Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

Eridanus(エリダヌス)Posted at 2XX2-06-05 21:58

もしこの作品を読んでみようかな…と思われているなら、先に「Meteor(メテオ)」を読まれることをお勧めします。そしてEridanus(エリダヌス)のPostedの早いものからお読みください。ご面倒をお掛けしてすみません。

Eridanus(エリダヌス)Posted at 2XX2-06-05 21:58

兄さん、依頼をもらったけどご希望には添えません。
もうデータごと船長に渡してしまって、僕の私物PC内にコピーしたデータも船長の確認の元完全に消去しました。メールを受けたタブレットも物証として船長の管理下に置かれ、新しい物に交換されていますし、メールサーバ内の例のメールもロックが掛かっていて見えなくなっています。
データは証拠なので持っている権利は僕には無いのです。捜査権は船長にしか有りません。
それに万が一これがデータ麻薬だったら、持っていても送信しても法を犯したことになってしまって罪に問われます。そういうことなので、ごめんなさい。

「エリダヌス」は減速を続けています。
僕は今さっきトレーニングを終えたところです。クルーは全員毎日一定の運動プログラムをこなさなくてはなりません。これをやらないと体がなまっちゃうんだよね。怠けていると帰還してから健康診断でチェックがいっぱい入って悲惨なことになるので、僕は……少なくとも僕はキッチリやっています。減速フェーズ中も加速フェーズと同じように弱い重力があるため、ウエイトトレーニングを取り入れて効果的に体力を維持することができます。無重力だとこうはいかないんだけどね。
道のりは半ばを超えて兄さんの星ももう宇宙空間に瞬かない星々に紛れてしまい、どれか判別するのに苦労しなくてはならなくなりました。
減速フェーズになると窓のあるコックピットが後ろを向くので兄さんの星を見ることが出来るようになるのですが、もうすでに遙か遠く離れた後になってしまい結局どれがどれだかもうわかりません。まあいいか……という感じです。ほら!クルー・ブルーからも立ち直っているでしょう?心配ばかりしているんだね。
兄さん、兄さんの良く知っている小さくて弱くて泣き虫のクウは時間の経過の中でやっぱりそれなりに大きくなってるんだよ。いくつになったと思ってるの?顔を合わせているときは照れたようにろくに話をしないくせに、離れたとたんにまるで昔のままだもの、どういう心理状態なんだろう?分析にかけてみたいと思うよ。大概に信頼して任せてみたらどう?上手くやって見せるよ!
でも、成長して変わったところもあるけど、小さなクウのままのところも残っているんだよ。だから兄さんのことは大好きだよ。お義姉さんの次に、そして子供が出来たら家族の次に愛してください。ウワ!ちょっと恥ずかしくなっちゃった!
またメールします。

優しい兄さんへ 
  あなたの妹より
関連記事
スポンサーサイト
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

「読書の記録」そして『エリダヌス』のUPです。

 先日、梅田に出かけた話を書きましたがその続きを……
 MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店 に駆けつけて目的の書籍を仕入れた山西でしたが、せっかくなので店内を見て回ることにしました。まだ雨も完全にやんでいなかったですし。
エスカレーターで階を変えてあちこちの書棚を見て回ります。ついついSFのコーナーに寄って行ってしまうのは標準の仕様です。山西の動きが止まったのはSFなら伝統のあるハヤカワ文庫の棚の平積みを見ていた時のことでした。「あれ?なにこの表紙(写真参照)、ハヤカワらしくない表紙だな、タイトルも挑戦的だなぁ……」と、思わず手にとってパラパラとめくって書き出しから読んでみました。5分ほどして山西はその本をかかえてレジカウンターへ向かったのでした。

スワロウテイル
スワロウテイル人工少女販売処 (ハヤカワ文庫JA)
籘真 千歳 著

 これ、みかけより本格的で面白いです。もちろんSFなんですが設定がかなり複雑で、それの説明にかなりの文章量を必要とします。山西は途中でダレることが多いんですが、なんとか読めてしまいました。複雑な世界観を何とか理解しようと文章を追っているうちに、物語にいつの間にか入り込むことができるという感じでしょうか。グロテスクなシーン、性的描写も節度あるもので限界を超えません。登場する人物(?)も(作者の趣味を反映しているんでしょうが)とても興味深いです。主人公の設定は奇抜でなかなか格好いいです。登場の仕方も面白いですね。彼女をとりまく人々も個性的ですし、作者が作り上げた複雑な構成の世界で、それぞれが大切な役割を担って話が進んでいきます。人間の脳や精神や自我そして人工知能の分析や描写も秀逸で読んでいてとても興味を引かれます。展開も面白い状態が長く続いて飽きにくくできています。やっぱり本として出版されるっていうのはすごいものですね。こんな感じに書ければいいのにと思います。設定で気になる点もありますがお話が面白いので良しと言うことで……。
 とにかく面白いものを見つけました。『第三回…』参加作品の校正や『エリダヌス』のUP、そして出張(東京に行っておりました。もちろん777で。スカイツリー見る暇なかったです)などでバタバタしていて睡眠時間を削って読んだので少し疲れました。体力無いです。でもいい時間を過ごせました。
 続編、あるようなのでこれも読んでみようかな?

