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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

【2019オリキャラオフ会】参加作品の2回目発表です。

大海彩洋さんと、ちゃとら猫&マコト幹事で開催中の「【2019オリキャラオフ会】豪華客船の旅」の参加作品の2回目です。
offkai.png リンク : 2019オリキャラオフ会へのご案内

 時系列は、夕さんが発表された「豪華客船やりたい放題 - 5 -」の後に入ります。
 サキのところのキャラクターをシスカのヘリで送り込んで後は放置・・・のつもりだったのですが、なんとかこっちの方で纏まったので発表してしまいます。
 オフ会に参加されている皆さんのキャラクターをできるだけたくさん使いたかったのですが、ちゃんと読み込んでいないと上手く使えないんですよね。たとえチラリと登場するだけでも、どんな容姿で?などと考え始めるだけで上手く動かなくなってしまうんですよ。なかなか難しいものです。
 この作品では、夕さん所のおなじみのキャラクターに加えて、TOM-Fさんの所からお2人、大海彩洋さんの所からお1人、あ、1匹か・・・登場いただきました。サキが読み込んでいるキャラクターばかりですね。
 他にもチラ見せだけなら登場いただけたかもしれないのですが、今回は諸事情から(ようするにリサーチ不足です)断念しました。お許しください。ウゾさんの所の人形さんなんか、シスカと共演させてみたかったです・・・。
 もっと大勢の皆さんの作品を読むことが出来ればいいのですが、自分の作品も書きたいですし、読むことにも書くことにも時間がかかってしまうサキには、なかなか辛いものがあります。
 サーッと読んで内容が正確に理解できて、パパッと要領を得た感想やコメントが書けたらいいのになぁ・・・。

あ、よろしければリンクからどうぞ!

「シュレーディンガーのこねこたち 2」
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シュレーディンガーのこねこたち 2

 航海はすこぶる順調だった。
 全長700メートルにも及ぶ超大型客船には揺れなどという物は存在しない。
 自分が今船に乗っているなどという意識は、ともすれば消えてしまいそうになるほど快適だ。
 ミクは船内のカフェテリア「アキレスと亀」のホールの隅、仕切り板の陰に目立たないように立っていた。ホールは、エンタテイメントと食事を求める客でほぼ満席だ。
 今日のステージはミクにとって満足のいくものだった。快適な船旅でコンディションは万全だったし、素晴らしい伴奏と暖かい拍手や歓声はミクを高揚した気分にさせた。ステージを終えた後もミクの体幹は温度を下げようとはしなかった。

 ミクのあとは、女性ボーカルがステージを勤めている。
 少しハスキーな声が魅力的だ。
 濁りの成分を含んでいるのに透明で、伸びやかで、冷涼で・・・それでいて人間的な温かみが感じられる・・・不思議な歌声だった。
 彼女は自分をこの船まで運んだヘリコプターのパイロットで、たしかシスカといったはずだ。
 まさか歌手だったとは。 
 ミクは控え室へ戻るのも忘れて聞き入っていた。
 ミクの傍にはさっきまで伴奏してくれていたフルートの女とギターの男が並んで立っている。
「いいな」男が横に立つ女に日本語で言った。
「そうね。聞いた事のない歌手だけど、聞かせるわ」女が日本語で答えた。
「ヴィルも気持ちよさそうに弾いてるしな」男が言った。
 ミクのステージではこの2人と金髪のピアニスト3人で伴奏してくれたのだが、シスカにはそのピアニスト1人だけが付いている。なるほど、彼女が歌う素朴な曲にはそのシンプルな伴奏の方がマッチしている。ピアニストも、うっとりとした表情で演奏を続けている。
 傍に立つ日本人の2人と金髪のピアニストの彼は、もう1人手品を得意とする男を加えて4人でチームを組んでヨーロッパを大道芸でまわっている。演奏前の打ち合わせではそう紹介された。大道芸?ミクは訝ったが、ほとんど打ち合わせをする時間が無かったにも関わらず、彼らの伴奏は満足のいくものだった。彼らが一発で合わせてくれたのだ。なぜこの4人で組んだのか、なぜ大道芸なのか、なぜこの船で仕事をしているのか、いわくは色々ありそうだが、彼らは演奏家として一流だとミクは評価していた。
「エストレーラさん。あなたの感想は?」1曲目が終わったとき、突然女から日本語で尋ねられた。
「あ、ええ、素晴らしいと思います」突然のことで戸惑ったが、ミクは日本語で返答した。ミクの素性は知れているようだ。
「私は蝶子、こっちはヤス、まだ名乗ってなかったわね」ヤスと呼ばれた男が軽く頭を下げた。
「そうですね。私はミク・エストレーラ、ミクとよんでください」
「あなたのことは知っているわ。新星ディーヴァ現るって評判よ」
「そんな。それより蝶子さん。素敵な伴奏をありがとうございました」
「そういってくださると嬉しいわ。ミクさん」蝶子が微笑んだ。とても魅力的な微笑だった。
「今、シスカさんの伴奏をしているのがヴィル、私の夫よ」
「そうなんですか?素敵な旦那さんですね」
「まあね」蝶子は否定しなかった。
「そしてもう1人レネがいるんだけど・・・」蝶子は辺りを見渡す。
「4人でヨーロッパを大道芸でまわっているというのはお聞きしました。蝶子さん、ヤスさん、ヴィルさん、本当にすばらしい演奏家です」ミクは熱っぽく語った。そして「あ、レネさんは歌声しか聴いてないけれど、彼の歌声も素晴らしいですね」と付け加えた。
 2曲目が始まった。
 3人はホールの隅でシスカの歌声に耳を傾けた。

