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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 

【オリキャラ飲み会】こんなの飲んでる

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 八少女夕さん企画の【オリキャラ飲み会】に参戦してみることにして、左紀の作品からヒロイン級のキャラクターを集めてみました。
 サキにはお酒に関する蘊蓄の持ち合わせがほとんど無いので、深く掘り下げられないのですが、サキの脳内で彼女らはこんなお酒を飲んでいます。
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[シスカ]シスカ
 だいたいビール・・・作中では仮想世界であるため発泡酒という表記になっています・・・で喉を潤し、それから強い蒸留酒へと進みます。作中ではロックと書いていますからウィスキー(スコッチ?)かなぁ。彼女には北方民族の血が入っていますのでアルコールには強いです。ウォッカ系が似合いそうですが、透明なものより琥珀色の方を好みます。

[254]コトリ
 普段アルコールはあまり飲みませんが結構強いです。
 親父さんに付き合っていた関係で何でも飲みますが(焼酎や日本酒もOK)、ビールはちょっと苦手です。
 バイクショップはギリギリでやっていますので、ヤキダマの収入と合わせてもあまり余裕はなく、夕食時に2人で安いワインを開けることが多いです。必然的に乾杯はワインになりますが、ヤキダマはビールも飲みます。
 どなたか高級なワインを手土産に「コンステレーション」を訪れてやってください。喜びますよ。

[Eridanus(エリダヌス)]クウ
 まったく不明ですが、印象的にはスパークリングワイン?
 ガブガブ飲むことはなさそうに思うのですが、開栓したら一気に飲まないと・・・。

[アスタリスク]アルマク
 サキキャラの中で彼女が一番強く、飲んでも変わりません。
 ビールだと底無しで飲んで、それでも物足りなくなって強いお酒に進みます。
 お洒落な飲み方はしないので銘柄に拘りもありません。
 ま、パイロットですから、わきまえてはいますが・・・。
 相方のミラクは好きですがあまり強くないので、一緒に飲みに行ったらたいていアルマクに介抱してもらうことになります。
 テーマからは外れますがアルコール系デザートは「チョコレートリキュールアイスクリーム」が気になっています[アスタリスク(12)「チョコレートリキュール」]

[フォマルハウト]フォマルハウト
 生まれてから酒という物を飲んだことはないはずですが、この世界にきてからは飲んでいるのかも・・・。

[新世界から]ズイキ
 職業柄ほとんど飲みませんが、今は戦闘機乗りを引退しているので飲酒シーンがあるかもしれません。「新世界から Scene1 Habitat」

[新世界から]フワリ
 まだ未成年なので飲んではいけません。でも生活していた場所が場所だからなぁ・・・。「新世界から Scene2」

[物書きエスの気まぐれプロット]エス
 舐めるぐらいかな?夏場はビールで喉を潤し、ワインやハイボールなんかも・・・(どこが舐めるぐらいなの?)。

[物書きエスの気まぐれプロット]コハク
 そういえばどこかでスパークリングワイン“カバ”を飲んでいましたね。「コハクの街」

[絵夢の素敵な日常]絵夢
 絵夢の家、ヴィンデミアトリックス (Vindemiatrix) 家は、ラテン語で「ぶどうを摘む女」という意味らしいですから、世界中にワイナリーを幾つか持っています。高級な物を飲んでいるんだろうなぁ。でも作者の知識不足のため描写出来ていません。

[絵夢の素敵な日常]絵瑠
 白川性を名乗っていますが、絵夢の娘ですからもちろんワインを好みます。
 作中[PX125]ではお寿司に合うワインを飲んでいたりして、ワインには拘りもあるようです。

[絵夢の素敵な日常]ミク
 ジョゼに付き合ってポートワインを飲むこともありますが、ドウロワインなどのポルトガルワインのtintoがメインでしょうか。
 ドイツのアパートでは[それぞれのロンド]冷蔵庫にピルスナービールが入ってましたね。あのカオスの部屋、今はキチンと片付いています。
 酒蔵の娘[貿易風(alisios)]ですが、故あって日本酒はほとんど口にしません。


 どうもうちはワイン派が多いようですね。
 サキが日本酒があまり飲めないので、ワインへ流れる傾向になるんでしょう。
 日本酒にはとても興味を持っているんですけれど・・・。
 お酒はコーヒーやお茶、煙草などと共に嗜好品に分類され、Wikiによれば「栄養・エネルギー源を期待しない」「病気治療を期待しない」「生命維持に強い効果はない」とか「薬理学的な機序により習慣性を有し、物質嗜癖の対象となりうる」とか散々なのですが、物語に深みを持たせるには必須のものだと思います。
 ただしうちのキャラ、煙草は誰も吸いません。嗜好品として煙草が幅をきかせた時代もありましたし、まだまだ吸う人も多いので少し不自然な気もしますが、登場したことは無いはずです。
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テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

【2019オリキャラオフ会】参加作品の2回目発表です。

大海彩洋さんと、ちゃとら猫&マコト幹事で開催中の「【2019オリキャラオフ会】豪華客船の旅」の参加作品の2回目です。
offkai.png リンク : 2019オリキャラオフ会へのご案内

 時系列は、夕さんが発表された「豪華客船やりたい放題 - 5 -」の後に入ります。
 サキのところのキャラクターをシスカのヘリで送り込んで後は放置・・・のつもりだったのですが、なんとかこっちの方で纏まったので発表してしまいます。
 オフ会に参加されている皆さんのキャラクターをできるだけたくさん使いたかったのですが、ちゃんと読み込んでいないと上手く使えないんですよね。たとえチラリと登場するだけでも、どんな容姿で?などと考え始めるだけで上手く動かなくなってしまうんですよ。なかなか難しいものです。
 この作品では、夕さん所のおなじみのキャラクターに加えて、TOM-Fさんの所からお2人、大海彩洋さんの所からお1人、あ、1匹か・・・登場いただきました。サキが読み込んでいるキャラクターばかりですね。
 他にもチラ見せだけなら登場いただけたかもしれないのですが、今回は諸事情から(ようするにリサーチ不足です)断念しました。お許しください。ウゾさんの所の人形さんなんか、シスカと共演させてみたかったです・・・。
 もっと大勢の皆さんの作品を読むことが出来ればいいのですが、自分の作品も書きたいですし、読むことにも書くことにも時間がかかってしまうサキには、なかなか辛いものがあります。
 サーッと読んで内容が正確に理解できて、パパッと要領を得た感想やコメントが書けたらいいのになぁ・・・。

あ、よろしければリンクからどうぞ!