 そして『Eridanus(エリダヌス)Posted at 2XX2-06-05 21:58』UPします。よろしければどうぞ……。
関連記事
テーマ : 雑記    ジャンル : 小説・文学
 
 

Eridanus(エリダヌス)Posted at 2XX2-06-14 22:44

もしこの作品を読んでみようかな…と思われているなら、先に「Meteor(メテオ)」を読まれることをお勧めします。そしてEridanus(エリダヌス)のPostedの早いものからお読みください。ご面倒をお掛けしてすみません。

Eridanus(エリダヌス)Posted at 2XX2-06-14 22:44

兄さん、最近少し思うことがあります。
例のメール、本当は誰かに宛てられた物でなくて自立型の偽装プログラムのバグでたまたま紛れこんだんじゃないのかな……
それとも本当に僕宛に送られたものなんじゃないかな……
誰のところに紛れ込んでもみんな同じように処理したんじゃないのかな……
そういう風に最近は思い始めています。
僕以外の4人は本当に優秀なクルーだし、みんなで新人の僕をカバーして一段階づつ上に引き上げてくれます。とてもそんな不正に手を染めている人が居るなんて思えません。船長がクルーを信用し信頼しチームワークを重んじてこの件の公表を控え、捜査を先送りしているのもわかる様な気がしています。
前にも言ったけど、「エリダヌス」はもう引き返すこともできません、クルーの交代も不可能だし、周りは延々と続く宇宙空間です。
この方法が最善だよ。きっとすべて上手くいくよ。

兄さん、とうとう雨の季節に入りましたね。東域の弓状列島は小さくてそこで起こる事はなかなかニュースにあがってこないんだけど、僕はこの地域のメディアを別にチェックしてるからね。だいたいのことは把握してるつもりです。
他のクルーもみんなそれぞれの地域を別にチェックしているので、集まった時なんとなく自慢大会になるのは良くあることです。まったく違う地域の情報をつき合わすのは楽しいものです。この星も結構広いんだなぁと思います。

ところで、今回はいつもと逆に言わせてもらいます。
仕事はこれから暫くはレインウエアでの作業になりますね。作業環境は最悪だと思うので事故を起こさないように、そして体調を崩さないように気をつけて過ごしてください。
蒸し暑いからってレインウエアを脱いでびしょ濡れで作業しないようにね。
僕が濡れて帰ったらものすごく怒るくせに。まあ、お義姉さんが付いてるから大丈夫だと思うけど、僕の言うことなんか聞いたこと無かったもんね。お義姉さんの言うことなら無条件で聞くでしょ?お義姉さんにもちゃ~んとメールを入れておきますから。
またメールします。

優しい兄さんへ 
  あなたの妹より
関連記事
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

「Eridanus(エリダヌス)」をUPします。

「Eridanus(エリダヌス)Posted at 2XX2-06-14 22:44」をUPします。
 これで残すは最終話のみですが、実は先ほど最終話まで書き上げました。例のごとくこれから校正をかけるわけですが、勘の良い方ならいつごろのUPなのか推測できると思います。
 2XX2-06-14も数日前に書きあがって校正を続けてきました。ようやく読める状態になってきたのでPostedどおりUPとなるわけです。妙なこだわりですが書き始めたとき自分に架したノルマのようなものですから、ご勘弁ください。もう数話書いてもいいかなと思っていたのですがこのお話一話づつ絞り出すのが大変だし、これ以上お話を増やしても間延びするだけだと判断しました。最終話は2部の構成になります。どうでしょうね?まだ形がきちんと出来てなくてブニョブニョしてますのでこれから固めていきます。「腐ってやがる……」にならないようがんばります。上手くできるといいのですが……。
そして「エリダヌス」最終話のUP前になんとか「シスカ」30のUPを挟み込んでおきたいなあと思っています。また暫く離れてしまったので世界に戻るのが大変なような気がしますが、ここで自分にプレッシャーをかけておきます。ギュ~~ッと。

「Eridanus(エリダヌス)Posted at 2XX2-06-14 22:44」
関連記事
テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

ここのところ……

「254」を書き上げてからまた「青の月」を書いた時のような状態になっています。参加された方の作品を読ませていただいてブルーになってみたり、次の作品への意欲が湧いてきたり……というような状態です。プロの方の作品を読んで刺激を受けることはまあ当たり前ですが、アマチュアの方の作品からももちろん刺激を受けます。そしてそれとはまた別の意味でも様々な刺激を受けます。(オォ!!)とか、(エーッ!これあり?)とか、(やっちゃったなぁ)とか、(すごーい!!)とか、(オ~~イ!)とか、とても面白いです。(もちろん自分のことはすべて棚上げです)
 参加作品は全部読ませていただきました。でも感想文をすべて書き上げる前に力尽きています。 どうも体力的に弱いなぁ。感想を書くっていうのは体力を使います。書こうとは思っていたのにすみません。
 アクセスも一時増えていたのですが、通常の一桁台に戻って落ち着いて来ました。