 シスカは5曲を歌い終えるとステージを終えた。
 湧き上がる拍手の中、深々と頭を下げると、そのプラチナブロンドが揺れる。
 お辞儀を終えて顔を上げるとライトブルーとブラウンのオッドアイが輝く。
 満足そうに微笑んで、ピアニストの方へ腕を差し伸べた。ヴィルは立ち上がって拍手を受ける。
 ビジュアル的にも歌姫の要素は充分だ。ミクは溜息をついた。溜息には嫉妬の成分が多分に含まれていた。

 シスカとヴィルがステージを降り、ホールが落ち着きを見せ始めた頃、次のステージが始まった。
 ホールスタッフ2人がキャスターに乗せた大きな箱をホールの真ん中、客たちの目の前に静々と運び入れた。箱は艶のある黒に塗られており、人が1人横たわって入れるほどの大きさはまるで棺おけのようだ。
 2人のスタッフはそのままホールから下がり、大きな箱だけがそこに残された。
 ほぼ満席の客たちは何が始まるのだろうと興味津々で覗き込む。
 と、箱が細かく振動し始めた。
 人々は固唾を呑んでその様子を見守っている。
 ホールが静まり返ると、微かに、そしてやがてはっきりと、カタカタ・・・という音まで聞こえてくる。
 突然箱の蓋が開いた。
 息を呑む雰囲気と同時に小さな悲鳴上がる。
 箱の中から男が体を起こしたのだ。
 男はそのまま足を曲げで箱の中で立ち上がると両手で箱の淵をつかみ、その反動を利用して箱から床の上に飛び降りた。
 優雅にお辞儀をする。
 一拍置いてから拍手の波がやってきた。
 男は真っ黒なパンツを履き、真っ白なシャツを着ている。サングラスをかけて演出しているが、その下の童顔は隠し切れていない。体格も線が細くどこか頼りなげだが、それとは裏腹にマジックには自信を持っているのか、動作は落ち着いていて、どことなく風格まで感じさせる。
 ミクはその勢いと雰囲気に圧倒されて見ていたが、よく考えてみればこの登場の仕方はマジックでもなんでもない。最初から箱の中に入っていればこれくらいのことは子供でも出来る。
 観衆もそれに気が付いたのか拍手はだんだん弱いものになり、雑談の声が辺りを包み始めた。
 男は優雅なお辞儀を終えるともったいぶって箱を閉じた。
 ゆっくりと見回し、観客の衆目を集めてから、指を3本頭の上に高く掲げる。
 やがてそれを2本にし、ゆっくりと1本にした。最後の指を下ろすと男は箱をポンと叩いた。
 箱の蓋がゆっくりと持ち上げられる。隙間から何かが動いているのが見える、もう少し開くと、どうやらそれは何か動物の耳のようだ。蓋と箱の隙間で動いている。やがてそれは蓋を大きく押し上げて姿を現した。
 幼い女の子の頭だった。金髪の巻き毛に一対の猫耳を付けている。ライトブルーのその瞳はオドオドと様子を伺っていたが、やがて立ち上がった。
 拍手が沸き起こり、それはすぐに歓声に取って代わった。
 もう1匹、いやもう1人立ち上がったのだ。続いてもう1人。少し遅れてもう1人。
 4人の少女が箱の中から現れた。4つ子のように4人とも金色の巻き毛、ライトブルーの瞳で、ふくよかな丸い顔をしている。4人とも同じフリフリの白いドレスを着て猫耳を付けている。そして最後にもう1人、いやもう1匹、本物の茶トラ猫まで飛び出してきた。
 ニャー、挨拶のつもりだろうか、右の前足を上げ観客を見渡しながら泣き声を上げた。
 拍手が大きくなった。割れんばかりの拍手とはこのことだろう。
 すっかり喰われちゃったな・・・ミクは傍に立つ蝶子と顔を見合わせながら、思い切り拍手を送った。ヤスは指笛も鳴らしている。
 そういえば、難解な物理学の思考実験にシュレーディンガーの猫というのがあった。確か箱の中に入れた猫の生死は箱を開けてそれを観察した瞬間に決定する・・・、そんな訳の分からない思考実験だった。きっとそれをモチーフにしたマジックなんだ。ミクはマジックの演出をそのように解釈した。
 男は拍手と歓声に答えたお辞儀を終えると、猫耳の少女を1人ずつ抱き上げ床の上に降ろした。そして4人に対して何事かを告げた。
 4人は各々ホール内を移動して適当な人物を箱の前までひっぱて来た。
 彼女たちに引っ張られて、それを拒否する客はいない。
 サングラスの男はホールの端までやってきて、暫く迷ってからミクと蝶子の手を取った。よろしいですか?声は出さないが男の顔がそう言っている。
 男は2人を黒い箱の前まで誘うと、少女たちが引っ張ってきた来た4人と一緒に黒い箱を検めるよう、仕草だけで指示をした。
「いいんですか?じゃぁ遠慮なく」ミクは蝶子と目を合わせると箱の周りを念入りに調べ始めた。他の4人もあちこちを触ったり叩いたりして確認している。呼ばれていない客まで立ち上がってあちこちを覗き込む。
 箱が載せられている台車は細いスチールパイプで出来ていて、箱の下に何かが隠されているような要素は全く無い。
 白っぽいキャミソールドレスを着た女性が大胆に箱を持ち上げて裏側を確かめていたが、何も発見できなかったようだ。
 箱の中も何も無い、ミクと蝶子も隅々まで触って確かめたが、蓋が蝶番で取り付けられている以外はただの箱だ。
 床も高級そうな木材の板張りで、何か仕掛けが有るような様子は見受けられない。青いワンピースに白いエプロンの少女が床にはいつくばっているが、やはりそこはただのホールの床だ。付き添いの男性が少女を立ち上がらせようと躍起になっている。
 天井はかなり上にあり、何かの仕掛けが出来るようにはとても思えない。数人が箱の上に手をかざして確認したが、何も発見することは出来なかった。
 箱の周りは客が座っているテーブルだ。台車に載った箱はその真ん中に空いたスペースに置かれていて、どの方向からも至近距離で丸見えだ。
 じゃぁ、いったいさっきの4人の少女と茶トラ猫はどこから登場したんだ?それが今検分に参加した6人を含めた観客全員の感想だった。

