Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

ガントレットトラック

offkai.png【オリキャラのオフ会】参加作品です。

 敷香(シスカ)は息を詰めて水面を見つめていた。
 薄い半紙で出来たおみくじは表面張力でようやく水面に浮いている。そのかろうじて船の役割を果たしているおみくじの上には百円玉が乗せられていて、自らの重みによって少しずつおみくじを水中に沈めようとしている。おみくじの船は微かな風の動きによってゆっくりとこちらに近づいてくる。少しずつ周りから水が入り始めた。侵入した水はついに百円玉に達し、それと同時におみくじを水中へ引き込んだ。
「3分28秒」クロノグラフを見つめていた敦子が声を上げた。敦子の浮かせたおみくじは徐々に遠ざかろうとしている。
「早いね!しかもすぐ手前じゃない。身近にいるってことかしら?」紗枝は自分のおみくじを見つめながら言った。紗枝のおみくじに乗せられた百円玉はかなり沈み込んでいる。
「でも、意外!敷香が一番だなんて」洋子がコメントを入れる。洋子のおみくじにはほとんど動きが無い。
「ほっといてくれ!こんなのただの偶然だよ」敷香は唇を尖らせた。

 *

 怜子はゆっくりと2回礼をした。そして柏手を打つ。平日ということもあるのだろうか、珍しいことに観光客の姿も無く、静かな境内に柏手の音だけが響く。手を合わせたままもう一度礼をして、頭の中で願い事をとなえる。静かに礼を終えると怜子は社務所で薄い半紙のおみくじを買った。
 本殿から裏手に抜けて暫く小道を進むと森の中に小さな祠がある。その祠の傍には「鏡の池」と呼ばれる神池がある。「鏡の池」は稲田姫命が、スサノオノミコトに勧められ、この社でヤマタノオロチから身を隠している間、鏡代わりに姿を映したと伝えられるもので、良縁占いで有名だ。
 占いの方法は簡単だ。社務所で売られている薄い半紙の中央に、小銭を乗せて池に浮かべると、お告げの文字が浮かびあがり、やがて池の中へ沈んでゆく。沈むまでに紙が遠くの方へ流れていけば、遠くの人と縁があり、早く沈めば、早く縁づくといわれる。
 怜子が森の中を進んでいくと、しめ縄が渡されたその池の淵には4人の女性が佇んでいた。池の淵に近づこうとした怜子は、ドキリとして一瞬立ち止まった。立っている3人のうちの1人の女性の髪が真っ白だったからだ。日が差し込んでくるとその白に近いプラチナブロンドの髪はキラキラと輝いた・・・それは実に華麗な、そして不思議な光景だった。4人の女性は一緒に旅行している仲間らしく、立っている3人は会話を交わしている。髪の白い女性は外国人かと思っていたが日本語で喋っている。1人だけしゃがんでいる女性は、水面をじっと見つめていて、池には半紙のおみくじが1つだけ孤独に漂っている。怜子は立っている3人の分はすでに沈み、しゃがんでいる彼女の分が沈むのを待っているのだと推測した。そして心を落ち着かせると何事もなかったかのように池の淵にしゃがみこんだ。
 怜子は自分の半紙のおみくじに、ポケットから出した百円玉を乗せて水面にそっと浮かべた。チラリと腕の時計を見る。半紙に文字が浮かび上がる。それは怜子にとって嬉しい予言だった。それに“吉”とある。しゃがんでいる女性がチラリと視線を向けてきた。彼女のおみくじはまだ浮かんだままだ。
 怜子は息を詰めて水面を見つめた。表面張力でようやく水面に浮いている薄い半紙のおみくじは、ゆっくりとこちらに近づいてくる。少しずつ周りから水が入り始める。そしてゆっくりと回転を始めると水をまきこみながら優雅に沈んでいった。時間にして2分弱といったところだろうか。祈るように両手を組み合わせていた怜子はホッと溜息を洩らした。
 隣にしゃがんでいた女性のおみくじはまだそのまま水面を漂っている。怜子はそっとその場を離れた。

 怜子は鳥居をくぐって道路に出るとバス停に向かった。停留所のポストは鳥居から少し離れた広場の隅に立っている。怜子はバス停のポストの下に付いている時刻表を覗き込む。「あれ?」時刻を確認しながら怜子は思わず気落ちした声を出した。次のバスまで30分以上時間があったのだ。さっき出たばかりのようだ。「まぁいいよね」怜子は傍の待合室のベンチに腰掛けようと向きを変えた。
 その時エンジンの音がして一台のステーションワゴンが停車した。助手席の窓が開いてさっき池の淵でしゃがんでいた女性が顔を覗かせた。利発そうな目が印象的だ。
「どちらまで行かれるんですか?」にこやかに声をかけてくる。
「え?」怜子は意味を計りかねて答えに窮した。
「松江の街中までなら送っていきますよ。よかったら乗っていませんか?」
「でも・・・」
「あ、怪しい物じゃないです。私達女ばかり4人で北海道から来たんです。のんびりとした旅行だから遠慮はいりませんから」
 こうにこやかに誘われると怜子は断る理由を思いつけなくなった。そして「本当にいいんですか?それじゃぁ、お言葉に甘えちゃおうかな」と遠慮気味に言った。
「どうそ!遠慮しないで・・・って、私の車じゃないんだけどね」と片目をつぶる。怜子は吹き出してしまった。
「じゃぁ、ここに乗ってください。私は後ろで3人で座るから」
「あ、そんな・・・」
「いいからいいから」彼女はさっさと車を降りると後部座席に座った。
「すみません」開いたままになったドアから車に乗り込むとドライバーズシートではさっきのプラチナの髪の女性がハンドルを握っていた。「どうぞ、遠慮しないで」つっけんどんだが温かみのある喋り方だ。そして目を合わせて驚いた。『オッドアイなんだ』彼女の瞳は左が明るいブルー、そして右が焦げ茶だった。
 真後ろの席に移った彼女を中心に会話を交わすうちに、和菓子職人をしている彼の家まで送ってもらうことになった。彼女は話の誘導が上手で、いつの間にかそういう話になってしまったのだ。プラチナの髪の女性は怜子が告げた住所をカーナビに手早く入力すると車を発進させた。
「あ、そうそう自己紹介がまだだったわね」後ろの席に移った彼女がシート越しに話しかけてくる。「横でハンドルを握っているのが敷香」敷香は運転しながら軽く頭を下げた。短めのプラチナのボブが揺れる。「変わった名前でしょ?でも気にしないで。後ろの真ん中が紗枝」
「こんにちは」紗枝が笑顔で挨拶をする。長い髪と切れ長の目に大きな瞳が素敵だ。
「そして窓側が敦子」
「敦子です。よろしくね」顔つきからの想像どおりの可愛い声だ。
「そして私が洋子」洋子は簡単にメンバーの紹介を終えた。
「私は怜子といいます。大学生です」怜子は振り返って頭を下げた。
「皆さんは北海道からこの自動車で?」怜子は質問した。
「そう」洋子が答える。
「ずっと走って来たんですか?」
「まさか!小樽から敦賀まではフェリーで、そこからは京都経由で日本海沿いをドライブしてきたの。敷香がいくらでも運転できるから私たちは楽チン。彼女、ヘリコプターのパイロットなの。だから運転が好きなのね」
「へえ!」怜子は驚いて隣を見た。敷香は関心の無い様子で前方を見つめている。
「あ、ついでだから紹介してしまうね。敦子は船のオペレーター、紗枝はレストランをやってる。そして私はしがない国家公務員」
「バラバラですね」
「そう、でも何となく友達としてまとまっているの。不思議でしょう?」
「女子会旅行みたいな感じですか?」
「そうね。この旅行は私達4人が係っていた大きなプロジェクトの打ち上げなの。何とか無事に終わったから羽を伸ばそうってわけ」洋子が答える。
「まずは出雲大社だと思ったんだけど、八重垣神社の恋占いの噂を聞いて、先にこっちへやって来たのよ」紗枝が言葉を繋げた。
「でも地元のあなたがわざわざ八重垣神社に詣でていたのはやっぱり恋占い?」敦子が興味津々で聞いてくる。
「ええ、まぁ」怜子は言葉を濁して話題を振った。「洋子さんのおみくじは上手く沈みましたか?」
「やっぱり見てた?」洋子が答えるまでに一瞬の間があった。
「敷香のおみくじが一番早くて3分28秒。次が紗枝で4分54秒。私が7分16秒。そして洋子は・・・」敦子は言葉を止めた。洋子が睨んでいたのだ。
「実はね、あなたがやって来たとき私たちはもう1時間以上あそこで待っていたのよ」紗枝が言葉を続けた。
「1時間以上!ですか?」
「悪かったわね。だから最後は指でチョイっと・・・」洋子が言った。
「え!突っついたんですか?」怜子は呆れた声を出した。
「いくらのんびり旅行でも限度があるわ。感謝なさい。あんなところで暗くなるまで待ってられないでしょ。ええ!そうなの。私は一生結婚なんてしないのよ」洋子は開き直ってしまった。