 ここのところ「シスカ」は休んでいたのですが先日「30」をUPすると宣言してしまったので準備にはかかっています。
 まず読み返して「シスカ」の世界へ戻らなくてはなりません(読み返すたびにブルーになりますけど)。頭の中は「エリダヌス」と「254」の縞模様になっているので、まず「254」を消去、そして「エリダヌス」をとりあえず脇にどけて置いてワークスペースを空けます。そして書き始めようかというところです。このひとりごとをUPしたら本格的に取りかかろうかな?
 もう間もなくプロットが尽きますので頭の痛いところですが、31ぐらいまでは今のプロットが使えそうです。
 30のUPが終わったら「エリダヌス」のラストにかかる予定です。このお話は自分のこだわりで時間を切られるのでゆっくりしては居られません。
 そしてその合間に仕事もしなくては食っていけません。(コラ!という突っ込みが欲しいです。関西人ですから)
 そして今、睡眠時間を少し削って本を読んでいます。とても面白い(興味深い?)ので読み終わったらレビュー(というより感想?思ったことぐらいかな?)を書こうと思っています。

 山西のここのところをつらつらと書いてみました……。これだけの文章をあげるだけでも何度も読み返し校正し1時間以上かかっています。遅筆だなぁと思います。(こまったもんだ。ダメダメだね)
 ではまた。
関連記事
テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

第1453回「乗ってみたいバイクはある?」

今日はトラックバックテーマに答えてみました。

こんにちは!FC2ブログトラックバックテーマ担当加瀬です。
今日のテーマは「乗ってみたいバイクはある?」です。
加瀬は現在、バイクの免許(普通二輪)を取得するべく教習所通いを
続けております…!
もうそろそろ卒業できそうなのですが、早く乗りたくて乗りたくて
仕方がないです
第1453回「乗ってみたいバイクはある?」


 あります!!!

 すべての制限無しにどれでもいいという条件なら DUCATI 696 でしょうか?やっぱりL型ツインが素敵です。
 制限がいっぱいあって実際に乗ることは出来ないんですが、空想の上でならなんでもありでしょう?
 色は赤がいいです。DUCATI=赤と山西の中では決まっています。一番シンプルな車種なのはシンプルイズベストと考えているからです。(なんでもありといいながら値段もあったりする)
 このバイクで日本中をツーリングできたらいいなと思います。今は乗らないんですが、以前は小さなバイクで日本中をツーリングしていました。北海道は聖地のようなものですからもちろん素晴らしかったのですが、東北から九州まで他の地域もそれぞれ思い出がたくさんあります。
 2つのタイヤで走るというこの不安定な乗り物は、“バランス”と“風を切る”という2つの要素のせいでしょうか、独特の爽快感があります。
 自分の体が拡張されたような一体感というのでしょうか、本当に素晴らしい感覚です。楽しかったな……。
 山西の作品の中にバイクが出てくるのは、こういう経験があるからなんです。思い出しながらワクワクしながら書いています。
Blue Moon(青の月)   254(前編)(後編)

 もちろんこの利点は欠点でもあって、もしミスをすれば命にかかわる危険を持っています。乗られている方、乗ろうとされている方、くれぐれも用心して楽しんでください。安全第一です。
 では、また。
関連記事
テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

「読書の記録」です。

 睡眠時間を少し削って読んでしまいましたので感想を。

スワロウテイル/幼形成熟の終わり (ハヤカワ文庫JA) [新書]
籘真 千歳 (著)

スワロウテイル2
 これ「スワロウテイル人工少女販売処」の続編です。
 書き出しから「あれ?前作の続きなんだよね?」という確認を求めてしまう展開に驚かされます。山西の想像していた展開と全く違っていました。発想も前作同様奇抜で面白いです。特異な設定や考え方の説明に費やされる文章量は結構多くて、前作よりも読み切るのに根性が必要でしたが、何とかなりました。作者の設定や考え方に違和感を感じる部分も多いのですが、なんで読めてしまうのかよく解りません。多分作者の作りだしたこの仮想世界が、一応矛盾なく成立しているからなのじゃないかなと推測しています。きちんと構成されている仮想世界は説明に多くの文章を要してもきちんと読めば納得出来ます。納得を繰り返しながら読み進んでいけるので、多いなぁと感じながらも途中であきらめることなく読み切れるのじゃないかと感じています。この構成力?説得力?はすごいです。
 なぜこんな展開なのか、ヒロインはどうなっているのか、「ははあ、こうなんだな」と推測を立てるのですが、すぐに作者につぶされてしまって展開が読めません。世界の存続を左右するようなテーマをもって話は展開し、登場人物は出番を交代しながらそれぞれの役割を演じていきます。
 山西は大きな展開を読み込みながら、小さな成り行きを見守ってハラハラと読み進めるという展開になりました。硬い内容の合間に冗談のようなやり取りもあり、思わず笑ってしまいます。でもリアルにこういうこともあり得るんだろうなと思います。最後少し悲しい展開になりますが登場人物の性格から本人的には何の問題も無いのでしょう。山西このキャラは大好きですので、すこしジーンとしてしまいなす。
 前作はグロテスクなシーン、節度あるもので限界を超えません。と書きましたが本作はちょっと限界を超えるかも……。結構グロいです。今回作者もはじけたのかもしれません。
 エピローグはここまで読んできた読者のためのご褒美のような展開です。納得する部分と物足りない部分が混じって結局良い読後感になりました。すべてを丸く治めたハッピーエンドというのは甘々になってしまい、まあ成立しないんでしょうね。

“ボク”と“私”の関係、まるで「シスカ」のようです。設定の部分でもなんと「シスカ」で使う予定のものと同じような設定をされている部分もあり唖然としています。もちろん、本作の方が発表が先ですのでここからパクッたみたいな感じになってしまいちょっと悔しいですね。