 マジシャンの男が立ち上がっている客に席に着くようにという意味のジェスチャーをした。あくまで口を利くつもりは無いようだ。
 謎が全く解けないまま観客達はすごすごと席に戻った。ミクと蝶子もホールの隅に戻ったが、どうやらヤスも検分に行っていたようだ。少し遅れてホールから戻ってきた。ヴィルともじゃもじゃ頭のレネ、それにシスカまで何事が起こったのかと控え室から出てきた。
「どういう仕掛けなんだ?」ヤスが尋ねたが、ミクも蝶子も首を傾げるばかりだ。
 マジシャンの男は、よろしいですか?というふうに頷きながら辺りをぐるりと見渡し、少し歪んでしまった箱の位置を元に戻した。そして、では始めます。というふうに大きくお辞儀をした。
 辺りを大きな拍手が包み込んだ。
 男は猫耳の少女を集めると1人ずつ抱き上げて箱の中に降ろした。4人は猫耳を可愛く揺らせてお辞儀をすると箱の中に順番に座っていった。男は茶トラ猫を捜したが、どこかへ行ってしまったようだ。男は諦めて箱の蓋に手をかけた。男が蓋をゆっくりと閉めていくに連れて、少女たちは箱の中に身を沈める。男は箱の蓋をぴたりと閉じた。
 ゆっくりと見回し、観客の衆目を集めてから、指を3本頭の上に高く掲げる。
 やがてそれを2本にし、ゆっくりと1本にした。最後の指を下ろすと男は箱をポンと叩いた。
 男が箱の蓋をゆっくりと持ち上げる。そして観客から見えるように箱を横に傾けた。
 誰も居ない。箱の中は空っぽだ。悲鳴のような歓声と、割れるような拍手がホールをいっぱいにした。
 男は何度目かのお辞儀をして歓声と拍手を受けた。
 ホールがやや落ち着きを取り戻すと、箱を元の位置に戻し、今度は自分が箱の中に座った。
 ゆっくりと見回し、三たび観客の衆目を集めてから、指を3本頭の上に高く掲げる。
 やがてそれを2本にし、ゆっくりと1本にした。
 最後の指を下ろすと男は箱の中に横たわりながら蓋を閉じた。
 ホールを静寂が支配する。
 観客がざわつき始めた頃、2人のホールスタッフが登場した。
 キャスターに載った箱の前後に立ち、箱をホールから片付けるべく動かし始めた。
「ジャストモ~~メント!」青いワンピースに白エプロンの少女が奇妙な英語で声をかけた。走り寄ろうとするが、付き添いの男に羽交い絞めにされている。
「待って」変わりに白っぽいキャミソールドレスを着た女性が箱に近づいた。「いいでしょ?」透明感のある声だが、有無を言わせぬ迫力がある。
 ホールスタッフは箱から少し離れた。
 キャミソールドレスの女性が蓋を開ける。
 誰も居ない。
 箱の中は空っぽだった。


2019.12.13
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2019 オリキャラのオフ会 豪華客船の旅の設定です

 offkai.png リンク : 2019オリキャラオフ会へのご案内

 いまさらですが参加作品「シュレーディンガーのこねこたち」に登場させたキャラクターの設定です。
 今回参加させていただいたサキのオリキャラは4名です。
 作品中にも紹介を入れておきましたが、あらためてサキの思い入れやキャラそれぞれの人となりを書いておこうと思います。

キタハラ・シスカ

 小説「シスカ」のヒロイン。
「シスカ」は仮想世界を舞台にしたSF系の長編小説。
 東域にある海洋国家イルマと西域と東域にまたがる巨大大陸国家べクレラの国境紛争に巻き込まれ、運命を翻弄された少女の物語。

