Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

*アスタリスク(5)




 オレはセキュリティーゲートを抜けて到着ロビーに出た。
「おい!ドロメ」声をかけられて振り返るとデバラだ。
「なんだデバラもこの便だったのか」愛想悪く答えると「同じで悪かったな」といつもの調子だ。「休暇はどうするんだ」ニヤニヤしながら訊いてくる。
「いつもの通りブラブラする」
「相変わらずだな。まあ用心しな。お前に居てもらっちゃ勝てないやつが大勢いるからな」
「デバラも含めてな」腹に力を入れてそう言ってやると「ハハッ」と笑ってから「お互い気を付けようぜ。じゃあな。俺たちがあまり親しく語らっちゃあ問題になるからな、行くぜ」挨拶のつもりか手を軽く上げると人ごみの中へ消えて行った。
 親しく語らっていたつもりは全然ないんだが、賭けレースであるアスタリスクレースのパイロット同士が公衆の面前で親しげに喋っているのは確かに問題だ。いらない誤解は招かない方がいいに決まっている。オレはデバラが消えて行った方向とは別の方向へと歩き始めた。
 アスタリスクレースが開催されている間1週間ほどだが、パイロットはレースのメインスタジアムでもあるサテライトステーション(通称サテライト)の宿舎に缶詰になる。不正が行われないように外部との連絡にも厳しい制限をかけ公正を維持するためだ。
 サテライトにはパイロット宿舎の他にレースの管理センター、運営拠点、アスタリスクチームのファクトリーやピット等が設けられレースのすべてがここで取り仕切られる。別の区画には、観客用のメインスタンド、ホテル、カジノ、ショッピングモール等があり華やかな歓楽街を形成しているのだが、パイロットがそこに近づくことは許されない。レースが終了するとオレ達パイロットは開放されるが、契約チームやマシンとのチューニング以外はサテライトに居残るわけにもいかず、銀河市にあるそれぞれのアジトに帰ってきたというわけだ。
 オレは特に急いで帰る用も無かったので都心へ向かうトラム乗り場に向かった。トラムというのは小さな箱型の車両が3両繋がった公共の乗り物で、道路上に設けられた専用軌道の上を一定の間隔で自動運行され住民の重要な足になっている。この街の住民は体内に埋め込んだチップで自動的に清算されるし、外部の人間も専用のカードを携帯するだけで良いので非常に便利なものだ。もっとも超小型のモビリティ以外、個人の乗用車というものが認められていないこの街では、中長距離の移動手段がこれと大量輸送用のチューブしか無いというのが本当のところだ。
 オレは都心(センターシティー)行きに乗り込むと一番前の席に座りぼんやりとトラムの動きを感じていた。
 目的地まであと10分程のところだろうか、ふと後ろからの視線を感じて振り向くと、そこには女性が2人座っていて申し訳なさそうに話しかけてきた。「あの。アンドロメダさんですよね?」オレはゆっくりと頷いた。(サングラスはかけてるんだけど油断しすぎたかな?)オレは迷惑そうな顔になるのを堪えて笑顔を返した。一応オレもアスタリスクのイメージ戦略に沿った行動をしなくてはならない。こういう仕事を選択した以上ある程度我慢しなくてはならない試練だ。俗に言う芸能人よりこういうことはずっと少ないけれど、たまには物好きな人間もいる。「私達ファンなんです!」嬉しそうに話しかけてくる2人に、オレはサングラスをはずして「いつも応援ありがとうございます」とにこやかに社交辞令を述べた。「キャーッ本物だ!本当に赤い瞳なんですね」オレは自分の顔つきが変わるのをなんとか食い止めようとした。「あの……ごめんなさい」少し間に合わなかったらしい。あわてて顔を緩めると「あの……。一緒に写真とってもいいですか?」(まあ動画よりましか)と思いながらカメラに収まる。そしてトラムが停留所に進入すると、まだ目的地より二つ手前だったが「すみません。ここで降りますので」と丁寧に断りを入れて「ありがとうございました」と喜ぶ二人と何事かと驚く乗客を置いてオレはトラムを降りた。
 初めて降りる停留所だった。真正面はおしゃれなフードコートになっていて、多様な飲食店が並んでいた。その中央では何かイベントが行われているらしく人だかりがしている。『飲み放題』の文字につられて近づくと、どうもタトゥーン産の麦芽とホップそして第二衛星ギガースの仕込み水で作られたビールの発売イベントのようだ。オレはトレイを取って順番を待ち、それに軽いつまみとコップいっぱいに注がれたビールを乗せると席を探し始めた。

関連記事
スポンサーサイト
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

*アスタリスク(6)