「シュレーディンガーのこねこたち 2」
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シュレーディンガーのこねこたち 2

 航海はすこぶる順調だった。
 全長700メートルにも及ぶ超大型客船には揺れなどという物は存在しない。
 自分が今船に乗っているなどという意識は、ともすれば消えてしまいそうになるほど快適だ。
 ミクは船内のカフェテリア「アキレスと亀」のホールの隅、仕切り板の陰に目立たないように立っていた。ホールは、エンタテイメントと食事を求める客でほぼ満席だ。
 今日のステージはミクにとって満足のいくものだった。快適な船旅でコンディションは万全だったし、素晴らしい伴奏と暖かい拍手や歓声はミクを高揚した気分にさせた。ステージを終えた後もミクの体幹は温度を下げようとはしなかった。

 ミクのあとは、女性ボーカルがステージを勤めている。
 少しハスキーな声が魅力的だ。
 濁りの成分を含んでいるのに透明で、伸びやかで、冷涼で・・・それでいて人間的な温かみが感じられる・・・不思議な歌声だった。
 彼女は自分をこの船まで運んだヘリコプターのパイロットで、たしかシスカといったはずだ。
 まさか歌手だったとは。 
 ミクは控え室へ戻るのも忘れて聞き入っていた。
 ミクの傍にはさっきまで伴奏してくれていたフルートの女とギターの男が並んで立っている。
「いいな」男が横に立つ女に日本語で言った。
「そうね。聞いた事のない歌手だけど、聞かせるわ」女が日本語で答えた。
「ヴィルも気持ちよさそうに弾いてるしな」男が言った。
 ミクのステージではこの2人と金髪のピアニスト3人で伴奏してくれたのだが、シスカにはそのピアニスト1人だけが付いている。なるほど、彼女が歌う素朴な曲にはそのシンプルな伴奏の方がマッチしている。ピアニストも、うっとりとした表情で演奏を続けている。
 傍に立つ日本人の2人と金髪のピアニストの彼は、もう1人手品を得意とする男を加えて4人でチームを組んでヨーロッパを大道芸でまわっている。演奏前の打ち合わせではそう紹介された。大道芸?ミクは訝ったが、ほとんど打ち合わせをする時間が無かったにも関わらず、彼らの伴奏は満足のいくものだった。彼らが一発で合わせてくれたのだ。なぜこの4人で組んだのか、なぜ大道芸なのか、なぜこの船で仕事をしているのか、いわくは色々ありそうだが、彼らは演奏家として一流だとミクは評価していた。
「エストレーラさん。あなたの感想は?」1曲目が終わったとき、突然女から日本語で尋ねられた。
「あ、ええ、素晴らしいと思います」突然のことで戸惑ったが、ミクは日本語で返答した。ミクの素性は知れているようだ。
「私は蝶子、こっちはヤス、まだ名乗ってなかったわね」ヤスと呼ばれた男が軽く頭を下げた。
「そうですね。私はミク・エストレーラ、ミクとよんでください」
「あなたのことは知っているわ。新星ディーヴァ現るって評判よ」
「そんな。それより蝶子さん。素敵な伴奏をありがとうございました」
「そういってくださると嬉しいわ。ミクさん」蝶子が微笑んだ。とても魅力的な微笑だった。
「今、シスカさんの伴奏をしているのがヴィル、私の夫よ」
「そうなんですか?素敵な旦那さんですね」
「まあね」蝶子は否定しなかった。
「そしてもう1人レネがいるんだけど・・・」蝶子は辺りを見渡す。
「4人でヨーロッパを大道芸でまわっているというのはお聞きしました。蝶子さん、ヤスさん、ヴィルさん、本当にすばらしい演奏家です」ミクは熱っぽく語った。そして「あ、レネさんは歌声しか聴いてないけれど、彼の歌声も素晴らしいですね」と付け加えた。
 2曲目が始まった。
 3人はホールの隅でシスカの歌声に耳を傾けた。

 シスカは5曲を歌い終えるとステージを終えた。
 湧き上がる拍手の中、深々と頭を下げると、そのプラチナブロンドが揺れる。
 お辞儀を終えて顔を上げるとライトブルーとブラウンのオッドアイが輝く。
 満足そうに微笑んで、ピアニストの方へ腕を差し伸べた。ヴィルは立ち上がって拍手を受ける。
 ビジュアル的にも歌姫の要素は充分だ。ミクは溜息をついた。溜息には嫉妬の成分が多分に含まれていた。

