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Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 
★作品へのリンク!&お願い!
 
 

【2019オリキャラオフ会】参加作品の2回目発表です。

大海彩洋さんと、ちゃとら猫&マコト幹事で開催中の「【2019オリキャラオフ会】豪華客船の旅」の参加作品の2回目です。
offkai.png リンク : 2019オリキャラオフ会へのご案内

 時系列は、夕さんが発表された「豪華客船やりたい放題 - 5 -」の後に入ります。
 サキのところのキャラクターをシスカのヘリで送り込んで後は放置・・・のつもりだったのですが、なんとかこっちの方で纏まったので発表してしまいます。
 オフ会に参加されている皆さんのキャラクターをできるだけたくさん使いたかったのですが、ちゃんと読み込んでいないと上手く使えないんですよね。たとえチラリと登場するだけでも、どんな容姿で?などと考え始めるだけで上手く動かなくなってしまうんですよ。なかなか難しいものです。
 この作品では、夕さん所のおなじみのキャラクターに加えて、TOM-Fさんの所からお2人、大海彩洋さんの所からお1人、あ、1匹か・・・登場いただきました。サキが読み込んでいるキャラクターばかりですね。
 他にもチラ見せだけなら登場いただけたかもしれないのですが、今回は諸事情から(ようするにリサーチ不足です)断念しました。お許しください。ウゾさんの所の人形さんなんか、シスカと共演させてみたかったです・・・。
 もっと大勢の皆さんの作品を読むことが出来ればいいのですが、自分の作品も書きたいですし、読むことにも書くことにも時間がかかってしまうサキには、なかなか辛いものがあります。
 サーッと読んで内容が正確に理解できて、パパッと要領を得た感想やコメントが書けたらいいのになぁ・・・。

あ、よろしければリンクからどうぞ!

「シュレーディンガーのこねこたち 2」
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テーマ : つぶやき    ジャンル : 小説・文学
 
 

シュレーディンガーのこねこたち 2

 航海はすこぶる順調だった。
 全長700メートルにも及ぶ超大型客船には揺れなどという物は存在しない。
 自分が今船に乗っているなどという意識は、ともすれば消えてしまいそうになるほど快適だ。
 ミクは船内のカフェテリア「アキレスと亀」のホールの隅、仕切り板の陰に目立たないように立っていた。ホールは、エンタテイメントと食事を求める客でほぼ満席だ。
 今日のステージはミクにとって満足のいくものだった。快適な船旅でコンディションは万全だったし、素晴らしい伴奏と暖かい拍手や歓声はミクを高揚した気分にさせた。ステージを終えた後もミクの体幹は温度を下げようとはしなかった。

 ミクのあとは、女性ボーカルがステージを勤めている。
 少しハスキーな声が魅力的だ。
 濁りの成分を含んでいるのに透明で、伸びやかで、冷涼で・・・それでいて人間的な温かみが感じられる・・・不思議な歌声だった。
 彼女は自分をこの船まで運んだヘリコプターのパイロットで、たしかシスカといったはずだ。
 まさか歌手だったとは。 
 ミクは控え室へ戻るのも忘れて聞き入っていた。
 ミクの傍にはさっきまで伴奏してくれていたフルートの女とギターの男が並んで立っている。
「いいな」男が横に立つ女に日本語で言った。
「そうね。聞いた事のない歌手だけど、聞かせるわ」女が日本語で答えた。
「ヴィルも気持ちよさそうに弾いてるしな」男が言った。
 ミクのステージではこの2人と金髪のピアニスト3人で伴奏してくれたのだが、シスカにはそのピアニスト1人だけが付いている。なるほど、彼女が歌う素朴な曲にはそのシンプルな伴奏の方がマッチしている。ピアニストも、うっとりとした表情で演奏を続けている。
 傍に立つ日本人の2人と金髪のピアニストの彼は、もう1人手品を得意とする男を加えて4人でチームを組んでヨーロッパを大道芸でまわっている。演奏前の打ち合わせではそう紹介された。大道芸?ミクは訝ったが、ほとんど打ち合わせをする時間が無かったにも関わらず、彼らの伴奏は満足のいくものだった。彼らが一発で合わせてくれたのだ。なぜこの4人で組んだのか、なぜ大道芸なのか、なぜこの船で仕事をしているのか、いわくは色々ありそうだが、彼らは演奏家として一流だとミクは評価していた。
「エストレーラさん。あなたの感想は?」1曲目が終わったとき、突然女から日本語で尋ねられた。
「あ、ええ、素晴らしいと思います」突然のことで戸惑ったが、ミクは日本語で返答した。ミクの素性は知れているようだ。
「私は蝶子、こっちはヤス、まだ名乗ってなかったわね」ヤスと呼ばれた男が軽く頭を下げた。
「そうですね。私はミク・エストレーラ、ミクとよんでください」
「あなたのことは知っているわ。新星ディーヴァ現るって評判よ」
「そんな。それより蝶子さん。素敵な伴奏をありがとうございました」
「そういってくださると嬉しいわ。ミクさん」蝶子が微笑んだ。とても魅力的な微笑だった。
「今、シスカさんの伴奏をしているのがヴィル、私の夫よ」
「そうなんですか?素敵な旦那さんですね」
「まあね」蝶子は否定しなかった。
「そしてもう1人レネがいるんだけど・・・」蝶子は辺りを見渡す。
「4人でヨーロッパを大道芸でまわっているというのはお聞きしました。蝶子さん、ヤスさん、ヴィルさん、本当にすばらしい演奏家です」ミクは熱っぽく語った。そして「あ、レネさんは歌声しか聴いてないけれど、彼の歌声も素晴らしいですね」と付け加えた。
 2曲目が始まった。
 3人はホールの隅でシスカの歌声に耳を傾けた。

