Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

(イラスト)月夜の晩には・・・

月夜の晩には・・・

「遅くなっちゃった」
いっぱい遊んだ帰り道、
思わぬ出会いに思わず笑顔が・・・(サキ)
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イラストについて。

 このへたくそなイラストは、ずいぶん前に友人の童話の挿絵として描いたものです。一応頼まれて書いたのですが、奇特な人もいるもんですね。“月夜の晩には・・・”というタイトルはその童話の書き出しです。

                  月夜の晩には・・・

 月夜に地面にできる影を題材にしたお話だったので、2人の影はクッキリと地面に落ちています。設定の関係で舞台は昭和です。サキが昭和を想像しながら書いていますので、突っ込みどころが幾つかありますが、あまり突っ込まないでください。童話の作者もおおらかな人だったので、そこらへんは大目に見てくれたのでしょう。まぁ世に出回ったわけでもないですし、すでに時効だと思っています。
 話の内容はもうよく覚えていないのですが、この2人は姉弟ではありません。TOM-Fさんのコメントにありましたように、少年と“憧れのお姉さん”の2人なんですね。別々に遊んでいて、帰り道で偶然出会ったという設定です。少年は1人で釣りをしていたのかもしれません。少女が持っているのはマリというか小さめのゴムボールです。この辺りが昭和のイメージ?なのかな。
 このイラストは実はトリミングされています。もう少し周囲があってその部分には若干怪しげなキャラクターが居たりします。そしてこのキャラクターには・・・そうです。影が無いのです。コメントで怖いイメージを持たれた方がいらっしゃったのは、そこの部分の影響がトリミング後の画面に残っているのかもしれません。
 でも、基本2人は今楽しく家路についています。お話はその陰の無いキャラクターが影を取り戻すところで終わっていた・・・かな?ちょっと曖昧です。

 サキのイラストや漫画はもう処分してしまって残っていません。このイラストは偶然友人のライブラリーの中から発見されたのです。
 もう日の目を見ることは無いと思っていましたのでびっくりしましたが、処分した時点から時間もたって、サキの気持ちも変化しています。これも何かの縁かな?と考えて・・・(実は小説のストーリーがうまく展開できないので苦し紛れに)発表してしまいました。
 また煮詰まったら友人のライブラリーを漁ってみるかもしれません。お目汚しになりますが、お付き合いいただけたら嬉しいです。
 では、また・・・。

山西 サキ
 
 

「シスカ」の“0 号試写”と呼ぶべきものが出てきました。

サキのマイドキュメントフォルダを漁っていたら「シスカ」の“0 号試写”と呼ぶべきものが出てきました。2011年の梅雨時期、ちょこちょこと執筆を続けていた時のメモが残っていた様です。作成日から推測して最も初期の頃のもので、現在公開しているものとだいぶ構成が違っています。懐かしくてつい読み進んでしまいましたが、まだまだ笑っちゃうような部分も有ったりします(ということは、少しは進歩したかな?)。少し段落を増やしたり、気が付いた誤字を直したりしています。稚拙な文章で少々読み辛いですが、サキが生まれて初めて書いた物語ですのでお許しください。「シスカ」はこの後、大幅にキャラクターや構成を見直し、推敲も重ね、全く別物のようになってしまっています。
多分この作品は先に見せるたに書いたものでしょうから、先の校正や推敲は受けていないはずです。生サキです。自分をさらけ出すようでちょっと怖いのですが、読んでいただけると嬉しいです。
あ、イラストは例の友人のライブラリーの中から発見されたものです。(実はあと数点見つかっています)物語とは繋がりませんが貼っておきます。(ですからサキ作です。そして恥ずかしいです)

P.S. ここに掲載したイラストについてコメントを書き込んでいただきましたので、ちょっと追加で説明させてください。このイラストの彼女、実はシスカではありません。シスカが生まれる前に漠然とストーリーを模索している頃、ヒロインのイメージとして描いた女性の1人なんです(当時はまだコミックを目指していました)。ですからオッドアイではないですし、髪もプラチナを強調して描いていません。でもシスカの元になったイメージの1つ・・・というのは間違いありません。