 *

 敷香はあらかじめセットされていた玉造温泉をカーナビに呼び出すとガイドを開始した。
「どうもありがとうございました」「またぜひいらしてください。次は町を案内しますよ」車の外で怜子と怜子の恋人と思われるルドヴィコが頭を下げている。怜子はあくまでアルバイト先の同僚として紹介したが、2人はどう見ても恋仲だ。『気づいていないのは怜子だけじゃないのか?』鈍い敷香ですらそう感じていた。
「こちらこそご馳走様でした。怜子、今度は2人で北海道にいらっしゃい。案内するわ」洋子が助手席で、後ろの座席では紗枝と敦子が頭を下げている。
「じゃ、出すよ」敷香は車を発進させた。
 リアウインドウには見えなくなるまで並んで頭を下げている2人の姿があった。
「松江で和菓子職人のスイス人に合うとは思わなかったね」洋子が言った。
「それがまた日本人より日本的で、すごく素敵だった。怜子とお似合いだわ」紗枝が答える。
「だって、怜子のおみくじ、あっという間に沈んだじゃない。しかも怜子の目の前で」敦子が付け加える。
「ええ、ええ、どうせ私のは沈みませんでしたよ」また洋子が拗ねてしまった。

 敷香は鮮やかなハンドルさばきで車を進めていく。だが広い道路に出てから徐々に車速が落ち、やがて信号待ちの列に取り込まれてしまった。松江の町は夕方のラッシュにかかり始めたようだ。さっきまで騒いでいた3人もウトウトしているようで静かになった。さすがに旅の疲れが出始めたかな。敷香はそんなことを思いながらふと視線を右に向けた。
 敷香の運転するレヴォーグの右側は右折車線でシルバーのベンツが並んで止まっている。運転席には濃いグレーのスーツをきっちりと着込んだ運転手が、生真面目な視線を前方に向けている。ベンツが僅かに車間を詰めたので後部座席が真横に並んだ。
 何気なく視線を右に向けていた敷香は目を疑った。後部座席には真珠色の長い髪の女性が優雅に座っていたのだ。向こうも驚いたのかこちらを見て、目を見開いた。なんとオッドアイだ。左側はサファイアの青、右目はルビーの深紅。敷香も多分大きく目を見開いたのだろう。2人は暫くの間見つめ合うことになった。
 信じられないことだった。自分と同じ白い髪とオッドアイを持つ女性に日本で、しかも一地方都市である松江で出会うなどということがあり得るのだろうか。しばらく見つめ合うと、女性は微かに不敵な笑みを浮かべてから視線を外し、向こう側に座っている金髪の大柄な男性の方へ顔を向けた。
 オートクルーズが前車の発進を告げた。敷香は慌てて視線を前方へ戻し、アクセルをそっと踏んだ。レヴォーグは車速を上げた。

つづく、のか?

2015.03.21
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

オリキャラオフ会2参加作品 696(パイロット国道)

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696(パイロット国道) 

「うわあ~!凄~い」ダンゴが歓声を上げた。美幌峠の天候は快晴に近い状態で、この時期には珍しく空気の透明度も高い。
 コトリはダンゴの横に立って、目の前に広がる広大な風景に黙って見とれていた。眼下には日本最大の屈斜路カルデラが広がり、その外輪山を吹き上がる涼風が、少し白髪が混じったおかっぱの髪を揺らしていく。
 カルデラとはスペイン語で鍋という意味だそうだが、鍋と言うにはあまりに広大だ。手前はこれも日本最大の火山湖である屈斜路湖、湖の中には火砕丘である中島が浮かんでいる。湖の向こうにはアトサヌプリが噴煙を上げ、さらにその向こうは摩周や知床の山々まで見渡すことができる。
 コトリはその風景から植物や人工物を取り除き、太古の昔、出来たばかりの頃の巨大なカルデラクレーターを想像していた。全ての生物を焼き尽くす大噴火のあとの大陥没、やがて外輪山の内側には水が溜まり、円形の大きな湖になった。それが太古の屈斜路湖だ。そして数万年が経過したのち、大きな湖の中でアトサヌプリが活動を始め、中島の噴火が起こる。そして美しい成層火山、摩周火山が育ち始めた。それらの活動で円形だった湖は現在の歪んだ形になった。さらに摩周火山は大噴火と共に崩壊して摩周湖となり、その活動の名残として摩周外輪山上にカムイヌプリ火山が成長した。同じ頃、摩周湖の底にも溶岩ドームが形成され、カムイシュができた。
 コトリはその太古の出来事に風景を重ね、時間を飛び越えた空想に浸っていた。

「あの・・・三厩さん?」ずっと黙ったまま風景を眺めているコトリのことが心配になったのか、ダンゴが声をかけてきた。
「コトリでいいよ」現世に戻ったコトリは少し頬を緩めて言った。
「あの・・・コトリさん?」
「だから“さん”もいらないって。もう何日一緒に旅をしていると思ってるの?」
「でも、私の勘違いで迷惑をかけちゃったし・・・それにやっぱり・・・」
「バイクのタンデムはお互い命を預け合ってるんだから、変に遠慮しなくってもいいって。何度も言わせないでくれる?」コトリの言葉はきつくなった。
「はい・・・」
「それにダンゴは、なるべくわたしの名前を呼ばないようにしてるでしょ?」
 ダンゴは『ばれてましたか』という表情をした。
「ちゃんと呼んでもらわないと上手く繋がれないよ」コトリはもう少し微笑んだ。
「うん、わかった・・・。コト・・・リ」ダンゴは少しぎこちなく言った。
「そうそう。よくできました。じゃぁ、もう一回練習で言ってみて」
「コトリ?」ダンゴは最初の呼びかけに戻って尋ねた。
「なに?」コトリはようやくそれに対して返事をした。
「ううん、コトリ、黙ってずっと見てるから、どうしたのかなって」
「この風景がどうやってできたのか、考えていたんだ。だってわたし達は今、屈斜路カルデラの大クレーターの淵に立っているんだよ。凄いことだなと思って」
「うん、果てしが無い程広大で、綺麗」ダンゴはコトリの言葉の真意が飲み込めない風だったが、とりあえず頷いた。
「そろそろバイクに戻ろう。早めに宿に入ってもいいし」コトリはそんなダンゴの様子をなんとなく理解しながら、展望台の丘を下り始めた。「は~い」ダンゴもコトリの後について丘を下る。

