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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 
★作品へのリンク!&お願い!
 
 

フォマルハウト Sequence11を発表しています。

こんばんは。
タイトルどおり今夜は「フォマルハウト Sequence11」を発表しています。
この前 Sequence10を発表したとき、Sequence11は来年になってしまいそうと書いたのですが、もう2月ですよね。いつの間に?
あっという間に過ぎていきますね。
年が明けてからは「フォマルハウト」に染まっていた脳内を一旦クリーンにして「scriviamo! 2021」参加作品の執筆に没頭していました。
ここでは「新世界から」のストーリーを切り取った作品を書いたので、「フォマルハウト」を脳内に置いては書けなかったんです。「フォマルハウト」も「新世界から」もどちらも長編を予定しているので頭の中にたくさん置いておかなくちゃならないんです。
その後、もう1作品掌編を書き上げてから、また脳内を切り替えて「フォマルハウト」に戻ってきています。頭の固いサキにとって脳内のクリーンアップや切り替えは大変です。掌編や短編なら比較的短時間に切り替えられるのですが、長編から長編への切り替えには特に時間がかかります。
だったらこのまま続きを書けよ、という声が聞こえてきそうですが、サキは今ちょっとしたイベントを計画していて、たぶんそのイベントのために暫くの間、また「フォマルハウト」脳には戻れそうもありません。
どうかお見捨てなきよう・・・。

 よろしければ下のリンクからお進みください。
 フォマルハウト Sequence11
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テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

フォマルハウト Sequence11

 シャウラは手綱を小さく引いてスハイルの歩みを止めた。
 目を細めて道の先、なだらかな山脈の鞍部を見つめる。
 カスカラの町を出発した隊商は旅程をゆっくりと、しかし確実に消化し、ハダル峠に差し掛かっていた。山肌には緑はほとんど無く、赤茶けた岩だらけの斜面に峠道が続いている。峠の標高はそれほど高くは無く、登りも比較的穏やかで、大型の輸送車を連ねる隊商にとって難易度は低い。時期によっては砂を含んだ強い風が吹きつけて旅人を悩ますのだが、今日は穏やかに晴れ上がっていて、視界には青く輝く空を背景に峠のピークが眩しく浮かび上がっていた。
「どうしたの?」シャウラの両腕の間に収まっていたツィーが首を後ろに曲げて訊いた。
「いや・・・」シャウラは短く返事をしたがその質問には答えず、スハイルを先頭の輸送車に向けた。
 ツィーはシャウラの顔をジッと見上げていたがやがて視線を前方に戻した。一陣の風が吹き上げ、長くなったツィーの金色の髪がシャウラの頬を撫ぜる。
 シャウラはその動きに一瞬だけ目を留めたが、またすぐに視線を山の方へ戻した。スハイルは早足で先頭の輸送車に追いつき、御者台に並んだ。
「何かあったのか?シャウラ」輸送車の立てる車輪の音に負けないように御者台のアズミが声を張る。
「ツィーをそっちに」シャウラも声を張った。
 ツィーは振り向いてシャウラを見たが、シャウラが怖い顔でにらみつけるとスハイルの上に立ち上がった。シャウラはツィーを腰の部分で支え、そのままひょいと持ち上げてアズミの隣に降ろした。そしてツィーがアズミの横に腰掛けるのを確認すると輸送車との距離を取った。
「何か居るのか?」アズミが訊く。
「嫌な感じがする。少し辺りを見てみるから、このまま進んでください」ピークの方へ目をやりながらシャウラが答える。
「わかった。気をつけてな」
「ツィーを頼みます」
「まかせておけ」
 ツィーは不安気な眼差しをシャウラに向ける。
 その様子に「大丈夫、心配するな」シャウラに変わってアズミが声をかけた。