 シスカは5曲を歌い終えるとステージを終えた。
 湧き上がる拍手の中、深々と頭を下げると、そのプラチナブロンドが揺れる。
 お辞儀を終えて顔を上げるとライトブルーとブラウンのオッドアイが輝く。
 満足そうに微笑んで、ピアニストの方へ腕を差し伸べた。ヴィルは立ち上がって拍手を受ける。
 ビジュアル的にも歌姫の要素は充分だ。ミクは溜息をついた。溜息には嫉妬の成分が多分に含まれていた。

 シスカとヴィルがステージを降り、ホールが落ち着きを見せ始めた頃、次のステージが始まった。
 ホールスタッフ2人がキャスターに乗せた大きな箱をホールの真ん中、客たちの目の前に静々と運び入れた。箱は艶のある黒に塗られており、人が1人横たわって入れるほどの大きさはまるで棺おけのようだ。
 2人のスタッフはそのままホールから下がり、大きな箱だけがそこに残された。
 ほぼ満席の客たちは何が始まるのだろうと興味津々で覗き込む。
 と、箱が細かく振動し始めた。
 人々は固唾を呑んでその様子を見守っている。
 ホールが静まり返ると、微かに、そしてやがてはっきりと、カタカタ・・・という音まで聞こえてくる。
 突然箱の蓋が開いた。
 息を呑む雰囲気と同時に小さな悲鳴上がる。
 箱の中から男が体を起こしたのだ。
 男はそのまま足を曲げで箱の中で立ち上がると両手で箱の淵をつかみ、その反動を利用して箱から床の上に飛び降りた。
 優雅にお辞儀をする。
 一拍置いてから拍手の波がやってきた。
 男は真っ黒なパンツを履き、真っ白なシャツを着ている。サングラスをかけて演出しているが、その下の童顔は隠し切れていない。体格も線が細くどこか頼りなげだが、それとは裏腹にマジックには自信を持っているのか、動作は落ち着いていて、どことなく風格まで感じさせる。
 ミクはその勢いと雰囲気に圧倒されて見ていたが、よく考えてみればこの登場の仕方はマジックでもなんでもない。最初から箱の中に入っていればこれくらいのことは子供でも出来る。
 観衆もそれに気が付いたのか拍手はだんだん弱いものになり、雑談の声が辺りを包み始めた。
 男は優雅なお辞儀を終えるともったいぶって箱を閉じた。
 ゆっくりと見回し、観客の衆目を集めてから、指を3本頭の上に高く掲げる。
 やがてそれを2本にし、ゆっくりと1本にした。最後の指を下ろすと男は箱をポンと叩いた。
 箱の蓋がゆっくりと持ち上げられる。隙間から何かが動いているのが見える、もう少し開くと、どうやらそれは何か動物の耳のようだ。蓋と箱の隙間で動いている。やがてそれは蓋を大きく押し上げて姿を現した。
 幼い女の子の頭だった。金髪の巻き毛に一対の猫耳を付けている。ライトブルーのその瞳はオドオドと様子を伺っていたが、やがて立ち上がった。
 拍手が沸き起こり、それはすぐに歓声に取って代わった。
 もう1匹、いやもう1人立ち上がったのだ。続いてもう1人。少し遅れてもう1人。