「シスカ」0 号試写

シスカは国境の方の丘を見ながらゆっくりと歩き始めていた。大きな赤黒い夕日がその丘の方向に灰色の空をバックにして沈んでいこうとしている。気温がぐんぐん下がり始めたので丘のほうから目を戻し、途中から急ぎ足になって、町に向かって歩いていく。早く戻らないと明度が落ちてしまう。暗くなったら下手を打つと命を落とす恐れがある。彼女は何もない平原の中の道を小走りになって急ぎ、真っ暗になる前にようやく町の入り口の門の前までたどり着いた。ここまで来ると町の窓々に灯る明かりでようやく足元が見えるようになり、小走りから急ぎ足になって門をくぐっていった。

     女性(冬)

町の中は仕事を終えた人々が大勢歩いていた。彼らはあまりの気温の低さに追いたれられるように、白い息を蒸気機関車みたいにまき上げながら、ほとんどは大きなアーケードに飲み込まれ、一部は自宅へ帰ってゆくところだった。
「シスカ、シスカじゃないか、何してるんだ!」ひげ面の男が声をかけてきた。「今日は夜勤明けの残業じゃなかったのか?」
「ちょっと町の外を散歩していたんだ。」シスカは何気なく答えたが、男は少し眉の間に皴を作り「まだ出歩いてるのか、命を落とすぞ。」と声を大きくした。「明日の搭乗に現れなかったら俺が迷惑するんだぞ。代わりのパイロットなんかそんなに簡単に捕まらないってことぐらいわかってんだろう。」
「ごめん、どうしても夕日が見たかったんだ。」シスカはそうしゃべりながら男の帽子を取り上げ、薄い髪をクシャッとかき回してから道の真ん中に放り投げた。
「何しやがるんだ。心配してやってるんだぞ。」男があわてて帽子を拾いに駆け出した隙に、シスカはダッシュした。振り返りながら「明日はちゃんと定時に出勤するよ。」と声をかけてからさらに速度を上げ3番街のほうへ向かってかけていった。
「やれやれ・・・・」男は帽子を拾うと、それまでと違って人波に逆らわずアーケードに飲み込まれ、「19番」と書かれた看板の下にある小さな扉を開けた。

店の中にはまだ客はおらず、「あら、ゴンドーさん久方ぶりですね。」と上背の大きな女主人が声をかけてきた。
「すぐに帰るつもりだったんだが、ちょっと気が変わった。何か軽く食べるものあるかな。それから発泡酒と・・・・」ゴンドーは店の中を見渡しながら言った。
「何かありました?奥さん待ってるんじゃないの?」女主人はササッと肴を何種類か皿に盛り付けてゴンドーの前に出しながら気遣わしげに尋ねた。
「シスカさ、また夕方町の外に出てたみたいだ。」ゴンドーは渋面で答えながらカウンターに腰掛けた。カウンターの正面には若い女が立っている。
「私がどうなったか忘れたわけでもないでしょうに・・・」その若い女は発泡酒の瓶の栓を抜きながら独り言のようにつぶやいた。
「だろ、お前さんがやられたときすぐ横にいて、もう二度と連れ出さないって大泣きに泣いていたんだ。ま、連れ出してはいないんだけどなぁ。」
若い女は黙って発泡酒をコップに注ぎゴンドーの前においた。ゴンドーはクウッと飲み干して、次を自分でコップに注ぎながら「ノブからも説教たれといてくれないか。相棒の俺の言うことでも聞きゃしないんだ。」と少し申し訳なさそうに続けた。ノブと呼ばれた女は、目だけで軽く頷くと奥の部屋へ入っていった。携帯電話をかけに行ったのだろう。ゴンドーは肴を口に運び、発泡酒を片付けると、増え始めた馴染みの客に軽く挨拶して「カーちゃん、帰るわ。」と女主人に声をかけて帰っていった。