 面白くて一気読みでした(といっても時間を区切って読んでいますので3日かかっていますが)。
 そしていろいろと楽しめました。好き嫌いがありそうですがとても不思議な作風です。
関連記事
 
 

---30---


 *

 シスカはホテルの部屋に入ると照明もつけず窓へ直行しカーテンを開けた。窓の向こうにはオルガの街が広がっている。なるべくみんなに気づかれないように(特にキタハラには)勤めて冷静に行動していたつもりだったがもう限界だった。小さい頃から国境線越しに眺め続けてきた小さな明かりの街が今目の前に広がっている。おぼろげながら戻ってきた小さい頃の記憶から考えて、ここは多分自分の生まれた街だ。そしてとうとう自分はここまで来ることができた。そう思いながらこの街を眺めているだけで、シスカの心は感慨でいっぱいになった。このままこっそりホテルを抜けだしたい衝動に駆られるが、何の情報も無しに抜け出しても得るものは何も無いだろう。そんなことを考えながら町を眺めているとドアがノックされた。(ヨウコかな?)シスカはそっとドアに近づきドアスコープを覗いた。外にはさっき紹介されたジュナの顔が見えた。驚きながら「はい」と鍵を外しそっとドアを開けるとニッコリと微笑んだジュナが立っていた。
「キタハラさん。少しの時間お付き合い願えませんか?夕ご飯をご一緒しましょう」とイルマ語で言った。少しアクセントに違和感はあるが流暢なイルマ語だった。
「僕と?」
「ええ。あなたと。警戒しないで私に付き合ってくれませんか?どうしてもあなたの歌が聞きたいんです」
「歌?どこでそれを……」シスカは怪訝な顔をした。
「アキヤマさんに教えてもらいました」とジュナは笑う。
 シスカはヨウコがなぜそんなことを喋ったのか訝しく思いながらその笑顔を見つめた。
「子供の頃のあなたの手掛かりを差し上げられるかもしれないと思ってます」
「僕の?何か心当たりがあるんですか?」
 ジュナは微笑みを返すだけだ。
 シスカはその笑顔から向けられる目に得体のしれない力を感じたが妙に危険は感じなかった。そのうえ、なんとなくジュナを信用してもいいような気がした。そして好奇心が勝った。
「分かりました。少し待ってください」ドアを閉じると防寒着を着てウエストポーチを持って中身を確認し、携帯電話がここオルガ市でも使用可能なことを確認してから部屋を出た。
「突然ごめんなさい。びっくりしたでしょ?キタハラさん」前を歩きながらジュナがあやまった。
「シスカと呼んでください」
「じゃあ、シスカ。驚いた?」
「ええ。少し」
「安心なさい。危険なところに連れて行くわけじゃないし、食事がすんだらすぐに部屋に送っていくから」
 ジュナはエレベーターで地下2階まで降りると、真黒な2シーターのスポーツカーに近づいた。(エアロナの396かな)シスカが眺めていると「乗って」ジュナが声をかけた。シスカが助手席に座るとエンジンを始動させた。重圧なエキゾーストノートが響く(たしかV10だ)、ジュナはシフトをコクッと1速に入れて車を発進させた。地下の駐車場を出てホテルの前の通りを加速している時、シスカは視界の隅に一瞬ヨウコを見たような(ヨウコ?)気がして顔を回した。しかしそれは甲高いエキゾーストノートの中、あっという間に後方に消え去ってしまった。
「心配?」真っすぐ前を見ながらジュナが訊いた。
 シスカが黙っているとジュナは「信用しなさい。あなたを危険な目にあわせるようなことはけっしてしないから」と言ってさらに加速した。
 黙ってハンドルを握るジュナの横でシスカも黙って町並みを見つめていた。加速のたびにシートに押しつけられるGが心地よかった。

 10分程走らせるとジュナは、立方体に窓の穴をあけただけのような極めて実用的な薄汚いビルの前に車を止め、地下へ続く何箇所も折れ曲がった階段を下りて行った。ついていくシスカはウエストポーチをしっかり肩に掛け、そのベルトをつかむ手には自然と力が入った。階段の先には1枚のドアがあって、ドアの横にはベクル文字で書かれた看板がかかっていたが読むことはできなかった。
「ここよ。入って!」ジュナはドアを開けシスカを招き入れた。恐る恐る中を覗くとドアの内側はライブハウスだった。大きさは”19番”ほどだろうか。やはり小さなステージがある。ホールにはテーブルと椅子がいっぱいに並べられていて、そこには15人ほどの客が座っていた。客は全員が50歳を超えたぐらいで、その中には数名の女性が含まれていた。今まで雑談していた様子だったが、入ってきたシスカを見て全員が一瞬で固まった。シスカは痛いほどの視線に耐えなければならなかった。
「この人たちはここの常連さん。気にしないでいいよ」とシスカに声をかけてから、ジュナはみんなの方を向いてベクル語で何か言った。シスカにはその中に自分の名前が含まれている事位しか解らなかった。
「ジュナさん。ここで歌うんですか?」
 シスカは不安になって質問したが、後半はどよめきが起こってかき消された。
「ラサでいいよ。なんて言ったの?」
「ラサ。ここで歌うんですか?」どよめきに驚きながらもう一度繰り返した。
「……そう。お願い!あなたベクレラの子守唄と家族の歌が歌えるんでしょ?」と言うと、客席にいた女性を手招きで呼んでピアノの前に座らせた。そして何か言うと女性は子守唄のメロディーを弾き始めた。「これでしょ?」シスカは頷いた。ジュナが合図を送ると女性はもう1曲引き始めた「これじゃない?」シスカはまた頷いた。「この2曲はこっちではかなり有名な曲なの。後で説明するわ。とにかく用意して歌って!あなたがそれを憶えているってことが重要なの」
「少し待ってください」『あなたグロー語は?』シスカはピアノの女性に尋ねた。女性は目線を合わすと戸惑ったように下を向き『少し』と答えた。シスカは彼女とピアノの横で簡単に音合わせをしてから、壁の方を向いて心を落ち着かせにかかった。ゆっくりと呼吸を繰り返して心臓の鼓動が落ち着くのを確認すると、小さなステージの中央に立って客席を見渡した。
 そこにさっき紹介されたボースンとダイクの姿を見つけ、(なんだろう?これは)不可解な気持ちに蓋をするためもう一度深呼吸してから、ピアノの女性に合図を送った。