 シャウラは鞍の横に差し込んでいたライフルを抜いて手に持ち替えると、スハイルをピークの方へ駆けさせた。ハダル峠は山脈の一番標高の低い部分を緩やかに越えていく。そこを過ぎると道は下りに転じ一挙に先の風景が開けるはずだ。
 シャウラは峠のピークの少し手前ででスハイルを止めた。坂の先にキラリと輝く物を見つけたのだ。
 そのままゆっくりと坂のピークまで進む。
 その輝きは徐々に姿を現し、やがてそれが銀色に輝く兜の上に伸びた飾りであることが知れる。続いて尖った2本の短い角が現れ、乗っているバラサの頭と銀色の鎧が現れ、さらにその後ろに並ぶ大勢の兵士の頭が現れた。鎧の人物を中心にバラサに跨がった兵士たちが街道を塞いでいる。
 恐らくこの人物が大将だ。ライフルで狙えば弾は当たる。だが、確実に仕留められる保証はない。兜は頭や顔の全面を覆っていて、必殺を狙ってもその強度が不確定要素になる。それにたとえ大将を殺ったとしても、その辺の山賊とは規模も戦力も桁が違う、我々は簡単に全滅させられるだろう。
 シャウラはスハイルを取って返し、両腕を斜め上に広げた。止まれの合図だ。隊商は直ちに動きを止めた。
 シャウラが戻って事情を話すと、腕を組んで聞いていたアズミは「騎乗兵か、だったら逃げられないね」と言った。
 やがて峠のピークにバラサに跨がった兵士たちが姿を現した。数百騎は居そうだ。道一杯に広がって一気に峠を下り、隊商の長い車列を囲むように展開した。
「ラァスル・グール軍だな。もうハダル峠を落としていたのか」アズミの隣に座るアカザが言った。
 長く伸びていた車列は道幅をいっぱいに使って一か所にまとめられた。
「さて、どうしたものか・・・」アズミは御者台の上に立ち上がってその様子を眺めている。
「武器を捨てよ!」他の面々より派手目の服装をまとった一騎が命令した。おそらく騎乗隊の指揮官の地位にある者なのだろう。
「指示通りにすれば命は取らない!抵抗するならば、皆殺しだ!」
「わかった!言うとおりにする!」アズミがよく通る声で答えた。
 シャウラはアズミが頷くのを待ってから、ゆっくりとライフルと剣を地面に落とし、アズミや御者たちもそれに続いた。
 兵士たちが配置を終えるとそれを待っていたように銀色の輝きが姿を現した。あの鎧兜に身を包んだ人物だ。前後を騎乗兵たちに守られながらしずしずと下ってくる。身なりからしてこの一団は騎乗隊の面々よりも地位が高いようだ。
「仰々しいもんだな」覚悟を決めたアズミは呆れたように言った。
 一団は隊商から少し上の位置で止まった。
「我々はラァスル・グール皇国軍だ。気の毒だがお前たちは我々が拘束する」先ほどの指揮官が甲高い声で告げた。
「拘束う~?」アズミはそれに負けないくらい甲高い声を上げた。
「そうだ」
「あんたら、本当にラァスル・グール皇国の軍隊か?地道に商売に励んでいる隊商を襲うなんて、これじゃまるで強盗団じゃないか?」
「やっていることは似たようなものだから、どう思われようと結構。全員輸送車を降りてここに集合してもらおうか。そこの用心棒。あんたもだ」
「そんなに簡単に強盗と認められちゃ、しょうがないね。みんな言うことを聞くんだ」アズミは全員に聞こえるように声を張り上げる。
 指揮官は輸送車に積まれているものを確認するよう配下に指示を出した。
 間もなく御者10人とアズミ、ツィー、それにシャウラが隊長の指定した場所に座り込んだ。ワタリの姿が見えなかったが、それについては全員が口をつぐんでいた。
 その時、少し離れた位置にいた一群の中からあの目立つ銀色の鎧を着た人物を乗せたバラサが進み出た。周りの兵士たち数名も慌ててバラサ進ませ付いてくる。お付の兵士たちの慌てようを気にする様子も無く、その人物はシャウラたちの前にやってきた。
 シャウラが予想していた通り、その銀色に輝く鎧は頑丈に見えた。たぶん近距離でなければライフルの弾丸は貫通しないだろう。関節の稼動部分も重なりを持つように作られている。兜には権威を示すために背の高い飾りが突き出ているが、その他は至ってシンプルで、口の部分に声を通すための小さな穴が幾つかと、目の部分に内部から外が見えるように極細いスリットが2つ開いているだけだ。どこを狙ってもこの人物に傷を付けることはできそうもない。
 鎧の人物はシャウラたちの前でバラサを止めた。直ちに周りをお付の者が取り囲む。
「名前は?」幾つか開いた兜の穴からくぐもった声が聞こえた。シャウラたちの中の誰かを指差しているが、金属に覆われた指先がどこを指しているのか定かでは無い。
「あたいかい?」アズミが妖艶な声を出す。
「違う!違う違う!お前じゃなぁぁい」激しく首を横に振ったせいで鎧がカチャカチャと音を立てる。
「あら、お見限りだね」アズミはプイと横を向いた。
「隣の女、名前はなんと申すぅ?」鎧の人物は赤子をあやすような声で言った。
 座らされている全員がツィーの方に顔を向けた。
 ツィーはその青い目を鎧の人物に向けたが、そのままじっと黙っている。
「おお、その輝く髪と白い肌、そしてその凍り付くような冷たい視線。この世のものとは思えぬほど美しい。背中がゾォクゾクする・・・」その人物はバラサから降りようと体を捻った。
 お付の者たちが大慌てで駆け寄ったがすでに遅かった。鎧の人物は片足をバラサから上げたところでバランスを崩し、激しい金属音と共に地面に落下した。
「殿下!」駆け寄ったお付の者たちが大急ぎで体を持ち上げる。
「大事なぁい!触るな!」駆け寄った者を振り払ったがそのまま手足をバタバタさせるだけで起き上がることができない。結局お付の者たちの助けを借りて鎧の人物はヨロヨロと立ち上がった。鎧は防御力を高めるために相当に重いようだ。ゆっくりと金属の擦過音を立てながらツィーの元へと近づく。