 シスカとヴィルがステージを降り、ホールが落ち着きを見せ始めた頃、次のステージが始まった。
 ホールスタッフ2人がキャスターに乗せた大きな箱をホールの真ん中、客たちの目の前に静々と運び入れた。箱は艶のある黒に塗られており、人が1人横たわって入れるほどの大きさはまるで棺おけのようだ。
 2人のスタッフはそのままホールから下がり、大きな箱だけがそこに残された。
 ほぼ満席の客たちは何が始まるのだろうと興味津々で覗き込む。
 と、箱が細かく振動し始めた。
 人々は固唾を呑んでその様子を見守っている。
 ホールが静まり返ると、微かに、そしてやがてはっきりと、カタカタ・・・という音まで聞こえてくる。
 突然箱の蓋が開いた。
 息を呑む雰囲気と同時に小さな悲鳴上がる。
 箱の中から男が体を起こしたのだ。
 男はそのまま足を曲げで箱の中で立ち上がると両手で箱の淵をつかみ、その反動を利用して箱から床の上に飛び降りた。
 優雅にお辞儀をする。
 一拍置いてから拍手の波がやってきた。
 男は真っ黒なパンツを履き、真っ白なシャツを着ている。サングラスをかけて演出しているが、その下の童顔は隠し切れていない。体格も線が細くどこか頼りなげだが、それとは裏腹にマジックには自信を持っているのか、動作は落ち着いていて、どことなく風格まで感じさせる。
 ミクはその勢いと雰囲気に圧倒されて見ていたが、よく考えてみればこの登場の仕方はマジックでもなんでもない。最初から箱の中に入っていればこれくらいのことは子供でも出来る。
 観衆もそれに気が付いたのか拍手はだんだん弱いものになり、雑談の声が辺りを包み始めた。
 男は優雅なお辞儀を終えるともったいぶって箱を閉じた。
 ゆっくりと見回し、観客の衆目を集めてから、指を3本頭の上に高く掲げる。
 やがてそれを2本にし、ゆっくりと1本にした。最後の指を下ろすと男は箱をポンと叩いた。
 箱の蓋がゆっくりと持ち上げられる。隙間から何かが動いているのが見える、もう少し開くと、どうやらそれは何か動物の耳のようだ。蓋と箱の隙間で動いている。やがてそれは蓋を大きく押し上げて姿を現した。
 幼い女の子の頭だった。金髪の巻き毛に一対の猫耳を付けている。ライトブルーのその瞳はオドオドと様子を伺っていたが、やがて立ち上がった。
 拍手が沸き起こり、それはすぐに歓声に取って代わった。
 もう1匹、いやもう1人立ち上がったのだ。続いてもう1人。少し遅れてもう1人。
 4人の少女が箱の中から現れた。4つ子のように4人とも金色の巻き毛、ライトブルーの瞳で、ふくよかな丸い顔をしている。4人とも同じフリフリの白いドレスを着て猫耳を付けている。そして最後にもう1人、いやもう1匹、本物の茶トラ猫まで飛び出してきた。
 ニャー、挨拶のつもりだろうか、右の前足を上げ観客を見渡しながら泣き声を上げた。
 拍手が大きくなった。割れんばかりの拍手とはこのことだろう。
 すっかり喰われちゃったな・・・ミクは傍に立つ蝶子と顔を見合わせながら、思い切り拍手を送った。ヤスは指笛も鳴らしている。
 そういえば、難解な物理学の思考実験にシュレーディンガーの猫というのがあった。確か箱の中に入れた猫の生死は箱を開けてそれを観察した瞬間に決定する・・・、そんな訳の分からない思考実験だった。きっとそれをモチーフにしたマジックなんだ。ミクはマジックの演出をそのように解釈した。
 男は拍手と歓声に答えたお辞儀を終えると、猫耳の少女を1人ずつ抱き上げ床の上に降ろした。そして4人に対して何事かを告げた。
 4人は各々ホール内を移動して適当な人物を箱の前までひっぱて来た。
 彼女たちに引っ張られて、それを拒否する客はいない。
 サングラスの男はホールの端までやってきて、暫く迷ってからミクと蝶子の手を取った。よろしいですか?声は出さないが男の顔がそう言っている。
 男は2人を黒い箱の前まで誘うと、少女たちが引っ張ってきた来た4人と一緒に黒い箱を検めるよう、仕草だけで指示をした。
「いいんですか?じゃぁ遠慮なく」ミクは蝶子と目を合わせると箱の周りを念入りに調べ始めた。他の4人もあちこちを触ったり叩いたりして確認している。呼ばれていない客まで立ち上がってあちこちを覗き込む。
 箱が載せられている台車は細いスチールパイプで出来ていて、箱の下に何かが隠されているような要素は全く無い。
 白っぽいキャミソールドレスを着た女性が大胆に箱を持ち上げて裏側を確かめていたが、何も発見できなかったようだ。
 箱の中も何も無い、ミクと蝶子も隅々まで触って確かめたが、蓋が蝶番で取り付けられている以外はただの箱だ。
 床も高級そうな木材の板張りで、何か仕掛けが有るような様子は見受けられない。青いワンピースに白いエプロンの少女が床にはいつくばっているが、やはりそこはただのホールの床だ。付き添いの男性が少女を立ち上がらせようと躍起になっている。
 天井はかなり上にあり、何かの仕掛けが出来るようにはとても思えない。数人が箱の上に手をかざして確認したが、何も発見することは出来なかった。
 箱の周りは客が座っているテーブルだ。台車に載った箱はその真ん中に空いたスペースに置かれていて、どの方向からも至近距離で丸見えだ。
 じゃぁ、いったいさっきの4人の少女と茶トラ猫はどこから登場したんだ?それが今検分に参加した6人を含めた観客全員の感想だった。