 オレは奴が気に入っている。他人(ひと)に対してこんな感情を持ったのは初めてだ。じっと奴を意識の中心に置くとオレの心臓は鼓動を急激に速める。この感覚は高速艇が惑星の輪の中に突入した時に感じる高揚感と同じものだ。この感覚はオレにとって最高のものだったし、これと同じものを感じる奴は初めてだ。こんな感情、なんていうんだろう?
 昨日の奴は相当に酔っていた。よっぽど気に食わないことがあったのか、限界を超えて飲んでしまったようだった。まぁビールは思ったより美味かったし、その後別の店に移動してアルコールの度数を飛躍的に上げたし、酔い過ぎることはしかたがないことだ。でもオレがおんぶして連れて帰らなくちゃならないほどになるっていうのはどうだろう。しかもベッドに着いたらバタンキュー、あとはピクリとも動かないで爆睡ってどうなんだ。オレが横に居るのにだ。オレは大いに気分を害した。
で、そのまま横に寄り添って朝まで寝てやったんだ。でも奴はいい奴だ。オレがぐっすりと眠れたなんてあの時以来だ。奴を意識の中心から少し外して置くとオレはとても安定することが分かった。それに腹が一杯になるまで朝飯を食わせてくれたし、食わせてくれる奴はいい奴に決まっている。奴はそういう奴なんだ。
 なぜそういう風に言いきれるかっていうと、つまりオレの赤い瞳は物を見るという機能を備えていないからだ。その替わりにオレには別のもっと鋭い感覚が備わっていて、全方位のすべてのものの位置をはっきりと感じることが出来る。
 そう、“感じる”んだ。オレには“見える”という言葉の本当の意味は解らない。だって“見た”ことが無いんだから。でもオレのその感覚っていうのはそれ以上に“見える”ってことだと思っている。
この感覚を使えば惑星の輪の中の星屑をすり抜けることなんか簡単だ。そしてこの感覚は普通の人間が感じないものだって感じることが出来る。だからオレがいい奴と感じるとすれば、それは間違いなくそういう奴だ。そしてその上に高速艇が輪の中に突入した時に感じる高揚感と同じものを感じるんだ。オレにとって奴は特別だ。ドキドキする。
 奴はくどくどと鍵の話をしてから午後3時からの勤務に間に合うように出て行った。ようするに早く出て行ってほしいという意思表示のようだ。帰って来るのは夜中になるらしくて、それまでに退出するようにということらしいけど、休暇はまだ始まったばかりだし、鍵はもらってしまったし、オレにはそんなつもりは毛頭ない。とりあえず買い物にでも出かけよう。オレは玄関のドアを開けた。
 服はしわくちゃだし髪もボサボサになってしまった。オレは近所にあったショッピングセンターでのんびりと普段着や日用品を選びながら久しぶりのショッピングを楽しみ、遅めの夕食を取ってから部屋に戻った。本当はトレーニングセンターにも行きたかったが、今日のところはお預けだ。
 部屋に戻るとまずお風呂を入れてゆっくりとお湯につかって体をほぐし、全身を綺麗に洗い、そして髪も丁寧に洗って手入れした。オレぐらい長いと大変なんだけど、一応トレードマークだしこだわりもあるので切ってしまうという選択肢はない。風呂を上がると入念に髪を乾かしてから買ってきたパジャマに着替えた。オレは奴のベッドにもぐりこんで奴の帰りを待っていたが、奴のベッドの臭いはオレをとても安らかな気持にし、それほど長い時間をかけずに深い眠りの世界へと誘ってくれた。
関連記事
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

*アスタリスク(7)

「なかなか先週末のアスタリスクは面白かったぞ」月曜日ほぼ仕事が片付いて帰り支度を始める頃、部長が嬉しそうに話しかけてきた。オレは曖昧に返事しながら他のことを考えていた。
 先々週の金曜日、仕事から帰るとアルマクが消えていたのだ。すべての部屋を探したがどこにもいない。何の前触れもなく忽然と消えたのだ。歯ブラシやタオルその他の日用品は置いたままだし、何が起こったんだろう?まあ突然現れたんだ、突然消えてもおかしくはない。鍵もドアポケットに入れてないし。(不思議な女の子だもんな。また何か買い物にでも出かけたのかもしれない)そう軽く考えてその日は過ぎた。
「俺がよく賭けるアルデバランとライバルのアンドロメダの勝負がえらく面白くてな。結局アルデバランが勝ったんで俺も儲けさせてもらった。アンドロメダがらみのキネラはマイナスになったがな」部長の話は続いているようだ。
 次の日もその次の日も俺は休みだったので、どこにも出かけず二日とも部屋にいた。しかしアルマクは帰ってこなかった。アルマクがいたのは、火曜日の朝俺のベッドの中に突然現れてから、金曜日の朝オレが作った朝食をたらふく食べて、オレが出かけるのをドアのところで見送っていたところまでだから、正味3日間だ。その間にオレがどれだけ迷惑したか、起こった事をいちいち挙げていたらきりがない。しかしアルマクの不思議な行動はオレに取り返しのつかないダメージを与えた。あの赤い瞳が頭から離れないんだ。あの少し引いたような笑顔、眠ろうとしているオレの横でクスクス笑うあの声を消すことが出来ないんだ。オレは月曜日から出勤しながら頭の中の赤い瞳の小悪魔を追い払うのに苦労した。
「でも、先週末のアンドロメダはいつもと違ったなぁ。所属チームがBlue Birdに変わってるせいもあるんだろうがそれだけでも無いような気がする。このチームは今、運動性の良いマシンを提供できていないし、出力も今一歩だ。今までならこういう時は着順を落としてでもストライクポイントを下げて入賞を狙って来てたんだが、今回はこの条件で着順TOPに立ったんだ。ストライクポイントで着外になったけどな」部長の話は続いている。
 オレはアルマクと合えないまま週末を向かえていた。ふとした瞬間に赤い瞳や長い金色の髪を探す動作はいっそう回数を増していた。このまま仕事という拠り所を無くしたらオレの精神はどんな風になるんだろうと不安は募るばかりだった。そしてそのとおりの週末と休暇がやってきたのだ。オレはどこにも出かけられなくなった。何もする気力がなくなり、家の中でアルマクの気配をただじっと待っている自分は、まるで重篤な病に体の隅々まで犯され、ただじっと死を待つだけの末期の患者、あるいは魔女に何か訳の分からない呪いでもかけられたどこかの童話の哀れな登場人物の様に思えてきた。
 鳩尾のあたりにズシリと感じるこの重さは、オレの腹腔内に内臓の代わりに水銀がたっぷりと溜まっているかのようだ。そして、逆らうことのできないこの感情の揺れは、溜まった水銀が自由に位置を変えてオレを翻弄するようだ。この重さと感情の揺れはいったい何なんだろう?
「すごかったなぁ。あの非力なマシンで良くあそこまで攻められると思うよ。何か精神的に劇的な変化があったんじゃないのかな。今までは勝負のかけかたが勝ちさえすればいいっていう感じで、もう1つ好きになれなかったんだが。先週末は熱い攻めで押しまくってかったからな」
 部長はまだまだ熱く語っている。
 オレは今朝出勤するだけでも大変だったのに、呑気なものだ。オレは相槌を打つのに疲れて話を適当に切り上げた。
「やってみる気になったら休み時間にでも声をかけろ。オレの端末で買ってやるよ。面白いぞ」どうも部長はオレを仲間に引き入れたいらしい。曖昧に笑顔を作るとオレは帰り支度を始めた。急いで帰って確認したいことがあったのだ。