 シスカが歌い終わった時、そこは静寂の世界になった。全員の目が潤んでいるような気さえする。もちろんジュナやボースンそしてダイクもだ。(何かやばいことが起こったのか?)とシスカが思い始めた時、ジュナが手をたたき始めた。それはすぐに全員に広がり拍手の波となってシスカを震えさせた。
「ブレーバ!!!」ジュナはそう言ってシスカを抱きしめた。懐かしい臭いがした。ジュナの肩越しにピアノの女性が大粒の涙を零しているのが見えた。
 抱きしめたまま拍手が収まるのを待ってジュナは「さあ、ご飯にしよう」と手を頭の上で叩いて合図を送った。ホールの奥から(多分そこに厨房が有るんだろう)たくさんの料理がテーブルの上に運ばれてきた。料理が並ぶとジュナは全員に向かって「ラド・ネラック」と言った。全員が声を揃えて「ラド・ネラック!」と言い返して食事が始まった。シスカにとってほとんどが食べたことの無い料理だったがそれなりに美味しく、ついつい食べてしまってたちまちお腹がいっぱいになってきた。ただお酒の類だけは用意されなかった。(まだ会議が終わっていないからかな?)シスカはそう思いながら食事を続けていた。
 ジュナが「さっきシスカが歌った2曲。こちらでは有名だって言ったわね」と言ってからグロー語で『シスカ。グロー語は喋れる?ちょっとイルマ語では難しいから。』と続けた。
 シスカが頷くと。ジュナは喋り始めた。
『これはオルガノ地方の古い民謡を元に作られている歌でね。先の大戦中とこの島の局地戦争中に反戦を目的に歌われたものなの。無名の歌手が歌っていたんだけどこの2曲でブレークしてね。政府は良い顔をしなかったんだけど、露骨に反戦を歌ってるわけじゃないから禁止もできなくて、兵士の間ではかなり流行していた曲なの』ジュナはまわりを見回しながら言った『ここに居る人たちは、その戦争の兵士達かその奥さんばかりだから、さっきみたいな反応になるのね』
 シスカはまた頷いた。そして『その歌手ってどんな人?』と何気なく訊いた。
 ジュナは『アルナっていうんだけど若くして亡くなってる。確か写真が有ったはずだよ』とピアノの女性に声をかけた。
 女性は頷くと奥へと引っ込んでアルバムを1冊持ってきた。そしてページを捲りシスカの前に置いて何枚かの写真を指で示した。
 今度はシスカが静寂の世界に引きずり込まれる番だった。すべての音が消えた。
 黒い髪をショートにした黒い瞳を持った女性がこっちを向いて笑っていた。
 そのアルバムに写っていたのはシキシマだった。


(2013/02/17 文章再構成)
(2013.11.04 見直し)
(2014.03.02 見直し)
(2014/08/09 更新)
関連記事
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

「シスカ」30 をUPします。

 ようやく30話をUPできました。ふにぁ~疲れた。
 自分で宣言してプレッシャーをかけたてまえ、とにもかくにも搾り出しました。山西にはプレッシャーもある程度必要かも知れませんね。
 大急ぎで読み返してシスカの世界に戻りましたが、考えてみれば「254」と同じ世界なんですよね。サヤカ(コトリ)とどこかで接触していてもおかしく無いはず……。な~んて、不思議な感覚です。サヤカの家のあったウラスは、シスカが買い物をしたマエハマの隣町ですしね。ウラスの自宅からマエハマへショッピングに出る、なんてことよくあると思います。
 読み返してみると、文章の細かいところやつじつまにやや甘いところがあったりして気になりました。またこっそりと校正をかけなければならないかもしれません。けど今回はまったく触っていません。正直そこを触る時間がありませんでした。
 今度やりましょう。
 本編も時間不足できちんと満足いくまで読み返して校正できたわけではありません。すみませんが後で若干の修正が入る可能性があります。まぁ、山西が満足できるまで待っていたら物語が完成することはありませんので、この辺でUPしてしまいます。
 ご勘弁ください。