 マジシャンの男が立ち上がっている客に席に着くようにという意味のジェスチャーをした。あくまで口を利くつもりは無いようだ。
 謎が全く解けないまま観客達はすごすごと席に戻った。ミクと蝶子もホールの隅に戻ったが、どうやらヤスも検分に行っていたようだ。少し遅れてホールから戻ってきた。ヴィルともじゃもじゃ頭のレネ、それにシスカまで何事が起こったのかと控え室から出てきた。
「どういう仕掛けなんだ?」ヤスが尋ねたが、ミクも蝶子も首を傾げるばかりだ。
 マジシャンの男は、よろしいですか?というふうに頷きながら辺りをぐるりと見渡し、少し歪んでしまった箱の位置を元に戻した。そして、では始めます。というふうに大きくお辞儀をした。
 辺りを大きな拍手が包み込んだ。
 男は猫耳の少女を集めると1人ずつ抱き上げて箱の中に降ろした。4人は猫耳を可愛く揺らせてお辞儀をすると箱の中に順番に座っていった。男は茶トラ猫を捜したが、どこかへ行ってしまったようだ。男は諦めて箱の蓋に手をかけた。男が蓋をゆっくりと閉めていくに連れて、少女たちは箱の中に身を沈める。男は箱の蓋をぴたりと閉じた。
 ゆっくりと見回し、観客の衆目を集めてから、指を3本頭の上に高く掲げる。
 やがてそれを2本にし、ゆっくりと1本にした。最後の指を下ろすと男は箱をポンと叩いた。
 男が箱の蓋をゆっくりと持ち上げる。そして観客から見えるように箱を横に傾けた。
 誰も居ない。箱の中は空っぽだ。悲鳴のような歓声と、割れるような拍手がホールをいっぱいにした。
 男は何度目かのお辞儀をして歓声と拍手を受けた。
 ホールがやや落ち着きを取り戻すと、箱を元の位置に戻し、今度は自分が箱の中に座った。
 ゆっくりと見回し、三たび観客の衆目を集めてから、指を3本頭の上に高く掲げる。
 やがてそれを2本にし、ゆっくりと1本にした。
 最後の指を下ろすと男は箱の中に横たわりながら蓋を閉じた。
 ホールを静寂が支配する。
 観客がざわつき始めた頃、2人のホールスタッフが登場した。
 キャスターに載った箱の前後に立ち、箱をホールから片付けるべく動かし始めた。
「ジャストモ~~メント!」青いワンピースに白エプロンの少女が奇妙な英語で声をかけた。走り寄ろうとするが、付き添いの男に羽交い絞めにされている。
「待って」変わりに白っぽいキャミソールドレスを着た女性が箱に近づいた。「いいでしょ?」透明感のある声だが、有無を言わせぬ迫力がある。
 ホールスタッフは箱から少し離れた。
 キャミソールドレスの女性が蓋を開ける。
 誰も居ない。
 箱の中は空っぽだった。


2019.12.13
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シュレーディンガーのこねこたち

大海彩洋さんと、ちゃとら猫&マコト幹事で開催中の「【2019オリキャラオフ会】豪華客船の旅」の参加作品です。
offkai.png リンク : 2019オリキャラオフ会へのご案内

サキも参加させていただくことにしました。
作中でキャラクターの紹介と宣伝だけはさっさと済ませ、とりあえず参加メンバーをツアーに参加できる状態にまでは持って行きましたが、あとは放置になりそうです。どなたか絡んでいただけると、とっても嬉しいんだけれど・・・。
というわけで夕さんへお届けする予定だったピッタリ35000HIT規格作品は、またまた延期になっています。
ごめんなさい。


シュレーディンガーのこねこたち

 ヘリコプターが灰色の水蒸気から抜け出たとたん、わたしは息を呑んだ。
 眼下には大海原が広がっている。真っ青な、そう、こういう色を紺碧というのだろう。
 ヘリコプターが飛行を続けているからには周りに空気があるはずだが、まるでなにも存在しないかのように透明度が高い。海面にはうねりや無数の波頭までもがくっきりと見えている。
 さっきまでのたっぷりの水蒸気はいったいどこへ消えてしまったのだろう。その痕跡は今の風景の中に微塵も残っていない。何処かにきっぱりとした境界線があったのだ。そしてヘリコプターは何の予告も無く一瞬でそこを通過したのだ。
『まるで世界が生まれ変わったみたい』
 わたしは窓の外に視線を向けたままその光景に飲み込まれていた。

 招待状を受け取ったのは一週間ほど前のことだった。
 赤い蝋と複雑な印章で封印された封筒からはただならぬ雰囲気が漂っていた。恐る恐る開封してみると、それは豪華客船クルーズへの招待状だった。船内ではすべてのものが無償で提供されるので、身ひとつで参加してもらえばいい・・・という破格の条件が書かれていた。
 だが、わたしはそんな身分不相応なものに興味は無かったし、招待される覚えも無かった。だから何かの間違いか、怪しげな勧誘に違いないと考えてほったらかしにしていた。
 ところが、いつのまにかその豪華客船でのステージオファーが入り、何をどう考えたのかハンスがそれを快く、それもわたしに無断で受けてしまうに至って、ついに観念せざるを得なくなった。
 そして今、わたしは豪華客船までのフライトに身を任せている。

 ヘリコプターは3人の乗客を乗せていた。
 1人目はシマ・アツコ。機長とは旧知の間柄らしく親しそうに話していた。職業は潜水艇のパイロットだが、こげ茶色の瞳と肩までかかるストレートの黒い髪を持った小柄でキュートな女性だ。
 アツコの言によれば、豪華客船のイベントとして深海探求ツアーのようなプログラムが組み込まれているらしく、潜水艇とそのパイロットがオファーされた。だが潜水艇の運用にはバックアップする母船と、そのパートナーである補給船、そしてそれぞれを運用するスタッフが数十人は必要で、今回はその2隻とスタッフも潜水艇と一緒に借り上げられているらしい。
 いったいどれだけの金が動いているのだろう。わたしはこの金に糸目を付けないオファーに疑問と得体のしれないものを感じていた。
 2人目はカスガ・アヤノ。黒髪のショートカットが似合う、愛らしい女性だ。意志の強そうな大きな目と、ふっくらとした頬で、いくぶん幼く見えるが、20台前半だろうか。
 彼女とは随分長い時間を一緒に過ごしている。チューリッヒからのフライトで隣同士だったのだ。お互いが日本人だとわかると、機内で暇だったこともあっていろいろな事を話した。
 彼女の言によれば、彼女はロンビア大学ジャーナリズム・スクールの学生で、ジャーナリストの卵だということだった。卵といっても、彼女は同じコロンビア大学で天体物理学も学んでいるから、頭脳明晰な才女であることは間違いない。
 彼女が教えを受けているのは、CNNで看板ニュースキャスターをしているジョセフ・クロンカイトという人物だ。彼は社会問題を得意とする超硬派ジャーナリストで、わたしでも名前くらいは聞いたことがある。
 ジョセフの教育方針は、徹底した実践主義のスパルタ方式で、今回はジュネーブに派遣されて、ひどい目にあわされたと語っていた(嬉しそうだったけど・・・)。詳しくは語らなかったが、事件に巻き込まれてパスポートを盗まれてしまったらしい。再発行の手続きが終わるまでは身動きがとれない状態だったが、豪華客船で行われる深海探求ツアーについて取材する事を条件にパスポートの即時発給が行われたらしい。どのような事情で、どのような組織が、その強権を発動したのかは不明のままだったが、これまで追ってきた取材対象に関連する事柄だったので、真実に1歩でもちかづこうとそのオファーに乗ったという。無鉄砲というか何というか・・・。
 潜水艇は母船――マザー2という船名らしい――に収容されているから、アツコとアヤノは最初に立ち寄るマザー2までの同行ということになる。
 そして3人目はわたし、ミク・エストレーラ。ドイツを中心に活躍するオペラ歌手だ。一流を名乗るにはほど遠いが、食べていけるくらいには売れている。日本人だが、6つも年下のポルトガルの青年と結婚して、今はポルトガルに住んでいる。