 大急ぎでアパルトマンに帰ったオレは、はやる気持ちと期待を心の中に精一杯押さえ込み、早まる鼓動と高ぶる神経を大きく息を吸い込んで無理やり落ち着かせてから、自分の部屋のドアノブをそっと引いた。鍵はかかったままだ。
 鍵を開けてそっと部屋に入り込む。ドアポケットは空だ。
 中は当たり前だが静まり返っている。リビングを、そしてキッチンを覗き最後に寝室に入る。ベッドの上も確認したが膨らみは無かった。やはりアルマクは帰っていない。オレは大きく溜息をつくとベッドに腰掛けた。(本当にいなくなってしまった。自分の世界に帰ったんだろうか……)そう思いながらオレは暫く放心したようにそのまま腰掛けていた。
 無意味な時間ばかりが経過してゆくように思われたその時、“カチャリ”と……鍵を回す音がした。
 オレの耳はとても敏感になっていてその微かな音を聞き逃さなかった。狼のように俊敏に立ち上がると玄関へと急いだ。
 ゆっくりと玄関ドアが開くところだった。
 開くドアの向こうには小さな体と、肩から下げた不釣合いなくらい大きなバッグ、流れるような長い金色の髪、そしてその上に乗っているヘッドホーンが見えている。
 長い金色の髪の持ち主はゆっくりと中へ入ってきた。そしてオレの方に顔を向けた。廊下の照明を反射して赤い瞳がルビー色に輝いた。
 アルマクだ。
 オレの心臓は限界いっぱいまで鼓動を速め、声を出すことができなかったし、これ以上自分の衝動を押しとどめることもできなかった。
 オレはそのまま近づくと、黙ったままアルマクをギュッと抱きしめた。アルマクの体は小さくてやわらかくて暖かだった。うっかり涙が出そうだった。
 しばらくじっとしていたアルマクは、オレの胸に頭を押し付けてグリグリしてから、顔を上げて赤い瞳をオレの方に向けた。
 そして「お腹空いた」と言った。

 ややハスキーで刺激的な声だった。


 プロローグ部分 おわり
関連記事
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

絵夢の素敵な日常(4)(2012-08-03):前編

 空気の読めないお嬢様、絵夢が素敵!と感じたことを感じたままに写し取る、読んでくださる方の気持ちなど全く考えない、とっても自分勝手なショートストーリー。

 絵夢・ヴィンデミアトリックスはちらりと腕時計を見た。17時40分、ロビーは混雑し始めていた。
 絵夢は福岡空港の出発ロビーに座っている。大きなガラス窓の向こうには滑走路が横たわっていて、今ハワイアン航空のB767-300ER(多分)が滑り込むように着陸していった。
 絵夢が乗るANA428便は乗り継ぎの客の接続の為、10分ほど出発が遅れるという案内が表示されている。絵夢は手早く携帯を操作して黒磯にその旨メールを入れた。必要ないと何度も言ったのだが、直帰するなら山本を大阪空港まで迎えにやらせると言って聞かないのだ。仕方なく了承したがいつまでも子ども扱いは困ったものだ。
 小さくため息をついてから、絵夢はまた膝の上の本の世界に戻っていった。膝の上には「ノルウェイの森」の文庫本が乗っている。絵夢は何度読んでもどこから読んでも読めてしまうこの小説が好きだったし、この小説のイントロはここで読むのにピッタリの雰囲気だった。

 B767-300は滑走路をフルパワーで加速し始めた。絵夢はこの瞬間に感じることのできるGが大好きだ。いつものように窓際の席でしだいに上にしなってゆく翼を見つめながら、次に来る浮遊感を待っていた。
 夕方の到着便の混雑で428便は結局20分遅れて出発した。絵夢は個人的に利用する場合はプレミアムクラスを利用することが多いが、仕事で利用する場合は会社の規定なので普通席を利用する。座席はいつも希望する左側窓際翼の前は取れず、右側の窓際翼のやや後ろだった。大阪空港に着陸する時は左側の窓から見える大阪都心の夜景がとても綺麗なのだが、今回は着陸が午後7時ごろなのでまだ明るい。左側に固執する理由はなかった。
 地面はどんどん遠くなり、ギアアップの振動が伝わり、フラップが収納された。そして翼をふって左へと旋回しながら薄い雲を突っ切り充分に高度が上がると、絵夢はようやく安心して一旦本の世界へと戻っていった。

