fc2ブログ
Debris circus

Debris circus

頭の中に散らばっていた破片(debris)を改めて文章に書き起こし、オリジナルブログ小説としてサーカスの舞台に上げていきます。読みにくいものもありますが、お暇な時にパラパラとめくる感じででも読んでいただけたら嬉しいです……

 
★作品へのリンク!&お願い!
 
 

自己中エスの気まぐれプロット(2)

 随分間が開いてしまいましたがようやく、そしてなんとか整いました。
「物書きエスの気まぐれプロット」シリーズの一遍「自己中エスの気まぐれプロット(2)」をお届けします。
 主人公のエスはサキを一応のモデルとして造られたキャラクターで、今回も友人コハクとの何気ない日常を描いた一遍です。シリーズと銘打っていますが作品それぞれにそれほどの繋がりは無く、単独で読んでいただいても大丈夫のはずです。
 ほんと自己中(さらに自己満)な内容ですが、更新することを最優先に思いついたものをそのまま書かせていただきました。
これをきっかけとして、またいろいろ書けるといいんだけれど・・・。



自己中エスの気まぐれプロット(2)

「来たよ~」コハクはリビングのドアを開けて中を覗き込んだ。
 そこにはエスの後姿がある。
 フローリングにぺたりと座り込み、肩越しにクリーム色の箱・・・パソコンのタワーケースだろうか・・・が見えている。本来座っているべき座布団はエスの前に置かれ、その上には何やら電子部品が並んだボードが鎮座している。
「何やってるのよ。またパソコン?」コハクは少しうんさりしながら声をかけた。
「あ、コハク。どうしたの?」エスが振り向いた。
「あなたが来いって言うからわざわざやってきたんだけど?」
「そうだったっけ?」エスは首を傾げると少しだけ舌を出した。
 コハクはエスの横にあるソファーに腰を下ろすと盛大に溜息をついた。「で・・・何の用?小説が書けたから見ろとか?」
「ああ、最近書けないんだよね。顔を見たらなにか浮かんでくるかと思ったんだけど。でも、待っているうちに断捨離を始めちゃって」エスは目を合わさない。
 こういう時のエスは適当なことを喋っていることが多い。顔を見たらなにか浮かんでくる?そんなことは思ってもいないはずだ。「断捨離?パソコンの?」コハクは少し声を低くした。
「そう、この機械・・・」エスは隣にあるタワーケースを指さした。「これはずいぶん前に父さんが組み上げたPCなんだけど、最終的にはウチの予備機としてずっとパソコンラックの下段に置いてあったんだ」
 これが本題だな。コハクは諦めてそれに乗ることにした。「そういえばこれ、見かけたような気もする」
「でしょ!でももうシステムとして時代遅れになってしまったし、新しいパソコンを導入しようとしても新鋭機を置く場所もないし、そろそろ本格的にリタイヤさせようってわけ」
「ふーん、じゃぁなんでバラしてるのヨ?そのままリサイクル業者へ送ったらいいじゃない。無料で受け付けてくれるんでしょ?」
「ちょっとね・・・ほら!」エスは座布団の上に置かれたボードを指さした。

TDVIA.jpeg

「それはマザーボードだよね?」
「ちょっと変わってるでしょ?」
「そう?別に変わりはないと思うけど?」コハクはすました顔をして答えた。
「いじわるだなぁ。わかってるくせにぃ」
「ごめんごめん、ファンが2個付いているからCPUを2個積んだ・・・つまりデュアルCPUってことね?」
 確かに一般的な家庭でデュアルCPUのパソコンを見かけることは珍しい。
「そう!ご名答」
「でもなんでこんなシステムを組んだの?当時の環境だったらあまり意味がないように思うけど?サーバーならともかく・・・」
「そうだよね。ウチもそう思うんだけど、これって父さんの趣味なんだ」
「例のどうなるか見てみたかった・・・ってやつ?」父娘で揃いもそろってなんとまぁ、コハクは半分呆れながら尋ねた。
「どうもそうらしいんだ」エスは他人事のように返事をした。