シスカ?なにか問題?」副操縦士が機長に声をかけた。
 機内は思っていたより静かだったから聞こえたのだが、わたしは何事が起こったのかと顔を上げた。

作者の注釈 ①(通常、ヘリコプターの機内は騒音が大きく、会話に好ましい環境ではない。この作品でシスカが操縦している機体は物語の都合上、静粛性に優れた最新鋭の機種ということになっている)

 そう言えば機長はシスカという名前だった。東洋的な整った顔、それとのバランスを欠いたほとんど白に近いくらいの輝くプラチナブロンドの髪、左目が透き通るブルー、右目がダークブラウンのオッドアイ、スレンダーな長身、とにかく目立つ女性だ。
「いや・・・なんでもない」シスカは慌てて返事を返す。どうもわたしと同じように海面に見とれていたようだ。
「ちゃんと前を見てね」副操縦士の亜麻色の髪が揺れる。
「ちゃんと見てるよ。オートパイロットだし」ぶっきらぼうにシスカが答える。
「そうかしら」副操縦士はシスカの顔を覗き込む。透き通るようなブルーの瞳はシスカの左目と同じ色合いだった。
「マザー2こちらWE3030ご機嫌いかが?」母船に向けて副操縦士が通信を始めた。
「おう!キャシー。待っていたぞ。シスカは話せるか?」野太い声が返ってきた。どうやら副操縦士はキャシーというらしい。

作者の注釈 ②(副操縦士と呼ばれているキャシーは正確には整備士だ。パイロットの数が不足しているため、ヘリコプターはパイロットと整備士でコンビを組んで運用されることが多い。特に今回のような長距離のフライトでは1人での操縦はきつく、整備士の同乗は安全面からも必須だった。彼女はシスカより年上だったから、時々上から目線になるのが玉に瑕だったが、整備士としての腕は抜群だった。2人がコンビを組むまでには複雑な長い経緯(いきさつ)があったが、それはこの物語の本題ではない)

「何か用か?」シスカが短く返事を返す。男のような口のきき方だ。
「久しぶりの再会に、ずいぶんと冷たい言いぐさだな」野太い声は気安い様子で声をかける。
「余計なことは言わないだけだ。何か用があるなら早く済ませてくれ。こっちは手が離せないんだ」シスカは前を見つめたまま愛想が無い。
「ベテランがよく言うぜ。ちょっくら声が聞きたかっただけだ。ゆっくりと近況を語り合いたいところだが、こっちも時間が無い。また今度ゆっくりと顔を見せてくれ」
「そうさせてもらうよ」
「ところでアツコはそこに乗っているんだろうな?」
「ああ、いるよ。そちらへ降ろすお客はキリュウ・アツコとカスガ・アヤノの2名だ」シスカはチラリと後方のシートに目をやった。
「おお、聞いているぞ。女性記者が取材なんだってな。それはそれで楽しみにしているんだが、うちの会社から新規の依頼がある」
「というと?」
「うちのメンバーを1人豪華客船まで運んでほしいんだ。これはお宅の会社でも了承済みで、運賃もうちの会社から支払われる。なんなら確認してもらってもいい」
「どういうことだ?」
「じつは豪華客船クルーズにうちのクルーが招待されたんだ。本人は辞退したんだが、とても断り切れないルートからの依頼らしくてな、参加せざるを得ないんだ。ということで、彼女をその豪華客船まで運んでやってくれ」
「彼女?」
「そうだ、このプロジェクトに派遣される前、急にマザー2の厨房に欠員ができてな。緊急に雇っていた調理スタッフなんだが、どういうわけか彼女に招待が来たってわけだ。こっちとしても困るんだか、我々としては断るという選択肢は無いみたいだ」
「どんな人物なんだ?」シスカはわたしが抱いていた疑問を代弁するように言った。
タニグチ・ミホ、日本人だが、本人曰くイタリアンレストランを営むウルトラ地味な人だそうだ」
 どういう基準で選ばれているんだろう?わたしは自分のケースも含めて、何もかもが疑問でいっぱいだった。
「タニグチ・ミホ?」何か心当たりがあるのか、隣に座っていたアヤノが声を出した。
「とにかく準備を急がにゃならん。すぐに降りてくれ」
「了解。すぐに降りる。ビビって揺らさないでくれよ」シスカが軽口を叩いた。
「ばかやろう。じっとしててやるからとっとと降てこい!」野太い声はそう言ったが、2隻の船はかなりの速度で航行している。
 シスカはその航行速度に合わせて機体を滑らせながら、ゆっくりと船首にあるヘリポートへと近づいていき、少しもふらつくことなくそのまま一発で着船した。
 ローターが回転を落とし、キャシーがサイドドアを開けると、作業員と1人の女性が駆け寄ってきた。
「ミホさん!?」機体から降りたアヤノが叫んだ。
「アヤノちゃん!?」ミホと呼ばれた女性も驚いた様子だ。
 2人は短く近況と事情を話し合ったようだったが時間は限られていた。
 作業員に促されてミホが乗機し、アツコとアヤノが機体を離れるとすぐ、シスカはローターの回転を上げてそのまま離床した。
 ブリッジのデッキでこちらに向けて手を上げている武骨い男が見える。
 シスカとキャシーもそろって右手を上に挙げた。
 それが挨拶だった。機体はさらに高度を上げ方向を変えると、一直線に加速した。
 10分後、紺碧の洋上に巨大な白亜の船体が見え始めた。それは水平線の向こうから唐突に現れ、見る間にそそり立つ巨大な建物になった。その白亜の壁は無数の窓に覆われ、まるで時空を超えて蘇った幻の王宮のように見えた。
 広大な地域を恐怖で支配した永遠王が作った巨大王国、悠久の時の流れの中にようやく忘れ去られようとしていた恐怖の歴史、その中心だった幻の王宮が、今蘇ったのだ。
「でかい!!!」シスカが声を上げた。
「全長700メートルはある」キャシーが目測した。
 ヘリコプターは王宮に向かって降下を開始した。