 バイクを止めた駐車場に近づくと、コトリのバイクの傍に2人の人影が見えた。コトリは少し用心しながら近づいた。バイクを覗き込んでいるのは西洋系の顔つきの2人の男性だ。1人はガッチリとした体格で、漆黒の髪をオールバックにしている。もう1人はウェーブのかかった茶色の髪の優男風。どちらもあまり身長は高くないが、どこかの民族衣装風の衣服を纏っている。
「コトリ、北海道で先住民族の首長会議でもあるのかな?」ダンゴが感想を口にする。
 それには答えず。『アイヌのカパラミプみたいだな』コトリはゆっくりと愛車に近づいていく。アイヌの民族衣装はコトリの警戒心をほんの少し弱くした。
「なにかご用でしょうか?」コトリは努めて冷静に声を出した。
 2人は驚いて顔を上げた。そして茶色のウェーブのかかった髪の男の方が「やあ!」とにこやかに笑いかけてきた。きりっとした眉と茶色の瞳が印象的だ。もう1人のオールバックの男は威厳のある顔をこちらに向けて無言で立っている。
「怪しい者ではないのです」茶色の髪の男は流暢な日本語でそう言ったが、コトリは無言で続きの説明を促した。
「私はマックス、そしてこちらはデュラン」マックスと名乗った男は後ろに立つオールバックの男を紹介した。「詳しく申し上げにくいが、私達はある事情があって、遠くからこの北海道にやって来たのです。私達が住んでいる土地と、ここは全く別の世界です。ですから私たちの言動が不審な物であっても大目に見ていただきたい。なにしろ私達にとって生まれて初めて目にするものばかりなのですから」マックスは大きなジェスチャーを加えながら説明した。
「やっぱり先住民族の首長会議?」コトリの耳元でダンゴが囁いた。
「そうかな?」そう言いながらコトリは昨日、網走の北にある能取岬の草原で、不思議な2人連れに出会ったことを思い出していた。

 1人は短い髪の背の高い少年で、もう1人はふわっとした明るい色の髪の少年だった。2人は灯台の方を向いて草原に並んで座り、もう遊び疲れたという感じで、ぼんやりと風景を眺めていた。
 コトリ達はバイクを道端に置いて徒歩で岬の方まで歩いてきていたが、あまりの風景の美しさに歩みを止めたところだった。
 邪魔をしないように2人の様子を眺めていると、ふわっとした髪の少年の横から、目玉の様な物が浮き上がってきた。
 それはまるで誰かに操られているように、ふわりふわりと彼らの周りを浮遊した。もう一人の短い髪の少年はそれを元の場所に戻そうと右往左往していたが、ダンゴが驚いて声をあげたのでこちらに気づいた。彼はあわてた様子で、ふわっとした髪の少年に何かを言うと、ボールはそれを合図のように元の場所に収まった。
 2人はナギとミツルと名乗り、暫くの時間を一緒に過ごしたが、さっきの目玉についてはついに質問することができなかった。
 この土地を訪れてから不思議な事が起こったり、不思議な人に出会ったりすることが多い、それに自分達がこの場所に来ていること自体が不思議なことだ。そう、きっと普通じゃないことが起こっているんだ。

「わかりました」コトリはまだ不信感を拭えていなかったが、とりあえず受け入れてみる事にした。
「わたしはコトリといいます。こちらはダンゴです」コトリは自分たちを紹介し、少しの笑顔を付けたした。
「コトリさんとダンゴさん、おお!美しいお名前だ」マックスは感嘆符を付けた。
「ただの“あだな”なんですけど、とりあえずそう呼んでください」コトリは呆れ顔だ。
「では、コトリ、これはどのような原理で動く乗り物なのですか?この土地では不思議な乗り物にたくさん出会う。特にこれは馬のようでもあるが、動物ではなくて機械のようだ。いったいどうやって動くのか確かめさせてもらっていたのです」マックスはそう言ってコトリのバイク、DUCATI696の方を示した。デュランと紹介された男は腕を組んで微かに頷く動作をした。
「これはモーターサイクルという乗り物です」コトリはDUCATI696に近づいた。「簡単に言うと、エンジンという回転力を作り出す装置を積んでいて、それで車輪を回して走るんです」
「エンジン?」デュランが初めて口をきいた。見かけどおりの威厳のある声だ。意志の強さを感じさせる太い眉に切れ長の黒い目がコトリを見つめてくる。
「はい。動かしてみましょうか」コトリはキーを取り出すとイグニッションを回した。セルモーターの回る音に続いて、腹に響くエンジン音が響いた。
「おお!」2人の大の男が2歩3歩と後ずさりをした。そして興味深げにまた近寄ってくる。コトリは悪戯っぽい笑顔になるとアクセルを煽った。轟くエンジン音に、男たちは再び後ずさりして身構える。
「大丈夫ですよ。これで力を調整しているんです」コトリは何度かエンジンの回転数を上げて見せてから止めた。
「凄い物だな。これが乗り物だというのなら、是非乗ってみたいものだ」デュランは好奇心に満ちた瞳でそう言った。「これまでは離れて見ているだけだったが、傍で見るといっそう興味深い」デュランはマックスを呼ぶと2人だけで短い会話を交わした。
「コトリ、ダンゴ、あなた方はこれからどちらへ向かわれるのですか」マックスが笑顔で問う。
「わたし達はこれから屈斜路湖へ下って宿へ入ります」コトリは短く答えた。
「どちらに宿を取っておられる?」デュランが質問する。
「丸木舟という小さな宿を予約しています」今度はダンゴが返事を返す。
「おお!」2人の男はクルリと後ろを向き、額を突き合わせて相談を始めた。「余の方から提案しよう」「いえ、私の方から柔らかく・・・」デュランの声は張りがあるので、相談の内容が漏れ聞こえてくる。
 やがてマックスがこちらを向いた。「コトリ、ダンゴ、実は私達もその丸木舟に宿泊しているのです」
「まじで?」ダンゴが思わず声を漏らした。
「そこでお願いがあるのですが」マックスの顔がさらににこやかになった。「もしご迷惑でなかったら、このデュランをそのモーターサイクルとやらに、乗せてやってもらいたいのです」
「でもこれは2人しか乗ることができません」コトリが口を挟んだ。
「私達2人はバスという大きな乗り物でここまで来ています。チケットも2枚あります。デュランを丸木舟まで乗せていただけるのなら、私がダンゴをバスで丸木舟までお連れします。間もなくバスの出発時刻が来ますから、すぐに宿で落ち合えます。何とかお願いできませんか?」
「よろしく頼む。どうしても乗ってみたいのだ」デュランも下げ慣れない様子で頭を下げている。
 コトリとダンゴは顔を見合わせてから、男達にクルリと背を向けて相談を始める。
「どうする?」コトリは困った表情で言った。
「私は構わないよ。マックスさん、優しそうだし、かっこいいし」ダンゴは大いに乗り気だ。
「そう・・・」暫くの間コトリは思案した。チラリと2人の男の方を振り返る。マックスとデュランは律儀にもう一度頭を下げた。
「わかりました。宿までお乗せしましょう」コトリは決断を下した。
「でも乗るには決まりがあって、ヘルメットを被らなければなりません。これです」とダンゴの被っていたイタリアンカラーのヘルメットをフォルダーから取り外した。「被れなければ乗れないので、この話は無かったことになります」
「そうか、決まり事なら止むをえん」デュランはヘルメットを受け取ると、ダンゴの助けを借りながら頭を押し込んだ。
「あれ?入っちゃったね」すこし窮屈そうだが、ダンゴが驚くほどすんなりとデュランの頭は収まった。
「兜より軽いな」デュランはご満悦だ。アイヌの民族衣装にイタリアンカラーのヘルメットという奇妙な組み合わせが誕生した。
「じゃ、行きましょうか」コトリはデュランに声をかけバイクに跨りエンジンを始動した。
「よろしく頼む」デュランはダンゴの指示を受けながらタンデムシートに跨る。
「じゃ、宿で待ってる」コトリがダンゴに言う。
「うん、バスはすぐ出るみたいだからすぐに追いつくよ。気を付けて」ダンゴが答える。
「わたしの腰にしっかりとつかまってください」コトリはデュランに注意した。
「こうか」デュランはコトリの腰に手を回した。
「行きますよ」コトリはバイクを発進させた。
「おお!」鋭い加速にデュランが声を上げる。
 バイクはさらに加速しながら駐車場を出て、パイロット国道に入る。
 下り坂を利用して速度を上げる。充分にスピードが乗ったところで前方にヘアピンカーブが見えてくる。ギアを下げエンジンブレーキで減速する。そして安全な速度にまでフットブレーキで減速してからカーブに進入する。車体は右側に大きく傾き遠心力を相殺する。腰に回されたデュランの手に力が入る。
 コーナーの出口が見えた。コトリはアクセルを開け、加速に入った。デュランは置いて行かれまいと、一層しっかりと腕に力を込める。
 コトリは少し走ってから路肩にバイクを止めた。
「コーナーではわたしと同じように体を倒してください。そうでないと運転しづらいですから」
「わかった。同じように倒れ込めばいいのだな」
「じゃ、本気を出して行きますよ」
「本気・・・?」デュランが何か言いかけていたが、コトリは無視してバイクをフル加速させた。