2011年、梅雨の時期に執筆

2015.07.14

テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

ライブラリーの発掘

ようやく秋の気配が漂ってきました。
夜も涼しくなって過ごしやすくなっていますし、少しずつ夜長になって来ています。創作の秋がやって来たんですね。
ところがです。
サキの物語を書く速度が遅くなっています。というか、ほとんど書けていません。
色々なイベントが控えていて気もそぞろになっているのでしょうか?
サキはたくさんの創作中の作品を抱えていて、今は「新世界から」と「フォーマルハイト」をメインに書いているのですが、(放り出しているとも言う)、両方ともなんか書けていないんですよね。
ブログの更新も滞ってるので、覗いてくださる方もますます減ってきています。
そこで困ったときのライブラリー頼みということで、以前にサキが描いたイラストをご紹介しようと思います。下手くそなものですが、話題性ぐらいはあるだろう、ということで・・・。

前にも書きましたが、以前サキはイラストを描いていました。
いくら頑張っても気に入った物が書けないため今はやめてしまいましたが、友人に頼まれて物語にイラストを付けたこともあります。(今から考えるとその友人、とっても寛大な人だったんだなぁ、と思います)
たくさんあった作品はイラストを諦めた時に勢い余って処分してしまったのですが、後々あ~ぁ!ましなものだけでも残しておいたら良かったなぁ・・・と、後悔したりする事もありました。

ところがです。その友人のところにイラストが残っているのが見つかったんです。
これまでにその中から何点かを紹介させてもらってますが、今回はこれにしましょう。
「日曜日の教室」というタイトルなんですが、なぜそうなのかはよくわかりません。
お目汚しですが紹介させていただきます。

日曜日の教室
「日曜日の教室」

テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

アルテミス達の午後への前奏曲

 今夜UPするのは「絵夢シリーズ」の一編ですが少し変わり種です。
 というのは、このお話「絵夢シリーズ」の「アルテミス達の午後」としてすでにUPした作品の最終改稿前の作品なんです。
 でもストーリーとしては別におかしなところが有るわけでもなく、このお話だけで一応纏まっていますので、単独で読んでいただいても大丈夫です。
 発表直前になって、登場人物の一人に背負わせていた設定を取りやめて、全く別の物に変えてしまったために、このバージョンはお蔵入りになってしまいました。当時はこの設定で物語を書く事に踏ん切りがつかなかったんです。
 榛名というのがそのキャラで、ここでは女性として描かれていますが、本編「アルテミス達の午後」では男性として登場しています。背負わせていたものを下ろさせた時、女性である必要が無くなったんです。もう1人のキャラ、由布とカップルにしてもいいかも・・・なんてことも考えたんだと思います。
 現在はこのキャラ設定は“エス”が引き受けていて、「気まぐれプロット」の中では結構いろんな事情が書き込まれていますので、発表しちゃってもいいかな~と思うようになりました。サキが物語を作っていく過程が露わになってしまいますが、それも面白いかも・・・自己満足なんですけれどね。

 あ、そうそう。「アルテミス達の午後」の時に許可を得ていますので問題ないと判断していますが、この作品は八少女夕さんのところの例のあの方達とのコラボになっています。
 カテゴリーは「ライブラリー」にしました。今後もこんな日の目を見なかった作品をUPする事もあるかもしれませんから・・・。