 絵夢はふと気になって窓から下を覗いた。遙か下には細長く伸びた島?が見え、その尾根の上に白いものがたくさん一列に並んで動いている。良く見るとそれは風車で、ゆっくりと羽根を回している。(風力発電なんだ。ずいぶんたくさんあるけど、どこだろう?)絵夢は前の座席の背のポケットにあった冊子の航空路地図を開いた。地形と地図を見比べると、見えている細長い陸地は四国の佐多岬半島であることがわかった。伊方原発のあるところだ。こんなに大きな原発のある半島にこんなにたくさんの風力発電機があることに、絵夢は意外性を感じていた。(まるで電力半島だ。この半島の尾根沿いに目一杯風車を立てたとして、この原発の分を補うことはできるんだろうか?)長い半島を眼下に絵夢はそんなことを考えていた。

 飛行機は四国の山間部に差し掛かっていた。
 本を閉じて、また下を覗き込んだ絵夢は息を呑んだ。下界は水蒸気をたっぷりと含んだ大気に覆われているのだろう。丁度夕日は高度を下げ地表付近には当たらなくなっている。それらのせいで、地表は濃い緑と青を含んだ薄墨を和紙の上に何層にも何層にも塗り重ねたような深い色に染まっていた。濃い灰色などという簡単な表現ではとても表せない色合いだった。
 その下地の上には、夕日の当たっている輝く白の部分と、もう日の当たらない類白色の部分が偶然によって配置された雲が、鹿の子模様の様にポカリポカリと浮かんでいた。その大自然がこともなげに作り出した地表の情景は、霞の中ぼかしを加えながら地平線付近まで広がり、その先は夕焼けの色を吸い込んで薄い桃色に染まっていた。
「お客様、お客様」ようやく呼びかけられていることに気付いた絵夢は、窓の外から視線を戻した。「お飲み物はいかがですか?」アテンダントが笑顔を向けていた。(何回くらい呼ばれていたんだろう?)少し顔が赤くなるのを感じながら絵夢はホットコーヒーを注文した。