お恥ずかしい話です。
こんなところで公表されるとは思っていませんでした。
当時も現代も一般的なパソコンに積まれているCPUは1個です。現代は1個のCPUに複数のコアが当然のように積まれていますが(なんと16個や20個も積んでいるCPUもありますね)、当時のCPUのコアは基本1個だった時代でした。ですから、CPUを2個積んでいる(コアも2個ですね)ということだけでかっこよく思えたんです。
このパソコンには組み立て記事などを参考にいろいろ調査して、「RIOWORKS」というメーカーの「TDVIA」というマザーボードを使用しています。
性能的にあまり意味の無いことは重々承知のうえでなんですが、好奇心に負けて他にもデュアルCPUのPCを何台か組んでしまっています。チャレンジ精神に満ちた自作PC全盛の面白い時代でした(遠い目)。(ダイスケ)

「さてっと」エスはコハクからマザーボードへ顔を戻すと、2個あるCPUファンを順番に取り外した。ファンの下からCPUが現れる。エスはCPUの上に残ったシリコングリスを丁寧に取り除いた。

PGA370.jpeg

「CPUは何を積んでいるの?」その様子を上から覗きながらコハクが訊いた。
「PENTIUMⅢ-Sだよ」エスが顔を上げる。
「エス?」
「そう!エス。PENTIUMⅢのマルチCPUに対応したモデルなんだって」

1400S表 1400S裏

「1400って書いてあるから動作クロックは1.4GHz?512は二次キャッシュの容量で133はベースクロックのこと?1.45は動作電圧かな?」コハクは呟いた。
「さすがコハク」
「ちゃかさないでよ」
「今ではだいぶ見劣りする動作クロックだけど、PENTIUMⅢでは最高速だったらしいよ」
「へえ~」コハクは呆れたような、感心したような、どちらともとれる声を出した。
「それでぇ」エスが床の上の置いていたボタン電池を取り上げた。
「それをどうするの?」
「電池交換」エスは事もなげに答えた。
「電池交換?」
「うん、今朝起動してみたら最初は起動しなかったり、起動してもCMOSチェックでエラーが出たり、時計が初期値に戻っていたり、動作がおかしかったんだ。どうもBIOSの設定が維持できていないみたいだから、きっとマザーボードの電池切れだと思うんだ。随分古いからね」

マザーボードの写真の左上隅にCR2032のボタン電池が見えていますね。この電池の電力でBIOSの設定を保持しています。時計が初期値に戻るのは典型的な電池切れの症状です(よく気が付いたな)。
今回は汎用性のある電池が使われていたのでラッキーだったと思います。もっと特殊な電池が積まれているボードもありますから・・・。(ダイスケ)

「でも、さっき断捨離って言ってなかったっけ?」コハクは矛盾点を突いてみた。
「う~ん。ケースを開けて見ているうちになんだかリサイクル業者へ送るのが惜しくなって。とりあえず残しておこうかなって。だから電池交換のついでにバラしてみたってわけ」
「そしてついでに私も呼ばれたってわけ?」
「だって、こんなことってめったにないよ。デュアルCPUだよ。見せてあげなきゃって・・・」
 やっぱりね。コハクはまた盛大に溜息をついてから立ち上がった。
「あれ?迷惑だった・・・かな?」エスが見上げる。
「コーヒーでも入れるよ」やがてコハクは諦めたように言った。

BIOS.jpeg

再度組み立てた当パソコンの起動画面です。Intel Tualatin(テュアラティン、PENTIUMⅢ最終モデルのコードネーム) 1.4GHz(133x10.5) ,2CPU(s) の表示が見えますね。当時はこれを見て感激したものです。
動くことは動くので私の予備機として残し、どこまで実用になるか遊んでみようと思っています。(ダイスケ)