 シスカは東域人の母と白系の父の間に生まれたハイブリッド。ほとんど白に近いプラチナブロンドの髪とオッドアイ(左はライトブルー右はこげ茶)を持つ女性。東域(東洋)的で端正な顔を持つが東域人種としては色白、170㎝を超える長身で細身。
 物語本編では20歳台前半だが、番外編では4歳くらいから30歳代になるまで描かれる。

 幼い頃、1人で戦場を彷徨っているところを保護された。容姿から国境の向こうべクレラ側の出身と思われたが、シスカという名前の他は何もかもが不明だった。劣悪な環境に置かれたとみられ、記憶の喪失、自分の中に別の人格を持ってしまうなど、心に深い傷を負っていた。
 終戦後はとある夫婦のもとへ引き取られ、問題を抱えながらも成長、義父がヘリコプターパイロットだったこともあって、ヘリコプターの整備士になる。 また、セミプロの歌手でもあり、「19番」という食堂で歌うこともある。憂いを含んだ美しい歌声のファンは多いが、今回の豪華客船のような多くの名士たちの前で歌うことは始めてかも。

 物語はシスカの記憶と人格の混乱の中からスタートする。シスカは仲間の助けを得ながら少しずつ落ち着きを取り戻すが、そんな中突然発生した海底油田の爆発事故が発生し、大量のオイルが海洋に流出する。シスカは義父と共にヘリコプター乗務員として事故処理チームと行動を共にすることになるが、事故処理関係者の誘拐、テロリストの犯行声明が出るなど、事態は思わぬ方向へ進み始め、それと共に彼女の出生の秘密が明らかになっていく。

「シスカ」はサキの処女作。このブログ「Debris circus」は、この作品を掲載するために作られた。
 そしてたった一つの完結した長編小説でもある。いつまでも更改が続くのでサキが無理やり完結させている。
 それゆえサキとしては展開・構成など気に入らない事がたくさんすぎるほどあって、満足な作品ではない(ま、すべての作品がそうなのだが)。
 リライトをずっと模索しているが、改悪になるような気がしていまだに手を付ける事ができていない。

シマ・アツコ

 小説「シスカ」の登場人物。
 シスカの専門学校時代の同級生。ひょんなことから潜水艇のコ・パイロットになった。シスカのルームメイトでもあり、同じアパートメントで共同生活をしている。
 これまでも海洋調査でシスカとチームを組んだことがあったが、「シスカ」の中でも油田事故処理でチームを組むことになった。明るく前向き、小柄でキュートな女性。幼馴染のサエと共に混乱するシスカを支える。

キャシー

 小説「シスカ」の登場人物。
 ヘリコプターの整備士。亜麻色の髪とライトブルーの瞳の超美人。
 作品中でも触れているが、シスカとコンビを組むまでには複雑な経緯がある。
 キャシーはシスカの夫の死を見取った人物であり、シスカと遠く離れて生活していた彼のパートナーでもあった。そのへんは番外編「オート・ローテーション」で語られることになる。

ミク・エストレーラ

 短編集「絵夢の素敵な日常」の登場人物。←ミクの登場シーンをまとめたページはこちら
「絵夢の素敵な日常」はヴィンデミアトリックス家のお嬢様、絵夢をヒロインにした短編シリーズ。
 TOM-Fさんのリクエストにお答えするために苦し紛れに捻り出した中学生女子だったが、八少女夕さんとのコラボを経てどんどん成長しアラサーになるまでが描かれた。大海彩洋さんとのコラボ作品まで存在する。
 一部に青緑色の髪を持つボーカリストと混同する向きもあるが全くの別人。ポルトガル人とのクオーターなので若干エキセントリックな部分はあるが、見かけは日本人然としている。
 職業はドイツを中心に活躍するオペラ歌手。一流を名乗るにはほど遠いが、食べていけるくらいには売れている。
 もともとは地方の名家のお嬢様だが父親が家督争いに敗れ行方不明に、母親も亡くなってしまい居場所を無くしてしまう。その後、絵夢の配慮と手引きでポルトガルの祖母のもとに引き取られ、現在の伴侶、ジョゼに出会う。現在もポルトガルのポルト(Pの町)在住。
 ジョゼは夕さんがコラボの中で作り出されたチョイキャラだったが、天邪鬼のサキが策をめぐらせ、6つも年下にもかかわらずミクと愛をはぐくみ結婚してしまう(夕さんもびっくり!)。彼は夕さんの小説「黄金の枷」でもヒロイン、マイアの幼馴染として登場している。マイアの妹、エレクトラともすったもんだがあった。
 幼い頃居場所を無くしていたミクは、帰る家や家族のことをとても大切にする。そんなミクをずっと見つめてきたジョゼは、ミクがオペラ関係の仕事で海外を飛びまわっている間、ポルトガルで家を守る役割を担っている。
 今回、ミクが豪華客船で仕事をしている間も、彼は健気に家を守っているはず。

 とりあえず彼女たちを謎の豪華客船ツアーの舞台へと送り込みました。
 今回はこれまでのように絡みまくることは難しい状況なので、今のところこれで様子見になっています。
 皆さんに絡んでいただけると嬉しいのですが・・・。
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シュレーディンガーのこねこたち