 飛行機は紀伊水道に向かって順調に飛行していた。

 絵夢の素敵な日常(4)(2012-08-03):後編に続く…


関連記事
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

絵夢の素敵な日常(4)(2012-08-03):後編

空気の読めないお嬢様、絵夢が素敵!と感じたことを感じたままに写し取る、読んでくださる方の気持ちなど全く考えない、とっても自分勝手なショートストーリー。

 飛行機は紀伊水道を越えると紀伊山脈上空でゆっくりと左に旋回し、進行方向を変えた。左側への緩やかな機体の傾斜を感じた絵夢は本を閉じ、窓から下を覗き始めた。
 眼下には紀伊山脈の濃い緑が広がっていたが、そこから人類の生活圏上空にに進入して、スポイラーを展開しフラップを徐々におろした。
 そして生駒山上空へ差し掛かると機体を傾けて旋回しILS(計器着陸装置)の信号に乗ると、大阪空港への進入を開始した。ギアダウンの振動と音が伝わってきた。
 眼下に広がる町も郊外からだんだん建物の密度が上がり背が高くなってきた。もう夕日は沈んでいるがまだ夜がやってくるには少し早い時間だ。絵夢は後ろへと飛び去って行く人間の生活を遥か上空から眺めていた。いよいよ高度が下がってきた。反対側の窓からだったら大阪城が過ぎ去り大阪都心の高層ビル群が見えて来る頃だ。もっと暗くなってからだと左側の席からは素晴らしい夜景が見えるはずだ。(もう一本遅い便だったら悔しい思いをしたかな……)そんなことを考えているうちに前方に大きな川が見えてきた。
 この川を飛び越えたら、いくらも時間をかけずに着陸の瞬間がやって来る。絵夢はその瞬間が一番苦手だった。ドスンと主脚が接地してからやや遅れて前輪が接地し、甲高い逆噴射の音がして減速が始まるまでのほんの短い時間だが、いつも手のひらに薄っすらと汗を感じるのだ。絵夢はこの人類の英知を集めた最新の乗り物が大好きだったが、完全には信用していなかった。
 大きな川に差し掛かろうとした時、飛行機は不意に絵夢の側の主翼を上げて左へと旋回を始めた。いつもなら水平のまま真っすぐ滑走路に向かうはずだ。「14(ワンフォー)だ!」絵夢は思わずひとりごとで呟いてしまい慌てて口元を押さえた。そしてニヤけてくる口元を隠すためにそのポーズを続けたまま窓の外を眺めていた。やがて飛行機は絵夢の側の主翼を下げ右に旋回を始めた。高度が下がっているので町の様子がつぶさに見える。絵夢は席が右側で正解だったと小躍りする気分だった。
 大阪空港は通常南側から侵入しそのまま真っすぐ着陸する。だが南風が強い時はそのままだと着陸時に追い風になって機体が不安定になるため、逆方向から進入する事がある。これには色々な通称があるが、その1つが滑走路の向きを示す番号から付いた14だ。途中までは通常のルートで降りてくるが、さっきのように滑走路の手前で左に旋回し、空港の西側の市街地上空を滑走路と平行に飛行し、反対側に出てぐるりと右にUターンして北側から着陸するのだ。この着陸コースは低い高度で市街地上空を長時間飛行するため騒音の問題があることや、ILSが使えない、急旋回直後の着陸のため操縦が難しい、などの理由であまり使われることはない。風の問題が解決するとすぐに通常のコースに戻ってしまうため、しょっちゅう利用している絵夢でもこの14滑走路への着陸は始めてだった。
 右旋回を終えた飛行機は暫く直進する。すぐ向こうに大阪空港の滑走路が平行して見えている。まもなく北側から滑走路に進入するためのUターンが始まる。これは“伊丹カーブ”とも呼ばれ、その昔、香港の啓徳空港(現在は閉港)で見られた香港カーブには及ばないが、やはりパイロットの経験と技量を必要とすると言われている。絵夢は父親が、香港カーブについて「翼の先がアパートの軒先の洗濯物を引っ掛けそうだったよ」と大げさに語るのを、そして大阪空港にまだ国際線が就航していたころ、この伊丹カーブをさまざまな国のカラフルな飛行機、B747-100やSP.B727.DC10などが翼を揺らして通過していった様子を懐かしそうに語るのを思い出していた。ただ当時は騒音も物凄かったらしい。
 飛行機は右旋回を始め機体を右側に傾けたので、絵夢が張り付いている窓の向こうの地上の風景は、手が届きそうなほど近くに感じられた。いつも絵夢が生活している街角の角度を変えた風景が、歩いている人が誰か分かるくらい近くを通り過ぎてゆく。細かくコースを調整し微妙に傾きを変化させる機体と、微妙に変化するエンジン音を感じながら、絵夢の手のひらにはやはり汗が浮いていた。やがて飛行機は伊丹カーブを終えると一気に機体を水平にして、そのままドスンと主脚を滑走路14Rに降ろした。すぐに前輪も着地し甲高い逆噴射の音が響いた。減速のGをシートベルトで受け速度が充分に落ちると、絵夢はようやく緊張を緩めた。
 機内アナウンスが流れ大阪国際空港への到着を告げている。飛行機は駐機スポットへタキシングを始めた。機体が停止すると乗客は降りる支度を始めたが、絵夢はまだゆっくりと外を見ていた。機外には乗客の荷物を降ろすための作業車がゆっくりと近づいて来るのが見えた。
 ドアが開いて乗客が動き始めた。絵夢は暫く待って乗客がほとんど降りてしまってから、バッグを棚から降ろし通路を歩き始めた。山本は待つのには慣れっこになっているはずだ。通路の途中に飲み物をサービスしてくれたアテンダントが立っていて、にこやかに「ご搭乗ありがとうございました」と言った。そして「ずっと外を見てらっしゃいましたね。飛行機がお好きなんですか?」と遠慮気味に尋ねた。
 絵夢は優雅に微笑んで「ええ。とっても……」と答えた。
 そしてまた少し赤くなった。
関連記事
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

うちのオリキャラ

訪問させていただいた方の氣になる記事から、勝手に話を発展させてしまう記事シリーズ。
(シリーズ…じゃないか、このイントロも完全に夕さんのパクリだし)
これ、もとはといえば シュナイダーさん の企画を 八小女 夕さん が参考にされ、そしてそれを見た山西が面白いなぁと思ってパクった企画です。

シュナイダーさんは「ヒロイン」でまとめていらっしゃいましたし、夕さんは「楽しんで書いたサブキャラ」でまとめられてたんですが、山西は「思い通り動かないメインキャラ」でまとめちゃいましょう。名前の紹介の次の()には名前の由来を入れてみました。調子に乗って長くなってしまいました、すみません。

キタハラ・シスカ(サハリン(樺太)の旧町名から…)
山西の小説第一作「シスカ」のヒロイン。プラチナ(というよりほとんど白)の髪、左はブルー右は黒の目を持つ長身でスレンダーな女性。ヘリコプターの整備士であると同時にセミプロの歌手でもある。年齢は20代前半。ショウという少年の人格を内部に抱えて一時混乱したが、取り巻く人々に助けられ立ち直ろうとしている。男のような性格で態度もそのままだったが、少年ショウの出現でかえって女性的に変貌していく。大戦の後、国境紛争による混乱で出生は不明だが、物語の中で徐々に明らかに……。いまだ未完。

絵夢・ヴィンデミアトリックス(Mから…)(ヴィンデミアトリックスは、おとめ座イプシロン星の固有名。ラテン語由来のギリシア語で「ブドウの収穫者」の意味を持つ)
山西初の短編「VY Canis Majoris(オレンジの月)」のヒロインとして登場。現在は「絵夢の素敵な日常」に登場中。空気の読めないお嬢様。年齢は20代前半。
ヴィンデミアトリックス家の長女で兄がいる。執事である黒磯とのコンビは絶妙のはずだが、まだコンビで登場の機会が無い。珍しく現実社会が舞台で、すごい名字だが完全に東洋人の容姿。黒くて長い髪と黒い瞳を持つ。彼氏らしい人物は登場したが、絵夢はどう思っているのか……。
読んでくださる方の気持ちなど全く考えない、絵夢が感じたままに写し取る、とっても自分勝手なショートストーリー。

