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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 
★作品へのリンク!&お願い!
 
 

更新です!

今夜は「ふたつの旅」という掌編をUPしようと思います。
まったくの新しいキャラクターで展開するストーリーで、これまでの作品と関連性はありません。
ですから、新しいカテゴリー「アリスシンドローム」を設けました。
読んでくださる方はすこし首を捻りながら読み進められるのではないかと想像していますが、これは現実世界から仮想世界へと途中で変化していく展開だからです。

さて今回の主人公は“アンナ”、やはり女性なのですが、どんな人物なのでしょう?
そして語り部の“僕”、いつものように弱っちい男なのかな?
2016年に行ったスペイン旅行の思い出も織り込んだ物語、よろしければ下のリンクからお進みください。
ふたつの旅

そしてこれが今年最後の更新になると思います。
皆様、今年も変なブログ「Debris circus」、そして変な物書き、先とサキにお付き合いくださいまして本当にありがとうございました。
新年も相変わらず変なブログのままですが、どうかよろしくお願いいたします。
新しい年が皆様にとって(そしてサキたちにとっても)希望に満ちた良き年であることを願っています。

この作品をUPしたら33333HIT企画に取り掛かる予定です。
まず、八少女夕さんからのお題、黒磯パパ、べスパ(スクーター)、仮面でしたね。
おせち料理とお酒をほんの少し、コタツでいただきながら考えようと思います。
ではまた年が明けましたらお会いしましょう。
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テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

ふたつの旅

 巨大なモノクロームの絵画が床に平置きにされている。高さ137 in、幅× 306 in、多くの世界的な名画を収蔵することで有名なこのプラド美術館でも最大級の作品だ。
 僕を含む数名の修復士(コンサバター)が学芸員と政府担当官の監視のもと、慎重に作業を進めていく。最初は絵のふちに沿ってゆっくりと動きながら、次はホイストを使って絵を壁に立てかけて、中央部は細かく位置の調整できるリフトに乗って、顔の前に固定できる拡大鏡を駆使して状態を確認していく。
 3時間以上をかけてチェックを終えた僕らは、その場で分厚いコンディションレポートを作成し、それを学芸員と担当官が確認した。
 学芸員は詳細に内容を読み込み時間をかけてサインした。
 担当官は軽く書面を眺めてから、重々しい表情で書類にサインをし、絵を収蔵庫に戻すよう指示した。
 絵はストレッチャーに載せられ、ゆっくりと移動を始める。そして、一般に広く公開されている本館とは完全に切り離された別館の、それもその最深部、最新のエアーコンディショニングシステムとセキュリティーシステムに守られ、厳重なテロ対策が施された収蔵庫に戻された。
 絵はこのまま封印され、1年後に次のコンディションチェックが行われるまで、誰の目に触れることは無く眠り続けるのだ。
 分厚い扉が重々しく閉じられ電子ロックが掛かると、僕らは気の張る作業からようやく開放された。
「一杯やりたい気分だな」勤務の終了が迫っているせいもあって、チーフのホアンが軽口をたたく。
「このあいだいい店を見つけたんですよ」同僚のフェデリコが合いの手を入れる。
「前に行った店とは別の店か?」チーフはすっかり乗り気だ。
「お前も行くよな?」フェデリコが誘ってきた。
「いや、今日は遠慮しておくよ」僕は淡白に返答する。
「珍しいな?女か?」
「まぁ、そんなようなものだ」僕が話に乗らなかったので、話題は店の選定に進んでいった。