「美しい・・・」鎧の人物は倒れないように慎重に膝を曲げて跪くと、金属に覆われた指先でツィーの顎を持ち上げた。
 ツィーは黙ったまま兜に開けられた2つのスリットを見上げている。
「お前を私の第3夫人にする」鎧の人物は厳かに宣言した。
「何トンチンカンなこと言ってんだ!」アズミはポカンとしているシャウラを押しのけ、ツィーを鎧の人物から引き剥がした。その衝撃で鎧の人物はまた仰向けにひっくり返った。
「殿下!」再び駆け寄ったお付の者たちが大急ぎで体を起こす。
「サルガス!戯けたことを!」積荷について報告を受けていた指揮官がバラサに乗ったままやって来て鎧の人物を見おろした。
「姉上ぇ、僕のやる事にいちいち口を出すのは止めてくれないかぁ」サルガスと呼ばれた鎧の人物は甘えた声で訴えた。
「お前が我が王家を辱めるようなことばかり仕出かすからだ」指揮官はバラサの上から怒鳴りつける。
「だけどぉ、僕はぁ・・・」
「うるさい!」指揮官は一括した。「侍従長!すぐにサルガスをバラサに乗せて後方に下がらせろ。それからさっきのサルガスの発言は無効とする。わかったな!」
 お付の者たちは了解の印に腰を深く折ってその指示に答えてから、寄ってたかってサルガスをバラサの上に担ぎ上げ、そのまま元居た場所にまで下がらせた。直ちに数人のお付の者たちによって日除けの天涯が差しかけられる。サルガスはグズグズと不平を漏らしていたが、日陰に収まるとようやくおとなしくなった。
「騒がせたな」指揮官はアズミに向かって声を掛けた。
「どうやらあんたはまともに話せる相手のようだね」アズミが言った。
「私はラァスル・グール皇帝の第11皇女キトゥーだ。さっきのは第13皇子サルガス」
「へぇ・・・皇女様、随分身分の高い、それも女だったんだね。それはご無礼をいたしました」アズミはツィーの方を横目で見やりながら皮肉を込めて言った。「そんなふうには見えなかったもんだから・・・」
「気にする必要は無い・・・と言いたい所だが、私でなかったら首が飛んでいるぞ」キトゥーは強い視線をアズミに向けた。緑がかった美しい瞳で、日に焼けた肌や漆黒の髪は神族のイメージからはかけ離れている。
「そこの女」キトゥーはツィーに声をかけた。「驚かせてすまなかった。奴の戯言は無効にしたからもう心配することは無い」
 ツィーは黙ったまま小さく頷いた。
「それにしても、この女は神族だろう?なぜこんな隊商に同行しているのだ?」
「こんな隊商で悪かったね。色々複雑な事情があってね。それにこの子はうちの用心棒の女房だ」
「女房・・・」キトゥーは少しの間シャウラの顔をジッと見ていたが、やがて「そうか・・・」と頷き、それ以上追求しなかった。
「あたいたちをどうするつもりなんだい?」アズミが訊いた。
「お前たちは随分高価なものを運んでいるようだが、輸送車と荷物はここで没収する」
「全部か?この荒野のど真ん中でか?それはあたいたちに死ねということか?」アズミは抗議の声を上げた。
「お前たちが生きようが死のうが、そんなことは我々の関知することではない」キトゥーは冷静な声で答える。
 アズミは怒髪天を衝く、まさにそれを絵で描いたような表情でキトゥーを睨みつけた。隣に座るシャウラも全身の筋肉に酸素を送り込んだ。御者たちは顔色を失っている。ただツィーだけは感情を廃した目をどこか別の空間に向けていた。
 キトゥーはそんなアズミとシャウラの顔を硬い表情でジッと見つめていたが、やがて顔を緩めた。
「死にたくはないか?」
「あたりまえだ!誰が好き好んで死を望む?」
「では、私から任務を与えよう。この輸送車に積まれている我々の荷物すべてをラァスル・ハールまで輸送するのだ」
 ラァスル・ハールとはラァスル・グール皇国の帝都だ。
「我々の荷物だと?」
「そうだ、荷物は我々が没収した。すでにすべてはラァスル皇帝の所有物だ。異議は受け付けない」
「ク・・・」アズミは唇を噛む。
「これがお前たちが生き延びる唯一の方法だ」
 アズミは暫くの間黙り込んだがやがて言葉を続けた「すまないが我々は魔族の隊商だ。ラァスル・グール内では行動できない」確かに魔族はラァスル・グールには原則的に入れない。アズミは抜け道を探っている。
「我々の1小隊を同行させ、サルガス殿下の命令書を持たせよう。それで動けるようになる」キトゥーはなんでもない事のように答えた。
「ラァスル・ハールに着いた後はどうなる?」
「荷物はすべて国庫に納められる」キトゥーは当然のように言う。
「我々は?」ここは肝心なところだ。
「さあな、そこから先は我々のあずかり知らぬところだ」突き放すようにキトゥーは言った。
「それでいい・・・」ツィーの声だ。囁くような声だったのでキトゥーには聞こえていない。
 シャウラとアズミはツィーの方へ顔を向けた。やはりツィーの瞳は奥行きを失い表情が消えている。
「どうした?」シャウラは小さな声で呼びかけた。
「それでいい・・・」ツィーは繰り返す。
 それを聞いたアズミの目に微かな明かりが灯った。
「あたいは少しでも生きている時間が延びるほうに賭ける。いいな!」アズミは周りに座っている仲間に向かって宣言した。
 仲間たちはそれぞれに小さく頷いた。シャウラも頷かざるを得ない。
 アズミが声を上げる。「皇女様!」
「なんだ?」キトゥーは口角を上げる。
「しようがない。謹んで皇女様の任務をお受けするよ」
「懸命な選択だ。さっき言ったように1小隊を護衛に付けるから着実に届けるのだぞ」
「仰せのままに」
「嫌に素直だな。何かたくらんでいるのか?だが1小隊といえども我が軍の精鋭だ。反乱を企てても無駄だということは肝に銘じておけ」
「無駄とわかっていることはやらないよ。命を縮めたくはないからな」
「懸命な判断だ」キトゥーは満足そうに微笑んだ。
 その笑顔は奮いつくほど美しかった。まるで見つめると石になってしまう伝説の怪物のように。