 4人の少女が箱の中から現れた。4つ子のように4人とも金色の巻き毛、ライトブルーの瞳で、ふくよかな丸い顔をしている。4人とも同じフリフリの白いドレスを着て猫耳を付けている。そして最後にもう1人、いやもう1匹、本物の茶トラ猫まで飛び出してきた。
 ニャー、挨拶のつもりだろうか、右の前足を上げ観客を見渡しながら泣き声を上げた。
 拍手が大きくなった。割れんばかりの拍手とはこのことだろう。
 すっかり喰われちゃったな・・・ミクは傍に立つ蝶子と顔を見合わせながら、思い切り拍手を送った。ヤスは指笛も鳴らしている。
 そういえば、難解な物理学の思考実験にシュレーディンガーの猫というのがあった。確か箱の中に入れた猫の生死は箱を開けてそれを観察した瞬間に決定する・・・、そんな訳の分からない思考実験だった。きっとそれをモチーフにしたマジックなんだ。ミクはマジックの演出をそのように解釈した。
 男は拍手と歓声に答えたお辞儀を終えると、猫耳の少女を1人ずつ抱き上げ床の上に降ろした。そして4人に対して何事かを告げた。
 4人は各々ホール内を移動して適当な人物を箱の前までひっぱて来た。
 彼女たちに引っ張られて、それを拒否する客はいない。
 サングラスの男はホールの端までやってきて、暫く迷ってからミクと蝶子の手を取った。よろしいですか?声は出さないが男の顔がそう言っている。
 男は2人を黒い箱の前まで誘うと、少女たちが引っ張ってきた来た4人と一緒に黒い箱を検めるよう、仕草だけで指示をした。
「いいんですか?じゃぁ遠慮なく」ミクは蝶子と目を合わせると箱の周りを念入りに調べ始めた。他の4人もあちこちを触ったり叩いたりして確認している。呼ばれていない客まで立ち上がってあちこちを覗き込む。
 箱が載せられている台車は細いスチールパイプで出来ていて、箱の下に何かが隠されているような要素は全く無い。
 白っぽいキャミソールドレスを着た女性が大胆に箱を持ち上げて裏側を確かめていたが、何も発見できなかったようだ。
 箱の中も何も無い、ミクと蝶子も隅々まで触って確かめたが、蓋が蝶番で取り付けられている以外はただの箱だ。
 床も高級そうな木材の板張りで、何か仕掛けが有るような様子は見受けられない。青いワンピースに白いエプロンの少女が床にはいつくばっているが、やはりそこはただのホールの床だ。付き添いの男性が少女を立ち上がらせようと躍起になっている。
 天井はかなり上にあり、何かの仕掛けが出来るようにはとても思えない。数人が箱の上に手をかざして確認したが、何も発見することは出来なかった。
 箱の周りは客が座っているテーブルだ。台車に載った箱はその真ん中に空いたスペースに置かれていて、どの方向からも至近距離で丸見えだ。
 じゃぁ、いったいさっきの4人の少女と茶トラ猫はどこから登場したんだ?それが今検分に参加した6人を含めた観客全員の感想だった。