 コトリは丸木舟の看板のところから道路を外れ、宿の玄関先にバイクを止めた。
「いかがでしたか?」サイドスタンドを立て、後ろを振り返ってタンデムシートのデュランに声をかける。
「ああ、驚きだった。馬どころではない、こんなに速く走れるとは想像もしていなかった。素晴らしい速さだ。それに爽快だ。馬とはまた違った趣がある」デュランは興奮しているのか一気にまくし立てた。まだ息も荒い。
「それはよかったです。では、そろそろ降りていただけますか?わたしも荷物を降ろして宿に入りたいので」
「おお、これは失礼した」デュランは慌ててバイクを降りた。
 コトリは貴重品のバッグを提げると宿に入っていき、チェックインを済ませてから、荷物を部屋まで運び上げた。デュランがやはり慣れない様子ではあったが手伝ってくれたので、思ったよりも早く部屋で落ち着くことができた。
 部屋から見える宿の裏手は屈斜路湖畔に続いているようだ。コトリは湖を見てみることにして、ふらりと部屋を出た。玄関を出ると建物を回り込み湖畔までほんの少しだ。夕方の屈斜路湖は夕日を受けて輝いている。湖の中には中島が浮かんでいたが、爆裂火口が見えていないせいで、ずっとおとなしい印象だ。コトリは波打ち際でその光景を眺めながら佇んでいた。
「邪魔をしてもよいか?」張りのある声がした。デュランだ。
 コトリは湖の方を向いたまま「ええ、かまいません」と言った。
「そちはモーターサイクルの名手なのだな」
「モーターサイクルは大好きですから、上手な方だとは思いますが、名手かどうかは分かりません」コトリは関心の無い様子で答えた。
「相当な腕前とお見受けした。あのモーターサイクルがそうやすやすと操れるとは思えん。あれをあのように操るには相当な習練と熟練が必要だろう。まるで力を持て余した暴れ馬をねじ伏せているようだった。」
「80馬力もあるからね・・・」コトリは80頭の暴れ馬を想像して小さく笑った。
「余・・・私も一度は運転してみたいものだ」デュランは本当にそう思っているようだ。
「国の試験を通った者でなければ運転できない規則なんです」
「そうか、国家の定めがあるのか」
 暫く2人の間を沈黙が支配した。
「そちは幾つになる・・・」デュランが沈黙を破った。
 コトリはため息をついた。「ここでは女性に対してそういう訊き方をする事は、とても失礼にあたるのです」
「すまぬ。私はこの土地の作法に疎いのだ。ただ訊きたいと思ったことをそのままに尋ねただけだ」
「29歳になります」コトリは質問に答えた。
「若く見えるな。私と同じ年だ。そちはもう結婚しているのか?」
「はい、去年結婚しました」
「そうか・・・」デュランの顔に微かに落胆の色が浮かんだが、それはほんの一瞬の出来事だった。
「そちの伴侶はこの旅行に一緒には来ぬのか?」
「彼は仕事の関係で、いま・・・遠い異国に居ます」
「寂しいのではないか?」
「そういうつもりではなかったんだけど・・・」コトリは顔を上げた。「寂しいからダンゴと2人、出かけてきたのかもしれないですね」
「ここでは女性も自由に行動できるのだな。この土地はすべてにおいて束縛が少ない。それが私の印象だ。コトリ、思った通りに行動できること、それは素晴らしい事なのかもしれぬぞ」デュランの言葉が重く響いた。

「コトリ~!」後ろから明るい声が聞こえてきた。コトリと呼ぶことに対するプレッシャーを感じさせない明るい声だ。
『ダンゴは順応が速い・・・』コトリはそう思いながら声のする方に振り向いた。
 楽しそうに笑いながら、ダンゴとマックスがこちらに向かってくるところだった。
 コトリとデュランは並んで2人を待った。

2015.07.24
彩洋さんと夕さん、そしてlimeさんに感謝をこめて・・・
 
 

オリキャラオフ会2参加作品 696(足寄国道)

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696(足寄国道)

 大気は冷たく、そして澄みきっている。深く息をするたびに肺の組織が再生されていく様な錯覚を覚えるくらいだ。
 コトリは湖畔に設けられたウッドデッキの上で何度か深呼吸をした。そしてそのまま真上を向いて、広がる青空にそっと祈りをささげた。ゆっくりと流れる幾つかの小さな雲以外は抜けるような青、その上にさらに青が重なる。
 コトリは宗教にほとんど関心を持っていない。だが、この祈りだけは息をするのと同じくらい自然な習慣になっている。
 祈りを終えて顔を下ろすと、ちょうどダンゴが視界に入った。さっきまで歓声を上げていたダンゴは、今度は静かに水面を覗き込んでいる。足元の湖水は不純物を含まない水晶の様に透明で、底に沈んでいるたくさんの倒木の様子までクッキリと透過する。
 広がる湖面は陽光を反射する木々の色を移し込んだように萌黄色に輝き、湖を囲む深い森は、美しい成層火山の阿寒富士、そして荒々しい山肌の雌阿寒岳の裾野にまで繋がっている。コトリはこの光景が現実であることを確かめるために、もう1度大きく深呼吸をした。

