも読んでいただけるのは嬉しいですし、このあたりのバランスがとても難しいです。
 また反省会の記事を書くかもしれません。
 この下にリンクを置いておきますので、よろしければ読んでいってください。このブログを覗いてくださった方々に、そしてリクエストをくださった栗栖紗那さんに感謝をこめてお届けします。コメントでもいただければ飛び上がって喜びます。
 では。

絵夢の素敵な日常(7)「Debris circus」4000HIT記念

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ここのところ

 ここのところ、夜はおとなしく小説らしきものを書いています。
一応Stella 12月号用の掌編なんですが、クリスマステーマで仕上げようかと思って苦戦中です。
この作品、実は以前から書いていて行き詰っていた作品なんです。
今回これにを何とか展開させて完成させたくなって、いそいそと書き始めました。

ところがです。継ぎ接ぎの弱々しい幽霊のような物語は、バラバラになって元の姿に戻ろうとしたり、制御が利かずに消えてしまいそうになったり、どうにも上手くコントロールできません。辻褄を合せるために長すぎる解説を入れてしまって、どうにも読めなくなってまた消してしまったり、不自然な接続部分が出来てしまって、これの処理に長い時間をかけてしまったり。報われない無駄な試行錯誤ばかりを繰り返しているように思えて自分の力不足に脱力感を憶えています。
特殊な舞台設定もその分かりにくさに拍車をかけるばかりです。ええい、もういっそのことみんな削ってしまえ…とやって、まったく別の物語になってしまって、あわてて元に戻したり、あぁ意味不明です。
ここのところ、そうです、本当にここのところ、シスカを書き始めたときのようなガンガン進むエネルギーが湧いてこないような気がしています。こういうの、生意気にも言ってしまえばスランプって言うんでしょうか?
あっ!でも、これ、ありえないです。単に力不足ということなんでしょう。なんだかつまんないものが出来てきそうな予感もして不安になってみたり、まぁそれはそれでしょうがないかと思ったり、とにかく完成させたい一心で進んでいます。

今、なんとか枠の中に収めるように努力を重ねていますが、はたしてどんな物が出来上がることか……(またこっちがはみ出しています)。一生懸命書いてるんで待ってる方、いらっしゃいましたらお待ちください。

そうそう、これ支離滅裂ですが、Stella 12月号参加宣言です。よろしくお願いします。
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絵夢の素敵な日常(フム・アル・サマカー)

Stella/s月刊・Stella ステルラ 12月号参加 掌編小説

 人が歩いて通える道も無い細長い岬の先を過ぎると、湾の入り口の真ん中にいくつかの巨大な岩で構成された岩礁がある。その岬の先を外海に向かう一隻の漁船の“とも”には女が1人立っている。右膝の位置に穴のあいたジーンズ、船上作業用の紺の長靴を履き、化粧気の無い顔は少し潮に焼けている。師走の高い青空から降り注ぐ太陽は、黄色いフード付きのウインドブレーカーを柔らかく照らしているが、冷たい潮風はショートカットにした髪を揺らせ、ダウンジャケットの必要性を感じさせる。進むほどに海面は不気味な青黒さを増し、波も内湾のように優しくは接してくれなくなった。
 彼女はスロットルをいっぱいに開け舵を直進の位置に保ったまま、不安そうな目で正面に見える岩礁を見つめていた。口は一文字に結ばれたままだ。
 暫く戦いは続いた。船は上下の動きを徐々に大きくしながら岩礁へ近づいてゆく。しかし海面がさらに黒さを増し波の先が白く泡立つようになってくると、諦めたようにスロットルを緩めて船速を落とし取り舵を切った。船はゆっくりと、そして寂しそうに大きくUターンを始めた。
 水産研究所の研究生である彼女は、今日は“ワッチ”(見張り)をこなしていた。朝5時前に起きて各水槽の水質測定と飼育している魚の状態の確認をしてから朝ごはんを食べ、沖の生簀の様子を見るために船を出した。表層と水深10mの海水の採取と水質の測定を行ってから生簀を確認すると通常はそのまま帰るのだが、今日はさらに沖の岩礁に船を向けたのだった。
『何回目だろう?』Uターンを終えた彼女は考えていた。いつもあのあたりで不安がいっぱいになって頭の中をグルグル回りだし、怖くなって舵を切ってしまう。『1回ぐらいあの岩礁を1周したいな』未練を含んだ目で岩礁を振り返っていた彼女は視線を正面の航路標識に戻すとスロットルをいっぱいに上げた。師走の風は向かい風となってさらに冷たさを増した。