大海彩洋さんと、ちゃとら猫&マコト幹事で開催中の「【2019オリキャラオフ会】豪華客船の旅」の参加作品です。
offkai.png リンク : 2019オリキャラオフ会へのご案内

サキも参加させていただくことにしました。
作中でキャラクターの紹介と宣伝だけはさっさと済ませ、とりあえず参加メンバーをツアーに参加できる状態にまでは持って行きましたが、あとは放置になりそうです。どなたか絡んでいただけると、とっても嬉しいんだけれど・・・。
というわけで夕さんへお届けする予定だったピッタリ35000HIT規格作品は、またまた延期になっています。
ごめんなさい。


シュレーディンガーのこねこたち

 ヘリコプターが灰色の水蒸気から抜け出たとたん、わたしは息を呑んだ。
 眼下には大海原が広がっている。真っ青な、そう、こういう色を紺碧というのだろう。
 ヘリコプターが飛行を続けているからには周りに空気があるはずだが、まるでなにも存在しないかのように透明度が高い。海面にはうねりや無数の波頭までもがくっきりと見えている。
 さっきまでのたっぷりの水蒸気はいったいどこへ消えてしまったのだろう。その痕跡は今の風景の中に微塵も残っていない。何処かにきっぱりとした境界線があったのだ。そしてヘリコプターは何の予告も無く一瞬でそこを通過したのだ。
『まるで世界が生まれ変わったみたい』
 わたしは窓の外に視線を向けたままその光景に飲み込まれていた。

 招待状を受け取ったのは一週間ほど前のことだった。
 赤い蝋と複雑な印章で封印された封筒からはただならぬ雰囲気が漂っていた。恐る恐る開封してみると、それは豪華客船クルーズへの招待状だった。船内ではすべてのものが無償で提供されるので、身ひとつで参加してもらえばいい・・・という破格の条件が書かれていた。
 だが、わたしはそんな身分不相応なものに興味は無かったし、招待される覚えも無かった。だから何かの間違いか、怪しげな勧誘に違いないと考えてほったらかしにしていた。
 ところが、いつのまにかその豪華客船でのステージオファーが入り、何をどう考えたのかハンスがそれを快く、それもわたしに無断で受けてしまうに至って、ついに観念せざるを得なくなった。
 そして今、わたしは豪華客船までのフライトに身を任せている。

 ヘリコプターは3人の乗客を乗せていた。
 1人目はシマ・アツコ。機長とは旧知の間柄らしく親しそうに話していた。職業は潜水艇のパイロットだが、こげ茶色の瞳と肩までかかるストレートの黒い髪を持った小柄でキュートな女性だ。
 アツコの言によれば、豪華客船のイベントとして深海探求ツアーのようなプログラムが組み込まれているらしく、潜水艇とそのパイロットがオファーされた。だが潜水艇の運用にはバックアップする母船と、そのパートナーである補給船、そしてそれぞれを運用するスタッフが数十人は必要で、今回はその2隻とスタッフも潜水艇と一緒に借り上げられているらしい。
 いったいどれだけの金が動いているのだろう。わたしはこの金に糸目を付けないオファーに疑問と得体のしれないものを感じていた。
 2人目はカスガ・アヤノ。黒髪のショートカットが似合う、愛らしい女性だ。意志の強そうな大きな目と、ふっくらとした頬で、いくぶん幼く見えるが、20台前半だろうか。
 彼女とは随分長い時間を一緒に過ごしている。チューリッヒからのフライトで隣同士だったのだ。お互いが日本人だとわかると、機内で暇だったこともあっていろいろな事を話した。
 彼女の言によれば、彼女はロンビア大学ジャーナリズム・スクールの学生で、ジャーナリストの卵だということだった。卵といっても、彼女は同じコロンビア大学で天体物理学も学んでいるから、頭脳明晰な才女であることは間違いない。
 彼女が教えを受けているのは、CNNで看板ニュースキャスターをしているジョセフ・クロンカイトという人物だ。彼は社会問題を得意とする超硬派ジャーナリストで、わたしでも名前くらいは聞いたことがある。
 ジョセフの教育方針は、徹底した実践主義のスパルタ方式で、今回はジュネーブに派遣されて、ひどい目にあわされたと語っていた(嬉しそうだったけど・・・)。詳しくは語らなかったが、事件に巻き込まれてパスポートを盗まれてしまったらしい。再発行の手続きが終わるまでは身動きがとれない状態だったが、豪華客船で行われる深海探求ツアーについて取材する事を条件にパスポートの即時発給が行われたらしい。どのような事情で、どのような組織が、その強権を発動したのかは不明のままだったが、これまで追ってきた取材対象に関連する事柄だったので、真実に1歩でもちかづこうとそのオファーに乗ったという。無鉄砲というか何というか・・・。
 潜水艇は母船――マザー2という船名らしい――に収容されているから、アツコとアヤノは最初に立ち寄るマザー2までの同行ということになる。
 そして3人目はわたし、ミク・エストレーラ。ドイツを中心に活躍するオペラ歌手だ。一流を名乗るにはほど遠いが、食べていけるくらいには売れている。日本人だが、6つも年下のポルトガルの青年と結婚して、今はポルトガルに住んでいる。