2021.02.24
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エスの夜遊び

scriviamo!

 ビデオ通話が繋がった。
 モニターの向こうではコハクが手を振っている。
 新型ウィルスによる感染症が全世界に猛威をふるい始めてから1年あまり、発病者は全世界で1億人を優に超え、死者は230万人に迫ろうとしている。
 感染爆発を起こした地域の都市は封鎖され、非常事態宣言や外出禁止令で外出もままならない状態が続いている。
 エスの暮らすこの国は、そこまで酷い状況ではなかったが、外出を自粛し感染予防対策を徹底するなどの対応が求められている。コハクともここ暫くはモニター越しにしか会っていない。
「元気にしているみたいね」コハクは目を細めてエスの様子を観察した。
「普通だよ」エスは視線を感じて少し顔を逸らせた。
「ちゃんと“おこもりさん”してる?」
「もちろん!不要不急の外出はしていません」エスはきっぱりと答えた。
「ならいいんだけど」コハクは口角を少し上げる。
「そっちは大丈夫?」エスがコハクを気遣う。
「まぁまぁってところね。でも面倒な時代になっちゃったね」
「そうかな?こんなこと言ったら不謹慎?って言われるかもしれないけど、ウチはSF映画を見ているみたいな気持ちで興味津々だよ。命がかかってるけどね」
「また、そんなことを・・・」コハクは顔を歪めた。
「あ、この前薦めた本、どうだった?」エスが話題を変える。
「楽しませてもらった。軽くて暖かくて・・・こういうの自分からは読まないジャンルだからね」
「退屈しのぎに、たまにはいいでしょ?」
「まぁね。で、何を聞いてるの?」
 エスの部屋に置かれたB○SEのミュージックシステムからは音楽が流れっぱなしになっている。
「あ、止めようか?」エスは操作パネルに手を伸ばした。
「いいよ。BGMにちょうどいいし」
「そう?」そう言いながらエスはボリュームを少し落とした。
「で、何を聞いていたの?」
「これ」エスは紙製のジャケットをカメラの前にかざした。