 数日前のことだ。携帯端末の呼び出し音に眠りを邪魔された僕は、布団の中から手だけを出して端末を探り当て、着信ボタンを押した。
「元気だった?」
 僕は突然の日本語に驚いたが、一瞬で頭の中を日本語に切り替えて応えた。
「どなたですか?」
「あたし、あたしだよ。わかる?」聞き覚えのある声だ。微かに感じられる関西弁のニュアンスが僕の推測を補強する。
「アンナ!アンナなのか?」僕の眠気は一瞬で吹き飛んだ。
「ご明察!」やはりアンナだ。
「どこからかけてるんだ?」
「内緒。でもそんなに遠くないところ」
「ヨーロッパに居るのか?」僕は勢い込んで訊いた。
「内緒だって言ったじゃない」
「ごめん。でも元気そうだな?」
「まあね。あなたの方こそ、なかなか凄い仕事に付いているみたいじゃない」
「そんなことないさ」
「あなたがそこに居るってことが、その凄さの証明だと思うよ。そうでしょ?」
 僕は黒曜石のような、何もかもを見透すような瞳で覗き込んでくるアンナを想像した。
「ありがとう。君のお陰だ」僕はそうされるのが苦手だったから、目を逸らす自分を想像しながら礼を言った。
「あたしの?どうして?」
「この仕事に就くきっかけは君に貰ったんだ」
「あの店でのこと?」
「憶えてるんだ」
「そんなところで働いているんだから、ひょっとしたらとは思ってたけど。何がきっかけになるかなんて、誰にもわからないものなのね」
 僕はアンナの記憶の中に、あの店での出来事が残っているのを知って嬉しくなった。

 ☆;+;。・゚・。;+;☆;+;。・゚・。;+;☆;+;。・゚・。;+;☆;+;。・゚・。;+;☆

 黒い髪は耳の下の位置で潔くカットされている。
 薄くて形の良い唇は少しの微笑を湛えて軽く結ばれていて・・・。
 上を向いた小さな鼻は白い顔の真ん中にチョコンと収まっている。
 太めの眉の下では、黒曜石のように輝く黒目がちの大きな目がこちらを向いている。
 だが、その目は僕を見ていない。
 その目は僕の肩越しにどこか遠くを見つめている。
「あれ、ゲルニカやん」結ばれていた唇が動いた。

 火曜日と木曜日の放課後はいつもそうだったが、僕らは少し離れて校門を出ると駅まで歩き、電車に乗った。
 まだラッシュには早い時間帯だから、車内は比較的すいている。
 僕らはドアを挟んで両側に立ち、黙り込んだまま流れて行く景色を眺めている。
 そしていつもの駅で電車を降りると、そのまま微妙な距離を測りながらゆっくりと歩き、ガード下にあるパスタとピザの店に入った。
 最初は彼女がこの店に連れてきてくれた。彼女は、制服のまま気兼ねなく入れる店を幾つか知っていて、この店もその1つだった。
 そこで僕らは1時間程度を過ごし、腹ごしらえをした。
 中途半端な時間帯だから比較的空いているし、壁際のテーブルだと目立つことも無く、店主や店員も細かい事を気にする様子も無い。そしてなにより、金のない高校生でも入れるぐらいリーズナブルな店だった。