シスカ?なにか問題?」副操縦士が機長に声をかけた。
 機内は思っていたより静かだったから聞こえたのだが、わたしは何事が起こったのかと顔を上げた。

作者の注釈 ①(通常、ヘリコプターの機内は騒音が大きく、会話に好ましい環境ではない。この作品でシスカが操縦している機体は物語の都合上、静粛性に優れた最新鋭の機種ということになっている)

 そう言えば機長はシスカという名前だった。東洋的な整った顔、それとのバランスを欠いたほとんど白に近いくらいの輝くプラチナブロンドの髪、左目が透き通るブルー、右目がダークブラウンのオッドアイ、スレンダーな長身、とにかく目立つ女性だ。
「いや・・・なんでもない」シスカは慌てて返事を返す。どうもわたしと同じように海面に見とれていたようだ。
「ちゃんと前を見てね」副操縦士の亜麻色の髪が揺れる。
「ちゃんと見てるよ。オートパイロットだし」ぶっきらぼうにシスカが答える。
「そうかしら」副操縦士はシスカの顔を覗き込む。透き通るようなブルーの瞳はシスカの左目と同じ色合いだった。
「マザー2こちらWE3030ご機嫌いかが?」母船に向けて副操縦士が通信を始めた。
「おう!キャシー。待っていたぞ。シスカは話せるか?」野太い声が返ってきた。どうやら副操縦士はキャシーというらしい。

作者の注釈 ②(副操縦士と呼ばれているキャシーは正確には整備士だ。パイロットの数が不足しているため、ヘリコプターはパイロットと整備士でコンビを組んで運用されることが多い。特に今回のような長距離のフライトでは1人での操縦はきつく、整備士の同乗は安全面からも必須だった。彼女はシスカより年上だったから、時々上から目線になるのが玉に瑕だったが、整備士としての腕は抜群だった。2人がコンビを組むまでには複雑な長い経緯(いきさつ)があったが、それはこの物語の本題ではない)

「何か用か?」シスカが短く返事を返す。男のような口のきき方だ。
「久しぶりの再会に、ずいぶんと冷たい言いぐさだな」野太い声は気安い様子で声をかける。
「余計なことは言わないだけだ。何か用があるなら早く済ませてくれ。こっちは手が離せないんだ」シスカは前を見つめたまま愛想が無い。
「ベテランがよく言うぜ。ちょっくら声が聞きたかっただけだ。ゆっくりと近況を語り合いたいところだが、こっちも時間が無い。また今度ゆっくりと顔を見せてくれ」
「そうさせてもらうよ」
「ところでアツコはそこに乗っているんだろうな?」
「ああ、いるよ。そちらへ降ろすお客はキリュウ・アツコとカスガ・アヤノの2名だ」シスカはチラリと後方のシートに目をやった。
「おお、聞いているぞ。女性記者が取材なんだってな。それはそれで楽しみにしているんだが、うちの会社から新規の依頼がある」
「というと?」
「うちのメンバーを1人豪華客船まで運んでほしいんだ。これはお宅の会社でも了承済みで、運賃もうちの会社から支払われる。なんなら確認してもらってもいい」
「どういうことだ?」
「じつは豪華客船クルーズにうちのクルーが招待されたんだ。本人は辞退したんだが、とても断り切れないルートからの依頼らしくてな、参加せざるを得ないんだ。ということで、彼女をその豪華客船まで運んでやってくれ」
「彼女?」
「そうだ、このプロジェクトに派遣される前、急にマザー2の厨房に欠員ができてな。緊急に雇っていた調理スタッフなんだが、どういうわけか彼女に招待が来たってわけだ。こっちとしても困るんだか、我々としては断るという選択肢は無いみたいだ」
「どんな人物なんだ?」シスカはわたしが抱いていた疑問を代弁するように言った。
タニグチ・ミホ、日本人だが、本人曰くイタリアンレストランを営むウルトラ地味な人だそうだ」
 どういう基準で選ばれているんだろう?わたしは自分のケースも含めて、何もかもが疑問でいっぱいだった。
「タニグチ・ミホ?」何か心当たりがあるのか、隣に座っていたアヤノが声を出した。
「とにかく準備を急がにゃならん。すぐに降りてくれ」
「了解。すぐに降りる。ビビって揺らさないでくれよ」シスカが軽口を叩いた。
「ばかやろう。じっとしててやるからとっとと降てこい!」野太い声はそう言ったが、2隻の船はかなりの速度で航行している。
 シスカはその航行速度に合わせて機体を滑らせながら、ゆっくりと船首にあるヘリポートへと近づいていき、少しもふらつくことなくそのまま一発で着船した。
 ローターが回転を落とし、キャシーがサイドドアを開けると、作業員と1人の女性が駆け寄ってきた。
「ミホさん!?」機体から降りたアヤノが叫んだ。
「アヤノちゃん!?」ミホと呼ばれた女性も驚いた様子だ。
 2人は短く近況と事情を話し合ったようだったが時間は限られていた。
 作業員に促されてミホが乗機し、アツコとアヤノが機体を離れるとすぐ、シスカはローターの回転を上げてそのまま離床した。
 ブリッジのデッキでこちらに向けて手を上げている武骨い男が見える。
 シスカとキャシーもそろって右手を上に挙げた。
 それが挨拶だった。機体はさらに高度を上げ方向を変えると、一直線に加速した。
 10分後、紺碧の洋上に巨大な白亜の船体が見え始めた。それは水平線の向こうから唐突に現れ、見る間にそそり立つ巨大な建物になった。その白亜の壁は無数の窓に覆われ、まるで時空を超えて蘇った幻の王宮のように見えた。
 広大な地域を恐怖で支配した永遠王が作った巨大王国、悠久の時の流れの中にようやく忘れ去られようとしていた恐怖の歴史、その中心だった幻の王宮が、今蘇ったのだ。
「でかい!!!」シスカが声を上げた。
「全長700メートルはある」キャシーが目測した。
 ヘリコプターは王宮に向かって降下を開始した。