エル(Lから…)
「コメット(12月24日)」のヒロインとして婚約者のシンと一緒に登場。
甘えん坊で、本があまり好きではない。飛行機の中でシンから思いもかけない素敵なクリスマスプレゼントを受け取るが、その後不思議な恐怖体験をすることに……。

タウリ・ノード(Tタウリ型星から…)
「V645 Centauri (プロキシマ)」のヒロイン。月で生まれて月で育った、ルナリアンと呼ばれる新人類。年齢は18歳。亜麻色の髪と琥珀色の瞳を持つ、低重力下で育ったため非常に長身。休暇中の考古学者のケントと出会い楽しい休暇を過ごす。恥ずかしがり屋のくせに大胆かつ悪戯好きそしてハチャメチャ。やがて休暇が終わって、ケントは発掘調査のため地球に帰ってしまう。会えない期間が長引き悶々と過ごしていたケントは、ある夜不思議な体験をする。

コトリ(小鳥から…)
「254」のヒロイン。黒のオカッパ頭のバイクショップの居候で、ちょっとしたバイクレーサーなみのテクニックを持つ謎の少女。本名はサヤカ。
一年前、心に持つ大きな傷から逃れるために突然転がり込んできた。
254というバイクのレストアをバイクショップの親父から依頼されるが、それはコトリの心の傷を修復させるための荒っぽい作戦だった。
親父と店の常連客ヤキダマは成り行きを静かに見守っていく。
ヤキダマは(古いタイプの低回転低出力内燃機関、焼玉エンジンから…)

クウそしてキラ(Qから…、そしてキラメキから…)
「Meteor(メテオ)」「Eridanus(エリダヌス)」「Achernar (アケルナル)」と続く三連作のヒロイン。
クウはショートのブロンド、ブルーの瞳を持つ二十歳を少し過ぎた位の女性宇宙飛行士。宇宙輸送船「エリダヌス」の乗組員。地球に居る兄以外肉親が居ないため、兄とは強い絆で結ばれている。兄は妹が心配でしょうがないが、妹はあまり兄には縛られず自由にやりたいと思っている。でも兄のことは兄妹として愛しているとても兄思いの妹。
クウ達5人のクルーは資源探査船団への物資輸送のため、アステロイドベルトへ旅立つ。悲劇が起こることも知らずに……。
キラはその兄の末っ子の女の子。

アルマク(アンドロメダ座γ星の固有名称から…ウィキによるとアラビア語でヤマネコの一種を表す言葉が起源らしい(なんとなく納得))
「*アスタリスク」のヒロイン。長い金色の髪、赤い瞳を持つ。
ある朝突然主人公のミラクのベッドの中に現れた。最初は「お腹すいた」と「のど渇いた」しか言わない食っちゃ寝少女。でもアルマクには色々な秘密があってストーリーの進行にしたがって徐々に明らかになる。
ちなみにミラクは(アンドロメダ座β星の固有名称から…ウィキには(腰布)の表記もあってまたまた納得)

エス(Sから…)
まだ登場していないとっても変わった女子大生。
実は容姿はブログランキングのポチッとアイコンとして登場済み。
このブログの初めてのコメンテーター、結貴さんからいただいたイラストをイメージに書き始めたのだが、とても変わった子なので話が煮詰まってしまい、いまだに完成しない。

サキともう一人のサキ(?)
「Blue Moon(青の月)」に登場するがすべてが不明。
ここで登場する丹波黒大豆の枝豆はビールのつまみに最高。
関連記事
テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

アルマクってどんな子?

山西は昨日(14日)から嬉しいのです。
何故かといいますと、アルマクのイラストを書いてもらったからです。
少し前のことになりますが山西がキルケさんのブログ「夢をかなえるため頑張ります☆」を尋ねた時に、わかりやすくってかわいくって素敵な絵だなとピンときて「書いてもらえないかな~なんて思うくらいいい感じです」ってコメントをうっかり入れたんです。
そうしたらOKのコメントをいただいて……このイラストが出来上がったというわけですハイ。

アルマク

なんというかバランスのよいイラストです。まだ16歳とのことなのでこれからさらに“味”というものが出てくるのでしょう。夢がかなうよう応援します。
さっそく「*アスタリスク」の中にはめ込もうかと思ったのですが、はて困った…フライトジャケットのアルマクを載せてもいいページにこのイラストを載せると、ネタばらしになってしまうんですよね。で、考えたんですが。とりあえずここに載せておいて、続編でアルマクの正体がミラクにわかってから本文中に載せるということにしようと思います。
おぉ!続編宣言をしてしまったぞ。大丈夫か?山西!
ちょっと不安ですがあまりに嬉しかったのでつい、ということで。

追記:暫くの間このアルマクをプロフィール画像に使わせていただきます。(やってしまえ!エィ!)
関連記事
テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

絵夢の素敵な日常(5)(2012-08-18)