 僕は杏奈の視線の先を振り返った。
 振り返った先、隠れ家のように仕切られた店の薄汚れた壁に、一枚のイラストがかかっている。
 そのイラストはモノクロで、奇妙な形にデフォルメされた人や動物や、よく分からない様々なものが重なり合い、ひしめき合って描かれている。
 僕は見てはいけないものを見てしまった子供のような気持ちになって、慌てて視線を元に戻した。
「ゲルニカって?」
 どこかで聞いたことがある。僕はそう思いながら質問した。
「ピカソの絵、知らんかった?」杏奈は僕の目を覗きこむ。
「ああ、ピカソ」それは妙に納得のいく答えだった。
「見た覚えはあるよ。ピカソやいうのは知らなかったけど」僕は杏奈に覗きこまれるのは苦手だったから、視線を逸らしながら言った。
「美術の教科書に載っとったからとちゃう?本物はもっと大きいゆうのは知っとお?」
 僕は小さく首を横に振った。
「高さ349 cm、幅777 cm」
「そんなに大きいんだ」僕は少し驚いて言った。
「タイトルはゲルニカゆうんやけど、なんでか知っとお?」
 僕はまた小さく首を横に振った。
 ふう、杏奈は小さくため息をついた。
 そのタイミングで注文していたパスタが運ばれてくる。
 小腹の空いていた僕がさっそくフォークを付けるのを見届けてから、杏奈はフォークを取った。
「ゲルニカはスペインの町の名前。1937年4月26日ナチスドイツに無差別爆撃された町」
「無差別爆撃・・・日本が受けた空襲みたいな?」饒舌な杏奈は歓迎だったので、僕は質問を返した。
「そう、第二次世界大戦の前のスペインは内戦状態で、王政を倒して民主的に成立した共和国と、王政復古を主張するフランコ将軍の反乱軍とが戦争をしていたの」
「内戦」少なくとも僕の頭の中には無い知識だった。
「フランコ将軍はヒトラーやムッソリーニと同じファシストやったから、ドイツとイタリアは彼を支援してて、共和国軍の方はソ連の支援に加えて欧米市民や知識人もたくさんの人が義勇軍として参戦してたの」
「義勇軍?」
「戦争のボランティアみたいな感じかな?自分の信条のために戦争に参加する・・・現代では考えられへんよね。ヘミングウェイとかも参加してたみたいやけど」
「ヘミングウェイ、老人と海の?」
「知ってるんや!彼の“誰がために鐘は鳴る”はスペイン内戦を舞台にした作品やで」杏奈の顔が輝いた。
「ふ~ん」その作品を読んでいなかった僕は曖昧な返事をした。
「そんで、戦況を有利に動かしたかったドイツ軍が共和国軍の拠点の1つやったゲルニカの町を無差別に爆撃したの。ピカソは空爆に相当ショックをうけたらしくて・・・ピカソがスペイン人やいうのは知っとお?」
 僕は曖昧に頷いた。
「ゲルニカはその時の怒りを表現したもんやと言われてる」杏奈は器用にフォークを回してパスタをからめ取ると口に運んだ。
 僕は改めて振り返り、その小さなゲルニカを眺めた。
 描かれているものは僕には到底理解出来そうもなかったが、その絵からは不快感と共に、何かしら得体のしれないエネルギーが立ち昇っている。この小さな複製でさえそんな風に感じるのだ。実物を前にしたとき、どれくらいの衝撃を受けるのだろうか。
 食事を続けながら杏奈は話を続けた。
「ピカソはパリでその爆撃のニュースを聞いて、一気にこれを書きあげたの。完成した絵はパリ万博の、まだスペイン共和国のパビリオンやったスペイン館に展示されたんやけど、そこへドイツの駐在武官がやってきて、ピカソに『これはお前が書いた物か』ゆうて訊いたの。ピカソはなんて答えた思う?」黒曜石のように輝く瞳が覗き込んでくる。
「さあ・・・」そんなことわかるはずがない、僕はそんな顔をしていたと思う。
「ピカソは『これはお前たちが書かせたものだ』ゆうて答えたんやて・・・」
 杏奈は反応を確かめるように僕の顔を覗きこんだまま続けた。
「スペインの内戦は結局フランコ将軍が勝って、スペインは独裁国家になたんやけど、フランコ政権はヒットラーやムッソリーニの政権が倒されて無くなった後もしぶとく生き残ったの。フランコを貶めたり反発したりする発言、たとえばピカソの名前を出しただけでも秘密警察がやって来る、そんな時代が続いとったみたい。せやからゲルニカはスペインには戻らないで海を渡って、ずっとニューヨークに展示されてたの。スペインが民主化されるまではゲルニカをスペインに返還してはならない、これがピカソの意思やったから・・・」
 僕が黙って頷くと杏奈は話しを続けた。
「1975年にフランコが死ぬと、共和国に追放された王の孫で、フランコの影響下で帝王学を学んだフェルナンドがフランコ体制を引き継いだんやけど、王政になった今も圧制は続いてる」
 杏奈はパスタをフォークに巻いては口に運び、咀嚼しながら続けた。
「フェルナンドは圧制を続けながら上手く立ち回って、各国の批判をかわし、体制の支持を取り付けることにも成功したの。だから、この絵は今スペインへ戻ってて、プラド美術館のコレクションに加えられているの」
「ピカソの意思は無視されたってこと?」僕は愕いて訊いた。
「表向きは民主化したように見えているし、アメリカも各地で戦争を始めてしまって、ゲルニカが反戦のシンボルとして国内にあることが邪魔になったんやね。美術館は猛反対したんやけど、最終的には逆らえなかったみたい。だから、あの絵はもう一般の人の目に触れることは無い。自分たちの愚行に触発されて描かれた絵やもん、永遠に封印しておきたい。これがフェルナンドの思惑やろうから」カチン、杏奈は握り締めたフォークの柄でテーブルを叩いた。
 僕は杏奈の手元から、その厳しい表情へ視線を上げた。
「でも、観てみたいなぁ・・・」杏奈は一瞬遠いところを見ていたが、チラリと腕時計に目をやり「あ、時間無いわ」と再びパスタを口へ運び始めた。
 僕は彼女が食べ終えるまでその絵を眺めていた。何処かから、始めは僅かに、そして少しずつ量を増しながら、得体の知れない感情の湧き出しが始まっていた。

