Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

プロローグ

  シスカ 
 シスカは国境の方の丘を眺めるのを止め、踵を返すとゆっくりと歩き始めた。大きな赤黒い夕日が、西側の丘の方向に濁った灰色の空をバックにして沈んでいこうとしていた。気温がぐんぐん下がり始めたので丘のほうからも目を戻し、途中から急ぎ足になって町に向かって歩いていった。

 *

 ヤマネ・ショウが自分の中にもう一つの人格を感じるようになったのは2カ月ほど前からだ。
 自分の記憶が途切れていたり、知っているはずの無い知識がいつの間にかあったり、消極的で恥ずかしがり屋の性格ゆえに非常に苦手としている歌を上手に歌っている夢を見たり(熱唱していたりするのはさらに驚きだ)機械をいじりまわしている夢を見たり……。
 夢は非常にリアルでその中の自分はあらゆる動作を軽々とこなすことができ、はつらつとしていてその身体能力は病弱な自分よりもかなりすぐれていた。
 精神障害かとも思ったがそれなりの人生でそんなに精神的重圧がかかったことなど思い浮かばない。医者に行くことも、友人に相談することも、まして両親に打ち明けることも怖くてできないまま時間ばかりが経過していった。
 今も授業の終わったチャイムが鳴ったのに気がつくまで記憶が飛んでいる。しかも几帳面な字体で授業のノートが取られている。
(僕の字じゃないし……)茫然として机の上のノートを見つめていると「元気ないね」と後ろから声がかかった。驚いて振り向くとクラスメートのシキシマが立っていた。
 黒い髪をショートにした黒い瞳を持ったかわいい系の顔立ちの女の子で、ショウにとって声をかける勇気のない分類の子だ。まあショウにとってはほとんどすべての人類が程度の差こそあれ声をかける勇気のない分類に含まれるのだが……。
 今まで話をしたことがなかったので(なんで僕なんかに声をかけてくるのかな)と思いながら「あっ。いや。」と返事はしたが、驚いてドキドキなのは丸わかりだ。
「どうしたの?もうみんな帰ったよ。当番済まして戻ってきたら1人でボーっと座ってるからびっくりしちゃった」
「え?みんな帰ったの?さっきチャイムが鳴ったのに」とショウが驚いて周りを見回すと本当にもう誰もいなかった。さっきのノートからまた飛んだらしい。
「だれも声をかけなかったの?チャイムが鳴ってからもう30分以上たってるよ。なんか最近おかしいね?具合悪いの?」
「うん。相当おかしいかもしれない」下を向きながら正直な気持ちを呟くと、シキシマは前の席の椅子を横に向け後ろ向けに座った。
「自分でもわかってるんだ。みんなも気持ち悪がってるよ。そのまま言うけど」シキシマはストレートな物言いをした。おとなしい印象だったのに、素はかなり積極的で押しが強くてストレートな感じだ。
「ごめん」こんなかわいい子に声をかけてもらうだけでもショウの心臓ははちきれそうだ。でもこの実直な態度に何となく頼りがいを感じてしまいショウは話し始めた。「あの。時々飛んでるんだよね。記憶が……」
「それって、何も覚えていないってこと?」シキシマが訊くとショウはうなずいた。
「飛んでるんだけどその間もちゃんと生きてるみたいなんだ。これ……」と机の上のノートを見せた。
 シキシマはノートを見たが意味が良く分からないようだった。「これって普通のノートだよね?」疑問符を含んで訊いてくる。
「でも、僕の字じゃない。ほら」ショウは自分の他のノートを広げてそばに置いた。机の上にあったノートの字は比較的小さめの几帳面な字だったが、横に並んだ他のノートにはあまり上手じゃない四角い字が並んでいた。
 シキシマは机の上のノートの他のページの字とも比較していたが「ふーん」と意味ありげに頷いた。
「わざと字体を変えて書いて私の注意を引こうとしてるとか?」シキシマは上目使いでショウを見た。
「そんなことしない!」ショウが激しく抗議すると「わかってる。悪かった。ごめん、ついね」シキシマは謝った。
 そして「ヤマネ君、私と始めてしゃべってるって思ってる?」と笑った。
「私何度かヤマネ君と音楽の話で意気投合してるんだよ。さっきの授業前の休み時間だってあなたと話をしていたんだよ」
「へっ?」ショウは驚いて声が裏返った。
「覚えてないんだ。面白かったよ。こんなに歌に詳しかったかなあって、U・B・Aの話とか……。で当番済ませて帰ってきたら全然違うでしょ。ボーっとして。どうしたのかと思って」シキシマはショウの目を見ながら話し続けた。
「でもそれってショウともう一人誰かが出てきてるって事だよね?」シキシマに訊かれて「そうかな?僕、そんなになるほど精神的プレッシャーなんかうけたことないんだけど……」ショウは見つめられるわ、自分が名前で呼ばれるわでまた舞い上がって鼓動が速くなった。
 シキシマは口元に指を添えてすこし考えていたが「それともショウが誰かの交代人格だったりして……私が休み時間に話したのが主人格かもね」と呟いた。
「なんで?」ショウはよくわからないまま否定したが、シキシマは大まじめだった。
「だって、何かで読んだんだけど交代人格もすごくリアルだって書いてあったから、それだったら主人格の世界に出現していない時も仮想世界で生きてるんじゃないかって思ったの。それに基本人格じゃないからプレッシャーも受けてないし……」
「やめてよ!それでなくても何か起こりそうなのに」
「ごめん。SFフェチのバカ女の戯言だから気にしないで」と言ったそばからシキシマは「でもほんとに何か起りそうだったら一番に言ってね」と、勝手な要求を付け加えた。
そして「とりあえず帰らない?もう遅くなってるよ」と話を終わりにした。