アルテミス達の午後への前奏曲

 仕上がったファイルの保存の操作をしてから、グループウェアで業務終了をクリック、メッセージを送る。
 大きく椅子の背もたれに寄りかかって、手を頭の上で組んで伸びをしながら1・2・3と体を左右に曲げる。
 両の目を閉じて指で軽くマッサージする。
「ごくろうさま」のメッセージを確認すると、午後0時10分、今日は土曜日で午前中だけの勤務だ。
 儀式のようにそれらの一連の動作を行ってから彼女は立ちあがった。
 短くふわりとカットされた黒い髪、やせっぽちなボディ、少し白すぎるくらいの肌、丁度好い位置についているのにアンバランスに大きな目、その中にある猫のような大きな焦げ茶色の瞳、やや大きくて良く動く口、小さな丸い鼻、胴体に比べるとやや長く感じる手足そして指、それぞれに個性的なパーツは組み合わされると個性を打ち消し合い、どこにでもいそうな22歳の榛名という女性が出来上がる。
 そして榛名は在宅勤務が許可されている企業で働いていて、今仕事を終えたところだった。
 この部屋は以前兄が使っていた6畳の洋室で、兄のお下がりの大きな机が置かれていた。そこに会社から支給されたPC、机の後ろには接客用のテーブルと椅子を持ち込んで仕事をこなしている。友人を呼ぶために玄関から近い部屋がいいと兄が希望して使っていた部屋なので、ちょっとした接客もできてとても都合が良い。
 榛名は部屋を出ると廊下に漂う甘い香りにつられて台所のドアを少し開けて覗きこんだ。そして台所に立つ女性の背中に「母さん。何作ってんの?」と声をかけた。
「シフォンケーキを作ってるんよ」そう答える母親の背中に「わかった。がんばって!」と階段を上り始めた。
「なんや手伝ってくれるんやないの?」榛名は母親の声に「ごめん、ちょっと無理」と返事をして階段を上りきると自分の部屋へ入った。その部屋は4畳半の洋室で、小学校から使っている机とベッドが納まっていて、要するにプライベートルームということになる。仕事場と家庭を厳密に区別しておきたかった彼女は、就職して家を出た兄の部屋を仕事場として使いたいと両親に申し入れ、二部屋を確保したのだった。
 4畳半に入ると机に向かい、自分のPCの電源を入れOSの起動を待った。続けてエディターを立ち上げファイルを読み込み、キーボードに指を走らせ始めた。榛名は文章の打ち込みを続けながら横に置いた携帯端末を気にしていたが、やがてLEDがパターン化された点滅を繰り返すと、端末を開いて着信したメールの内容を確認した。短い返信を返すとPCを休止にして外出の用意を始めた。用意を整えると部屋を出て階段を降りた。
「母さんちょっと出かけてもいい?」
「えっ!どこへ?私はすぐには出れないよ」母親は驚いて振り返った。
「大丈夫だよ。駅前のコンビニで由布と待ち合わせ。それから一緒に三宮」
「由布ちゃんと?帰ってきてるの?」
「お正月ずっと向こうに居たから今休暇なんやって」
「だったらいいけど。でも、もうすぐシフォンケーキが焼けるよ?」
「明日おやつに食べる」
「そう?じゃあ……気を付けて行ってらっしゃい。ちゃんとこまめに連絡入れてね?」
「了解。うるさいくらい入れる」そう言って榛名は玄関を出ると、母親の見送りを受けながら駅前のコンビニへ向かった。振り返るとまだ心配そうにこっちを見ている。(心配性やなぁ)榛名はそう思いながら小さく溜息をつくと、曲がり角の所で手を振った。そして母親が手を降り返すのを確認してから角を曲がった。駅まではゆっくり歩いてもほんの5分ほどだ。
 駅前のコンビニに入り雑誌コーナーで適当な雑誌を眺めていると、大きなガラスの向こうに由布の姿が見えた。こっちを向いて手を振っている。榛名は雑誌を戻して店を出た。
「ハル、久しぶり!」由布は笑顔を見せて走り寄って来た。
「由布、元気そうやね。その顔は例の件が上手く行ってるということかな?」榛名が言うと「何が?」由布が少し怒った顔になった。
「色々と」まずかったかな?という顔で榛名が答える。
「ごめんね。色々と迷惑をかけたね。問題もあったんだけど何とかね」由布は、はにかみながら「でね。今日は会ってもらいたい人が居るんだ」と続けた。
「会うって?誰と?」榛名は驚きと疑念の混ざった声で答えた。
「ううん。違うよ。榛名と同じようにアドバイスをもらった友達に会ってもらおうと思って、女の子だよ。大学の同級生の」
「そうなんや」榛名の顔から力が抜けた。
「向こうにもハルのことは伝えてあるから。じゃ、行こうか?」
「ちょっと待って。母さんにメールを入れる」榛名は由布と落ち合えたこと、これから電車に乗ることを手短に発信した。
「いい?」由布に促されて改札に向かって歩き出すと、警報器が鳴り出した。マルーンの電車がカーブの向こうから顔を出したので、二人は急いでカードを出して改札を通った。