 杏奈は駅ビルにある懐石料理屋でアルバイトをしている。大急ぎでパスタを詰め込むと、半分ぐらいの笑顔を僕に向けて小さく手を上げ「バイバイ、またね・・・」とバイト先へ向かった。
 1人残された僕は塾をサボることにして、夜のガード下をだらだらと、店を覗きながら駅へ向かった。僕はもう17歳だったがアルバイトどころか自分で金を稼いだこともない。衣食住は完全に親に頼り、それなりの額のお小遣いまで貰っている。勉強にも身が入らず、志望校も今の成績で入れる学校をあてがって貰えればそれでいい・・・そんな風に考えていた。
 杏奈はまだ16歳だったが、僕とは全く違っていた。
 何をしたいのか、どういう方向へ進んでいきたいのか、僕にはっきりと打ち明けたし、そこへ向かうためにはどういう知識を得れば良いのかも心得ていた。そしてそれを実現するために惜しまずに努力した。
 その上、学費を補うためにバイトまでやっていた。母子家庭で金銭的な余裕がなかったのだ。
 そんな杏奈が何故僕なんかと連(つる)んでいるのか、理由は全くわからなかった。
 僕は自分がいったいどうしたいのか、あるいはどうしたらいいのか、答を見つけだせないまま、港の方へ方向を変えた。
 塾に行ったことにするためには、時間を潰す必要があったし、その得体の知れない感情を整理するには、さらに時間が必要だった。