 師走の慌ただしい気配はここではまったく感じられない。雲の隙間から届いてくる昼前の太陽にも、聞こえてくる風や波の音にもそんな気配はない。ただ冷たい空気が年の瀬だということを知らせてくれるだけだ。
 水産研究所の桟橋は潮の満ち引きを考慮に入れて浮き桟橋になっているが、今は引き潮なので堤防から浮き桟橋までは結構急なスロープになっている。スロープを下って浮き桟橋に乗ったところは20センチ程の高さの板張りの柵で囲われたスペースになっていて、その先はFRP張りの通路になっている。彼女は板張りのスペースの囲いに腰掛けて、湾の真ん中に浮かんだ小島を眺めながら、今朝見た作業を反芻していた。
 板囲いのスペースのすぐ横は出荷用の生簀になっていて、いつでも出荷できるように魚が飼われている。毎朝、早出の職員がその生簀から板張りのスペースにタモ網で魚をすくい上げ、暴れる魚をスポンジの上に押さえつけ、こん棒で目と目の間をガンッ!と殴る。すると魚は口と鰓蓋を大きく開けて失神する。痙攣している魚の鰓蓋から出刃包丁を差し込み、脊椎の中骨まで深く切り込んで太い血管と神経を切断すると真っ赤な血が流れ出す。それを出荷用の箱に放り込む。この作業は生魚の血を抜くことによって生臭さを抑えるためのもので、この作業は出荷される魚の数だけ繰り返される。板張りのスペースは血だらけになり、最後にそれを海水で洗い流してきれいにする。
 彼女はこん棒で殴られた魚の大きく開いた口や空を向いた目、細かく痙攣する胴体、流れ出る赤い血を思い浮かべていた。
「由布ー!」声をかけられて我に返り声のした方を振り返ると、堤防の上に髪の長い女が立っている。
「絵夢!」由布は立ち上がってスロープを駆けあがり絵夢に飛びつくと「ひさしぶりー」と抱きついた。絵夢はいつもとは違う由布の様子に驚きながら背中に廻した手にギュッと力を込め「どうしたの?招待されたから来てしまったけど。何かあったの?」と訊いた。
「ううん」由布は首を横に振りながら「そんなんじゃなくて、ひさしぶりに無性に会いたくなっただけ……ほんとに来てくれたんだ。うれしい」と言った。
 絵夢は怪訝な顔をしたが「いつもの父のクリスマスパーティーが23日に終わったから今年はイブが空いたの。だから明日もお休みをもらっちゃった。急に決めて来ちゃったけど大丈夫だった?」とすぐに笑顔になって続けた。
「大丈夫もなにもボクが誘ったんだし、大歓迎だよ」
「でも由布?少し魚臭いよ」
「ええっ!ごめんなさい」由布は慌てて体を離し自分の服の匂いをかいだ。
「ふふっ!冗談よ。だって由布いつまでも抱きついていて離れないんだもの」
「なんだ。びっくりしたよ。これ私服なのに」由布は安心した顔をした。しかしここ全体が魚の匂いがしていて、どれが大丈夫なのか絵夢にもわからないのも事実だった。
「で、先生には?」由布は本館の方を見た。
 絵夢の父親の会社とこの研究所は共同研究のプロジェクトをいくつか立ち上げていて、その縁で絵夢はここの所長と親しくさせてもらっている。
「先にご挨拶したわ。相変わらずお元気そうね。由布もだけど」絵夢は由布の顔を覗きこんだ。
 由布は少し顔を赤くしたが「元気なのだけが取得だからね。アバも」と自分の師のあだなを口にし「今日ボクは昼から休暇で今夜のクリスマスパーティーの買出し担当なんだ。付き合ってくれるよね?」と絵夢の手を握った。
「もちろん。いいに決まってるじゃない。でもその前にみんなに挨拶しとかないと」
「みんなは研究室か飼育室に居るよ。絵夢が参加するならみんな喜ぶよ。来て!」由布は絵夢の手を引っ張った。