MIKUNOYOASOBI_F.jpg MIKUNOYOASOBI_B.jpg

「これって?ああ、初音ミクかな?」流れている曲とジャケットに書かれたイラストからコハクはあたりをつけた。
「ご名答だけど、YOASOBIって知ってる?」
「名前だけは聞いたことがある。紅白に選ばれて話題になってたし・・・」
「YOASOBIは、Ayaseとikuraの2人組の音楽ユニットなんだけど、このCDは彼らのアルバムTHE BOOKをそのまま初音ミクバージョンにしたアルバムなんだ」
「同じアルバムで人バージョンとミクバージョンがあるってこと?」
「そう」
「で、あなたのは人バージョンじゃないのね」コハクは呆れている。
「おっ、ちょうど紅白でやっていた“夜に駆ける”が始まるよ」エスはボリュームを上げた。



曲が終わるとエスはボリュームをまた下げる。
「どう?」
「良い曲だね。まぁ、あなたの好みは置いておくとして、私は人バージョンの方が良いと思うけどね」
「そうかなぁ。ウチはこっちの方が好きだけどなぁ。でもマリアにも同じようなことを言われた」
「マリアにも薦めたの?だれでもお構い無しだね。あなたは変わってるからね。エスの場合、ボーカルが人間じゃないからかえって受け入れられるんじゃないの?」
「世の中にはいろんな人間がいるんだよ。Ayaseはボーカロイドプロデューサーとしても有名で、YOASOBIの“仮歌”も初音ミクを使って制作するらしいし、だからこんなアルバムが作れるんだね」
「そうなんだ」
「このCDはね!」エスは誇らしげに続けた。「ネット販売せずにタ○ーレコードの店舗だけでゲリラ的に発売されたんだけど、あっという間に完売したらしいよ」
「ふ~ん、そんなものなのかな」コハクは少し呆れたふうに返事をした。
「でね」エスはモニターのコハクを見上げて言った。
 コハクは諦めて「なに」と応じる。
「YOASOBIの“夜に駆ける”は当然人間、さっきのikuraがボーカルを勤めているんだけど、“仮歌”がボーカロイドで作られているせいでなかなか大変だったらしいんだ」
「というと?」
「“夜に駆ける”を“仮歌”と同じ速さで歌ったら滑舌が回らないし、息継ぎをするところも無かったんだって」
「そりゃまあ、初音ミクだったら指示通り滑舌は回るし、息継ぎなんかしなくったって歌えてしまうからね」
「ボイストレーニングをしたり、息継ぎの位置を変えたり、色々工夫して歌っているみたいだよ」
「そう聞くと人間が歌っているバージョンの方に興味が湧いてくるね。どうやって歌っているのか・・・」
「悪いけど、それは持ってないんだ」
「人バージョンに興味無しってわけ?」
「NETで探しておこうか?」
「そんなことより、エス」コハクの声がきつくなった。
「なに?」不安げにエスが応える。
「あなた、さっきこのCD、ネット販売せずにタ○ーレコードの店舗だけでゲリラ的に発売されたって言ったよね?」
「よく憶えてるね」
「タ○ーレコードなんて、このあたりじゃ梅田か三宮くらいにしかないよね?」
「そう・・・だったかな?」
「オジサンは地元に勤めているから緊急事態宣言の梅田や三宮には出ないでしょ?」
「うん・・・」消え入るようにエスは返事をした。
「じゃあ、あんたはこれをどうやって手に入れたの?」