 マジシャンの男が立ち上がっている客に席に着くようにという意味のジェスチャーをした。あくまで口を利くつもりは無いようだ。
 謎が全く解けないまま観客達はすごすごと席に戻った。ミクと蝶子もホールの隅に戻ったが、どうやらヤスも検分に行っていたようだ。少し遅れてホールから戻ってきた。ヴィルともじゃもじゃ頭のレネ、それにシスカまで何事が起こったのかと控え室から出てきた。
「どういう仕掛けなんだ?」ヤスが尋ねたが、ミクも蝶子も首を傾げるばかりだ。
 マジシャンの男は、よろしいですか?というふうに頷きながら辺りをぐるりと見渡し、少し歪んでしまった箱の位置を元に戻した。そして、では始めます。というふうに大きくお辞儀をした。
 辺りを大きな拍手が包み込んだ。
 男は猫耳の少女を集めると1人ずつ抱き上げて箱の中に降ろした。4人は猫耳を可愛く揺らせてお辞儀をすると箱の中に順番に座っていった。男は茶トラ猫を捜したが、どこかへ行ってしまったようだ。男は諦めて箱の蓋に手をかけた。男が蓋をゆっくりと閉めていくに連れて、少女たちは箱の中に身を沈める。男は箱の蓋をぴたりと閉じた。
 ゆっくりと見回し、観客の衆目を集めてから、指を3本頭の上に高く掲げる。
 やがてそれを2本にし、ゆっくりと1本にした。最後の指を下ろすと男は箱をポンと叩いた。
 男が箱の蓋をゆっくりと持ち上げる。そして観客から見えるように箱を横に傾けた。
 誰も居ない。箱の中は空っぽだ。悲鳴のような歓声と、割れるような拍手がホールをいっぱいにした。
 男は何度目かのお辞儀をして歓声と拍手を受けた。
 ホールがやや落ち着きを取り戻すと、箱を元の位置に戻し、今度は自分が箱の中に座った。
 ゆっくりと見回し、三たび観客の衆目を集めてから、指を3本頭の上に高く掲げる。
 やがてそれを2本にし、ゆっくりと1本にした。
 最後の指を下ろすと男は箱の中に横たわりながら蓋を閉じた。
 ホールを静寂が支配する。
 観客がざわつき始めた頃、2人のホールスタッフが登場した。
 キャスターに載った箱の前後に立ち、箱をホールから片付けるべく動かし始めた。
「ジャストモ~~メント!」青いワンピースに白エプロンの少女が奇妙な英語で声をかけた。走り寄ろうとするが、付き添いの男に羽交い絞めにされている。
「待って」変わりに白っぽいキャミソールドレスを着た女性が箱に近づいた。「いいでしょ?」透明感のある声だが、有無を言わせぬ迫力がある。
 ホールスタッフは箱から少し離れた。
 キャミソールドレスの女性が蓋を開ける。
 誰も居ない。
 箱の中は空っぽだった。


2019.12.13
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テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

35,000HIT企画作品の発表です。

 今夜は35,000HITの成り行き臨時企画作品の発表です。
 リクエストは八少女夕さんから。お題は「ヤキダマとコハク、建築家つながりの共演」でいただきました。
 35,000リクエストは本来予定していなかったのですが、キリ番リクエストなら断る理由はありません。創作の刺激にもなりますし、ありがたく頂戴いたしました。丁度33,333HIT企画の真っ最中でしたので先にそれを仕上げたり、他の作品に気が行ってしまったりして随分お待たせしてしまいましたが、ようやく書き上がりました。
 短い作品ですのでよろしかったら読んでみてください。
 下のリンクから繋がっています。
 なお、リンクの下には解説を付けておきました。ヤキダマとコハクのキャラクターをご存じ無い方は解説を読まれてからの方が入りやすいかも・・・。

「コウキとコハク」

 解説です。
 幸樹は「254」シリーズに登場するキャラクターで、建築系の大学院生です。ニックネームはヤキダマで「254」シリーズではほぼこのニックネームで登場しているのですが、この掌編の中では本名の幸樹で登場しています。フルネームは三厩幸樹(ミンマヤコウキ)です。
 「254」シリーズは本来架空の世界、架空の都市カンデ市近郊を舞台として展開する物語なのですが、コラボ作品の為に神戸市近郊を舞台とした現実世界バージョンもあり、今回のこのお話ではコハクと共演させるために現実世界バージョンを使用しています。
 この物語の中でも触れていますが、彼はY市(横浜?)までを日帰りするというツーリングに参加しています。往復1,000キロを越えるハードなツーリングなのですが、これに成功することが彼の仲間にとって立ち直るための関門だったので、彼も仲間としてそれに付き合ったのです。今回の物語の中で彼の仲間は〝そいつ”という3人称で語られていますが、〝そいつ”というのが「254」シリーズの主人公なのです。