 ☆;+;。・゚・。;+;☆;+;。・゚・。;+;☆;+;。・゚・。;+;☆;+;。・゚・。;+;☆

 階段を上って木立の間を抜けると広場に出る。広場の向こうには大きな池が広がっていて、その池の向こうの充分な高さの台座の上からは、この国一番の小説家の像が僕を見下ろしている。そして台座の足元には槍を持ち馬に跨った騎士と、ロバに乗った彼の従者の像が置かれている。
 時間は午後7時前、待ち合わせの時間にはあと5分ほどある。僕は広場の端にあるアンナの指定したベンチに腰をかけた。
 太陽はまだ西の空にあって辺りは昼間のように明るい。
 時間的には遅いので観光客の姿は無く、犬を連れて、カップルで、ジョギングをしながら、いかにも地元の住民然とした人々が通り過ぎてゆく。
 約束の時間になった。10分、20分、30分、一時間・・・彼女が現れないまま時間は過ぎてゆく。
 夕闇が迫り、街灯が点き、夜の帳が辺りを覆い始める。
 僕はベンチに座ったまま彼女との思い出や電話での会話を何度も反芻したが、考えれば考えるほど彼女がなぜ僕に会おうとしているのかがわからなくなった。そして、その疑問に比して好奇心は掻き立てられ、会うことを諦めるという選択肢は消えていった。
 僕は腕時計に目をやった。
 午後9時を回ったところだ。
 腕時計から目を戻したその瞬間、呼び出し音がなった。
 僕は慌てて自分の端末を取り出す。
 鳴っていない。そういえばこの音は僕の端末の呼び出し音ではない。
 音は他のところから聞こえてくる。
 後ろだ!僕は体をひねって自分の座っているベンチの背もたれの裏側を確認した。
 そこには携帯電話が両面テープで貼り付けられていた。
 僕はそれを剥がし取ると着信ボタンを押した。
「もしもし」日本語で応答してみる。
「ごめんなさい、行けなくなった」アンナの声だ。
「どうして?」
「あなたが監視されているから」
「監視?どうして僕が?」
「公安警察よ」アンナは事も無げに言った。公安警察とは治安維持のための警察組織だが、僕はそんなものに監視される覚えは無い。
「いったい君は・・・」
「元気そうだね」僕の問いにかぶせるようにアンナは言った。
「ああ、元気にやっているよ。アンナは?」
「あなたはあの頃とあまり変わってないね」
「見えてるのか?」僕は辺りを見渡した。
「あたしからはね」
「どこにいるんだ」池の向こうには大きなホテルが建っていて、たくさんの窓から明かりが漏れている。あのうちのどれかだろうか?
「キョロキョロしないで、何でもない通話をしているという風に・・・」
「わかった」僕はゆったりと座り直してポーズを作った。
「今日の仕事は首尾よくいったのかしら?」
「コンディションチェックのことなら異常はなかったよ」
「ゲルニカの?」単刀直入にアンナは訊いてきた。
「それについては言えない」
「わかった。それはこっちで勝手に解釈する。問題は無かったのね?」
「状態は決して良いとは言えないが、コンディションは維持されている」
「よかった。それを聞いて安心した。でもそんな貴重な絵のチェックにも係われるんだ。すごいね」
「同僚の中でも比較的経験を積んでいるほうだからね」
「あの店に飾ってあったあの小さな複製がきっかけだったとしたら、あそこからここまで、きっと凄い旅だったんだろうな」
「旅?そうだな、そういう風にたとえるなら刺激的な旅だったな。君の旅はどんな・・・」
「直接顔を合わせたかったな」また僕の問いにかぶせるようにアンナは言った。
「僕もだ」
「今度はあの絵の前で会おう」
「いや、あの絵は・・・」
「案外そういう時代は早く来るかもしれないよ」
「それは、僕も願っているけれど、君は・・・」
「残念だけど、そろそろ切り上げましょう」やはりアンナは僕の問いには答えない。
「え?もう・・・」
「その携帯は持っていても面倒だから、前の池に放り込んで」
「わかった」有無を言わせぬ口調に僕は了解の返事をせざるを得ない。
「バイバイ、またね・・・」
「アンナ・・・」僕は何かを伝えようとしたが、一瞬の間のあと電話は切れ、彼女は空間の彼方へと消えた。
 僕は半分ぐらいの笑顔を僕に向けて小さく手を上げるアンナの姿を思い浮かべたが、いまは違っているのだろうか?
 僕はベンチから立ち上り、ゆっくりと池の淵に向かった。
 そして、大きく振りかぶると、携帯電話を池の真ん中に向かって放り投げた。
 携帯電話は小さな飛沫を上げて姿を消した。

2018.12.28

テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

初めてのお使いと作品のUP

 先日(12/18)のことですが、サキは生まれて初めてのコンサートに出かけてきました。
 先に外せない予定があったため、サキ1人で行ってきました(ですから「初めてのお使い」というタイトルなんですね)。
 ネットで予約して(最後の2席のうちの1席でした)、コンビニでチケットを受け取り(先が受け取ってきたのですが)、とても楽しみにしていました。
 でもね、人生初の生ピアノにフジコ・ヘミングを選んだと言ったら、先は初めてならもうちょっとメジャーな演奏家の方が良いんじゃないか?と言うのです。
 フジコ・ヘミングは、もちろん世界的な素晴らしい演奏家ですし、先的にもとても興味を持っている演奏家らしいのですが、評価される方は物凄く賞賛されるけれど、そうでない方もいらっしゃる。けっこう好かれ嫌われの激しい演奏家みたいなんですね。
 でもサキは頑固者ですので、そんなことを言っても無駄ですし、それに天邪鬼ですからねぇ・・・。

 演奏はもちろん素晴らしかったのですが、サキにはそれについてコメントするだけの経験も知識もありません。
 ラ・カンパネラのキンキンキンという金属的な音がとても印象に残りましたが、まぁそっちの方面は良くご存知の方にまかせるとして、サキは演奏以外で印象に残った事を一つ書いておこうと思います。

 演奏が終わってお辞儀をした後、1人の女性が花束を持って舞台下に駆けてきたんです。フジコ・ヘミングは足を痛めているので(演奏の合間のトークでそう言っていました)、ピアノの傍で立っていたのですが。その女の人は『そこで結構ですから』という風なジャスチャーをして舞台の一番前に花束をそっと置いたんです。その時は、だれかスタッフが取りに来るのかなと思っていたんです。
 フジコは暫くそのまま立っていたのですが、やがて一歩づつゆっくりと舞台を前に進んで花束に近づき、そう~っと腰を屈めて花束を取り上げたんです。
 ところがその花束からポロリとメッセージカードが落ちてしまったんですね。
 するとフジコはまたそう~っと腰を屈めて、カードを取り上げたんです。
 その瞬間、大きな拍手が会場を包みました。
 フジコの人間性を垣間見た思いがして、ファンになっちゃいましたよ。