 昨日宿で知り合った4人が早朝に出発したので、コトリ達も予定より早く宿を出た。国道241号から240号へ入り、阿寒湖と雄阿寒岳にはあまり時間をかけないようにして、再び241号を西進、午前中の早い時間に森の中にひっそりと佇む湖、オンネトーを訪ねたところだった。

 ダンゴは黙り込んだまま、まだ水面を見つめている。コトリは少しの間迷ってから声をかけた。「ダンゴ・・・?」
 ダンゴは顔を向こうに向けてから「綺麗だね・・・」と言った。
 コトリにはそれが涙声に聞こえたので「どうかしたの?」と近づいた。
「ううん・・・」ダンゴは振り返って、何でも無いという風に顔を左右に振った。だが、ダンゴの目元は涙に濡れている。
「ダンゴ・・・どうしたの?」コトリが問いかける。
「コトリ、さっき空を見上げてたでしょ?私、ヤキダマさんからコトリの家族のことを聞いていたから・・・だから・・・」ダンゴは目の周りを袖口でふきながら言った。

 コトリはダンゴが初めてコンステレーションを訪れた時の様子を思い出していた。
「いらっしゃいませ」応対に出たコトリに、彼女は開口一番こう言った。「ケッチンにちょっかいを出さないでください」
 コトリは彼女が何を言っているのか意味が分からず、大きく目を見開いたまま立ちすくんだ。
 ダンゴは厳しい目つきでコトリのことを睨みつけていたが、やがて目に涙が浮かんできた。ダンゴはさっきのように、あふれた涙を袖口でふきながら「コトリさんですよね?」と、今更ながら相手を確認したのだ。
 その猪突猛進な態度にコトリは思わず笑いを漏らしてしまった。
“ケッチンをたぶらかす悪女”の汚名を晴らすためには、それ相応の時間が必要だった。それ以前に、ケッチンにガールフレンドがいること、それが今目の前にいる彼女らしいという事を理解するのにも時間が必要だった。だが、その前に見せたダンゴの一途さがほほえましかったし、その幼さも可愛かった。
 コトリは今またそれと同じものを見たような気がして「ありがとう」とダンゴの方を向いて微笑んだ。ダンゴは顔を左右に小さく振って向こうを向いてしまったが、コトリはかまわず続けた。
「ダンゴ、それでヤキダマはどこまでしゃべったの?」コトリの声はほんの少しきつくなっている。
 そしてコトリはヤキダマが、コトリの家族が全員事故で亡くなっていることや、たまに空を見上げるのはその家族のことを思っている時だ・・・など、ほとんどの事情を喋らされていることを知った。
「ヤキダマのお喋り・・・」コトリは小さな声でそう呟いた。

 コトリのDOCATI696は独特のエンジン音を響かせながら森の中を駆け抜ける。木々の間にはキタキツネやエゾシカが時折姿を現す。そのたびにダンゴが歓声を上げ、コトリが「はいはい」という感じで受け流す。やがてバイクは道道664号線から国道241号線へと戻った。足寄国道とも呼ばれている幹線道路だ。両側は同じように森に囲まれているが、やはり道幅も広い。コトリはスピードを上げた。北海道らしい直線を主体とした道路が続く。時折現れるコーナーも緩やかなもので、ほとんど減速することもなくコーナーをクリアして距離を稼いでいく。目的地は遙か先だ。午前中に池田より先へ進んでおきたい、コトリはそう算段を立てていた。
 幾つめかのコーナーを立ち上がろうとしたとき、前方に赤色灯が見えた。『やばっ!』コトリは慌てて減速する。次のコーナーの入り口にパトカーが停車しているのだ。警察官が止まれの合図をしている。コトリは速度を落としながら接近すると、すでに停車している車の横をすり抜けてから、バイクを路肩に停車させた。「事故のため通行止めにしています。暫くお待ちください」警察官が事情を説明してくれた。彼の向こうには1台の乗用車がひっくり返っているのが見える。消防車と救急車が止まっていて、大型のジャッキを使って作業中だ。
「挟まれたのかな?」ダンゴが訊いてくる。
「そうみたいだね。少し手間取るかも」コトリの言葉にダンゴはバイクを降りた。コトリもバイクを降り、2人並んで救出作業を見守った。
 暫くすると彼方から唸るような音が聞こえ始めた。
「なに?」ダンゴが森の上を見上げる。
「ローター音だ」コトリは予備知識があったのでその音の出所を言い当てた。
 やがて森の上空に白いボディーと赤のラインのヘリコプターが見え始めた。
「ドクターヘリだよ」コトリがダンゴに解説する。
「ドクターヘリ?」
「そう、お医者さんと看護士さんを乗せたヘリコプターなんだ。けが人を治療しながら大きな病院まで運ぶんだよ。緊急の患者さんには特に有効なの」
「すご~い!」ダンゴはローター音に負けないくらいの声で叫んだ。
 ドクターヘリは右側から回り込み、道路の上空で少しもふらつくことなくホバリングして警察官の合図を待ち、そしてスムーズに道路上に着陸した。
 ローターが回転を落としサイドのドアが開けられると、紺のユニホームに身を包んだ2人が飛び出してきた。1人の背中にはフライングドクターとある。2人は大きなバッグを持って事故車に近づいていく。すでに車体に挟まれていたドライバーの救出作業は終了していて、すぐに医師の治療が始まった。
 ローターが完全に停止すると、ヘリコプターの前部のドアが開き左右から機長と整備士が降りてきた。コトリは機長の方に注目していた。
 道路に降り立った機長は帽子を被っていたが、帽子から出ている髪の毛はやはり真っ白だ。背が高く、整備士の男性を若干見下ろすようにして、何か打ち合わせをしている。遠目ではあるが物腰にも見覚えがある。
「やっぱり敷香だ」コトリの声は大きくなった。
「知り合い?」ダンゴが訊いてくる。
「ちょっとね・・・」コトリは曖昧に答えると、目立たないように人垣の後ろに回った。敷香の邪魔になリたくなかったのだ。
 整備士との打ち合わせを終えた敷香はクルリと方向を変え、こちらに向けて歩き出した。どんどん近づいてくる。そしてコトリの前に立っている警察官と二言三言言葉を交わした。通行止めの段取りについて喋っているようだ。
 ふと上げた敷香の視線にコトリの視線が合わさる。
 左側がライトブルー、右側が焦げ茶、特徴ある敷香のオッドアイが一瞬静止した。だがそれはほんの一瞬のことだ。表情はそのままで小さく頷くと右手を軽く上げる。
 コトリもそれに答えて右手を少し上げて小さく振る・・・それだけだった。敷香はヘリコプターの方へ小走りで戻って行った。
 けが人はストレッチャーに横たえられ、ヘリコプター後方の開口部から機内へ収容された。医師と看護師がサイドドアから乗り込む。続いて敷香が乗り込むとローターが回転を始めた。最後に整備士が機体の周りを一周して外回りの確認をする。そして乗り込んだ。ローターのスピードが上がる。タービンの音がひときわ甲高くなった。
 機体がふわりと浮かび上がる。まだ着陸から15分程しか経過していない。敷香の操縦するドクターヘリは右に回り込みながらスムーズに高度をあげると、南東の空に向けて高速で消えて行った。
 パトカーや救急車が位置を変える。間もなく規制は解除されるようだ。コトリは横に立っているダンゴの様子がおかしいのに気が付いた。
「ダンゴ?」
 それに答えて顔を向けたダンゴの目元はまた涙で濡れている。
「どうしたの?」コトリは訊かずにはいられない。
「今の人、綺麗だったね。それに感動!こういうの、かっこいいなぁ!」ダンゴは興奮気味に言った。そして目の周りを袖口でふいた。
 コトリはポケットの中にあったタオルハンカチを出して、ダンゴの手に握らせるとバイクの方へ向かった。