MIKUNOYOASOBI_M.jpeg
2021.02.07
2021.02.08 細かい修正追記
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2021年初めての更新「scriviamo! 2021」

今夜は八少女夕さんの恒例企画「scriviamo! 2021」への参加作品の発表です。

作品へはこちらから

「scriviamo!」というのはイタリア語で「一緒に書きましょう」という意味なんだそうですが、要するに夕さんと一緒に何か作品を書きましょうという、年1で回開催されるイベントです。2013年から続いていて、サキは山西左紀として毎年参加させていただいています。皆勤賞ですね。
参加方法は参加者が作品を発表し、それに夕さんが答える「プランA」を始め「プランB・C」の3種類があるのですが(詳しくはこちら)、サキは今のところ誰もいらっしゃらない「プランC」での参加です。「プランC」は「課題方式」での参加方法で、以下のような課題と制限が与えられています。

*自分の既出のオリキャラを一人以上登場させる
*季節は「夏」
*動物を1匹(1頭/1羽 etc)以上登場させる
*色に関する記述を1つ以上登場させる
*小説の場合は150字から5000字の範囲

ということで、ようやく書きあがった作品は「新世界から」シリーズの掌編「ブルーホール」です(タイトルだけで課題の1つをクリアーですね)。

「新世界から」シリーズは2人のヒロインを登場させたために先へ進めなくなってしまった未完成作品です。いま書き進めている「フォマルハウト」も同じ轍を踏んでしまって、2人のヒロインの暴走に悩まされているのですが、「新世界から」の方は「フォマルハウト」よりも抱えている問題が大きく、イベント用に掌編を捻り出すのが精一杯という状態です。でも今回発表する掌編もプロットには沿っていますから、この作品だけではシーンとして繋がりは見えませんが、作品全体の中の何処かには収まるはずです。
その関係でTOM-Fさんのキャラクターをオマージュしたキャラクターが登場していますが、今回は夕さんのキャラクターは不在です。すみません。

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「新世界からシリーズ・ブルーホール」
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新世界から

scriviamo!

BLUE HOLE

 大佐はズイキの敬礼に丁寧に応じてからおもむろに口を開いた。「君に来てもらったのは他でもない」
 司令部の執務室は午後の日差しで満たされ静まり返っている。大佐のよく通る声だけが辺りの空気を振るわせる。「軍へ復帰してもらいたい」
 ズイキは少し目を見開いて薄い唇をきつく結んだ。
「どうだ?君は退役したつもりでいるようだが、実際のところ君はまだ軍籍を持っている。その気になれば予備役からの手続きは簡単だし、復帰前後の面倒ごともすべてこちらで的確に処理する」大佐は机の上にあったファイルを手にとった。「君の戦歴は素晴らしいものだ。当然ながらそれに相応しいポジションも用意する」
 大佐は一拍を空けてからさらにたたみかけた。「再び操縦桿を握って大空を駆け回ってみたいとは思わないか?少尉」
 その瞬間奇妙な浮遊感がズイキを襲ったが、それをなんとか堪えて彼女は眉の間に皺を寄せた。「私は予備役です。もう少尉ではありません」
「硬いことは言うな。復帰すれば君にはもっと上のポジションが与えられる」
「私が除隊を申し出たとき、軍医の診断書を提出したにもかかわらず、除隊は認められませんでした。傷痍軍人ではなく予備役として軍に籍を残す。それが軍務を離れられる唯一の選択肢でした」
「その判断は賢明だったと我々は考えている」大佐は視線を窓の外に向けた。
「ただ、復帰には私と担当医の同意が必須という条件が付いていたはずです」
「愚かな妥協をしたものだが、担当医からは同意をもらっている」
「圧力をかけたんですか?」ズイキは気色ばんだ。
「そんなことはない。担当医とは十二分に話し合った。君は軍務に耐えられる程に回復している。君さえ決断してくれればすぐにでも軍は君を厚遇・・・」
「お断りします」ズイキは大佐の言葉を遮り、ピシリと敬礼をきめると扉に向かって決然と歩き始めた。
「オッドアイが戦線に戻っている」大佐がズイキの背中に向かって言葉を発した。
 ズイキの足が止まる。
「奴が?どうやって?」オッドアイが所属していた軍は敗戦で解体されたはずだ。ズイキは思わず大尉に顔を向けた。
「大勢のパイロットが奴の犠牲になっている。生存者の中には君の目撃情報と同じオッドアイを見たと報告する者が何人かいる。どうやら外国人部隊として参戦しているようだが、我が軍の損害は甚大で、パイロットが抱く恐怖も大きい」
『居場所を見つけたという訳か』ズイキは小さく呟いた。
「わざわざコックピットを相対させて己の特徴を見せつけているのは西域戦線でエースを張り合った君に対する挑発ではないのか?」
「失礼します」ズイキはもう一度大尉に敬礼を決めると、今度は立ち止まらずに執務室を出た。