 さて、今夜はこのエピソードをエスに置き換えたとても短いお話です。
 演奏について語る資格は無いので触れていませんが、感じたことを最後の方で少しだけ・・・。
 よろしければ下のリンクからお進みください。
 ファースト・フェスティバル

追伸:年末までにもう一つ作品をUPする予定です。読んでいただければ嬉しいです。
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ファースト・フェスティバル

 北新地駅で電車を降りてドーチカ(堂島地下センター)に出ると、そのまま南に向かって歩く。立ち並ぶ飲食店の誘惑をかわしながら黙々と歩き続け、ドーチカの南詰めで地上に上がり、四ツ橋筋を南進、渡辺橋の北詰から阪神高速をくぐる。エスはそこで初めて立ち止まり、空を見上げた。
 橋の向こう、中ノ島には双子のような高層ビルが二本並んでそびえている。
 中ノ島フェスティバルタワーだ。
 しばらくの間、お登りさんのようにそれを見上げていたエスは、追い越してゆく人々のほとんどがその左側のタワーに向かっているのを見ると、慌てて歩き出した。
 人々は「festival hall」と書かれた入り口に吸い込まれてゆく。エスもその中にまぎれて入り口をくぐった。

フェスティバルホール2

 入り口を入ってすぐは大きな吹き抜けのエントランスホールになっている。ホールの奥は2階までまっすぐに上ってゆく赤い絨毯を敷いた幅広の長い階段だ。平行してエスカレーターも設けられているが、エスはもちろん階段のほうを選択して、ゆっくりと上って行く。

 上がった先はエントランスホワイエだった。クロークに嵩張る上着とマフラーを預け、エントランスホワイエを右手に進むとチケットのチェックがあり、そこでプログラムを受け取る。

フェスティバルホール3

 左側では商魂たくましくCDやDVD、書籍等が販売されていて、雰囲気につられたのかエスは会場限定盤のDVDを購入した。
 エントランスホワイエを突き当りまで行くと、右側に5階まで続く長いエスカレーターが現れる。傾斜は穏やかだが、天井は低く、190センチあったら頭がつっかえるんじゃないと思えるほどだ(もちろんエスは余裕綽々だ)。照明も暗めに設定されているので、これから始まる公演への期待感を高める演出なのだろう。

フェスティバルホール4

 予想通りエスカレーターを降りた先は、天井の高い吹き抜け空間、メインホワイエだった。暗くて天井の低いエスカレーターを上ってきたゲストは、この開放感溢れるホワイエに導かれるようになっているのだ。

フェスティバルホール5

 エスはやはり上を見上げ、しゃれたデザインの照明や、外の光が漏れ込むスリットウィンドウに目を向けた。
 席は1階(4・5階)のやや後ろよりだったが、エスはホワイエの階段を下り、1階席の右手中央から客席に入った。

フェスティバルホール7

 茶系の彩色が施されたたくさんの反響板が舞台を囲み、舞台の前方には座面を赤で統一された客席が彼方まで続いている。
 そして照明に照らされた舞台の中央にはピアノ(Steinway & Sons)が鎮座していた。

フェスティバルホール6

 客席は満席のようで、空席はほとんど見当たらない。ホールはざわめきに満たされていて、開演を待つ人々の興奮が伝わってくる。
 エスは扉を入ったところで暫くじっとしていたが、やがて辺りを見渡しながら、他の観客の邪魔になりながら、そしてやっぱり2階席3階席と天井を見上げながら、ようやく自分の席に着席した。
 やがて小鳥の鳴声が聞こえ始め(どうやらこれが開演の合図のようだ)アナウンスが流れる。人々が慌てて着席し終わるかどうかの間合いで客席がスゥ~ッと暗くなる。