2022.06.20
関連記事
スポンサーサイト



テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

4Kテレビがやって来た。

今夜はただのプチ自慢記事です。すみません。

これまで使っていたハイビジョンテレビの調子が悪くなっていたので、完全に使えなくなる前に新しいテレビと入れ替えました。
32インチから55インチ、ハイビジョンから4Kへの変更でしたからかなりのアップグレードになりました。でもウチのリビングでは55インチが精一杯です。テレビ台はもう幅いっぱいですし、これ以上大きいとテレビに押しつぶされてしまいそうです。それに予算が・・・。
量販店に何度か出かけていって比較したのですが、比較対象のない家に来たらどれでもそれなりに満足してしまいそうで迷いました。
迷うものの、一番画質が美しいように感じたこと(贔屓目あり)、描画エンジンが良いんじゃないかと勝手に思ったこと(贔屓目あり)、ベゼルが1㎝程度と細く画像を見るのに邪魔にならないこと、パネルの厚みが5㎜程度で「薄~い!!!本当にこれで映るの?」と、ミーハーのサキが驚いたこと(といってもこの2点は他のメーカー製もたいして変わらなかったのですが)、サウンドがそれなりに良かったこと、スタンドのデザインがウチの設置環境にピッタリだったことなどから、結局信者的ファンを擁する某メーカーの製品に決めました。要するにサキもその信者の1人だったということですね。

4KTV.jpeg

使ってみて改めて感じたのは、これはテレビじゃない!ということです。
もちろんチューナーが内蔵されていますから地上波や衛星放送はちゃんと映るのですが、こいつはPCを内蔵した巨大なモニターなんですよ。スタートアップ作業はまるでPCで、これは予備知識無しで買ってきたら戸惑うだろうなぁ・・・と思いました。OSはアンドロイドですから。アップデートもあるし・・・。
そしてなんといってもこいつ、NETに繋がるんですよ(当たり前ですがあらためて感動!)。ウチのWi-Fiルータにそのまま接続して、YouTubeやAmazonPrimeVideoなどのNET動画もチャチャッと見れちゃうんですよね。かなり高画質な動画もUPされているので、その美しさに感動ものです。面白い動画や番組もいろいろあるので、テレビがつまらん番組しかやっていないときも選択肢が増えました。最近のテレビ局はやる気があるのか?と思っているサキには朗報です。
USBハードディスクを接続すれば録画もできるんですが、まだそこまでは試してません。
あ、おまけですがリモコンはBluetooth接続なんですよ。リモコンがあさっての方向を向いていても、テレビとの間に邪魔物があっても操作が可能です。

それにしても4K番組は綺麗ですね。「世界ネコ歩き」なんかネコの毛並みの輝きに感動、「世界ふれあい街歩き」なんかも画面が一気にクリアーになった気がします。
一日中テレビがついているサキんちですので、こいつの消費電力が大きいのと、パネルの寿命がどれくらいなのかは気になりますが、まだ暫くは(日常に馴染んじゃうまでは)テレビ(?)にくびったけ状態が続きそうです。

PS:せっかく綺麗に描写出来るんですから、最悪の出来事を写すニュースばかりじゃなくて、もっと素敵なニュースを見られるように早くなってほしいです。
関連記事
 
 

scriviamo! 2022 参加作品の発表です。

なんとか間に合いました。
八少女夕さんのイベント「scriviamo! 2022」への参加作品です。
夕さん先行のプランBでの参加でしたので、夕さんの作品はすでに発表されています。
夕さんの作品【小説】存在しないはずの緑
昨年同様のパイロットを主人公とした物語を書いてくださったのですが、サキも去年同様パイロットを主人公にした物語でお返ししようと考えました。
なにか関連性をと色々考えたのですが、結局パイロットのズイキを主人公の1人としたシリーズ「新世界から」の続編になってしまい、パイロットものという以外、関連性のあるお返しにはなっていません。
長編の一部を切り取ったような掌編ですので、つながりが見えませんし、オチもありません。初めての方や久しぶりに読まれる方にとっては読みにくいと思いますがお許しください。
ずっと滞ったままの「新世界から」ですが、夕さんの刺激のおかげでほんの少しですが前進することができました。夕さん、ありがとうございます。
よろしければ下のリンクからお進みください。
新世界から(Scene5)
関連記事
 
 

新世界から Scene5

scriviamo!