 水産研究所は細長く入り込んだ湾の奥にある集落の外れにある。結構大きな集落なのでそこには集落の名前を冠した鉄道の駅もある。絵夢と由布は1時間に1本程度やってくる普通列車に乗って一番近い町まで出かけた。2人はボックス席を1つ占領し、最近それぞれの身に起こった出来事を披露しながら車窓に広がる海を眺めていた。
「ねえ。彼とは上手くいってるの?」絵夢が唐突に訊いた。
 暫く続いた沈黙がその問いに対する由布の答えだった。
「何かあったの?」海の方を向いて黙っている親友にその親友は尋ねた。
「後で……後で話す。先に買出しをしてしまおうよ。絵夢」そう言われてしまうと絵夢はそれ以上先へ進むことが出来なくなって「そう……?」と曖昧に笑った。由布は自分の論文のテーマについて熱く語り始めた。列車は海岸線から山の中へと入って小さな分水嶺を越えると、また海に向かって下り始めた。車内放送が町の駅への到着を告げた。
 町では由布の案内で今夜のクリスマスのパーティーの用意を買い込むために何軒かの店を回った。由布はみんなで決めた買い物リストを片手に、それぞれの店で絵夢のアドバイスを受けながら必要な物を手に入れた。
「ボク1人だったらこんなに手際良くはいかないよ。絵夢に来てもらって良かった」
「由布はみんなのことを考えすぎるのよ。そんなに考え込んじゃ決まる物も決まらないよ。時には思いきった決断も必要だよ」絵夢がそう言うと由布は複雑な笑顔でそれを受けた。
「次は?」絵夢が催促すると「後はケーキ、それで終了!」少し空いてきたお腹を抱えた2人は、その町ではちょっと有名なケーキ屋に向かった。
「どうしよう?」由布はたくさん並んだケーキを覗きこみながら悩んでいた。つい絵夢の顔を見上げる。
「あなた達何人いたっけ?」見上げられた絵夢が尋ねた。
「7人、絵夢を入れると8人だね」
「男ばかり6人だよね?」絵夢が確認すると「そう、6対2で男の勝ち!」由布がにっこりと笑った。
「辛党の人から甘党の人までいるよね?」
「だから困ってるんじゃない」
 絵夢は少し考えていたが「だったらホールで買うのは諦めて、カットされたいろんな種類を、ぐるっと一周丸くなるように買ったらどうかしら?彼ら、ホールケーキのカットを楽しむ柄でも無いでしょう?綺麗にカット出来ないだろうし」
「そうだね!ボク等の好きな物も混ぜられるしね」
 2人はワイワイ騒ぎながらカットケーキを一周分選び出すと、色どりを考えながら綺麗に並べて箱に詰めてもらった。ようやく任務を果たした2人は列車の時間を確認すると隣の喫茶室へ移動した。
「それで……後で、の続きは?由布」席について注文を終えると、絵夢は椅子に深く掛け直し由布の目を覗きこみながら言った。顔はにこやかだが目は笑っていない。冷静に観測するセンサーのような目がそこには有った。いきなり切り替わった絵夢の表情に由布は困惑した顔になったが「話したくて呼んだんじゃなかったの?」絵夢にそう言われて頷いた。
「嘘を入れないで、なるべく正確に話してくれる?」絵夢が念を押すと、フウ……と溜息をついてからゆっくりと話し始めた。