130206_阪急三宮

 三宮駅は大きな鉄骨で構成されたドームで覆われている。特急は、ドームにゆっくりと滑り込むとドアを開いた。2人はホームに降り立つと上に広がるドームを同時に見上げた。そして顔を見合わせるとクスクスと笑い合った。
「いつもそうするね。でもどうして上を見るの?」由布が言った。
「鉄骨とリベットがいい感じやから・・・」
「鉄骨萌えってこと?」由布が呆れた顔になった。
 2人はエスカレーターの左側を開けてステップに立つとコンコースへ下りて行った。
 改札を抜けた先にはライトグレーのコートをまとった髪の長い女性が立っている。由布は小さく手を振りながら近づくと榛名に彼女を紹介した。
「紹介するわ。彼女はエム」
 由布に紹介された女性は丁寧に頭を下げた。
「始めまして、エム・ヴィンデミアトリックスです」
「エム・ヴィンデミ……」
「ヴィンデミアトリックスです。言いにくいでしょ?エムでいいです。漢字で書くとPictureとDreamです」
「でもヴィンデミアトリックスてあの……」榛名は言い淀んだ。
「それを抜きで紹介したいんだ。ボクの友達として」由布が口を挟んで「この子が“例の”友達」と榛名を紹介してくれた。
「“例の友達”です」チラと笑みを浮かべて榛名は言った。「でも名字はレイノではなくてクロイソで名前は“友達”でもなくてハルナですけど、榛名は山の名前と同じ漢字です」
「黒磯さん?」絵夢は一瞬目を見開いて驚いた様子だったが「山ってあの榛名山?」と訊いた。
「ええ。父が付けたんですけどちょっと変わってるでしょ?」
「ううん。とってもいい名前だわ。由布だって山の名前でしょ?よろしくね黒磯さん」
「こちらこそよろしくお願いします」榛名は絵夢に顔をのぞき込まれて頬が熱くなるのを感じていた。
「お父様は山男なの?」絵夢が興味深げに尋ねた。
「わたしと由布の親父は両方とも山男で昔からの知り合いなんです。それで何や知らんけど2人とも山の名前が付いてるんです。僕らは親父同士の関係で、まあ幼なじみみたいなもんです」
「お父様は今でも山に登られる?」
「若い頃はずいぶん登ってたみたいですけど、今は全然。仕事が忙しいみたいで」
「そう」絵夢は思うところがあったのか少し間を置いて「お父様はどんな仕事をされてるの?」と訊いた。
「父は仕事の話を全然しないからよく分からないんですけど。財産とか資産とかの管理をする仕事をしてるって聞いてます」榛名は曖昧に答えた。
「でも絵夢さんはあの……」榛名はまだ少し遠慮しながら訊いた。
「ええ、隠すのはいやだから先に言っておくけど、確かに私はヴィンデミアトリックス家の者です。でも、それは抜きにして欲しいの。黒磯さん」
「あの、照れくさいのでハルでいいですよ」
「じゃあ、抜きにしてくれる?ハル」
「は、はい」榛名はそう答えてから絵夢がまだ見つめているのに気づき「うん、わかった。絵夢」と言い直した。絵夢は満足げに笑って「よろしくね!ハル」と言った。
 3人は暫く談笑を続けていたが少し遅い昼食を取るために歩き始めた。