 ギギ~~、ブレーキの軋む音でズイキは目を覚ました。
 運転席の前方では乗用車が方向を変えようとしている。
 小さな古めかしい路面電車は、自動車の1メートルほど手前でようやく停止した。
『車が割り込んだのか』ズイキは線路を出ようと慌ててハンドルを回すドライバーの顔を眺めていたが、やがて車が背を向けて加速を始めると視線を前に戻した。
 ズイキがシンキョウに到着してもう1週間が過ぎようとしている。呼びつけておいて1週間もほったらかしとは腹が立ったが、ようやく受け入れの用意が整ったとかで呼び出しを受けたのだ。
 電車は、再びスピードを上げ始める。古いモーターの唸りと、ゆったりとした揺れ、線路から伝わってくる2軸車特有のジョイント音とそれに合わせた振動が、ズイキを再び眠りの世界へと誘う。『いけない』ズイキは両の手で頬を軽くたたいて睡魔を追い払った。
 電車が車輪と線路が擦れあう金属音を響かせながら、交差点の急なカーブを曲がると、前方に優雅なデザインの尖塔を持つ建物が見え始めた。建物の屋上には大きな看板が掲げられ、そこが目的地である事を告げている。
 電車はアヒルのようにお尻を揺らしながら建物の前にある停留所に滑り込み、圧縮空気の音を響かせながらドアを開けた。
 高いステップを降りたズイキは、改めて自分が乗ってきた車両に目をやった。一両だけのレトロで小さなボディーはカラフルな広告で埋め尽くされているが、それはそれで妙に似合っている。
 電車はズイキを降ろし終えるとやれやれという風にドアを閉め、合図の鐘を2つ鳴らしてゆっくりと走り始めた。ズイキは暫くの間モーターの唸りを響かせて走り去る電車を眺めていたが、やがて目的の建物に向かって横断歩道を渡った。
 建物の入口は一昔前に流行した意匠で纏められている。今となっては時代に取り残された古い建物だが、スッキリとしたデザインの現代建築には見られない趣がある。ズイキは一瞬それに惹かれた様子だったが、意識を戻して建物の中に入った。