 さて30です。ベクレラ連邦・オルガノ州・オルガ市でのストーリーが新たに展開します。シスカたちの生活するマサゴ市とは国境線を挟んで対立しているかのような町、シスカが小学生の頃から国境線越しに眺め続けてきた町、オルガ。国境線で引き裂かれたこの島の北側の緩衝地帯に、まるでお互いを知る前に引き離された双子の兄弟ように作られ存在する相似の町で、シスカは予想外の展開にまた翻弄されていきます。長い伏線も開放しなくてはなりません。
どんな展開になっているのかは、読んでのお楽しみです。
 よろしければ“始めから”読んでみてください。でも長いですョ。
 読みにくいことや色々変なところは、これ処女作ですので特に大目に見てやってください。
 では……

 シスカ 30
関連記事
テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

Eridanus(エリダヌス)Posted at 2XX2-06-27 23:10

もしこの作品を読んでみようかな…と思われているなら、先に「Meteor(メテオ)」を読まれることをお勧めします。そしてEridanus(エリダヌス)のPostedの早いものからお読みください。ご面倒をお掛けしてすみません。

Eridanus(エリダヌス)Posted at 2XX2-06-27 23:10

兄さん、「エリダヌス」はアステロイドベルトの端に到着しました。あとは若干の減速と資源探査船団とのランデブーをおこなってから到着ということになります。アステロイドベルトって名前からは宇宙空間に所狭しと大小の小惑星がひしめいている様なイメージを持つよね?でもそんなことは全然ありません。他と同じようにここにはなにも無いように見えます。
ただ空間が広がっています。
5隻の船は通常と同じように前進を続けても小惑星とぶつかる確率なんてとても少ないのです。
ただ通常の空間よりは遙かに漂う物質の量は多いので、サリーの航路補正システムの計算量は飛躍的にあがっているはずです。最適のコース取りで進んでいるはずです。

昨日サリーの故障予報システムがアラームを出しました。「エリダヌス」のハイゲインアンテナが72時間以内に故障するというのです。小さな故障で大した問題ではないんだけど、これがやられると本部との高速通信が出来なくなるので少し困ったことになります。ローゲインアンテナが使えるのでとりあえずは大丈夫なんだけど通信速度が遅いのでいずれ破綻します。
予報で指摘されたパーツは船内からは交換できなくて船外活動が必要になります。船長の指示で僕を含む3人で船外活動チームが組まれ、予備パーツとの交換シュミレーションを繰り返しています。船長が任せてみるって言ったのは本当だったんだね。僕も船外活動の経験は結構持っているんだけどやっぱり緊張します。交換作業自体は単純なものだけど重要なものだからね。でも、あの虚無の空間に出て行くことは楽しみでもありワクワクしています。
故障でワクワクしていたらいけないよね。でも楽しみなものはしょうがないよ。

ところで兄さん、お義姉さんからメールが来てるよ。ちゃんと濡れないようにやってるみたいだね。雨の季節はあと少しだからお義姉さんの言いつけをちゃんと守ってね。ほんとにどうなってるんだろう?すごく興味深い現象です。でも元気ならそれでいいです。
雨の季節が終わったら日差しのまぶしい季節がやってきますね。ウエマチ半島の周りに広がるセナの海からコーチ湾に繋がる海に夏の午後遅い日差しが斜めに降り注いでキラキラと輝く様子から、空の夕暮れへの変化につれて徐々に黄泉へと沈んで行く様子はまた格別です。僕はその様子に自分を重ねて不安にうち震えるのです。そしてやっぱりこの感覚に僕の精神はゾクゾクするのです。
まぶしい季節までもう少し我慢してください。
僕のほうはすべて順調で元気にやってるから大丈夫だよ。

船外活動は明日の予定です。
終わったらまたメールします。

優しい兄さんへ 
  あなたの妹より

PS:僕の取りためた写真を添付します。かなり大きいので僕の作ったブラックホールで圧縮をかけています。兄さんに渡してあるブラックホールを使って解凍してみてください。パスワードは小さい頃の兄さんと僕の合言葉だから。びっくりするような珍しい画像が展開されるはずです。じゃあまたね!

Achernar (アケルナル) へ続く……

関連記事
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

Achernar (アケルナル)

もしこの作品を読んでみようかな…と思われているなら、先に「Meteor(メテオ)」と「Eridanus(エリダヌス)」を読まれることをお勧めします。ご面倒をお掛けしてすみません。

Achernar (アケルナル)

河の果て

 長くそして深くため息をついてからキラは端末の画面にタッチした。

 次のフォルダーには2年ほど続いた裁判の経過がまとめられていた。
 そこには、データ麻薬は船長を含めクウ以外のクルー全員に蔓延していたこと。
 さらに何らかの手違いでクウに届いてしまったデータ麻薬を隠滅するために、結局はクウを消してしまわなくてはならなくなったこと。
 サリーの故障予報システムに偽のデータを渡して故障を予測させ船外活動にクウを駆り出したこと。
 サリーにダミーの任務をあてがってサリーを監視業務から外したこと。
 などの事実が次々と明らかになっていく過程が克明に記されていた。これには裁判史上初めて人工知能サリーの証言が証拠として採用されるというトピックがついていた。しかしすべてはクウが最後のメールで兄に宛てて送ったデータ麻薬を含むメールすべての情報が告発の発端だった。これが無くてはすべては闇に埋もれてしまっただろうことも記されていた。
 4人のクルーには重い罰が下されていた。特に船長にはこういうケースで考えられる最も重い刑が科せられていた。この判決を期にデータ麻薬に対する風当たりは一気に強さを増していった。ただ被害者は行方不明となり未だ発見されていない。