 飛行艇が右旋回を始めると間もなくコパイロット側の海上にブルーホールが見える。太古の時代に作られた鍾乳洞が陥没し、そこに海面の上昇によって海水が浸入した地形だ。青々とした浅い海の中に更に深い青色の丸い穴がポッカリと開いていて、まさにブルーホール、言い得て妙なネーミングだ。
 風が弱い場合、飛行艇はこのブルーホールを右手に見ながら旋回を終え、着水態勢に入る。飛行艇は最適の機首角度と降下率になるようにエンジンの推力を増減し、最終進入速度を保持したまま着水域まで真っ直ぐ進入する。高度を下げる機体の下を白い環礁が通過し、前方に真っ青なラグーンが広がる。
 機体が着水する直前、機体の下に伸びたセンサーが海面の接近を知らせるパイロットランプが点灯した。「センサー接水」ズイキが声を上げる。
「降りるぞ」ゲン爺の合図で機体は旅客機らしくスムーズに着水した。不安定さなど微塵も感じさせない。
『見事なものだ』コパイロット席でズイキは感嘆の息を漏らした。
 キャビンクルーが到着の案内を始める。ゲン爺は一旦絞ったエンジンの出力を上げて機体の方向を変え、そのまま真っ直ぐにラグーンの中を進み、ゆっくりと桟橋に横付けした。桟橋で待機していた数人の作業員が近づいてきて係留の用意が始まった。
「エンジン停止」ズイキは4つ有るエンジンを次々と停止した。
 飛行艇は週に2回イルマの首都シンキョウとこのパミラウ諸島の間を往復する。往路はシンキョウから3カ所の諸島の主要都市を経由してこのパミラウ諸島の首都パミラウへ向かい、復路はその逆を辿る。
 戦後、パミラウ諸島を含む周辺の群島は独立した国家ではなくなり、イルマ国の統治領になった。まだリゾートとしての開発は途についたばかりで利用客は採算ラインを満たすにはほど遠かったが、イルマはパミラウが自国の領土であることを世界にアピールするためにもこの航空路を維持する必要があった。
 ズイキは乗客やクルーたちがタラップを降りたのを確認しシャットダウンを終えると、雑務の残るゲン爺を残して機体を出た。
 常夏の太陽はまだ高い。あたりにはクッキリとした透明な風景が広がっていて、潮の香りを含んだ穏やかな風は椰子の葉を微かに揺らせている。いつものようにラグーンの海面は穏やかだ。
『静かだ・・・』ズイキはタラップを降りながら南国の空気を吸い込み、風景に目をやる。
 桟橋の向こう、椰子の木の陰に“あいつ”の姿が見えた。
 ズイキは挨拶のために手を上げようとした。
「カンザキさん!」その時、聞き覚えのある声が自分を呼んだ。
「軍への復帰は決められましたか?」振り返るとシンキョウ新聞のウチヤマが立っている。シンキョウ空港でも声をかけられたことがあるが、悪い印象しか持てない男だ。
「どうしてアタシにつきまとう?」足を止めてしまったことを後悔しながらズイキは訊いた。
「この前、あなたがアイドルだからだと申し上げたはずですが」ウチヤマはズイキの顔を覗きこんだ。小ばかにしたような表情を作ってズイキの反応を待っているのだ。
「もういい!」ズイキは歩き始めようとした。
「オッドアイの話はお聞きになりましたか?」ウチヤマがたたみかける。
 ズイキの足が止まった。
「お聞きになっているようですね」ウチヤマはしてやったりの顔をした。
 ズイキは無言だったが既知であることはすでに態度に出てしまっている。
「どうやらオッドアイは外国人部隊に所属して東域戦線に参加しているようです」ウチヤマはズイキに近づいた。
「確かなのか?」ズイキは諦めて質問した。
「興味は持たれますか?」ウチヤマはズイキの反応を吟味するように言った。
「戦闘機乗りの末路に興味があるだけだ。あんたと同じようにな」ズイキは皮肉を込めた。
「そりゃぁ、興味はありますが、私はもっと他のことを追いかけています。例えばこの無益な戦争が兵士たちにもたらす精神的な影響とか・・・」
「なら、もっと他の誰かを当たるんだな」
「まぁ、そう無下にしないでくださいよ。オッドアイの情報はお話しますから」