 空気の読めないお嬢様、絵夢が素敵!と感じたことを感じたままに写し取る、読んでくださる方の気持ちなど全く考えない、とっても自分勝手なショートストーリー。

 絵夢は目を開けた。あたりはまだ暗い。大気は過飽和の状態まで水蒸気を含み、皮膚の表面の汗は気化を妨げられていた。我慢が限界に達しようとしたその時、微かな涼風が網戸にした廊下側の格子の入った窓から、ベランダ側へと抜けていった。近くでスコールでも降っているのだろうか。汗はようやく気化でき、絵夢の体感温度は下がった。
 部屋はオートロックとセキュリティシステム完備のマンションの高層階だったので、窓を開けて眠ることも可能だった。そして絵夢はエアコンが嫌いだった。
 暗闇の中、目覚まし時計に手を伸ばし小さなLEDを点灯させると、デジタルのパネルは午前2時を表示していた。
(喉がかわいたな。ちょっと塩辛かったのかな)絵夢は夕食のメニューの中から心当たりを探していた。水分の不足は体にも良くない。我慢しようかとも思ったが、やはり我慢が出来ずゆっくりと起き上がると、ベッドから足を下ろしスリッパを履いてキッチンへ向かった。キッチンへ入るといつもの位置に目印が小さく光る照明のスイッチを入れた。
 一瞬で真昼の明るさがやってきた。そのことに戸惑ったのは絵夢の目だけではなかった。白い床に黒い流線型の物体が動くのが見えたのだ。絵夢の背中に悪寒が走るのと同時に、それは何を思ったのか、それとも単に混乱したのか、高速で絵夢の方へ向かってきた。絵夢は悲鳴を上げそうになるのを必死に堪えながら、すばやく決断を下した。
 このまま朝までずっと不安におびえて眠るのか、それとも安心して眠るのかの決断だった。絵夢は一瞬でより良い選択が出来るように教育されている。
 足をすばやくそして正確に動かして逃走しようとしていたその黒い物体の上に置いたのだ。
 もちろんその黒い物体は、人類より長い歴史を持ちツヤツヤした黒い甲殻と長い触角を持つ昆虫綱の生き物だ。
 長い生存競争の歴史を戦い抜いてきた兵士である軍曹(絵夢のイメージでは老練な軍曹だった)は、今、スリッパと床の間に挟まれて最後の抵抗を試みていた。ガサゴソガサゴソ……6本の脚を全力で動かして脱出を図っているのが足裏から伝わってくる。
 絵夢は最初の一瞬こそ驚きと恐怖の顔をしていたが、今は平静な顔を保っていた。やがてゆっくりと目をつぶると、一瞬ためらってから(ごめんなさい。軍曹)足先に力を込めた。プチッ……軍曹は生命活動を停止した。
 絵夢はスリッパをそこに置いたままティッシュペーパーを何枚か取ってくると軍曹を処理した。そしてスリッパの裏と床を除菌スプレーをかけ丁寧に拭き取った。
 すべての処置を終え丁寧に手を洗ってから、冷蔵庫のペットボトルに冷えていた水を飲んだ絵夢は、大きなあくびをかみ殺してから寝室へと戻っていった。
 また蒸し暑い暗闇が帰ってきた。ただその中には少しだけ涼しい空気の流れが感じられるようになっていた。

 絵夢、ごめんなさい。書いてしまいました。(素敵になんて感じてない!)グッと睨みつけるあの黒い瞳が目に浮かぶようです。

関連記事
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

あれ?!

あれ?さっき覗いてみたんですが、日本ブログ村SF小説人気ランキングで「Debris circus」が1位になってますね。
とってもたくさんのアクセスを受けて、常に上位にあったブログさんがちょっと休憩している間に成り上がったみたいですね。
でも、何でも1位ってまぁめでたいのでここに発表してしまいましょう。
鬼の居ぬ間の……ですか。鬼って失礼でしたね。すみません。
暫くのことでしょうが楽しんでおきます。

ブログ村

関連記事
テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

絵夢の素敵な日常(2)(2012-06-06)

>これは、あれですね。記念掌編ですね。ひゃっほう!(お祭り騒ぎが好きらしい)(by夕さん)……
と言うことで記念掌編です。 2012.08.26さっそく微妙に校正:08.26そしてさらに追記

 空気の読めないお嬢様、絵夢が素敵!と感じたことを感じたままに写し取る、読んでくださる方の気持ちなど全く考えない、とっても自分勝手なショートストーリー。

 今日は朝から曇りがちの天気だったのに、絵夢は空ばかり見上げていた。今、絵夢は講習会に出席するため会場に向かうバスの座席に座っていたが、やはり窓から空を見上げていた。
 やがてバスのアナウンスは次が終点であることを告げた。絵夢の行く講習会場はそこから徒歩3分程の所にある。バスが終点の停留所に到着しようとした時、雲の切れ間から太陽が顔を覗かせた。雲の動きから見て、しばらくは雲に入ることはなさそうだ。また空を見上げていた絵夢は、他人に見られないように顔を窓の外に向けたまま微笑んだ。
 バスを降りると絵夢は右手につけた腕時計で時間を確認してから、すぐ横の公園に入って行った。そしてベンチを見つけるとそこに腰かけてショルダーバックを開け、少し周りを見渡してから何かを取りだした。
 取り出したのは例の日食観察グラスだ。一旦下を向いて観察グラスを目に当ててからそのまま顔を上げて太陽の方を向く、じっと目を凝らすとオレンジ色の丸い太陽の中に小さな丸い粒がホクロのように映っていた。「金星だ!見えた」絵夢は小さな声で叫んだ。2012年6月6日、21世紀では最後の「金星の太陽面通過」が絵夢の目の前で起こっている。
 次回は105年後、2117年12月11日だ。おそらく、いやもうほぼ完全にこの瞬間世界で生を受けている人間にとって人生最後のチャンスだ。そして生まれたばかりや、これから暫くの間に生まれる人間にはもう見られる機会は無いのだ。
 非常に見にくい小さな丸い粒だが思っていたより大きく見えた。「金星ってけっこう大きいんだ」大きさを太陽と比較しながら絵夢の空想は膨らんでいった。実際は金星の方がずっと近くにあるので、そのまま大きさを比較することは出来ないのだが。