 病室の窓越しに差し込む晩秋の日差しはすでに傾いていたが、まだ暖かみをベッドに届ける程度には力を持っていた。由布はその日差しを受けながらベッドを起こして遠慮がちに座っていた。彼女の目はもう少し意識を振り分ければ芯の強そうな目になるのだろうが、今は不安な気持ちを反映して部屋の中を小刻みに揺れながら彷徨っていた。肩の下までストレートに伸ばされた髪や薄い唇までが、不安げに見えた。
 さっきまで、ベッド脇の丸椅子には彼が座っていた。
 由布は高校3年生、一方彼は結構有名な商社に勤める社会人だ。2人は由布が高校1年生のときから付き合い始めて、今では両方の家族にも一応認められている仲になっている。
 由布は何の疑問も無く将来はこの人と結ばれるんだろうな、という思いを持っていた。
 由布が体育の授業中に倒れたのは3日前だ。幸いなことに担ぎ込まれた病院での診断は、病気は命に関わるようなものでは無く後遺症の心配も少ないということだったが、治療には手術が必要で完治まで3カ月以上の療養を必要とする……という結果になった。診断結果自体は胸をなでおろすものだったが、大きな問題は、由布は高校3年生で大学の受験を控えているということだった。
 彼はとても心配してくれた。進路を確定しなければならないこの時期、経過観察と検査で動けない由布に代わって動いてくれて、総合大学の文学部への推薦での受験を薦めてくれた。
「君の実力なら問題ないんだけど、この大事な時期に学校を離れてしまうからね」彼はなるべく目立たないように配慮して動いてくれた。
 そして手術にも付き添うと言ってくれた。由布はお母さんが付いてくれるからと遠慮したが、もう休暇を取ったから大丈夫ということだった。
 結局、由布は二つの提案に黙って頷いた。そして彼は安心した顔になって帰っていった。

「その大学のサークル活動で私達は出会ったというわけね?」運ばれてきたカップに口をつけながら絵夢が質問し、由布は頷いた。
「で、入学してすぐ、由布は他の学部への編入をわたしに相談して、わたしはそれを応援したんだよね?」絵夢はモンブランの頭をフォークでザクッと半分に分けた。
 由布はレアチーズケーキを口に運びながら伏し目がちに頷いた。
「学部を変わりたい理由は全部聞いたつもりだったけど、それだけじゃ無かったということかしら?」
 由布はごめんなさいと口の中で言った。
「彼は怒ったんじゃない?」

「なに考えてんだよ!」彼は珍しく大きな声を出した。イライラしている時の癖で右手で左の肘を強くつかんでいる。由布はその様子におどおどしながら「ごめんね」と言った。
「君は1人じゃどこにも行けなかったじゃないか。いつも1人じゃ何も決められなかったし、なんでも僕に相談してたじゃないか」
「ごめんね。でももうそういうのやめにしようと思ったの」
「意味が分からない!なんでそんなとこに1人で行くんだよ。そんなところに行ったらもう僕に相談したり訊いたりできなくなるんだよ。田舎の何もないところに君は1人で行くんだよ」
「ごめんね。でも1人で行ってみたくなったの……」