 入口を入った先は吹き抜けのロビーになっている。
 ここもすべてがレトロな雰囲気の空間で、たくさん置かれたソファーやテーブルもやはり時代を感じさせる古いものだ。
 ズイキはホールの奥にインフォメーションらしきカウンターを見つけ、そこに近づいた。
 誰もいない。
 ズイキはカウンターにポツンと置かれたボタンを押した。
 どこかでベルのなる音が聞こえ、やがてカウンターの奥にあったドアが開いた。
 中から現れたのは中年の女性で「何か御用?」と億劫そうに声を出した。
「南域開発株式会社空輸事業部のオフィスはどちらですか?」ズイキは尋ねた。
「南域開発ぅ?空輸?ああ、サザン・リンクのことかな?それならそこを2階へ上って右、プレートが目印よ」彼女はぞんざいに階段を指さした。
「ありがとう」ズイキは指示されたとおり階段を上った。上った先の廊下には幾つかのドアがあり、それぞれに社名を記したプレートが掲げられていたが、そのどれもがいかにも国家公務員の天下り先のようなニュアンスの名称だった。廊下は静かで、それらのドアの奥で活発に業務が行われている気配は薄い。
 ゆっくりと廊下を進んだズイキは、その中にサザン・リンクのドアを確認した。他のドアに掲げられているのと同じプレートには「南域開発株式会社空輸事業部」とゴシック体で書かれているが、そのすぐ下に手書きで「サザン・リンク」と書かれた紙切れが貼り付けられている。
 ズイキはそのドアをノックした。
 応答は無い。
 何度かノックを繰り返した後、ズイキはドアを開けた。
 そこは机と椅子が数脚と簡単な応接セット置かれているだけの小さなオフィスで、そこに人の気配はまったく無かった。
「あの・・・」背後から声を掛けられズイキは驚いて振り返った。そこにはさっきカウンターにいた女性が立っていて「ここには誰もいないよ」と申し訳なさそうに言った。
「だったらさっきそう・・・」ズイキは思わず出そうになったセリフを飲み込んで続けた。「どなたか連絡は取れないですか?今日ここに来るように連絡を受けたんですが?」
「たぶんこのビルの裏手にある建物にいると思う。1階に降りて裏手に回ってみて。大きな緑色のやつ」女性はそれだけを言うとオフィスを出て行った。もう階段を下る音がする。ズイキは彼女の後を追って階段を下りた。
 すでに彼女はカウンターに戻っていたが、裏口の方向を顎で示すとカウンターの奥のドアに消えた。ズイキは示された通りロビーを横切り裏口を出た。
 裏口の先は全面がコンクリートで舗装された大きな広場になっていて、その向こうには大きな建物が建っていた。モスグリーンで塗装されたその建物は、細い鉄の骨組みに薄い金属のパネルを貼っただけの簡単な構造で、ぬっぺりとした大きな壁面の真ん中に人一人がくぐれる位の入り口がポツンと設けられている。ズイキはその建物に向かってゆっくりと歩き、その小さな入り口から建物の中に入った。
 そこは大きな格納庫で、中には大型の飛行艇がただ一機翼を休めていた。艇体上部に支柱を立てて主翼を支持する、いわゆるパラソル翼の飛行艇だ。機体は格納庫正面一杯に設けられた大きな開口部を向いていて、その先はなだらかなスロープを経て海面に達している。
『こんなに海が近かったのか』ズイキはあらためて潮の香りを意識した。
 ズイキはしばらくの間穏やかな海面を眺めていたが、やがて飛行艇に目を戻した。見上げる位置に高アスペクト比の細長い翼が横たわっている。
「ん・・・?」ズイキは思わず声を発した。飛行艇の機首に回り込み、後ろ向きに歩きながら機体を離れる。翼にはエンジンが4機装備されていて、その第3と第4エンジンの間に誰かが座っている。
 やせっぽちの少女だった。肌の色はやや濃いめで、長い漆黒の髪が吹き抜ける海からの風に不規則に揺れている。明るいグレーのワンピースを身に付け、ほっそりとした裸足の長い足を翼の前縁に投げ出して海の方を眺めている。あの少女だ。同じ飛行機に乗っていたあの少女に違いない。どこへ行くのか妙に気になったのだが、ここへ向かっていたのだ。ズイキが声を掛けようと息を吸い込んだとき「フワリ」突然後ろから男の声がした。「そこに座るのはやめなさい。落ちたらどうするんだ。それに翼の上には色々な装置が付いている。それを君が踏んづけると面倒なことになる」
 少女は男の方に顔を向ける。
「そのままゆっくりと後ろに下がって、登ったところから慎重に降りてきなさい」男は諭すように続けた。