2019.10.14
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物書きエスの気まぐれプロット(24)Breaking Silence

Breaking Silence

「汝は何のために存在すると思っているのだ」カタリ神祇官の声は大きくなった。
 神祇官の前には1人の少女が神妙な面持ちで立っている。少女と言っても、まもなく青年の域に達しようとしているように見えるから13・4歳くらいだろうか。
「生まれたばかりの汝を聖女ナルファイが抱いてこの門をくぐりてより、ここバンガイル教会付属神学校が汝の故郷であり、汝の進む道を示す標であったはず」神祇官の頭部は頭巾で覆われ、そこには二つの眼だけが冷たく光っているだけだ。言葉を発しても口元の布がわずかに揺れるだけで、その表情を読む事はできない。
「やはりその右の黒い虹彩は、汝が望まれし者ではなかったことを暗示していたのだ。汝がここへ召された時にそれに気づくべきであった。やはり両目とも聖なるブルーである必要があったのだ。いくら白い髪とブルーの虹彩を持っていても片方ではやはり不完全であった。一点の欠点もあってはならなかったのだ」神祇官はそこで言葉を一旦止めると、汚らわしいものに投げつけるように声を張った。
「汝は異端になりさがった。もはや祝福も望めぬと知れ!」
 少女は恐怖に身をすくめた。
「汝は罰を受けなければならない。破門の後、奈落に堕ちるだろう」
 少女は両手を胸の前で合わせたまま崩れるように床に膝を着いた。
「明朝処分を申し渡す。それまでこの塔を出ることは禁ずる。静かに沙汰を待つがよい」神祇官はクルリと背中を向けると重いドアの向こうに消えた。鍵の落ちる音が大きくホールに響き、少女は薄暗い塔の内部に1人残された。

 少女はそのままの格好を暫く続けていたが、やがてゆっくりと立ち上がった。ドアに近づいてノブを引いてみるが、ドアはピクリともしない。
 塔のホールは赤い超々ジュラミック煉瓦の壁に囲まれた直径20メートル程の円筒形の空間だった。空間は塔の上部に向けて続いていて、その壁から突き出した太い角材が塔の上部に向けて螺旋状に連なっている。角材を踏み段にして塔の上部に登れるようになっているのだ。塔は高さ300メートルはある巨大な物だから、螺旋状に続く踏み段は300メートル程の高さまで続いていることになる。だが下の方にしか照明が点いていないので上部は暗くて見えない。
 少女は壁に近づいた。螺旋状の踏み段は高さ4メートル程のところまで降りてきて、そこで途切れている。そこから下は、どこかで操作をすれば壁から角材が突きだして踏み段が繋がるようになっていて、普段は登ることができないようになっている。少女は階段の真下に立って手を上に伸ばしたが、踏み段までにはまだ相当な空間が残されている。壁を登ろうとしてみるが、掴まれるような手掛かりはない。少女は煉瓦の隙間に指をかけ、なんとか壁を登ろうとする。何度かそれを繰り返すが結果は同じだった。
 少女は反対側の壁に目をやった。そこには6人の偉大な使徒に囲まれた主が図案化されたタペストリーが掛かっている。一片が5メートルはある大きな物だ。少女は暫くの間それを見つめていたが、意を決したようにそれに近づき、少し飛び上がってその下の端を掴んだ。ぶら下がったまま壁を足で蹴る。何度もそれを繰り返すと、やがて大きな音と共にタペストリーは少女の上に落下した。大量の埃が舞い上がる。激しく咳き込みながら少女はタペストリーの下から這い出した。
 埃が治まるのを待って、それを棒状に丸く巻いて行く。巻き終わるとそれを持ち上げようと両手で抱え上げる。踏み段に立てかけようというのだ。だが予想以上にタペストリーは重い。息を切らして持ち上げたり引きずったりしてみるが、ほとんど動かすことは出来ない。何度も何度もそれを繰り返す。あらためてホールを見渡しても、他に使えそうな物は見当たらない。やがて少女は諦めたのか、タペストリーを少し広げるとその上に横になった。荒い息はやがて収まり、呼吸は穏やかなものになる。少女は不安そうな目で上空を見上げながら考える。左目が聖なるブルーだとしたら、この焦げ茶色の右目はなんだというのだろう。奈落とはどんなところなのだろう。少女は疲れ果てていた。意識は遠ざかり、静かな寝息が聞こえ始めた。