 舞台袖のドアが開く。
 割れんばかりの拍手が巻き起こる中、ひらひらの赤いドレスを着た老女が、ダークスーツの男性にエスコートされて登場した。
 軽く支えられながら、ゆっくりとピアノに近づいてゆく。(彼女は後ほどトークの中で「足を痛めている。ひどい目にあった」と語っている)
 老女はピアノにたどり着くと観客に向かって頭を下げた。
 拍手はいっそう大きくなる。
 老女はピアノの椅子に座り、少し位置を修正してから鍵盤に指を触れる。
 一瞬で訪れた静寂の中、コンサートの第一音が響いた。
 長い経験に裏打ちされた。誰にも有無を言わせない彼女の音だった。


「私はミスタッチが多い。直そうとは思わない。批判する方が愚かしい」 Wikipedia フジコ・ヘミング「語録」より

2018.12.20
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33333HITに到達しています。(12/27追記しました)

 このブログ「DebrisCircus」は2011年10月1日にスタートしていますから7年少々での到達です。
 ブロ友の皆様方のブログに比べるととてもスローなペースなのですが、サキが発表する奇妙な作品群のことを冷静に考えれば、まぁこんなものだろうと納得しています。
 自分で言うのも何ですがまさに“Debri”的な作品群ですね。7年間書き続けてきて、皆さんの作品を読ませていただいて、最近余計にそういうふうに感じるようになっています。特に短編群は自分勝手な(マスターベーション的な?)作品ばかりが並んでいいるように感じます。自己嫌悪です。
 ですから、覗いてくださった皆さんを始め、お付き合いいただいた皆さん、そしてコメントをいただいた皆さん、さらに読後の感想をいただいた皆さんには感謝しかありません。
 本当にありがとうございました。そしてこれだけ書いておいてなんですが、これからもよろしくお願いいたします。

 さて、リクエストをいただいています。
 ありがとうございます。
 目標の3人の方からいただけたので、書く方の心配は置いておいて、とりあえずホッとしています。

 リクエストはまず八少女夕さんから、
> サキさんのキャラからは「黒磯(パパの方)」
> キーワードは「Vespa (Piaggioの)」「仮面」の二つでお願いします。
とのことです。
 「Vespa」はまだいいとして「仮面」はどう組み込もう・・・。

 続いてTOM-Fさんから、
> 『サキさんのキャラおひとり』と、『私のキャラのひとり』で、『三つのなにかを一緒に探しだすストーリー』をお願いします。
> 三つのなにかは、なんでもかまいません。モノでなくてもいいです。
とのことです。
TOM-Fさんのキャラはアクティブなキャラが多いので、さてどうしましょうか?“三つの何か”も難しそうですよ。

 3人目は大海彩洋さんから、
>リクエスト、悩んだのですが、私もお題3つにしました。キャラはもしかして絡められたら、で良いですし、できれば新しい世界も見たいので。
>あ、出来れば、現実ワールドでの物語で。
>お題は、「いとこ同士」「鍵」「ピアノ」です(o^^o)
>よろしくお願いします~
とのことです。
むむ、現実ワールドですか、逃げ道を塞がれましたね。
「いとこ同士」って微妙な関係だし・・・。
頑張ります!!!

 お二人とも出かけておられるようですね。
 TOM-Fさんはご出張?
 大海さんはパンダツアーでしょうか?あれ?お仕事もかねてる?
 リクエストをお待ちしています。

 3人の方からリクエストをいただいて安心したせいか、欲張る気持ちが出てきました。
 もうお一方、リクエストを受け付けようと思います。
 よろしければどうぞ。
 今年いっぱいくらいお待ちして、リクエストが来なければそっと終了しようと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。
・・・とお願いしていたら、limeさんからリクエストをいただきました。ありがとうございます。
> キャラを指定せずに、お題を三つ、入れさせてもらいますね。
> 「涙」「バイク」「キャンディー」で、どうでしょう。
とのことです。
 コメ返でも、書かせていただいたのですが「バイク」ときたら彼女でしょう?なんて。
 さてどうなりますでしょうか?お楽しみに!
 といいながら、勢いでリクエストを4つもいただいてしまいました。サキは遅筆なので時間をいただくことになると思います。
 見捨てずに気長にお待ちくださいネ。

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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。
ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
イラストをクリックすると記事に飛びます。よろしければご覧くださいネ!
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