 ウェヌス一族の最後の末裔であるエムは、果てしなく広がるピンク色の砂の大地の真ん中をたった1人で歩いていた。上空から降り注ぐ強い太陽の光と、容赦なく吹き付ける高温の風がエムの肌を焼いていった。
 増え続けた炭酸ガスはこの星の気温を徐々に上昇させ、高温に焼けた大気は熱波を伴った砂嵐となって次々と村を町をそして都市を焼き尽くし砂に埋めた。長い時間をかけて一族が構成を調整し続けてきた大気は、ある時点から一族の制御を拒否し、ついにこの星の太古の姿に戻ろうとしているのだ。
 この星で生きていくことを望んで、この星に残ったエム達にとって、もう打つ手は無かった。わずかでも可能性のある手は全て打った。しかしこの星はあらゆる手立てを拒否し、たくさんの同族を奪い、ついにはエムの最愛のパートナーを奪った。最後の1人になったエムはすべての可能性が無くなった事を確認し終えると覚悟を決め、保護パワードスーツを出て太陽の元を歩き始めたのだ。
 すぐにエムの肌や肺は高温の大気にさらされ蛋白は変性し水分を失っていった。体温が上昇し意識が遠くなってゆく。エムはパートナーの名前を呼び、最後に数歩前に歩いてからドゥと倒れた。
 吹き続ける熱風は砂に刻まれたエムの足跡を消し去り、その上に風紋を描いていった。さらにエムの体も砂の中に取り込んで完全に痕跡を消し去ろうとするかのように、絶え間なく吹き付けていた。

 絵夢は溜まった涙を拭くために、下を向いて観察グラスを顔からはずした。(太陽を長く見つめすぎたのかな?)絵夢はそう考えようとしていたが、そのせいばかりでは無いことはわかっていた。ハンカチを出して涙を拭うと、絵夢は急ぎ足で講習会場へ向かった。昼の休憩の間に、もう一度観察の機会があるはずだ。
 金星は太陽の中を進んでいた。いつものように強烈な太陽光線が金星に降り注ぎ、大気に含まれる膨大な量の二酸化炭素による温室効果によって、地表温度は500℃に達していた。
関連記事
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

3000HITイベントの告知そして近況

 3000HITが迫ってきました。いままで特にイベントというものをやったことが無かったんですが、3000回もHITしていただいたということで、なにかチャレンジしてみようと考えました。
 そうですねぇ。他のブログでよくやっておられますけど、何か記念に掌編を書いてみるっていうのはどうでしょう?
 カウンター3000を見られた方、自己申告で結構ですからお題を1つと、これまで山西が作りだしてきたオリキャラの中から1人選んでください。(うちのオリキャラ参照)あ、オリキャラは女性に限るということにしましょう。(単にその方が書き易いというだけの理由ですが)もちろんサブキャラや端役キャラでもOKです。そのお題をテーマに、そしてそのオリキャラをヒロインに掌編を作ってみます。
 お申し出が無ければ3000を少々過ぎていても結構ですのでお申し出ください。一番近い方(というかこうなると早い者順になりますか?)のお題を採用して何か書いてみようと思います。それでもお申し出が無ければこの企画、没ということで……(ウワ~ン、寂しいので誰かお申し出ください!遠慮はいりません)

 でもこういうのは生まれて初めてなんで、お題をちゃんといただけるのか、ちゃんと書けるか、とても心配で不安です。失敗したら謝るしかないよな~。
 でも感謝を込めてチャレンジしてみましょう。どうかどなたか御慈悲を、じゃない!お題とオリキャラをよろしくお願いします。

 そして近況です。
 いま、「シスカ」のプロットを進めています。非常に難しいです。あちらを立てればこちらが立たず…こちらを構築すればあちらに矛盾が生じる…という状態です。なんとか矛盾なく構成できるよう悪戦苦闘中です。頭痛いです。そう遠くない先に31をUPできるかな、と思っています。

 そして、企画を1つ思いついています。
 高橋さんのブログで書かれていて面白かったのでまたパクリですが、「シスカ」の世界の地理的な解説をやってみようかと。本文のコマーシャルを兼ねて…ですね。
 面白いと思って本文を読んでくださる方が少しでも現れることを願って(現れないか?)という企画です。またUPすると思いますので興味ある方読んで頂けると嬉しいです。
 ではまた……。(頭がオーバーヒートする前にビール(発泡酒)でも飲んで寝ようかな)
関連記事
テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
<- 08 2012 ->
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
イラストをクリックすると記事に飛びます。よろしければご覧くださいネ!
スカイさんシスカイメージ
スカイさんのシスカイメージ
シスカ・イメージ高橋月子さん作
シスカ・イメージ 高橋月子さん作
シスカ・イメージlimeさん作
シスカ・イメージ limeさん作 コトリ・イメージユズキさん作
コトリ(コンステレーションにて)ユズキさん作
リンク
ブロとも申請フォーム

Archive RSS Login