 教室を出て二人で歩いていると、ショウより小さなシキシマは、普通に歩くショウの後を少し大股で付いてきた。
「家はこっちだっけ?」ショウが訊くと「坂の上の交差点まではショウと同じだよ」と笑う。
 ショウは自分が今シキシマを独占している事に気づき、天にも昇る気持になった。
 ショウの気持ちなど全く意に介さないようにシキシマはずっと下を向いて考え事をしていたようだったが、ふと顔をあげてまた話しかけてきた。
「もしさあ。もしもだよ。ショウが交代人格だったとしてさ、人格的に統合するようなことがあったらこの世界は消えてしまうんだよね。私も消えてしまうことになるんだよね。ここは基本人格か主人格が作り上げた仮想世界ってことになるからね。そんなこと考えるとなんだか怖いよね」シキシマは考え考え話した。
「だけどここが基本人格か主人格の世界の情報で作り上げられているってことは、この世界のもののコピー元は必ず基本人格の世界にあるということにならない?」ここでまた振り向いたショウの目を覗き込んだ。
「もしショウが元の世界に復活したら私を探して!きっと私のコピー元が居る。それならショウの世界の中に残れるからさびしくないな。絶対だよ」
 ショウはほとんど理解できないままあっけにとられてシキシマを見つめていたが、なんとなくうなずいた。
「何の事だかわかってないな!変な女だと思ってるでしょう?まあいいや」シキシマは考えるのをやめたのか後ろに手を組んで、シキシマに合わせて少し速度を落としたショウに付いて坂を上った。
 3分の2ほど坂を登った時、シキシマはそのままショウに寄り添い、後ろに組んでいた手を解いてなんのためらいもなく手を繋いだ。
 顔から火を吹きそうになっているショウと繋がって坂を登り、交差点の横断歩道を渡ると「じゃあね!」シキシマは離した手を軽く挙げてあいさつして角を反対に曲がって帰って行った。
「うん。また」ショウは放心状態で制服姿のシキシマの後ろ姿を見つめていた。
 日々の生活はこの恋の始まりも含めて時の流れと共に順番に過ぎていき、そして続きもやって来るように思えた。

 しかし・・・・
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