 コハクは「物書きエスの気まぐれプロット(コハクの街)」の作中作に登場するキャラクターで、こちらは本名です。フルネームは柴垣コハクといい、彼女も建築系の人間です。
 コハクもコラボ作品に登場していて、夕さんに何作か書いていただいています。先日は「September rain」という作品で、ヤキダマ(幸樹)と共演する作品を書いていただいて、その中で同じ建築系の大学に通っていたという設定になっています。それが今回の「建築家つながりの共演」というリクエストに繋がったんだと思っています。
 本作「コウキとコハク」では2人はお互いに幸樹とコハクと名前で呼び合っているのですが、その数年後の設定の「September rain」では三厩君とコハクさんに変化していて、サキはこの変化の過程が気になっています。たぶんコハクの方からヤキダマにちゃんと話して変えたんじゃないかなぁ・・・。
 コハクは一時仕事に行き詰まり、バルセロナまで傷心旅行に出かけたりしていますが、そこでの出会いのシーンがあったきり、そのまま放りっぱなしになっています。
「September rain」はその出会いの後のお話になるのですが、その件にはまったく触れられていません(あたりまえか)。サキがなんとかしてやらなくちゃいけないのでしょうね。

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コウキとコハク

「なにこれ!?」
 思わず声が出た。
 コハクは机の前でゆっくりと腰を屈め暫く動きを止め、それから顔の位置を固定したまま手探りで椅子を引き出し、その上にゆっくりと腰を下ろした。渋い茶色の丈の長めの上着にくたびれた色合いのブルージーンズ、細身で小柄な体つきは彼女をその部屋のレトロな雰囲気に溶け込ませた。
 両肘を机に突いて、両方の手の平で両頬を覆う。肩の上で短めにカットされた黒髪がフワリと手に被さる。焦げ茶の大きな瞳、遠慮がちな鼻、そしてその下に絶妙なバランスでちょこんと付いた小さめの口から大きく息を吐き出した。
 ため息をついたのだ。
「バカじゃないの?」思わず口元が緩む。そして再びため息をつきそうになっている自分に気が付いて、彼女は慌ててそれを飲み込んだ。「でも、どうしてこんな物を思いつけるんだろう」彼女の思いが口を突いた。
 彼女の前には建物の模型が置かれている。設計する際にその建物のイメージを掴むために作成される、紙と透明板で作られたスケールモデルだ。
 ゼミ室の窓際に置かれた机の上に、それは遠慮がちに置かれていた。
 丁寧に作り込まれたそれは、ハニカム模様の描かれた台の上に組み上げられている。ハニカムとは蜂の巣のことだが、なぜそのスケールモデルが正六角形を隙間なく並べた模様の上に組み上げられているのかは、一目瞭然だった。
 その建物はあらゆる部分がそのハニカムの正六角形を基本として作られているのだ。
 建物の形自体も、その中に設けられた大小のホールやオフィス、階段室までもが、すべてが基本となる正六角形の集合体だ。模型の屋根をそっと外してみると、トイレの個室ですらその基本となる正六角形1つを使って作られている。この個室が最小単位のようだ。部屋の大きさや形によってその基本となる正六角形をいくつ使うか、どのように繋げるかが決められているのだ。
 タイトルには「美術館」とあったが、こんなデッドスペースだらけの奇抜な建物にOKを出すクライアントなんて居るんだろうか?
 コハクは嫌悪感を感じながら、同時に抱いてしまう好奇心に任せて、その建物のあらゆる部分をまるでガリバーのように覗き込んだ。
 11月の午後、日没までにはまだ充分な時間がある。ゼミ室には誰も居ない。
 コハクは飽きもせずそのスケールモデルの吟味を続けていた。

 微かに連続音が聞こえ始めた。窓の外からだ。
 コハクはスケールモデルから顔を上げると窓の方へ顔を向けた。
 窓の外は広い西洋風の庭園になっていて、決められた形に切り揃えられた植生が整然と並んでいる。
 庭園は3階建ての古い建物に囲まれているが、何箇所か庭に入るための通路が設けられている。連続音は庭園の向こう側にある通路の方向から聞こえていて徐々に大きくなってくる。
 連続音の正体はやがて明らかになった。建物の向こうから1台のバイクが回り込んできたのだ。バイクはエンジン音を響かせながらゆっくりと通路を進んで庭園に入り、そのまま庭園を横切って窓の下までやってきた。
 サイドスタンドを降ろしてエンジンを止めた。バイクを降りたのは細身で長身の男だったが、その長身を持て余すように若干猫背気味だ。
 ここは2階だからコハクはそれを見下ろす形になった。
 彼がヘルメットを外した。
「幸樹?」ライダーの顔を見てコハクは少し驚いた。彼がここへやってくるときに使うのはいつもスマートなスクーターだったからだ。今乗ってきたのは大型の厳ついバイクだ。皮製のツーリングジャケットにブーツ姿も初めて見た。
『どういう風の吹き回し?』コハクは少し首を捻った。
 彼はこのゼミに所属する院生だ。優秀な成績でこの春、大学院への入学を認められたのだ。憧れていた分野への就職に失敗し、助手としてゼミに残らせてもらったコハクとは雲泥の差だが、来年こそはとリベンジを決めている。
 彼女は、まぁいいかと、スケールモデルの方へ関心を戻した。