2015.07.30
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

牧神達の午後

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牧神達の午後

 コトリの勤めるバイクショップ「コンステレーション」は、本来は仮想都市・カンデシティー郊外に存在する。しかし現実世界を舞台とする企画との整合性をとるため、この物語では神戸近郊の町を舞台として設定した。
 そのためこの物語に登場する「コンステレーション」は、神戸近郊のとある町の北の外れを東西に貫く3桁ナンバーの国道から、それをアンダーパスする産業道路へ下りていく側道に面して存在している。
 二階建ての古い建物の一階部分にあるその店は、大きなベニヤ板の手書きの看板を掲げた以外は何の装飾も無く、倉庫のような内装のままの店内に大型バイクばかりを並べた一風変わった作りだ。

 8月初旬のとある午後、抜けるように青い空からは刺すような日差しが降りそそぐ。空気はうだるように暑く、期待の夕立は今日もやって来そうに無い。店の中に人影は無く、前を走る国道の自動車のノイズだけが聞こえている。
 人間は恒常的なノイズをいつまでも意識の上に残すことができない。それはやがて意識の上で、静寂と同等に解釈されていく。
 その静寂の中、甲高いツーストロークエンジンの音が聞こえ始めた。ケッチンの運転する大型バイク、マッハⅢが国道を飛ばして来ているのだ。バイクは白煙の尾を引きながら国道を外れると、側道を下って歩道に乗り上げ、コンステレーションの前の駐車スペースに停車した。来客はこの場所にきちんと整列して駐車することになっている。白煙と爆音をまき散らしていた3本のマフラーはイグニッションオフと同時に沈黙した。ケッチンはヘルメットを脱ぐと、暑そうにライディングジャケットの前をはだけ、そのまま店内に入った。
 店内には国内4メーカーに混じってDUCATI、MOTO GUZZI、MV AGUSTAなど大型のバイクがずらりと並んでいる。ただし注文を受けた物以外はすべて中古品だ。かなり年式の古いものも混じっているが、これらのバイクはこの店のオーナーである親父が色々な伝(つて)を使って仕入れてきた逸品ばかりで、1台ずつ丁寧に整備して販売される。その状態の良さはビンテージバイクに乗りたいと思っているライダーの間で評判を呼び、その整備技術の高さに惹かれて新車を注文する者もあらわれ、常連客は徐々に増えていった。
 さらに付け加えれば、ここ数年メキメキと腕を上げてきた後継者が可愛い女性であったということも、それに一層の拍車をかけた。彼女はコトリというニックネームで呼ばれているが、その整備技術とライディングテクニックは“魔法使い”と呼ばれた親父をも凌駕する位置にまで高まりつつあった。
 ケッチンは辺りを見回した。店内には誰も居ない。
「親父さん!」ケッチンは声をかけた。
「おう!ケッチンか?すまんが、冷蔵庫からアイスコーヒーを出しといてくれ。今、手が離せないんだ」TOILETと書かれたプレートの付いたドアの内側から親父の大きな声が答えた。
 ケッチンは「はい」と答えると裏口のすぐ横にあるキッチンに入っていき、暫くしてアイスコーヒーを乗せたトレーを持って戻ってきた。そして一番奥にある大きなデーブルにセットされた長椅子に腰をかけた。
 アイスコーヒーにシロップとミルクを入れグラスに口を付けると同時に、ドアの開く音がして親父が顔を出した。小柄だがガッチリとした男だ。親父は長椅子に腰をかけると、何も入れないでアイスコーヒーのグラスに口を付けた。
「W1はどうした?最近、マッハばかりだな」親父はケッチンの2台の愛車の事を話題にした。
「コトリさんに見てもらってから、調子が良くなって乗りやすいんですよ。それにダンゴがね。マッハを贔屓にするもんだから・・・W1のことは気に入らないみたいなんです」
「ほう・・・。ダンゴはあの騒々しいじゃじゃ馬が御贔屓なのか?最初に店ににやって来たときは、どっちかっていうと、バイクに興味なんか無いように見えたが?」親父はダンゴが単身殴り込んできてコトリに突っかかった時のことを言っている。
「そうなんです。バイクに興味なんか持ってなかったんです。僕の話もつまらなそうに聞いていたし。でもコトリさんと仲良くするようになってから、ちょっと変わったかな」ケッチンはその時の詳しい顛末については分かっていない。いたって呑気にそう答えた。
 親父はケッチンの顔を見てニヤリとした。「真っすぐ走らない、曲がらない、止まらない、の3ないじゃじゃ馬だからな。コトリも難儀していたみたいだったぞ」
「そうでしょ。そこがまたいいんですよ」ケッチンが答える。
 親父の豪快な笑い声が響いたが、ケッチンはよく分からないまま愛想笑いを返した。
「ところでコトリさんから連絡はありますか?」ケッチンは思いついたように訊いた。
「おお、コトリ達は浦河で楽しくやってるみたいだぞ。お前の所には連絡は無いのか?」
「毎日ここまで走って無事、という連絡は来るんですけど。愛想が無くて・・・。もう少し詳しい状況を伝えてくれるといいんですけど」
「そうか。愛想がないか・・・」親父はまた少し頬を弛めた。「道北を回った後、知床で1泊、そして知床峠、羅臼、野付半島、摩周湖から美幌峠、そして屈斜路湖畔へ戻って1泊、それから1日で阿寒湖、オンネトーを回り、野塚トンネルを抜けて浦河まで行ったようだ。写真も送られてきているが、中学生の兄弟とか、婚前旅行中のカップルとか、奇妙な外国人の二人連れとか、面白い出会いもあったみたいだぞ」
「奇妙な外国人・・・ですか」ケッチンはそこに反応した。
「王様と伯爵だと言っていたぞ。写真を見せてやるよ」
「いえ!遠慮しておきます。かえって心配事が増えそうで・・・」ケッチンの声は弱々しい。
「ははは・・・、そうかそうか」親父はまた豪快に笑った。「だが浦河に着いたらもう安心だ。浦河では俺の知り合いが経営する牧場で泊めてもらうことになっているからな」
「知り合いって?」
「ずいぶん前だが、俺がツーリングで走り回っていた時に世話になった人で、相川長一郎という剛健で頑固な爺さんと、その頑固者を密かに尻に敷く相川奏重という婆さんだ。出会った時はまだ若かったんだが、俺も爺さんになったからな。お互い歳を取った」
「浦河では何を?」
「聞いてないのか?牧場の体験実習みたいなことをしているみたいだ。相川牧場は競走馬の飼育をやっているから、特別な体験ができるだろう」
「俺なんかすっかり置いてけぼりですよ・・・」ケッチンはついに弱音を吐いた。
「そうか、置いてけぼりか!」親父は実に楽しそうに笑った。「毎日仕事を終えてからは宴会なんだそうだ。相川の爺さんは蟒蛇だから酒好きをたくさん呼び寄せたようだな。鏡の爺さんも押しかけているしな」
「鏡の爺さん?」
「鏡一太郎といって京都の宮大工の大棟梁だ。この人もまたよく飲む」
「知り合いなんですか?」
「若いころ京都で一緒に飲む機会があってな。底なしだったなぁ。それ以来の付き合いだ。後で鏡の爺さんと相川の爺さんが親友だったというのが分かって、それにも驚いたがな。人間、妙なところで繋がっているもんだ」親父は遠い目をした。
「そんなだったら、親父さんも押しかけたらよかったじゃないですか」
「店を空けるわけにはいかんだろ?お前らも困るだろうし」
「それはそうですけど」
「ヤキダマが出張でアメリカへ出かけてしまって、コトリが寂しそうだったからな。相川牧場がワーキングホリデーって言うのか?それをやると聞いたんで、ちょっと焚き付けてみた訳だ。それにコトリは俺の孫みたいなもんだ。3人に俺の孫をお披露目しておこういう気持ちもあった。コトリがダンゴを誘ったのには驚いたが・・・」
「俺も驚きですよ。急にコトリさんとタンデムで北海道なんて」
「お前も誘われたんじゃないのか?」
「そんなはずないでしょ!あっさりとベンタをお願いね!って言われましたよ」ケッチンは情けない顔になった。
 親父はその様子を見てまたひとしきり笑った。「いいじゃないか。おかげで自分の気持ちに素直になれただろう?」
 ケッチンは複雑な笑顔を浮かべた。
 物憂げな午後、うだるような暑さはまだ収まる気配を見せなかった。
 