 キラは犯行の行われた過程が克明に記録された文章すべてを読み終わると、ゆっくりと画面から目を離した。
 透き通るようなブルーの瞳は輝きを失い、視線は行く当ても無く空間を彷徨っていた。無意識に支配されたように髪留めを外すと、胸まで伸ばした流れるようなブロンドの髪は俯いた顔を隠すカーテンのように広がった。キラはそのカーテンに隠れたまま立ち上がると窓際に歩を進め、生物の本能に刷り込まれた命令に従うように明るい方向に顔を向けた。窓から吹き込む一陣の風は、その流れるような髪と空色のワンピースの裾をふわりと揺らせた。
 キラの居る父親の書斎は家の三階、恒例の天体観測会の行われる物干し台のすぐ下にあって、丁度北に向かって航行する船のブリッジのようにドアのある南側以外の三方に窓が連なっている。北側の窓からはブリッジから舳先を見下ろすように、ウエマチ半島の緑の木々、そして先端のイーサ公園を見下ろすことが出来る。
 キラはその周りに広がるセナの海からコーチ湾に繋がる海にようやく焦点を合わせた。西側の窓の向こうのセナの海には夏の午後遅い日差しが斜めに降り注いでキラキラと昼色に輝いている。やがてそれが空の暮れ色への変化につれて徐々に夜色へ変わって行く様子は、キラが大好きな風景の1つだ。でもそれはクウが大好きな風景でもあったのだ。キラは日よけを降ろすのも忘れてその風景を眺めていた。
 なぜクウは最後のメールで“黄泉へと沈んで行く”などという表現を使ったのだろう?黄泉って死者の国じゃない……それまでのメールではそんな種類の比喩を使うことは無かったのに。
「不安にうち震える……」何回か前のメールにも同じフレーズが使われていた。不安にうち震える様になったのはいつからだったんだろう?
 なぜクウは法を犯すことになるからと一度は拒否したのに、クルーを信用し信頼するメールを書いているのに、データを兄に送ったのだろう?しかも多分相当複雑な暗号化を施して……。
 心の中で一生懸命クウの気持ちを想像してみるが、そして何も無い無限空間を漂う自分を想像してみるが、キラの心の中には何も湧き上がってこなかった。
 
 僕はクウの、クウは僕の何なんだろう?
 キラは暑さを感じることも忘れていた。

 昨夜は20歳の誕生日を迎えたキラを祝うために、両親とキラが暮らすこの実家に兄妹みんなが集合していた。そして盛り上がったパーティが終盤に近づいた頃父親から、キラにはミドルネームがあってそれは“クウ”というのだと聞かされた。もともとこの国にはミドルネームというようなものは無くて、移住してくる人々の為にキラが生まれる少し前に制度化されたものだ。でもこれまで住民票というものを見る機会の無かったキラには、自分にミドルネームがあるなんて思いもかけないことだった。そして兄や姉から自分が生まれた時の神秘的な出来事や、エカが体験した信じられないような不思議な話を聞いたのだった。クウについても簡単に教えてもらいその場はそれで収まったように思えた。父親がひどく寂しげに、そして懺悔するようにキラに話しかけてくる様子が気になった程度だった。
 しかし、パーティが終わって1人で自室に戻ると、キラは自分のミドルネームの中に居るクウという人物に自分でも驚くほど激しく引き付けられた。その部屋が元々クウが使っていた部屋だという話を聞いていたせいもあるのかもしれないが、とてもそれだけでは説明できないぐらいの吸引力だった。一睡もしないまま夜を明かし居ても立っても居られなくなって、今日両親が出かけるとすぐに書斎に入り込んだ。そして、父親の端末から目星を付けたルートをたどりこの記録にたどり着いたのだ。キラのスキルを持ってすればパスワードなど無いに等しかったし、ログを解析すれば場所の特定も容易だった。

 キラの父親の長くそしてつらい記録を拾い上げていた端末は、暫くするとスリープに入って画面を黒く変化させた。
 午後の太陽がアマガの島の山並みにゆっくりと近づいて、キラキラと輝いていた海が光を失い始めたがキラは窓際を動かなかった。
 開いたままのドアから男が静かに部屋に入ってきて、窓際に立つキラを暫く見つめてからそっと端末の前に立ち画面をタッチした。そして表示されている内容を確認すると「キラ」と声をかけた。
 キラは弾かれたように振り返った。
「兄さん」キラはかすれた声を出した。どこかに反射して入ってくる夕日の欠片がキラの顔を浮かび上がらせた。輝きを失い、彷徨っていたブルーの瞳は透き通るような光を取り戻していた。さらに硬く強張っていた口元に微笑みさえ追加した。兄は「もう親父のデータを見たのか……」と言った。
 キラは微笑みを収めると小さく頷いた。
「お前が生まれた時のエカの話は本当に不思議な話でな。エカは何も知らないはずのクウの事を俺達の前でペラペラと喋ったんだ。親父やお袋はものすごく驚いてな。そのまま親父がミドルネームを付けてしまったんだ」
 キラは黙って聞いている。
「暫くして、親父はお前を縛ることになるんじゃないかとずいぶん後悔したんだが変更も出来なくてな。お前には知らせないでおこうということになったんだ。でも親父としてはこの機会にどうしても言っておきたかったんだろう。早くに両親を亡くし、たった一人の肉親だった妹のことだったからな。昨日パーティでしゃべり始めた時はびっくりしたけどな」