2019.10.14
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30000の出会いに乾杯

 電車は十三の駅を出ると淀川の堤防を駆け上がり、淀川橋梁に差し掛かった。
 夕方のラッシュにはまだ早い時間で、車内は比較的空いている。
 エスはいつものように電車の一番前、前方が見渡せる特等席に座っていた。
 普段はダークグリーンやダークブラウンのダボッとした格好でダラダラと行動するのだが、今日は水色とマリンブルーでデザインされた上着を着て、細身の白っぽいジーンズを履いている。いつもは適当に撫でつけられるだけの髪には丁寧に櫛が当てられ、肩より少し上の位置で綺麗に切り揃えられている。おまけに顔には薄く化粧までしている。それはエスにとっては晴れがましいと呼べるほどの格好だったが、それとは裏腹に唇は強く引き結ばれ、頬は強張っている。進行方向に向けられた目も虚ろで、せっかく確保できた特等席からの展望も目に入らない様子だ。いつもなら並走する神戸線や京都線の電車を眺めたり、進行方向を見たりとあちらこちらに忙しく顔を向けるのに、今日は前を向いたままじっと座っている。
 エスはこれから立ち向かう試練に押しつぶされそうになっているのだ。
 桜も散り果て、爽やかな風が吹き抜ける季節になったのに、エスの心の中はまるで木枯らしが吹き荒れる真冬のようだった。
 電車はそんなエスにはなんの配慮も見せずに橋梁を渡り終え、中津の駅をさっさと通過した。
 速度を落とし、カーブを曲がり始めると間もなく前方に大きな駅が見えてくる。終点の梅田駅だ。
 電車は滑るようにホームに進入すると慎重に定位置に停車した。
 乗客は一斉に立ち上がり、開いたドアから降りていく。やがて反対側のドアが開くと、今度は乗客が乗り込んでくる。その頃になってエスはようやく立ち上がり電車を降りた。
 上を見上げて深呼吸をしてから腕時計を確認する。
 まだ時間には十分余裕がある。
 エスは、ゆっくりと地下鉄の梅田駅に向かって歩き始めた。

 事の発端はマリアからのメールだった。マリアというのはエスのブロ友のイタリア人ブロガーだ。
 エスは物書きを自負していて、拙いながらも自分のブログで小説を発表している。もちろん日本語で発表しているのだが、エスは自分の祖母がイタリア人であることもあって、小さいころからイタリア語の読み書きもできる。大きくなってからは意識して学んだので、ある程度の自信もある。
 それで勉強の意味も兼ねて、自分のブログにイタリア語のページも設けて、自分の小説をイタリア語に翻訳して発表する、という冒険に打って出た。
 反応は芳しくなかったが、ある時そのマリアから、物語の感想と同時に文法の誤りを指摘するコメントが入った。それが彼女との交流のきっかけだった。
 マリアも趣味で小説を書き、それを自分のブログで発表する小説ブロガーだった。お互いの作品に対するコメントをやり取りしたり、イタリア語の添削をしてもらったり、データ検索を依頼されたり、マリアの小説を日本語に翻訳したり、ブログ仲間のイベントに一緒に参加したりするうちに、2人の交流は深まっていった。
 そして、エスがイタリアを訪れてマリアを探したが、お互いのリアルをほとんど知らなかったうえに、全くの準備不足だったこともあって、出会えなかったという事件まで発生した。
 後にそれを知ったマリアは残念がったが、それがこの日本訪問に繋がったようだ。
 メールにはマリアが訪日する旨が書かれ、会いたいからセッティングをお願いしたいという内容だった。都合が合う人だけでもいいから日本のブロ友にも会いたいとも書き添えてあった。
 エスは困った。ネットの世界と現実は分けておきたいと考えていたからだ。
 イタリアに行ったのも、観光と祖母の生まれ故郷を訪ねるというのが目的だったし、マリアを探したのも、もう2度と来れないだろうからもし偶然にでも出会えれば・・・という程度の動機だったのだ。だから下調べもほとんどしていかなかったし、会えないなら会えない方が良い、そんな気持ちだった。
 でも今度はマリアが本当にやって来る。しかも会いたいと希望して。
 最初は代理人を立てる事を考えた。ケイはイタリア語を喋るが、彼女にはすげなく断られた。エス自身になんとかさせる方が良いと考えたようだ。ダイスケにもその日に仕事がある事と、外国語がからっきしなのを理由に体よく断られた。最後の頼みのコハクは冷たい奴だった。たぶんダイスケもコハクもケイと結託したのだろう。
 ここまで足を運ばせて、いまさら無碍に出来ない。悩みに悩んだ末、エスはようやく覚悟を決めたのだ。
 アリアの大まかな旅程はすでに決まっていたからそれに合わせてスケジューリングしたが、細かい段取りは日本のブロ友に丸投げした。
 手はずではマリアが乗った新幹線の到着に合わせて新大阪駅のホームで落ち合うことになっている。