 やがて階段を登ってくるブーツの硬い音が聞こえ、ゼミ室のドアに鍵の差し込まれる音が聞こえた。
 少しの試行錯誤の後、鍵が開いていることに気が付いた様子で鍵が抜かれ、ドアが軋み音を立てて開いた。
「誰か居るのか?」コハクに気付いていないのか部屋の奥に向かって声をかける。
 コハクは椅子に腰掛けたまま、入ってきた人物の方へ顔を上げた。
「なんだ、コハクか」ようやくコハクに気がついたのか、幸樹はホッとした顔になった。
「なんだ・・って、私が居ちゃいけない?」コハクの声は若干の抗議も含んでいる。
「いや、別に、君はここの助手だし、何の問題もないよ」幸樹は慌てて言った。
「どうもありがとう」コハクは少し皮肉っぽい口元で答えた。
「出かけるときは僕だけだったし、ちゃんと鍵はかけたはずだし。今日は休日の午後だ。いまごろ誰がと思っただけさ」
「明日の授業の準備をしておこうと思って。でも幸樹こそこんな時間に何をやってるの?」
「ああ、ちょっとね・・・」幸樹の動きはそこで止まった。じっとコハクの方を見つめている。
「どうしたの?」コハクも見つめ返す。
「いや・・・その」幸樹の目は落ち着きを無くしている。
 コハクは体を硬くした。
「その模型・・・」幸樹はコハクの後ろを指差す。
 コハクはスケールモデルの方へ目をやった。「ああ、これ?誰の作品だろう?ちょっと笑っちゃう・・・」そこまで言ってから、コハクはある可能性に気が付いて言葉を止めた。
「笑っちゃう・・・か」幸樹の顔が自嘲気味に歪む。「それ、僕の作品なんだ」
「ごめんなさい」申し訳無さそうにコハクは俯いた。
「いいよ。これは僕が1年生の時に設計した建物なんだ。今度新入生が設計を始める授業で、問題のある作品の見本として展示しようと思って出してきたんだ。だからその意見は当たっている。気にしなくていいよ」
「でも、確かにちょっと笑っちゃったけど、面白いとは思ったの」実際コハクはそう思ったのだ。
「それは、ありがとう。作り始めたときは教授にも興味を持ってもらえたんだ。ライトの作品の中にも正六角形を組み合わせた作品があってね。その図面を見せてもらったり、実用に耐えるようにアドバイスももらったんだけど。僕もまだ若かったんだろうね。それを全部無視してハニカムにこだわって突っ走っちゃってさ。でもこれじゃやりすぎだ」
「若いって・・・ついこの間じゃない。でも今の幸樹の作風とはちょっと違うね。だからまさか幸樹の作品とは思わなかった」
「思い切り本音だったってわけだ」幸樹は両手の平を肩の位置で上に向けた
「ううん、そうじゃなくて、私には思いつけない作品だと思ったの。だからとっても興味を持ったの。面白いよ。そして羨ましい気持ちもある。よくここまで・・・」コハクはまた途中で言葉を止めた。
「トイレの個室とか?」幸樹は屋根の外された模型を覗き込みながら言った。
「そう!このこだわり!半端じゃない!」コハクは言葉に力をこめた。
「なんだかバカにされているような気がするなぁ」幸樹は薄い笑いを口元に浮かべる。
「そんなんじゃない!本当に!」コハクは懇願するように言った。
「だったら、礼を言うよ。ありがとう」幸樹はどうしたって話の流れをそっちの方へ持っていこうとする。コハクはそんな風には全く思っていなかったが、語れば語るほど墓穴を掘ってしまいそうだ。だから、ついに話題を変えてしまうことにした。