 ズイキはしかたがない、という風に溜息をついた。
「セシル・ディ・エーデルワイス・エリザベート・フォン・フォアエスターライヒ、それが彼女の名前です。あ、まずオッドアイが女性であることからお話ししなくてはいけませんか?」
「女だとは認識している。でも、セシル・ディ・エーデルワイス・・・って長いな」
「エリザベート・フォン・フォアエスターライヒ。フォンが付いていることからわかるように彼女は貴族で、フォアエスターライヒ大公の娘ではないかといわれています」
「フォアエスターライヒ大公ってフォアエスターライヒ公国の?」
「ええ」
「王女様なのか?」
「王国ではなくて公国ですのでちょっと違いますが、まぁそのようなものです」
「そんな奴がなぜ戦闘機に乗っている」
「国の上に立つ者は国を守る任務に一度は就くという国是がきっかけのようです。公国は強力な国防軍を持っていましたが、彼女はそこでパイロットとして希有な才能を開花させ、大戦に参戦するとたちまち頭角を現したようです。そして西域でエースとして戦ううちにあなたの噂が耳に入ったのでしょう」
「オッドアイと直接戦ったことはない」
「しかし終戦直後、あなたはオッドアイと邂逅していますね?その時のあなたの報告によるとオッドアイはあなたを相当意識しているようだ」
「なぜそのことを知っている。どこからそんな情報を・・・」
「蛇の道は蛇です」ウチヤマは唇の端をつり上げた。
「それで?」ズイキは先を促した。
「ベクレラ軍筋の情報からもオッドアイが東域戦線に参戦しているのは間違いないと思います。それに、イルマ側にもあなたが西域で目撃されたのと同じように、オッドアイの目撃情報が複数あります。相手を反撃できないまで弱らせてから、わざわざギリギリまで接近して自分がオッドアイであることを見せつけるそうです」
 ズイキは西域の空でのアクロバチックな編隊飛行を思い出していた。オッドアイはわざわざゴーグルを外して自分の顔を見せた。
 ウチヤマは話を続ける。「まるであなたを誘っているようだ・・・だからあなたに白羽の矢が立ったのではないかと・・・」
「ただの想像だろう?」
「軍の動きを丹念に追っていればそういう流れは自然と見えてきます。イルマ軍の損害は甚大で、恐怖で戦意を喪失するパイロットも多いようです。私も対抗措置としては理にかなっていると思います」
「買いかぶりすぎだ・・・戦争は国家という巨大組織どうしの争いだ。アタシ1人でどうにか出来るものじゃないし、オッドアイの影響も限定的なものだ」
「だが、軍としては面白くないでしょうな」
「アタシには関係の無いことだ」ズイキはウチヤマから目を離して歩き始めた。
「では、復帰は無いと?」ウチヤマは食い下がろうとしたがやがて足を止めた。
 ズイキは無視して桟橋を進んでいく。
 桟橋を降りたところにいつものように“あいつ”が立っている。
 “あいつ”はズイキより少し背が高く、やせっぽちの、やや濃い目の肌を持った13歳の少女だ。明るい生成りのワンピースを着て、腰まで届く漆黒の髪を首の後ろでシンプルに束ねている。そして足元には黒い塊、パラパラを連れていた。パラパラはゲン爺の飼い猫で、真っ黒な体と金色の目が特徴だ。もう15年は生きている年老いた雄猫だが、もうすでに化け始めているのか毛並みは艶やかだ。気まぐれで、自分本位にしか行動しない老猫がなぜ彼女に付いてきているのかはわからなかったが、いかにも退屈そうに大きく口を開けて欠伸をした。
 ズイキが近づいてゆくと彼女は大きな眼で見下ろした。その虹彩はまるであのブルーホールのような深い青だ。
「ただいま」ズイキは声を掛けた。
 あいつはゆっくりと微笑んだが、そのままズイキの背中越しに焦点を合わせて固まった。
 ズイキが振り返る。
 ウチヤマが手に持った小型カメラのシャッターを切る瞬間だった。

2021.01.19
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