「お嬢様!」「絵夢お嬢様!!」黒磯は玄関を入ると声をかけた。時計は午後3時をさしている。返事は無い。「お嬢様!」もう一度声をかけてから「上がらせていただきます」と入り込み、いつものように各部屋を手馴れた様子で確認していく。もちろんベランダに出て例のスペースも覗きこむ。
「逃げられたか……」黒磯はリビングに入ると丁寧に窓を閉め、携帯電話を取りだした。
「山本か?やはりいらっしゃらない。車はどうだ?あるのか?だったら、午後1時前に退社されているし、スケジュールはご存じだから、ここより本宅からアクセスし易い場所でピックアップの連絡があるだろう。連絡があり次第お迎えするから我々はとりあえず本宅に向かう。玄関へ車をまわせ」携帯を切るともう一度部屋を確認してから玄関を出る。ダブルロックをかける音が部屋に響いた。

130206_トアロード3

 神戸の町は東西に細長く延びている。南側は港が広がり、北側は六甲山が連なっている。東西に長く延びた町は、真ん中を鉄道がやはり東西に走っていてとても便利がよい。大阪と違って上る方向が北で、下る方向が南だから不案内な者にもわかりやすい。山が近くに見えたら坂を下ってどんどん進む、港が見えたら上る方向にどんどん進む、そうすれば必ずJRの高架に突き当たる。そして右か左に向かえば三宮か元町あるいは神戸の駅にたどり着く。
 3人はレストランを出て坂を下り始めていた。由布はお世話になったお礼にご馳走すると言い張った。普段はあまり主張することはないのだが今日は特別だ。それじゃぁ遠慮なくと2人が折れてくれて、少し高めのランチを済ませたところだった。
 少し歩けば大きな商店街に戻れるがその手前に人だかりが見えた。「何だろう?」由布が小走りに駆けていって人だかりを確認して戻ってきた。「何かパフォーマンスをやってるよ。面白そうだから見ていこうよ」パフォーマンスは4人のチームで演じているらしかったが、人垣から覗きこむとそのうちの2人が演奏を始めるところだった。正面に立つ三味線を持っている細身の男性とフルートを構えている黒い髪の美しい女性は日本人のようだったが、演技を終え横に控えている2人は金髪碧眼と茶色い巻髪の外国人の男だった。すぐに演奏が始まった。日本歌謡をメドレーにアレンジした曲で、楽器の組み合わせはとても面白く観客の目や耳を楽しませたが、その演奏は素晴らしいものだった。
 演奏が終わってもアンコールの拍手が鳴りやまない、今度は控えていた2人がボーカルで参加してアンコールに答えた。観客は拍手を惜しまず、そして前に置かれたフルートの箱に次々とコインを放り込んだので、結構な身入りになったようだった。榛名たちもコインを幾つか放り込んだが、絵夢はそのままフルートを吹いていた女性の所に近づいて行った。暫く笑顔で会話をかわしていたが、やがてフルートの女性は小さく頷くとソロで演奏を始めた。榛名と由布は近づきがたい雰囲気に気おされて、少し離れたところでそれを眺めている。立ち去り始めていた観客も動きを止めた。こういう場所ではやや不向きな曲だったがやはり響きはすばらしく、演奏が終わるとまた大きな拍手が巻き起こりコインが放り込まれた。
 絵夢は拍手をしながら近づいて話しかけ、他の3人もそれに加わって何やら談笑を始めた。暫くして会話を終えた絵夢は4人と軽く握手をして別れを告げ2人の所へ戻ってきた。
「何をしゃべってたの?」由布が訊いた。
「ちょっとね。フルートと三味線がとっても素晴らしかったから、どうしても話を聞いておきたくなったの。シランクスも素敵だったわ……」絵夢はまだ夢見ているような目つきだったが、やがて2人に目を戻すと「さぁ、お2人さん!そろそろ買い物に行かない?」と誘った。
 センター街に着くと、休憩を挟みながらぶらぶらと色々な店を冷やかしていった。
「ハルはあと何か買いたいものはあるの?」絵夢が尋ねてきた。
「そうやなぁ。めったに三宮なんか出てこれないからチョコレートを仕入れておきたいなぁ」榛名がそう言うと絵夢はちらりと由布を見てから「バレンタイン?」と訊いた。
 榛名は魔法にかかったように感じていた。3人で一緒に行動するうちに絵夢の人柄にどんどん引き込まれ、最初感じていた遠慮は何処へやら、いつの間にか自分の口から出るため口に度惑ってさえいた。
「ボクに気を遣う必要は無いよ。ボクだって買うよ。義理だって結構必要なんだ。水産研究所は男ばかりだし」由布が口を尖らせた。
「じゃあ。わたしも買おうかな?どこかお店の当てはあるの?」絵夢が言った。
 榛名は由布と顔を見合わせてから絵夢の方を向いて同時に首を横に振った。「いつも適当なブランドのものを特設会場で買ったりするだけだもの」由布が答えた。
「それなら、わたしが時々買っているお店があるからそこへ案内しようか?多分気に入ると思うんだけど」絵夢が提案した。
「うわぁ!どんな店やろう。絵夢が買う店やったら見てみたい」「ボクも」2人は喜んでその提案に乗ることにした。
「そう?だったらすぐそこだから。こっちよ」絵夢を先頭に3人はセンター街を離れ、山手へ向かって歩き始めた。