「ということは、編入したことについては4年間もずっと黙っていて、院への入学と研究所へ行くことが決まってからいきなり彼に打ち明けた。そういうことなの?」絵夢は自分の口調が少しきつくなるのを気にしながら言った。由布は絵夢の目を見ようと努力しながら頷いた。
「彼は由布に手を上げたの?」
 由布は一瞬戸惑ってから頷いた。
「そう……」
「あなたの敷いた線路の上を歩くのは嫌だ!って……」
「言っちゃったんだ」絵夢はそう言うと少し頬を緩めた。「由布はまだ彼の事が好き?」
「わからないよ。わからなくなった。これまでも本当に好きだったのか、それもわからなくなった」
「彼から連絡は?」
「何回かメールが来た」
「なんて?」
「自分が悪かったっていうことと、会いたいって、会って直接話しがしたいって」
「会うの?」
 由布は首を横に振った。
「何か返事はしたの?」
「会えないって、放っておいて欲しいって、返事をした。でも、ちゃんとありがとうも言ったよ」
「そうだったんだ。それで研究所に来てからずっと悶々としてたの?」絵夢は努めて優しい口調で言った。
「研究所での生活は新鮮だし、研究も楽しいから一生懸命やってるんだよ。それとはまた別になんだか苦しかったんだ。ボクは自分がとても悪い奴のように思えるんだ」
「由布?悪いけど今わたしには何も言えない。時間が解決するのを待ちましょう。でもけっしてあなただけが悪いんじゃない。それだけは言えるわ」絵夢は由布の反応を確認するために少し間を置いて続けた。
「それに何でもいい。もしこの件に関して何かあったらすぐに……いい?ちょっとしたことでも、すぐにだよ。必ずわたしに相談してほしいの。約束できる?」絵夢はまた冷静に観測するセンサーのような目で由布を見つめた。
「うん。わかった必ず相談する」
「約束だよ」
「約束する」由布が真剣な面持ちで答えた。
「じゃあ、もう1つケーキを食べちゃおうか?」絵夢の眼差しは、いつものおっとりとした柔らかいものに戻っていた。
「ほんと?じゃぁリストを見せて!」2人はスイーツリストの検討を始めた。

 湾の入口近くに並んで浮かんでいる沖の生簀に1隻の漁船が横付けされている。船の上ではオレンジのダウンジャケットを着込んだ由布が水質の測定を終えようとしていた。ゆっくりと揺れる生簀の通路の上にはバランスを取りながら歩く絵夢の姿がある。ツイードのポンチョ風のコートは少し歩きにくそうだがユラユラと時折生簀の中を覗き込み、生簀の中をグルグルと泳ぎ続ける魚達の様子を眺めていた。
「絵夢!終わったよ!魚達に異常は無い?」由布が大きな声を出した。
「うん。みんな元気!」絵夢は頭の上で丸を作ってから「と思う。底に居て見えないところもあるんだもの!」と付けたしてユラユラと戻ってくる。絵夢が船に乗り込むと由布は“とも”を押し出しながら飛び乗り、ギアをバックに入れてスロットルを少し開く。船がゆっくりと生簀を離れるとギアを前進に入れ舵を切って再びスロットルを大きく開く。船は生簀を回り込みながら沖へと向かい始めた。
「絵夢!正面に岩礁が見えるでしょ?」
 絵夢が頷いた。
「今日はあれをぐるっと回ってから帰ろう!」
「いいけど。由布は回ったことがあるの?」
「ううん。一回も無い。だから今日は回ってみたいんだ」
「じゃあ……」絵夢は一瞬躊躇したが1隻の遊漁船が2人の船の後を追って来るのを視界の隅に捕らえると「行ってみようか」と言った。
「よっしゃぁ~」由布はスロットルをいっぱいに開けた。
 沖に出るにつれてやはり海面は不気味な青黒さを増し、波も内湾のように優しくは接してくれなくなってゆく。
 由布はスロットルをいっぱいに開けたまま、不安そうな顔を絵夢に見られないように正面に見える岩礁を見つめている。
 船は上下の動きを徐々に大きくしながら岩礁へ近づいてゆく。しかし海面がさらに黒さを増し波の先が白く泡立つようになってくると、由布は諦めたようにスロットルを緩めて船速を落とし、取り舵を切ろうとした。
「行こうよ!大丈夫だよ!」その手を絵夢の手が止めた。
 笑いかけてくる絵夢に由布は黙ったまま頷くと、またスロットルを全開にした。漁船は再びスピードを上げ沖の岩礁を目指し始めた。
 師走の風は追い風となって2人の船をサポートした。
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地下鉄のエルフ