 少女はいわれたとおりゆっくりと後ずさりしてから立ち上がりお尻を払ってからタラップの方に向かった。
 ズイキと男はその様子を見守る。
「エンジンはシリウス8型・・・だ。見ての通り4発搭載している」少女がタラップを下り、もう大丈夫と判断したのか男が声を出した。
「空冷星型複列14気筒ですね?」ズイキはエンジンを見上げたまま尋ねた。
「その通り」
「39式飛行艇と聞いていますが?」
「いや、民生用だからA208型飛行艇だ。基本的に同じ機体なんだがな」男が答えた。
 ズイキは顔を下ろし男の方を向いた。
「カンザキだね?ゲン・イノウエだ。ようこそ。サザン・リンクへ」初老の男がそこに立っていた。「長く待たせて悪かったな。だがほんとうによく来てくれた」
「呼んでいただいてありがとうございます」ズイキは無愛想に応えたが。すぐに「イノウエさん」と付け加えた。
「みんなにはゲン爺と呼ばれている」男は笑みを浮かべた。
「ゲン爺ですか?ではそれで・・・アタシのことはズイキと・・・」
「では、ズイキ、君の名声はもちろん聞き及んでいるが、飛行艇の経験もあったというのは驚きだったよ」
「キャリアのスタートがこの39式飛行艇でした。飛行艇部隊が縮小されるときに戦闘機の方に移ったんです」
「そっちが性に合ったというわけだな」
「そういうことかもしれませんが、39式でもそれなりの経験は積んでいます」
「飛行艇の腕前もかなりのものだと聞いている」
「大佐から・・・ですか?」ズイキの声が硬くなった。
「まぁ・・・な」ゲン爺は少し答えにくそうに言った。
『大佐め・・・』ズイキは歯がみをした。
「サザン・リンクはシンキョウと南域を結ぶために作られた航空会社だ。南域諸島とシンキョウは週2便の航空便で結ばれているが、そのうちの1便は国営のイルマ南域航空が運航に当たっている。残りのもう1便がサザン・リンクの担当なんだが、現在は運休中というのが実情だ」
「運休中?」
「そうだ、航空路が国営独占ではまずいと思ったのか、民間企業としてサザン・リンクが参入することになったんだが・・・とは言ってもサザン・リンクも国の息がかかっている会社なんだがな・・・機材はこれ一機、搭乗員も足りないという状態でまったく運航できていない」ゲン爺は飛行艇を見上げた。
「それで私を?」
「優秀なパイロットだからと強い推薦だったものでね。通常このクラスの機体は、5人で運航されるんだが、ここでは正副操縦士と航空機関士の3人体制での運行になる」
「3人?無茶だ」ズイキは目を見開いた。大型機でそんな運行体制は聞いたことがない。
「民間業者は色々と大変なんだ。それに一昔前とは違ってアビオニクスを始め、あらゆる分野で自動化が進んでいる。充分やれるさ」
「いいのか?それで・・・」ズイキは驚いたが強く反論はしなかった。それどころか言葉とは裏腹にかえって興味をそそられたほどだ。効率よく仕事をこなし、自動操縦を上手く使えばなんとかなりそうだ。ズイキは操作手順をシミュレートしようとしたが、すぐそばに気配を感じてそれを中断した。
 さっきの少女がゲン爺の傍に立っていた。黙ったままズイキを見つめている。彼女はズイキより数センチ背が高いので少し見下される形になる。やはり大きな目と深い湖を思わせる藍色の瞳が印象的だ。ズイキは再びその瞳に吸い込まれるような感覚に襲われた。
「紹介しておこう。この子はフワリ。今のところフワリ・イノウエ、ワシの孫ということになっている」
「今のところ?なっている?」
「色々と複雑な事情があってワシが孫として引き取ったんだ。そして次の便でパミラウへ連れて行く予定だ。この子の手続きを優先的に進める必要があって、君の招へいが1週間も遅くなってしまったんだ。申し訳ない」
「いえ、それはもういいんです」ズイキはこの件については追求しないことにした。
「フワリ、こっちはカンザキ・ズイキ、この飛行艇の操縦士だ」
「よろしく。フワリ。ズイキって呼んでくれればいい」ズイキはなるべく優しく見えるように顔を緩めたが、恐らくいつものようにぎこちない表情になっているはずだ。
「できれば・・・」ゲン爺が控えめに口を開いた。「フワリを呼ぶときは“フワリ”と発音してやってくれないか」ゲン爺は“フワリ”を柔らかさや軽やかさを表すその言葉の本来の発音で発声した。
 ズイキの発音は解剖を表すよく似た別の言葉の発音のように抑揚を欠いた硬い物だったのだが「フワリ・・・フワリ」何度か発音を試してから言い直した。「よろしく。フワリ。アタシのことはズイキって呼んでくれればいい」