「ところで、今日はいつものスクーターじゃないんだね」コハクは窓の向こうへ顔を向けた。
「ああ、事情があって最近アレに変えさせられたんだ」
「変えさせられた?」
「いや、無理やりって事じゃないんだけれど。ちょっとした長距離ツーリングをする機会があってね。そのために本格的なツアラーをレンタルしたんだけど、中古だから安かったし、状態もバッチリだったし、アフターサービスもそいつが見てくれるって言うし、それで結局それを買ったんだ」
「そいつって?」コハクは幸樹の方へ視線を戻した。
「僕の贔屓にしているバイクショップの店員さん。腕は抜群なんだ」幸樹は笑顔になった。
「長距離ツーリングって?」コハクは質問を続ける。
「1日でY市までを往復したんだ」
「Y市ってK県の?」
「そう、往復すると1000キロ以上ある」
「1日で1000キロってこと?バカじゃないの?」コハクの目は大きく見開かれた。
「バカ・・・か」幸樹の顔が自嘲気味に歪む。
「あ、ごめんなさい」コハクは口元を押さえた。
「いいよ。確かに馬鹿げてる。でも仲間が立ち直ろうとしているときにそれに立ち会えるっていうのは、なかなか得がたい経験だと思ったんだ」
「仲間?お友達?」
「そんなものかな?そいつが立ち直るためにどうしても通らなけりゃならない関門だったんだ」
「そいつって、その店員さん?」疑問は疑問を呼ぶ。コハクは尋ねずにはいられない。
「ああ」幸樹の答えは簡潔すぎる。
「よくわからないけど、そのせいでバイクが変わったのね?」
「そう、そいつにスクーターは嫌いだってはっきり言われちゃったし・・・」
「そんな理由?」
「はは、長距離を安定して走れるバイクだからレンタルしたんだけど、実際に1000キロ走ってみてとても気に入ったんだ。それにああはっきり嫌いだって言われたら、この際スクーターを下取りに出してでもって思い切ったんだ」
「ふ~ん」コハクは思慮深げに首をかしげてから言った。
「幸樹?その人って、女の人?」

2019.11.22
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「花」について

「花」はlimeさんの記事『(雑記)南海電鉄小説コンテスト』に触発されて書いたものです。
 このコンテスト、『南海電鉄沿線を舞台に「愛」をテーマにした小説を募集します』というものなのですが、limeさん『君にとどけ -Lonely whale-』という作品で応募され大賞を取っておられます。個性的な声にコンプレックスを持つ少女をヒロインとしたとっても素敵な作品です。
 サキは乗り物好きですから、愛?鉄道?しかも南海ですって?と、ポッカリ浮かんできたアイデアをそのまま「花(仮題)」として書き上げました。
 南海電鉄の汐見橋線を舞台にしたものだったのですが、せっかく浮かんだアイデアを廃棄なんてことはできないですから。
 書き上げてからは(仮題)のまま放置していたのですが、舞台となった電車に見たことも乗ったこともないというのはずっと気になっていました。

 ということで先日、南海電鉄の汐見橋線に乗りに行ってきました。
 1人でですよ!
 汐見橋線は大阪都心に忘れられたようにポツンと取り残されたローカル線です。
 関西空港と大阪梅田を直結する連絡線として汐見橋駅から線路を北へ伸ばす計画があったのですが、連絡線はミナミの繁華街である難波を経由することになってしまい、汐見橋線はいよいよ取り残されてしまいました。
 このままではいずれ廃線の憂き目に・・・。
 今のうちに乗っておこうという気持ちで行ってきました。
 全くの想像だけで描いた「花(仮題)」の世界だったのですが、実際に目にしてみてほぼイメージどおりだったことが確認できてホッとしました。
 なかなか味のある素敵な線区でした。
 利用客が増加し廃止の可能性が下がると、こんなローカルな雰囲気は無くなっていくでしょうし、今のような利用状況では線区自体が廃止されてしまいそうだし、難しいところです。
 WINDOWSのアプリ「フォト」にある機能を使って簡単なムービーにしてみましたので、よろしかったらご覧になってみてください。


https://youtu.be/oIpwvamONxg

 そしてこれを機に「花(仮題)」に写真を追加して少しだけ改稿し、新しく「花」としてUPしました。
 よろしければ下のリンクから進んでご覧になってみてください。
 どこが改稿されたのかわかりますか?
 あ、そんなに暇な方はいらっしゃらないか・・・。すみません。

「花」へのリンク

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プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。

山西 左紀

Author:山西 左紀
「山西 左紀について知りたい方はこちら」
(ニコニコ静画フリーアイコンより)

ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
イラストをクリックすると記事に飛びます。よろしければご覧くださいネ!
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