2015.08.12 
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

いつかまた・・・(オリキャラオフ会)

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 「オリキャラオフ会第2弾 in 北海道~また一緒に遊ぼうにゃ~!~」
は、無事に閉幕・・・って、ちょっと待ってください。
この作品を滑り込みでUPさせてください。
コトリは普段の生活に戻っています。ヤキダマは?ダンゴは?ついでにケッチンは?気になる方は読んでみてください。


いつかまた・・・

 ヤキダマは階段を降りて店の中を覗き込んだ。
 時間は朝8時、バイクショップ「コンステレーション」は、まだ店を開けていない。道路側のシャッターが降りているので店内は薄暗く、国道を走る車の音だけがさざ波のように聞こえている。店内を見渡したヤキダマは、ピットの窓から明かりが漏れているのに気が付いた。防音を兼ねたドアを開け、中に向かって声をかける。「おはよう」
 ピットに置かれた大型のバイクの向こうから人影が立ち上がった。
「あ!起こしちゃった?おはよう」髪を微かに揺らしてコトリが言った。あちこちに油のシミのついた白いTシャツとジーンズ、黒い髪にはいく筋かの白髪の帯が混じっている。ああ、コトリのところへ帰ってきてたんだ。ヤキダマはあらためて帰国したことを意識し、安心感が込み上げてくるのを感じた。
「このバイク、ちょっと急ぎの仕事だったから、どうしても組み上げを始めておきたかったんだ。でないと調整の時間が・・・」コトリの声はそこで止まった。ヤキダマがそっと抱擁したのだ。コトリは暫くの間じっとしていたが「駄目だよ。汚れちゃうよ」と言った。
 ヤキダマはコトリをそっと放した。そして「ごめんな。仕事中に」と照れ臭そうに笑った。
「ほら、パジャマ、こんなにシミが付いちゃったじゃない。洗濯しなくちゃ」コトリの声は少しきつくなったが、顔は笑っている。
「起きたのなら朝ご飯にしようか、手を洗ってくる」そう言うとコトリはピットを出て行った。
「ヤキダマ、パジャマを着替えて洗濯機に放り込んでおいて」店のキッチンからコトリの声が聞こえる。
 ヤキダマはまた幸せな気分になって「うん」と返事をしたが、そのままの格好で店のシャッターを開け、店内に光を入れた。国道を走る車の音が満ち潮のように流れ込んでくる。朝の気配で店内を満たしてから、店の真ん中に止めてあったDUCATI696とMOTOGUZZI254の2台の赤いバイクを店先に並べる。この2台のバイクを店先に並べるということが、コトリが在店しているという合図になっている。コトリが北海道にツーリングに出かけていた間はMOTOGUZZI254だけが店先に佇んでいたはずだし、バイクを使わずに出かけた時もどちらか片方が並べられる。常連客はそれを目安に店にやってくるのだ。
 ヤキダマは郵便受けから新聞を取ると、店の一番奥にある大きなテーブルの上に置いた。
「まだ着替えてないの?店はいいから、先に着替えてよ」コトリがキッチンから顔を出して声をかけた。
 ヤキダマは2階へ上がり着替えを済ませると、パジャマを洗濯機に放り込んだ。そしてまた階段を下り、店の奥にあるデーブルにセットされた木製の長椅子に腰をかけた。テーブルの上では保温プレートに乗せられたコーヒーサーバーがほのかに湯気を上げ、店内にはコーヒーの香りが漂い始めている。テーブルに置いた新聞を読もうと手を伸ばしたヤキダマは、テーブルの上にあった少し大きめの集合写真に目をやった。