 黒磯の携帯が着信音を鳴らし始めた。
「はい、黒磯です」黒磯は発信元を確認してから簡潔に応答した。
『絵夢です』携帯からは明るい声が響いた。
「お嬢様。今何時だとお思いですか?約束の時間はとっくに過ぎておりますし、約束の場所にもいらっしゃらなかったですね?」
『ごめんなさい。ちょっと急用ができてしまって』少し困ったような声だがいつもの作戦だ。
「また急用ですか?いつものことですね。もう慣れっこになってしまいましたが?あらかじめお伝えいただくということはできないのですか?」
『あらかじめ伝えられないから急用と言うんじゃないかしら?それに伝えたら認めてくださる?』
「それは時と場合によります。いまどちらですか?」
『いま三宮の駅です。あと2分で電車が出発します。御影の駅で拾ってくださるかしら?それから準備しても十分に間に合うとわたしは思いますが』
「いつものことですから、もう準備は整っております。後はお嬢様がいらっしゃれば滞りなく進行できます。すぐに山本を駅へ迎えにやりますので、いつもの北のロータリーで待たせます」
『わかりました。よろしくお願いします。ところで……』絵夢は言い淀んだ。
「ところで、何ですか?」
『黒磯は若い頃は山男だったの?』からかうような口調だ。
「は?いきなり何ですか?」
『質問に答えてくださる?でないと新開地行きに乗り換えますよ』
「何をおっしゃっているんですか?意味がわかりませんが、確かに若い頃はあちこちの山に登っておりました。なぜ急にそんなことをお聞きになるのですか?」
『何となくよ。何となくそんな気がしたの。やっぱりそうだったんだ。あっ!電車が出る。乗ります』発車のメロディーが聞こえ始めて電話が切れた。
 黒磯は携帯を操作した。「黒磯だ。お嬢様から連絡があった。電車はいま三宮を出たところだ。御影駅の北のロータリーでお迎えしてくれ。急げ」

 黒磯は家路を急いでいた。無事お嬢様を送り出して今日の勤務は終了した。あとは山本に任せておけば万事滞りなく進むはずだ。
「ただいま」玄関を入って声をかけると「父さんお帰り、先に風呂に入るでしょ?夕食待ってるから早めにね!」榛名の声が返ってきた。
「待っててくれてるのか?」台所を覗くと連れ合いと娘が並んで台所に立っている。「たまには一緒に食べよ」榛名がこっちを振り返って笑った。
「すまないな。母さん着替えは?」
「寝室のいつもの棚。のんびり入ってもいいけど、あんまり長くならないようにお願い」
「わかってる。俺はそんなに長風呂じゃないぞ」黒磯は寝室に急いだ。