 残照が消え部屋がスッと薄暗くなった。キラは兄と目を合わさないようにすばやく部屋を横切ると、灯りのスイッチを入れた。
「僕はクウに似ているの?」スイッチのある壁のほうを向いたまま小さな声でキラが訊いた。
「親父がみんな消してしまって画像が残っていないからなんとも言えないが、親父やお袋に言わせるとそっくりなんだそうだ。金髪やブルーの瞳は俺達兄妹で持っている者も居るが、本当のブロンドと透き通るようなブルーの瞳、両方持っているのはお前だけだ」
 キラは静かに場所を移すと、壁に掛かっていた小さな鏡を覗き込んだ。そして自分に尋ねるようにそっと呟いた。「クウはその時恐かった?」
「そんなこと無いよ」はっきりとした声の断定が響いた。
 2人が振り返るとドアの所にエカが立っていた。
「あっと思う間もなかったよ……って言ってた。恐くないし寂しくもないって言ってた。はっきり覚えてる。そして名前を呼んでさよならを言うと、名前を呼ばれてうれしいって言ったんだ。そして、またどこかで会えるといいね。って言ってくれたんだ。私はキラが生まれた時クウが来たと感じたよ。だから、名前の中にクウを持っていてくれるのは、……なんて言うんだろう?平気……?うれしい?」エカは上手い言葉が見つからないのか一瞬考えたがすぐに続けた「誰かが誰かの生を引き継いでもいいと思うし、別にその事がキラを縛ったりすることにはならないと思う。こういうことって結構普通に起こってるんだよ。たまたま私が見ただけなんだよ。きっと」兄は快活にしゃべるエカに肝を抜かれていた。普段エカが自分からしゃべることはほとんど無いのだ。一気に喋り終えたエカはキラにゆっくりと近づくとそっと抱きしめた。「だからキラ。キラは今のままで大丈夫だよ。何かを変えたり何かを背負ったりする必要なんかないよ」
 キラは静かに抱かれていたがやがてエカの肩に顔を押し付けた。微かに肩が震えている。
 そして途切れ途切れにしゃべり始めた。
「ごめんね……クウのメールを読んでいたら、なんだか自分がクウになったみたいで……でも、今、僕は悲しいんじゃないんだ」キラは顔を上げた。
「なんだか分からないけど、すごくうれしいみたいなんだ。とっても変な気持ち」キラは最初ぎこちなく、やがて緩やかに穏やかな笑顔になった。
 つられてエカもめったに見せない微笑みを浮かべた。1人取り残された兄は手持ち無沙汰にしていたが、やがて2人の肩にそっと手を回した。

関連記事
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

「Eridanus(エリダヌス)」最終話、そして終章の「Achernar (アケルナル) 河の果て」をUPします。

 最終話を書き終えた後納得できず急遽終章を付け足すことにしました。ウンウンと唸りながら文章を捻り出しようやく形ができ始めていたのは、シスカ30を書き始める前でしたから二週間程前になります。
 そしてシスカ30を書きながら合間に校正を続けてきました。まぁ、この辺にしておいてUPしてしまいましょう。
 今回のUPは、いつものメールである最終話と、別のショートショートの終章で構成されています。終章はタイトルも別になっていますが単独で読んでも意味を成しません。出来れば順番通りお読みください。これはそうしないと副作用があるかもしれません。ご注意ください。
 山西は自分ではアンハッピーエンドは書かないだろうと思っていたのですが、そんなことは無いようです。自分が読む立場だったら絶対に選択しないパターンかもしれませんが、不思議なものですね。やはり山西は天邪鬼なんだろうと思っています。すみません。
 NET世界を彷徨っていて、ブログ小説をやっておられる他の方の作品から影響を受けたことも大きいと思っています。自分で書き始めて読み方も変化したように思います。
 試行錯誤しながら書き進めてきましたがついに実験終了です。実験にどんな評価がいただけるのかとても不安ですが、自己満足の暴走作品が多い山西ですので「何だこれ?」という反応も覚悟しています。コメントいただけましたらとても嬉しいです。(厳しいご意見は少しオブラートに包んでいただけましたら、小心者の山西にとってはありがたいです)

 ここで、どれどれ?…と興味をもたれた方は『Meteor(メテオ)』から読んでいただいたほうがよいと思います。ご面倒ですがよろしくお願いいたします。
 もう前話まで読んでおられる方…いらっしゃいましたら、山西がどのようにケリをつけたのかご検証ください。
 では……
Eridanus(エリダヌス)Posted at 2XX2-06-27 23:10

関連記事
テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
<- 06 2012 ->
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
イラストをクリックすると記事に飛びます。よろしければご覧くださいネ!
スカイさんシスカイメージ
スカイさんのシスカイメージ
シスカ・イメージ高橋月子さん作
シスカ・イメージ 高橋月子さん作
シスカ・イメージlimeさん作
シスカ・イメージ limeさん作 コトリ・イメージユズキさん作
コトリ(コンステレーションにて)ユズキさん作
リンク
ブロとも申請フォーム

Archive RSS Login