 本来の発音で呼ばれた彼女は「こんにちは、ズイキ」表情を変えずにそう言うと右手を差し出した。小さいがよく通る澄んだ声だ。
 ズイキは少女の右手を軽く握りながらゲン爺に向かって訊いた。「ところで、航空機関士の人選は終わっているんですか?」
「ああ、ほぼ終わっている。今コックピットにいるんだ。紹介しよう」ゲン爺は先に歩き始めた。
 ズイキはゲン爺に続いて避難梯子のような簡易なタラップを登った。機内では歌声が聞こえている。最近巷で流行っている歌だが、オリジナルよりもノリがいい。デッキの左手がコックピットで、開け放たれたドアの奥には無人の操縦席が2つ並んで見えている。歌声は操縦席の次位に設けられた航空機関士の席から聞こえてくるようだ。ゲン爺に続いてコックピットに入ると、機関士席に誰かが座っている。ヘッドホンを付け、操作パネルに両肘をついて手の平にあごを乗せ、膝を小刻みに震わせている。ショートカットの赤い髪の・・・どうやら航空機関士は女性のようだ。ゲン爺はヘッドホンのヘッドバンドをつかむとそれをグイと引っ張り上げた。
「あ?」女は振り向いて「ゲン爺!」と声を上げた。ヘッドホンからはカチャカチャと伴奏が聞こえている。
「どうだ。使えそうか?」ゲン爺が訊いた。
「なんとかなりそう。昔、乗っていたのは双発機だったからちょっと慣れが必要だけど、大丈夫。なんとかする」女は平然と答え「で、そちらは?」とズイキの方へ顔を向けた。
「この飛行艇の副操縦士、カンザキ・ズイキだ」ゲン爺が簡潔に告げた。
「カンザキ?ズイキ?」女はあらためてズイキの顔を観察した。「カンザキって、まさかあのファーキン?じゃないよね?そうだよね・・・そんなはずないよね?」
 ゲン爺は「そのまさか、さ」と答えた。
 女の目と口は大きく開かれた。そしてそのまま固まってしまった。
「ズイキ、こっちは航空機関士のダイアナ、ダイアナ・リンドだ」見かねてゲン爺が女を紹介した。
「よろしく。ズイキって呼んでくれればいい」ズイキは右手を差し出した。
「・・・」ダイアナはまだ目を白黒させている。
「ダイアナ・・・でいいかな?」
 ダイアナは小刻みに頷いて「もちろん」と言った。「でも、ファーキンがなぜこんな所に・・・?」
「“こんな所”で悪かったな」ゲン爺は眉間にしわを寄せる。
「だって、あのファーキンでしょ。エースパイロットの。あのファーキンが飛行艇に乗るなんて・・・」
「人殺しはもうやめたんだ・・・」吐き捨てるようにズイキが言う。
「人殺し・・・だなんて・・・ファーキンはそんなんじゃぁ・・・」ダイアナは食い下がる。
「ズイキでいいじゃないか」ゲン爺がたしなめるように言った。
「え?」ダイアナが我に返る。
「もうそれくらいにしておいてやれ。ズイキでいいじゃないか」ゲン爺は繰り返す。
「そう?」ダイアナはゲン爺とズイキの顔を交互に見つめた。そして最後にフワリの顔も・・・。フワリは相変わらず表情を変えずにダイアナを見つめ返した。
「そう、そういうことね」得心はしていない様子だったがダイアナは一応頷いた。そしてようやく笑顔を浮かべてズイキと握手を交わした。「じゃぁズイキと呼ばせてもらうね。ズイキ、こちらこそよろしく」
「ということで、ついにここに新チームの結成が成ったというわけだ」ゲン爺が宣言した。
「この飛行艇の運行チームのこと?」ダイアナが確認する。
「そうだ」
「じゃぁ、本採用ということ?」
「そうだな。勤務態度に多少の問題はあるが」ゲン爺はヘッドホンに目をやった。
「いやいやいやいや、それはですね・・・」ダイアナは慌ててヘッドホンを取り上げ、体の後ろに隠した。
「ライセンスと腕のほうに問題はなさそうだ。メンバーとの親和性もなんとかなりそうだしな」
「やった~」ダイアナはゲン爺に抱きついた。
「おいおい・・・」ゲン爺は事も無げにそれを受け流した。
「そうそう」ダイアナはゲン爺の肩越しに覗き込みながら付け加えた。「もちろんフワリもメンバーだよね?」当然“フワリ”は柔らかさや軽やかさを表すその言葉の本来の発音で発声された。
「常に一緒に乗務するわけにはいかないが、ま、見習いとして採用だな」
「じゃぁ、今夜はお祝いだお祝い!都合の悪い奴はいないよね?」ダイアナは3人の顔を順番に確認してから「店を予約しなくちゃぁ」と機関士席から勢いよく立ち上がった。