Stella/s月刊・Stella ステルラ 12月号参加 掌編小説

 現代と平行する時代、ここではないあるところにイルマとベクレラそしてグロイカという三つの国が有りました。
 イルマはあまり大きくないけれども四季のある美しい海洋国家で、ベクレラは寒い地方の広大な青い森の広がる大陸国家、そしてグロイカは海の向こうの無限の草原の広がる大陸国家でした。
 イルマとベクレラは狭い海峡をはさんで隣り合わせで、そこにある小さな島を自分の物にしようとしてお互いにいがみ合っていましたし、グロイカはこの二つの国が自分より強くならないよういつも画策していました。
 でも悪の同盟の国々が世界征服をたくらんだので、二つの国はとりあえず仲直りをしてグロイカと三つの国で仲間になって、その同盟をやっつけました。けれども一緒になって一生懸命戦ったのに、たくさんのご褒美をもらえたイルマやグロイカと違って、何ももらえなかったベクレラはイルマとグロイカが羨ましくて仕方がありませんでした。なぜ自分だけがご褒美がもらえないんだ。ベクレラの不満はどんどん大きくなっていきました。
 ずっと昔から、その島をイルマはキタカタと呼び、ベクレラはオルガノと呼んで、島は自分のものだと言っていました。ただそこには本当に何も無いように思えたので、どちらの国も戦いをしてまで自分の物にしようとは思わなかったのですが、最近になって島で石油が見つかたのです。戦いのご褒美がもらえず我慢できなくなったベクレラは、その石油に目が眩んでしまい、その島に軍隊を進めて町を作ったのです。そして、それに負けないように町を作ろうとしたイルマの軍隊と戦いが始まりました。勝ったり負けたりを繰り返しているうちにどちらが勝つということもなく何年も過ぎて、二つの国は力もお金も使い果たしてフラフラになったのでした。
 海の向こうの三つ目の国グロイカは弱っていく二つの国をのんびりと眺めながら、両方に武器を売り付けて大きく逞しく育っていきました。
 やがて二つの国は大きく育っていくグロイカが怖くなって、戦いを止めることにしました。そして、島を真っ二つにしたところに線を引いて、それを仮の境目としてとりあえず戦いを終わらせたのでした。

 彼はイルマの首都を走る地下鉄で会場に向かっていた。キタカタをイルマのものだと主張する集会に参加するためにその会場に向かっているのだ。キタカタはイルマの領土だ。彼はそう教えられ固く信じていた。
 だが彼も教えられたことをそのまま鵜呑みにしているわけではない。自分なりに調べ上げ学習し、ある程度の知見を持っている。確かに戦前はイルマはキタカタと呼び、ベクレラはオルガノと呼んだその島の支配ははっきりせず、両国がそれぞれ曖昧に支配し、両国の民族が何の境も無く行き来していた。ただ人口が現在とは比較にならないほど少なく、極寒のこの小さな島に利用価値が無かっただけだ。だがこの島に石油が発見された時、両国の確執は激しさを増し、マサゴとオルガという二つの資源開発都市の設置をめぐって戦争にまで発展したのだ。
 彼は戦前はこの島をイルマが領有していたと考えていたし、先時代に探検し測量したのもイルマ政府だったという史実からみてもこの島はイルマが領有権を持っていると考えていた。ベクレラの言い分についても調べたが、それはどうにも屁理屈に思えるのだった。その理屈は彼をベクル人嫌いにさせただけだった。