いつかまた
このイラストの著作権はlimeさんにあります。

「それね・・・」朝食を載せたトレイを持ってキッチンから出てきたコトリが言った。さっきと同じシミのついた白いTシャツとジーンズという格好だが、洗濯した物に着替えている。「北海道の相川牧場で一緒にバイトしたメンバーなの」
「ふ~ん、でもこのコトリの隣に座っている人、凄いな。キンキラ金だ」
「そうでしょ」テーブルをセットしながらコトリの顔が思わずほころぶ。「デュランっていうんだ。どこかの国の王様だって、レオポルド II・フォン・グラウリンゲン」
「王様!?」
「そう、“王様とゆかいな仲間たち”みたいな雰囲気、よく出てるでしょ?宴会の後で撮ったんだけど、王様『コトリは余の隣に座るのだ』って、うるさかったの。696にも乗せてあげたんだよ」
「王様とタンデム?」ヤキダマの顔は苦笑いになった。
「そう、凄いでしょ?」コトリは少し自慢げだ。「その右隣の茶色の髪の人はブルーフルーウー伯爵マクシミリアン、マックスっていうの」
「王様や伯爵って、いったいどこの国の?」
「そういうのは訊いちゃいけない雰囲気だった。とにかくそうだったの」
「へぇ・・・」ヤキダマは呆れたような声を出したが、コトリの真剣な眼差しを見て、素直に信じた方が得策だと悟った。
「そういう意味では一番後ろの列の3人もかなり変わっているでしょ?」
「この3人かな?」ヤキダマは3人に見当をつけた。
「そう、左から詩人さん、シスカと同じ白い髪だね。そしてリーザさん、レイモンドさん、なんとこの人シスカと同じオッドアイだったんだ。不思議でしょ?何だか縁を感じるよね。どう見ても異世界からやって来たような雰囲気だったんだけど、それも追及してはいけないの。でもとても楽しい人たちだったよ。3人でやってくださる芸も面白かったし。あれで稼ぎながら旅を続けてるんだと思う。でもその3人の中でもリーザさん、“戦士”なんだそうだけど、わたしはその強さにすごく惹かれたな」
「戦士?!」ヤキダマはそれについても追及を止めた。
「レイモンドさんの胸のところについているペンダント、人工知能を利用した自動翻訳機なんだよ。用語解説や観光案内までこなすみたいで、凄いハイテクだった」
 ヤキダマはそんな高性能な代物がこの世に登場しているという話は聞いたことが無かったが、それについても追及しないことにした。コトリはカップにコーヒーを入れるとミルクと砂糖を一杯入れてから一口飲んだ。ヤキダマはコーヒーだけを淹れたカップを口元に運んだ。朝食を始めてからもコトリのお喋りは止まらない。コトリにしては珍しい事だったが、コトリの声を聴くのは楽しい事だったので、ヤキダマはそのままにした。
「ダンゴの隣、一列目の左端は千絵さん、2列目左端の男性、正志さんとカップルなの。いつ告白するのかみんなでやきもきしていたんだけど、最終日の花火大会の日に正志さんが告白して、それを千絵さんがOKしたんだよ。感激だったなぁ」
「その告白シーン、コトリは見てたのか?」
「だってみんなが見ている前で告白したんだもの。全員で見てたよ」
「それは、凄いな。でもお似合いのカップルだな」
「そうでしょ」コトリは満足げにそういうと3列目左端の人物を指差した。「この人は、かじべたさん、大人数が生活するから応援に来てくださった方なんだけど、お台所の段取りがすごくいいんだ。あっという間に美味しい料理がどんどん出てくるの、きっと相川さん、凄く助かったと思うよ」
「それじゃ、“かじべた”じゃなくて“かじじょうず”さんだな」
「そう!確かにそうだよね」コトリは納得した。「それにね!この2列目右側の2人、ミツル君とナギ君っていう双子なんだけど、お母さんを亡くしているみたいだったんだ。それでカジベタさんがね、何となくこの子たちのお母さんみたいに接してくださっていて、見ていてとても素敵だった」
 ヤキダマはコトリの様子をじっと見ていたが、話題を変えた。「この目玉みたいのは?」
「あ、これ?フワフワ浮かぶ目玉なんだけど、ナギ君の手品なの。種は教えてもらえなかったけど・・・」
「ふうん」ヤキダマは短く返事をし、解説の続きを促した。
「2列目から行くね。こっちから真君、萌衣ちゃん、享志くん、高校生のトリオなんだけど、この3人も携帯電話を知らないみたいだったり、やっぱり不思議なんだ。この萌衣ちゃん、何となくハーマイオニーの雰囲気だったな。でも彼女、ハーマイオニーを知らなかったよ。変でしょ?」
「確かに」ヤキダマは相槌を打った。
「こっちの享志くんは級長らしくてこの3人のまとめ役かな、そして真君、彼もオッドアイだったんだ。しかも長一郎さんの亡くなったお孫さんにそっくりらしくて、それに名前も同じだし。親父さんの近況報告に長一郎さんのとこに行ったら、俺の孫だって紹介されてびっくりしたよ。やっぱり何か不思議な力が働いているような気がするでしょう?」
「不思議な事がたくさん起こったみたいだな」
「彼も随分混乱してた。自分そっくりの人が亡くなっているんだもの・・・。でもきっと大丈夫。うん」コトリは小さく頷いた。「長一郎さんと真さんとの三味線共演、本当に血が繋がっているみたいに息もぴったりだったし、踊っていただけますかって誘われたし・・・」
 ヤキダマは目を少し見開いてから、小さく頷いた。
「それで、3列目のこの人が鏡一太郎さん」気を取り直してコトリが続けた。
「あ、親父さんの飲み友達の、たしか京都の宮大工さん」
「そう、そして右隣がお孫さんの成太郎さん、盆踊りの太鼓、2人の息がぴったりで、迫力だったよ。その隣、右端が大学生の幸生さん、あまり話をする機会は無かったんだけど、この人も不思議な雰囲気の人だったなぁ。歌が物凄く上手で、甘くて高い声が素敵だった。いつかシスカとデュエットさせてみたいな」
「シスカさんは元気だったか?後で釧路に寄ったんだろう?」
「うん、元気だったよ。でもその話はまたあとで、伝言もあるし」
「で・・・?」ヤキダマは写真をチラリと見た。
「前にいる動物たちも参加メンバーなんだよ。とっても可愛かったんだけど、この猫、マコトっていう名前で、しかもまたまたオッドアイなんだ。真君と猫のマコト、おんなじ色のオッドアイなんだよ。これも不思議な偶然だよね」
「ふうん」ヤキダマは写真をチラリと見た。
「ふふ、気になる?」コトリの顔は少し悪戯っぽくなった。
「なにが?」
「右の端のこの子のこと」
「この子がどうかしたのか?」
「凄い美人でしょう?」
「確かに・・・そうだけど」ヤキダマは目を泳がせた。
「この子は綾乃ちゃん、ニューヨークのコロンビア大学で宇宙物理学の勉強中なんだって」
「へえ!それは凄いな」
「おまけにジャーナリズム・スクールにも通っていて、どちらも優秀な成績みたい。それに趣味で写真もやっていて、腕前もプロ級なの」
「まさにスーパーウーマンだな」ヤキダマは唸った。
「さらにこの美貌だものね。気になるでしょ?」コトリはヤキダマの顔を覗き込む。
「そりゃ、気にならないと言えば嘘になるけど・・・」ヤキダマの目はまた泳いでいる。
「ふふ・・・」コトリは小さく笑った。「ごめんなさい。本当はわたしがとても気になったの。未来へ向かって突き進む自分と、それとは違うもう1人の自分の狭間で迷っているようだったから」
「ふ~ん」
「でも彼女もきっと大丈夫。出発の朝の様子じゃ、問題点の整理はできていたと思う。解決はしていないと思うけど。でも彼女は強いよ」
「僕が仕事で缶詰になっていた間に、コトリはずいぶん興味深い体験をしていたんだな」
「いつかまた・・・」コトリが何か言おうとした時、甲高いツーストロークエンジンの音が聞こえ始めた。
「ん?」コトリが顔を上げる。
「ケッチンか?」ヤキダマもその音に気が付いた。
 その音の主は急速に接近し、側道を下って歩道に乗り上げると、コンステレーションの前の駐車スペースに停車した。爆音をまき散らしていたエンジンはイグニッションオフと同時に沈黙した。
「アメリカの話は今夜ゆっくり聞かせて」コトリが少し早口で言った。
 ヤキダマは笑顔で頷いてから、店の表に目をやった。
「おはようございま~す」ダンゴの元気な声がした。
「ダンゴが一緒なんだ」コトリがヤキダマの方を向いて嬉しそうに言った。
「少しは進展しているのかな?」ヤキダマが片目をつぶった。
「おはようございます」ダンゴの後ろからケッチンの声がする。「マッハを診てもらえますか?ちょっとかぶり気味なんで・・・」
「うわぁ!おいしそう」ダンゴが歓声を上げた。
「あ、朝食中?もう少し後の方がよかったですか?」ケッチンがテーブルを覗き込む。
「大丈夫。今、コーヒーを入れるね」コトリが立ち上がった。
「あ!コトリ。私も手伝います」ダンゴが後を追った。

2015.09.12
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
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頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
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