2022.02.27
関連記事
テーマ : 自作小説    ジャンル : 小説・文学
 
 

何が起こっているの?

 昔むかし、ベクレラという大きな国の西のはずれに、ネラヴェラという小さな自治州があり、そこにはネラブ人が住んでいました。
 そのまた昔、ネラヴェラは小さいながらも1つの国だったのですが、すぐ隣にベクレラという大きな国があったために何度も侵略された歴史を持っていました。そしてそのたびに何度も解放を求めて立ち上がっていました。自治州として最小限ながら自治権を持つというのは、そうやってようやく手に入れた権利だったのです。
 近年、完全な独立を目指して再び立ち上がりましたが、その地域に住む自国民を保護するという名目でベクレラ軍の侵攻を受けました。
 ネラヴェラは幾つかの国に援助を求めましたが、世界の国々はそれぞれに複雑な事情を抱えていてネラヴェラを気の毒には思いましたが、その要求を無視しました。
 ついにネラヴェラはベクレラにまたまた鎮圧されてしまいました。そしてそれが最後の抵抗になっってしまいました。その後ネラヴェラ自治州は自治権を剥奪されてベクレラ連邦の一共和国に吸収され、今では影も形も無くなってしまったのです。

これはサキが2015年に書き上げた「シスカ」という物語の中の一設定です。
こんな騒動はもう過去のものだ。人類は最終的には話し合いで・・・などとウッカリ考えていたのですが、完全に甘ちゃんでしたね。バカみたいですよ。
歴史はくりかえす・・・人間はやっぱり人間なんだなぁ・・・。
偉そうな顔をしてどいつもこいつも・・・です。
とてもガッカリしてしまいました。
なんとか治って欲しいと祈るばかりです。

関連記事
 
<- 09 2022 ->
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
プロフィール
こんにちは!サーカスへようこそ! 二人の左紀、サキと先が共同でブログを作っています。

山西 左紀

Author:山西 左紀
「山西 左紀について知りたい方はこちら」
プロフィール画像について(“みまさか”さんに特別にお願いして使用許可をいただいた「ミクダヨーさん」です。)

ようこそ!


頂き物のイラスト

アスタリスクのパイロット、アルマク。キルケさんに書いていただいたイラストです。
ラグランジア
左からシスカ、サヤカ(コトリ)、サエ。ユズキさんにイラストを描いていただきました~。掌編「1006(ラグランジア)」の1シーンです。
天使のささやき_limeさん2
limeさんのイラストをイメージにSSを書いてみました。「ダイヤモンド・ダスト」
イラストをクリックすると記事に飛びます。よろしければご覧くださいネ!
スカイさんシスカイメージ
スカイさんのシスカイメージ
シスカ・イメージ高橋月子さん作
シスカ・イメージ 高橋月子さん作
シスカ・イメージlimeさん作
シスカ・イメージ limeさん作 コトリ・イメージユズキさん作
コトリ(コンステレーションにて)ユズキさん作
リンク
ブロとも申請フォーム
月別アーカイブ

Archive RSS Login