 風呂を上がった黒磯が席に着くと「いただきまーす」待ちかねた榛名が声を上げて食事が始まった。「今日は飲めるんよね?」黒磯が頷くと、榛名が缶ビールを開けて黒磯についでくれた。黒磯が「いただきます」とコップを空け食事を始めると、榛名は立ち上がり後ろの棚から紙袋を持ってきて、そこから小さな箱を出してきた。「父さんこれ、バレンタインデーのチョコレート。なかなか一緒に夕食食べられないから、ちょっと早いけど今日渡しとく。いつもいろいろとありがとう」
「そうか。それはうれしいな。おぉ!榛名にしてはしゃれた箱だな」
「でしょ?友達に今日三宮でお店を教えてもらった」
「三宮?」黒磯は驚いて問い返してから連れ合いの顔を見た。
「由布と一緒にやで」あわてて榛名が付け足した。
「由布ちゃんと……そうか。ならよかった。楽しんできたか?」
「うん。すごく楽しかった。由布の友達も一緒でね。3人で食事をして、それから買い物。それから、これ!」榛名は紙袋からさっきのより少し小さい箱を出してきた。
「なんだ?」
「これは由布から」
「由布ちゃんから?」
「いつもお世話になってるからって」
「うれしいが、別にお世話はしてないけどな」黒磯は照れ笑いだ。
「そして、はいこれ」榛名は紙袋からもう1つ小さい箱を出してきた。
「まだあるのか?」
「こっちはその由布の友達から……ついでにって言うてた」
「由布ちゃんの友達から?ついで?」
「絵夢っていう、髪の長いすごくきれいな子」
「絵夢!」黒磯は素っ頓狂な声を上げて飲もうとしていたビールでむせた。
「大丈夫?漢字だとPictureとDreamと書くんやって。すごい家系のお嬢様だよ」
「絵夢か……まいったな」黒磯は頭を掻きながら小さくつぶやくと、苦り切った顔で「その友達によろしく言っといてくれ」と言った。
 食事中、榛名は由布や絵夢の話を楽しげに続けた。黒磯はこんなに生き生きと話す榛名を久しぶりに見たような気がした。絵夢にかかわる人の表情が明るく変化するのを何度も見てきた黒磯は、榛名の中にもその変化を感じていた。まぁこれはいいことなんだろう、そう考えながら黒磯は食事を続けた。
「榛名!これから始めたら遅くなるから明日にしたら、体に触るよ」食事を終えた榛名が仕事部屋に向かおうとしたのを見て、連れ合いが我慢できずに声をかけた。
「そうだな。出かけたんだったらとりあえずゆっくりしろ。そして今日は早めに横になれ」黒磯が意見を合わせる。
「うん。ちょっと見ておこうと思ったんやけど。そうやな。じゃぁとりあえず歯磨きする」榛名は方向を変えた。
 洗面所へ向かう榛名を見送りながら、黒磯とその連れ合いは目を合わせた。
「なぜ榛名の話にお嬢様が出てくるんだ?」黒磯の小声の問いに連れ合いは「さあ。何ででしょうね?」と笑って答えた。
「それから父さん、これは私から」連れ合いから小さな箱が渡された。
「お、ありがとう」黒磯は照れくさそうに受け取った。
「父さん、食事が終わったら校正をお願い。できたから」榛名がドアから覗き込みながら声をかけてきた。
「例の話の32話か?」
「うん。父さんの校正が終わってからブログにアップする。それからプロットの相談にも乗って欲しい」
「わかった。見ておくよ。プロットは明日だな」
「お願い。じゃぁおやすみ」
「おやすみ」黒磯と連れ合いの挨拶が重なった。
 黒磯は、狐につままれたような面持ちで、4つ並んだ箱を見つめていた。
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
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