 地下鉄の車内アナウンスは次の停車駅がマエハマ駅であることを告げていた。
 彼は文庫本から目を上げて暫く前から気になっていた女性をそっと観察した。
 彼女がホンマチの駅から乗ってきた瞬間、彼の目は彼女に釘付けになった。オリーブドラブの作業服のようなブルゾンにジーンズという格好は地味といえばまだ聞こえが良い。野暮ったいと表現したほうがピッタリだ。
 しかしこれだけで彼の目が釘付けになったりはしない。問題はその上で、ボブにカットされた髪が白に近いプラチナだったのだ。しかもそれだけではない、ちらりと目が合った時に見えたのだが、右目は黒そして左目はなんと透き通るようなブルーだった。それが色白ではあるが東域系のどちらかというと可愛い部類の顔に付いている。
『彼女はベクル人なのか?』キタカタをイルマのものだと主張する集会に参加しようとしている彼は複雑な気持ちになった。
 色素の少ない髪、ブルー系の虹彩、それはベクル人の特徴だ。ベクレラに最も多く住むベクル人はこういう特徴を持っている人が多いが、最近は東域系の民族との混血も進んでいる。彼女もそうなんだろうと勝手に想像を膨らませる。
 そのなんとも不思議な組み合わせについちらちらと視線を送ってしまい、自分がストーカー一歩手前であることに気がついて文庫本を読むことに専念していたのだ。
 彼は本に目を落としていたが彼女が目の前に立ったのには気づいていた。本の向こうにオリーブドラブのブルゾンとジーンズが見えている。
 そっと観察を再開すると彼女は彼の頭越しに真っ暗な地下鉄の窓の方をずっと見ている。『何を見てるんだろう?地下鉄には風景も何もないのに……』と思いながら見ていると、顔を少し左右に向けたり斜めに傾げたりしている。『あぁ窓に写る自分の顔を見てるんだ』そう思うと本に目を戻して口元に手を当てた。
 このまったく外見にかまわないような格好をした彼女が自分の顔をチェックしている様子がおかしかったのだ。『悪いけど……』
 暫くして、彼女は急に窓から目を離すと携帯端末を忙しく操作し始めた。そして何かを確認するとまた窓の外を覗き始めた。間もなく電車がホームに入ったのか外が明るくなり、彼女はホームの様子を確認するように外を見ている。『ここで降りるつもりかな?』彼はまだ先まで行かなければならないので残念に思いながらその様子を観察していた。
 電車が止まると予想通り彼女はつり手から手を離した。そしてドアへ向かう一瞬手前、まともに目が合った。彼女が彼の顔を覗きこんだのだ。彼が驚いたその瞬間、彼女の口元が微笑みに変わった。そしてブルーと黒の瞳に見つめられて彼は一瞬で茹であがった。『さよなら』唇が小さくそう動いたように見えた。彼女は微笑みを保ったまま少し会釈をし、そのまま電車を降りて人ごみの中に消えて行った。
 彼の頭の中にはオッドアイの彼女の微笑みがくっきりと焼き付けられて消えなくなった。
 彼はまだドキドキする心臓を抱えたまま本を読むのも忘れて電車の揺れに身を任せていた。
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Stella用の掌編をUPします。

Stella/s

 一昨日、書き終わって、校正・推敲しようとしたんですが、なんと飲みに行くので時間が無いと言うんです。「じゃあ金曜日までに必ずUPできるように調整してね!」とお願いしておいたのですが、なんとか見てくれて細かい打合せを済ませたところです。
 上げるのは絵夢シリーズのクリスマスバージョン?ですが、(?)がついているのがミソです。“ここのところ”でも書いたように特殊な舞台設定もあって少し解りづらいかもしれません。舞台設定の考証者からは、自分が経験したのは昔のことなので現在とは異なることもあるかも、とのコメントがありました。それぞれご勘弁ください。物語には絵夢とその親友が登場しますが、彼女、登場までにずいぶん長い時間を必要とした今にも消えてしまいそうな人物ですし、この舞台設定が必須でした。やっと登場させることが出来てホッとしています。彼女を登場させるために書いたような物語なので、読まれる方がどう思われるのかちょっと心配はしています。
 気に入っていただけるといいんですけど。
 それともう一遍、UPしますが、こちらは再掲作品です。
 December 03, 2011 UPの「地下鉄のエルフ」を追記改稿して再度掲載しました。もしよろしければ読んでみてください。これも我ながら変なお話になってしまいましたが。まぁ、いいか。
 この作品もStellaに掲載してしまいます。その方がいくらかでも読んで頂ける方が増えそうですから。
 この下にリンクを置いておきます。

絵夢の素敵な日常(フム・アル・サマカー)

地下鉄のエルフ

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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
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