「おい!君」ホールに大きな声が響く。
 少女は驚いて目を開けた。慌てて体を起こし、あたりを見渡す。いよいよ奈落に落ちるときがやって来たのか、少女は無意識にカタリ神祇官の姿を探す。キョロキョロとあたりを見渡す少女に「こっちだよ」と声が降ってくる。
 塔の上から下ってくる螺旋状の踏み段の一番下に人影が見える。少女はようやくそれに気づき、その侵入者を見た。カタリ神祇官じゃない。もっとずっと若い少年だ。いや、ひょっとすると女の子?少女には判断がつかなかった。それくらい中性的に感じられる。歳は少女と同じくらいだろうか。
 このホールには入り口は1つしか無い。踏み段に座っているということは塔の頂上から降りてきたのだろうか。いや、それ以外に考えられない。いずれにしろ、まだ奈落に落とされる時間ではないようだ。少女は少しだけ落ち着きを取り戻した。
 少年は踏み段の一番下の段に腰掛け、足をブラブラと揺らしていた。「こっちに来いよ。顔を見せてよ」少年が言う。少女はホールを横切って踏み段の真下に立った。
「ふむ・・・」少年は少女の顔をじっと見つめる。
 少女もその顔をじっと見上げる。長く伸ばした真っ黒な髪は首の後ろで1つに束ねられ、鼻筋の通った端正な顔には茶色の虹彩を持った一対の目が聡明そうな光りを放っている。
 少年は暫くの間少女の顔を観察してから唇の端を少し上げ「その白い髪、焦げ茶色とブルーの目、やっぱり君はきれいだ」と言った。
 少女は始め何を言われているのか理解できなかったが、長い時間じっと見つめられると、やがてゆっくりと記憶が蘇る。遙かな過去の微かな記憶だ。少女はゆっくりと頬を染めた。
「気がついた?ヨウコという名前を出せばもっとはっきりする?」その様子を見て少年は言った。
 ヨウコ?そう言われれば少女にも名乗るべき名前があった。それは自分の通り名ではない全く別の名前だ。そしてこれまでその名を口に出したことはない。今こそそれを名乗るべきなのだろうか。少女は躊躇っていた。
「500年経ったということ?」少女は記憶にしたがってものを言う。
「さあね。そんなこと、誰にもわからないよ。それよりここを出よう。もうすぐ夜が明ける。そうしたら君にとってまずいことが起こるんだろう?」
「うん」少女は小さく頷いた。
「さあ」少年はロープを床まで垂らした。「それに体を結わえるんだ。早く」
 少女はそのロープを拾い上げると自分の胴回りに巻き付けた。そして両手でロープをしっかりと掴む。
「じゃあ、いくよ」そう声をかけてから少年はロープを引っ張り始める。少女は足で壁を支えながら踏み段の上に引き上げられた。
 躊躇いは消えていた。少女は少年としっかりと抱き合った。


「ふうん。この子、例のあの子なんだよね」モニターのテキストファイルを読んでいたコハクが顔を上げた。
「わかる?!わかる?!」エスが嬉しそうに繰り返す。
「そしてもう1人が500年後の約束のあの子?」
「そう、そうなんだ。よかった」エスは安堵の顔になった。「わかってもらえなかったらどうしようって心配してた」
「まぁ、読んだことのある人なら普通分かると思うけど」コハクは冷静だ。
「じゃぁ、読んだことのない人だったら?」エスはコハクの顔を覗きこむ。
「それは諦めてもらわないと。何のことだかわからないうちに終わってしまうと思う」コハクは極めて冷静に答える。
「だよね」エスは小さくため息をついた。「でも、しょうがないんだ。これはお題を受けて書いたSSだから」
「お題って、いつものキリ番イベント?」
「選択してもらったエスのオリキャラがこの子で、出してもらったお題が“思わず顔を赤らめちゃった事”だったんだ」
「へぇ!面白いね。あの子が顔を赤らめるなんてちょっと想像できない」コハクは少し口調を変えた。
「人ごとだと思って~。なかなかの難題だったんだよ」
「そうだね。でもこんなシチュエーション、考えもしなかった。エスも驚いたんじゃないの?」
「お題をもらった時はわくわくしたんだよ。でも、すぐに途方に暮れたの。正直」
「それで捻り出したのがこれ?」コハクは呆れ顔になった。
「そう!・・・彼女はこうでもしないと顔を赤らめないんだもの」
「よくやるよ。でも、これって別の物語の世界なんじゃない?町の名前も同じだし」
「そこまでははっきりさせなかったんだけど、意識的にはそう。この後300メートルあった塔は崩壊することになるんだ」
「エスは物語で遊びまくってるね」
「どうせなら、楽しく書かなくっちゃ。で、どう?」エスは我慢できなくなって、またコハクの顔を覗きこんだ。
「どうといわれてもねぇ・・・」コハクは軽く受け流す。
「え~っ!なにか意見を言ってよ」
「意見ねぇ・・・」コハクは目を細くしてエスを見た。
「もう!意地悪。今日のおやつは取り上げにするよ」
「どっちが意地悪なのよ」コハクは吹き出しそうになりながら答えた。

2016.06.13
2016.06.14 若干の追記と校正をおこないました。
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