 新大阪駅で地下鉄を降りて階段を下り、改札を抜けてJRとの連絡通路に出る。
 マリアは日本行を機にスマートホンを用意していた。何となくこれまでの成り行きで音声通話は使っていないが、メールでのやりとりはリアルタイムで可能だ。
 マリアの乗った飛行機は3日前に成田に到着し、東京都内のホテルに無事に入っている。一昨日と昨日は東京の定番スポットを観光し、日本の不思議に驚いている報告メールが届き、家を出る時には打ち合わ通り“のぞみ”の指定席、12号車に乗ったというメールも受け取った。
 慣れない外国でも1人で行動できるんだ。普段のやり取りではわからないマリアの別の一面を見たような気がして、エスは少し安心した。それにつれてどんな人なんだろうと好奇心が頭をもたげ、胃のあたりに漂っていたモヤモヤも少しは薄らいでいた。だが、いよいよ約束の時間が迫ってくると、やはり緊張は増してゆく。
 エスは歩調を強くして新幹線コンコースに上り入場券を買った。そして改札を抜け、ホームに上がる。列車の到着までまだ30分ほどある。エスは12号車のドアの位置に近いベンチに腰掛け、列車の到着を待つことにした。
「エス・・・さん?」突然声をかけられエスは驚いて振り返った。
 30代なかばに見える穏やかな感じの女性が立っている。
「あ・・・近江さんですか?」エスはしげしげと女性を見つめてから、恐る恐るという感じで訊いた。
「はい、近江サヨです」女性は答え「エスさんですよね?」とさらに確認する。
「あ・・・っと、はい、エスです・・・ってなんか変ですね」予想より早い展開にエスは戸惑っていたが、心の準備が整う前のいきなりの出会いは、エスに過度に緊張する暇を与えなかったし、サヨの笑顔と優しい声はエスの不安を一気に解消した。
「普段、この名前で名乗ることが無いですからね」サヨが笑顔で言った。
「そうですよね」
「失礼なことかもしれないのですけれど、本名も名乗りませんか?」サヨが思い切ったように言った。
 エスは一瞬戸惑った表情をしたが「“真の名”・・・ですね?」と厳かに言った。
「そう、“真の名”です」サヨもエスの目を見つめて厳かに続ける。
「そうですね。こんな事って何度も無い事でしょうから、思い切って・・・良いですよ」エスは少しの間思案してから言った。
「じゃぁ、私から。私はシメノナツミといいます」
「シメノ?」
「難しいですよね?“点”英語だとpointね。それに野原の野と書きます」
 エスは小さなメモとペンを取り出してサヨに手渡す。サヨはメモに名前を書きながら「ナツミは夏の海と書きます」と言った。
「ありがとうございます。綺麗な名前ですね。ウチは・・・」エスも“真の名”を書いてサヨに渡した。
「榛名さん?素敵な名前ですね」
「いえ、とんでもない」エスは赤くなった。「今日は今まで通りエスでお願いします」
「そうですね。じゃぁ私もサヨで・・・」
「でもサヨさん、まだ約束の時間までだいぶありますよ」
「こういう事、オフ会って言うんですか?始めてなんですよ。だから、かなり早めに来てしまいました」
「ウチもです。じっとしていられなくて・・・」
 お互いの“真の名”を明かした2人はたちまち打ち解け、和やかに会話を続けた。

 やがて、マリアの乗った新幹線の到着する時間がやって来た。
 アナウンスが列車の到着を告げ、マリアの乗った“のぞみ”は定刻と1分の狂いもなくホームに停車した。マリアには後ろのドアから降りてくるように指示してある。2人はそのドアの傍でマリアが出てくるのを待った。
 乗客はほとんどが日本のビジネスマンと思われる。所々に外国人が混じっているが、マリアらしき外国人女性は見当たらない。この列車は新大阪が終点だからゆっくりと降りてくるつもりのようだ。エスの緊張はピークに達しようとしている。
 やがて乗客が一旦途切れ、それから1人の女性がゆっくりと降りてきた。
 ほっそりとした体にアプリコット色のワンピースを身に着けている。40歳くらいだろうか?ブロンドの髪は銀髪への道のりの半分くらいで、化粧っけのほとんどない白い顔に茶色い瞳が煌めいている。その悪戯っ子のような瞳がこちらを向いた。
『エス!』女性は従えていた小さなスーツケースを放置したままサヨのもとに駆け寄り、大げさに抱きしめた。
 エスは慌ててそのスーツケースを確保する。
『マリア、マリア、私はサヨです』サヨは英語で訂正する。
『え?サヨ?それじゃエスは?』マリアはキョロキョロと周りを見渡した。マリアの大胆な行動はエスの緊張を崩壊させた。
『マリア』エスは覚悟を決め、スーツケースを曳いたままマリアの許に近寄った。
『エス?あなたがエスですね?』
 エスが頷くと、マリアは改めてエスをしっかりと抱きしめた。
『思っていたより小さい。そして細いわね。華奢と言った方がいいのかしら。私も細いけど。あなたは細すぎるわ。もっと食べなさい』マリアはエスを抱きしめたままイタリア語で感想を述べた。その物言いは祖母を思い起こさせ(失礼、マリア。それに念のために言うと祖母はまだ生きている)強い抱擁はエスの心を落ち着かせた。
『マリア、痛い』エスが小さく悲鳴を上げる。
『ごめんなさい』マリアはようやくエスを開放した。
 好奇の目でこの光景を眺めていた野次馬達は徐々に散って行く。
『あなたがエス、そしてあなたがオオミサヨさんですね?』マリアは改めて2人を眺めた。
『はい』2人は同時に返答し顔を見合わせる。
『改めて挨拶するわね。始めまして、マリアです。ご招待いただいてありがとう』マリアは2人に合わせて英語を使った。
『ようこそ、大阪へ!』2人はまた同時に喋ってから顔を見合わせた。
『でも自分をマリアと紹介するのって変な感じね』マリアが顔を歪める。
『そうですよね。リアルではそんなことは起こらないですからね』サヨが同意して続けた。『さっきエスさんとの間で“真の名”を交換したんですけれど、マリアさん、あなたの“真の名”も明かしていただけませんか?』
『“真の名”?本名の事かしら?ここで?』マリアはいきなりの提案に驚いたが、そういうこともありかしらと、応じてくれた。
 3人は近くのベンチに並んで腰掛けて“まことの名前”を書いたメモを交換した。
『アント・・・』サヨが読みにくそうに言った。
『アントネッラ・アナマリア・ハースと言います』マリアが補足する。
『それでマリアなんだ』エスが納得の声を出し、マリアがニッコリと頷いた。
 エスとサヨはコソコソと打ち合わせをしてから『では改めまして』とエスが音頭を取った。そして『アントネッラ、ようこそ、大阪へ!』と声を揃えて言った。
『ありがとう!きっと大阪は素敵な町だわ』マリアは顔をほころばせた。
『でもハルナ、ナツミ、今日は私の事はマリアと呼んでちょうだい。私もエスとサヨと呼びますから。“真の名”は大切だけれど、これを使ってしまってこれまでの繋がりを混乱させたくないですから』
『もちろんです』2人はまた声をそろえたが、イタリア語と英語のデュエットになっていたので、3人そろって大笑いをした。
 気さくなマリアの態度はエスをすっかり安心させた。
『さぁ、いつまでもこんな所ではなんですから移動しましょうか?』サヨが立ち上がった。
『あら?TOM-Hさんともここで待ち合わせじゃぁ・・・』マリアがサヨを見上げる。
『ここへ来る前にTOM-Hさんから遅れるというメールを受け取っています。今日はTOM-Hさんが幹事だから申し訳ないと謝ってましたけれど、30分程遅れるので先に始めておいてくれとの事でした。夕食は夜景の綺麗なレストランだそうですよ。行きましょうか』
『行こう!マリア』完全に丸投げのエスは勢いよく立ち上がったが、小さなスーツケースを曳こうとして『マリア、荷物はこれだけ?』と訊いた。
『あ、ありがとう。大きいのは大阪のホテルに直送してもらったわ』
『なんだか旅慣れてるね』エスが羨ましそうに言った。
『そうじゃないの。今回の旅行にはね、私が仕事で担当した人が亡くなった後、お礼にと遺言で残してくれた旅行クーポンを使っているの。その人、大手の旅行会社の会長だったの。だから、旅行会社の威信をかけて至れり尽くせりなのよ』エスと話す時、マリアはイタリア語になる。
『へえ、凄い!』エスは日本語に訳してサヨに伝えた。
『羨ましいなぁ』サヨが目を輝かせる。
『でもね。旅行クーポンだから旅行にしか使えないの。結構せこいのよね』マリアは英語でそう言うと片目をつぶった。
 3人は大阪駅に向かうためにエスカレーターを下った。

 レストランは高層ビルの上層にあった。TOM-Hはマリアのために和食、しかも懐石料理をメインとする店をセレクトしてくれていた。
 4人で30000円以内という予算では少し心もとないレベルの店だったが、今日は特別だ。不足分はTOM-Hが補ってくれるつもりのようだ。
 予約の名前を伝えるために、すでにTOM-Hの“真の名”は割れている。
「星河で予約を入れているのですが」サヨが告げると「承っております」と窓の傍のテーブルに案内された。日が暮れたばかりで、薄闇の中に浮かび始めた夜景はまだ序の口だったが、それでもこの世の物とは思えないぐらい美しい。
『TOM-Hさん、さっき京都を出られたから、あと30分かからないと思います』サヨがスマホを覗きながら言った。
「コースは待ってもらって、とりあえずおつまみで少し飲んでようか?」サヨがエスに相談する。
「うん、まかせます」エスは完全に丸投げ状態だ。
 サヨは店員と相談してアルコールとおつまみになりそうな物を注文する。マリアに懐石について説明しているうちに注文した物がテーブルに並べられた。
『これ、日本酒ね』マリアは嬉しそうだ。
『ではまず乾杯から』冷酒を注いでからサヨが小さなグラスを上げた。
 エスとマリアもグラスを上げる。
『この素敵な出会いに、カンパイ』『カンパ~イ!!!』チンとグラスが合わさり、宴が始まった。
 ブログや創作の話で盛り上がり、時間はたちまち経過する。英語が中心になるが、日本語とイタリア語も飛び交う。近くのテーブルから奇異の目で見られてもお構いなしだ。
「あ、いらしたようですよ」サヨがテーブルから目を上げた。
 エスの緊張が一気に増す。顔を上げると入り口の方からスタッフに案内された男性が笑顔を見せながら近づいてくる。
 サヨと同じぐらい、30代なかばだろうか。
 エスは深呼吸をして新しい出会いに備えた。
 宴はまだ始まったばかりだ。


あとがき

この物語は2016年11月に実際に開催されたオフ会を下敷きにして書かれています。
参加者は八少女夕さん、大海彩洋さん、TOM-Fさん、そして山西先の4人でした。
この物語の登場人物とオフ会参加者のどなたがリンクしているのかは、お分かりになると思いますが、それぞれの登場人物の設定はサキの勝手な想像の産物です。元になった皆様との関連性はありませんので、ご承知おきください。
また登場人物はオフ会参加者の方のブログ小説に登場するキャラクターをお借りしていますが、作者に与えられたものとは違った役を演じてもらっているキャラクターもいます。イメージが壊れてなければいいのですが・・・。
エスはもともとの設定どおりの役を演じていますが、サキの分身としては有り得ない行動を取っています。
30000HITのお祝いの物語ですので超特別です。

長々と言い訳を書いてしまってすみませんでした。
そして、読んでいただいてありがとうございました。

下は本作に登場した各キャラクターの出演作品へのリンクです。
マリア(アントネッラ・アナマリア・ハース)
近江サヨ(点野(しめの)夏海)
TOM-H(星河 智之)
エス(黒磯 榛名)


2018.04.26
2018.05.01 アントネッラのフルネームを追記
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